私は静かに興奮していた。膨らむ好奇心で内側から弾けてしまいそう。
ボトルシップという公式には存在しない宇宙ステーションがあった。そこでは、銀河連邦軍の過激派によって生物兵器が違法に研究されている。
宇宙海賊パイレーツ、マザーブレイン、リドリー、そしてメトロイド。
かつて、銀河を震え上がらせ、連邦軍と凄腕の賞金稼ぎサムス・アランによって撃退されたクリーチャーたちを兵器として使えないか。
そんな危険な思想の元でこの施設は密かに作られ、運営されていた。
そして今、表向きにはそこの若手研究員である私は予期せぬ事態に興奮していた。
今日の朝早く、熱帯の惑星環境を再現したセクター1に『侵入者』が現れたのだ。
もちろんステーションは大混乱になった。
セクター1に行くには研究員や警備員、事務員が住むメインセクターを通らなくてはならない。
いや、そもそもボトルシップに外部から入るには宇宙船で来るしかないが、船着き場は特別な事情がない限り常に封鎖している。封鎖を突破された痕跡もない。いったいどうやって……
「『侵入者』もとい、『客人』がこちらに参ります。バーグマン局長」
そこで私の思考は、中断された。このバーグマン局長というのは私ではない。
「そう。報告ありがとう。ええと……」
横で困ったように、ちらっ、ちらっ、とこちらを見ている赤毛の若い女性がマデリーン・バーグマン局長だ。私の姉であり、母でもある。
「カーネル中尉」
「カーネル中尉、報告に感謝するわ」
今更、きりっとした顔で言い直しても遅いと思うの。カーネル中尉も微妙な顔してるし。
マデリーンは優秀な生物学者なんだけど、オタク気質な研究者にありがちなことに人の名前とか覚えられないのだ。本人は覚えようと努力しているのだが、とっさに出てこないらしい。
難しい学術用語とかはスラスラ出るクセに、とか言ってはいけない。半日くらい落ち込んで、普段は自制しているけど実は大好きなアイスクリームをやけ食いして、我に返って体脂肪計を見てまた落ち込んで、のループになるから。
「『客人』の扱いは丁重にね」
マデリーンが中尉に注意をうながす。
そう、『客人』だ。『侵入者』から『客人』へと変わった理由は彼らの戦闘力にある。
ここの幹部たちは当初、侵入者は侵入の動機と手段とその他諸々を聞き出して、処分する予定だった。
だから、かつて銀河を震撼させたスペースパイレーツの中心だったゼーベス星人のサイボーグクローンの精鋭部隊を送った。試験運用にちょうどいいというのもある。
ゼーベス星人は、直立歩行するザリガニに爬虫類の特徴を合わせたような姿をしていて、ビームキャノン砲を内蔵したハサミ状のビームブレードで武装している。
身体能力も人間よりずっと高く、垂直に5メートル以上跳んだり、銃弾やビームを避けたり、垂直の壁に張り付く事もできる。銀河連邦軍の精鋭部隊を相手にしても余裕で勝利できるだろう。
対して侵入者側は、種族は人間だし、装備も実体剣や槍、盾といった前時代的を通り越してもう骨董品と言っていいものばかりだ。
私たち姉妹を含めたボトルシップの責任者たちは落ち着きを取り戻し、会議室で侵入者たちをモニターしながら「あんな装備でどうやって侵入したんだ」「俺、剣の実物なんて初めて見たわ~」「私も」「サムライソードだ! 紫の髪の女の子が持っているやつ! 」「あの子翼あるけど、どこの星から来たんだ」「それにしても侵入者美形ぞろいだな」「くそっイケメン氏ねっ」「あのイケメン私がもらっちゃダメかしら。」「あのペガサスうちで飼おうよ」「じゃあ、俺あの剣をもらおう」「俺はあの娘で」「それは犯罪だよ」と盛んに議論を交わしていた。まともなことを言っている人の方が少ないとかいってはいけない。
だが、その落ち着きも長くは続かなかった。
侵入者たちはゼーベス星人たちの発射するビームやブレードを躱して、または身の丈以上ある盾や武器で受け流して、剣や槍を部隊に叩き込み、万全を期して送ったはずのスペースパイレーツ精鋭部隊をあっさりと全滅させてしまったのだ。
侵入者たちは男女合わせて8人、対してスペースパイレーツ部隊は32人。
兵の数も質も装備も圧倒的に勝っているはず、なのに負けた。
この結果に会議室と監視カメラの映像を見ていた者の大半は凍りつき、スペースパイレーツの死体を調べていた侵入者たちがメインセクターに向かって歩き出したのを見て半ばパニックになった。
それはそうだろう。ここにいる職員は上司の命令や高い給料目当てでいるのが殆どだ。自分が違法な行為に手を出していることは知っていても、生命の危険にさらされる覚悟をしているものは少ない。
よっぽど優秀な装備や優れた作戦がない限り、人間がゼーベス星人の精鋭部隊を圧倒することはできない。
これは連邦軍が何度も苦い経験と共に確認した事実だ。
だが、侵入者たちはそれを成した。これも事実だ。
クローンスペースパイレーツ部隊を圧倒する侵入者に、ただの人間の警備員や部隊が敵うはずがない。さらに悪いことに、現状この部隊より強い生物兵器はボトルシップには存在しない。いや、あるには、あるが実用には全く適さない。彼らを止める手立てはなく、程なくここに彼らが来るということになる。
会議室でも、意見が紛糾し、今すぐ彼らのところに行って許しを請うべきだ、いや、セクター1を隔壁で封鎖するべきだ、いっそ切り離して爆破するか、室温設定を最大にして焼き殺すべきだ、メトロイドを使えばいける、無色透明無味無臭な毒物を散布すれば、とか物騒な意見が飛び交った。
そんな中で、マデリーンは珍しく目を閉じて静かに考えていた。
「あなたはどう思う、メリッサ」
私はいたって冷静に答えた。
「彼らのところに人をやるべきね」
「どうして」
「処分するにも交渉するにも情報が足らないもの。可能性としては二つ。彼らが私たちの研究の内容を知らずに来たのか、知ったうえで来たのかということ。ここをはっきりさせなくちゃだめよ。」
「知らずにここに来るというのはないだろう」
中年が割り込んでくる。今はマデリーンと話をしているのに。
「視野が狭いですね。彼らの装備からして、時空漂流者の可能性もあります。」
思ったより冷たい声が出てしまった。
「時空漂流者、その可能性があったか」
時空漂流者とは何らかの原因で、通常空間から本来ならワープに使う超空間に落ち、元いた所とは別の場所に移動してしまう生物や物のことである。
「確率論的にはなくはないといったレベルですが、これならいきなりあそこに出てきたことへの説明もつきます。」
まあ、一番可能性が高いのはここを嗅ぎ付けた連邦軍の調査員か彼らに雇われた賞金稼ぎだと思うが、そんなことはみんな分かっているので言わない。その場合はもう最終手段をとるしかないだろう。そう、最強の生物兵器、メトロイドを…
私が意見を言い終えると、マデリーンはおもむろにテーブルの上にあるボタンを押した。ブ――――と音が鳴ってみんなの注意を引く。
みんなの顔がこっちを向くのを待ってから、マデリーンはゆっくりと口を開いた。
「彼らを『客人』にしましょう。」
つまり、