パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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リタリーニャ空港地上衝突事故⑥:CVR

○レイル=バルタザーレ(カカナ連邦 飛空艇事故調査委員会 ロムント王国におけるリタリーニャ空港地上衝突事故調査支援メンバー代表)の証言

 

 事故機であるクドラク飛空2004便は、シオフィラス号型、つまりカカナ連邦の会社であるビックラット社が製造した飛空艇ですから、私達はロムント王国へ支援の用意があることを表明しました。

 

 するとロムントは、すぐに支援要請を出しました。

 それも国王ヴラチスラフ三世が直々に、我が飛空艇事故調査委員会のオフィスへ通話魔法を掛けてきたのです。

 

『黒箱の解析とその後の現地での調査支援、謹んで協力させて頂きます、陛下』

『臣民の安寧の為、貴機関の活躍を期待する』

 

 その当時の委員長代理だった私は、まさか国王その人と通話する日が来るとは思っておらず、ひどく緊張したのを憶えています。

 

 ともあれ、ロムントから送られてきた2つの黒箱は無事に解析が出来ましたので、それを手土産に現地の派遣調査団へ合流しました。

 

 私達を出迎えてくれたのは、調査団長のヴァーツラフ=プルデック氏でした。

 

『ようこそ、調査団へ』

『お力になれれば光栄です』

 

 プルデック氏は理知的で沈着、内省的な人柄で、高名な僧侶を思わせる人物でした。

 しかし握手したときの手は力強く、彼の事故解明への情熱と国王への忠誠を強く感じ取ることが出来ました。

 

『ロムントでここまでの飛空艇事故が起きたのは初めてです。是非ご助言を頂きたい』

『喜んで。しかし、我々もワイバーンドライバーの事故に関しては経験がありません。カカナにはワイバーンドライバーはほとんどいませんから』

『ではお互い助け合えるということですな』

『よろしくお願いします』

 

 それから私達は、黒箱のうちエフディーアール(FDR)、飛空情報記録の検分に取りかかりました。

 

『………始動から離陸まで、2004便のエンジンには問題は見当たりません。回転数、温度、油圧、全て正常値です。不審な振動の検知もなし。2004便は正常な離陸を始めています』

 

 カカナの支援メンバーであるセレネイドくんが、大型の魔導卓に映し出された様々なグラフをもとに2004便の離陸状況を解説しました。

 

『で、離陸滑走を開始して、浮上した、そのすぐ後、明らかな異変が起きます。ここです』

『……左エンジンに関するデータが、いきなりおかしくなったな。回転数が急に乱れて、振動も危険域に上がった』

『はい。プロペラに強い衝撃があることを報せる警報も作動してます』

『ワイバーン・ケール騎と接触したところは、おそらくそこでしょうな』

 

 プルデック氏の見解に、みんな頷きました。

 

『操縦士は左エンジンの緊急停止操作をして、左エンジンは完全に停止しました。機体はふらつきましたが上昇に成功、機首上げを続けました』

『が、駄目だったか』

『はい。左エンジンが止まったせいでバランスを崩して姿勢が安定せず失速。左側を下にして横転する形で墜落しました』

 

 なるほど、と私は頷き、今度はプルデック氏に質問しました。

 

『ワイバーンドライバー側は、2004便に気付かなかったのでしょうか? ワイバーンは優秀な感覚を持っていると聞きます。人間では感じ取れないものも、彼らには聞こえるとか』

『ええ、常ならそうです。しかし空港の中での移動となると、話が違います』

 

 プルデック氏は説明してくれました。

 

『仰る通りワイバーンは非常に感覚の鋭い生き物です。なので飛空艇のエンジン音で暴れないよう、耳目を弱める覆いを被せます。馬具でも似たようなものがありますが、ワイバーン用はかなり強力です。飛空艇が間近に接近するまで気付かなかったでしょう』

 

 プルデック氏の説明通り、ワイバーンの頭に被せる覆いはだいぶ分厚く、また強力な魔導器具が埋め込まれており、人間が誤って被れば無感覚に陥って発狂しかねないものでした。

 

『逆に、2004便はワイバーンに気付いたんだろうか?』

『シーブイアール(CVR)、再生します?』

『頼む』

 

 セレネイドくんがCVR、操縦室での音声記録の再生を始めてくれました。

 

 離陸前の時間から再生してみました。

 

 

《……グラウンド、こちらクドラク2004、滑走路27末端に到着》

 

 集音マイクの位置から、その声が副操縦士のスラ=ウイファルシのものだと分かりました。彼女が滑走路に辿り着いたことを報告したのです。

 

 私達はすぐに地上管制官からの指示が来ると思っていましたが、予想外の声が飛び込んできました。

 

《―――――グラウンド、こちらワイバーン・ケール、誘導路リマ3に入った》

 

『止めろ』

 

 一時停止したCVRの再生装置へ、目を向けました。

 

『ワイバーン側からの通信だ』

 

 私は調査団メンバーの顔を見渡し、

 

『地上管制用の通信魔導は全て同じ通信が出来るよう設計されているから、2004便もケール騎の動きを聞くことが出来る』

『ケール騎は間違いなく、リマ3と報告しましたな』

『しました』

『そこがおかしい』

 

 プルデック氏は首を捻りました。

 

『実際に歩いてみましたが、どこがリマ3か自信を持って言うためには、誘導路をかなり奥に歩かなければ分かりません。そこまで行かなければ標識がないからです。ましてやケール騎は、実際にはリマ3に入っていないのです』

『……続けてくれ』

 

《ワイバーン・ケール、こちらグラウンド、誘導路をそのまま進み、滑走路に入ったら報告ください》

《滑走路に入ったら報告、了解、ワイバーン・ケール》

 

 その後、管制官から2004便へは何の指示もありませんでした。

 しばらくすると、舌打ちする音が聞こえました。

 機長席のマイクからです。

 

《管制に、うちがもう滑走路にいると伝えてやれ》

 

 苛立たしく言ったのは、マリウス=ゼゲル機長でした。

 

《はい……グラウンド、こちらクドラク2004、滑走路27末端に到着》

《クドラク2004、濃霧のため視程が確保できない。現在位置で待機せよ》

《クドラク2004、現在位置で待機……だそうです》

《くそ、到着が遅れたら、また運航部からグチグチ言われるぞ》

《言われるだけならまだいいんですが》

《あいつらは俺たちをなんだと思ってるんだ。飛空艇を飛ばしてるのは俺たちなんだぞ》

 

 その後ずっと、会社からの扱いについての機長の愚痴が続きました。

 

『良い職場とは言えなさそうだ』

 

 そうやってしばらくしていると、

 

《グラウンド、こちらワイバーン・ケール、滑走路に到着した》

《ワイバーン・ケール、グラウンド、了解。ワイバーン試験の飛行場管制官へ連絡してください》

《グラウンド、こちらワイバーン・ケール、濃霧のため滑走路22か確認できない》

《ワイバーン・ケール、滑走路末端へ移動し、報告ください》

《滑走路末端へ移動し報告、了解、ワイバーン・ケール》

 

『止めてくれ』

 

 我々は顔を見合わせました

 

『……ケール騎は、自分たちが正しい滑走路にいるかを確認できずにいた。しかもそのことを、管制官に報告している』

 

 プルデック氏も頷き、

 

『聴取の時、管制官は『ケール騎は、滑走路に着いた、と言っていた』と証言しています。どの滑走路に着いたかは言っていませんでしたが、管制官は滑走路22だと断言していました』

『会話の感じも、なんだか心配してる感じじゃないですよね。管制室からなら滑走路22にいるのが分かるけどまぁ現地のワイバーンドライバーじゃ分からないよなあ、みたいな口ぶりです』

 

 セレネイドくんの見解に、誰も異議を申し立てませんでした。

 

『続きを聞いてみよう』

 

《クドラク2004、こちらグラウンド、視程が回復した。タワーへコンタクトしてください》

《タワーへコンタクト、了解、クドラク2004…………タワー、クドラク2004、滑走路27末端にて待機中》

《クドラク2004、タワー、前方の見通し距離は約500メートル》

《見通し距離は約500メートル、了解》

《500なら離陸できる。行くぞ》

 

 そこでエンジン音が大きくなりました。

 我々はぎょっとしました。離陸前儀式が行われていなかったからです。

 

《離陸前の儀式がまだです!》

 

 ウイファルシ副操縦士が慌てて言いました。

 

《……そうだった。離陸前儀式を行うぞ》

《了解》

 

 ゼゲル機長は、待機していた時間を取り戻すかのように慌ただしく儀式を進めました。

 

『……何を急いでる?』

 

 ひどくせかせかした様子で、見落としがないかと心配になるほどでした。

 実際には手順通りに儀式を終え、内容に問題はありませんでしたが。

 彼らはとにかく、一刻も早く離陸したがっていました。

 

《―――離陸前儀式、完了。タワーへ報告しろ》

《了解………タワー、クドラク2004、離陸準備完了》

《クドラク2004、タワー、滑走路27からの離陸を許可する》

《滑走路27からの離陸許可、クドラク2004、了解》

《よし、行こう、テイクオフ!》

 

 今度こそ、エンジン音が迷いなく大きくなっていきました。

 そこで、

 

《待ってください、先ほどのワイバーンが滑走路の確認を終えていないかもしれません》

 

 ウイファルシ副操縦士が懸念を口にしました。

 私達は息を呑みました。

 しかし、

 

《いるものか。奴らが使うのは滑走路22だ》

《でも》

《いないよ! 速度読み上げ!》

《……60ノット》

 

 ゼゲル機長の怒鳴り声と命令に、副操縦士が従います。

 

《ブイワン》

 

 機体は順調に加速していき、

 

《ローテート》

 

 機首上げ速度まで達しました。

 そのとき。

 

《―――――――――――クソっ!!!》

 

 機長の罵声と、激しい衝突音。

 けたたましい警報が鳴り響きました。

 

《左エンジン損傷! 異常振動検知!》

《左エンジン緊急停止を実行!》

《左エンジン緊急停止を実行!》

 

 機長と副操縦士の声の後、エンジン音が下がり、左エンジンを停止したのが分かりました。

 しかし、そこに新たな音が現れました。

 

《―――――"ブゥィイイイイイィイイイィイイイイイィイイイィイイ!!!"》

 

 古代竜人の言葉で、ビープと呼ばれる呪文の詠唱です。

 重大な何かが起きている、という警報です。

 

《機首が上がりすぎてます! 機首を下げて!》

 

 ウイファルシ副操縦士が叫びます。

 

《機首を下げて右に!!》

 

 そこに、ガタガタガタガタッ、という異様な振動音が聞こえてきました。

 飛空艇の事故を扱う者ものには耳慣れた音です。

 

『スティックシェイカーだ……失速している』

 

 スティックシェイカーは操縦桿を激しく揺らし、失速状態になったことを操縦士に伝える機能です。

 

《―――――"ストオオル、ストオオル、ストオオル"》

 

 さらに竜人語による警告も出ました。

 

 ビープ、スティックシェイカー、そして竜人語警告。

 あらゆるものが2004便の危機的状況を表していました。

 

《機首を下げて! 下げてください!!》

《この! 下がれ!!》

 

 彼らは機体を立て直そうと奮闘していました。

 しかし。

 

《くそおおおおおおおおおおおおおお!!!》

 

 

 

 ―――――――――――――激突音。

 

 

 

 記録は、そこまででした。

 

 

 

 

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