パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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セルトリア飛空2112便ハイジャック事件⑧:展開

 

 

 

○ダニエラ=チェルヴィ(セルトリア飛空2112便 客室乗務員(当時))の証言

 

 

 ガル様が外に吹き飛ばされた直後の客室は、ひどい有様でした。

 悲鳴をあげる方、泣き出してしまう方、嘔吐してしまう方、様々でした。

 その中で、ガル様と同伴されていたセレネイド様のお怒りは、大変なものでした。

 

『――――――こぉおおのおおおおおっ!!』

 

 セレネイド様は怒鳴りながら迷いなく走り、ガル様を手に掛けた翼人に殴りかかりました。

 が、翼人はその大きな翼をひと薙ぎし、セレネイド様のお身体を壁に軽々吹き飛ばしました。

 誰も座っていない座席と荷物棚に頭と体をぶつけられ、セレネイド様は立ち上がれなくなっておりました。

 

『お前も研究所の人間か? お仲間の後を追わせてもいいんだぞ』

『………やってみなよ』

 

 セレネイド様は痛みで痺れて動けないまま、憤怒に沸く声と、視線で殺さんとばかりに睨み付けました。

 

『私はダークスターの一番弟子、ミリィ=セレネイド。師匠の名前を聞くだけで殺したくなるんなら、私を殺してみなよ』

『無手の魔術師ごときが』

 

 私はそこで、はっとなりました。

 ガル様を手に掛けた興奮が、犯人にはあったからです。

 だから咄嗟に大声で叫びました。

 

『お客様! お席にお戻り下さいッ! 他のお客様のご迷惑になりますッ!!』

 

 突然の私の声に、犯人達もセレネイド様も不意を突かれたご様子でした。

 そしてセレネイド様は、我に返られたように表情を鎮められ、

 

『…………くそ』

 

 悔しそうな顔のままご自分の席へ戻ろうとしました。

 が、殴り飛ばされた痛みでうまく動けないご様子でした。

 

『……大丈夫ですか?』

 

 セレネイド様を助けて下さったのは、あの翼人管理局の男性でした。

 彼はご自分も顔を腫らしたまま、セレネイド様に手を貸し、席に着くのを手伝って下さいました。

 翼人たちは何も干渉しませんでした。

 セレネイド様は無事に席にお座りになられ、そして私の方を見て小さく頭をお下げになりました。

 私は首を横に振って応えました。

 これ以上、誰かが傷つくのを見たくはありませんでした。

 

 

 ……ふと、そのときでした。

 客室の通路に設置され、魔導線で繋がれた魔導器具が視界に入りました。

 魔法液が入った容器。

 そこに、一瞬だけ、何かが絡まったような気がしました。

 半透明な、紐のような何か。

 

『?』

 

 目を凝らそうと改めて見ようとした時、犯人達が慌ただしく動き出しました。

 

『見づらいが、確かにそうだ、補給ゴーレムだ。燃料タンクも積んでる。右の翼の下に来た。やっと飛べるぞ』

 

 犯人達の言葉に、乗客の皆様も小さくどよめきました。

 何かしらの進展、この状況が変わることを、誰もが期待しておりました。

 

 ………後から見れば、それは叶ったと思います。

 

 ただ、私が思っていたよりずっと激しい進展でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に、なんの前触れもなく。

 

 

 

 ――――――――魔法液の容器が、破裂したのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○マルコ=スペンサー(セルトリア飛空2112便 機長(当時))の証言

 

 

『………魔法液が割れた? 7つ全部が?』

 

 リーダー格の翼人が客室からの報告を受けると、操縦室の緊張が一気に高まりました。

 

『補給ゴーレムの動きは?』

『客席の窓から、タンクと翼をホースで繋いでるのが見える。だがそれ以上を調べるには、外に出る必要がある。出て確かめるか?』

『……いや、誘い込まれている可能性が高い。どういう手段を使ったかは知らないが、連中が爆破を無力化したのは間違いない。何か仕掛けてくるはずだ』

 

 翼人はしばし考え込み、私の肩を叩いて命令しました。

 

『移動だ。前進して滑走路の逆の末端まで行け。末端に着いたら旋回して逆方向を向け』

『……補給はどうするんだ? もう作業を始めてるぞ』

『中止させろ。移動し終えたらまた補給を寄越すよう言え。エンジンを動かすんだ、今すぐ』

『今は始動できない。エンジンの近くに補給作業員がいる。エンジンの吸気と排気に巻き込んでしまう』

『すぐどかせ。1分後にエンジンを始動させると言え。巻き込まれても向こうのせいだ』

『あっちは燃料タンクを抱えてるんだ、もし事故を起こしたら――――』

 

 がごっ、と頭を殴られました。

 衝撃と痛みで視界が明滅する私に、犯人は短剣を突きつけ、

 

『また乗客を殺してやろうか?』

 

 私が抗えない言葉を唱えたんです。

 

『さっさと退避するよう言え。伝えたらエンジンを掛けろ。前進だ』

 

 私は歯ぎしりをしながら、補給作業員との連絡を取り始めました。

 夕暮れのオレンジの光がどんどん弱くなっていき、夜が近付いていきました。

 

 

 

 

 

 

 

○アントニオ=ベルナルディ(突入救助班。臨時隊長(当時))の証言

 

 僕はアルファチームと共に、飛空艇の胴体の下を素早く移動しました。

 機体の下を通り、前部ドアの真下から階段ゴーレムで垂直の螺旋階段を作り、そこから侵入する予定でした。

 ただ、そうやって突入ポッドから出て目的の所まで忍び寄ろうとしたとき、一瞬だけ足が止まりました。

 

 ……ミス・ガルが、機体の下で倒れていたからです。

 

 彼女を近くで見たのは、その時が初めてでした。

 輝く銀髪をした、細身の女の子の姿で、とてもゴーレムだなんて思えませんでした。

 その子がぐったりと、力も生気もなくうつ伏せで倒れこんでいたんです。

 

『……アルファリーダー、予定通り階段ゴーレムを所定の位置で起動、準備が出来たら報告』

『了解、階段ゴーレムの設置を行います』

 

 僕はアルファチームを先に行かせ、ミス・ガルに腰を落として近付きました。

 

『ミス・ガル、ベルナルディだ、アントニオ=ベルナルディ。僕らが来た。死体のふりをする必要はもうない。大丈夫か?』

 

 僕が訊くと、小さな体がバッと機械仕掛けみたいな動きで仰向けになり、上体を起こしました。

 そこで初めて、ミス・ガルの顔を見ました。

 ゴーレムだと知らなければ求婚していたでしょう。

 そんな彼女が、無感情な声で言いました。

 

『全系統異常なし。偽装行動を解除。ご指示を、ミスター・ベルナルディ』

『ありがとう。これから僕らは突入する。状況の監視を続けてくれ、何か変化があれば報告』

『了解――――報告、機体の補助魔力装置が圧縮空気を両エンジンに注入中』

『なに?』

 

 僕はその報告に耳を疑いました。

 

『エンジンを動かそうとしてるのかっ?』

『はい。ファンブレード始動開始、回転速度の上昇が予測されます』

 

 僕は目の前につり下がった左エンジンに目を向けました。

 ミス・ガルの言う通り、駆動する音が生まれ、どんどん大きくなっていました。

 

『まずい、アルファチーム、状況は!?』

 

 エンジンが完全に起動して前進するまではしばしの時間が掛かります。

 その間に階段ゴーレムを使って機内に入れば、まだ間に合います。

 そう思って聞いたのですが、

 

『階段ゴーレムを設置、起動します………起動成功、階段を展開し――――――――だめですッ、途中で止まったっ、半分で動かなくなった! 届きませんッ!』

 

 僕はアルファチームの方を見ました。

 確かに階段ゴーレムが作った螺旋階段が、ドアまで半分の高さしか出来ていないのが見えました。

 ………故障でした。訓練では起きなかったのに、運悪く、あの時アルファチームのゴーレムにだけ不具合が起きたんです。ブラボーは問題なく展開できたというのに。

 

『アルファチーム、突入するなっ! 飛空艇がエンジンを動かして前進する! 階段ゴーレムを収納して補給ゴーレムまで戻れ! 収納も効かないなら捨てろ!』

『アルファリーダー、了解!』

 

 幸い階段ゴーレムの収納機能は生きていて、ほぼ一瞬で小さな箱になりました。

 アルファチームは再び胴体真下へ移動し、急いで補給ゴーレムまで退避していきました。

 

 

 

 

 

 

○マルコ=スペンサー(セルトリア飛空2112便 機長(当時))の証言

 

『来たぞ! 突入部隊だ!』

 

 操縦室に大声が轟きました。

 誰もがその報告してきた翼人を見ました。

 彼は激しく興奮した様子で、

 

『窓から一瞬見えた! 胴体の下から何かの装置を使っている! 詳細は分からないがもう機体に取り付いている!』

『真下だと? 吹き飛ばしてやる』

 

 リーダー格の翼人はそうこぼすと、勝手にスロットルレバーを最大まで押し上げました。

 

『何をする!』

『うるさいっ! こいつらも殺すぞッ!』

 

 副操縦士のジョバンニと機関士のマッシモに、短剣が突きつけられました。

 

『それともお前の手を切り落とされたいか?』

 

 ジョバンニたち2人が何か叫び出そうとしましたが、犯人の言葉で彼らも口をつぐみました。

 彼らは"俺たちに構うな、そんな連中の言うことなんて聞かないでくれ"と言おうとしたらしいです。

 が、私が斬られるかもと思って何も言えなくなりました。

 そのため、私達は最大まで押し込まれたスロットルレバーを戻すことが出来なかったんです。

 機体は必要以上の出力を命じられて、前進しようとしていました。

 

 

 

 

○アントニオ=ベルナルディ(突入救助班。臨時隊長(当時))の証言

 

 ファンが回るだけだったエンジンから、あの独特の駆動音が発生しました。

 エンジンが点火されたんです。

 

『2112便の燃料流量が増大。最大出力を命じている模様』

 

 ミス・ガルの報告に、僕は最悪の想像をしました。

 

『前進するだけにしては出力が大きすぎる……離陸する気か、ここから飛んで別の空港にいくのか?』

 

 もしくは燃料が足りないまま、カカナのどこかに行こうとする気か。

 とにかく、離陸を許してはいけないと思ったんです。

 

『アルファ、ブラボー、退避したな?』

『アルファリーダー、退避しました』

『ブラボーリーダー、退避しました。隊長も早く』

 

 幸い、突入しかけた2チームはどちらも素早く補給ゴーレムに入り、僕以外は退避しました。

 彼らは僕を待っていたんです。

 しかし、僕は戻りませんでした。

 

『駄目だ、こいつらは離陸する気だ。今止めないと何もかも台無しだ』

『隊長、何する気です?』

『補給ゴーレムを発進させろ。ジェットエンジンの排気を浴びるな、回避できる位置に移動しながら2112便を追いかけろ』

『隊長はどうするんです!?』

 

『僕は――――――――こいつを止める』

 

 部下達にそう言うと、僕は協力者に振り向きました。

 

『ミス・ガルも急いで退避を』

『僭越ながら現状ミスター・ベルナルディを直接支援できるユニットは私だけです。同行いたします』

『危険だ、成功するか分からない』

『この場での私の脅威は魔剣だけです。あなたは敵ではない。そのため私に脅威はありません』

 

 ミス・ガルは素早く主脚に飛びつき、握力ひとつでその身を吊り下げ、僕に言いました。

 

『私はゴーレムです。ダークスターのゴーレムです』

 

 僕はその言い方に、つい口元が緩みました。

 

『………了解、失礼を許してくれ。同行に感謝する』

 

 エンジン音が急速に増大。

 風が大きく乱されていくのが分かりました。魔剣の加護がなければどうなっていたか。

 

 

 

 

 

 そして飛空艇がついに前進を始めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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