パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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クレインフライ飛空353便エンジン故障事故⑩:アプローチ

 

 

 

○ロック=ダイアクラブ(クレインフライ飛空353便 副操縦士(当時))の証言

 

 

『……この機体の対地接近ゴーレムが強化型で助かった。さっきのはゴジンカ山だろう、オン島の。なだらかさとは無縁の厳しい山だ』

 

 10,000フィートまで上昇し、私が管制官との通信を終えると、機長が言いました。

 

『まさに峻峰で、平らなところからいきなり絶壁が突き出てるような形をしている。下方向だけを見る旧式の対地接近ゴーレムでは、目の前にいきなり現れる斜面に対応できない』

 

 飛空艇が向かう先に急な山や丘がある場合、地形情報と魔導衛星の航法支援により危険を警告してくれるのが、強化型の対地接近ゴーレムです。

 

『詳しいですね、エデの山なのに』

『祖父がエデ人でね。山登りが好きな人で、よく話していた。私も昔、息子と一緒に登った。こんな形でまた来るとは思わなかったが』

『土産話にしましょう、息子さんへの』

 

 私は生還の意志と希望をこめてそう言ったのですが、機長はゆっくり首を振りました。

 

『もういないんだ。ちょうど一年前に死んだ』

『……すみません、そうと知らず』

『気にしないでくれ。君の言う通り、土産話にしよう』

 

 その時、通信魔導器具が鳴り出しました。

 

『――――――クレインフライ353、こちらカオティックブルー、応答できますか?』

 

 あの清らかな女性機長の声でした。

 私ははっとなって通信に出ました。

 

『カオティックブルー、こちらクレインフライ353、無事でしたか!』

『クレインフライ353、良かった。不明領域の入り組んだ場所に入ってしまい、今度はこちらが通信不能になりました。先ほど脱出に成功しました。貴機の無事が確認できて嬉しいです』

『こちらもです。当機はエンジンの再始動に成功し、管制との通信が回復しました。現在、フンド空港へ向かい緊急着陸の予定』

『クレインフライ353、了解しました。当機は貴機の後方4カイリ、高度16,000フィートの位置です。またトランスポンダ及び対空探知ゴーレムで貴機の位置は把握しております』

 

 私はその装備に驚きました。

 この時はカオティックブルー号がどういった飛空艇なのか知らなかったので、まるで軍用機並の装備に心強さを憶えました。

 

 そんな私に、機長が自分の通話マイクを指さしました。

 代わるという合図です。私は頷きました。

 

『カオティックブルー、こちらクレインフライ353、貴機のサポートに感謝します。この上でさらにお願いしたいことがあるのですが大丈夫でしょうか?』

『クレインフライ353、どのような内容でしょう?』

『カオティックブルー、当機の前方へ先行し、気象状態を確認して頂きたい。針路の安全を確かめたいのです』

 

 機長の要請はもっともでした。

 窮地を脱したとは言え、今の機体にどれだけのダメージがあるのかまだ分かりません。

 先に行ってもらい、確実性を高めたいと思うのは当然でした。

 ただカオティックブルー号もあの謎の領域に巻き込まれたので、あちらもダメージを負っていることは考えられました。

 

『クレインフライ353、了解しました』

 

 が、カオティックブルー号の女性機長は柔和な声で引き受けてくれました。

 

『クレインフライ353、当機は現在の高度16,000フィートを維持したまま貴機を追い越します。貴機は現在の速度と高度を維持してください。

 追い越しましたら貴機の1,000フィート上空まで降下しそれを維持します。当機が高度を変える際に連絡致します』

『カオティックブルー、当機は現在の速度と高度を維持、クレインフライ353了解。感謝します。管制官への報告は当機が行います』

『クレインフライ353、貴機のタスクを増やすわけにはいきません。当機は貴機の捜索依頼を受けておりますので、当機が報告を行います。報告が終わりましたら同じく連絡致します』

『カオティックブルー、何から何まで感謝します』

『クレインフライ353、メーデーに応えるのは飛空艇乗りの義務です』

 

 爽やかに柔らかく、カオティックブルー号はいったん通信を終えました。

 そして3分もしないうちに再び通信が来ました。

 

『クレインフライ353、こちらカオティックブルー、管制への報告を行いました。また当機は貴機を通過し前方4カイリの位置に進出、これより降下を開始します』

『カオティックブルー、こちらクレインフライ353、了解しました。ありがとう』

 

 ……余談になりますが、この時の私は、カオティックブルー号がターボプロップ機、つまりジェットエンジンでプロペラを回す飛空艇だと知りませんでした。

 知っていればもっと驚いたはずです。

 なにせその時の私達の353便は250ノット(時速460キロ)ほどで飛んでいたのですが、それを3分未満で飛び越えてさらに4カイリ(7.4キロ)前方に進出したと言うことは、カオティックブルー号は420ノット(時速770キロ)以上を出していたのです。

 ジェット飛空艇の速力に肉薄します。プロペラ飛空艇でカオティックブルー号より早い飛空艇は存在しないでしょう。

 

『よし、ランディングブリーフィングを行おう』

『了解です』

 

 巡航姿勢から降下を開始する前の儀式を、私達は進めました。

 フンド空港周辺の気象情報や滑走路情報、進入経路、緊急事態が起きて滑走路に着陸できない場合の操作、フンド空港そのものが無理な場合の代替空港とそこへのルートの相談、スピードブレーキや着陸ギアの点検等々。

 それらを問題なく終え、私は管制官へ降下の許可を求めました。

 

『キヨタ・コントロール、こちらクレインフライ353、降下の許可を求めます』

『クレインフライ353、降下を許可。以後はフンド・アプローチと交信してくれ。無事を祈る』

 

 許可をもらった飛空艇の自動操縦ゴーレムが、計画通りに降下を開始しました。

 

 その頃には機長と私は353便の自動操縦ゴーレムに問題がないことを確認できていました。

 ずっと異常事態と格闘していた機長の疲労を考えると、自動操縦ゴーレムが使えるのはとても助かりました。

 

『クレインフライ353、こちらフンド・アプローチ、針路340へ。誘導目標は滑走路34R魔導誘導への最終進入コース。降下して6,000フィートを維持してください』

 

 私達が自動操縦ゴーレムを監視しながら降下を見守っていると、フンドの管制官から指示が来ました。

 

『フンド・アプローチ、針路340、6,000フィートに降下、滑走路34R魔導誘導、クレインフライ353了解』

 

 そしてついに、暗闇だらけだった窓の外に、煌々とした灯りの町並みが見えてきました。

 エデ帝国最大都市オーエデです(※帝都ではない)

 その玄関口であるフンド国際空港は海上の埋め立て地に作られ、周囲の建物に埋もれることはありません。

 滑走路も非常に明るく、容易に視認できました。

 

『クレインフライ353、降下して3,000フィートを維持。滑走路34R魔導誘導への進入を許可します』

『フンド・アプローチ、3,000フィートに降下、滑走路34R魔導誘導への進入を許可、クレインフライ353了解』

『クレインフライ353、誘導魔法ローカライザーの範囲内に入りました。フンド・タワーとの通信に切り替えて下さい』

『フンド・アプローチ、フンド・タワーと通信します、クレインフライ353』

 

 滑走路と正対し、着陸の許可がおりました。

 空港まで、あと14カイリ(26キロ)

 ついに地上に降りるときが来ました。

 

 

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