パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー 作:鈴本恭一
○ヴァーツラフ=プルデック(リタリーニャ空港衝突事故 派遣調査団長(当時))の証言
『……つまり、ワイバーン・ケール騎は滑走路22を目指していた?』
私達はまず、リタリーニャ空港の地上管制官から話を伺いました。
彼はその日、飛空騎手たちの地上誘導をしていたのです。
『はい、ポートは使えませんから、滑走路22で試験を行う予定でした』
『誘導は、どのように?』
『全員に地図を渡してあります。駐機場から、誘導路リマ3を通って滑走路22に行くよう指示しました』
管制官は地図を見せ、
『リマ3から滑走路22までは一本道です。他の滑走路に行くはずが無いんです』
『しかし、実際にはケール騎は滑走路22ではなく、滑走路27にいた』
『はい……』
消沈した声でした。
気の毒とは思いましたが、陛下より命じられた任務があります、彼に更に問いかけました。
『ケール騎は、滑走路22に着いたと言ったんですか?』
『はい、滑走路に着いたと。空港面探知ゴーレムも、そのとき滑走路22にワイバーンがいるのを探知してます』
『なるほど……』
空港面探知ゴーレムは、いわゆる地上監視ゴーレムのことで、汎用探知魔法を使い、誘導路の飛空艇や牽引ゴーレムなど、空港にいる様々なものを探知します。
悪天候で管制塔からの視界が悪いときに非常に役立ち、まさにこのような事故を防ぐために設置されたゴーレムです。
『空港面探知ゴーレムを検査させてください。当日の管制記録も……おや?』
そこまで指示したとき、管制室のあるものが目に入りました。
地上監視用の魔導卓です。
例の空港面探知ゴーレムが発見した物体を、地図上の画面に反映しているのですが、
『……移動している輝点は見えますが、それが何かは表示されていませんね』
地上監視ゴーレムは、誘導路や滑走路に何かが動いていると地図上に表示することは出来ますが、それが何かまでは報告しません。管制官からは動き回る点でしかないのです。
『ええ、この空港の地上監視ゴーレムだと、それが限界です』
『では何故、ワイバーンが本来の滑走路22にいると分かったのですか?』
『ワイバーンの輝点は独特の大きさと形をしてるのですぐ分かります。連絡のあったとき、滑走路22にそれがいました。他の滑走路にはいませんでした』
『なるほど、なるほど』
『誘導路以外の草地には、ワイバーンの足跡は無かったので、ケール騎は規定通り誘導路を使っていたと考えていい』
私はリタリーニャ空港の格納庫を調査室にし、空港の地図をメンバー全員で検討し始めました。
『滑走路22にいく誘導路は1本だが、事故のあった滑走路27にいく誘導路は2本ある。ロメオ2とロメオ3だ。』
2本の誘導路のうち、ケール騎がどちらを使って滑走路に来たのか、調べなければなりません。
『誘導路ロメオ2は滑走路27の端に出る。クドラク飛空2004便が使った誘導路だ。ケール騎が管制官に滑走路に着いたことを報告した時間まで、飛空艇はずっと離陸待機していた。ケール騎がロメオ2を使ったとすると、辻褄が合わない』
そのため問題の誘導路は確定されました。
『ケール騎はロメオ3を使った。この誘導路は滑走路27の中央に出る。飛空騎手が出した管制官への報告と、2004便の離陸タイミングを考慮すると、このロメオ3しか考えられない』
地図に「R3」と書かれた竜人文字を赤インクで丸付け、私は懸念を抱きました。
地上監視ゴーレムを備えた空港で、誤って滑走路に入る上、それを誰にも悟らせないということがあり得るのでしょうか?
『このロメオ3には何がある?』
私は実際に誘導路を歩いて調べることにしました。
そしてすぐ、この誘導路の問題に気付いたのです。
『……これは、ひどいな』
まず駐機場の構造からして問題でした。
リタリーニャ空港の駐機場は、言ってみればただのコンクリートの広場です。
ここまでは駐機場、ここから先が誘導路、というような明確な境目は無く、駐機場の端がどんどん狭まって、気付けば誘導路になっている、という具合です。
問題は、駐機場が広いのに誘導路への案内を示す標識が、驚くほど少なかったことです。
『まずどこに向かえば、本来のリマ3誘導路に行けるんだ?』
駐機場に着いた私達は、途方に暮れました。
地図はあるのですが、目立った目印がないため現在地が分かりにくく、目的の場所まで何を目当てに進めば良いのか、全く分からないのです。
『案内用の誘導路中心線灯は、誘導路の中にしかない。指標にするべきものがないので方向感覚を失う。その上、当日は霧が出ていた。下手に進めば、駐機場で遭難しかねない』
実際、晴れた日に駐機場から誘導路までを歩きましたが、我々は何度も地図を見直し、右往左往しました。
『しかも、間違えて入ったロメオ3誘導路は、本来のリマ3の隣にある。だというのに看板も標識もない。どっちがロメオ3で、どっちがリマ3なんだ?』
なんとか誘導路の入り口まで着いても、ここが目的の誘導路だと確信できる材料がひどく少なかったのです。
誘導路脇の草地は荒れ放題で、雑草や花が咲いていたり、数少ない標識を覆っていたりもしました。
『不親切すぎる。誤って違う誘導路に入ってもおかしくはない』
しかし逆に、我々は首を捻りました。
『……ケール騎はなぜ、自分たちがリマ3に入ったと報告した?』
ケール騎は迷子になったとは言っておらず、目的の誘導路に入ったことを管制官へ報告しています。
管制官も滑走路には2004便しかいないことを確認していました。
『違う誘導路に入ったのなら、地上監視ゴーレムの探知魔法をどうやって掻い潜った?』
空港面探知ゴーレムは飛空艇やワイバーンが滑走路にいれば、それを管制官に報告します。
しかし私達が検証した結果、ロメオ3誘導路には誰も通っていなかったのです。
空港のゴーレムに問題はなく完璧でした。
『ロメオ3を通って確かめるしかない』
そして我々は分かりにくい駐機場からなんとか、問題のロメオ3誘導路に辿り着きました。
『ひどい状態だな……花まで咲いてる』
ロメオ3の入り口には、一応の看板が設けられていました。
しかしそれはツル草に覆われ、咲いていた黄色い花が看板の文字を隠していました。
晴れたときにすら識別が難しいのですから、霧の日では何の役にも立たなかったでしょう。
『ケール騎はロメオ3誘導路に入ってしまった。ここには誘導路灯も誘導路中心線灯もある。それに沿って進めば、滑走路27に出る』
実際に歩いてロメオ3を進みました。
すると確かに滑走路27に出るのですが、そこに入る手前で停止線がありました。
侵入防止ゴーレムが、そこには設置されていたのです。
『許可なく滑走路に入ったら、侵入防止ゴーレムが警報を出す。これと地上監視ゴーレムの両方を掻い潜った? ありえるのか?』
実際に誘導路を歩いて分かったことはいくつかありましたが、結果的には謎がますます深まったという感じでした。
『どうしたものか……』
原因究明は急務でした。
飛空騎手ギルドは、飛空会社で雇われた元飛空騎手の扱いが劣悪であり、飛空会社の監督機関である海運飛空局はその使命を意図的に放棄しているとして、直訴状を陛下に提出したのです(※飛空騎手ギルドは歴史的経緯により、国王への直訴を許されている)
その直訴状の中には、国内のあらゆる空港で管理不備があり、民間飛空公団の怠慢も含まれていました。
海運飛空局と民間飛空公団はこれに反発し、御前裁判も辞さない構えでした。
飛空業界と飛空騎手ギルドの間で燻っていた火種は、確実に燃え上がっていたのです。
そんな私達に、強力な援軍がやってきました。
2004便から回収された、黒箱の解析結果です。
しかもそれを運んできたのは、カカナ連邦の飛空艇事故調査委員会でした。