パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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クレインフライ飛空353便エンジン故障事故②:オーディシアス号型、離陸

 

 

 

○ロック=ダイアクラブ(クレインフライ飛空353便 副操縦士(当時))の証言

 

 

 353便は、夜の7時ちょうどに出発する便でした。

 四大陸に囲まれたセントラル海の中央にあるセントラル島、そのセントラル空港から、西のエデ帝国フンド国際空港まで、2時間10分の飛空予定でした。

 

 機長は我が社で最もベテランのユーオーク機長。

 別の機種で何度か一緒に飛びましたが、とても仕事のしやすい人です。

 穏やかな人柄で紳士的、それでいて操縦技能に欠点のない、尊敬すべき操縦士です。

 

 私は空港内にあるクレインフライ飛空のオフィスで、ユーオーク機長と再会しました。

 

『また組めて嬉しいです、機長』

『こちらこそよろしく。君の転換訓練が無事に終わって良かった。良い飛空艇なんだが扱える人間が少なくてね』

 

 自分の父親と同じくらいの年齢の機長は、私の機種転換をまず労ってくれました。

 

『苦労しました。特にこの、操縦桿を引いても自分じゃなくて飛空用ゴーレムが代わりに機体を動かす感覚は、なかなか慣れませんでした』

 

 オーディシアス号型は、それまでの操縦桿からケーブルを引っ張って翼を操作する方式ではなく、翼を操作するゴーレムへ操縦桿で命令する方式を採用しています。

 フライバイゴーレムという技術で、元は軍事用でした。それを民間に転用したのはオーディシアス号型が初めてになります。

 

 高性能かつ大出力の魔力変換装置を備えたエンジンにより、オーディシアス号型は世界で最も魔導器具とゴーレムが充実した飛空艇になりました。

 

 ただ、あまりに今までと違うものなので、最初はかなり戸惑いました。

 そのことを機長に話すと、『分かるよ。私も苦労した』と微笑みながら同意してくれました。

 

『飛空用ゴーレムの性能が低かった頃は、4発機のゴライアス号型が最も大型で最も稼げる機材だった。機械式の芸術のような飛空艇だったよ。軍用の飛空艇をベースにしていてとても操縦に癖があった。馬に近い。生き物だ。性格も性能も十人十色。多かれ少なかれ、飛空艇の操縦とはそういうものだった』

 

 機長は懐かしそうに言って、

 

『だがこのオーディシアス号型はまるで違う。もはや飛空艇の形をした、空飛ぶゴーレムだ。転換に苦労したが、慣れてしまえば体の延長のように思えてくる。逆に今までの飛空艇に戻るのが苦労するだろう』

『結局どれも苦労するんですね』

『魔導が進歩しても、操縦が楽になるわけではないよ。変わるだけさ。だが新しい飛空艇には積極的に慣れていくべきだ。給与もかなり上がる』

『そうですね、新しいやつに乗るのはワクワクします。昔から操縦士は憧れでしたから。子供っぽいですかね?』

『いや、飛ぶ理由に大人も子供もない。いい理由だ』

『機長は、どうして操縦士に?』

『……そうだな、君の後だと俗っぽくて恥ずかしいが、稼ぎが良かった。国際線で最先端の飛空艇の操縦士は花形だ。家族を養える。こういうのを、大人っぽいと呼ぶのかね?』

『大人も子供もないんでしょう?』

『そうだった』

 

 と機長は笑いました。

 どことなく寂しそうな笑い方でした。

 機長はそれを仕事の顔に変え、『ああ、そうそう』と言いました。

 

『飛空診断ゴーレムが1基、故障してる。フンドで修理を受けるが、それまでは1基しか動かない。引継書にあるから確認しておいてくれ』

 

 飛空診断ゴーレムは、機体の各部を診断し、その状態と対処方法を指示してくるゴーレムです。トラブルシューティングを操縦士の代わりに調べてくれるものと言えます。

 冗長性のため2基あるのですが、その日は1基が故障していました。

 

『了解です。1基あれば大丈夫でしょう』

『あとタラムマの火山灰情報センターから、スンスス山で噴煙の兆候が見られるそうだ。これからディスパッチャーとも話すが、状況によっては迂回するかも知れない』

『分かりました』

『まぁ実際の火山灰警報が出れば、魔導衛星を経由して飛空中でも報せてくれる。便利になったものだ』

 

 そうして、機長とのブリーフィングを始めました。

 

 

 ……私がユーオーク機長と組めたのは、あの353便が最後でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

○モトタカ=ウラベ(四魔協 (四大陸魔剣士協会) エデ大陸王者。魔剣士)の証言

 

 忘れもしない、あれは22020年の初夏でした。

 セントラル島で、魔剣闘技の初代世界王者が決まったときです。4人の大陸王者が魔剣を交わした歴史的な大会。

 

 私はあのとき、初めて敗北したのです。

 無敗の大陸王者同士の戦いで。

 リナ=シャブラニグドゥスに。

 

 

 ……大会が終わり、セントラル島からの帰りの便としてクレインフライ353便を利用しました。

 魔剣使いは飛空艇をあまり利用しません。魔剣を手荷物として預けなければならないからです。私もセントラル島へ来たときは船を使いました。

 しかしその帰路では、一刻も早く故郷に帰りたかったのです。

 今だから言えますが、あの時の私は自暴自棄になっていました。

 

 リナ=シャブラニグドゥスとの戦いは、それほどの傷を私の精神に負わせました。

 

 私の奥義は無敵でした。

 我が一族は代々、稲妻の神ティーシャクーティンへ捧げる白雷の奥義を継承します。

 魔剣士としての勝利は雷神への捧げ物です。エデ帝国のあらゆる挑戦者を奥義によって屠り、勝利を神々への供物としました。

 奥義を出せば全てが終わります。誰もが私に奥義を出させないよう小細工を弄しました。それら全てを蹴散らし、勝利しました。

 私の奥義は無敵だったのです。

 ……その奥義を、白雷を、シャブラニグドゥスは、斬り破りました。正面から。

 

 試合の後、目を瞑ると、シャブラニグドゥスの紅い瞳を思い出さずにはいられませんでした。

 全てを見透かす天魔のようで、私は生まれて初めて恐怖しました。恐れを知らぬはずの魔剣使いが。

 

 敗北の恥辱や復讐心さえ蝕むその恐怖に、その時の私はどうすることも出来ませんでした。

 聞けばカカナ大陸の前王者も、シャブラニグドゥスに敗れ、そのまま引退したそうです。

 無理もない、と彼の気持ちが分かりました。

 

 

 そんな心持ちで、私はあの日、クレインフライ353便に乗っていたのです。

 

 

 

 時間ちょうどの19時、飛空艇がセントラル空港の駐機場を離れ、そして滑走路から離陸しました。

 なんの問題もない、穏やかで静かな離陸でした、

 夜の空を、353便は飛んでいきました。

 

 

 

 

 

 

○ジョコ(タラムマ王国 気象局 飛空火山灰情報センター スンスス山観測所 観測員)の証言

 

 スンスス山観測所の火山活動は、353便が飛んだときの数ヶ月前から活発化しました。

 

 タラムマを含む南西海域は火山島が多いですし、飛空艇も多く飛び交います。

 そういったところで火山の噴火や降灰を観測し、予報や警報を行うのが飛空火山灰情報センターの仕事です。

 

 で、地震観測ゴーレムや地熱探知ゴーレム、火山ガス観測ゴーレムたちからの情報をもとに、いよいよスンスス山から本格的な噴火が起きるな、という予兆を発見しました。

 353便が飛んだ日の数日前から、活動の活発化が顕著になりました。

 

『いつ噴火してもおかしくないな……各国の気象局へ展開するよう要請します』

 

 僕ら飛空火山灰情報センターは飛空国際協定に基づいて、火山活動に関する情報を各国に展開しました。各国の気象局がそれを受信して、関係機関や飛空会社へ、スンスス山の噴火が近いことを報せました。

 

 5つある魔導衛星ダークスターは、こういった情報展開に非常に役立ってくれました。

 魔導衛星の強力な通信魔法により各国の気象局へ高速で情報を受け取れ、衛星との通信に対応した飛空艇はそういった気象情報を直に貰うことも出来ます。

 

 353便の時も、そうやって僕らの発信した火山情報が、セントラル海のあらゆる飛空艇に伝わっていったんです。

 

 

 

 

 

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