愛しきものたちへ   作:砂岩改(やや復活)

2 / 16
第2話

 アーモリーワン軍事工業区画

 

「軍楽隊最終リハーサルは、一四〇〇より第三ヘリポートにて行う。」 

 

「違う違う!マニバ隊のジンは全て式典用装備だ!」

 

「マッケランのガズウートか!早く移動させろ!」

 

「ライフルの整備、しっかりやっとけよ!明日になってからじゃ遅いんだからな!」

 

「隊第二整備班は第六ハンガーへ集合せよ」

 

 アーモリーワン - テンから成るアーモリー市の一つでプラントにおける軍需工場を担っている重要拠点である。

 その工業区画として建設された基地の敷地内では作業員とMSが慌ただしく動き回り明日の式典の準備をしていた。

 その中をジープで移動していたのは明日の推進式の主役。

 新造艦ミネルバのMS隊、隊長エリア・ノイエフォードとその隊員、ルナマリア・ホークと整備兵のビィーノだった。

 

「羽を伸ばすのもいいが、こう休み気分ではな」

 

「教官!まえ!」

 

「だから、隊長だと…うお!」

 

 車を運転しながら話していたエリアだったがヴィーノの悲鳴に近い叫びに驚きながらハンドルをきる。

 灰色のショートヘアをなびかせながら冷や汗を拭うエリア、MS用の倉庫、その影から出てきた式典仕様のジンがこちらに気づかずに前進してきたのだ。

 

「危なかった…」

 

 エリアは車に急制動をかけてジンの足の間をくぐり抜けさせるとホッと一息つくのだった。

 

「はぁ…なんかもうごっちゃごちゃですね」

 

「仕方ないよ。こんなの久しぶりってか、初めての奴も多いんだし、俺達みたいに…でもこれで、ミネルバもいよいよ就役だ。配備は噂通り月軌道なのですよね、教官?」

 

 肝を差冷やした三人はそれぞれの感想を漏らすが特にルナマリアは堪えたようだ。エリアの隣である助手席でぐったりとしていた。

 

「一応は機密事項なのだがな…月軌道であるのは間違いないな…それと教官と呼ぶな」

 

「すいません」

 

「まったく…」

 

 アカデミーの癖が中々抜けずエリアのことを教官と呼び続けるヴィーノに対してヤレヤレと言った風に肩をすくめると車を止める。

 

「…着いたぞ」

 

 灰色の髪を短く切り揃えたエリアは後部座席にいるルナマリアに到着を告げると掛けていたサングラス越しに遠くに見える母艦、ミネルバを見やる。

 

「では、私はここで…機体はまだ格納庫ですから」

 

「あぁ…明日が推進式だが焦ることはないしっかりとな」

 

「了解です、教官」

 

「私はもう教官じゃない」

 

「すいません」

 

 反省の色が見られないルナマリアに苦笑いしつつエリアはヴィーノを乗せてミネルバに向かう。

 自身も機体調整を行うためだ。

 

「きょ…じゃなくて、エリアさんの機体って主力機評価でザクに負けた機体ですよね?」

 

「あぁ、扱いが難しくてな…性能は良かったのだが操縦性に難ありとな」

 

 エリアの乗機はグフイグナイデットカスタム、性能は折り紙付きだが性能評価で負けた実験機を実践型に改良したタイプで現実的とは言えない。そんな機体を任されているのは理由があった。

 

「でもなんでセイバーのパイロット辞退したんですか?」

 

「まぁ、色々あってな」

 

「そうですか」

 

 前の記憶のせいでどうもガンダムタイプに対し苦手意識がある。

 二度、戦ったことがあったが正直、勘弁してほしい。

 

「どのような機体でも整備されていなければただの鉄の塊だ。頼りにしているぞ」

 

「はい!」

 

 エリアの言葉にヴィーノは若干照れながら答える。彼女はルナマリアやヴィーノたちが訓練兵の時に教官として教鞭を振っていた。

 その頃から彼女はひいき目で決して見ず、実力だけを評価してくれる教官の1人でさらに美人だ、訓練は厳しいがアカデミーの生徒には絶大な人気があった。

 そんな憧れの教官と卒業後もこうして話せるのはヴィーノたちアカデミー生にとって嬉しい限りであった。

 

(ガンダムか…)

 

 一方、エリアは浮かない顔を浮かべる。

 ストライクやフリーダム、ジャスティス、ツインフェイスの機体に対し思うところは多々ある。

 正直に言えば乗りたくないというのが本音であった。

 

(軍属として言える分けないけど…)

 

ーー

 

 MS六番ハンガー内、ザフト軍の新型機MSガンダムが3機格納されている施設は異様な雰囲気に包まれていた。

 血にまみれた作業員が倒れており立っていたのは3人の若い男女だった。

 

「スティング!」

 

「よし!いくぞ!どうだ?」

 

「OK、情報通り」

 

「いいよ」

 

 六番ハンガーの襲撃犯、スティング、ステラ、アウルは格納されていたガンダム3機のコックピットに乗り込みシステムを起動させる。

 

「反応スタート。パワーフロー良好。全兵装アクティブ。オールウェポンズ、フリー。」

 

「システム、戦闘ステータスで起動」

 

「ぅぅ…くっ!」

 

 3機のガンダムが起動し動き始める中、整備兵の一人が息絶え絶えに警報スイッチを押すのだった。

 

ーー

 

ウウゥーーーー!!

 

 ミネルバに戻り、艦長であるタリア・グラディスと話していたエリアが基地内に鳴り響く警報を耳にしたのはその時だった。

 

「なんだ?」

 

「艦長!!」

 

「どうしたの!?」

 

 警報とともに周囲を見渡すミネルバクルーたちの中で一番最初に叫んだのはオペレーターのメイリンだった。

 

「六番ハンガーからの警告音です、それと同時にその周囲から爆発が」

 

「状況はどうなっている!」

 

「無線が混乱していて」

 

 エリアが予備のインカムを耳に装着し耳を傾けると無線は言っていたとおり大混乱だった。

 

「発進急げ!」

 

「六番ハンガーの新型だ!何者かに強奪された!」

 

「モビルスーツを出せ!取り押さえるんだ!」

 

 いくつかの拾える音声を選別して耳を傾ける彼女の背中にミネルバ艦長であるタリアが話しかける。

 

「どう、エリア?」

 

「六番ハンガーの機体が強奪された!?」

 

「えぇ!そこにあるのは新型の機体じゃないですか!?」

 

 エリアの言葉にタリアは顔をしかめ副官のアーサーはすっときょんな声を上げる。

 

「メイリン、シンを呼び戻せ!シルエットはソードを選択、プラントに出来るだけダメージを負わせるなと伝えろ!」

 

「は、はい!」

 

 矢継ぎ早に出されたエリアの言葉を急いで呑み込んだメイリンはコンソールを操作する。

 

「艦長、グフで出ます!」

 

「頼むわ」

 

「了解!」

 

 インカムを耳に装着したままエリアは走ってMSハンガーに向かう。走りながら彼女はハンガーに連絡を取りグフの発進準備をさせるのだった。

 

ーー

 

「教官が!?」

 

「俺もハンガーに向かう!急げよ!」

 

 ミネルバの外にいたシンとヨウランは全力で走りながら現状を確認していた。急いでミネルバに乗り込み、自身の持ち場に向かう。

 

「教官!機体が強奪されたって!」

 

「そうだ、実戦だぞ覚悟しろ!」

 

 ハンガーに隣接したパイロット待機室に向かったシンはお目当ての人物を見つけ出し声を掛けるが彼女はヘルメットとインカムだけ付けて機体に向かおうとする。

 

「駄目ですよ!そんな恰好で!?」

 

「シンはパイロットスーツをちゃんと着ろ!もしもの時は宇宙まで追撃しなければならん…私は強奪機の動きを抑えるからそれまでに来い」

 

「は、はい!」

 

 さっさと去っていったエリアを見送りながらシンは急いで着替えるのだった。

 

ーー

 

「機体は大丈夫です!」

 

「すまない!」

 

 機体の周囲から急いで離れていく整備兵をよそ目に彼女はグフを起動させる。

 

「機体を出すぞ!」

 

「進路オールグリーン!ハンガーブロックは味方の機体が入り乱れています、気をつけてください!」

 

「了解した!エリア・ノイエフォード、グフカスタム…出るぞ!」

 

 メイリンの言葉とともに彼女は機体を発進させる。突然襲いかかるGに懐かしさを覚えつつ機体を空に舞い上がらせた。

 

ーーーー

 

 その時、ハンガーブロックではアーモリーワンに訪れていたオーブの代表、カガリ・ユラ・アスハとその護衛、アスランは倒壊したハンガーから倒れてきた新型の量産型MS、ザクに乗り込みガイアと接触していた。

 

「ステラ!」

 

 苦戦を強いられていたステラに対しフォローするためにスティングはザクに向けてスラスターを吹かす。

 迫るカオス、ガイアに注意を向けていたアスランは反応に遅れてしまった。

 

「マズい!」

 

「はぁ!」

 

 その時、背後にいたカオスをタックルで吹き飛ばしたのは灰色に染まった機体。グフカスタムはシールドガトリングを放ち体勢の崩れたカオスを追撃する。

 

「ザクのパイロット!ガイアは任せるぞ!」

 

「わ、分かった!」

 

 エリアはザフトの共通回線を使い、戦闘していたザクに呼びかける。

 お互いに通信を交わしたエリアとアスランはお互い、その声に反応する。どこかで聞いたことのある声、エリアはあり得ないと考えその思考を中止させる。

 

「あの声…」

 

 一方、アスランはその声の持ち主に心当たりがあった。

 

「アスラン?」

 

「エリアなのか…」

 

 カガリが怪訝そうに話しかける一方、アスランはその表情を曇らせる一方だった。

 

ーー 

 

 グフの振るったテンペストブレードがカオスのシールドに阻まれる。

 

「っ!」

 

 向こうはガンダムタイプに対しこちらは試作量産機、パワー差ではこちらが数歩劣ってしまう。

 なら即時離脱でもう一度斬り込みに持ち込む。

 エリアはすぐさま膝でカオスのコックピットを蹴り飛ばすと飛行ユニットを起動させ距離を置く。

 

「赤服なみの操縦技術か…厄介だな…」

 

「こいつ、中々やるな…」

 

 敵の技量に舌を巻くエリアだがそれは相手であるスティングも同様だった。

 敵は予想以上にやり手だこう言う相手が出てくる前に撤退したかったが仕方がない、追撃されても面倒だ。

 

「アウル!」

 

 スティングは早々に決着を着けるため他で暴れていたアウルを呼び出すのだった。

 

ーー

 

「シン!」

 

「うおぉぉぉ!」

 

「なに!?」

 

 エリアのグフに気を取られた瞬間にソードインパルスが上空から強襲。

 エクスカリバーをカオスに振るうがすんでのところで気づいたスティングはスラスターを吹かし回避する。

 

「遅くなりました!」

 

「いや、良いタイミングだ」

 

「はい!」

 

 エリアの言葉に笑みを浮かべながら答えるシン。

 こうしてザク、グフカスタムそしてインパルスは強奪機と対峙するのだった。




 グフイグナイデットカスタム

 ザクとのコンペンディションで負けた機体だが機体性能はザクを上回る性能を有していたためそれを惜しんだ上層部がエリアに機体のデータ収集を目的に配備したもの。
 なおエリアのカスタム機は近距離を主としたグフの中・長距離戦闘の脆弱さを補うためにシールドにビームガトリングを装着している。


 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。