パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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スリビジャヤ飛空446便墜落事故③:下請け整備

 

 

 

○バハルディン(タラムマ王国 運輸省 輸送安全委員会 空運部。 スリビジャヤ飛空446便墜落事故 調査主任(当時))の証言

 

 カカナからの援軍を待つことなく、僕らは調査を始めました。

 とにかく目下最大の問題は、446便の行方です。

 

 墜落したのか、不時着して救助を待っているのか、はたまた全然別の空港へ着陸したのか、それさえも分からない状態でした。

 

『……最後に確認できたのは、ここ?』

 

 ジャーワンの飛空交通管制部に行って、事故機の担当だった管制官に話を聞きました。

 

『ええ、そうです。魔導卓が捕捉したのは、そこが最後です』

 

 彼は広げた地図を指さしました。

 そこを見て、思わず眉をひそめました。

 

『パノン列島か……』

 

 そこはタラムマでも最も過酷な場所のひとつです。

 

 大小様々な島が点在してるんですが、どれもこれも険しい山と谷が連なってます。

 この付近の最低飛空高度が7,000フィート、2,100メートルに設定されているのも、この島々のせいです。

 それを下回ると、どこかの山にぶつかってしまうからです。

 

『もし446便がパノン列島の山のどこかに激突してたら、生存は絶望的だ……自機や周りの状況について、交信は何かなかった?』

『何もありません。通信魔導器具の故障かと思いましたが、そのことの報告もありませんでした』

『なるほど、446便のゴーレムは速度と高度を報告していたから、確かにトランスポンダの故障じゃないね』

 

 明らかに異常な動きをしているのに、それを管制官に報告せず、ほどなくして探知魔法から消失。

 これは突発的で重大な何かが446便に起きて、しかもあっという間に飛空艇から正常な飛行能力を奪ったことを意味します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 446便の失踪場所がパノン列島に絞られたので、そこを中心に海軍と沿岸警備隊が捜索を行いました。

 本当は僕もその捜索に同行したかったのですが、446便の機材が機械的な不具合を抱えていないか調べなければなりませんでした。人手があまりに足りず、やきもきしました。

 

 その上、スリビジャヤ飛空から提供された整備記録にも頭を抱えました。

 

『………これだけ?』

 

 整備日誌に記された内容は、どの日付をめくっても「異常なし」しか書かれていませんでした。

 プラミシアス号型は信頼性の高いことで知られていますが、それにしても普通ではありません。

 

『446便の機材は中古機だ。それを何年も前にスリビジャヤ飛空がレンタル契約し飛ばしてる。なのに消耗品の交換作業さえひとつも記録されてない?』

 

 これは整備状況の実際を見ないとまずい案件だと確信しました。

 そこでスリビジャヤ飛空に連絡し、整備の様子を見せてほしいと連絡しました。

 が、

 

『……整備は自分たちではやっていない? 外注?』

 

 スリビジャヤ飛空が言うには、整備は別の業者に委託してるのでそっちに訊いてほしいとのことでした。

 飛空会社が整備を他会社に下請けさせるのは特に珍しいことではないのですが、視察の予定まで丸投げとは、流石に驚きました。

 だいぶ胡散臭かったです。

 都合の良い日程をスリビジャヤ飛空たちで組んで僕らに教えてくれ、などと言い出すと、永遠に返答が来ないと思いました。

 

『分かった、じゃあ整備してる会社に直接聞きに行くから、連絡先を教えてくれ』

 

 向こうに任せて有耶無耶にされるくらいなら、多少の手間を掛けてでも真実を探りに行くことにしました。

 そしてその整備業者に連絡を取ったんですが、これまた驚きました。

 

『おたくは整備してない? 別のとこに下請けさせてる?』

 

 なんとその業者はいっさい飛空艇に触ることなく、他の業者に業務を委託していたんです。いわゆる孫請けです。

 ここでいやな予感は確信に変わりました。

 

 孫請けの業者に問い合わせると、彼らはなんとさらに別の業者へ下請けさせていました。

 

『……446便をいじってたのは誰なんだ?』

 

 最終的に、コッソー社という零細の整備業者へ行き着きました。

 あの「異常なし」の整備日誌を書いた業者です。

 整備業務はそのコッソー社まで5次請けを行っていたことが分かりました。

 

 で、なんとかそこに連絡を付け、整備場の視察を行いました。

 

『これは、ひどいな』

 

 整備場は壁がなく、鉄骨の柱と屋根があるだけの広場でした。

 ジャングルがすぐ隣にあり、蟲や鳥が入り放題で、整備員もそれをまるで気にしていません。

 

『446便の最後の整備にも、特に異常は無かった?』

『ええ、何も問題ありませんでした』

『本当に?』

『ええ、何も問題ありませんでした』

 

 整備担当に話を聞いても、通り一遍の答えしか得られませんでした。

 彼らの仕事ぶりを指摘したくても、資料もろくになければ飛空艇自体もまだ見つかってないので、それ以上の追求は出来ませんでした。

 ただ、帰る際に彼らにこう言いました。

 

『この事故調査で判明した情報は、裁判での証拠にはならない。証言をしたせいで証言者が罰せられることは決してない。憲法に記載されている。憲法は国王陛下がお創りになったものだから、誰であろうと違反は許されない。空運部はいつでも開放されてる。何か思い出したら連絡してくれ』

 

 

 

 そうしてコッソー社から戻った直後に、沿岸警備隊から連絡がありました。

 

 

 446便の残骸が発見された、と―――――。

 

 

 

 

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