ミネルバのタンホイザーによるユニウスセブンは何とか無事に成功したもののその破片は地球全土に降り注ぐこととなった。
その最中において幸いだったのは大気圏を落下したアスランとシンが無事に帰還したことであった。
「教官!」
「教官じゃなくて隊長な…でも良くやった偉いぞ」
「はい!」
優しく頭を撫でて誉めてあげるとシンは心底嬉しそうに笑顔を浮かべる。
それを心配するカガリを相手にしていたアスランは年相応の顔をする彼を見て少しだけ安心していると突然の揺れがミネルバを襲った。
「なに?まだ何か!?」
「地球を一周してきた最初の落下の衝撃波だ、おそらくな」
「……」
レイの解説に思わず意気消沈する一同。
邪魔が入ったとは言えユニウスセブンの落下を阻止できなかったのは事実だ、自分達は救える立場にいのに救えなかったその実感が湧いてきたのだ。
「自惚れるな!」
「「「っ!」」」
そんな空気で言葉を発したのはエリアだった。
「この破砕作業の失敗で何万何億の人が死んだかは分からない。だがお前たちはそれ以上の人間を救った!」
「教官…」
「お前たちは出来る限りのことをした、それだけで十分だ!」
「ありがとうございます」
少しだけ安心そうにするルナマリアを見て微笑むエリア、その姿を見たアスランは昔の光景をフラッシュバックさせる。
《私たち、婚約者になったんだ》
《ちょっと恥ずかしいですけどアスランには報告しておこうと思いまして》
《そうか、おめでとう。お似合いだと思うよ》
「各員、これよりミネルバは太平洋に着水する。規定にしたがい待機されたし」
そんな時、艦内放送が鳴り響き全員が慌ただしく動き出してしまうのだった。
「警報、総員着水の衝撃に備えよ」
着水の衝撃を耐えると艦内は静かになる。
「着水完了、警報を解除。現在全区画浸水は認められないが今後も警戒を要する、ダメージコントロール要員は下部区画へ」
こうしてミネルバは無事に地球に降り立ったのだった。
ーー
ミネルバが着水し束の間の平穏が訪れておりエリアが部屋で作業しているとレイがタブレットを片手に部屋に訪れる。
「失礼します、隊長。本日の訓練なのですが」
「訓練は規定通りに通ってもらえば良い、任せる」
「了解です、いつも通り訓練データはいつものファイルに送っておきます。そしてルナマリアからの提案なのですが」
「ん?」
ユニウスセブンにおける戦闘データを纏めながらレイの話を聞いていると一瞬だけ手が止まる。
「露天甲板で行いたいと申し出がありました」
「露天甲板で?」
「はい」
「分かった、少し待て…」
「ありがとうございます」
レイとの話を続けながら申請書を簡単に作りレイに渡す。
「シンはどうだ?」
「実はアスハ代表にまた噛みつきまして」
「…詳細を」
「実は…」
シンの言動はアスランをかばってのことだ、この短期間でアスランも好かれたものだ。
「そうか…」
「シンの行動は軽率でしたが私怨ではないと感じました」
「ふむ、今回は不問にする」
「ありがとうございます」
ドライな印象を受けるレイだが仲間思いな面もある。どこかの仮面を連想させる雰囲気を持つレイだったが既に彼女は一人の人間としてレイを認めていた。
「では、失礼します」
「あぁ、レイ」
レイが部屋を去る前にエリアは引き出しから袋チョコレートを取り出し渡す。
「隊長?」
「疲かれただろう、お前たちで分けておけ」
「ありがとうございます」
袋チョコを携えて部屋を去るレイを見届けるとエリアは一息着く。
レイと話していると何故か緊張する、意味は分からないが何かしらの親近感を感じるのだ。
「まぁ、私の教え子なのは変わらんがな」
そう言うとエリアはチョコを口に放り込みゆっくりと舐めながら考えにふけるのだった。
ーー
大海原のど真ん中で停泊するミネルバ、シンたちパイロットは束の間の休息を手にしていたが隊長であるエリアはそうもいかない。
「エリア、MSの状況は?」
「アスランのザク以外は問題ないですね。インパルスも予備のパーツを使えば問題なく稼働できますが使っていたパーツは大気圏に突っ込みましたからね。カーペンタリアで処理しないと」
「そうね」
端末を操作しながら説明するエリアを見て頷くタリア。
データが送られ目を通すが現状、良いとは言えない。
万全の態勢で戦えるのは後、一戦といったところか。
「もうやってるのか?」
艦橋にいたエリアは銃声を耳にすると呟く。地球に降りてきて間もないと言うのに訓練に勤しむとは感心だ。
艦橋の窓から見下ろすとシンたちが訓練をしているのが見え、そこにアスランが居るのに気づく。
ーー
「うわー、同じ銃撃ってるのになんで!?」
「銃のせいじゃない。君はトリガーを引く瞬間に手首を捻る癖がある。だから着弾が散ってしまうんだ」
見事に的を射ぬいたアスランを見て感心するルナマリア。
「エリアに教えて貰わなかったのか?」
「エリア教官は実技の担当じゃなかったので、どちらかと言えば座学教養でした」
「そうなのか、アイツはアカデミーでは口より先に手が出る奴だったからな」
「え、そうなんですか!?」
ルナマリアの知る落ち着いた感じのエリアからは想像できない姿に大声を出す。
エリアの昔の姿は気になるようでシンも横目で二人の会話に耳を立てていた。
「イザークと殴り合いの喧嘩したときは凄かったな。お互い鼻血垂れ流しながら殴りあってたからな」
「へぇ~」
「アスラン?」
「まぁ、エリアもそう言う頃があった訳だ」
楽しく話していたアスランの視界にカガリが映り少しだけ冷静になるとルナマリアに拳銃を返す。
「ミネルバはオーブに向かうそうですね、貴方もまた戻るんですか?オーブへ」
「ああ…」
「なんでです?」
シンの侮蔑でもなんでもないただ真っ直ぐな質問にアスランは思わず押し黙る。
「教官はまだ戦ってます…でも貴方はそこで何をしてるんです?」
「……」
そんなシンの言葉になにも答えられずにいたアスランは自分の情けなさを痛感するのだった。