パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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スリビジャヤ飛空446便墜落事故⑧:CVR

 

 

 

○バハルディン(スリビジャヤ飛空446便墜落事故 調査主任(当時))の証言

 

『じゃ、始めてくれ』

 

 元職員室の調査室で、僕とレイル、空運部の調査メンバー、あと沿岸警備隊から魔術師のアグネスも同席して、CVRの情報を再生し始めました。

 

《スリビジャヤ446、スンダタワー、風向40度から5ノット、滑走路04からの離陸を許可》

《風向40度から5ノット、滑走路04からの離陸、スリビジャヤ446》

 

 音声は446便がスンダ空港を飛び立つところから始まってました。

 管制官から離陸許可を受けた446便は、離陸を開始し、どんどん加速していきました。

 

《80ノット》

《チェック》

 

 446便はこのとき、アリオ機長が操縦、エコ副操縦士が通信と計器監視を担当してました。

 

《ブイワン》

 

 機体は順調に加速し、機首上げの速度まで達しました。

 

《ローテート》

 

 機首を上げ、

 

《ポジティブクライム》

《ギアアップ》

《ギアアップ》

 

 ガゴン、という音。着陸ギアが格納されたのが分かりました。

 

《ブイツー》

《フラップゼロ》

《フラップゼロ》

 

 446便は上昇速度へ移行し、予定通りの高度と方位へ飛空を続けました。

 なんの異常もありません。

 空港の出域管制へ引き継がれた後も、それは変わりませんでした

 

《スリビジャヤ446、スンダディパーチャー、探知ゴーレムで捕捉しました。18,000フィートまで上昇し維持してください》

《18,000フィートまで上昇し維持、リビジャヤ446》

 

 446便は指示通りの高度へ上がりました。

 そのしばらく後、管制官がコース変更の指示を出しました。

 

《スリビジャヤ446、左旋回し機首方位330》

 

 航空路への案内と整理が出域管制の仕事ですが、予定より遅れていた446便のためにショートカットを指示したんです。

 

《近道できます》

《ありがたいな》

 

 446便の操縦士も嬉しそうでした。

 彼らは管制官へ応えます。

 

《左旋回し機首方位330、スリビ"テレイン"

 

 ――――耳を疑いました。

 

『止めてくれっ』

 

 僕は慌ててCVRの再生を止めさせました。

 みんな顔を見合わせました。

 あり得ない音が入っていたんです。

 

『……対地接近警報だ』

 

 飛空艇が地上に近すぎる、または降下が異様に早い場合、対地接近ゴーレムが高度や降下率を計算して警報を出します。

 

 操縦室にいきなり現れたあの警報は、あと20秒から30秒で地形にぶつかるぞ、対処しろ、という意味です。

 

 しかし、これは異常でした。

 

『おかしい。この時の高度は18,000フィート、しかも海の上だ。周りには何もない』

『降下率も上昇を示している。対地接近警報が鳴るはずがない』

『再生を』

 

 

《"テレイン・テレイン"》

《まただ》

 

 うんざりした声は、機長からでした。

 

《"テレイン・テレ―――"》

 

 警報が消えました。

 操縦士のどちらかが、主警報スイッチを押して警報を意図的に止めたようです。

 

《スリビジャヤ446、大丈夫ですか?》

《スリビジャヤ446、問題ありません、左旋回し機首方位330》

 

 管制官へ応答しましたが、警報の件は伏せていました。

 そうして446便はスンダ空港からジャーワン飛空交通管制へ引き継がれました。

 

《直したって言ってたんですけどね》

《あてになるもんか。この間だって―――》

 

《"ウープ・ウープ・プルアップ"》

 

 機長達の声をかき消すように、今度はプルアップ、つまり機首を引き上げて高度を回復しろ、という警報が鳴りました。

 飛空艇で発せられる警報の中で、最上級の警報です。

 そのためプラミシアス号型では主警報スイッチを操作しても切れません。

 

《なんなんですかこれはっ!》

《……仕方ない》

 

 すると機長が、ため息と共に席を立つ音が聞こえました。

 そしてごそごそと、何かをする音も拾えました。

 

『……?』

 

 機長の行動が理解できなくて、僕やレイルは眉を寄せていました。

 そこに、

 

 ピーピーピー

 

《―――――エヌディー(ND)が消えました!》

《なにっ!?》

 

 高い警報音と、狼狽の声が聞こえました。

 NDは、竜人語でナビゲーション・ディスプレイ、航法画面のことで、プラミシアス号型の場合は操縦士に航路や現在位置を教えてくれる、地図のようなものです。

 

《くそ!》

《航路も現在位置も不明!》

《トラブルシューティング!》

 

 その時の操縦士達の様子は、まさに慌てふためくといった具合でした。

 

《何ページだ!?》

《たぶん23ページ!》

《地図をよこせ!》

 

『止めてくれ………機長が、トラブルシューティングをしてる?』

 

 本来ならアリオ機長は操縦に専念し、問題解決をエコ副操縦士が受け持つはずです。

 けど、この時は違いました。

 機長と副操縦士の2人ともが問題解決に当たってたんです。

 

『ナビゲーション・ディスプレイが消えたということは、ここで飛空管理ゴーレムが切り離されたんだ』

『自動操縦は解除されている。なのに2人とも計器を見ていない? 原因が飛空管理ゴーレムの無効化だと気付いていないのか?』

『続けて』

 

 音声を再生しても、2人はずっとマニュアルと格闘し、ナビゲーション・ディスプレイを復活させようとしていました。

 その間、機体に起こったことを完全に放置して。

 

 ……この時、446便は左へと勝手に傾いていきました。

 操縦士や操縦ゴーレムの補正を何も受けない状態だと、中古機であるこの機体は左翼が沈み、右翼が持ち上がる動きをするのです。

 

 しかし機長も副操縦士も、このことに気付きません。

 そこに、

 

《スリビジャヤ446、ジャーワンコントロール、右旋回し方位070、魔導灯台バラクへ向かえ》

 

 ジャーワンの飛空交通管制部から指示が来ました。

 操縦士たちが慌ててそれに返信しようとする直前、

 

 

《"バンク・アングル、バンク・アングル、バンク・アングル"》

 

 

 新たな警報が鳴りました。

 バンク角、つまり翼の傾きが危険なほど傾いてることを機体が報せていたんです。

 これ以上の急角度になると、制御を失う危険がありました。

 

《通信に出るな!》

 

 機長が怒鳴り、彼の唸り声が轟きました。

 

 

《"バンク・アングル、バンク・アングル、バンク・アングル"》

《スリビジャヤ446、右旋回し方位070へ》

《傾いてます! 傾いてます!》

《分かってるっ!》

《スリビジャヤ446、通信魔導器具の感度を確認せよ》

《"バンク・アングル、バンク・アングル、バンク・アングル"》

《違います! そっちじゃない!!》

《このおおおおおっ!》

《左です機長!!左左左左左左っ!!!》

 

 

 ………操縦室は、混沌そのものでした。

 

 慌ただしく操縦桿を切り返す機長の激しい息づかい、必死に指摘し続ける副操縦士、止まらない警報、管制官からの問い合わせ。

 

 そして、

 

 

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ

 

 

『操縦桿の振動音……スティックシェイカーだ。失速を報せてる』

 

《―――――"ストオオル、ストオオル、ストオオル"》

 

 失速警報も鳴りました。

 

 機体の姿勢が極端になって、ついに空中に浮く力を維持できなくなったんです。

 機体はどんどん高度を下げていきました。

 

 つまり、墜落です。

 

《スリビジャヤ446、7,000フィートを下回るな! 現在の高度を維持せよ!》

 

 管制官からの警告は、

 

《ぅぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!》

 

 操縦士の絶叫に押し潰されました。

 

 

 その後。

 

 

 

 

 ―――――――唐突に、音声は終わりました。

 

 

 

 それが、スリビジャヤ飛空446便の最後でした。

 

 

 

 

 

 

 

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