パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー 作:鈴本恭一
○ロック=ダイアクラブ(クレインフライ飛空353便 副操縦士(当時))の証言
その情報が来たのは、セントラル空港を離陸して、巡航高度35,000フィートを飛んでいるときでした。
『機長、スンスス山の噴火情報です』
外は月のない完全な闇夜で、操縦室の計器類も輝度を落としていました。
私は操縦席脇の補助魔導卓に映し出された、火山が噴火したときに予想される影響範囲を見ました。
オーディシアス号型の操縦室は、従来よりだいぶ様変わりしました。
機械式の計器類はほとんどが姿を消し、代わりに大型の魔導卓が必要な情報を画面に映します。飛空計画書や運航規程、トラブルシューティングなどの紙で管理していたものも、オーディシアス号型では補助の魔導卓で参照します。
『噴火の兆しがあるので、予想降灰範囲にいる飛空艇は注意するように、とのことです』
スンスス山は予定航路よりだいぶ南でしたが、もし噴火すれば行く手を阻むように広がると、地図の画像つきで見やすく警告していました。魔導卓は本当に便利です。
『ブリーフィングで聞いていた予報の範囲とほぼ同じですね』
『了解。管制に針路の変更を要請してくれ。魔導灯台"ギャラッド"を経由すると』
『了解』
私は離陸前に打ち合わせしていた通り、より北のコースを取るため管制へ連絡しました。
『キヨタ・コントロール、クレインフライ353、スンスス山の噴火警告を受け取りました。念のため魔導灯台"ギャラッド"を経由するコースを取りたいです』
『クレインフライ353、では魔導灯台"ギャラッド"へ向かってください。方位320、高度33,000フィート。魔導灯台"ギャラッド"に付きましたら、また報告を』
『キヨタ・コントロール、クレインフライ353。方位320、高度33,000フィート。魔導灯台"ギャラッド"に付いたら報告。ありがとうございます』
無事に針路変更が承認され、北回りでエデ帝国を目指すことになりました。
『"ギャラッド"を越えたら、あとは降下に入る』
『了解です。じゃあ今のうちにトイレに行ってきます。空いてるようですし』
『了解』
私はトイレが空室なのを魔導卓で確認して、操縦室を出ました。
私が操縦室を出ると、操縦室のドアは内部から施錠されます。
これで操縦室は、機長の許可が無い限り誰も入れなくなりました。
この防犯装置は、乗客に扮した強盗が飛空艇を乗っ取る事件が残念ながら度々あり、その対策としてクレインフライ飛空がギボネー社にオプションとして発注したものです。
操縦室に残った機長または副操縦士がスイッチで施錠し、中に入るときはブザーとカメラで確認して、中から開けて貰います。
こうした設備を取り入れたのは、オーディシアス号型が初めてです。
さて降下を始めたら、後は進入と着陸のアプローチに入ります。
一番神経を使うところなので、用を済ませておこうとトイレに入りました。
……結果的に見れば、その時にしておいて良かったです。
あの後では、トイレに行っている暇なんて無かったんですから。
○ジョコ(タラムマ王国 気象局 飛空火山灰情報センター スンスス山観測所 観測員)の証言
その奇妙な震源を発見したのは、各国に火山情報を発信したすぐ後のことでした。
『オスカーから?』
観測所の所長が、僕らの発見に首を捻りました。
『はい、地震計測ゴーレム・オスカーが、震源を見付けたと報告してきました』
『震源? オスカーの設置場所は火口と全然関係ないだろ? 新しい噴火口になりそうな場所にもゴーレムを置いてる、シエラとかタンゴとか、そっちはどうなんだ?』
『そっちは以前と変わりません。オスカーは、自分の真下に地面を揺らすものがあると報告してるんです』
『揺らすものだ?』
所長はオスカーが自動で発信してきた報告書を読みました。
『……誤報だろう。震源が浅すぎる、ほとんど地表だ』
『ええ、けど地震が計測されてるのは確かです。オスカーを中心とした地面の揺れを、周囲の観測ゴーレムが捉えてます。どれも、オスカー付近に震源があることを示してます』
『オスカーの下に、何かがあるだと? 何がだ?』
『分かりません。溶岩が地下から新しくオスカーの下へ通ってるのかも』
『それほどの活動ならとっくにゴーレム達が捕捉してる。オスカーの報告が正しいなら、この震源は地表に近い地中でいきなり揺れ始めたってことだ。そんなところにそれほど揺れるエネルギー源はない』
『そうなんですが……』
僕はオスカーの地震測定の結果を見せました。
『揺れの大きさはどんどん大きくなってます。この強さの増え方だと、すぐにでも地上に影響が出るはずです』
『すぐというのは実際に―――――――』
ズ、ドン
揺れと轟音が、観測所を襲いました。
僕らはその突然の震動に驚きながら、でも経験的に地震には慣れているので慌てはせず、監視室の警報装置に目をやりました。
同時に警報が鳴りました。
みんなそっちを凝視して、そして驚きました。
『オスカーからの通信、途絶!』
『オスカーに近いゴーレム達から緊急報告! 強力な地表の爆発と噴火を確認!』
『噴火だと?』
所長は魔導卓を自分でも操作して、監視ゴーレムの今の映像を呼び出しました。
監視室のスクリーンに、オスカーがあった位置の映像が出ました。
『……噴火してる』
光の神ミーロックの加護を受けた暗視装置が、闇夜のスンスス山を映し出します。
そこには確かに、濛々と吐き出される大量の噴煙、赤い溶岩の輝き、橙色の火山雷が見て取れました。
『あり得ない。あそこは他の地下の溶岩と繋がっていない。あそこまでの噴火を出せるはずがない』
『地震波さらに増大! 噴煙が強くなります!』
『いかん、緊急警報を出せ! スンスス山が噴火! 付近の飛空艇が危険だ!』
先ほどと同じように、各国の気象局と飛空局に緊急情報を展開しました。今度は最大の緊急性を付与させて。
その時でした。
―――――――――ケェエエェエェエエエエェエエェエエエエ!!!!!!!!!!
何かの咆哮が、観測所を貫きました。
僕らはその大音声に思わず耳を塞ぎ、それでも頭が揺さぶられる感覚に苦しみました。
その謎の吠声は、最大の震度を記録したのと同じタイミングでした。
ゴーレムたちは風の精霊を貫くその声を、ちゃんと記録してました。
そしてそのどれもが、咆哮の発生源を、オスカーが消えたあの爆心地だと示していたんです。
噴煙の中に、何かがいたんです。
○ロック=ダイアクラブ(クレインフライ飛空353便 副操縦士(当時))の証言
私はトイレで用を済まし、再び操縦室に入ろうとしました。
飛空艇の機首は上級客席、いわゆるファーストクラスになっていて、誰しも夜のフライトを静かに過ごしていました。
なんのトラブルもない時間に満足して操縦室前のドアへ戻り、カメラへ目を向けてブザーを押しました。
それで機長がドアを開けてくれる、はずでした。
しかし、なんの反応もありませんでした。
『……機長?』
私は再びブザーのスイッチを押しました。
しばらく待っても、やはり何も起きません。ドアが解錠される音も何も聞こえず、私はお客様に聞こえないよう気を付けてノックしてみました。
『機長、どうしました?』
声が届くかは分かりませんでしたが、ドアの向こうへ呼びかけました。
ドアを引いたり動かしたりしようとしても、ピクリともしません。
施錠が外れてなかったんです。
強い不安に背中が凍りました。
『機長、開けてください!』
ドアをさらに強く叩きました。
『……なんだ?』
そして、客室の方から声が上がりました。
最初は、私の機長への呼びかけに気付かれたのだと思いました。
けど、それがすぐに違うと気付きました。
客室乗務員が、慌てた様子で私を探しに来たからです。
『外が、変なんです』
『外?』
私は彼女に手を引かれるまま、客席へ行きました。
そして息を呑みました。
窓の外が、赤く光っていたんです。