アイクの異世界旅行記   作:よもぎだんご

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長かった・・・もうすぐサムスに会えるよ。
7月27日、改稿。
一部スキルの解説を追加、一部に会話を追加。


整いつつある舞台(下)

 マデリーンとメリッサの会話に成功した。ついでにメリッサが気絶したので俺たちを囲んでいる怪物どもも凍りついたように動かなくなって万事解決……とはいかなかった。

 

「「………」」

 

 仲間達から説明を求める視線が俺に突き刺さる。若干非難や呆れの感情が混じっているような気がするのは気のせいだと思いたい。

 

 俺は仕方なく腕を上げた。

 

「よし、目標達成。任務成功だ! 」

 

 視線の温度が急激に下がった。解せん……。

 

「いや、大軍を倒すには敵の大将を倒すのがうってつけだ。それに悪い事した子には親のお話とお仕置きが必要だろう。俺はそれをいっぺんにやっただけであってだな…」

 

「さっすが大将! 私には思いつかない事をしてくれるよね!」

 

 俺の説明に仲間たちの視線の温度は上昇を示し、現メンバーではトップクラスの破天荒さを誇るワユからはキラキラした目で見られた。複雑だが少し嬉しい。

 

「アイク、らんぼう、だめ!」

「とりあえず、護衛対象を投げるのは良くないと思います」

「アイクさんですから」

 

 だがリアーネからお怒りの言葉を貰い、ネフェニーには冷たい目でダメ出しされた。破天荒さではワユと同等のイレースまで完全に諦めた者の目だ。地味にダメージを負う。

 

「すまん。勝利条件をいっぺんに満たせる方法を思いついたものだから、ついな」

 

「普通こんなこと思いつきもしないし、思いついたとしてもやらないよ」

「アイクさん、少しずつ頑張りましょう。私もお付き合いしますから」

 

 団内では良識派に属するミストとマーシャには悲しそうな目で見られてしまった。同じ良識派としては頭が下がる思いだ。

 

「私も一緒に行きますから、後で謝りましょうね」

 

 最後にエリンシアがまとめる様に言った。みんなも頷く。まるで駄目男に接する賢妻。駄目兄マカロフと接するしっかり者の妹マーシャである。ん? それじゃあ俺はマカロフと同じなのか。それは嫌だ。

 

 

 そんなことを話しながら、人騒がせな親子を連れて撤収しようとしたその時、奇怪な音がした。

 

 

 ___キシャアアアアアアッッッ!!

 

 化け物の鳴き声じみたその音が空気を震わせる。

 それと同時に、彫像のように動かなかった化け物達が突然動き出した。息を吹き返したトカゲもどき達が腕のハサミを倒れ伏すマデリーンとメリッサに向ける。

 

 俺達はトカゲもどき達に殺到するが一瞬の差で間に合わなかった。

 炸裂音と閃光が弾け、全方位から紫の光が床に倒れ伏したままのマデリーンとメリッサを襲う。

 

「させるかっ!」

 

 俺は全力で彼女たちの方に走りながら、ラグネルを横殴りに振るった。青い衝撃波が発生し、彼女たちの上を飛び越え、前方の弾幕を消し去る。

 

 横薙ぎと同時に走った勢いを利用して前に跳躍する。ただし低く、床すれすれを。

 

 俺の狙い通り、大剣を振るった勢いを残した身体が勝手に右に回っていく。

 

「はあっ!」

 

 空中で横に回転しながら、再び水平に剣を振るう。再度、青い衝撃波が発生して後方から間近に迫っていた光線の群れをかき消した。

 

 倒れたままのマデリーン達に背を向ける形で彼女達のすぐそばに着地し、剣を防御向きの中段に構える。

 

 

 横薙ぎや、それを発展させた回転斬りは衝撃波で攻撃範囲を大幅に広げられるラグネルやエタルドを使うことで真価を発揮する。

 周囲を敵に囲まれた時に使う全方位攻撃。またこちらの攻撃を躱して接近戦を挑んでくる身軽な敵にも意外と有効だったりする。やろうと思えば俺の正面も背後も横も上も下も衝撃波の攻撃範囲だ。避けようがない。身軽な敵は防御が薄いことが多いので斬撃と同じ威力の衝撃波に耐えられない。

 

 短所としてはある点では応用が利かないということだろうか。

 

「っ!」

「うわっ!」

「きゃっ!」

 

 回転切りは文字通り全方位に衝撃波を発生させるので周囲の味方を巻き込むのだ。一応衝撃波の範囲は技を出す直前に大雑把に決められるのだが、それでも集団戦では致命的である。

 

 今回はマデリーンとメリッサに当たりそうな光線を全て消す必要があったので、彼女たちがいる前方はともかく、後方はワユとネフェニーならなんとかできるだろうと手加減なしの衝撃波だった。

 

 おかげで弾幕は全滅したが、味方から非難轟々だ。

 

「ちょ、ちょっと大将。する時はしたいってちゃんと言って! 」

「…危うく私たち3人とも天国に逝ってしまう所でした」

「すまん! 怪我は無いか!」

 

 後方の一芸特化の歩兵組はとりあえず無事な様だ。文句を言いながら敵を倒している。

 

「ない、よ」

「アイクさん、やりすぎですよ!」

「お兄ちゃん、気をつけてよね!」

 

 後ろからリアーネとマーシャ、ミストの声は聞こえるが、エリンシアとイレースの声が聞こえない。心配だ。

 

「全員、遠距離攻撃が出来る奴から倒せ! 」

 

 敵の光線を遮るものが何もないこの場所でこちらの非戦闘員は3人もいる。再び動き出した敵は、遠距離攻撃ができる奴から優先的に仕留めるべきだ。

 

「「マジック・シールド! 」」

「エリンシア、イレース。無事だったか」

 

 後ろを振り返ると天馬に乗ったエリンシアとイレースがマデリーン達にマジックシールドをかけていた。マジックシールドはしばらくの間魔力による見えない結界を張る魔法だ。これでさっきのような奇襲も1回くらいなら何とか防げるだろう。

 

「助かる。それととっさの事とはいえ、さっきはすまなかったな」

「いいえ。アイクさまもマデリーン様とメリッサ様も無事で何よりです」

 

 エリンシアはにっこり微笑んで言った。

 ……エリンシア…良い奴だな。なんか癒される。

 しかし、だからこそ気になる点があった。近くにいる蜥蜴もどきを斬り飛ばしながら指摘する。

 

「…なあ、エリンシア、それやめにしないか」

「えっ、」

「俺も貴族になるんだから慣れなきゃいけないと分かってはいるんだが、様付けとお辞儀はどうにも背中が痒くなる。前にも言ったがもっと砕けたかんじで話してくれないか」

「あ、アイクさま、そ、それはどういう……」

 

 なんだかエリンシアがあわあわと慌てだした。

 

「だから敬語とかも無しで、アイクって呼び捨てにしてくれ。もともとエリンシアの方が偉いんだし」

「で、ですがアイクさまはクリミアの、私の恩人ですし、そのう」

「俺達が知り合ってもう4年も経つのに、知り合って数日のマデリーン達と同じく様付けで呼ばれるのは不満、というか少し寂しい。それにマーシャやルキノ、ジョフレも呼び捨てにしているじゃないか」

「そそ、それは…そうですが……ぁ、あい、アイク………さま」

 

 俺としては割と当たり前の要求だったのだが、彼女にはどうやら厳しすぎたようだ。エリンシアが耳まで真っ赤になって悶えだしてしまった。

 そんな反応されるとこっちも少し照れるが、顔を隠していやいやしている彼女を見ているとこう癒されるな。エリンシアの新芽のように柔らかい緑色の髪と白磁の肌に赤がよく映える。

 

「……私の前で唐突に二人だけの世界を作るのは止めてください」

 

 恨みがましい低い声に二人してハッと振り返るとイレースが俺たちを悲しそうな目で見つめていた。なんか手遅れの重傷者を見るような目だ。

 

「…イレース怒っているのか」

「…いいえ。アイクさん私は悲しいです」

「じゃあその手の雷は何だ」

「これですか、なんだか急に雷魔法を撃ちたくなって」

 

 右手を敵に向けて雷を解き放った。轟音と敵の断末魔が聞こえてくる。

 ゆっくりこちらに近づいてくるイレースの迫力にエリンシアがぷるぷる震えている。そんななか救世主が現れた。

 

「あ、あのですねアイクさん、エリンシア様! ここは一旦撤退して戦力を立て直すのがいいんじゃないかなーっと思うのですが」

 

 マーシャがやってきた。

 

「よし一度合流しよう。皆集まってくれ! 」

 

 これ幸いと俺は号令するのであった。

 

 

 

 

「いやーすごい数の敵だね-」

「…ざっと見ただけでも百以上います」

 

 ワユの能天気な言葉にネフェニーが真面目にコメントした。

 

 俺たちは扉のすぐ近くに設置した光の結界の中で傷の手当てと体力の回復に努めながら作戦会議をしていた。敵は直立する白い光の柱で出来た結界を取り囲んで攻撃しているが結界は破られていない。

 

 光の結界は、使用すればしばらくの間、敵も魔法も使用者本人すら通れなくなる使い捨ての結界の術式の書いてある札だ。魔法職じゃなくても発動可能なのが利点。高価かつ貴重で一定時間で効果が切れるのが欠点だ。ちなみに在庫はあと一つしかない。

 

 

「それにしてもあの音は何だったんでしょう」

「……あれは、めいれい。にんげんを、おそえって」

「あ、あれもメリッサさんの力、なんでしょうか」

 

 おののくマーシャにリアーネは静かに首を振った。

 

「ちがう。めりっさは、ひと。あれは、ひとじゃない、なにか」

「…しかも敵の数は増え続けています」

「それに、さっきから薄暗くなってきたよ」

「殲滅は難しい、か。これは一度撤退して態勢を立て直すしかないだろうな」

 

 手段を選ばなければ殲滅できない事も無いが暗所で非戦闘員3人はきつい。さっきの奇襲の件もある。しかもここはほぼ遮る物のない平地だ。彼女達を隠すところも無い。

 

「でもお兄ちゃん。撤退するにしてもどこに行くの。私達の部屋のある方から敵が続々と出ているんだよ」

「……こんなことなら冷蔵庫の中の物全部食べておけば良かった…」

 

 本気で悔やんでいるイレースの言う冷蔵庫というのはいわば個人用魔法版冷え蔵といったところで、そこに食糧や飲料を入れておくと簡単には腐らないという代物だ。

 テリウスにも冷え蔵はあるのになんでこれを思いつかなかったのだろうか。これがあれば肉や魚、野菜や果物を燻したり干したり塩や蜂蜜漬けにする必要が無い。あれはあれで美味いがやっぱり新鮮な物を何時でも食べられるというのは非常に魅力的だろう。帰ったら絶対にテリウスにも広めようと思う物の一つである。他にも牛肉のステーキとか、ハンバーグとか伝えたいことは色々とあるが今はそれよりも考えなければならない事がある。

 

「俺達の部屋が駄目ならば、扉の向こうの一般居住区に行くしかない」

 

 マデリーン曰く、俺たちやマデリーン達のいるフロアと一般居住区はここしか通路が無いそうだ。だからメリッサもこの扉を破壊しようとしていたんだろう。

 

「しかし、この扉を壊してしまったら敵が一般居住区に雪崩れ込んでしまうでしょう。わが身可愛さに無辜の民を犠牲にする訳には参りません」

 

 エリンシアが凛々しく断言する。

 そこにはいつもの恥ずかしがりやの少女では無く、気高いエリンシア女王がいた。

 エリンシアは時々誰よりも気高くなる時がある。彼女は顔も知らない誰かのために献身することの尊さ、大切さを知っている。高貴というのはこんな時に使う言葉だろう。

 

「分かっている。だから皆はマデリーン達を連れてリワープで逃げてくれ。俺が残って扉を守る」

「それじゃお兄ちゃんが危なすぎるよ!」

「『勇将』のスキルがあれば、なんとかなるだろう。いざとなれば『天空』で回復すればいい」

 

『勇将』は大怪我をした時に自動的に発動してくれるスキルで、効果は力の強さ、技の切れ、動きの速さ、が大幅に上がるというものだ。体感だが1.5倍くらいになると思う。名刀でばっさり斬られるか、脇腹に長槍が突き刺さっているレベルならば発動するという結構しんどい条件で、スキル自体覚えるのが難しく、おまけに回復するとスキルの効果も消えるという厄介さだが、効果は高い。

 

『天空』は親父の剣術を応用、発展させた俺オリジナルのスキルだ。奥義と言ってもいい、俺の奥の手である。敵に与えたダメージ分、自分の傷を癒して体力を回復させる一太刀と、敵の防御力を無視して斬りつける一太刀を同時に繰り出すというものだ。

 

 ちなみに同じ剣術を継いだゼルギウスは敵の防御力を無視した斬撃を同時に五度繰り出す、厚い鎧を着てダメージを抑え、『治癒』で回復をするという戦法をとっていた。防御力を無視して五度も斬られるのは死と同義なので、奴との戦いは大技を確実に防ぐ『見切り』が必須であった。

 

「……『勇将』と『天空』は、体に負担が大きすぎて同時にできないって言ってませんでした?」

「いや女神アスタルテとの戦いの後、出来るようになったから問題ない」

 

 イレースは俺の発言に疑問を抱いたようだ。

 俺にも原因は不明なのだが、女神との戦いの後、体が前より丈夫になった。ワユとの鍛錬で怪我をしても血も痛みもすぐ止まるし、治りも早い。『治癒』をつければもっとだ。前は出来なかった負担の大きいスキル同士の組み合わせも可能になったし、まるでラグズにでもなった気分だ。

 

「俺も原因は分からないが、ユンヌが俺の体を強くしてくれたんじゃないかと思っている」

「扉を守る人は必要だけど、大将だけじゃなくて私も残るよ」

「アイク様ばかりに負担をかけるわけには………そうです! 光の結界を使いましょう!」

 

 

 

 

 

 真っ直ぐに伸びていた結界の光が靄の様に揺らめいていた。敵も邪魔な結界が消えると分かったのだろう。よりいっそうの熱意をもって攻撃してくる。

 

「確認するぞ。イレースとミストはリワープの魔法を、エリンシアがマジックシールド、リアーネは彼女達のサポートだ。その他のメンバーは俺と一緒に彼女達を守り通す。合図をしたら集合して扉の前に光の結界を置いて離脱する。いいな」

 

 全員が頷く。

 既にエリンシアとイレース、ミストは目を閉じて魔法に集中している。

 古代語の呪文を唱える3人の元に色とりどりの魔法陣が現れては処理されて消えていく。

 今から行う魔術は確立されていない不完全な物なので高度な思考処理、普通の魔導士なら即死んでしまう程の呪力消費、凄まじい集中力を必要とする。

 いつもの様に詠唱を省略して即時発動という訳にはいかない。

 

 魔法使い達に負担をかけてしまうが、色々と考えたがこれが一番犠牲の出る可能性が低く、成功の確率が高い作戦だった。

 内心すまなく思いながらも、これに懸けるしか無かった。

 

「…アイク、これで、いい? 」

 

 リアーネが扉に光の結界の札をぺたぺたと貼り付けていた。

 

「ああ。それでいい」

 

 これで向こう側にマデリーン達を隠して、化け物たちを殲滅するための作戦を展開するための時間を稼げるだろう。ここの施設の人達の協力も当てにしていいはずだ。何しろここの魔導技術はテリウスより発達している。銃以外にも色々と武器やそれに準ずるものがあるに違いない。

 

「まだ発動させるなよ。タイミングが命だ」

「ん。わかってる」

 

 この札は一度発動してしまうと魔力の流れを遮断してしまうので、今この結界が発動したら扉の向こう側に転移することは不可能になってしまう。

 ここでふと疑問を覚えた。

 

「リアーネはどうやってこの札を貼り付けたんだ? 」

 

 俺の疑問にリアーネがえっへんと薄い胸を張った。

 

「ごはんつぶ、つかった」

「……昼飯用に支給された握り飯か」

「ん!」

 

 ……まあ札がくっついてくれれば何で貼っても問題ない。

 とりあえず誇らしげな様子のリアーネの頭を左手でなでておく。

 彼女はくすぐったそうにころころと笑い、戦いの前なのにみんなで和んでしまった。

 

「じゃあ、リアーネ。いつものを頼む」

「ん。わかった」

 

 リアーネが杖使い達の間に立ち、胸の前で手を合わせた。疲れを取り、集中力と呪力を回復させるゆったりした曲調の呪歌を歌い出す。

 

 霧の様に残った光が最後の仕事とばかりに敵の猛攻を防いで、そして消えた。

 すかさずエリンシアが非戦闘員の周囲にマジックシールドを張る。

 

 

「グレイル傭兵団、出撃! 目標は全員で生き残ることだ!」

 

 

 号令と共にワユを乗せたマーシャが敵に向かって飛び出していった。

 今回の俺達の役割はエリンシアたちの護衛だが、速度と技量を武器にする天馬騎士と剣士は防御にはもったいない。故に彼女たちは__

 

「空は任せたよ、マーシャ!」

「任されました!」

 

 

 敵陣に切り込み敵を混乱させるのが役割だ。攻撃こそ最大の防御、当たらなければどうということはない、を地で行くワユとマーシャにぴったりの役目だ。

 

 ワユが天馬の上から跳び下り、神刀ヴァークカティを抜刀して地上の敵を一刀両断。着地するや否や、敵の横を駆け抜けながら横薙ぎに一閃、続けて袈裟懸け、逆袈裟懸け、唐竹割りと辻斬りのように敵を斬っていく。

 

 空はマーシャの狩場だった。飛んでくる光線の群れと天井や壁をバウンドする緑のトゲボールを右に急旋回、左に回転、急加速とアクロバット飛行で躱していく。目まぐるしく動き回りながら神槍を投擲して遠距離攻撃の出来る蜥蜴もどきを貫き、跳躍する蜥蜴もどきを直接刺しうがち、跳ね回るトゲボールを穂先で切り伏せ、石打で叩き落す。

 

 ワユとマーシャが縦横無尽に活躍する傍らで、ネフェニーは敢えてエリンシアのシールドから出て2mを超える彼女の神槍で敵を屠り、同じくらい大きな盾で攻撃を防いでいる。彼女の巧みな槍捌きと盾捌きで敵は攻撃できず、攻撃しても大半が盾で防がれる始末だった。

 

 一方俺はエリンシアの張ったシールドから少し離れた場所で、一番厄介な銀色のクワガタムシと戦っていた。こいつは横に1m、上に2mを超える巨体のくせに爪と角を使った高速戦闘を挑んできた。

 

「ここだ!」

 

 俺はラグネルの間合いに入った一瞬を狙って下から逆袈裟に剣を振る。

 重装鎧の騎士を斬った時のような感覚と嫌な金属音を鳴らして胴体に斜めに傷が入った。

 しかし敵は当たる直前に身を引いたため傷は浅く、ナイフの様に鋭い3本の爪を獰猛に振るって反撃までしてきた。

 なかなかやるな。

 反撃に振るわれた爪を半身になって躱して、同じ所を袈裟懸けに斬り付けた。

 手応え有り。

 

 続いて、剣を振り終わった瞬間を狙って2体の銀色クワガタムシが剣のような二本の角で挟み込もうと左から突進してきた。

 このままここで相手を待ち受けるのは不利だ。

 直感に従って俺は敢えて接近を選択。空間を乱さないように走りながら剣を引き絞り、当たる直前で滑り込むように身を低くして角を回避。飛び上がり際に衝撃波を繰り出しながら切り上げる。

 空中で一回転して体勢を整え、相手とその後ろのクワガタが真っ二つになっているのを確認してから着地。エリンシア達の方へ行く光線もしっかり切り払っておく。

 

「次だ!」

 

 俺は次の獲物を求めて駆け出した。

 

 

 

 

 きゅああああ!! きゅああああ!! きゅああああ!!

 

 十数分後、大きな白鷺に化身したリアーネの叫びが聞こえてきた。合図だ。

 

 空中に留まっていたマーシャが急降下する。おそらくワユを乗せに行ったのだろう。俺も急いで離脱地点に向かう。

 

 黄金の魔法陣が離脱地点の床を覆っていた。魔力で編まれた古代語が幾何学模様のように絡み合い円を形成している。

 

「マーシャ! 急いでください!」

 

 エリンシアの声が響いた。見るとエリンシア達の杖のてっぺんの宝石が砕けかかっている。

 エリンシア達の所に敵は通していないし、出来る限り流れ弾も防いでいたのだが、やはり無傷とはいかなかったようだ。

 しかも本来個人用のマジックシールドとリワープを持ち主の技量と多量の魔力で無理矢理集団で使っているのだ。だいぶ彼女達にも杖にも負担をかけたらしい。

 

「ただいま戻りましたー!」

「ただいまー!」

 

 マーシャもワユも仕事が早い。

 マーシャと彼女の天馬の背中にはワユが座っていた。2人とも細かい傷はあるが大怪我はしていないようだ。

 

「俺が殿を務める。二人とも陣の中へ!」

「アイクさん、私も!」

「ネフェニーはそのまま陣の中に敵が侵入しないようにしてくれ!」

 

 殿というのはいつだって死亡率が高い。ならば団長の俺がやるべきだ。魔法陣に向かってじりじりと後退しながらラグネルを横薙ぎ、唐竹割り、逆袈裟懸け、袈裟懸けと振り、敵に衝撃波を飛ばして敵の注意をひきつける。

 

 リワープの魔法は陣に一歩でも入ったものを問答無用で転移させてしまうことは先の大戦で分かっている。扉の向こう側は非戦闘員だらけだ。一匹でも敵を入れるわけにはいかない。

 俺は懸命に剣を振るい、敵を斬り飛ばし、衝撃波で吹き飛ばし、殴り飛ばし、蹴飛ばしながら後退する。後ろからも斬撃や衝撃波、槍そのものも飛んできて援護してくれていた。

 

「大将、もう少しだよ!」

「アイクさん、もうちょっとです!」

「気張るんじゃあ、アイクさん!………頑張ってください、アイクさん!」

 

 回復魔法の使い手が一人も動けない今、ワユもマーシャもネフェニーも残り少ない体力で、俺を迂回して敵が陣の中に入らないように援護してくれている。

 エリンシアも動けない非戦闘員を守るために必死で消滅寸前のシールドを維持している。

 リアーネのサポートを受けながらミストとイレースも無理やり完成させた魔力馬鹿食い魔法を発動せずに維持し続けるという離れ業をしながら俺を待っている。

 

 本当によくできた女たちだ。ここまで助けられて燃えねば男ではない!

 

「うおおおおおおおっっ!!」

 

 よくわからん雄叫びが口からほとばしるに任せ、一歩、また一歩と、近いのにひどく遠く感じる道を後退する。

 蜥蜴もどきの光線が脇腹を貫き、クワガタムシのカギ爪が俺の左腕の肉を抉る。刻々と失われる血とスタミナ。

 敵からの圧力は強くなり、俺の傷も増えるばかりだが絶対に敵は通さない。通してたまるか!

 

 

「アイクさま!!」

 

 永遠にも思えた時間は後ろからエリンシアに抱きつかれて終わりを迎えた。

 それと同時に様々な事が起こる。

 

 俺が渾身の力で横薙ぎを繰り出し、剣と衝撃波で接近していた集団を真っ二つにし、他をある程度吹き飛ばす。

 

 エリンシアに引かれて俺の体が陣に入る。

 

「「行きます!」」

 

 魔法が発動し魔法陣の輝きが増す。

 

「ん!」

 

 リアーネが光の結界を時限発動する。

 

「きゃあ!?」

「っく!?」

 

 そして俺の体が音を立てて陣の外に弾き飛ばされた。

 

 愕然とした顔で俺を見るエリンシア達が転移し、一瞬遅れて光の結界が発動。

 

 あとには、呆気にとられる俺と殺気立つ怪物たち、光の結界だけが残された………

 

 

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