パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

35 / 75
リタリーニャ空港地上衝突事故⑨:最後の謎

○ミリィ=セレネイド(カカナ連邦 事故調査支援メンバー)の証言

 

『………墜ちなかった?』

 

 師匠のいるスターゲイザー研究所からの報告に、私は耳を疑いました。

 

『そうだ。模擬訓練ゴーレムで事故を再現したが、2004便はワイバーンと衝突しても、離陸後に立て直した』

 

 通話先から説明してくれたのは、師匠ケイン=デュグラーディーその人でした。

 

『黒箱から抽出した離陸前情報と衝突時の情報を入力した仮想2004便で、模擬実験を行った。確かに事故後、左エンジンを停止したが、2004便は右エンジンのみで立て直しそのまま上昇した』

『つまり実験結果が、黒箱の情報と一致しない?』

『そうだ』

 

 その言葉に、私は深い溜息をつきました。ちくしょうめ、と思いながら、

 

『再現に使ったゴーレムが故障してる可能性は?』

『模擬訓練ゴーレムを支援したのはヘクトンだ。まずあり得ん』

 

 ぐぬぬ、と私は唸りました。

 ヘクトンは魔導衛星ダークスターの模擬打ち上げ実験に使った、検証用ゴーレムです。その検証能力は世界一であり、飛空艇の衝突事故ぐらいなら余裕で再現できます。

 そんなヘクトンの検証結果が、実際の事故の結果と食い違っていたのです。

 

『なんででしょうね?』

『ヘクトンは入力された情報をもとに検証を行う。ならば入力された情報が誤っているか、情報が足りないか、はたまたその両方か』

『なら間違ってるのはワイバーンの情報じゃないですか? ワイバーンがどこにどうやって衝突したのかは、検死解剖から推測した値なので、そこで誤差がでたのかも』

『そこはもう試した。ラグメゼにやらせた。ワイバーンの衝突状況を、黒箱のデータと矛盾のない範囲で様々に変更した。

 が、どれも大差ない。

 2004便は右エンジンだけで離陸上昇に成功した』

 

 私はまた唸りました。師匠のとこのスーパーゴーレムであるラグメゼはかなり神経質なたちなので、実験のミスとは考えにくくなりました。

 

 

 最後の謎が、私達の行く手を阻んだんです。

 

 

 

 

 

 

 

○ヴァーツラフ=プルデック(リタリーニャ空港衝突事故 派遣調査団長(当時))の証言

 

『つまり、何か見落としがあるということですな』

 

 カカナの検証実験の結果を聞いて、私は嘆息しました。

 

 大魔術師ダークスターの名前はロムントにも轟いていました。

 その研究所での検証結果であれば、残念ではありますが受け入れざるを得ません。

 

『全てを洗い直す必要があります』

 

 バルタザーレくんは言いました。

 そこには事故の謎を暴かない限りロムントからは去らないという決意がありました。

 もちろん私もそのつもりでした。

 

『事故機の残骸を調べましょう。滑走路の検分も』

『聞き取りも行いましょう』

 

 こうして我々は、クドラク飛空2004便に関わった物や人、それら全てを一から調べ直しました。

 

 バルタザーレくんらカカナのチームには、2004便の機械的な検証を行って貰いました。

 一方、ロムントのチームは聞き取りを行いました。

 異国の調査官より、王国の人間の方が適任だと思ったからです。

 整備士、地上係員、乗客、クドラク飛空の受付係、どんな人間であろうと、些細なことであろうと逃すまいと話を聞いて回りました。

 

 2カ国の調査は、なかなか実を結びませんでした。

 

 そもそも残骸から得られる情報は、検証用として念入りに調査済みでした。

 出涸らしの茶葉のように、それ以上なにも搾り取れません。

 カカナのチームは徒労に終わりました。

 

 一方私たちロムントのチームも、なかなか有益な証言を得られませんでした。

 整備の状況も問題なく、整備士からも異常の報告はなく、社員たちも同様。

 

 正直、かなり焦っていました。

 手詰まりの不安を感じ始めていました。

 そんなときでした。

 事故から生き残った乗客のうちのひとりが、証言を取れるまで快復したのです。

 

 

 その乗客、フランツ=チャペックさんは言いました。

 

 

『離陸にだいぶ時間が掛かってました。いつもならもっと早く離陸してるはずなのにまだ滑走路を走ってたから、大丈夫か? って不安になったんです』

 

 

 ――――これは重要な証言でした。

 

 2004便に機械的な問題がないことはさんざん確認しました。

 なので装置の故障や設定ミスで離陸できないとは考えられません。

 では何があったのか。

 

『…………過積載か』

 

 私は積載量を疑いました。

 バルタザーレくんもそれに頷き、

 

『飛空前、操縦士は航法ゴーレムに積載重量を入力します。燃料の量や乗客の体重、手荷物の重量を地上係員から聞き、それを人の手で航法ゴーレムに教えるはずです』

『その数値が、実際と異なっていたとしたら?』

『調べてみましょう』

 

 我々は事故のあった日に乗客と手荷物の合計重量を操縦士に伝えた荷物運搬係へ、そのことを尋ねました。

 

『2000? 2000ポンドと伝えたのですね?』

『ええ、そうです』

『その数字はどこから?』

『受付の手荷物係が重量を量ります。体重と、荷物の重さを。その合計を私に伝えてきました、メモで』

『実重量を?』

『実重量です。重量の計測器もあるはずですから』

 

 2000ポンドという数字は、黒箱から得られたデータと一致しています。

 

『そのメモはありますか?』

『はい、事務所に残っているはずです』

 

 そのメモを見せて貰ったとき、私は眉をひそめました。

 

『………単位がない?』

 

 メモにはただ単に『2000』としか書かれていなかったのです。

 しかも手書きではなく、機械の印字で。

 

『ええ、でも昔からポンドで計ってますから、省略してるだけです』

『なるほど、なるほど』

 

 私はこのことをカカナのチームに共有しました。

 するとセレネイド嬢が『―――――ヤード・ポンド教団!』と叫んだのです。

 

『そうでした……ビックラット社はヤード・ポンド教団派でした、ポンド使ってるから……』

 

 セレネイド嬢はかなりのショックを受けていました。

 

 

 

 ……ご存じのように、我々の使っている距離や重さの単位は、古代竜人文明で使われていたのを流用しています。

 しかし竜人たちは何故か、数種類の単位を使っていました。

 果たしてどの単位を採用するべきか、魔術師の間で闘争があったそうです。

 最終的には2大教団が生き残りました。

 

 ひとつはメートルキログラム教団。

 そしてヤードポンド教団。

 

 大雑把に言うと、メートルキログラム教は大地や水という自然物を主体とします。

 一方のヤードポンド教では竜人が主体です。

 (※キログラムは水の重さを、ポンドは竜人の食事量を基準としている)

 

 古代竜人はどちらを正式な単位として使っていたのか、ひいてはどちらの派閥が古代竜人文明の正当なる理解者かで、それはそれは血生臭い争いがあったのだそうです。

 

 

 

『恥ずかしい、なんで単位違いの可能性に気付かなかったんだ私……すみません、私のミスです』

『メンバーの誰もが気付かなかったのですから、仕方がありません』

『いえ、古代竜人文明に関わる魔術師は、竜人の単位に精通してしかるべきなんです』

『ほお』

『でも魔術師じゃない人達は間違えるのも無理ないので、それにすぐ気付けなかったのが情けないんです……師匠に絶対怒られる……ラグメゼに嫌味言われる……』

『なるほど、なるほど』

 

 魔術師でない私にはよく分かりませんでした。

 

 

 それはともかく。

 シオフィラス号型は重量の単位にポンドを使用していました。

 運行するクドラク飛空も、積載重量の計測にはポンドを使っていたはずです。

 

 私達は、空港の受付を調べに行きました。

 

 そこで驚きの事実が明らかになったのです。

 

『計測器に……単位が出ない?』

 

 重量計測器はバネと重りによる昔ながらのものではなく、計測器の上に乗れば数値のみが表示されるものでした。

 しかしその表示卓には、単位がなく、数値だけが表示されるのです。

 

『なぜこれがポンドであると分かるのですか?』

 

 受付係の女性に聞いてみましたが、彼女はなんと『分かりません』と言ったのです。

 

『会社からはこれを使うようにと言われました。けど、取り扱いの説明書ももらってなくて……会社からは、ボタンを入れて起動させたら、あとは計測器が合計値をメモに印字してくれるので、それを次の係に渡すだけでいい、と。それだけでした』

『数値の検証は?』

『会社からは、他の業務を優先しろと』

 

 その受付係の社員は、私達に教えてくれました。

 そもそも受付係の人数は業務に対して圧倒的に少なく、明らかに人手が足りていませんでした。

 自動で集計と印字をする計測器も、人手不足の対策として導入されたものだそうです。

 

『説明書を取り寄せるところから始めないとな』

 

 計測器を製作した会社へ連絡を取り、すぐに実物と説明書を寄越してもらいました。

 実際、それはとても使いづらいものでした。

 

『ボタンがいくつかあってそれを切り替えれば、単位を変えられる。が、どのボタンがそれなのかは説明書を見ないと分からないな』

 

 それは説明書ありきで使用する代物でした。

 

『なんの単位を使っているかは、ランプの色でしか分からない。その上、どの色がポンドなのかは、やはり説明書にしか書いていない。不親切だ』

 

 そして調査の結果、事故の日に使用していた単位が判明したのです。

 

『…………やはりキログラムでした』

 

 私は調査結果を全員に共有しました。

 

『事故機は2000ポンドではなく、実際には2000キログラムを運んでいたのです』

『2000キログラム……』

 

 バルタザーレくんとセレネイド嬢が、すぐに計算を始めました。

 

『2004便の搭載していた燃料重量、乗客と手荷物の合計重量、そして乗員達の体重を合わせると………約400キログラム、オーバーしている』

 

 20人乗りの小型飛空艇では、無視できない数字です。

 

『この400キログラムがどう影響するか、ですな』

『それならもうすぐ結果が出ると思います』

 

 セレネイド嬢が教えてくれました。

 

『単位違いを言われてすぐ、師匠に連絡しました。手違いで単位を間違えて入力してる可能性があるので、それでやり直して欲しいと』

『手早い。それで、結果はいつごろ?』

 

 私が聞いたのと同時に、調査室の通信管理ゴーレムがセレネイド嬢を呼び出しました。

 セレネイド嬢はそれに応え、通信を取りました。

 そして、少々わざとらしい口ぶりで、大きく言ったのです。

 

 

 

 

『……………墜ちたんですね!』

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。