《そうか、残念だ》
《申し訳ありません、ですが協力は惜しみません》
《ありがとう、君も君の目的が果たされる事を祈るよ》
《はい、もう会うことはないでしょう。サトーさん》
ーー
「ん?」
持っていたペンを落とした音で目が覚める。
少し前の事を思い出した。
もう思い出すことはしないと決めていたのだが、緊張しているのだろうか。
「緊張か、笑えるな、そんなこと許されないと言うのに……っ!」
突然、襲いかかる吐き気を必死に堪え机にある薬を無理矢理飲み込む。
「あぁ、最悪だ…」
ぐったりと椅子にもたれ掛かるエリアは静かに虚空を見つめる。
「もう引き返せんな…」
ーーーー
ユニウスセブン落下事件、後の《ブレイクザワールド》と言われるこの事件の事態を知ったミネルバは現場に急行することとなった。
「地球への衝突コースだって本当なんですか?」
「間違いない」
ミネルバの次の目的地であるユニウスセブンとそこへ向かう理由を告げたエリア。
それを聞いて一同に思い空気が流れる。
「はぁ~、アーモリーでは強奪騒ぎだし、それもまだ片づいてないのに今度はこれ?どうなっちゃってんの」
思わず頭を抱えるルナマリア。
彼女の心情は察してあまりある、ミネルバクルーの約3割は実践未経験者であったアカデミー卒配の者ばかりだった。
それが実戦の連続に加え今度は世界の危機と来た、頭も抱えたくなる。
「で、今度はそのユニウス7をどうすればいいんですか?」
「現在、ボルテールとルソーがメテオブレイカーを積んでユニウスセブンに向かっている」
「やはり、砕くしかありませんか」
レイは冷静に告げるとエリアも頷く。
「砕くって」
「あれを?」
「最長部は約8キロ、質量もかなりのものだ。その軌道を変更させることは不可能。地球衝突を回避したいのなら、砕くしか方法はない」
エリアはあくまでも冷静に言葉を発するがその口調は重々しい。
砕けなければ地球は滅びる、砕いたとしても隕石のシャワーが地球全土に降り注ぐ。
もうすでに手遅れなのだ。
「地球、滅亡…」
唖然とするヴィーノに対しヨウランは静かに言葉を紡ぐ。
「でもま、それもしょうがないっちゃあしょうがないか、不可抗力だろう。けど変なゴタゴタも綺麗に無くなって、案外楽かも。俺達プラントには…」
「くっ!」
ヨウランの言葉をたまたま聞いていたカガリは頭に血を上らせるがそれを制するようにエリアが口を開いた。
「確かに、奴等の自業自得だ。地球連合がユニウスセブンを核攻撃しなければこのような事態は起きなかっただろう」
結局、元を辿ればそうなる。
ユニウスセブンが地球軌道上にあるのもユニウスセブンが落ちた始めたのも全ての原因はそこに辿り着く。
「だがやられたことをやり返して、またやり返される。それで起きたのがあの戦争だ」
「……」
あくまでもエリアは冷静に話を進める。
「故郷を失う痛みを知るからこそ、我々は同じことをしてはならない。相手を許せとは言わない、私はナチュラルをどうしようもないほど憎んでいる」
「教官…」
「お前たちだけはせめて、そうならないでくれ。人として正しくあろうとしてくれ、後悔のないようにな」
実感のこもった言葉に全員が言葉を失う。
「すいません教官、不用意でした」
「ヨウラン、お前が本気でそんなことを言っていると思っていない。そう言うのは身内の時だけにしておけ」
そう言うとエリアは休憩室の後方に視線を向けるとそこにはカガリとアスランの姿があった。
「あっ…」
「ふふっ」
ーー
「代表は思ったより激情家なのですね」
「いや…そうだな。まだ未熟だと思っている」
「ありがとう、エリア」
「気にするな」
流石にお互い気まずいのでエリアはアスランとカガリを連れて展望ブロックに移っていた。
休憩室から持ってきたコーヒーを二人に渡したエリアは自分用の紅茶を飲む。
「殺しあった相手とこうして話すというのは奇妙な感覚ですな」
「殺しあう?」
「ヤキンの時の灰色のゲイツ。それが彼女だ、俺のアカデミーの同期でもある」
「ジュリを殺した…」
「まぁ、お互いに思うところはあるでしょう」
ヤキンで殺気の強い敵を思い出してカガリはゾッとする。
実際に彼女に殺されかけたのだから仕方ないだろう。
「それと遅れましたがシンの失礼な態度、大変失礼しました」
「あの、黒髪の」
議長にミネルバを案内されているときに突っかかってきた少年を思い出す。
そう言えば、休憩室でも凄い形相でこちらを睨み付けて来ていた。
「なんで彼はあんなにカガリに突っかかってきたんだ?」
「私もよく知らんが、オノゴロの攻防戦で家族を全員失ってプラントに移住してきたらしい」
アカデミーでも上位の成績であったがどこか精神的に不安定な面が見える。
他の教官は思春期の特有の奴だと捉えているようだがとてもそうとは思えない。
「しまった、生徒の事をむやみに口外するのはいかんな」
「エリア、もしかしてアカデミーに?」
「まぁな」
そう言えば教官であったことは教えてなかったと思い出す。
知ってるのはイザークとディアッカぐらいか、アカデミーの同期と言ってもほとんど前大戦で戦死してしまっていないし。
「我々は過去を忘れる、だなら紡いで行かねばならない。そう議長に言われてな」
「議長が…」
「議長がいなければ私はここにいない」
《ノイエフォード隊長、ブリッジにお越しください》
話していると休に呼び出しがかかり一礼をしてその場から立ち去るエリア。
それを複雑そうにアスランは見送るのだった。
ーー
「こうして改めで見ると、デカいな」
「当たり前だ、住んでるんだぞ俺達は、同じような場所に」
ナスカ級《ボルテール》そのブリッジでは落ちていくユニウスセブンを見つめるイザークとディアッカの姿があった。
「それを砕けって今回の仕事が、どんだけ大事か改めて解ったって話しだよ」
「いいか、たっぷり時間があるわけじゃない、ミネルバも来る」
「ミネルバね」
「……」
ミネルバにはエリアが乗艦していたはずだ、ディアッカの含みのある言い方にイザークは思わず口を紡ぐ。
「アイツ、大丈夫なのかよ」
「……」
イザークは暇があればかエリアの所に顔を出していた。
精神安定剤が切れれば暴れ自傷するといった薬漬けの生活を送っていた彼女を放って置けなかったのだ。
(エリア…)
ディアッカを中心とした破砕作業班たちはユニウスセブンに辿り着き、メテオブレイカーを設置した瞬間、黒色のジンがビームライフルを構え、イザーク隊のゲイツRを撃墜する。
「なにっ、なんだ!これは!」
「ジンだと!?どういうことだ!どこの機体だ!?」
「アンノウンです!IFF応答なし」
「なに?」
次々と撃墜されるゲイツRに対し攻勢を強めるジン、それを見てイザークは思わず歯噛みするのだった。
ーーーー
「モビルスーツ発進3分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す、発進3分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ」
「出るのか?」
「あぁ、破砕作業は戦闘じゃない。使える機体がまだあるなら」
「止めておけ…」
ザクに乗り込んだアスランに声を掛けたエリアの表情は真剣であった。
「お前はもう戦場に出るべきじゃない」
「だが…」
「あの戦いでお前は私以上に多くの人を失っている」
母のレノアは血のバレンタインで失い、そのレノアの復讐の取り憑かれたパトリックはその暴走が原因でアスランの恩師であるユウキに殺された。
そしてエリアの婚約者であったニコルも彼にとっては無二の友であった。
「オーブを安住の地としたならなぜ一市民として過ごさなかった」
「俺は俺に出来ることをしようとしただけだ」
「戦場に囚われたままだと私のようになるぞ」
「それは…」
アスランの答えを聞かずにエリアはザクから離れ、愛機であるグフに向かう。
「忠告はしたぞ!」
「発進停止。状況変化。ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中!」
さらに問い詰めようとしたアスランの声を遮るようにメイリンの声がハンガー内に響き渡る。
「えぇ!?」
「アンノウン?」
「各機、聞いての通りだ。我々はジュール隊の破砕作業を妨害する敵機を迎撃し破砕作業を支援する」
動揺するシンたちであったがエリアの声で落ち着きを取り戻す。
「深入りする必要はない、襲われている味方機のカバーが我々の任務だ。遊撃行動を意識しろ」
「「「了解!」」」
新米パイロットばかりの部隊を締めるエリアの技量に感嘆するアスラン。
仮とは言え隊長を任されていたときを思い出す。
その間に各機、装備を換装し発進準備を終わらせる。
「シン・アスカ。コアスプレイダー、行きます!」
「レイ・ザ・バレル。ザク、発進する!」
「ルナマリア・ホーク。ザク、出るわよ!」
「アスラン・ザラ。出る!」
「エリア・ノイエフォード。グフ・カスタム出撃する!」
後にブレイクザワールドと言われる事件の幕開けである。