ファイアーエンブレム側の登場人物はここまで出てきたキャラでほぼ全部です。
早く、サムスやアンソニーやアダムを書きたい
アイクは耳鳴りに顔をしかめた。
「アイク様、お口に合いませんか。」
向かいの席に座るエリンシアが首を傾げ、その端整な顔の上の豊かに波打つ若草色の髪が揺れた。
「いや、お茶も菓子も美味い。少し耳鳴りがするだけだ。」
実際エリンシアとマーシャが作ってくれたという焼き菓子も淹れてくれたお茶も美味しかった。アイクの分は大きめに作ってあったし、そういう気遣いも嬉しい。
「耳鳴り、ですか」
「どこか遠くで教会の鐘が鳴っているような具合だ。頑丈なことだけが俺の取り柄なんだが」
「そんなことはありません。アイク様にはたくさん良い所があります」
「そうか? 」
「ええ、たくさん。数えていたら明日になってしまうほどありますよ」
エリンシアが健気にそんなことを言ってくれる。
アイク率いるグレイル傭兵団はクリミア女王エリンシアの元で祖国の復興を手伝っていた。特に今は間近に迫ったある催しのための準備で忙しく、彼女の好意で城の部屋を借りていた。
「でも、耳鳴りは心配ですね。お仕事を減らされてはどうですか」
「気持ちは嬉しいが、それができないのはあんたも知ってるだろう」
女王様でも女神様でも呼び捨てにしたり、あんた呼ばわりしてしまうのが、アイククオリティである。
最近はアイク自身も言わないように気を付けているのだが、彼女の親しみやすさについ言ってしまうのだ。
「それはそうなのですが……」
エリンシアは困ったように微笑んだ。
「大体、エリンシアの方が俺より多くの仕事を抱えてるだろ。今日みたいに暇を見つけてはちゃんと休むんだぞ。」
「はい」
エリンシアの笑みが深くなる。心なしか頬が赤い。
エリンシアが4年前からとある団長に好意を持っているのは公然の秘密である。(知らぬは本人のみ)
彼女は天馬騎士のほっそりとした優美さと女性らしい起伏に富んだ体つきを両立している希有な人物であり、彼女自身がんばってアタックをしているのだが根が控えめな彼女のアタックは朴念仁にはいまいち効果が薄かった。
「そういえば、マーシャはどうした。ここに来ると言っていたんだが」
「マーシャはマカロフ様と一緒にジョフレとお話していました」
「そうか」
ちなみに、この中の身分的ヒエラルキーはジョフレしょーぐん(伯爵)>マーシャ隊長(エリンシアの護衛部隊)>マカロフ平騎士(奇跡的に退団を免れている)だ。エリンシアの好感度も似たような具合だろう。
「もう2週間に迫ったな」
「はい。テリウス大陸初の全国全種族の首脳会談とアイク様の戴剣式」
「俺としては一緒に開かれる武闘大会の方が興味あるな」
「というより、アイク様は先の二つが億劫なだけですよね」
「分かってるなら訊かないでくれ。もちろんできるものなら全力で遠慮したいさ」
冗談めかして言うと、エリンシアが突然頭を深々と下げた。
「申し訳ありません。アイク様のご意思に背くと知っていたのに私は」
「必要なことなんだろう。説明も受けたし、正直に言うと今でも嫌だが、納得もしている。エリンシアのせいじゃないんだから謝らなくていい」
「でも、アイク様は」
「それにあんたが俺の我儘を聞いて、精一杯努力してくれたのは知っている。俺の位が貴族は貴族でも自由貴族・公爵なんてものになっているのはエリンシアが少しでも俺の気持ちを反映させてくれたおかげだ。感謝している」
「アイク様……」
「さあ、もう夜も更けてきた。エリンシア、部屋まで送ろう」
「…はい」
頬を赤くして潤んだ目で見つめてくるエリンシアをアイクは彼女の部屋まで送り届けた。
「あの、その、あっアイク様、今夜は…」
「じゃあ、お休み。また、明日」
彼女の部屋の前でエリンシアが首筋まで真っ赤になって、もごもごと何か言っていたが、アイクは耳鳴りがうるさくてよく聞こえなかった。気になるけどまた明日聞けばいいかとアイクは部屋に戻る。
部屋に戻ったアイクは鎧を脱ぎ、武器を床に置いて寝台にごろんと仰向けになった。
明日に備えて寝ようと思ったが眠れない。どこでもすやすや快眠できるのがアイクのひそかな特技なのだが。とりとめのない思考が勝手に彷徨っていく。
アイクは4年前のデイン=クリミア戦役でエリンシア姫を助けてクリミアを勝利に導き、救国の英雄と呼ばれ、貴族の一員となった。
だが、平民がクリミア貴族となったことに対する貴族の反発は大きく、反エリンシア派の貴族をあぶり出すユリシーズの作戦にかこつけて1年半前に将軍と貴族の位を辞して王宮を去った。
アイクはその時の貴族や将軍なんて面倒事を放り投げたすがすがしい気持ちと、捨てられた子犬のような目をしたエリンシアに対する罪悪感を今でも覚えていた。
そして去年、ベグニオン帝国元老院に端を発したテリウス大陸全土を巻き込む戦乱は眠れる女神、アスタルテとユンヌを起こしてしまった。
女神アスタルテは『1000年の間、テリウス大陸全土全種族を巻き込む戦乱は起こさない』という800年前の盟約を破った人間達を見放し、世界中の人間を滅ぼすために人を石像に変えた。
人間を未だ愛する女神ユンヌの宿るメダリオンを持っていたアイクやエリンシア達は石化を免れ、女神ユンヌの導きで女神アスタルテに直訴しに向かう。
だが、女神アスタルテは頑として意見を変えず、元々は一人だった二人の女神は互いを討滅し合い、最終的に女神ユンヌの力を全て蒼い炎に換えて預かったアイクが女神アスタルテを弑逆することで紙一重で勝利を得た。
その後、一瞬とはいえ神の力を預かった代償に灰となって消えるはずのアイクが何故だか生き残り、女神に心を取り戻させた「蒼炎の勇者」などと呼ばれるようになり、救国の英雄から救世の英雄にクラスチェンジしてしまった。
だが、アイクは平民だ。貴族や王族、皇族より圧倒的に権威のある平民などいたら様々な問題が噴出する。今この世界は最も信仰されていた女神が倒されたばかりで不安定だ。最悪の場合、野心あるものに扇動され革命がおき、王制、貴族制が崩れてしまうかもしれない。
貴族や王族だけの政治でも問題が起こるのは先の大戦でも明らかだが、では今いきなり平民の平民による政治などしたらどうなるのか。平民達の殆どは難しい算術も文字の読み書きもできない。財政や外交、領地運営や軍事の基本などもっと知らないだろう。平民の政治ができるのはもっと先のしっかりと教育を受けた世代なのだ。
将来的にはともかく今のこの社会の秩序を保つために、アイクは貴族になる必要があった。
(……必要なこと、なんだ。俺が貴族になるのも)
アイクはいつのまにか夢の中におちていった。
翌朝、アイクは肉体的には万全だが、精神的に疲れて目覚めた。
(なんだか、妙な夢を見た気がする。俺の母さんを名乗る騒がしい女が出てきたような。いや、俺の母さんは優しくて、物静かだったはずだ)
何かの間違いだろう、と首を振って、装備を身に着けて朝の鍛錬に外に向かう。
外に出たアイクは体をほぐし重りを身に着けてから、走りだした。、剣を振る、また走り、剣を振る。物心ついた時からの一連の流れだ。
しばらくすると遠くから、えいっ、やあっ、たあっ、と元気のいい掛け声が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。
(この声はワユだな)
アイクは気が付かなかったふりをして、逆方向に走り出した。
彼女はグレイル傭兵団所属の剣士で、アイクも入れて世界でも5本の指に入るだろう剣術使いなのだ。からっとした明るい性格と妹のミストが嘆息するほどのスタイルの持ち主なのだが、如何せん強い相手に飢えていて、しかも負けず嫌いだ。アイクには隙あらば、真剣勝負を挑んでくる。
アイクも戦いたい気持ちは分かるし、彼女のことは嫌いではない。背中を預けられる《相棒》だと思っている。だが彼女と勝負するとミストやマーシャ、ティアマトやリアーネといった身近な女性陣がうるさいのだ。
何せ彼女との勝負は文字通り真剣勝負。ラグネルと彼女の刀ヴァ―ク・カティでの斬り合いである。彼女が技とスピードを生かした連続剣技で攻め、アイクがそれに応酬する、というのがパターンだ。かなり白熱した勝負になるため、両者とも、剣も防具も体も服もボロボロの傷だらけの血まみれになる。
昔は勝負のたびに回復魔法の使えるミストやエリンシア等の所に担ぎ込まれて、小言やお説教の嵐に見舞われていたのだが、ワユは「じゃあ、傷がつかなければいいんだねっ」とスキル〈治癒〉を習得し、アイクにもその習得を強要した。さらに壊れない神剣を使うことで武器の損耗もカバーする。
スキル〈治癒〉は体の自然回復力を高める技術で、体内の最大魔力量に比例して傷が治るのが早くなり、体力の回復も早まる。
だが魔術師でもない限り、基本的に女性の方が魔力量は多いし、女性だって普通魔力なんて微々たるものだ。肝心の魔術師は何故かこのスキルを習得できない。
男性や戦士職には人気のないスキルなのだが、アイク達は他人より少しだけ魔力が多かったらしく、戦いの最中や戦いの終わった後に傷が勝手に治り、体力も回復が早まったので重宝した。ワユはアイクより少し回復が早いので若干得意になっていたのだが、試しに身につけたエリンシアの方がアイクの倍は回復力が高いと知って落ち込んでいたのは余談である。
王宮の庭園の端に出たところで珍しい組み合わせの顔見知りを見つけた。
ウェーブのかかった長い金髪に白い翼を背中に生やした少女リアーネ。
薄紫色の髪を腰までまっすぐに伸ばした少女イレース。
青みがかった緑色の髪を伸ばしているが青い兜を被っている少女ネフェニー。
彼女達は庭園の端でしゃがみこんで何かしている。
「…ここが、良いと思います」
「…ん、ここ、いいところ」
「…それじゃあ埋めましょう。早く出るといいですね」
(何をしているんだ、あの3人)
あの3人の共通点は表情と言葉が乏しい美少女だということと一緒に女神の所へ行ったくらいだ。
気になって立ち止まると、人の気配に敏い種族であるリアーネがこちらを振り返った。
「…アイク。おは、よ」
「おはよう。なにしてるんだ、こんなところで」
「…ん。たね、うえてた」
イレースとネフェニーもアイクに気づいて振り向いた。
「…おはようございます。アイクさん」
「…おはようございます。今朝も鍛錬ですか」
「おはよう。ああ、日課だからな。3人とも何の種を植えていたんだ」
「…わたし、くだもの、もも」
「私は野菜を植えました」
「……私は、植えていません。…種食べちゃって」
「……どこからつっこめばいいんだ」
果物を植えたのがリアーネ。野菜を植えたのがネフェニー。種を食べてしまったのがイレースだ。見事に性格が出ている。
リアーネがたどたどしい話し方なのは、彼女は大きな鳥に化身できる鳥翼族の白鷺の民であり、アイク達の言葉をまだ勉強中だからだ。見かけは10代後半の細身の乙女だが、故郷の森で20年以上眠っていたので、見た目より心が幼いというのもある。
白鷺の民は森でファイアーエムブレムを守り続けていた『巫女』の血族で様々な奇跡をおこせるのだが、いかんせん攻撃手段どころか自衛手段すら持たない種族なので、20年前のベグニオン帝国による虐殺で数がほとんど残っていなかった。彼女は4人しかいない王族の一人であり、1000年以上若い肉体のまま生きることができる種族でもある。
ネフェニーの言葉が乏しいのは田舎の農村育ちの彼女の方言を隠すため。彼女は世界でも指折りの槍術と盾術の達人であり、エメラルドグリーンの髪と鎧が眩しい美人なのだが、田舎生まれの自分に劣等感をもっているらしく、4年も付き合いがあるのに言葉も態度もいまいち硬い。
アイクは鎧姿以外の彼女を見た事ないが、交友関係の広いことに定評のあるミスト曰く着やせするタイプらしい。朴念仁のアイクにとってはどうでも良い話である。
イレースの言葉が乏しいのは単に性格である。
彼女は「腹ペコサンダー」の異名で知られる魔術師だ。彼女は叩いたら折れそうなほど細い体にもかかわらず、美味しくて量の多い食事に目がなく、常におなかを減らしている。凹凸の少ないはかなげな風貌だが、魔導師のくせに異様に力が強かったり、大食いのくせに無一文で旅に出て無事だったりするので、精神的にはワユ並に逞しいとアイクは睨んでいる。
「まず、勝手に王宮の庭に野菜や果物の種を植えていいのか」
「…だいじょ、ぶ。レニング、さま、いいって」
「…レニング様が自分の庭が寂しいと言われていたので、リアーネ様がセリノスの果物の種を植えていいかと聞いたら、ぜひそうしてくれと。…私もたまたま野菜の種を持っていたので、訊いたら植えていいと」
「……ふふ、セリノスの果物、とても甘くて美味しかったので楽しみです。でも種はいまいち美味しくなかったです」
「……あんたら、ぶれないな」
なぜ種を持っているのか、どうして農作業しているのにネフェニーは兜を外さないのか、どうして種を植えるならまだしも食ってしまうのか、とかつっこみどころはいっぱいあるのだが不毛な会話になる気がして彼女たちのマイペースぶり指摘するにとどめておいた。
ちなみに、レニングはエリンシアの叔父であり、4年前のデイン=クリミア戦役で死んだと思われていたが、女神との戦の最中エリンシアたちに助けられたらしい。今はエリンシアの補助をしながら、ディン軍に焼き払われた庭園を直したりなどして穏やかに暮らしている。
「…ぶれないのはアイクさんも一緒だと思います」
「…というより、アイクさんがぶれているところを見たことがないのですが」
「……アイク、まいぺーす、て、なに」
「マイペースとは常に自分のペースで動く人のことだ」
アイクも同類だと指摘する声はスルーしてリアーネに説明する。
リアーネは体が弱く戦う術を持たないかわりに、気配に敏くて心を読むことができる。他にも様々な特殊能力、特に癒しの力を持っており、鷺の民の歌う呪歌には不思議な力が宿っていて、旅の途中でアイク達は彼女らの起こす奇跡を何度か見てきた。薬品や呪術で狂わされた心身を正常に戻したり、枯れた森を元の青々とした森に戻したことすらあった。
「そうだ、今日これから、皇帝やガリア王たちを迎える時の予行演習があるが、みんな覚えているか」
「ん、おぼえてる」
「覚えています。私たちはいつも通り戦装束でいいって」
というよりアイクはネフェニーがエメラルドグリーンの軽鎧を外した所を見た事ない。
「…………忘れるはずないじゃないですか」
「イレース、うそ、よくない」
「ユリシーズさんの話だと、導きの塔に登ったメンバーの姿を見せることで町の人の気持ちを盛り上げるそうですね」
リアーネに突っ込まれて、取り繕う様に饒舌になったイレース。実にいつも通りの面々だ。
「……まあ、そういうことらしい。忘れずに参加してくれ」
アイクは彼女たちと別れ、また朝の鍛錬に戻ったのだが、
「あっ大将、み~つけた」
「………見つかってしまったか。なんか用か」
「ふふふ、私が用って言ったら答えは一つしかないよ。いざ、尋常に勝負!」
ワユに見つかってしまった。勝負と言われてはもう黙って引き下がれない。アイクの性分である。
「分かっているだろうが、剣を持って向かってくる以上、お前が女でも手加減する気はさらさら無い」
「上等!それでこそ大将だよ!」
ワユは話ながらも手を刀に、片脚を一歩前に出して腰を下ろしていく。明らかな戦闘態勢だが、刀を抜いていない。また、何か新しい技でも編み出したのだろうか。
対するアイクはいつも通りだ。片足を一歩前に出してラグネルを片手でだらんとたらしているだけ。これがアイクの辿り着いた構えなのだ。
アイクはワユの一挙一動を観察しながら、すり足で半歩進む。
ワユもアイクを見ながら、すり足で1歩前進。まだ刀は手で握るだけだ。
ふと、アイクはワユだけに新しい技を試させるのも付き合いが悪いな、と思いたった。自分も何か新しい事に挑戦しよう。
(ひとつ、エタルドも出してみるか)
エタルドをもう片方の手でしっかりと握る。
ラグネルが黄金の剣だとすれば、エタルドは白銀の剣である。違うのは見た目だけで、性能や形、重量はほとんど一緒だ。信じられないことにこの二本の大剣は元々双剣として作られたかららしい。
普通の人間は持ち上げることもできないほど重い両手剣を双剣として作るとか明らかな設計ミスである。常人よりはるかに身体能力に優れたアイクやその仲間達、かつての持ち主である漆黒の騎士すら一刀流で扱っていた。違うのは初代ベグニオン国王オルティナだけだ。あの人も女神ユンヌを封印した三雄だけあって頭がおかしい。
睨み合ったままじりじりと時間が過ぎる。だが、アイクはこの濃密な時間は嫌いではなかった。自然とくちびるが笑みのように歪む。ワユも目を爛々と輝かせ、口元にはにたーっと笑みを浮かべていた。
アイクがさらに一歩進んだ瞬間、ワユが動いた。
風切り音と共に凄まじい速さで真っ直ぐ突っ込んでくる。まだ刀は抜いていない。
「甘いッ」
しかしアイクには通じなかった。あっさりとワユの動きを見切り、身長が高い分パワーとリーチに勝ることを利用して彼女が間合いに入った瞬間、ラグネルで下から切り上げた。
「まだまだっ!」
ワユは突撃の勢いはそのままに、顎が地面を擦るのではないかと思うほど体勢を低くして攻撃をかわすと、ついに刀を抜いた。
鋼が閃く。
ワユの狙いは伸びきった右腕。防御は間に合わない。
「なら……」
アイクは大剣を振るった勢いのまま素早く回転して、斬撃を避けて……
「ふんっ!」
回転の勢いに乗った横薙ぎをラグネルとエタルドの両方で繰り出す。
避けきれず、とっさに刀で防御するワユ。
だが、アイクより非力なワユにこれは受け止めきれず吹き飛ばされる。
アイクはすかさずラグネルで斬撃を飛ばして追撃。
対して空中のワユは、ワユの体を真っ二つにするべく飛んでくる斬撃に納刀した鞘を当てて、
「よっと」
その勢いに乗って1流の軽業師よりも華麗に身をひねり、エタルドの追撃をも躱して音も立てずにふわりと着地。
ワユは再び大地を蹴り、間合いを詰め、抜刀。
奥義、流星。
一瞬の間に横薙ぎ、袈裟懸け、逆袈裟、唐竹割り、切り上げを繰り出す。怒涛の連続攻撃が始まった。
ワユの刀は全て喉笛や心臓といった急所を狙っており、そこには訓練だから等という甘えは存在しない。ギリギリの戦いこそ人を強くするというのが二人の持論であるが故だ。
ワユの刀も女神アスタルテを倒すために女神ユンヌの加護を受けた神刀。
神殺しのアイクといえども神刀が急所に当たれば大ダメージ負う。だが、アイクの体は陽炎のようにゆらめくだけで、急所には当たらない。
スピードでは劣るが技は互角、そして力と防御に勝るアイクは回避と防御に専念しつつ、隙を突いてカウンターで仕留めるつもりなのだ。
だがワユの斬撃は一本の河のように全てが繋がっており、隙など見当たらない。しかも河には支流があるように時々、思いもかけない所から剣を突き入れてくる。
これがワユの恐ろしいところだ。1度守勢に入ってしまえば、抜け出すことなど出来ないのだ。
しかしその程度、何度も訓練しているアイクは折り込み済みだ。隙がなければ作ればいいのだ。
ワユが刀を振り上げて攻撃しようとした瞬間、アイクはエタルドを振りぬいた。
攻撃する直前の隙とも言えない隙を突かれたワユは横にも後ろにも躱すことはできず、防御も間に合わない
「ええいっ」
ワユはとっさに前に出た。アイクの腕に飛び込むようにして剣をやり過ごし、剣を振りおろそうとして…
「終わりだ」
彼女の首にあたるラグネルに気づいた。
「残念、負けちゃったか」
「そういうことだ」
「く~、悔しい。ね、もう一回やらない」
「だめだ」
「ええぇ、いいじゃん。大将だって本当はしたいくせに~」
「もうすぐ、予行演習が始まる時間だ。それにあんまりやっていると、ミストがうるさい」
「誰がうるさいって?」
アイクは違うといいなと思いつつ後ろを振り返り、厳しい現実を噛み締めた。
そこには仁王立ちする妹がいた。アイクと違って栗色の髪を腰まで伸ばしている彼女は本人は卑下しているものの女性らしい体つきをしている。
普段なら世話焼きで、身内びいきを差し引いてもかわいらしい部類に入る彼女だが……
「……ミスト、どうしてここに」
「お兄ちゃんがいつまで経っても来ないから迎えに来たんだよ! またこんな危ない事して!」
「いや、これはただの訓練であってだな……」
「訓練には真剣も神剣も使いません!」
ぴしゃりと正論を言い放ち、アイクの言葉を叩き落す。いつの世も例え神殺しでさえも身内の女性に男は勝てないらしい。もっとも彼女たちの意見は別だろうが。その間にワユはこっそり抜け出そうとするも……
「ワユ、あなたも年頃の女の子なんだから…。いったいその傷だらけの服は誰が繕うと…」
あっさり捕まって二人とも、ありがたいお説教付きで会場に向かうことになった。ちなみにワユは19、ミストは18歳である。さらにいえばアイクとエリンシアは22歳。大人の威厳……
(4分の1くらい集まったか。それにしても、鐘の音がうるさい)
会場を見まわしながら、アイクは教会の鐘の音ような耳鳴りにうんざりしていた。一度止んでもしばらくするとまた鳴り出す。しかもだんだん間隔が短くなっているような気がする。本当に病気なのかもしれない。
リンゴ―――ン リンゴ―――ン リンゴ―――ン リンゴ―――ン リンゴ―――ン
「これは、ひどい…っく…」
あまりの大音量にアイクが目をつぶっていると、真っ暗なはずの視界が真っ青になった。
驚いて目を開けると視界が青くぼやけていて、遠くがよく見えない。
何やらみんなぽかんとした顔をしていた。何にそんなに驚いているのだろうか。
「アイク、さま?」
「エリンシア、そんな顔してどうしたんだ。」
「ここ、どこでしょう」
視界が正常になるにつれ、周りが見えだした。見渡すばかり鬱蒼と茂る木ばかりだ。
「ここは……どこだろうな」
アイク達がここが未来なのだと知るのはもう少し後の話である。
そして、ここがボトルシップという宇宙ステーションだと知るのはもっと先のことである。
次はボトルシップの中の話