「間もなくオーブ領海を抜けます」
「降下作戦はどうなってるのかしらね。カーペンタリアとの連絡は、まだ取れない?」
「はい。呼び出しはずっと続けているんですが」
ミネルバはザフトの降下作戦にあわせて出港、もし連合にこちらの動きを察知されても来られないタイミングはこれしかなかった。
味方を囮にしているようで気が引けるが単艦のこちらは仕方がない。
「こちらの勢力圏に入るまでは援護はないと考えた方が良いですね」
「そうね」
エリアはパイロットスーツを着込み、ブリッジで待機していた。
もしもの際に備えるために、その心配は的中することになる。
「本艦前方20に多数の熱紋反応」
「!?」
「これは地球軍艦隊です。ステングラー級4、ダニロフ級8、他にも10隻ほどの中小艦艇を確認。本艦前方左右に展開しています」
「ええぇッ!」
「どういうことですか、オーブの領海を出た途端に…こんな」
「本艦を待ち受けていたということか、地球軍は皆カーペンタリアじゃなかったのかよ」
動揺するブリッジクルー。
そんな中、タリアもエリアだけは冷静に考えていた。
「後方オーブ領海線にオーブ艦隊展開中です」
「砲塔旋回、本艦に向けられています!」
「そんな!何故!?」
「領海内に戻ることは許さないと。つまりはそういうことよ」
「まさに前門の虎後門の狼か」
「どうやら土産か何かにされたようね。正式な条約締結はまだでしょうに。やってくれるわね、オーブも」
「艦長…」
「私はグフに」
「たのむわ、コンディションレッド発令。ブリッジ遮蔽。対艦、対モビルスーツ戦闘用意。大気圏内戦闘よアーサー分ってるわね」
「は、はい!」
「コンディションレッド発令。コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ」
エリアがブリッジから出ていくと同時にブリッジが戦闘艦橋に移動しメイリンの声が艦内中に鳴り響く。
「レッドって何で!」
「知らないわよ、何であたしに聞くの?」
念のためブリーフィングルームで待機していたシンたちも訳が分からずハンガーに向かう。
「艦長、タリア・グラディスよりミネルバ全クルーへ」
「最終チェック急げ!」
続いて艦長のタリアから現状を伝える声が響く。
「現在本艦の前面には空母4隻を含む地球軍艦隊が、そして後方には自国の領海警護と思われるオーブ軍艦隊が展開中である」
「空母4隻!」
「後ろにオーブが!?」
「地球軍は本艦の出港を知り、網を張っていたと思われ。またオーブは後方のドアを閉めている。我々には前方の地球軍艦隊突破の他に活路はない。これより開始される戦闘はかつてないほどに厳しいものになると思われるが、本艦はなんとしてもこれを突破しなければならない。このミネルバクルーとしての誇りを持ち、最後まで諦めない各員の奮闘を期待する」
それぞれMSに機乗した三人は絶望的な状況に息を飲む。
「聞いての通りだ。短期間ながら多くの経験を積んできた我々だがそれ以上の試練がこれから待ち受けている。ルナマリア、レイは甲板上で接近するMSを叩け。私とシンは空中で遊撃戦闘、ミネルバから離れないようにしろ」
「「「了解!」」」
「互いが互いを援護できる位置取りを意識しろ。敵が多かろうがやることは変わらん。シン、今回は敵が多い足を止めるな」
「了解です!」
「ランチャー2、ランチャー7、全門パルシファル装填。CIWS、トリスタン、イゾルデ起動!」
「イゾルデとトリスタンは左舷の巡洋艦に火力を集中。左を突破する!」
「はい!」
「カタパルト推力正常。針路クリアー。コアスプレイダー発進どうぞ!」
「シン・アスカ、コアスプレイダー、行きます!」
「続いてグフカスタム発進どうぞ!」
「エリア・ノイエフォード、出る!」
「ザク、レイ・ザ・バレル機発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。ルナマリア機発進スタンバイ。ウィザードはガナーを装備します」
「海に落ちるなよ、ルナマリア。落ちても拾ってはやれない」
「意地悪ね」
エリアの指示通り、レイとルナマリアは甲板上で支援。エリアとシンは空中で遊撃戦闘を開始する。
「ミネルバは艦隊の向かって左側から突破するつもりだ。右舷からMSが来るぞ」
「はい!」
足の早いインパルスか敵のMS郡に突っ込み、ウィンダムやダガーが散開する。
インパルスに注意が向いたダガーをビームガトリングで蜂の巣にするとすれ違いざまにウィンダムを真っ二つにする。
インパルスもライフルで次々とダガーらを撃破し序盤は順調だった。
「っ!」
だがこちらが敵機を次々と撃破しているが数が減らない。
空母から増援が投入されどんどん追い込まれていく。
「ちょっとあの数…冗談じゃないわよ!」
「余計な口きいてる暇があるのか!」
あまりの物量に愕然とするルナマリアの声に内心同意しながらも声を出す。
「慌てるな!一機ずつ確実に減らしていくんだ!」
「教官!」
「シン、一旦下がる。ミネルバの護衛が優先だ!」
「はい!」
すると敵の空母から巨大なMAが離陸しこちらに迫ってくる。
「あれは?」
スレイヤーウィップでダガーの飛行ユニットを両断しながら緑のMAを見るとミネルバからタンホイザーの発射警告がメイリンから通達される。
すぐに射線から退避するエリアとシン、タンホイザーが放たれMAに直撃、周囲の艦艇やMSもその余波に巻き込まれ撃破されるがMAとその後ろの艦艇は無傷で残っていた。
「タンホイザーを防いだ?」
「シン、迎撃に出る。あのMAをミネルバに近づけるな!」
「はい!」
砲をミネルバに向け、接近してくるMAにサーベルで斬りかかるインパルスだが避けられ逃げられる。エリアはその上からガトリングを放つがリフレフターに阻まれる。
「上にリフレフターか」
すると攻撃がこちらに集中し一旦距離をおく。
その隙にインパルスが近づくとMAはクローを展開、インパルスに襲いかかる。
下に回り込見たいが海面スレスレを飛んでいるため潜り込めない。
それに援護に来たMSたちの対応もしなければならない。
「押される!」
「なんて火力とパワーだよ!」
MAの対策を思案しながらエリアはスレイヤーウィップでウィンダム二機を同時に仕留める。
そうしていると後方に展開していたオーブ軍艦隊がミネルバに向けて砲撃を開始。
「オーブが…本気で…」
その事実に唖然とするシンにMAがクローを構えて近づいているの察知したエリアはグフで突っ込む。
「止まるな、シン!」
「っ!」
インパルスを逃がすことには成功したがグフの左足にクローがめり込む。
「く!」
「教官!」
「私に構うな!」
グフの左足が引きちぎられ、MAからタックルを受ける。
その衝撃で一瞬、意識を失ったエリアはそのまま海面に墜ちていく。
「ふざけるなぁ!」
エリアがやられたのを見た瞬間、シンの溜めていた怒りが頂点に達しぶちギレる。
その瞬間、シンは自身の頭がクリアになるのを実感していた。
グフにとどめを刺そうとしていたMAに牽制しつつミネルバに向かう。
「エリア!」
「っはぁ!」
息を大きく吸いながら意識を取り戻すエリアは機体のパワーを無理矢理上げ、シールドのガトリングを投棄、海面に激突する前に体勢を立て直す。
「ミネルバ、メイリン、デュートリオンビームを!
それかソードシルエットを射出!」
「早く!やれるな?」
「は、はい!」
インパルスのエネルギーはほぼ無い状態だったためミネルバに補給を要請。
普段のシンとは違う冷静な言葉に困惑するメイリンだがすぐに従う。
「指示に従って!」
「はい、デュートリオンチェンバースタンバイ。捉的追尾システム、インパルスを捕捉しました。デュートリオンビーム照射」
「死ね!」
デュートリオンビームで補給するインパルスを狙うMAだが真下からテンペストソードを構えて突っ込んでくるグフに対応できずに剣が下腹に突き刺さる。
そのまま剣を振り傷口を広げると左右の連装ビームガンの斉射を行いとどめを刺す。
「シン?」
MAの撃墜を確認するとそのままインパルスはソードシルエットと共に艦隊に向かいシルエットを換装対艦攻撃に出る。
「やるな」
エクスカリバーで次々と艦艇を撃破していくインパルスを見て笑みを浮かべるエリアも残った武装でシンが撃ち漏らした艦艇を破壊していく。
「うおぉぉぉ!」
最後の空母を破壊した所でエリアはインパルスの元に降り、肩に手を乗せる。
「良くやった、敵は撤退していく」
「教官…」
帰ってきた返事はいつものシンで少し安心するとエリアはグフでインパルスを持ち上げミネルバに帰投するのだった。
ーー
「レイ機、ルナマリア機、収容完了。インパルス、グフ、帰投しました」
「もうこれ以上の追撃はないと考えたいところだけど、判らないわね。パイロットは兎に角、休ませて、アーサー、艦の被害状況の把握急いでね」
「はい!」
「ふぅ」
「ダメージコントロール、各セクションは速やかに状況を報告せよ」
戦闘終了後、ブリッジではやっと一息着けた者たちが席に深々と座る。
「でもこうして切り抜けられたのは間違いなくシンのおかげね」
「ええ、おお、信じられませんよ!空母2隻を含む敵艦6隻ですからねえ、6隻!そんな数、僕は聞いたこともありません」
興奮気味に話すアーサーの言葉に同意しつつシステムが自動で計上していた数値を見る。
シンはMS12機、空母2隻、その他艦艇4隻
エリアはMS29機、MA1機、その他艦艇2隻
と計上されていた。
シンの戦績が目覚ましいがエリアもエリアで損壊した機体で2隻も沈めたものだ。
ーー
「シーン!」
「あはは、おーい!」
「よくやったな」
「お疲れさん」
「すげーなおい」
「聞いたぜ、このー。すっげー活躍だったんだって?」
「いや、ほんとよくやってくれた」
無事に帰投したシンをハンガーで待っていた者たちが盛大に迎え人だかりができる。
当の本人はポカンとしており自身のしたことに対して驚いている様子だった。
「ふっ…」
それを見たエリアも少し笑みをこぼす。
ーー
「もう間違いなく勲章ものですよ」
「でもあれがインパルス…というかあの子の力なのね。何故レイではなく、シンにあの機体が預けられたのかずっと、ちょっと不思議だったけど。まさかここまで解ってったってことなのかしら。デュランダル議長は」
「かもしれませんね。議長はDNA解析の専門家でもいらっしゃいますから。いやぁそれにしても凄かったです。あの状況を突破できるとは、正直自分も…噂に聞くヤキン・ドゥーエのフリーダムだってここまでじゃないでしょう」
「ふふ、カーペンタリアに入ったら報告と共に叙勲の申請をしなくちゃらならいわね。軍本部もさぞ驚くことでしょうけど」
興奮冷めないといったばかりのアーサーを見て笑うタリア。それは同じ思いで先程とはうって変わってブリッジはお祝いムードに包まれていた。
ーー
「さあ、ほらもうお前ら…いい加減仕事に戻れ!カーペンタリアまではまだあるんだぞ」
「けどほんとどうしちゃったわけ?なんか急にスーパーエース級じゃない。火事場の馬鹿力ってやつ?」
整備士たちが散っていく中、変わりにルナマリアが駆け寄る。
「さあよく解らないよ、自分でも…教官がやられたのを見て頭来て、ふざけるなって思ったら、急に頭の中クリアになって」
「ブチ切れてったこと?」
「いやそういうことじゃあ…ないと思うけど」
「なんにせよお前が艦を守った。生きているということはそれだけで価値がある。明日があるということだからだ」
ふわふわした言葉に対しレイは褒め、そのままいつものように立ち去るそれを嬉しそうにするシンとルナマリアの肩を掴んだのはエリアだった。
「お前のおかげで命拾いしたよ、シン」
「そんな!エリアさんがあの時、庇ってくれなかったら自分がどうなっていたか!」
「仲間の至らないところを補い合うのが仲間だ。気にするな。ルナマリアもよく踏ん張ってくれた、ミネルバの損傷が低かったのもレイとお前のおかげだ」
「いえいえ!」
エリアに褒められさらに嬉しそうにする二人を見てエリアも優しい笑みを浮かべる。
「カーペンタリアに着いたらご飯行こうか。良い店を知ってるんだ」
「え、本当ですか!」
わいわいと賑やかに話ながら歩く3人は心の底から楽しそうにしていた。