パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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リタリーニャ空港地上衝突事故③:そして墜落

 

 

○フランツ=チャペック(クドラク飛空2004便 乗客(当時))

 

 私はあの日、リタリーニャから故郷のジェノッファまで帰るため、クドラク飛空2004便に乗っていました。

 

 あの頃はどこでもそうでしたが、賃金の支払いを渋る会社が多く、それに対する労働争議が頻発しました。私が出稼ぎで働いていた鉱山でもそういったゴタゴタがあり、ちゃんと契約通りに賃金が支払われはしましたが、予定よりだいぶ遅れて故郷に帰る羽目になったわけです。

 

 2004便は2個のプロペラを持つシオフィラス号型で、20人乗りの小さな飛空艇です。けど満席でした。

 私みたいな出稼ぎ労働者が大半でしたし、契約の更新シーズンなのでどうしても混むんです。

 ただ駐機場の近くにいた、飛空騎手に連れられたワイバーンが何匹も並んでたのを見れたので、ラッキーだと思いました。

 

 前足と一体化した翼は広げると12メートルに達しますし、後ろ足で立ち上がればキリンと同じ高さまで頭を伸ばせます。

 それでいて馬よりも早く、鳥よりも速い。

 子供の頃、いつか自分もワイバーンの背中に乗ってみたいと思ったものです。

 それくらい、ワイバーンは思い入れのある動物です。

 

 まあ、今じゃワイバーンの背中じゃなくて、飛空艇の腹の中に乗ってるんですが……。

 

 クドラク飛空のような新興の飛空会社は、小型のプロペラ式飛空艇を使って新しい路線に早々と乗り入れました。人も貨物も細々と運んでいきます。

 飛空艇はどんどん小さく便利になっていって、ワイバーンの活躍できる場所は少なくなっていきました。

 自分もまた、その飛空艇を利用してワイバーンを追い詰めてる一人なのだと思い、複雑な気持ちになっていると、2004便が駐機場から出発し始めたんです。

 

 ………出発と同時に、霧が出始めました。

 

 リタリーニャ空港は地形の関係で霧が出やすいんです。

 窓の外から見えていた空港名物ヨロイドオオスギも、霧に隠れてしまいました。

 その霧の中を、青や緑の誘導灯に沿って飛空艇は進んでいきました。

 そして滑走路の端に着いたとき、機長からアナウンスがありました。

 

『現在濃霧のため視界が悪く、離陸可能になるまで待機いたします。お急ぎのお客様にはご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解ください』

 

 がっかりしたような空気になりましたが、待つことには慣れてます。でないとこの国じゃやってられません。飛空艇もエンジンの音を小さくして、静かに待ってました。

 

 で、そうやってしばらく待っていたら、急にエンジンの音が大きくなったんです。

 お、と思ってると、何故かそのエンジンの音が小さくなりました。

 エンジンの調子でも確かめてるのか? と考えてましたが、その後でアナウンスがあったんです。

 

『大変お待たせしました。離陸許可が出ましたので、これより離陸いたします』

 

 機内で拍手が起きました。

 私も安心しました。

 エンジンの音がどんどん強くなって、飛空艇は加速していきました。

 霧はまだ濃かったです。

 その中を2004便は走って行きました。

 

 ……少し、おかしいな、と思いはしました。

 

 この手の小型の飛空艇には何度も乗っていたので、どれくらい滑走すれば浮かび上がるのか体感で知ってました。

 けどあのときは、普通ならそろそろ浮上してもいいはずなのに、まだ走ってました。

 ちゃんと飛んでくれよ、と不安になりましたが、しばらくするとあの浮上感が生まれました。

 滑走路から浮いたんです。ほっとしました。

 

 

 その直後でした。

 

 

 

 ―――――強い衝撃で、飛空艇が跳ね飛ばされたんです。

 

 

 

『なんだ!?』

 

 私はあまりに強い揺れで前の席に頭を打ってしまいました。シートベルトがなければ床に放り出されていたでしょう。それぐらいの振動でした。

 機内で悲鳴が上がりました。左側の窓の外に赤い炎が見えました。浮遊感に落下感が混ざりました。もう何が何だか。

 2004便に客室乗務員はおらず、機長からは何もアナウンスがなく、何が起きてるのかまるで分からないままでした。

 

 

 墜落する

 

 

 あの瞬間、そう思ったことだけは憶えています。

 

 

 ………そして気がつくと、辺りが暗くなっているのが分かりました。

 

 私は自分が座席に縛られたまま、横倒しにされてるのだと気付きました。

 

 

 飛空艇は真横に横転して墜落したのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

○アレッサンドロ=エルミ(王立ワイバーン訓練校 上級教官)

 

 その事故に最初に気付いたのは、ワイバーン達でした。

 

 霧が晴れるまで駐機場近くで待機してたワイバーン達が、一斉にある方向を向いたんです。一頭残らず。全て同じ方向を。

 その場にいた飛空騎手はみんなそれに驚いて、私は管制塔に尋ねたんです。何かトラブルは起きてないか、って。

 

 ところが管制からは『何も起きてない』って言うんです。

 

 ワイバーン達は明らかに興奮していました。吼えるもの、尻尾で地面を叩くもの。普通ではありません。

 

『そんなはずはない。空港の近くで何かが起きた。ついさっき離着陸した飛空艇はいないのか? 彼らは無事なのか?』

『先ほどクドラク飛空2004便が離陸した。なぜそんなに気にする?』

『気付いたのはうちのワイバーンだ。いいからクドラク飛空に連絡を取れ、出域管制に応答を確かめさせろ』

 

 渋々と了解した管制官は、先ほどとは打って変わって血の気の無い声で応えました。

 

『………クドラク飛空2004便から、連絡が取れない』

 

 そのとき、他の教官仲間が叫びました。

 

『墜落だ! 滑走路22の飛空騎手から連絡があった! 飛空艇が空港の外に落ちた!!』

 

 それを聞いた瞬間、私は相棒のワイバーン、アイアに合図の笛を送っていました。

 アイアはすぐに私の意図を汲んで、出発体勢を取りました。

 私は急いでアイアの固定具を外し、彼女の背中に乗りました。

 

『ハッ!』

 

 鞍の上で飛空手綱、魔導操縦器具を操り、アイアを走らせました。

 ワイバーンは空中にいる場合は様々な規制を受けますが、地上を歩く場合は馬と変わりません。そしてワイバーンは馬よりも速く走れるのです。

 

 アイアは空港を出て、霧に煙る森の中へ駆け抜けました。彼女には何かが見えていて、迷うこと無くそこに向かっていました。

 白い霧に沈んだ森の中を進むと、赤い光と焼ける匂い、熱気がやってくるのが分かりました。

 そして霧を抜けると、森の中で燃え盛る小さな飛空艇がいたのです。

 

 墜落したクドラク飛空だ、とすぐに思いました。

 

 機体は左翼を下にして横転しており、機体前方が炎に包まれていました。

 逆に後方の部分は比較的無事で、ドアもすぐ見つかりました。

 

『アイア、後ろに近付け。ドアまで回り込むんだ』

 

 機体を包む炎がいつ爆発を引き起こすのか不安でしたが、アイアは素早く私を機体後方まで運び、私はそこへ飛び乗りました。

 

 そして緊急用の外部開閉器を操作して、後部ドアを開けました。

 

『大丈夫か!!』

 

 機内に入り、私は叫びました。

 中はひどい有様で、壊れた座席やケーブル類が所狭しと詰め込まれていました。

 

『……ここだ、ここにいるぞ!』

 

 その歪んだ機内の中から、声がしました。

 私はその滅茶苦茶な中をなんとかかき分け、傷だらけの生存者を助けました。

 

 どうにかして彼をドアから出して、アイアに咥えさせました。

 アイアは救助活動の訓練も受けているので、負傷者をきちんと運ぶことが出来ます。

 

 アイアに助けた乗客を安全な場所まで運ばせ、私は再び機内に入りました。

 同じように座席に挟まれた乗客が何人もいました。

 私がそうやって2人目を助けた頃、他の飛空騎手たちがワイバーンに乗ってやってきました。魔導消火器具を装備した騎手もいました。

 彼らは爆発の危険を顧みず、救助を行ったのです。

 

 飛空騎手らに連絡を受けた空港の救助隊も来て、幸いなことに爆発を起こす前に鎮火できました。

 全員を助けることは出来ませんでした。

 けど私達はできる限りのことをやったと思いました。

 

 

 ……そうしてアイアを労っているときでした。

 

 飛空騎手のひとりが叫んだんです。

 

『ケールというワイバーンを知ってるやつはいるか!?』

 

 私は眉をひそめました。

 

『ケールは俺の友達のワイバーンだ。ケールがどうした?』

 

 そう言うと、その飛空騎手は青ざめた顔で言ったんです。

 

『……滑走路27で、死んでた』

『なに?』

『連絡があったんだ。あの飛空艇が飛んだ滑走路に、ワイバーンの遺体があった』

『なんだと?』

『足のタグの名前で、ケールだと分かった。遺体は、その………下半身しかなかったらしい』

 

 そして彼はこう続けたんです。

 

 

『滑走路に、人間の遺体もあったって』

 

 

 

 

 

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