パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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 注意!!


 今回のエピソードは飛空艇事故ではありません!
 今回のエピソードは飛空艇事故ではありません!
 今回のエピソードは飛空艇事故ではありません!



 今回のエピソードは飛空艇事故というより犯罪事件解決ドキュメンタリーめいたものになっており、かなり毛色が異なります。
 いつもは民間事件の捜査をしている刑事ドラマが、年末のスペシャル編でテロリストと戦いを繰り広げてしまうのと大体同じです。事故調査を期待されていた方には大変申し訳ありません。

 全てはハロウィンの被り物をした某ハイジャッカーを映画館で見たのが悪いのです…


 またハイジャックは犯罪であり、それを示唆する意図は一切ありません。




 航空事故ではありませんが、どうか寛大なお心でお付き合い頂ければ幸いです。どうか…



セルトリア飛空2112便ハイジャック事件(年末特別エピソード)
セルトリア飛空2112便ハイジャック事件①:事件直前


 

 

 

※※※※

 

 

 注意!!

 

 当エピソードは年末特別企画として放送された特殊回です。

 飛空艇事故調査ではありません。

 

 そのため通常のナンバリングエピソードには含まれず、各種円盤の映像特典としてのみご覧頂けます。

 

 

※※※※

 

 

 

・アントニオ=ベルナルディ

 (ソルン共和国 ソルン市警刑事部 特殊事件課 突入救助班 教導係。突入教官。警部。

  四魔協 ムヒュルム大陸王者。魔剣士)

 

 

 

・ダニエラ=チェルヴィ(ソルン共和国 セルトリア飛空2112便 客室乗務員)

 

・マルコ=スペンサー(ソルン共和国 セルトリア飛空2112便 機長)

 

 

 

・ソフィア=アレクサンドロヴナ=フラトコフ(ルンスール帝国 四魔協 ジーニキリー大陸王者。魔剣士)

 

 

・ミリィ=セレネイド(カカナ連邦 連邦飛空局 空獣害防除課。国家魔術師)

 

 

 

・ニコレッタ=ネロ(ソルン共和国 ソルンジャーナル。記者)

 

 

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 セルトリア飛空2112便ハイジャック事件

 (年末特別エピソード)

 

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時期:22021年の秋

便名:セルトリア飛空2112便

機種:ペネロピー号(双発ジェット飛空艇)

場所:ソルン共和国(ムヒュルム大陸)

出発地  :ルッル空港(ソルン共和国)

到着予定地:サウスタウン空港(カカナ連邦)

 

乗客数:47名(ハイジャック犯ふくむ)

乗員数:7名

 

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○ダニエラ=チェルヴィ(セルトリア飛空2112便 客室乗務員(当時))の証言

 

 弊社の2112便は、南のムヒュルム大陸から東のカカナ大陸へ向かう便でした。

 

 ムヒュルム大陸のソルン共和国ルッル空港を朝に出発し、カカナ連邦サウスタウンへ着陸する短距離国際便です。

 弊社はソルンの飛空会社ですが、お客様の多くはカカナ連邦人でした。

 休暇シーズンというわけでもないですので、お仕事で弊社を利用される方々ばかりでした。

 御用を終えて帰国しようという、のんびりとした空気がありました。そういった方々にサービスを提供して充分くつろいでいただくのが、私の仕事であり、私の好きな時間です。

 

 

 ……ただ、今になって思えば不思議なお客様がいらっしゃいました。

 ビジネスクラスの席に、翼人のお客様が4名いらっしゃったのです。

 

 

 翼人はカカナ連邦の少数民族で、他の大陸にはおりません。

 私もそのとき初めて翼人を目にしました。

 背中の大きな翼は、確かにビジネスクラス以上の座席でないと不便そうでした。

 (翼人の方々の民族衣装は独特の構造で、背中の翼を邪魔しない作りになっていまして、当時はそのことに感心しておりました、と彼女は言った)

 

 我々も翼人の方々にサービスを行うのは初めてでしたので、特に気にしておりました。

 

『お飲み物はいかがですか? ワインは赤、白、ロゼ、フォーティファイド、スパークリングからお選びできます』

 

 と尋ねましたが、

 

『いや結構。注文はないので放っておいて頂きたい』

 

 と仰って、それ以上何もご用命はありませんでした。

 お客様自身がそう仰るので、私は差し出がましくするのもどうかと思い、他のお客様のお世話を行いました。

 

 

 

 

 

 

 ビジネスクラスでの仕事が一通り終わった頃、後部ギャレーに用事があり、機体の最後部へ行ったときでした。

 同僚のモニカが、トイレに20分以上も籠もっているお客様がいらっしゃると言うのです。

 

『病気かしら?』

『ハイジャックかも……』

 

 まだ新人のモニカは、研修でハイジャック、竜人語で言う飛空艇強奪事件のことを教えられたばかりで不安がっていました。

 まさか、と私は思いながら、閉ざされたトイレのドアをノックしました。

 

『お客様、大丈夫ですか?』

 

 返事はありませんでした。

 しかし確かに中で何かごそごそとしている気配があります。

 私は心配になり、

 

『お客様?』

 

 さらに声を掛けましたが、やはり返事はありませんでした。

 どうしようかと思っていた、そのとき。

 

『……いかがしました?』

 

 ずいぶんと抑揚のない、けど聞き心地の良い声がやってきて、そちらに振り返りました。

 

 ――――――びっくりするくらい綺麗な銀髪をした、やはり綺麗なお顔の女の子が立っていました。

 

『申し訳ありません、お客様。こちらは他のお客様がお使いになられておりますので、奥の別の化粧室をお使い下さい。その際、近くのエアステアの操作装置にはお触れにならないようお願い致します』

 

 2112便の尾部にはエアステア、引き込み式の階段があり、着陸時にはそこから昇降できます。その展開装置は機内から操作できました。

 

 私はその子がトイレを使いたいのだと思いそう言ったのですが、その子は首を横に振り、

 

『私は排泄行為を行いません。それより』

 

 閉じられたトイレのドアに小さな手を添えて、その子は言いました。

 

『魔力感知なし。魔導器具の動作なし。脈拍数の上昇、呼吸回数上昇、体温やや低下……胃腸系の異常を検知。消化不良による下痢を確認。症状は軽度であり緊急着陸を要するものではありません。市販の胃腸薬投与を推奨します』

 

 淡々と流れ出る言葉の内容に私が驚いていると、

 

『……すみません、お腹の調子が悪くて、でも薬を持っていなくてどうしようかと思ってて』

 

 ドアの向こうから小さな、とても申し訳なさそうな声がして、私は胸をなで下ろしました。

 

『お座席までお薬をお持ちします、お飲み物もご一緒に。お座席の番号は分かりますか?』

 

 お客様への対応が無事に終わって、銀髪のその子にお礼を言いました。

 

『ありがとうございます。お客様のお手を煩わせ申し訳ありません』

『気にする必要はありません。私は当機サービスの対象外です』

『? あなたは……』

 

 表情のない顔で言うその子の雰囲気に普通でないものを感じていると、

 

『あ、いた!』

 

 別の声が私達に掛かってきました。見るとエコノミークラスの座席群から金髪の女性がこちらへ近寄ってきていました。

 

『だめじゃん私から離れちゃ。規定違反で怒られちゃうからさあ』

『申し訳ありません』

 

 どうやら銀髪の子の同伴者のようで、私はその子に助けられたことを慌てて弁解しました。

 すると金髪の女性は『あちゃ~』と顔を手で覆われました。

 

『無許可で人体解析したら駄目なんだって、まだカカナじゃないんだから。帰ったら師匠に報告しといてね』

『了解しました』

 

 失礼しました、とその女性は私に言って、ご自分の座席に戻られました。

 

 

 

 

 

 

 

○アントニオ=ベルナルディ(ソルン共和国 ソルン市警刑事部 特殊事件課 突入救助班 教導係。突入教官。ムヒュルム大陸王者。魔剣士)の証言

 

 

 ええ、僕は魔剣士をしていますが、警察で人質救出チームの教官もしてます。警察官です。いわゆる兼業魔剣士というやつですね。

 兼業をしてる魔剣士は大陸王者では僕だけですけど、南のムヒュルム大陸では珍しくありません。

 

 で、僕の住むソルン共和国には特殊強襲部隊っていう軍の立てこもり事件解決チームがいるんですが、それをソルン市警で真似したのが突入救助班です。

 僕はそのソルン市警の人質救出チームの教官で、隊員に座学レクチャーや実演、訓練を指導してます。

 実働部隊ではないので、僕のスケジュールは調整しやすいんですね。だから魔剣闘技との兼ね合いが出来ます。

 

 

 ……あの日も、本当は警察の仕事は休みのはずでした。

 その日は僕の試合があったんです。

 それも大陸王者同士の対戦でした。

 

 

 相手は世界ランク2位、北のジーニキリー大陸王者、ソフィア=フラトコフ殿です。

 ちなみに僕は世界ランク3位。

 大陸王者同士が魔剣を交えるのは前年の世界王者決定戦ぶりで、そのとき僕はシャブラニグドゥス殿としか戦えませんでした。

 (恥ずかしながら第1試合で彼女と戦って負けて意識不明になって、目覚めたときには大会が全て終わってたんです……と彼は苦笑)

 

 フラトコフ殿は風と冷却魔法の使い手で、その規模は歴代最大級です。

 あまりに魔法の規模が大きいものだから、彼女の試合はほぼ無観客試合になります。

 その試合前の会見で、フラトコフ殿は僕に言いました。

 

『リ……シャブラニグドゥスが最も再戦したい魔剣士と刃を交えることが出来て、光栄だ』

 

 プラチナブロンドの下の青い瞳が、とても冷たい視線で僕を見据えていました。

 フラトコフ殿ほどの美女に睨まれるのは非常に役得なのですが、コメントしづらい内容だったので大変あせりました。

 

『こちらこそ、セントラル島での不戦の無礼を詫びる機会を与えて下さり、感謝してます。あと、ランク下位の僕の故郷にわざわざ足を運んで頂いたことも』

『ジーニキリーの魔剣闘技場は殆ど街中にある。郊外にあるソルン市の闘技場は都合が良かった。何も気にせず全力を出せる……噂に名高い吸収反射の魔剣は、私の魔法も打ち破れるのか?』

『それは始まってからのお楽しみということで』

 

 内心での冷や汗をなんとか隠し、その会見はどうにか乗り切りました。

 

 

 

 

 

 

 会見も終わって、僕はオープンカフェで一息ついていました。

 市内名物の噴水広場前で、穏やかな雰囲気に癒やされているところでした。

 そこに、

 

『お隣よろしいですか?』

 

 と声を掛けてきたのは、ひとりの女性でした。

 ……その女性は、驚くほど真っ白な髪をしていました。ボブにカットした白髪をゆるくウェーブさせ、さらに病的なほど肌が白く、思わず人に化けた雪精かと思いました。

 

『ええ、もちろん』

 

 女性に相席を持ちかけられて断る不作法者ではないので、僕は了承して席を示しました。

 ハンチング帽とサングラスを身につけたその女性は、『ありがとうございます』と丁寧にお礼をして座りました。

 

『失礼ですが、ベルナルディ魔剣士ですよね。先の会見を見ました。大陸王者同士の試合なんて久しぶりでわくわくしてます』

 

 女性は席に着くなり、僕に朗らかに話しかけてきました。

 

『あなたみたいな魅力的な人にそう言ってもらえて光栄です。お名前は?』

『ソルンジャーナルのニコレッタ=ネロと申します。サングラスのままお話しすることを許していただけますか? 生まれつき目が光に弱くて』

『もちろん。とてもよく似合っています』

 

 この時期に記者が僕に取材するなんて珍しい、と思いました。

 

『今はどの記者も、大陸陸上の方で忙しいんじゃないですか?』

 

 その頃のソルン市では、ムヒュルム大陸の各国合同による陸上大会が開催されていて、街はそれで大盛り上がりでした。

 市の郊外に選手村も作っていて、彼ら相手の商売でソルン市は活気づいていました。

 おかげで無観客の魔剣闘技はあまり話題にされなかったんですが、まあ仕方ないですね。

 

『実はそうなんです。大陸王者同士が戦うのはセントラル島以来なのに、あんまりです』

『あなたは魔剣闘技の担当を?』

『はい、特にベルナルディ魔剣士は大陸王者で唯一の兼業魔剣士ですから。突入救助班なんて危険な仕事をしながら大陸最強の魔剣士になってる。とても魅力的です』

 

 ニコレッタを名乗る女性はにこにこと言いました。

 僕は悪い気分ではなかったですが、同時に複雑でもありました。

 

『僕はただの教官、指導係ですよ。実際に突入するのは生徒達ですし、指揮する隊長や副隊長も別にいます。本当に危険な仕事をしてるのは彼らです』

『ええ、ええ、もちろん存じてます。突入救助班は軍の特殊部隊の真似っこだなんて言う人たちもいますが、私はそうは思いません』

『真似して出来たのは本当です。それだけ、軍のその部隊、特殊強襲部隊は優秀なんです。残念ながら突入救助班とは実戦経験が違いすぎるし、ご存じかも知れませんが大陸陸上で事件があったら解決に当たるのはその特殊部隊です』

『警察ではなくて軍が担当するんですね』

『軍の特殊部隊は精鋭です。国家の威信が掛かってますから、最強戦力で最速の解決を望んでいるんです』

『ベルナルディ魔剣士でしたら軍にも負けないと思いますが?』

『魔剣士は戦争できません。それに私が現場に出る仕事をしてたら、緊急出動と待機命令のせいで試合が組めませんよ』

 

 そこまで話して、僕は『おっと時間だ』と席を立ちました。

 

『非常に心苦しいですが、試合の前に寄るところがあるので、失礼させてもらいます』

『ええ、お構いなく。今日の試合、楽しみにしています。ご武運を』

 

 白い髪の女性はにこにこ顔を崩すことなく、私に手を振ってくれました。

 

 

 

 

 

 

 その後、職場の訓練場に顔を出しました。

 新しく導入された階段ゴーレムの様子を見に行ったんです。

 

『あれ? 教官、試合じゃないんですか?』

 

 突入救助班員のルカが僕を見付けて聞いてきました。

 

『試合だよ、夜から。とびきりの美人とふたりっきりだ。自慢したくて顔出しに来たんだ』

『見ましたよ、会見。すっげえ美人にすっげえ睨まれてましたね』

『シャブラニグドゥス殿がいらんこと言うから……』

『あれでしょ? 教官って、世界王者が今一番戦いたい魔剣士第1位なんでしょ? 前に世界王者に名指しされててえらい話題になってましたよ?』

『シャブラニグドゥス殿は礼儀の話をしてるだけだ……こっちとしてはおっかなくてしょうがない魔剣士第1位なんだよ』

 

 あの魔王のようなシャブラニグドゥス殿を思い出して、僕は失禁を我慢しました。生徒の前ですからね。

 

『まぁ女性に名前を挙げられるというのはこの上ない名誉だし、そのおかげで今夜の試合は情熱的なものになること間違いない。羨ましいだろ?』

『雷神ティーシャクーティンよどうかこの優男に稲妻を降らせたまえ』

『で、あれか? 例の階段ゴーレムは』

 

 僕は話を変えて、訓練場の模擬ビルで人だかりを作っている班員たちを指さしました。

 ルカは頷き、

 

『ええ、ゴーレム開発部が自信満々に持ってきたんですけど、使い方を教えてくれないまま置いてったんで、さっき騒動になりかけました』

『またか。今度連中に会ったら、開発部のオフィスを25秒で制圧するって言ってやれ』

『もう言いました。で、今やっと階段ゴーレムが起動するとこです、ほら』

 

 ルカが指で示しました。

 人だかりの中央に置かれた高さ膝丈ほどのブロックが、するすると螺旋状に立ち上っていき、訓練用の模擬ビルの出窓へ引っ付くのが見えました。

 そして一瞬で螺旋階段の形状を取り、班員たちが『おおっ』と声を上げました。

 

『なるほど、あれは便利だ』

『あれも訓練コースに入れるんですか?』

『何度か試してからだな。まぁ試合の後でまた考えるさ』

 

 僕は一通り階段ゴーレムの様子を見て、訓練場を去ろうとしました。

 そこに、

 

『ベルナルディ警部? 試合じゃなかったんですか?』

 

 顔を出してきたのは、知人のダリオでした。

 彼は刑事部の国際捜査課に所属していて、僕ら特殊事件課に顔を出すのは珍しかったので、僕は首を捻りました。

 

『試合はこの後だ。すぐ移動する。ダリオこそどうしたんだ?』

『いやね、内務省の国際犯罪部が、デスフォッグの活動を検知したとかで、うちがあちこちの部署に警戒するよう言って回ってるんですよ』

『デスフォッグだって?』

 

 僕はその名前に眉をひそめました。

 

 デスフォッグは、国際的な過激派グループを支援するネットワーク組織です。

 彼ら自身は犯行をせず、あくまで活動をしたい違法グループへ資金や資材、人員や情報の援助をしています。援助の対象は反政府組織や人身売買組織、違法魔術集団、非正規の魔導器具メーカーなど様々です。

 彼らの実態は杳として知れません。組織規模も資金源も主導メンバーも。各国の情報組織が血眼になって追っているのに、雲を掴むように何も分からないままなんです。

 そんな連中が、ソルン市で活動をしているとダリオは言いました。

 

『狙いはあれか、大陸陸上か』

『だと思います。警備を担当してる第二機動隊は増員されました』

『何も起きないといいな。起きるとしても今日はやめてくれよ…………よし、じゃあ戻って試合の準備をしてくる。僕の勝利を祈っててくれ』

 

 ルカとダリオは『うちの大陸王者に賭けてるんで』と言って送り出してくれました。

 結果は、まあ、残念なことになりましたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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