パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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クレインフライ飛空353便エンジン故障事故⑧:援軍

 

 

○ゴンベー=ジョン=チャンスミスリー(カカナ連邦 海洋大気観測会社『カオティックブルー』社員。副操縦士)

 

 

『キヨタ・コントロール、カオティックブルー、問題の領域を発見しました』

 

 僕は管制に連絡を入れ、通信魔法がまだ使えることを確認しました。

 

『すごいすごい! 反応波形が複合生成物に特有の形をしてます!』

 

 機体最後部からエヌエヌの大はしゃぎな声があがり、機内のテンションを一段階上げました。

 

『光魔法観測ゴーレムの探査パターンを28までセットして順次探査! 解析します! 出来るだけ"これ"に近付くようお願いします!』

『可愛い声でめちゃくちゃ言ってるよあの子、まあ近付くんだけどさ』

 

 ブルーはエヌエヌからの無邪気で危険な要求通り、探知画面に広がる謎の領域へさらに接近しました。

 

 僕らの飛空艇カオティックブルー号は学術調査用の各種解析ゴーレムと、軍用の対空探知ゴーレムを備えていました。元々は軍の飛空艇だったので、旅客機と違って色々な装備を積めました。

 そのおかげで、例の謎の領域はすぐ見付かりました。

 なにしろ対空探知の画面に、真っ白な部分が広がってたんですから。

 

『その白い部分が、探知魔法を妨害している領域だ。縦横に大きく立体的に広がっている。中の状態は入らない限り分からない』

 

 対空探知ゴーレムを管理しているフレッドが言いました。

 

『謎の物質は領域内で濃淡が見られる。その薄い箇所から侵入すれば比較的安全だろう。あくまで比較的だが』

『中に入ったらどうなるかは、入るまで分からないってこと?』

 

 僕の質問に、フレッドが、髪の毛の無い顔をしかめながら頷きました。そんなフレッドにブルーは、

 

『私達の仕事は、クレインフライの捜索だよ。道案内してあげなきゃだから、マッピングしたい。できる?』

『この機の対空探知ゴーレムは立体的な探知にそれほど強くない』

『対空なのに?』

『旧式だからな。地図を作りたいのなら、エヌエヌの解析ゴーレム群の力が要る』

『エヌエヌどう?』

『はい! 出来ます! こっちのゴーレムのデータをフレッドさんの航法ゴーレムに渡すよう設定してますから、立体地図を作れます! 前にもハリケーンでやったことあります!』

 

 終始テンションが高いエヌエヌの返答に全員が頷き、

 

『キヨタ・コントロール、カオティックブルー、これより問題の領域に突入。クレインフライ353を捜索します』

『カオティックブルー、了解。幸運を』

 

 僕が通信を終えると、ブルーは手早く指示を出しました。

 

『ゴンベー、機内環境独立モード。空気生成器を起動、マスク装着。みんなもね』

『了解、ブルー』

『フレッド、エンジンを対汚染空域モード。色々と吸い込むと思うから注意』

『了解』

『エヌエヌ、あんたが要だよ。探知を最優先。解析は帰ってからゆっくりやろう』

『アイサー』

 

 そして楽しげにスロットルレバーを押し上げました。

 

『じゃ、いきますか』

 

 僕らは頷きました。

 

 カオティックブルー号が推力をあげて加速します。

 

 ジェットエンジンで回される二重反転プロペラを4基そなえた大型後退翼は、フルパワーを出せば音の速さにさえ近付くことが出来ます。かつて存在した北大陸技術軍事連盟が作った、世界最速のプロペラ飛空艇です。それでいてどんな悪天候でも飛べる頑丈さがあって、とても信頼できる機体です。

(まぁそうでなかったら今頃死んでますからね、と彼は笑った)

 

『ボス、針路を23度。そこが一番薄い』

『了解。針路を23度』

 

 航法士のフレッドが行き先を指示して、ブルーがそれに合わせて機体を操ります。

 白い領域の中に入りました。

 その途端、機体が振動して、操縦室の窓から赤い光の群れが流れるのを見ました。カオティックブルー号は正体不明の粒子に包まれました。

 

『きれいだ』

 

 僕は呟きながら、計器を監視しました。

 速度が遅くなっていて、針路が横に流されてるのが分かりました。

 

『ブルー、針路がずれてる。機首方位を23度に』

『やってくれるね、23度に修正』

 

 機体は不安定な気流のせいで横滑りを起こしていて、素直に真っ直ぐ進めませんでした。

 

『フレッド、濃度の薄い場所を一通り進むから、コース指示頼むよ』

『了解。ボス、針路を60度に』

『了解! 針路60度!』

『フレッドさん! 縦方向の濃度分布図が出ました! そっちに送ります!』

『感謝する。ボス、高度を8,300フィートに。針路そのまま』

『了解、高度を8,300。ゴンベー、通信、クレインフライ353に』

『了解…………クレインフライ353、こちらカオティックブルー、応答されたし、クレインフライ353、こちらカオティックブルー』

 

 僕は通信魔導器具を使い、クレインフライ353に呼びかけました。

 予想してた通り、応答はありませんでした。

 

『やっぱり魔法が邪魔されてる。ブルー、通信魔法の出力あげたい』

『フレッド?』

『エンジン出力に余裕はある。大丈夫だ』

『オッケー、ゴンベー、許可する』

『了解』

 

 通信魔法器具をいじり、エンジンパワーの一部をさらに魔力に変えて出力を上げました。

 

『クレインフライ353、こちらカオティックブルー、応答されたし、クレインフライ353、こちらカオティックブルー』

 

 通信魔法にパワーを取られたので、推力が下がりました。機体が気流に流されます。ブルーはそれでも巧みに機体を操って、赤い光が薄い中を飛びました。4基のターボプロップエンジンは劣悪な風の中でもパワフルに働いて、立体図の作成を助けました。

 

 そうやって粘り強く飛んでいるとき、通信魔導器具の受信ランプが点灯したんです。

 

『………こちらクレインフライ353! 聞こえますか!?』

 

 雑音混じりの応答に、ヒューッとブルーが口笛を吹きました。

 僕も応答があって驚きました。

 

『クレインフライ353、こちらカオティックブルー、エデ帝国飛空局から捜索依頼を受けてやって来ました。状況を教えてください』

『感謝します。エンジンが2基とも停止、乗客は385名、乗員8名、火災および怪我人なし』

『……確認します、エンジンは2つ全部が止まったんですか?』

『そうです! 全エンジン停止! 外部の正体不明物質を吸い込んだせいだと思います!』

『了解です。全エンジン停止。乗客は385名、乗員8名、火災けが人なし』

 

 その時、航法士席のフレッドが僕の肩を叩きました。

 

『ゴン、トランスポンダを受信した。クレインフライ353のゴーレムからだ。向こうの位置が分かる』

『マジですか?』

『この近距離だから捕捉できた。魔導灯台や魔導衛星との通信は不可能だ。

 だから発信されている位置情報はおそらく353の航法ゴーレムの自律計算によるものだろう。外部からの補足情報が無い。どこまで正確かは分からん。

 だが、向こうから見て機首方位260、高度8,100フィート以下なら濃度がかなり低い。おそらく領域の切れ目だ』

『領域から出られるってことですか?』

『我々のマッピングの精度による。検証している時間も手段も無い。伝えるかどうかは、機長と副操縦士に任せる』

 

 僕はブルーを見ました。

 ブルーは僕の目をその色違いの碧眼で見て、微笑みました。

 この謎の場所に突入したときの子供みたいな無邪気な顔とは正反対の、穏やかで優しい澄んだ笑みでした。

 そんなブルーが通信器具を指さしたので、僕は通話をブルーに委ねました。 

 

『クレインフライ353、こちらカオティックブルー機長です』

 

 驚くほど清冽な声が、ブルーの口から流れました。

 

『貴機のトランスポンダを受信しました。また当機の観測ゴーレムにより、不明領域の暫定的な立体地図を作成しました。これにより貴機を低濃度の空域まで誘導することが出来ます。しかし』

 

 ブルーはそこで一息つき、

 

『当機の作成した立体地図は精度の保証がなされておりません。そのため安全および確実性を担保できるものではありません。

 誘導支援の決断はクレインフライ353に委ねられます』

『………こちらクレインフライ353便の機長です』

 

 向こうも通信相手が変わりました。機長同士の会話になりました。

 

『エンジンを再始動するためにはこの不明領域を脱出するしか方法がありません。そして当機にはそれを行う手段がありません。353便の機長として、誘導支援を要請します』

『カオティックブルー、了解しました、全力でサポートします』

 

 ブルーは僕に指で指示し、僕は通信を再び変わりました。

 

『クレインフライ353、機首方位260、高度8,100フィート以下に濃度の薄い空域があります』

『カオティックブルー、機首方位260、高度8,100フィート以下、クレインフライ353了解』

 

 こうして、不明領域からの脱出劇が始まりました。

 

 

 

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