ウマ憑依(ぴょい)伝説   作:タイシン推し

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アタシの名前は 今浪ゴルシ。

幼馴染でも何でもないメジロマックイーンを拉致って天皇賞(春)を観戦に来ていたアタシはトレーナーたちの会話を耳にする。

次の注目株の名前を上げていくトレーナーたちの話に集中していたアタシは、背後から近寄ってくるトレピッピに気づかなかった。

思わず蹴っ飛ばしてしまい仰向けにブッ倒れたトレピッピにタキオン印の薬を飲ませた結果、トレピッピの記憶はきれいにぶっ飛んでいた。


顔面の蹄鉄の跡がアタシのものだとトレーナーにばれたら会長に大目玉をカッ喰らうだけでなく、周りの連中にも危害が及ぶ




あー……なんだ。なんかめんどくなってきたんで




見た目はウマ娘!頭脳は二人!お前の罪を数えて晒せぇ!!


ゴールドシップ劇場、開幕ッッ!!!








#1 大物か、或いは馬鹿か

 プンスコと漫画の描き文字が浮かびそうなほどに頬を膨らませて足音荒く帰って行った美少女(マックイーン)をゲラゲラ笑いで見送って、フゥと一息ついて、視界が動く。

 

 

「さて、と……」

 

 

 共有している視界が急激に切り替わっていく。寮らしき屋内をサクサク移動していったかと思うと、不意にジャンプ。頭上を見ないで上部に手をかけ肩の筋肉を使う感覚が走り、グッと上体を起こして闇の中に。

 視界がやや戻ると埃っぽさを感じる薄暗い場所に身を落ち着けた残念美人は、再び深呼吸して目を閉じる。

 

 

 向こうで目を閉じて意識を集中させるとこちらの世界に戻ってくるのかもしれない。目を閉じてしばらくすると唐突に視界が開けたかと思えば真っ白な空と芝土のターフに戻って来ていた。

 この世界はいわゆる精神世界のようなものなのだろう。と結論付けると同時に、彼方から土煙を上げる勢いで駆けてくる残念美人の姿。

 

 

『オラッ!!戻ってきたぞーッ!!』

「ああ、はい」

 

 若干ハァハァと肩で息をしつつそんな風に怒鳴る残念美人に軽く頷くと、「で?」と返ってくる。

 

 

「いや……で?って言われても」

『しらばっくれんなよ!タイムだよタイム!!何秒だった!?3分切ったか!?レコードホルダーかぁ?』

「…………はい???」

 

 

 意味が分からない。マックイーンと呼んでいた少女と会話する前と会話していた内容も何もかも変わってしまっている。状況について行けない俺に、目の前の残念美人は「ハァ??」という微妙な表情を見せた。

 

 

『オイオイオイオイ。そこで言葉に詰まんなよ設定ぶち壊しマンかお前はよぉー?

 

 

 

 ……まぁいいや。そんで?何か思い出せたか?』

「あ、はい」

 

 

 完全に主導権を握られたまま、俺は自分が恐らく死んでしまったであろうこと、その死までの経緯、今の状況についてをかいつまんで語った。だが正直、荒唐無稽もいいところの話と言える。俺が相手だったら到底納得などできないだろう。

 

 

 

『ほーん……なるほどなぁ』

 

 

 

 だが目の前の残念美人は一味違っていたようだった。

 やる気のなさそうな、どーでも良さそうな顔で適当に相槌を打つ残念娘に逆にこちらが大丈夫かと思ってしまうほどである。

 

 

「自分が言うのもなんだけど……え?それで大丈夫なの?」

『あ?イチャモン付けたってお前消えてなくなるワケじゃねーんだろ?まぁ、稀にある話じゃねーの?聞いたことねーし知らねーけど』

 

 

 そんな台詞すら飛び出してくる始末。憑依転生モノのなろう小説とかよく見かける話ではあるけれど、そういうのこっちの世界でもあるの??

 

 

『ンでよー、お前についてのアタシの結論を伝えるぞー?』

「……結論?」

 

 

 どうやら目の前の残念娘は残念娘なりに考えていたらしい。朧げな俺の記憶には目の前の残念な娘が誰なのかうすうす理解できてきているため、ろくでもない未来しか見えないんだが。

 

 

 

 

 

『判決ッッ!!保護観察処分ッッ!!』

 

 

 

 

 

 

 ――意味が分からなかった。

 

 

『とりあえず、お試しで三か月契約で居候させてやんよ!んでお前とアタシが折り合いつかなくなったらテキトーに神社でも行ってお祓いして成仏させてやっから!とりあえずお試しで!な!洗剤とか付けるか!?持ってねーけど』

「……え?むしろそれでいいのか……?」

 

 

 問答無用で意識の奥に追いやられて消滅するくらいの措置でやむなしと思っていただけに、この温情に不安しかなかった。疑問の声を上げる俺に、残念娘はニヤリと意味ありげに悪役笑いを浮かべる。

 

 

『ひょっとしたら、お前が「エデン」に至るためのキーになるかもしれねーしな』

 

 

 フッフッフと含み笑いを浮かべる残念娘は、改めて手を差し出す。

 

 

 

 

『銀河が祝福したウルトラスーパースターウマ娘!ゴールドシップ様だ!ヨロシクな!!』

「こちらこそ、よろしく」

 

 

 差し出された手をしっかりと握り返して応える。グッグッと何度か握手した手を握り、不意に手を離して拳を作り、カツカツと拳同士を打ち鳴らす。なんか陽キャがたまにこんなのやってたのを前世で見たような気がした。

 

 

 

 

 

 

『なぁなぁ!!それよりさぁ!お前、どこまで動かせんの?』

「は??」

 

 

 唐突にズイと顔を寄せて馴れ馴れしく話しかけてくるゴールドシップはそんなことを言い出した。

 

 

『アタシとお前で見えてる景色おんなじなんだろ?だったらお前もアタシの身体を動かせる権利があるってことだろ?なぁ!試してみようぜ!!どんな感じがするのか気になんじゃねぇかー!!』

「いや、気にはなるけども、それでいいのか!?」

『ンだよノリ悪ぃなー。アタシが許可してんだからそれでいいだろーが。身分弁え下働き使用人マン根性で居ると人生楽しめねーぞお前よぉー』

 

 

 

 感情が繋がっているため、ワクワクとした高揚感が伝わってきて目の前の彼女が本気で言っているのが理解できた。一体どういう生き方をして来たらこう育つのだろうか……?

 とはいえ“どこまで可能なのか?”というのは気になっているところではあったし、本人から許可が出ているのだから試してみることに異存はなかった。

 

 

 

 目を閉じて、意識を集中させる。視界が切り替わり、暗闇の中でゆっくりと視線を上げる。視界が認識に合わせてゆらゆらと揺れる。

 

 

『おぉ……自分が動かしてるわけじゃねぇのに動いてるのキモいな……』

 

 

 視界が切り替わらないので脳内に響く声だけ耳に響いて脳を揺らす。

そのまま意識をはっきりと集中させてイメージで腕を持ち上げてみる。左腕がゆっくりと上がって、ゆっくり下がっていくのを視界におさめて確認。問題なく動く様だ。

 

 

『ピンポンパンポーン。お知らせがありまぁす♪踊り子さんに触れるのは厳禁となっておりまぁす♪』

 

 

 不意に脳内にアナウンスガイドっぽく響くゴルシボイス。要は「動かせるからって好き勝手に身体に触るんじゃねーぞ」と言いたいのだろう。上げていた腕を降ろす。

 次に、足に意識を集中させる。恐る恐るなので重心移動がスムーズにいかず、ギクシャクした動きだが、左、右、左と交互に足を出して歩いて見せる。

 

 

『あ、ちょいまち。自分のものじゃねぇ視界が微妙に気持ち悪ぃわ……

 

 

 

 あ、吐きそう』

「待て待て待て待て」

 

 

 なんという恐ろしいことを口にするんだこの残念娘は!言い切る前に残念娘のムカムカとした胃の気持ち悪さと、嘔吐感が伝播してこちらに伝わってくる。

 

 

「か、体の所有権を戻すから、精神を持ち直すか無事な場所へ―――」

『ぅ、ぉ、ぉぅ……』

 

 

 視界が内部に戻り、目の前一杯に真っ青な顔をした残念娘が口元を押さえていた。必死に我慢している様子で寮の屋根裏から飛び降りるように飛び出し、一目散に向かうのは―――

 

 

 

 

 

 

 

「―――ォ……ヴォ【お見苦しい音声が響いております。検閲します】―――」

 

 

学園寮の裏庭。誰かの菜園か何かの上に、盛大に吐瀉物をぶちまけていた。

 

 

 

 

 

 

 ******  【 場面転換 】

 

 

 

 

 

 

『ぃっやぁ~~~悪っりー悪っりー。思ったより3D酔い?っつーの?アレすげぇ大変なんだな』

 

 吐くだけ吐いてスッキリしたらしい残念娘はまた精神世界でこちらに向かって駆けこんできていた。外の世界では再び寮の屋根裏に潜み、忘我の果てに居る姿を見られないようにしている。

 

 

 

 

『では居候隊員に第一の指令であーる!!耳かっぽじってよぉーーーーく聞け!!』

「!?」

 

 

 唐突に始まるゴールドシップの宣言に、全く反応ができないうちに当人からの『指令』とやらが下された。

 

 

『眠いからこのまま寝るんで、ベッドまで運んどいてくれよぉー居候隊員。

 あ、屋根裏(ここ)の奥に寝るトコあるからそこでいいぞー』

 

 

 言うが早いかそのまま精神世界の中でぱったりとうつぶせに倒れて動かなくなるゴールドシップ。

 

 

「え?いや、お前の部屋はどこだよ!!?」

『あ?だからここだよ。……くぁぁ……ふ……マジ眠くなってきたでゴルシ。おやすみでゴルシィ……』

 

 

 「うーんむにゃむにゃーもう食べられないナリィ……」と呟いてごろごろぐだぐだとその場で寝っ転がるゴールドシップ。次いで完全に自分の身体として機能し始め、現実世界の視界に引き戻される感覚。

 薄暗く埃っぽい屋根裏の空間の向こうに見える謎に上質そうな布団と家具を中心とした生活スペースを発見したときにゴールドシップの発言が正しかったことを理解すると同時に想わずにはいられなかった。

 

 

 この娘、大物すぎるか、もしくはただの馬鹿なのかもしれない。と―――。

 




 7割ノリで書いてます(自白)
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