パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー 作:鈴本恭一
○アントニオ=ベルナルディ(突入救助班。臨時隊長(当時))の証言
『――――――ぅぉおおおおおっ!!』
僕は気合いの叫びをひとつあげ、胴体下から左エンジンに魔剣を突き刺しました。
僕の魔剣はけっこうな距離まで刀身の長さを伸長できます。
そうして伸びた切っ先がエンジンカウルを貫き、その内部、燃焼室へ潜り込みました。
そこは燃料が風と火の精霊によって強力なパワーを生んでいる場所でした。
僕は命じました。
『貪れ、魔剣』
魔剣が赤く輝き、魔法を使い出すのが分かりました。
刀身に僕のではない、別の力が雪崩れ込んできたからです。
…………僕の魔剣は、あらゆる力を魔力として吸収することが出来ます。
やっていることは魔力変換装置とほぼ同じです。だから僕はエンジンの力を魔力として吸収していきました。
が、その力は僕が今まで経験した吸収の中でも、トップクラスに強烈でした。
『ぐ、く、ぅぉおっ!』
エンジンのパワーはゴーレムの貯蓄器とは桁違いでした。当然でした。ジェットエンジンは飛空艇の力の源、象徴です。
古代竜人文明を研究し飛空史の全てを変えた、まさに現代魔導の力そのものでした。いかなる魔術師でも、単独でこれに対抗することは出来ないでしょう。
しかし、僕は魔剣士です。
『さ、流石だ、流石ジェットエンジン! これほどの力を相手取るのはシャブラニグドゥス殿以来だッ!』
みなぎってくる力の強さと熱さを前にして、心に興奮と恐怖が渦巻きました。
だから僕は吼えました。
あえて自分でシャブラニグドゥス殿の名前を出して。
『だがお前は最強のジェットエンジンじゃないだろう!? 僕も最強の魔剣士じゃないっおあつらえ向きだな!!』
ジェットエンジンは燃焼室での燃料の爆発力を僕に奪われていきましたが、しかし次々送られてくる新しい燃料との燃焼がそれを補いました。2112便、ペネロピー号型のジェットエンジンは高性能で、僕がパワーを吸収してエンジンの燃焼サイクルを邪魔しても、そう簡単には異常状態に陥りませんでした。
一方僕の魔剣にもどんどん魔力が溜まっていくんですが、何せその力は並の魔剣士の魔法とは比べものにならなくて、自分に流れ込んでくる力の強大さに振り回されそうでした。
『だが僕は、最強の魔剣技を受けたことがある、最強の魔剣士の技をだッ』
だから、僕はシャブラニグドゥス殿の名前を出したんです。
『残念だったな、お前は彼女ほど怖くはない――――――魔剣ッ!!』
魔剣が紅蓮のように輝きました。
赤光が滑走路を眩しく照らして、まるで地上の太陽でした。
2112便の左エンジンはその光の強さに反比例するように、どんどん出力が下がっていきました。ついに燃焼と吸収の力のバランスが、僕の方に傾いたんです。ジェットエンジンの力は僕の力になり、例えるなら僕自身がジェットエンジンになったかのようでした。
『止まれえええええええええええええええええええっっ!!!!』
僕はダメ押しのようにさらにジェットエンジンの力を吸収していきました。
燃焼室の熱、タービンや圧縮機の回転、ファンブレードからの風圧……それらの力という力が、僕の魔剣に喰われていきました。
そして、そのファンの回転が止まりました。ジェットの排気も消失。
左エンジンは、ただの重量物になったんです。
魔剣の勝利でした。
……が、
『くそ、右エンジンが狙えない!』
ペネロピー号型はエンジンひとつで離陸できます。
左エンジンを無力化したときほど時間を掛けている暇がありませんでした。
右エンジンをほぼ一瞬で無力にしなければ、2112便は無理やり飛び立ってしまうでしょう。
つまり破壊するしかありません。
が、位置が悪い。
左エンジン内側に取り付いた僕から狙えるのは右エンジンの下端で、エンジンカウルです。
パワーを吸収するだけならそこでもいいのですが、短時間での破壊となるともっと上、中心部分を狙わないといけません。そして僕の魔剣はまっすぐ伸びるだけで曲がったりとかは出来ません。
つまり僕が取れる手段は、吸収の魔法でなんとか早く右エンジンを停止させることだけでした。
間に合わない、その予感に冷たいものが背骨を撫でたのを憶えています。
そのときでした。
『―――――――衝撃に備えて下さい、ミスター・ベルナルディ』
銀色の残像が、疾風のように右エンジンに流れていきました。
そして耳を気持ち悪くさせる、巨大な異音。激しい振動。火花。
何が起きたのか、すぐに分かりました。
ミス・ガルが、右エンジンの中に吸い込まれたんです。
バードストライクのように。
『ミス・ガルっ!!』
僕は叫び、気付きました。
あの強力なジェットエンジンの力が、右のそれから無くなっていくのが。
加速力をあからさまに失い、2112便の速度が死んでいきました。
しかし機体の振動が非常に激しく、翼端やエンジンを地面に擦りつけ始めました。僕のしがみつく左エンジンも同様で、僕は何度も地面に叩き付けられ掛けました。
『くそっ!』
僕は魔剣をエンジンから引き抜き、地面を魔剣で斬り付けました。
同時にジェットエンジンから得た魔力の一部を解放。斬撃へ乗せました。
地面を破砕した斬撃の反動で、僕は空中に跳ね上がりました。
視界の斜め下を、2112便が滑走していきました。
2112便は滑走路を緩やかに外れ、何もない荒野へ減速していきました。
僕が着地に成功したときには機体もほぼ停止し、火災や脱落は起きていませんでした。
機体の右エンジンだけ、黒い煙を後ろに吐き出していましたが……。
『チームリーダー、こちらアルファリーダー! 無事ですか!?』
機体から飛び離れ、思ったよりも距離が出来てしまった僕に突入班から通信がありました。
『こちらチームリーダー、無事だ。そっちは』
『大丈夫です、全員問題ありません! 15秒後に機体に到着、再度展開します!』
振り返れば2台の補給ゴーレムが全速力でこちらに向かっていました。
『僕のことは拾うな、最速で現場に行って即時展開しろ。すぐ追いつくが僕を待つな』
僕は彼らに指示しました。
『チームリーダーよりアルファへ。不意を突く必要はない、補給ゴーレムでそのままドアの真下に行け。今度起動に失敗したら補給ゴーレムの屋根から伸ばせ』
『アルファ、了解!』
『ブラボーは変わらない。アルファの突入を見届けてから突入。負傷者がいる可能性が高い、細心の注意を払え』
『ブラボー、了解!』
彼らは僕の言う通り、僕を猛突進で追い越して飛空艇に向かっていきました。
僕は魔剣を握りしめ、まだまだ魔力が残っているのを確認し、
『ここで全部終わらせる』
2112便へ走り出しました。
○マルコ=スペンサー(セルトリア飛空2112便 機長(当時))の証言
『1番エンジン出力低下! 続いて2番エンジンも出力低下! 全エンジンが停止します!!』
機関士のマッシモが操縦室で叫びました。
私は不安定に振動する機体をなんとか制御しようとラダーペダルを操作していましたが、彼の言葉にすぐ対応を指示しました。
『緊急停止措置を実行! エンジンを止めろ!』
『止めるな! なんとかしろ!』
が、翼人はそれを制しました。
私は先ほどまでの虚無感を拭い捨て、吼えました。
『無理を言うな! おそらくエンジンは外から壊された、俺たちが移動しようとしたからだ。嘘だと思うなら客室の仲間に窓から確認させろ!』
私は時間が無いので必死に叫びました。
『エンジンが壊れた状態でスロットルを上げ続ければ爆発する! そうすれば最悪燃料タンクに引火して火の玉だぞ! お前らも全員死ぬぞ!』
『………俺だ、窓からエンジンが見えるか? 状態を調べろ』
犯人は私の言葉を否定せず、仲間に確認を取りました。
『マッシモ、燃料ポンプの圧力計は?』
『正常値です! 燃料系統に異常なし!』
『油圧系統は?』
『エンジン喪失のせいで1と2がダウン! 予備の3は生きてます!』
『よし、補助魔力装置はそのまま動かし続けろ、そいつが生命線だ』
『了解!』
そうしているうちに、機体は滑走路を外れたもののみるみる減速していきました。
私は機体が横転しないよう、ブレーキとラダーを必死で操ってコントロールしました。
そんな操縦室に、翼人のひとりが言ってきました。
『右のエンジンから黒い煙がひどい勢いで出ているそうだ! 左エンジンも薄いが黒い煙を後ろに吐いてる!』
『……やはり壊されたんだ』
私は得心がいきました。
当局が2112便の足を奪おうとしていたのです。
終局がすぐそこにありました。
滑走路の外の荒野に、機体が滑っていきました。
そしてついに、止まったんです。
もう逃げられません。
『………いいだろう、全員返り討ちにしてやる』
犯人は怒りに瞳と声を燃やし、仲間たちへ告げました。
『戦闘準備! 翼人の誇りを見せつけろ!』
犯人達は殺気立って模造魔剣を掲げました。
そして私達を睨み、
『大人しく見ていろ。下手なことをしたら今度こそ殺す』
――――――その直後
『来るぞ!!』
操縦室のドアの外から誰かが怒鳴りました。
リーダー格の翼人ともう1人が、操縦室のドアを完全に施錠しました。
そして、
キィイイイイイイイィィィイイイイインンン!!!!!!
異様に甲高い耳障りな音と、激しい怒号の連続。
戦闘が始まったんです。