愛しきものたちへ   作:砂岩改(やや復活)

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第9話

 

 

 無事にオーブへと寄港したミネルバはオーブの首脳陣の出迎えを受けた。

 その際、艦の代表として艦長のタリアとエリアが抜擢された。

 ついでに副長のアーサーは艦内で寄港後のチェックを行っている。

 

「カガリ!」

 

「ユウナ!」

 

「おお、よく無事で、はぁ、ほんとにもう君は心配したよ」

 

 カガリに抱きついた紫髪の優男。

 それを見てエリアは思わず疑問を抱く、カガリとアスランは恋仲であったはずだと認識していた為である。

 

「あぁいや…あの…すまなかった」

 

「これユウナ!気持ちは解るが場をわきまえなさい、ザフトの方々が驚かれておるぞ」

 

 親子揃ってわざとらしいと思いつつもエリアは一切の表情を変えない。

 

「あ、ウナト・エマ」

 

「お帰りなさいませ代表、ようやく無事なお姿を拝見することができ、我等も安堵致しました」

 

「大事の時に不在ですまなかった、留守の間の采配、有り難く思う。被害の状況などどうなっているか?」

 

「沿岸部などはだいぶ高波にやられましたが幸いオーブに直撃はなく、詳しくは後ほど行政府にて」

 

 カガリとウナトの話が良い感じに途切れたところでタリアとエリアは敬礼をウナトたちに行う。

 

「ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります」

 

「同じく戦術指揮官のエリア・ノイエフォードであります」

 

「オーブ連合首長国宰相、ウナト・エマ・セイランだ、この度は代表の帰国に尽力いただき感謝する」

 

「いえ、我々こそ不測の事態とはいえアスハ代表にまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております。また、この度の災害につきましても、お見舞い申し上げます」

 

「お心遣い痛み入る、ともあれ、まずはゆっくりと休まれよ。事情は承知しておる。クルーの方々もさぞお疲れであろう」

 

「ありがとうございます」

 

 ウナトの対応もそうだがエリアはこの首脳たちの反応が微妙なのが気になる。

 敵意ほどはいかないが厄介者が来てしまったと言う非歓迎ムードは察することができる。

 ユニウスセブンの落下はこちらに非があるのでそれだと思うが…。

 そう思うとエリアは精神が痛んだ。

 

「まずは行政府の方へ、ご帰国そうそう申し訳ありませんがご報告せねばならぬ事も多々ございますので」

 

「ああ、解っている」

 

「あ…君も本当にご苦労だったねぇアレックス、よくカガリを守ってくれた、ありがとう。報告書などはあとでいいから、君も休んでくれ。後ほど彼等とのパイプ役など頼むかもしれないし」

 

 あまりにも露骨なユウマの態度にタリアもエリアもアスランのここでの立場を察する。

 

「大変だな」

 

「あぁ…」

 

 すれ違いざまにエリアは言葉を送るとアスランは静かに答えるのだった。

 

ーー

 

「まぁ船体の方はモルゲンレーテに任せて大丈夫でしょう、でも船内は全て貴方達でね」

 

「ええ」

 

「資材や機器を貸してくれるということだから、ちょっと入念に頼むわ」

 

 整備班長であるエイブス、タリア、アーサー、エリアは船体の状況を確認しつつ今後の予定について話す。

 

「念のため警備当直を編成して艦内を巡回させます。MSハンガーとエンジンを中心に」

 

「そうね、そこはエリアに一任するわ」

 

「それと船員について後程協議したいことがありますので時間ができたらお願いします。優先度は低いです」

 

「分かったわ」

 

 エリアは班編成を纏めるために艦内に足を向けるとアーサーが心配そうに話しかける。

 

「いいんですか、艦長?」

 

「ん?」

 

「アーサー補給は兎も角、艦の修理などはカーペンタリアに入ってからの方がはよいのではないかと、自分は思いますが」

 

「言いたいことは解るけど、一応日誌にも残しましょうか?」

 

「いえぇ!」

 

 アーサーのすっとんきょうな声を聴きながら艦内に入るエリア。

 適当に見張りを配置させ段取りが終わり、艦橋に戻るとタリアたちも戻ってきた。

 

「お疲れ様です」

 

「ありがとう、メイリン」

 

 メイリンから渡されたコーヒーを飲むと少し落ち着き、息がこぼれる。

 

「艦内の事は助かったわ。ありがとうね」

 

「いえ、それが私の仕事ですから」

 

 いつの間にか袋を空けていたタリアは中からチョコスティックをエリアに渡すと彼女はすかさず口に放り込みタバコのように咥える。

 

「それで、さっき言ってたことだけど。なんだったかしら?」

 

「はい。機体も船も一応、修理の目処が立ちました、しかし乗員のメンタルも心配です」

 

「そうね、これまで連戦つづきだったものね」

 

 アーモリーワン襲撃事件からハードな任務ばかり、挙げ句の果てに大気圏突入なんて誰が想像しただろうか。

 

「正直なところ、このまま平穏無事にカーペンタリアにたどり着く可能性も危うい」

 

「え?」

 

 アーサーは少し分からないと言った風に首をかしげるがそれはタリアも同意見だった。

 ユニウスセブン落下事件のお陰で地球き住む人達はプラントに対して良い印象を持っていないだろう。

 このような情勢は非常によろしくない。

 ナチュラルとコーディネーターの軋轢が大きな現状においては戦争に発展しかねない。

 

「オーブとて安心できません。平和を謳い、中立と言う面の皮を被ったこの国のせいで我々がどれ程の被害を被ったか」

 

 ストライクを含むGAT-Xシリーズ開発計画がオーブあっての計画だったのは周知の事実。

 そのうちの一機であるブリッツに登場していたニコルはこのオーブの近海で散った。

 

「そうね、まだ現状は大丈夫でしょうけど。今後の情勢は分からないわね」

 

「はい、なので乗員にも休息を与えるべきだと具申します」

 

 そんな会話を聞いていたメイリンは心の中でガッツポーズを取るのだった。

 

「え、本当?」

 

「修理で数日って事になるんならって艦長の反応も良くて…案外出るんじゃないかな、上陸許可」

 

「ちょっとここまできつかったからなぁ実際」

 

「なんか夢中で来ちゃったけどむっちゃくちゃだったもんなほんと」

 

 メイリンを中心に上陸許可の噂が瞬く間に流されると全員が嬉しそうに上陸したら何をするか話し合う。

 それをシンは黙って見つめるのだった。

 

ーー

 

「な、どこ行きたい?」

 

「うーんそうだなぁ」

 

「俺、腹減った!」

 

「シン?居ないの?」

 

 噂が流れたすぐ後に上陸許可を告げる旨の館内放送が流れ乗員たちは歓声を挙げ、早速街に繰り出していくのだったがそこにはシンの姿はなかった。

 

ーー

 

「すまないな、つきあってもらって」

 

「いえ…」

 

 シンはエリアに連れ出され彼女の運転する車の助手席で静かに座っていた。

 彼女の上陸目的は主に買い出しだ、タリアやアーサーの二人は立場上、上陸が難しいためその買い物をするためだ。

 

「き…隊長も大変なんですね」

 

「今回は自分から申し出たから別に良いんだがな、お前だって上陸したかっただろ?」

 

「…はい」

 

 上陸しようかしまいか悩んでいたところを見つかり、連れ出されたシンは素直に頷く。

 

「まぁ、上陸目的は大方察しがつく。私も同じだからな」

 

「……」

 

 アスランと話しているときに聞いてしまったあの話。

 

「オーブでお亡くなりになられたのですか?」

 

「あぁ、正確にはオーブの近海らしいがな。そこでアスランを守るために死んだらしい。遺体はなかった」

 

 いつも凛々しいエリアの顔はその時だけ泣き出しそうな顔に変わる。

 今にも崩れ落ちそうなほどの表情を浮かべる彼女を見てシンも思わず黙る。

 

「まぁ、お前も複雑だろうが嫌いになりきれないんだろ?」

 

「…たぶん」

 

「私もアスランを何度殺そうと思ったか…それが逆恨みで意味の無いことだって分かっててもだ」

 

《嘘だ、ニコル…ニコルぅ!》

 

 彼の死を知ったのは地上で唯一生き残ったと思っていたイザークからの通信からだった。

 その後、アスランとディアッカが生きていることが分かった。

 その後も受領予定のフリーダムが盗まれ、そのパイロットがニコルの仇とは思わなかったが。

 

「ふっ…」

 

「?」

 

「いや、本当に踏んだり蹴ったりだと思ってな」

 

 突然笑い出すエリアを不思議に見つめるシンに笑みを浮かべながら答えると車を止め、買い出しを始めるのだった。

 

ーー

 

「ほら、着いたぞ」

 

「ありがとうございます。隊長は行かないのですか?」

 

「あの慰霊碑はオーブ攻防戦の死者に向けたものだ。残念ながらニコルは対象じゃない」

 

 オーブ沿岸部にある慰霊碑のある公園に着いた二人だったがエリアは降りずにシンだけ行かせ、見送る。

 

「私みたいにならなければ良いが…」

 

 憎悪だけが自身を突き動かす原動力。

 それでしか前に進めなくなった自分とはシンは違うと思いたい。

 

(ごめんねニコル…私もう…血塗れになっちゃった)

 

 でもまだ足りない、もっと血を流さなければもっと殺さなければ目的は達せられない。

 

「……」

 

 深呼吸をしながら顔を上に向ける。

 するとエリアの左目からとめどなく涙が溢れた。

 それはシンが車に帰ってくるまで止まらなかった。

 

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