十年浪人して剣魔学院に入学したおっさん、聖女に見出だされたチートスキル『ハードパンチャー』で黄金の右を放つ~剣も魔法も赤点の劣等生なので悪役令嬢にパーティを追放されたけど今更戻ってこいとかもう遅い~   作:朝食ダンゴ

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パーティ追放

「もう我慢できませんわ! わたくしのパーティから出ていきなさい。いますぐ!」

 

 ものすごい剣幕で怒声をまき散らしたのは、パーティリーダーのクレインだった。

 高級そうなソファの上でニーソックスに包まれた脚を組み、ボリュームのある金髪をかき上げている。

 彼女の周りでは、三人のパーティメンバー達が俺に冷めた視線を送っていた。

 

「ちょっと待ってくれ! どうしていきなりそんなこと……」

 

「いきなりですって? 冗談も大概にして頂きたいですわね。剣の成績は学年最下位。魔法の一つも使えない。学院の評価を得るためにお情けでパーティに入れて差し上げましたけど、これ以上あなたのような役立たずのお荷物を抱える余裕はありませんの」

 

「そ、そんな」

 

 急にパーティをクビだと言われても、納得できるわけがない。

 

「確かに成績は良くないかもしれないが、俺だって頑張ってきただろう? パーティの雑用は完璧にこなしたし、クエストでのサポートも真っ当にやってきたじゃないか。試験だって、みんなの足を引っ張らないよう努力してきたつもりだ」

 

 なんとか自分の有用性を主張しようとするが、言えば言うほど情けなくなってくる。

 

「往生際が悪いんだよおっさん!」

 

 声を荒げたのは、パーティで最も優秀な剣士、ソルだ。

 

「僕達があんたの何倍結果を出したと思ってるんだ? あんたみたいな劣等生のおっさんと組むくらいなら、適当なヒーラーでも入れた方が百倍マシなんだよ!」

 

「それは……」

 

 確かにそうだ。剣も魔法も使えない。特に秀でた技能もない。この剣魔学園には、俺より優秀な人材しかいないだろう。俺にできることは、誰にだってできる。みんなが当たり前にできることを、俺はできない。

 

「私の考えるところによるとですね。フリードさん、あなたを除名して得られるメリットは百二十個あるのです。逆に、デメリットは無し。つまり、あなたはこのパーティにいてもらっては困る人なのです」

 

 パーティの頭脳である少女、フレデリカが辛辣な言葉を放った。

 悔しいが、彼女の言うことは事実だ。否定できない。

 

 もう一人、無言を貫く女子生徒がいる。メガネをかけた無口な魔法士、ユキ。

 彼女は何も言わず、ただただ無表情な顔を俺に向けている。

 

「そうか……俺は、そんなにも……」

 

 俺自身、このパーティでうまくやってこれたつもりだった。

 リーダーのクレイン。前衛のソル。軍師フレデリカ。火力担当のユキ。そしてサポーターの俺フリード。

 四人は同い年。十四歳の若きホープだ。みんな学院随一の秀才達だから、一人だけ歳の離れた俺はサポートに徹した。皆が力を発揮できるようにと。俺は劣等生だけど、彼らについていこうと必死の献身に努めていたんだ。

 

 それなのに。

 

「さっさと出ていきなさい。二度と戻ってこないでちょうだいね。泣きつかれても無視いたしますので」

 

「まったく……だから反対だったんだ。こんなおっさんをパーティに入れるなんて」

 

「私は最初から分かっていましたよ。フリードさんは無能中の無能。私達の足を引っ張ることは明白だったのです」

 

 みんなの評価は、ひどいものだ。

 もう、ここに俺の居場所はないんだな。

 

「わかった。みんなの迷惑になるくらいなら、パーティを抜ける」

 

 俺は肩を落とし、みんなに背を向ける。

 ショックすぎて、頭がうまく働かない。

 それでもおぼつかない足取りで、なんとか部屋を去ろうとする。

 

「待って」

 

 背中にかかる声。

 俺を呼び止めたのは、ユキだった。

 

 もしかして、引き留めてくれるのか? 俺はこのパーティに必要な人材だと、みんなを説得してくれるのか?

 

「あなたの装備品や持ち物はパーティの所有物。だから、ぜんぶ置いていくべき」

 

 ユキの無感動な声が俺の心臓に突き刺さる。

 

「ああ……うん、わかった。そうだよな」

 

 俺は身に着けていた剣や鎧を外し、床に置く。バッグに入っていた道具も、すべて譲渡しなくてはならなかった。

 

「ほら、置いたら早く行きなさい。もう顔も見たくありませんわ」

 

「ま、せいぜい頑張れよおっさん」

 

「ソルも無茶を言うのです。私達がいなければ、こんなおっさんはすぐに退学処分なのです」

 

「……同感」

 

 怒る気力もない。

 目の前がチカチカする。

 

 そこからはほとんど記憶がない。

 気がつけば、寮の自室で膝を抱えていた。

 

 どうしてだろうか、泣きたくても泣けない。

 人間、悲しすぎると涙すら流れないもんなんだな。

 

 俺はベッドにもぐり込み、明日からの生活への不安を押し殺すしかなかった。

 ほんと、これからどうしたらいいんだろうな。

 

 もう、何もわからないよ。


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