パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー 作:鈴本恭一
○シャフリル(タラムマ王国 スンダ空港 飛行場管制担当(当時))の証言
その日、スリビジャヤ飛空446便が滑走路から飛びだったときは、もう夜でした。
飛空計画ではもっと前に離陸してるはずだったんですが、他の離陸待ちの機にマシントラブルが起きて、滑走路で立ち往生してしまったんです。慌てて着陸機を他の滑走路に誘導している間、誰も離陸できなくなりました(※スンダ空港の滑走路は2本のみ)
そういうわけで、あの日はスリビジャヤ飛空だけじゃなく、全ての離陸予定機が時間を狂わされていました。
『スリビジャヤ446、スンダタワー、風向40度から5ノット、滑走路04からの離陸を許可』
スリビジャヤ飛空446便に離陸許可を出したのは、予定から3時間近く遅れた20時頃のことでした。
『風向40度から5ノット、滑走路04からの離陸、スリビジャヤ446』
詠唱を返したスリビジャヤ飛空446便は、プラミシアス号型の双発ジェット飛空艇で夜の中を離陸しました。
『スリビジャヤ446、コンタクトディパーチャー』
『コンタクトディパーチャー、スリビジャヤ446』
離陸儀式の呪文詠唱が終わり、私は次の便との離陸儀式を始めました。
その時の446便には、何の異常もなかったんです。
○スシロ(タラムマ王国 スンダ空港 出域管制担当(当時))の証言
『スンダディパーチャー、スリビジャヤ446、高度1300フィートに到達』
飛行場管制から引き継がれた446便を、私は管制魔導卓で捉えました。
『スリビジャヤ446、スンダディパーチャー、探知ゴーレムで捕捉しました。18,000フィートまで上昇し維持してください』
『18,000フィートまで上昇し維持、リビジャヤ446』
出域管制の仕事は、空港から離陸した飛空艇を航空路まで誘導することです。
その誘導ルートも本来は規定があるのですが、機数が少なかったりした場合にはショートカットを指示することも許されていました。
離陸が遅れていたことは知っていたので、私は446便に近道をさせることにしました。
『スリビジャヤ446、左旋回し機首方位330』
『左旋回し機首方位330、スリビ"テ"』
『……?』
そのときです。
通話魔導器具の向こうから、何かの異音が聞こえ、操縦士の声が途切れたんです。
私は再度呼びかけました。
『スリビジャヤ446、大丈夫ですか?』
『スリビジャヤ446、問題ありません、左旋回し機首方位330』
その時の操縦士の声は平然としたもので、何か問題が発生しているようには思えませんでした。
何かしらの不具合があったのかもしれませんが、操縦士たちで解決できる問題だったんだろうと思い、私は次の指示を出しました。
『スリビジャヤ446、魔導灯台バラクへ直行し、承認経路への飛空を再開してください』
『バラクへ直行、スリビジャヤ446』
その後の446便は、順調に予定の経路まで行きました。
私は飛空管制の管制官と呪文詠唱を執り行うよう、446便に指示しました。
『スリビジャヤ446、ジャーワンコントロールと交信してください』
『ジャーワンコントロールと交信、スリビジャヤ446』
そうして、446便との交信は終わりました。
………それが、446便と最後に話した管制になるとは、思いも寄りませんでした。
○バユ(タラムマ王国 ジャーワン飛空交通管制部 対空席担当(当時))の証言
ええ、スンダから上がったスリビジャヤ446便は、最初からおかしい動きをしていました。
本来なら446便は目的地のウジュパン空港へ行くため、北東の方向に向かう経路に入らなけりません。
けど実際は違いました。
ほぼ真北へ飛んでいたんです、446便は。
『スリビジャヤ446、ジャーワンコントロール、右旋回し方位070、魔導灯台バラクへ向かえ』
計画された経路を通り過ぎていたので、詠唱を行い呼びかけました。
が、返事はありませんでした。
『スリビジャヤ446、右旋回し方位070へ』
返事はやはりありませんでした、が、そこで管制魔導卓に映った446便の動きが変わったんです。
446便はゆっくりと右旋回を始めてました。
『……通信が故障?』
私は首を捻りました。
こっちの指示に従ってるということは、通信魔導器具が壊れ、操縦士からの声が届かない状態になったと思ったんです。
でもそれならすぐ、トランスポンダから警報が届くはずでした。
飛空艇に搭載された情報送受信ゴーレム、通称トランスポンダは、操縦士に命じられて通信故障を管制に報告します。そういう取り決めになっています。
しかし446便からは何の報告もありません。管制魔導卓も異常を検知しませんでした。その時は。
異常は管制魔導卓に映し出された446便の動きに現れました。
『……どこに行こうとしてる?』
右に旋回したはずの446便は、また左に曲がったんです。まるで前のルートに戻るみたいに。
それを指摘しようと思ったら、446便はすぐ右に曲がって、また左に。
そうやって曲がるたびに、高度が下がっていきました。それより下へ降りれば、安全は保証できなくなる、それくらいの高度まで降下していったんです。
『スリビジャヤ446、7,000フィートを下回るな! 現在の高度を維持せよ!』
効果はありませんでした。
446便は見る見るうちに7,000フィートを下回り、そして、その後すぐでした。
管制魔導卓から、機影が消えたんです。
○バハルディン(タラムマ王国 運輸省 輸送安全委員会 空運部。 スリビジャヤ飛空446便墜落事故 調査主任(当時))の証言
輸送安全委員会は、国内での陸運、海運、そして空運の事故に関わる全てを担当しています。
ただ部署としての空運部は他の陸海に比べて新参で弱小でした。
国内の飛空艇産業への自由参入を解禁したのと合わせて新設されたからです。
その時もフェリーの海難事故があり、それの調査に空運部の人員がすっかり借り出されてしまっていました。
そういうわけで、スリビジャヤ飛空446便が失踪したという報せを受けても、動ける人間は僕を含めて数えるほどしかいませんでした。
『応援がいるなぁ』
飛空艇業界は急拡大を続けているのに、空運部はそれに対応できていませんでした。
人材も資材もまずは輸送安全委員会の内部で差配され、たいてい規模の大きい陸海運部に回されてしまうからです。
『446便の機材は? プラミシアス号型? じゃカカナのだ。あっちの事故調査委員会に合同調査できないか聞いてみよう』
幸いカカナ連邦の飛空艇事故調査委員会には知り合いがいました。大学の同期のレイル=バルタザーレが捜査官をしていたのです。
彼の秘書ゴーレムに通話を繋いでもらい、
『やあレイル。早速で悪いけど調査を手伝ってくれないか?』
『バハルディン、君はいつも見計らったみたいなタイミングで声を掛けてくるな』
『なんだよ、別に君本人に来てくれとは言ってないよ。君の国が売り込んだ飛空艇がうちで事故を起こしたかもしれないから、君の国でも早晩事故を起こすかもしれないと友好国として憂慮の念を示してるだけだよ』
『その小ずるい口振りはいつになったら直るんだ?』
『うちは余裕がないんだよ。とにかくプラミシアス号型に何かあった。飛空艇事故調査委員会は放置できないだろ? 僕らの組織規模を君は知ってるんだから、現地任せじゃ何も分からないままかもしれない。君らは来るしかない』
『そう噛み付かなくても、私が行くことになるよ。セールーンの事故がちょうど完了したからな。タイミングが良い。こっちから支援の申し出を送るよ、その方が良いだろう?』
『ああ、腹立たしいがね』
そんなわけでカカナ連邦の飛空艇事故調査委員会はタラムマの輸送安全委員会に正式な支援の申し出をしてくれて、タラムマ側はこれを了承しました。
(空運部がカカナに支援要請を直接出すことは一応出来ますが、輸送安全委員会を通すため物凄く面倒くさい労力が発生します、と彼はうんざりして言った)