黒海、ディオキアのザフト軍基地。
「ありがとう!わたくしもこうして皆様とお会いできて本当に嬉しいですわぁ!」
「うおぉぉ!」
「勇敢なるザフト軍兵士の皆さん!平和のために本当にありがとう!そして、ディオキアの街の皆さん!」
「うおぉぉ!」
「一日も早く戦争が終わるよう、わたくしも切に願って止みません!その日のためにみんなでこれからも頑張っていきましょう!」
ミネルバの到着と時を同じくして開催されていたラクス・クラインのゲリラライブに基地は大盛り上がりであり、一緒に降りてきていたエリアとシンは人混みに揉まれながら進んでいた。
「凄い人だな」
「そ、そうですね」
『…胸は私の方が大きいぞ』
遠くで歌うラクスを見たシンはふと前の出来事がフラッシュバックしてしまい頭を振る。
「見たいのか?」
「え!?」
突然の言葉にパニックになりながらエリアを見るシンだったがそれがライブに対する言葉だと理解し顔を赤くする。
「いえ!そんな!それより飯に行きましょう!基地の飯、楽しみだなぁ!」
一瞬だけ想像してしまった彼女の裸の姿をこの日、シンは頭から離せなかった。
ーー
「エリア・ノイエフォードです」
「やあ、待っていたよ」
ディオキアの高級ホテルで休養を取っていたデュランダルの元にエリアが呼ばれていた。
「レイやタリア達も呼んでいるがまずは君と話したくてね」
デュランダルに用意されたスイートルームの椅子に座ったエリアは反対に座っていたデュランダルを真っ直ぐと見つめる。
「知っての通り、これで君への義理は果たしたと思っているが」
「はい、もとより議長の計画に意を唱えるつもりはありません。フリーダムの件、心より感謝しております」
「フレアモーターの件もそうだが君の憎悪は私の想像を越えてくる事が多々ある。期待しているよ」
「はい」
お互いの目的のために利用しあっているとは言え、二人の間には独特の緊張感が走っていた。
「レイはもとより、シン・アスカも議長の力となりましょう。ですが」
「…」
「シン・アスカに関しては私に任せていただけないでしょうか?」
「ほう」
エリアの様子にデュランダルは興味深そうに微笑む。
「分かった。君に任せよう」
「ありがとうございます」
「そろそろ皆が来る頃だ。行こうか」
「はい」
ーー
そしてシンたちと合流したエリアは改めて議長と面会し戦争について、ロゴスについて話している中。エリアは静かにシンを見つめていたのだった。
その後、議長のご厚意により、ホテルに泊まったエリアたちは朝のアスランとミーアのハプニングを得て朝食のために一回のレストランに全員で足を運ぶと呼び止められた。
「エリア?」
「ん?」
「エリアじゃないか!久しぶりだな!」
「ハイネ!」
声の主がハイネだと分かるとエリアも嬉しそうに駆け寄り、話し始める。
「久しぶりだな、元気にしてるか」
「もちろん。やはりあのグフ、ハイネだっんだな」
「…」
仲睦まじく、話し始めた二人を見てシンはほんの少しだけ不機嫌になり、ルナマリアもヤレヤレと言った風に肩をすくめる。
「え、ミネルバに?」
「あぁ、だからちゃんと挨拶したくてな。ちょうど会えてよかったぜ」
「ハイネが来てくれるのはこちらもありがたい」
二人が話していると腕を組んだアスランとミーアが現れる。四人で話す流れになったがミーアはマネージャーに連れていかれついにミネルバ隊とハイネの五人が集まった。
「アスラン、シン、ルナマリア。彼はハイネ・ヴェステンフルス。前の大戦で私がお世話になった人だ。彼もミネルバ所属になるらしい」
「ミネルバに乗られるんですか!?」
「ま、そういうことだ。休暇明けから配属さ」
「艦の方には後で着任の挨拶に行くが、なんか面倒くさそうだよな、フェイスが三人っては」
「いえあの…」
「ま、いいさ。現場はとにかく走るだけだ。立場の違う人間には見えてるものも違うってね。とにかくよろしくな。議長期待のミネルバだ。なんとか応えてみせようぜ」
「はい、宜しくお願いします」
こうしてハイネがミネルバ隊に加わることになったのだ。
ーー
「どういう関係なんですか?」
「俺にも分からん。俺と彼女の配属は違ったし、その間に知り合ったのならな」
エリアにとってハイネは頼れる先輩と言った感じであり、アスランやシンに見せる顔とはまた違った顔を見せる彼女の姿にシンはちょっと不満であった。
「なんとなく聞かなかったが」
「なんです?」
「お前はなんでエリアのことが好きなんだ?」
「ぶっ!」
アスランの言葉にシンは飲んでいたコーヒーを少しだけ吹いてしまう。
「なんで!?」
「知らないのはエリアぐらいだと思うぞ」
「ちゃんと向き合ってくれたんですよ。アカデミーの時に…それだけです」
「…」
「なんです?」
「いや、なんでもない」
普通に答えてくれるとは思わず呆気にとられるアスランは慌てて取り繕うと持っていたコーヒーを飲み始める。
そんなアスランをジト目で見ていたシンはふとアカデミー時代を思い出した。
ーー
当時、やること成すこと全部、空回りして、イライラして、結果は全然ダメで、自暴自棄になっていたシンをちゃんと見ていてくれた唯一の人間がエリアだった。
「なんで同期を殴ったんだ?」
「…」
ナイフ術訓練で必死にやっていた自分を小馬鹿にしてきた同期を殴り飛ばし大喧嘩になった事について事情聴取を受けており、それを担当したのがその日の当直教官であるエリアであった。
「元々、仲が悪かったのか?」
「べつに…」
「じゃあ、授業中に何かあったんだろ?」
「アイツが馬鹿にしてきたから」
「だから殴ったのか?」
「…」
不貞腐れていくシンを見てエリアは困ったように自身の頭を撫でた。一瞬、どうすればと逡巡したが色々と話してみることにした。
「君の成績は下の中と言ったところか。だが訓練をサボったことはないし、自主練もしっかりしている。素行に対して意欲はあるようだな」
シン・アスカという少年のデータを読みながらエリアは独り言のように話を続ける。
「強くなりたいか?」
「その為にここに来たんだ」
燃えるような赤い瞳に込められた強い意思を感じ、エリアは静かに頷く。
「何を教えて欲しい?」
「全部」
「迷いがないな。気に入った、道場に行くぞ」
エリアは上着を脱ぎ捨て、シンを連れて道場に向かう。
先程まで不貞腐れていたシンもしっかり着いてきており、改めて対峙する。
「色々と鬱憤が溜まってるだろう?相手してやる」
「おらぁ!」
昔のイザークを思い出して少し笑うエリアと凄まじい気迫で迫ってくるシンはぶつかり合うのだった。
ー2時間後ー
「意外と粘るな」
「はぁはぁ…」
文字通りボコボコにされたシンを見下ろしているエリアは息一つ乱さずに笑っていた。
「まぁ、お前が頼むならいくらでも教えてやる。やる気のあるやつは歓迎だからな」
「覚えてろよ…」
疲れ果て、眠るシンを背負ってエリアは部屋まで運んでやったのだった。