パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー 作:鈴本恭一
○ヴァーツラフ=プルデック(リタリーニャ空港衝突事故 派遣調査団長(当時))の証言
『離陸中に急にエンジンをひとつ無くし、衝突の影響で不安定になった姿勢と低高度のせいで、2004便は状況を回復できませんでした』
セレネイド嬢の言葉にバルタザーレくんは頷き、
『飛空艇側は、ワイバーンの存在に全く気付いていなかった。が、副操縦士は懸念を口にしていた。もしかしたらワイバーンが自分たちのいる滑走路27にいるかもしれない、と』
バルタザーレくんの言う通り、ウイファルシ副操縦士は機長に進言していました。
もしこれを機長が受け入れ、管制官に確認を取っていれば、運命は変わったでしょうか?
『管制官は、ケール騎が滑走路22にいると錯覚しています、原因は分かりませんが。仮に2004便が確認を取ったとしても、滑走路22にいると答えたかもしれません』
私の見解にバルタザーレくんは頷き、
『なぜ管制官は、ケール騎が滑走路22にいると思い込んだのでしょう?』
『それなんですけど、これ見てください』
彼の疑問に、セレネイド嬢が口を挟みました。
彼女は魔導卓に別のものを映し出し、私達に見せました。
『これは……地上図? 空港面探知ゴーレムの地上監視記録か』
リタリーニャ空港の地上図の上に、様々な輝点が動いているのが分かりました。
『地図で北にあるのが、滑走路22です、ワイバーンが本来行こうとしていた方の』
誘導路リマ3から辿り着ける滑走路22を、彼女は示しました。
『その滑走路22の、事故があった時間の状態が、こうです』
我々は息を呑みました。
『………何かがいる』
『誘導路リマ3に入って、滑走路の端へ移動していますな、確かに』
誘導路リマ3は滑走路22のほぼ中央に出る誘導路です。
その誘導路を通り、そして滑走路の端へ移動する1つの輝点が、そこにいたのです。
『で、その後に2004便が離陸します。滑走路27です』
セレネイド嬢が、今度は滑走路27を示しました。
滑走路27の端から移動する輝点が1つ。
名前はありませんでしたが、2004便と見て間違いありません。
それが滑走路に沿って加速し、突如として消えました。
『消えた。衝突だ。管制官はなぜ気付かない?』
『衝突したのは離陸直後です。離陸すれば空港面探知ゴーレムは発見できません。さらに言うと次に監視ゴーレムが2004便を発見するのは、もっと高度を取ってからです』
『ちょうど監視の隙間で起きた事故、ということですね』
私の言葉にセレネイド嬢は頷いてくれました。
そこで私はかねてよりの疑問を、彼女に投げかけました。
『2004便が離陸後に消えたのは分かりますが、こうして見ても、やはりケール騎は地上監視に映っていません。ロメオ3を通っているときもです。彼らの存在を空港面探知ゴーレムは認識していません。なぜでしょう?』
『そこなんですよねえ』
セレネイド嬢は腕を組み、首をかしげ、困り顔で床を踏み鳴らしました。
(カカナの魔術師はロムントの魔術師と違い、竜人風に言うとひどくカジュアルでした、と彼は苦笑)
『地上用の汎用探知魔法から逃れるには、ワイバーンは大きすぎます。感覚弱体化用の覆いが何かしてるかもと思いましたが、他のワイバーンも同じものを付けてるので関係なかったです』
『他のワイバーンは探知され、ケール騎のみ探知されなかった………ケール騎が、他のワイバーンとは違う点』
『つまり』
『ロメオ3』
私は空港地上図を指で指しました。
『やはり、ここには何かがあります』
バルタザーレくんもセレネイド嬢も頷き、我々は再度、この誘導路ロメオ3を調べなければならないと思いました。
そこで今度はカカナの支援メンバーを連れて、空港の検分に行ったのです。
『うわっ!』
駐機場に着いたとき、セレネイド嬢がいきなり声を上げたのを憶えています。
『どうしました?』
『いえ、あんな大きなヨロイドオオスギが空港の中にある絵面がなかなかすごくて』
カカナの支援メンバーが実際にリタリーニャ空港に足を踏み入れたのはその時が初めてでした。
『失礼ですけど、ロムントの空港法的にこれは問題ないんですか?』
『問題です。なぜ今まで放置していたのか……』
駐機場から誘導路に至る数々の不備も、カカナの面々に見せました。
正直、忸怩たる思いがしました。
しかし今は陛下に命じられた原因解明が優先でしたので、彼らに全てを見せました。
『げっ』
そして例の誘導路ロメオ3に着いたとき、またしてもセレネイド嬢が声を上げたのです。
彼女は私達を強く制止させ、
『………これ、まずいです』
彼女が指さしたのは、ロメオ3の入り口にある看板でした。
それはツル草のような植物で覆われ、黄色い花が咲き乱れている状態でした。
セレネイド嬢は魔導杖をかざし、ゆっくりそれに近付きました。
『シェイプシフターです。植物性の。名前はちょっと忘れましたが、間違いないです。なんでこんなのが空港に?』
何かの呪文を小さく唱えながら、セレネイド嬢は杖で花を鋭く叩きました。
すると黄色かったその花は動物のようにのたうち、花弁を虹色に変え、力なくしな垂れてしまいました。
『シェイプシフター? あの、変身する動物の?』
『変身能力を持ってる生き物の総称です。動物のもいれば植物のもいます。同じ仲間なのか、似たような能力を持ってるだけの赤の他人なのかは、学会でも議論になってます』
虹色になったその植物の花を千切ってガラス瓶に入れながら、セレネイド嬢が説明してくれました。
『植物性のは、相手が見たいものを見せて自分に近付けて、花粉をくっ付ける習性があります』
『見たいもの?』
『山の中で遭難した人間に対し、無いはずの家や看板に変身した例がいくつもあります。霧が出るとその能力を発揮しやすくなります』
『では、ケール騎も? リマ3の看板を見させられた?』
『このあと調べますが、その可能性は充分にあります。実際、特殊な能力を持つ植物のせいで空港職員が滑走路に入ってしまったという事故もありました』
『こういった事例もあるので、空港内での植生は厳重に管理されなけれならないのですが』
セレネイド嬢の言葉を、バルタザーレくんが引き継ぎます。
返す言葉もありませんでした。
『地上監視のゴーレムは、あっち……あれ?』
『どうしました?』
『ヨロイドオオスギが』
セレネイド嬢が指さしました。
『空港面探知ゴーレムとロメオ3誘導路の間に、ヨロイドオオスギがあるんです』
それを言われた瞬間、私ははっとなってバルタザーレくんを見ました。
彼も同じ表情で私を見ました。
『これは、まさか』
『確かめてみなければなりません。管制官に再度の聴取を。それから……』
バルタザーレくんが私に言いました。
『ワイバーン1頭とワイバーンドライバーを、手配できますか?』