パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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セルトリア飛空2112便ハイジャック事件②:ハイジャック

○ダニエラ=チェルヴィ(セルトリア飛空2112便 客室乗務員(当時))の証言

 

 それが起きたのは、正午より少し前。

 機体がソルン市の上空に差し掛かろうかという時でした。

 

 客席先頭のビジネスクラスにいらっしゃった翼人のお客様が、私を手招きしたのです。

 

『すまない、手荷物を取り出したいんだが構わないか?』

『かしこまりました。こちらの荷物棚でございますね』

 

 私はビジネスクラスの広い荷物棚のカバーを開け、置かれた大きめの鞄を翼人のお客様に示しました。

 

『ありがとう』

 

 お客様はその鞄を取り出し、手早く開いて中身を取り出しました。

 それを見て、私は血の気が引きました。

 

 ――――――短剣が、握られていたのです。

 

『声を出すな』

 

 その翼人のお客様は低い声で冷たく私に囁きました。

 そして気付けば、他の席にいたはずの翼人4人全員が、私を囲んでいたのです。

 私は短剣の切っ先を突きつけられ、声も出せませんでした。

 翼人のお客様、いえ、ハイジャック犯は私に小声で言いました。

 

『操縦室へ案内してもらおう』

 

 

 

 

 

 

 

 

○マルコ=スペンサー(セルトリア飛空2112便 機長(当時))の証言

 

 翼人たちがいきなり操縦室に入ってきたときは、それはもうびっくりしましたよ。

 

『機内に爆発装置を置いた。意味は分かるな?』

 

 ダニエラに短剣を突きつけた翼人が言いました。

 私は操縦室のドアを施錠しておけば良かったと後悔しました。

 今だから言えますが、当時は操縦室を密室にするという習慣はあまりありませんでした。乗務員との連携のしやすさもあって、その気になれば誰でも操縦室に入れました。

 

『………どうすればいい?』

 

 私は副操縦士と機関士を抑えながら、犯人達に尋ねました。

 ハイジャックをされたときのセオリーは、乗員乗客の安全のため、犯人に大人しく従うことです。飛空艇を破壊したくてハイジャックする人間はいません。何かしらの目的のために飛空艇を強奪したのですから、まずは彼らの言う通りに従い、安全を図ります。

 

『このままカカナに入ってワッサタウンまで飛べ。カカナ連邦の首都だ。ワッサタウン・ロイヤーズ国際空港』

 

 私はぎょっとして、首を横に降りました。

 

『カカナには入れるが、ワッサタウンに行くには燃料が足りない。経費節約でサウスタウンまでの燃料しか計算してない。どこかで補給が必要だ』

『……』

 

 犯人達は顔を見合わせました。

 

『どうする?』

『………ソルン国際空港に行け。そこで補給しろ』

『分かった』

 

 私は彼らの指示に従い、針路を変更してソルン空港に向かいました。

 内心では心臓がドキドキしっぱなしでした。

 

 

 なにしろその時の燃料残量と飛空艇の燃費だと―――――――――実はワッサタウンまで飛ぶことが出来たんです。犯人達は知らなかったのですが、緊急時の代替空港のひとつとしてワッサタウンがありましたから。

 

 

 速やかな着陸を私も犯人達も願ってましたから、私は協力的に最短距離でソルン空港に進入していきました。

 ……その時の操作の中で、位置情報送受信ゴーレム、通称トランスポンダの緊急操作ボタンをこっそり押しました。

 トランスポンダは通信魔法で周囲のあらゆるものに緊急事態を唱えていたのです。

 ハイジャックされた、と。

 

 

 

 

 

 ………その時の私は知るよしもありませんでしたが、私がトランスポンダから緊急事態を報せたのとほぼ同時に、地上のソルン市では異変が起きたのです。

 

 

 大陸陸上の選手村が、襲われたんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○アントニオ=ベルナルディ(ソルン共和国 ソルン市警刑事部 特殊事件課 突入救助班 教導係。突入教官。ムヒュルム大陸王者。魔剣士)の証言

 

『選手村が?』

 

 自宅で試合前の最後の準備をしていた僕に、ダリオが慌てた声で連絡してきました。

 

『はい、大陸陸上の選手村です!

 武装したグループが装甲ゴーレムを伴って選手村の敷地内に無理矢理入ってきました! 西の宿舎を占拠して、選手を人質にして立てこもってます!』

『装甲ゴーレムだ?』

 

 僕は怪訝に聞き返しました。

 装甲ゴーレムは軍隊クラスが運用する代物で、おいそれと走り回せるものじゃありません。

 

『そんなのをどうやって持ち込んだんだ、警備の連中は何やってた』

『まだそこまでは分かりませんが、選手村の周囲は第二機動隊及び軍が包囲しています』

『軍がもう出てるのか。なら、特殊強襲部隊の出動になるな』

『はい、全隊員に招集を掛けたそうです』

『全員か……』

 

 僕は軍のその行動に、少し気を揉みました。

 国際的な大会で起きた凶悪事件を確実に解決したく、軍は全戦力を惜しげもなく投入しました。

 が、それは選手村以外の場所で事件が起きたとき、軍は対応できないということです。

 

『犯人達は重武装で、装甲ゴーレム以外にも砲撃魔法や爆発魔法の魔導器具を使っていたそうです』

『なるほど、下手すると選手村が戦場になる。軍も躍起にならざるを得ないな。刑事部が手伝えることは何もない、特殊強襲部隊を信じよう』

 

 実際、刑事部にはなんの命令も降りていませんでした。

 申し訳ない気持ちはありましたが、フラトコフ殿に無駄足を踏ませることは避けたかったので、試合に臨むため部屋を出ようとしました。

 

 が、その直前。

 懐の通信ゴーレムが鳴り響きました。緊急招集用のものです。

 

『……』

 

 僕は両手で顔を覆い、天を仰ぎました。

 何分かずっとその姿勢でいました。

 そしてなんとか自分を取り戻して、刑事部からの通信を見ました。

 

 

 

『………ハイジャック、だと?』

 

 

 

 

 

 

 

 

○マルコ=スペンサー(セルトリア飛空2112便 機長(当時))の証言

 

 翼人たちは、意外にもハイジャックであることを隠そうともしませんでした。

 

 正午過ぎ、ソルン国際空港の国際線で一番長い滑走路09に着陸し、滑走路の端で転回、滑走路27を飛び立つ位置で停止させると、管制塔に連絡を入れました。

 

『この飛空艇は我々が乗っ取った。要求に従わない場合、乗員乗客の安全は保証できない。

 また要求はカカナ連邦に対するものである。ソルン共和国は単なる通り道にすぎないため、燃料を補給すればすぐに飛び立つことを約束する』

 

 そして彼らは次々に要求と宣言を行いました。

 

『カカナ連邦への要求は2つ!

 

 ひとつは連邦領地での古代竜人文明の発掘活動を全て停止すること!

 竜人文明は愚かにも天の領分を侵し、神々の怒りを買い、地底深くに封じられた邪悪な者たちである! 彼らを目覚めさせることは再び神々の怒りを買うことに他ならない! 即刻中止せよ!

 

 もうひとつは収容所に不当に拘束されている同胞24名を解放すること!

 同胞らは竜人文明に汚染された愚かなる連邦を正しき道に戻そうとしただけだ! 彼らを即刻解放せよ!

 

 この要求2つのうちどちらかひとつでも従ったことが確認されれば、乗員乗客を解放することを約束する!』

 

 管制官がすぐに応答しました。

 

『我がソルン共和国は諸君らの交渉に相応しい人物として、カカナ連邦大使を急ぎ呼んでいる。大使が来るまで、人質のうち女性や子供、老人を解放してくれないだろうか』

『拒否する。ソルン空港に出来ることは、今から読み上げる同胞24名をカカナ連邦へ伝えることと、燃料補給だけだ』

 

 そして犯人達のうち2人が操縦室で名前を読み上げ始め、残りの2人はダニエラを人質にしたまま客室へ戻っていきました。

 操縦室の翼人は2人、こちらは私含めて3人なのですが、犯人の手には短剣がありました。それもただの剣ではありません。

 あれは模造魔剣でした。

 魔剣闘技で使われる魔剣は生きた魔導器具で、彼らが生み出す魔法は現代魔導でも解析できないものが多いそうです。で、そのうち解析して模倣できた魔導器具が、模造魔剣です。

 

 ……私は不思議に思いました。

 魔導器具は本物の魔剣も含め、全て荷物として貨物室に預かります。手荷物として客室に持ち込むことは出来ないはずなんです。

 彼らはどうやって機内に魔導器具を持ち込んだのか、その時は分かりませんでした。

 

 

 

 

 

 

○ダニエラ=チェルヴィ(セルトリア飛空2112便 客室乗務員(当時))の証言

 

 犯人達は私に刃を突きつけたまま、客室に戻りました。

 そして手荷物の鞄の中から、次々と新しい道具を持ち出したんです。

 それを見て私は驚きました。

 

 魔法液の瓶と、魔力貯蓄器、そして何かの魔導器具のセットです。

 それは客室に持ち込めないはずのものでした。

 

 魔法液はそれ単体では何も起きないのですが、魔導器具からの魔法を受けて様々な反応を起こします。そして魔導器具も誰かが握って魔力を送るか、魔力貯蓄器から魔力をもらうかしないと働きません。

 つまり犯人の持ち込んだものは本来、それぞれバラバラの状態で貨物室にあるべきものなんです。

 

『―――――乗員乗客に告げる。これより機内に爆発魔法の器具を設置する』

 

 機内に、操縦室を乗っ取った犯人達の放送が流れました。

 

『魔法液つきの強力なものだ。魔導器具単体のものとはわけが違う。既に操縦室と一部の客席に設置済みだ。これから行う設置作業を邪魔した場合、設置済みの器具から爆発魔法を発動させる。大人しくしていることだ』

 

 犯人達は爆発魔法の器具を何個も作り、それを機内に設置し始めました。

 それらの器具は魔導線でつながれ、全部の爆発魔法をどこからでも発動できるようにしていました。

 機内の通路を通り、お客様を威嚇するように私に刃物をあてました。

 私は自分の肌を刺す凶器より、それを見て怯えてしまうお客様の表情に堪えられませんでした。

 ……ふとそのお客様の中に、あの銀髪の女の子がいました。

 後部座席の奥の方で、金髪の女性の隣に座っていました。

 金髪の女性は犯人より、その銀髪の子を見ておられました。女の子の手を強く握り、まるで言うことを強く聞かせ、その場に抑えているかのような素振りでした。

 そしてその銀髪の女の子は、仮面のような無表情で私をじっと見詰めていました。

 

 私はその視線にはっとなり、心の中で訴えました。

 

 ………どうかそのまま座ってて、すぐに助けが来るから、あなたが危ない目に遭う必要なんてないんだから、と。

 

 その思いが通じたのかは分かりませんが、彼女は飛び出す前の猫みたいな様子から、置物のような静けさで力を抜いてくれました。隣の金髪の女性も息を吐いて胸をなで下ろしておられました。

 私はそのことに安心し、犯人に連れられながら、お客様の様子を見ました。急を要する人がいないか心配だったのです。

 

 

 

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