パーン・パーン・パーン! ー飛空艇事故の真実と真相ー   作:鈴本恭一

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セルトリア飛空2112便ハイジャック事件⑩:決着

 

 

○ルカ=バレッラ(突入救助班。アルファチーム・リーダー(当時))

 

 俺たちアルファチームは、今度こそちゃんと起動した階段ゴーレムから前部ドアに取りついて、外からドアを開けました。

 少しだけ開いたドアの隙間から、閃光音響の魔導器具を放りました。

 

 キィイイイイイイイィィィイイイイインンン!!!!!!

 

 強すぎて高すぎる異音が炸裂して、強烈な光を犯人の近くで撒き散らしました。

 常人なら目も耳もやられてまともに動けない代物です。

 幸い人質の位置がこの閃光音響魔法の有効範囲外なのが分かってたので、躊躇なく使うことが出来ました。

 

『突入! 突入! 突入!』

 

 俺たちはついに機内に突入しました。

 人質防護班が後部に駆け込み、彼らを援護するように俺たち制圧班が犯人との近接戦闘を仕掛けました。

 そこで、初めて犯人をその目で見ました。

 客室にいた犯人の数は2人。

 翼人たちは大きな翼で体の前を完全に覆って、そしてすぐにそれを開いて反撃してきました。閃光音響の魔法が効いていません。

 手にした模造魔剣が橙色に光って、俺たちに向けられました。その刀身からは鉄の飛礫が目にも止まらない高速で放たれる、典型的な投擲魔法です。

 防壁魔法を発生させる魔導防護服に包まれた俺たちは、犯人達の魔法攻撃をなんとか防御しつつ、訓練通り捕縛の魔法を仕掛けました。暴徒鎮圧での定番魔法です。

 が、一瞬だけ翼人の動きを止めただけで、すぐに大きな翼が魔法を振り払いました。

 

『捕縛の魔法が効かない! 拘束できない!』

 

 班員のひとりが叫びました。

 翼人の魔法抵抗力は想像以上でした。想定で準備してた失神魔法や幻惑魔法も一切効き目がありませんでした。

 

『拘束は諦めろ! 倒せ! 物理攻撃の魔法を使え!』

 

 もちろん俺たちも拘束用の魔法が全部効かないことを想定して、犯人を抹殺する訓練も行いました。

 鋼鉄の矢尻を高速移動の魔法で射出・連射できる突入用ボウガンで、人間なら余裕で蜂の巣に出来ます。それを俺たちは一斉に撃ち込みました。

 が、やはり翼人は翼を壁にして、鋼の矢を全て防御してしまいました。

 あの翼は鳥のように見えて、全然違う生き物のそれでした。

 

『神々に仕えるために創造された我々を、人間ごときが倒せると思うな!!』

 

 翼を盾に、模造魔剣を矛に、翼人はたった2人で突入班と互角以上に相手取っていました。

 正確に言うと、俺たちの魔導防護服の方は限界がすぐそこでした。

 防壁で犯人達の攻撃を防いではいたんですが、そのたびに搭載された貯蓄器の魔力をがりがり削っていきました。火力と防御力の引き算で言えば、あっちの方が優勢でした。

 正直ショックでしたよ。戦闘用ゴーレムでもなんでもないのを相手に、俺たち突入班が後れを取ってたんですから。

 

『まずい……』

 

 冷や汗が止まりませんでした。

 あっちの翼の防御を突破できる気配が無かったからです。

 こっちの矢尻はもうすぐ底を尽き、防護服の魔力もなくなります。

 全滅、の単語が脳裏に浮かびました。

 

 そのときでした。

 

 

 

『―――――――――――――アルファチーム、全員伏せろ』

 

 

 

 深紅の一閃が、機内に翻りました。

 

 

 

 開けっぱなしの前部ドアから迸った紅い一撃は、翼で防御してた犯人のひとりを簡単に貫きました。

 

『!?』

 

 赤く輝く剣身に翼も体も貫通されたと気づき、翼人は信じられないものを見る顔をしました。

 その顔が、赤い剣の持ち主を探し、そしてすぐ見付けました。

 彼が機内に来たからです。

 

 

 俺たちの教官、隊長、大陸最強の魔剣士アントニオ=ベルナルディが。

 

 

『貴様ああぁっ!!』

 

 翼と体を刺し貫かれても、翼人は唸りを上げて入り口のベルナルディ隊長へ模造魔剣を向けようとして、

 次の瞬間、

 隊長はもうその翼人の目の前にいました。

 

『っ!?』

 

 瞠ったと同時に、赤い剣の残像。

 翼人は全く何も出来ず、隊長の魔剣に斬り伏せられました。

 

 ………正直、隊長の剣技が早過ぎて俺も隊長が何をしたのか分かりませんでしたよ。

 

『アルファリーダー、制圧班で魔力残量が少ない班員をブラボーの援護に送れ。人質を後部ドアまで誘導させろ。怪我人の救助もだ。残りの制圧班員は防護班に加われ』

『アルファ了解! 隊長は!?』

『前進して制圧する』

 

 隊長はそう言い放って、残りの1人の翼人へ魔剣を向けました。

 

『投降しろ。もう逃げ場はない。今ならまだ比較的軽い刑で済む』

『魔剣使いが……』

 

 翼人は腰からもう一本、短い模造魔剣を取り出しました。

 

『近付いてみろ、こっちは爆発魔法の魔剣だ。貴様を道連れにして散華してやる』

『お前も死ぬし、それで死ぬのは僕だけだ。残りの班員が操縦室を制圧する』

『手強いのは貴様だけだ。貴様さえ仕留めれば、残った仲間が返り討ちにしてくれる』

『………あぁ、そうか、お前か』

 

 その声に、俺は悲鳴を上げそうになりました。

 聞いたこともないほど冷たい声だったからです。

 俺が無意識に身震いした、そのとき。

 

 シュヒンッ

 

 きれいな空を裂く音。

 紅い横一線の剣光。

 

   ド サッ

 

 ……翼人は、爆発魔法を出す暇もなく斬られました。

 一瞬よりもずっとずっと短い時間で間合いを詰めた、隊長に。

 

『ミス・ガルに牢屋で詫びろ』

 

 隊長は呆気ないほど簡単に客室を制圧しました。

 

 ……って話すと、本当に簡単に聞こえると思うんですが、これは全部隊長、ベルナルディ教官が強すぎてそうとしか説明できないからです。

 捕縛も失神も魔法じゃ効かないはずの翼人を、あの人は魔剣技であっさりと気絶させました。魔剣は相手の精神を直接斬ることが出来るとかなんとかで、とにかく翼人の高い抵抗力でも耐えられないんだそうです。

 あの人が現場に出て剣を使うたびに、なんでこの人が世界王者じゃないんだ? って怖くなりますね。

 それくらい、ベルナルディ教官は別格でした。

 

 

 

『こちらチーム・リーダー、これから操縦室を制圧する』

 

 そんなベルナルディ隊長が、操縦室のドアへ前進していきました。

 が、そこで隊長は足を止めました。

 

『………施錠されてるな』

 

 俺もそっちを見ました。

 確かに操縦室のドアがロックされてました。

 あれじゃ中からしか開けられません。

 

『隊長っ、訓練通りドアの破壊作業をします! どいてください!』

 

 俺はアルファチームに指示してドア破壊用ゴーレムを持ってこさせようとしました。

 が、

 

『やめろ、破壊作業の手順は破棄しろ。その破壊用ゴーレムの魔力源は班員の防護服だ。全員想定より魔力が減っている。破壊に掛かる時間は訓練よりずっと長い』

 

 ぐ、と俺は言葉に詰まりました。

 施錠されたドアを破壊するゴーレムは、携帯性を重視したため魔力貯蓄器を積んでません。代わりに俺たち班員が防護服の魔力を一斉に送って動かします。

 しかし翼人との戦闘で防護服の魔力は著しく下がってて、訓練通りの結果が出せないのは明らかでした。

 翼人の戦闘能力は事前の想定を遙かに超えてたんです。

 

『でも隊長、そのドアの向こうはもう逃げられない。時間が掛かっても問題はないでしょう?』

『操縦士達がいる。うかうかしてると彼らにも危険が及ぶ。決着は一瞬で付ける』

『でもどうやって? そのドアは爆発魔法にも耐えられるくらい頑丈に作ってあるって言われたじゃないですか』

『爆発魔法にはな。だが』

 

 隊長は魔剣の切っ先をドアに向けたまま、柄を握る手を後ろに思い切り引きました。空の手は逆に前に。

 ぶんっ、と魔剣が奮え、深紅に強く深く輝き始めました。まるでブレードがルビーでできたみたいに。

 

『―――――――――僕の魔剣には耐えられるか?』

 

 隊長が、赤い光の尾を引いて突進。

 信じられない力と速度で魔剣突きを放ちました。

 

 ジェットエンジンみたいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○アントニオ=ベルナルディ(突入救助班。臨時隊長(当時))の証言

 

 

 ジェットエンジンから奪い尽くした力を刺突の一撃に込め、僕はドアを攻撃しました。

 爆発魔法にも耐える頑丈極まるドアは轟音と共にひしゃげ、引き千切れて奥へ吹き飛ばされました。

 僕は室内に滑り込みました。

 

 ドアの陰、入り口の死角から、殺気がこぼれているのが分かりました。

 

 僕はその殺気に向けて刺突から横薙ぎを。

 稲妻の模造魔剣を持った翼人の、死角からの一撃を目も向けず防御。

 そして翼人の放った雷の魔法を吸収し、魔力にすることなくその場で解放、跳ね返しました。

 

『ぐぁあっっ!!』

 

 翼人は自分の魔法で全身を灼かれ、それでも倒れずに僕を睨もうとしましたが、

 その時には、僕の魔剣は彼の胴体を薙いでいました。

 魔剣の斬撃で床に沈む翼人を放置し、僕は最後の一人に向きました。

 

『魔剣使いめッ!』

 

 機長席の前にいる最後の翼人。

 短剣と長剣、2本の雷の模造魔剣を持って僕を睨んでいました。

 

『投降しろ。雷魔法で僕を倒したいならウラベ殿の奥義クラスでもなきゃ無理だ。生きてさえない模造品の魔剣じゃ、本物の魔剣士は倒せない』

『骨羽にも勝てぬ連中ごときが偉そうにッ!!』

 

 翼人は吼え、2本の魔剣を僕に向けて繰り出しました。

 

 

 ………僕には、そのとき彼の発していた殺気や敵意、憎悪、そして恐怖が見て取れました。

 

 

 闇の中で白々と浮かぶ月光みたいに、僕には彼の攻撃のタイミング、向き、威力、その他彼のしたいことが見て取れました。

 彼は長剣から牽制の放電魔法を、そこに反応して迎撃した僕の隙を帯電した短剣で突こうとしていました。

 

 だから僕は放電される前、長剣が動こうとした瞬間にその模造品の剣身を斬り払い、両断しました。

 

『な――――』

 

 自分がしようとした動きを全て見透かされ、刮目する翼人の動きが一瞬だけ硬直。

 僕はあらかじめそれに合わせた動きで袈裟斬り。

 翼人の精神を叩き斬りました。

 どさっ、と犯人は倒れ、それで全て終わったんです。

 

『………今のを聞いたのが僕で良かったな。フラトコフ殿やウラベ殿だったら今ごろ死んでるぞ』

 

 僕は改めて機内を見回しました。

 機長席と副操縦士席、それから隅の機関士席に、操縦士達がそれぞれ身を縮め、または床に伏していました。

 

『ソルン市警だ、マルコ=スペンサー機長は無事か?』

『私がスペンサーだ、救出に感謝する』

 

 犯人達に殴られたのでしょう、スペンサー機長は顔にたくさんの青痣と腫れを作り、痛々しい姿でした。

 僕は彼に手を貸して立ち上がらせ、

 

『状況は? 救急が必要な者はいないか?』

『殴られはしたが、死にはしないよ。他の乗員も同じだ。客室の方は?』

『制圧済みだ。犯人は確保、人質も部下達のチームが避難と救助をしている。戦闘に巻き込まれた者は今のところ確認されていないが、乗員乗客に誰がいて誰がいないか僕らでは分からない。協力を要請する』

『もちろんだ。退避経路は客室のドアか?』

『後部ドアだ。チームが誘導してる、指示に従って乗員乗客の確認をしてくれ』

『了解だ………ひとつ、聞かせて欲しいんだが』

『どうした?』

『……乗客がひとり、殺されたと思うんだが、誰が殺されたんだ?』

『殺されていない』

 

 僕はきっぱり告げました。

 するとスペンサー機長は非常に驚いた顔で息を呑みました。

 

『……本当か?』

『本当だ。彼女は機外で僕らと合流し貴重な情報を提供してくれた。突入成功は彼女のおかげだ。彼女の勇気を称えてくれ。さ、脱出だ』

 

 僕は機長達3人の操縦士を避難させ、1人操縦室に残りました。

 翼人たちは昏倒していて起きる様子はありません。

 後で彼らへの尋問が行われ、このハイジャック事件の関係者を洗い出せるでしょう。

 僕は翼人たちへ拘束具を付けるため近付こうとした、その瞬間。

 

 

 

 

 

   ぞ  わ  り 

 

 

 

 

 

『!?』

 

 あのときの、おぞましい気配をなんと呼ぶのか、僕は知りません。

 殺意とも敵意とも違う、魔力に近いが何かが異なる、謎の力の気配。

 それが、操縦室を丸ごと呑み込みました。

 

 僕は咄嗟に魔剣で吸収しようとしましたが

 

『が、ぐ、グガガアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!』

 

 絶叫と、喚声、苦しみ悶えるその声は、倒れ伏した翼人のふたりからでした。

 彼らの顔には、何かの文様が浮かび上がっていました。

 雲や霧を意匠にしたような、力を帯びた紋章。

 あの魔法耐性の高い翼人が、手足と翼をばたつかせ、苦しみ藻掻いていました。

 

『呪殺の魔法…? そんな馬鹿な』

 

 呪い殺しは御伽噺の中の魔法です。いまだ実現されていない、未知の魔法のひとつでした。

 まことしやかに噂される使い手の伝承だけがあり、誰もその魔法を知りません。魔剣でもそれを発現させたものはいません。

 しかしあのとき、目の前で悶絶していた翼人たちは、明らかに何かの呪いを受けていました。

 

 ……そのとき、僕ははっとして操縦席から、外を見ました。

 

 滑走路を外れた荒野、日の落ちた宵闇の中。

 飛空艇からの照明が届くぎりぎり範囲。

 

 

 

 

 そこに、白い女がいました。

 

 

 

 

 僕にニコレッタ=ネロと名乗った女性です。

 黒いサングラスの向こうで、僕と目が合いました。

 すると彼女はにっこりと笑いました。微塵も敵意や悪意のない、無垢の表情で。

 

 そして彼女はハンチング帽を無造作に捨て、サングラスを外しました。

 

 ―――――限りなく、どこまでも白に近い、薄い薄い金色の瞳が晒されたんです。

 

 光を返さない、妖魔のような眼。

 視えているのかも分からないその双眸で、いたずらっぽくウインクし、白い指を一本、口の前に立てて、

 

 

 

      ご   め   ん   な   さ   い   ね

 

 

 

 唇を、そう動かしていました。

 そうして、彼女は幻のように宵闇の中へ消えました。

 

 

 

 

『―――――――デス、フォッグ………』

 

 

 

 呪いを受けた翼人は最後にそれだけ言い、完全に事切れました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………後で分かったことですが、ソルンジャーナル社にニコレッタ=ネロという白い髪の女性はいませんでした。

 正確にはニコレッタ=ネロという女性社員はいましたが、全くの別人でした。

 名前を勝手に借りていた、別の誰かだったんです。

 まるで幻でした。

 彼女が何者で、なんのために僕に近付いたのか、未だに分かっていません。

 

 

 

 

 あの白い女性はともかく。

 こうしてセルトリア飛空2112便のハイジャックは、収束することが出来ました。

 事件は終わったんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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