アイクの異世界旅行記   作:よもぎだんご

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遅れて申し訳ありません。代わりと言ってはなんですが、前回より量が多く、シリアスです。


親子

「メリッサを、MBを殺してください」

 

 落ち着いたマデリーンの口から出たのは衝撃的な言葉だった。

 

「なぜだ! 」

「レクス・ボルト! 」

「MBはマ………を、…して……た人……能な……す。彼女を……ほって……ら…なことに」

「すまない、やっぱり後にしてくれ! 」

 

 俺たちは今絶賛戦闘中だ。

 マデリーンの話を聞きながら移動しようとした所に大量の敵の増援が現れ、迎え撃つ形で再び戦闘になってしまったのだ。

 それを捌くために開幕早々イレースが敵に特大サイズの雷魔法を発動。耳をつんざく轟音と凄まじい光量と共に敵の群れを粉砕した。

 

 墜落の可能性を考えてリアーネをエリンシアに預け、マデリーンは俺が背負っているのだが、雷が喧しくて彼女の話が聞こえやしない! 

 ちなみに俺の背中に乗るのをなぜか気に入っているリアーネは少し不満そうだったが我慢してくれた。リアーネが背中にいると彼女の呪歌(鼻歌)で常に気力も体力も充実した状態で戦えるという大変嬉しい効果が付くのだが、安全優先なので仕方ない。

 そんなことを考えている間に雷魔法が終わったようだ。雷の後特有の変わったにおいが鼻を突く。

 

「アイクさん、MBは向こうにいるはずよ」

 

 マデリーンが通路の奥、敵の増援が湧いて出てきた方を指さす。大理石の床が粉々になって散乱し、雷が落ちたところはクレーターになっていた。

 レクス・ボルトは平たく言えば極大の雷を落とす魔法なので使えばそりゃあこうなるだろう。広い所でしか使えない、サンダーストーム程遠くは狙えない等、欠点はあるがおつりが出るほど高威力なイレース最大の魔法だ。ちなみに女神ユンヌの加護が例によってかかっているので魔道書の消耗無しに撃てる。まあ、廃火力かつそこそこ広範囲なので乱戦になるとほぼ役立たずになるから開幕と閉幕のベルにしか使えないのだが。

 そんなことより、

 

「エムビーってメリッサのことか」

「MBは彼女のコードネーム。Mother Brain の略よ。暴走を始めてしまった彼女を止めなければ大変なことになるわ」

 

 俺は剣を構えたまま慎重にクレーターの底を覗いた。クレーターのふちに巨大銀色クワガタの残骸転がっており、底は下の階がみえる。貫通してしまったようだ。

 敵がいないならばやるべきことは2つ。情報収集と移動だ。

 

「マデリーン、いったい何があったか、何が起こっているのか教えてくれ」

 

「……メリッサの…彼女の正体は、モンスターをテレパシーによって支配・制御するべく生み出された人工知能、通称・MB(エムビー)を搭載したアンドロイドなの___」

 

 

 マデリーンを背負って走りながら聴いた話をまとめるとこういうことになる。

 

 

 メリッサ・バーグマンは、生き物を支配・制御するべく生み出された自動人形で元はMBと呼ばれていた。

 メリッサは最初こそ人形のようだったが、親代わりだったマデリーンにメリッサ・バーグマンと名付けられ、マデリーンや施設の人間、メトロイドという生物と触れ合う内に心のような物を獲得した。

 

 しかし、それを良しとしない計画首謀者が恐らく外部から連絡してきて、メリッサの処分が決められた。黒幕の手先に脅されたマデリーンはメリッサの助けを呼ぶ声を無視してしまった。裏切られたメリッサはさっき俺たちが戦ったような怪物を大量に召喚して暴れだした。彼女をこのまま放置した場合、少なくと数日以内にこの施設の人間は全滅し、それ以降は見当もつかないという。

 

「だから彼女を、MBを破壊してほしいの。」

 

 震える声で懇願するマデリーンの話を聞いて、いつも明るくマイペースな皆も沈黙に沈んでいた。

 

 

 話を聞く限り、悪いのはメリッサを生み出し、都合が悪くなったから壊すという身勝手な計画の首謀者だ。

 マデリーンも局長としてメリッサの破壊に表向き賛成はしているが、震える声やメリッサを「血の繫がりは無いけど親子」と嬉しそうに言い切っていたことから内心反対なのだろう。当たり前だ。子供の死を願う親がどこにいる。

 

「事情は分かった。みんな走りながらでいい。聞いてくれ」

 

 だが、メリッサを救うのは難しい。

 まず暴れている彼女を止めなくてはならないし、そのためには彼女の周りにいる大量の怪物たちを片付けなくてはならない。メリッサ自身の能力も未知数だ。彼女を傷つけないよう手加減しなくてはならないし、もたもたしていると無関係の人間にまで被害が出る。そもそも人間不信に陥っているだろう彼女を思いとどまるよう説得できるかどうか分からない。さらに彼女を助けて、その後どうすればいいかも不鮮明だ。不確実要素が多すぎる。

 

 一方で、彼女を倒すというのなら話は単純だ。ここの警備員と協力して全力で敵を殲滅するだけ。彼女一人倒すだけで事件は解決し、この施設の数百人の命は保障される。

 

 

「俺はメリッサとマデリーンを助けたい。悪いがみんなの力を貸してもらえないか。頼む」

 

 ありったけの誠意をこめて頭を下げる。

 

 任務の達成を困難にし、傭兵団に厄介事を持ち込むこの決断はただの俺の我儘だ。

 だけど不確実でも、俺はメリッサを助けてやりたかった。権力者の思惑に必死に抵抗する彼女を手助けしてやりたかった。マデリーンに貰ったという髪留めを大事に磨く彼女を、マデリーンと楽しそうに笑う彼女を守りたかった。マデリーンとメリッサの関係を無かったことにしたくなかった。

 

 

「ん! 」

「あったりめえじゃあ! ……違った。当たり前です」

「こちらからお願いしようかと思っていました」

「さっすが大将! そうこなくちゃ! 」

「当たり前でしょ。家族は一緒にいなくちゃね! 」

「……給金、増額でお願いします」

「わ、私ももちろんお手伝いします! 」

 

 リアーネが、ネフェニーが、エリンシアが、ワユが、ミストが、イレースが、マーシャが応えてくれた。

 俺を含めてメリッサの討伐に納得している者は一人としていない!

 

「グレイル傭兵団はこれよりメリッサ・バーグマンと職員の救助を行う」

「ちょ、ちょっと話を聞いてなかったの。貴方達の仕事はメリッサの破壊。これは命令よ! 」

「断る。グレイル傭兵団は納得できない仕事は受けないし、しない主義だ」

「そ、そんな…」

「マデリーンも覚悟を決めろ。俺たちはもうあんたらを助けると決めた」

「で、でも…」

 

「マデリーン様、心配なさらなくても大丈夫です」

 

 エリンシアが安心させるように笑いかけた。

 

「最後は愛が勝つって決まっています! 」

「そ、そういう事じゃなくて」

 

 マデリーンはまだ決心がつかないようだが時間が無い。

 俺たちはまだなんか言っているマデリーンを無視して宣言し、走るスピードを上げた。

 

 

 

 

 怪物たちと散発的に戦闘を繰り返しながら、遂に俺達はメリッサ・バーグマンを発見した。

 天井は低く、マデリーンに教えられなければ壁にしか見えない天井まで届く扉に怪物たちが群がり攻撃を加えている。その後ろに金髪を肩まで垂らした白衣の少女の後ろ姿があった。

 

「「メリッサ! 」」

 

 俺と背中に乗ったマデリーンの呼びかけに、メリッサはゆっくりと振り返った。無表情だが目の奥に激情がちらついている。

 

「……何の用ですか。人間」

 

 まだ話ができるようなので話し易いようにマデリーンを床に下ろす。

 

 俺たちの作戦はマデリーンとメリッサの信頼関係を回復させることだ。メリッサの人間不信は計画首謀者の身勝手な行動に端を発し、母親マデリーンが彼女を助けなかったことが決定打となった。だからマデリーンとの関係を修復出来れば……

 

「さっきは貴女を助けられなくてごめんなさい。でも、もう終わりにしましょう。メリッサ、あなたは」

「いいえ。まだ終わっていません。身勝手な人間どもを裁かねばなりません」

「裁くってその扉の向こうは一般居住区よ」

「私を捕えようとした人間たちもそこに逃げ込みました。どちらも粛清対象ですから手間が省けました」

 

 マデリーンは宥める様に話し、メリッサは淡々と応える。

 

「しゅ、粛清!? 馬鹿なことは止めなさい、メリッサ! 」

 

 予想はできていたが信じたくなかったのだろう。メリッサの物騒な発言にマデリーンは動揺したようだ。

 

 メリッサは足元に転がっていた銃という魔道武器を取り上げて、マデリーンに向けた。

 

「愚かなのは貴方達の方です…! マデリーンも例外ではありません」

 

 目を血走らせながらも無表情のまま言い放ち、メリッサは引き金を引いた。

 乾いた炸裂音と同時に青白い光が空中に尾を引きながらマデリーンを襲う。

 

「させるかっ!」

 

 あれに当たると不味い、俺はラグネルで青白い光を斬り払い、霧散させる。

 

 メリッサがマデリーンを撃つのと同時に、怪物たちも俺たちの方を向かってくる。

 夥しい数の怪物たちに前をふさがれてメリッサの姿は見えなくなってしまい、さらに例の蜥蜴みたいな奴らがハサミから光線をいくつも飛ばしてきた。

 俺はマデリーンを横抱きし、号令をかける。

 

「皆行くぞ。目標はもう一度マデリーンとメリッサを会話させることだ。」

 

 

 グレイル傭兵団、戦闘開始。

 

 

 

「全員、突撃! 」

 

 俺の号令と同時にリアーネが味方の戦意を高め、疲労をとる呪歌を歌い出す。

 双方の雄叫びと爆発音、リアーネの透き通った美声とを背景に、色とりどりの光線の中を全員で突っ込んでいく。

 

 今回の作戦はスピード勝負だ。メリッサは怪物をどんどん呼び出せるのに対し、こちらは人員にも体力にも限りがある。時間を掛ければ不利になる一方だ。

 ともかくメリッサまでの道を確保しないと話にならない。

 

 エリンシアとマーシャとミストの3騎と魔導士イレースが先鋒を務める。天馬の嘶きに縛られて硬直する敵。

 

「レクス・ボルト! 」

 

 まず、イレースが轟音と共に極大の雷を落として、天井に張り付いていた蜥蜴もどきと敵陣と、ついでに床に大穴を開ける。

 

 しかしクワガタムシのようなやつらはなんと大量の雷をいくつか被弾しながらも回避。数を7体から3体に減らしながらもこっちに向かってくる。その後ろからトゲ付きの玉達もガリガリと火花を散らしながら転がってきた。

 

「「はああっ!」」

 

 次に、エリンシアが得意の2連撃を食らわせて正面のクワガタムシを沈め、マーシャが勢いに乗った突進で光線を撃ちまくる緑色の蜥蜴もどきを貫き、ミストが魔法剣を振り回して桃色の刃を飛ばしてトゲボールを叩き落とす。

 

 

 ワユ、リアーネを背負ったネフェニー、マデリーンを抱く俺が騎士たちの作ってくれた道を突き進む。

 

「っはあ!」

 

 速度と技量を一番の武器とするワユが俺に跳びかかろうとする2体のクワガタムシを一瞬で上下左右から斬りつけてバラバラにする。

 

「助かった、ワユ」

「気にしないで。お礼は後でゆっくりしてもらうから! 」

 

 戦闘中に次の鍛錬のことを考えるとか、この戦闘中毒者(バトルジャンキー)め!

 

「ふっ!」

 

 ネフェニーが流れるような4連撃で火花を散らしながら床や壁を不規則に跳ね回るトゲ付き玉4つを串刺しにし、最後に獲物を刺したままの聖槍をトカゲもどきにぶん投げる。

 矢の様に飛んだ槍は正確に獲物の胴体を貫通し、ネフェニーが手を開くと槍のみ現れた。

 

「すまない、ネフェニー」

「…いえ。それよりお礼というのが気になります」

 

 お前もか、ネフェニー! お前は違うと信じていたのに。寄ってくる敵を斬り、寄ってこない敵には斬撃を飛ばして切り裂きながら心の中で嘆いた。

 

 

「アイク」

 

 もう少しでメリッサの居場所に届くという所で、マデリーンが真顔で言った。

 

「いくら貴方達でもこのままでは負けるわ」

「……」

 

 ……そんなことは初めから分かっていた。

 

 一見すると、快進撃を続けているように見える俺たちだが、強引に前へ進んでいるだけで左右に敵を残したまま。左右から挟撃されれば致命的だ。その前にマデリーンとメリッサの信頼関係を回復させないといけない。

 

「こいつらはMBの命令で動いている。だからメリッサを倒せばこいつらは組織立った動きができなくなる。だから__」

「だからメリッサを殺せと言うのか。母親のあんたが」

 

 思わず漏れてしまった低い声にマデリーンは揺らがなかった。

 

「ええ。あの子はもう完全に心を閉ざしてる。あの子の心にあるのは私や人間に対する憎悪だけ」

 

 苛立ちが募る。あんたはなんにも分かっちゃいない。メリッサへの道はあと一歩なんだ。

 

「もういい。あんたら親子は俺たちが意地でも助けてやる。文句も苦情も知った事か」

 

 俺にはあと一押しでメリッサはマデリーンを許して心を開くという確信があった。

 

 だって、そうだろう。

 

子供(メリッサ)愛してくれた家族(マデリ-ン)を本当に嫌う筈がない! 」

 

 瞼の裏に映る記憶の雫。

 母さんの形見のメダリオンに毎日、今日あったことを話していたミスト。

 女を理由に手加減されるのを心底嫌うワユの根底にある差別されていた女騎士の母の姿。

 行方不明になった兄を探すためベグニオン皇帝直属の天馬騎士への道を蹴ったマーシャ。

 誰よりも優しいエリンシアが、家族想いで怖がりのネフェニーやミストが、故郷や家族を守るために剣を取ると決めた瞬間。

 

「た、たとえそうだとしても、私はこの施設を預かる局長として彼女の処分を__」

 

 責任に逃げるマデリーンに俺の苛立ちがピークを迎えた。

 

「親が子供に死ねだと……! 」

 

 脳裏をよぎるのは、誰よりも強く誇り高い親父が俺たち兄妹のために利き腕を自ら傷つけていた事実。人質にされた情けない俺を助けるため、敵となったかつての弟子に「自分の命はどうなってもいいから子供たちには手を出すな」と懇願した瞬間。死に掛けの体で「元気で、平穏に暮らせ」と言った瞬間。

敵に魔術と薬品で洗脳されて俺や姪のエリンシアに剣を向けたレニング王弟が、自由に動かないはずの体をねじ伏せ「イキロ。ワタシを、タオセ」と言った瞬間。

 

 親ってのは子供の気持ちなんか考えずに___!

 

「親は子供に生き抜けって言うんだ!! 」

 

 

 仲間たちの尽力で出来たメリッサへの道に俺はこの責任感の強すぎる女を力一杯ぶん投げた。

 

 マデリーンは悲鳴を上げながらメリッサの方に飛んでいき、

 

「…ま、マデリーン……」

 

「メ、メリッサ……」

 

 心温まる親子の会話(顔面衝突)に成功し、どこか幸せそうにお互いの腕の中に顔をうずめたのだった。

 

 

 






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