パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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クレインフライ飛空353便エンジン故障事故⑮:不死鳥狩り

○ミリィ=セレネイド(カカナ連邦 連邦飛空局。フェニックス捕捉計画"不死鳥狩り"参加者。魔術師)の証言

 

 

 不死鳥を捕捉する計画は、各国の魔術師が協力した国際プロジェクトになりました。

 通称"不死鳥狩り"計画。

 クレインフライ飛空353便から回収された不死鳥の体表物により、不死鳥を見付ける探知魔法の開発に成功。

 また不死鳥除け魔法と、それを放つ飛空艇搭載ゴーレムの開発も無事に完了しました。

 私達はフェニックスを追いかけ、発見し、そしてある場所に追い詰めることにしました。

 セントラル海の、最も空路から離れた無人島に、あの不死鳥を追い込む計画です。

 

 ただこのプランには反対も多かったです。事故調査委員会のバルタザーレさんでさえ反対しました。

 

『空軍は不死鳥を駆逐したがっている。空の安全を考えると、私も彼らの意見に賛同せざるを得ない』

 

 私は反論しました。

 

『不死鳥は確かに生きた火山です。危険な生き物ですが、現代魔導で相手しきれないほどではありません』

『と言うと?』

『たとえば嵐の中に棲む雲竜とかは発見が難しすぎて未だに探知魔法も作れてません(※対雲竜探知ゴーレムが開発されるのは"不死鳥狩り"計画の3年後)が、フェニックスは違います。千年以上も眠っていたせいで資料がないだけで、353便がサンプルを大量に持ってきてくれました。

 そして不死鳥は353便を、現代魔導の飛空艇を落とせませんでした。現代魔導は不死鳥に負けたりしません』

『不死鳥が複数いる可能性は?』

『伝承に寄れば不死鳥は創造神によって1体だけ造られたとあります。死から再生することを許されたため、つがいを作ることも子供を産むこともない生き物として創造されたと』

『それを信じるのか?』

『もちろん他にいるかどうか探します、探知魔法が上手く機能すればですが。なんにせよ全ては探知魔法と不死鳥除け魔法が実際に効くのかにかかってます。捕まえるにしても殺すにしても』

『そもそも、フェニックスはどうして353便を襲ったんだ?』

 

 バルタザーレさんは尋ねました。

 私は『推論でしかないんですが』と前置きして、

 

『飛空艇が誕生したのはここ100年ぐらいです。つまりフェニックスが前に生きていた時代にはいませんでした。

 蘇って初めて目にする、自分と同等以上の空を飛ぶ見知らぬ何か。

 だからちょっかいを掛けてみたんじゃないですかね』

『ちょっかいというレベルじゃないぞ』

『疑似噴火を浴びせればどうなるのか、様子を見たんだと思います。

 で、二度も浴びせたけど、弱りはするけど落ちはしない。どうしようかと様子を見ているうちに、大きな巣らしきものに入ろうとしてる。

 反撃してこないし多分見付かってないから、最後にもう一度浴びせて海に落としてやろうとして空港に近付いたとき、他の飛ぶのから攻撃を受けて、慌てて逃げた。そんな感じに見えました』

『反撃能力がないので遊んでいた、という解釈か』

『対策を講じれば御せる相手なんです。飛空艇はフェニックスより強いと思わせないといけません』

 

 それに、と私は言いました。

 

『伝承に寄れば不死鳥の血は、万病を癒やす霊薬と言われています。

 これについてはかなりの数の記録を神殿が持っていました。古代では王と神殿がこれを独占して、時には国と国が争うこともあったそうです。

 この計画の最大の目的は、それが本当かを確かめることです』

『あの危険な生き物も、役に立つかも知れないと?』

『そうです。殺すより生かしておいた方がお得かもしれないんです』

『だがどうやって血を取る? 眠りの魔法が効くのか?』

『睡眠の魔法は効き目が相手の大きさに反比例しますし、それ以外でもいろいろ条件があるので使い勝手が悪いんです。

 なので古の作法に則ることにしました』

『作法?』

 

 私は答えました。

 

 

『神事の狩人を遣わすのです』

 

 

 

 

○モトタカ=ウラベ(四魔協 (四大陸魔剣士協会) エデ大陸王者。フェニックス捕捉計画"不死鳥狩り"参加者。魔剣士)の証言

 

 

 その島はポツ島という現地での名前があるのですが、通称であるフェニックスネストの方が一般的な名前になりました。

 もちろん、"不死鳥狩り"の後の話です。

 

 私はあの時、そのフェニックスネストにいました。

 

 白の浄衣を羽織り、立烏帽子を被りました。そうです、狩衣と指貫の袴です。エデではお馴染みの、神事の格好です。

 私はその礼装で、神に奉る祝い言葉を唱えながら、不死鳥を待っていました。

 

 

 魔術師たちの探知や不死鳥除け魔法は、見事にその役目を果たしました。

 飛空艇が探知ゴーレムでフェニックスを見付け、不死鳥除け魔法があの火の鳥をポツ島まで追い立てました。

 そして先回りしていた別の飛空艇チームが、不死鳥除け魔法を使ってポツ島の先に行かせないようにします。

 不死鳥はやむなくポツ島に降り立ち、最も高い山の頂きで羽を休めました。

 私は祝い言葉を唱え終え、最後に天にまします雷神へ捧げの儀を執り行うを申し上げ、歩き始めました。

 不死鳥の降り立つ山頂へ。

 

 

 

 

 

○ミリィ=セレネイド(カカナ連邦 連邦飛空局。フェニックス捕捉計画"不死鳥狩り"参加者。魔術師)の証言

 

 

 不死鳥の血を採る儀式は、それぞれの神殿で定められています。

 不思議なことに、不死鳥の探し方は残っていないのに、不死鳥を狩る手順は残されてるんです。

 まるで探す方法を残しても意味がないかのように。

 これには一応仮説があって、死んで蘇った不死鳥は死ぬ前とは違う生き物になって、探知魔法が効かなくなるという説です。

 (まぁ確認のしようがないんですけど、と彼女は苦笑)

 

 とにかく伝承では、不死鳥は神々が人間に下賜した恵みの生き物で、神官の狩人はそれを感謝し、不死鳥を狩るとき神々へ奉納の儀式を執り行う習わしです。

 今回は、稲妻の神ティーシャクーティンを祀る、エデ帝国カトリシマ流の神官であるモトタカ=ウラベさんに儀式を担って頂きました。

 

 ウラベさんは不死鳥が島に降り立つのと同時に、山の中に入りました。

 不死鳥のいる山に足を踏み入れて良いのは神官だけです。

 そしてカトリシマ流ではひとりで役目を果たさなくてはなりません。

 私達は飛空艇で島の上空から、撮影魔法でその様子を記録しました。

 

 フェニックスのいる山頂は岩と草ばかりで、低木ひとつ生えていません。

 不死鳥は赤く燃える体を岩場に横たえていました。

 そこに白い神官服を来たウラベさんが近付きます。

 腰には純白の一振りの魔剣。

 彼はフェニックスからは見えないと思われる位置から、ゆっくり近付きました。

 

 ……ふと不死鳥が、その頭をもたげました。何かに気付いたように。

 

 ウラベさんは動きを止めました。

 不死鳥は体を横たえたまま、あたりをぐるりと見回しました。

 そしてひとしきり周囲を見て、また頭を下げて脱力しました。

 ウラベさんが再び近付きました。

 そうこうしているうちに、30メートルそこらまで近付いたときでした。

 

 不死鳥が、いきなり大きく翼を広げたんです。

 

 不死鳥の全身が真っ赤に燃え上がったと思った直後。

 山が、噴火しました。

 

『っ!?』

 

 紅色のマグマと真っ黒な噴煙、そして橙色の稲妻が、火山ではない山頂から噴き上がりました。

 山頂とその周囲を一気に飲み込み、一拍遅れて轟音が空中の飛空艇を揺さぶりました。フェニックスが体表物を全方向に放出したんです。

 クレインフライ飛空353便を墜落させかけた、不死鳥による疑似噴火でした。

 カメラに映った全てが、夥しい橙と黒の世界に染め上げられ、何も見えなくなったと思いました。

 が、その刹那の後に。

 

 

 

 ―――――――――――純白の雷霆が、その世界を引き裂きました。

 

 

 

 あまりに眩い閃光。白雷だ、と誰かが呟きました。ウラベさんの奥義。

 思わず目を瞑りました。

 その次にやってきたのはお腹の底を鷲掴みにされたみたいな爆音と轟音、そして、

 

 

 

 キャケェキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!

 

 

 

 絶叫。

 

 強烈な悲鳴に、誰もが耳を塞ぎました。

 長い長い叫びがようやく終わる頃、疑似噴火で隠れていた山頂の様子が見えてきました。

 

 そこには、噴出物に覆われた山頂に、翼を広げながら倒れ込むフェニックスと、

 その翼の根元にぱっくりと大きな斬り傷を作った、ウラベさんがいました。

 

 彼の魔剣は傷口に差し込まれ、痙攣する不死鳥の血と肉を吸い上げていました。

 私達は喜びに沸き立ちました。

 

 

 

 儀式が成功したんです。

 

 

 

 

 

 

○モトタカ=ウラベ(四魔協 (四大陸魔剣士協会) エデ大陸王者。フェニックス捕捉計画"不死鳥狩り"参加者。魔剣士)の証言

 

 

 我が奥義"白雷"を神に捧げ、不死鳥狩りは成功しました。

 

 あれ以来、不死鳥はフェニックスネストに閉じこもっています。死んではいません。カカナ連邦軍の専門部隊が24時間体制で監視し、島から飛び出た場合は不死鳥除け魔法で再び島へ追い返すことになっていますが、今のところそういったことは起きていません。

 私の一太刀が不死鳥の心に傷を付けたとも言われていますが、そこは私には分かりません。

 

 私の魔剣が吸い上げた不死鳥の血肉は、幾たびの解析や実験により、治療薬としての特効があることが判明しました。今まで治療不能とされた難病にも効くことが分かったのです。伝承は本当でした。

 今は亡きユーオーク機長の恩に報いることが出来て、本当に嬉しく思っています。

 

 私が不死鳥を狩るところは、全世界に放映されました。

 故郷の人々はこの勲功に殊の外喜んでくれて、魔剣闘技の世界王者を逃した汚名を雪ぐことが叶いました。

 気恥ずかしいですが、ファンレターもたくさん来ました。エデだけでなく、世界中から。

 ……その中に、やけに長い手紙がありました。

 差出人の名前を見て、少なからず動揺しました。

 リナ=シャブラニグドゥスからでした。

 そこには、今回の不死鳥狩りへの賛辞が惜しまず綴られていました。

 

 

《不死鳥を狩ったところを拝見しました。素晴らしい業前でした》

《不死鳥が噴火の技を出す前に、あらかじめ防壁の魔法を張っていたこと、そして噴火が起きた際に最も噴流の力が薄いところを見極め、最小限の防壁魔法で済ませた慧眼はお見事でした》

《必要最小限に魔力を節約した後、奥義の白雷に全ての魔力を注ぎ噴流を断ち割ったのは感動しかありません》

《そして白雷が道を切り開いた瞬間、防壁の魔法を高速移動の魔法に変え、不死鳥の懐に飛び込み手傷を負わせた一連の動きはまさに疾風迅雷でした》

《お見事としか言い様がありません》

 

 

 記録装置越しの映像で、よくこれだけ分かったものだと呆れました。

 あの紅い眸には何が見えているのか。

 シャブラニグドゥスは手紙の中で私と奥義を褒めちぎりましたが、その最後の部分で、私は手に力を込めてしまいました。

 

 

《……幾多の魔剣士を破ってきた白雷は、不死鳥相手でも敵ではありませんでした。雷神に捧げるに相応しい奥義です》

《私もセントラル島でそれを間近に見る栄誉を与えられました》

《とてもきれいでした》

 

 

 私は震えました。

 憤怒でです。

 その神に捧げるべき奥義を、真っ正面から斬り破ったのは誰だと思っているのか。

 この数々の賛辞が煽りや皮肉に思えてなりませんでした。

 そうやって褒めそやすほど、それに勝ったシャブラニグドゥス自身の価値を上げているのだと。

 

 思わず手紙を引き千切ってやろうと思いましたが、締めの文章で、その手を止めました。

 

 

《ウラベさんの技は前カカナ大陸王者と遜色ないきれいな技ばかりで、それは他の大陸王者も同様でした》

《みなさんみんなきれいでした》

《また間近で見たいというのが、私の正直な願いです。そしてその美しい技で斬られる名誉を私に頂けるのであれば、それ以上の幸せはありません》

《私はその名誉を生涯大切にいたします》

《魔剣闘技で再びお目にかかれる日を、いつまでも待っております》

《リナ=シャブラニグドゥスより》

 

 

『………変な奴だ』

 

 最後の部分だけ、まるで童女が神様に必死でお願いをしているような、心に留めるものがありました。

 

『言われずとも会いにいくさ。首を洗って待っていろ』

 

 私はすぐに修行をし直しました。

 不死鳥の血を浴びずとも、私の心は蘇っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(※不死鳥由来の特効薬により治療法が確立し、55の難病が治療可能となった。

 

 その中には、ユーオーク機長の子息が罹患していた病も含まれる)

 

 

 

 

 

 

 

 

(完)

 







お読みいただきありがとうございます。

今回のエピソードは、
LAMモザンビーク航空470便墜落事故+英国航空9便エンジン故障事故をベースにし、
そこに色々な事故の要素をちょい足しした生存回です。

そう、初の生存回です。
物凄く長くなりました…
今までのエピソードが1事故につき平均2万6000字だったのですが、今回のはなんと5万4000字!
今回のを読んでいる間に2エピソード読み終えてることになります。どうしてこんなことに…。

この作品を書き始めてからずっと「有能機長の生存回が読みたい」というお声がかなりありまして、
確かに自分も生存回は大好きですが、作者より頭の良いキャラを作れるのかという問題に直面し尻込みをしていました。

が、いい加減ブラック航空会社の度し難いインシデントを出し続けるのも心が折れそうでしたので、一念発起でこの生存回に挑んでみました。
特に原典(?)でも鬱回と名高い操縦室立てこもり自殺をファンタジーの力でどうにか回避できないかと試行錯誤し、再生の象徴である火の鳥をお呼びしました。
誰かのために頑張ったことが別の誰かを助けて、それがまた別の誰かを救う、みたいなお話が好きなのです。




今回のエピソードは、今まで集めた資料をあちこちひっくり返して四苦八苦しながら書きました。
墜落させるのは簡単ですが、きちんと飛ぶことを描写するのは物凄い大変だと改めて実感しました。航空小説ものがそもそも少ない理由が分かりました…MSFS2020がなければ書き切れなかったでしょう。Microsoftに感謝です。

あと最初のプロットではストームハンターの出番はなかったのですが、
実際に書いているうちに不死鳥ストライクが想像以上に困難な状況になっていたので、急遽援軍として投入しました。
90年代のライトノベルみたいな連中であきらかに出る作品を間違えていますが、そもそものハリケーンハンターもそうなので気にしない方向でお願い致します。





今回は本当に書き切るのが大変でしたが、皆様のご期待に添えるものが出来ていれば幸いです。
ネタが思いつくまでまたしばらく充電期間に入りますが、皆様のご健康をお祈りいたします。
原典も新シーズンが楽しみです。B737MAX回が早く見たいです。


それでは、良い一日を。

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