パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー 作:鈴本恭一
○ゴンベー=ジョン=チャンスミスリー(カカナ連邦 海洋大気観測会社『カオティックブルー』社員。副操縦士)
僕ら4人はその日の昼から、あるタイフーン(※エデ大陸でのハリケーンの呼び名)を追跡してました。
セントラル海の、そう、エデ帝国の沖合で。
エデ帝国の依頼で、帝国に向かって北上中だったタイフーンをカカナ空軍観測部隊と一緒に追跡してたんですね。僕らはストームハンターですから。
ストームハンターは大型の嵐、ハリケーンとかタイフーンとか呼ばれるそれがどれくらいの勢力を持ってるのか、針路や速度はどれくらいか、そういったことを実際に飛空艇で近付いて調べるのが仕事です。
僕らみたいな委託された民間の会社や、空軍の部隊が、気象局からの依頼で動きます。
ただその時に追ってたタイフーンは、予想してた北上コースからいきなりターンして南下を始めちゃって、一番北で待ち構えてた僕らはタイフーンから一番遠くなっちゃったんです。
あっちゃーと思って僕らも追っかけたんですが、南にいた空軍の飛空艇が先にタイフーンに近付いて、そのタイフーンの強さがトロピカル・ストーム、つまり熱帯性暴風雨って報告してきたんですね。最大風速40ノット(秒速20.6メートル)の。機内のテンションはあからさまに下がりました。
『ゴンベー、エンジンが不調になったから、フンドに引き返すって言っといて』
ボスのブルーは機長席から両手をひらひらさせて言ってきました。副操縦士だった僕は、
『どこも壊れてないよ、ブルー』
『不調さ、私のガラスのハートエンジンが』
『アダマント製でしょ?』
『いいから報告。速度落とすよ、経済巡航。たまには空軍に遊ばせてあげよう』
彼女は色の違う青い両目を不満げに瞬かせて、速度を落としながら針路を北に取りました。
『せっかくセントラル海わたってエデくんだりまで来たってのに、なんでトロピカルかね。タイフーンじゃないんかーい』
『エデからの依頼が珍しいからってブルーが受けたんじゃん。タイフーン教の国もたまには良いわねって言ってさ』
『ハリケーン教を裏切った天罰かよちくしょー!』
古代竜人があの強力なストームの名前をなんて呼んでたのか問題に花を咲かせてた僕らへ、同僚で魔術師のフレッド=ブログスが言ってきました。
『ボス、航法ゴーレムの数値に異常がある。ゴーレムの機首方位が磁気コンパスと合っていない』
僕らの飛空艇カオティックブルー号の飛空ゴーレム管理を一手に担う禿頭の彼の報告に、ブルーは『げっ』と呻きました。
『やばいの?』
『やばい。先にキクスに寄ってくれ。そこで直せる』
『別にフンドまでぐらいなら航法ゴーレムなしでも飛べるけど?』
僕の言葉に、スキンヘッドのフレッドは表情のないまま首を横に振りました。
『まだ任務中だ。本格戦闘の前に万全を期したい』
『私も、キクスに寄れるなら寄ってほしいです。新品の観測ゴーレムの調整をし直したいです』
最後部の観測室から、同じく魔術師のエヌエヌも小さい体を出して言ってきました。メンバー最年少の彼女の要望に、ブルーは頷きました。
『オッケー、いいよ。不調って報告しちゃったしねえ。ゴンベー、キクスに行く。報告よろしく』
『はいはい』
『フレッド、システムチェック。他におかしなとこないか確認』
『了解』
『エヌエヌ、観測と解析ゴーレムも今のうちにテストしときな。キクスで欲しいもんあったらフレッドに言うこと』
『イエッサー』
機内のメンバー全員に言って、ブルーは手近なエデのキクス空港を目指しました。
まぁ別に問題なく空港に到着したんですが、当時のエデはなんて言うか、大らかな仕事ぶりなんで、フレッドご所望のゴーレムの部品をなかなか揃えてくれなくて思ったより時間が掛かりました。
後になって思うと、これは逆に幸運でした。
問題なくさっさとキクス空港を出発できてたら、とっくにフンド空港に帰ってましたから。
で、実際はそんなこんながあってけっこうな時間にキクス空港を離陸しました。
不調だったゴーレムとか魔導器具を諸々と直して、改めてフンド国際空港に向かいました。
……その連絡を僕が受けたのは、20時半を過ぎた頃でしたね。
『はい、こちらカオティックブルー………捜索依頼?』
追跡本部からの通信でしたが、今までにない内容の依頼でした。
これはボスの判断を仰がないとまずいと思い、
『ブルー、メーデー。捜索依頼。クレインフライ飛空の353便が消えた』
『了解、通信代わる。操縦頼むよ、ユーハブ』
『アイハブ』
依頼はエデの帝国飛空局からでした。
詳細不明の噴煙領域内にクレインフライ飛空353便が巻き込まれた可能性があるので、捜索して欲しい。
その謎の領域は噴火の火山灰に近いけど、なんだかよく分からないモノだそうで。
探知魔法も誘導魔法も今のところ効果がないんだとか。
『つまり、支援魔法も届かない謎の場所へ私達だけで踏み込めってことさ』
ブルーが依頼内容を要約してくれました。
『分かってることってなんかないの?』
『魔導衛星で情報を送ってくれるらしいんだけど、エヌエヌ、どう?』
『はい、来てます、受信しました………確かに見た目は火山の噴火時によく似てます。探知魔法の反応波形もマグマガラスや鉱物に近しいですが、近しいだけで別物と思って良いでしょう』
『つまり、よく分からない?』
『よく分からないです。すごいです。反応波形が魔術学会で分かっているものと一致しません。大発見です。これは魔術学会が知り得ない未知の何かです』
エヌエヌが幼い顔を輝かせて分析ゴーレムをいじりまくるのを見て、僕らも楽しくなってきました。
『フレッド、どうだい?』
『即応できるのは俺たちだけだ。カカナの空軍はタイフーンを追ってとっくに南に降りた。エデの飛空艇救助体制は遅い。旅客の飛空艇は俺たちほどの装備を持っていない。俺たちが最適だ』
航法士のフレッドは周辺の飛空状況を集めながら言いました。
『ゴンベーは?』
『気持ち的には、助けに行かなきゃ、っていうのが半分。353便はオーディシアス号型だから400人くらい乗ってると思うし』
『もう半分は?』
『なんか面白そうだから近くで見たい。ブルーは?』
僕が聞き返すと、ブルーは……誰も本名を知らない、カオティックブルーという通り名を持つ彼女は、にっこり笑って言いました。
『メーデーに応えるのは連邦市民であり飛空艇乗りの義務ですもの!』
そうして僕らは、353便が消えた謎の空域に向かって飛んでいきました。