狂、貴方に愛に逝く   作:ゆう@男子系女子

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初めてです。お手柔らかに。


狂、世界が壊れる日 / 狂、日課を壊す日

「___行方不明者は15人を超えており___」

 

見慣れた部屋、作ったばかりの朝食。

その中に鳴り響くはたまに見るニュースの流れる音で。

それを聞き流しながらパンを食べていた。

 

大学の講義は大体がオンラインで対面があっても一、二コマ。

今日はその一、二コマがある日だった。

 

「今日はリアルタイムと…対面か。」

 

午前と午後に一つずつしか入れてない今日は面倒な、それでいて少し楽しみにしていた日。

 

解剖する日である。

 

僕、鴻上仁は解剖されたい。

それを僕はおかしいことだと認識している。もしそう聞かれたのなら迷わず「はい」と答えるだろう。

それほど僕は僕の狂っていることを知っていて、それでも直す気のない一種のアイデンティティなのだ。

自分の臓器がどうなっているのか生で見てみたい。触ってみたい。触った感触は?触られた感触は?

何より解剖された感触を知りたい。これは好奇心なのか。それともただの破滅願望なのか。

 

「_新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴い___」

 

都内で千人近く出たのか。早く収まらないかな。

 

---

 

青から赤、紫へと空は顔色を変え、街は明るく輝きだした頃。

僕は電車に揺られていた。

 

「次は〇〇駅、〇〇駅。お出口は右側です」

 

漫画を読んでいる手を止めて出る準備をする。

 

電車を降り、帰路に就く。

 

駅の周りでも暗いところは暗い。

そんな中、一つの輝きを見た。

 

銀色に輝く刃物なのか。美しく舞うそれは赤い飛沫を出した後、夜の闇に消えていった。

僕はそれに見とれていた。その飛沫がなにか、刃物が何のために舞っていたのかを置き去りにして。

はっと気づくと月の明かりに照らされた道がそこにあった。

赤い血のカーペットの上に置かれた皿、臓器。

置かれていた臓器はさっきまで動いていたかのようでまだ温かみがある。

ぐちゃぐちゃではなくきれいに。傷一つなく。

 

理解できないことは誰でも恐怖する。僕もそうだと思っていた。

 

「美しい…!」

 

感嘆が出た。それと同時に恐怖も沸いて何が何だかわからない状態だ。

 

落ちているこれはつい数時間前に見た人の臓器と同じもので。

そんなものがきれいに落ちてしまっている。

 

余計な肉をそぎ落として。

 

僕は別の世界に行ってしまった。

どうしたらあの手の人に会えるだろうか。

 

欲が出た。

この人の腕で解剖されたい。

僕は今日、恋をした。

 

‐‐‐

 

どうせ羽虫のように沸くヒトどもに今割く余裕はない。高潔である私にヒトの施しなど必要ない。

むしろお前たちは私の食物。わかっているのか。

 

私、ミスティ・ダイアノーツは焦っていた。

目覚めたばかりのこの体にはエネルギーが足りない。しかし食物であるヒトを食らうと警察とやらに囲まれてぼこぼこにされてしまうのだ。

全盛期ならまだしも、目覚めたばかりならなおさらだ。

 

そこで彼女のとった方法は。

 

路地裏、誰も見ていないところで人を食らうことだった。

それでも食べた跡は残るが、放置していたらいつの間にか消えてしまっている。

多分物好きがいるのだろう。こんな嫌な世の中でも私と同じ喰種は存在するはずなのだから。

 

なぜ高貴な私がこんなコソコソとしなければならないのか。

頭ではわかっていても心はもう限界だった。

 

今日、初めて表で食べた。表といっても路地から少し出た人気のないところ。

解体したのは一瞬で、きっと誰にも見られていないはずだ。

そう、油断していた。

私に失敗はないと。

食べてるところを見られていないと。

 

奴らにやるために臓器だけ残し、素早く立ち去る。

一瞬見えた奴の顔に恍惚さがにじみ出ている。

 

また、こんな奴が現れるとは。

 

今の私には悩みがあった。

 

路地裏で住んでいると耳にする、凄腕の殺し屋の話。

臓器だけ残してあとは血以外何も残さない不思議な殺し屋の話。

表も裏も関係なく、ただ人を殺すものの話。

 

まぎれもなく私である。

 

目覚めてすぐ、私は近くの人を襲った。

幸い、目覚めたのは建物の中で人も少し。

気が付いたころには真っ赤だったカーペットは赤黒く変色し、壊された机、ばらばらの骨、苦手な臓器が残されていた。

 

骨を拾う。

 

悲鳴を聞きつけ駆け寄ってきたのか、使用人を食らった跡も残っていた。

この建物に生きているものはいない。

 

今、とても静かだ。

 

誰にも邪魔されない、至福の時間。

好物に囲まれる、素敵な空間。

 

最高だった。

無敵にでもなったかのような感覚を覚える。食事を邪魔されない。なんと素晴らしいことか。

私が食事をとるたびに邪魔をしてくる神父どもがいない。

 

この建物を出る。

どうやら大きな屋敷のようで庭が広い。

暗い。私の時間だ。

 

そう思い大通りに出てみるとヒト、ヒト、ヒト。

明るい人通り、流れるヒトども。

私の時間であった夜はいつの間にか食物どもに奪われていた。

 

ヒトは昔から面倒な生き物だ。

結束力は本物だ。なんせヒトのようで違う生き物を全力で排除しに行く。

そして頭も回る。

数も多い。

 

たとえどれだけ私が高貴で強くても、ヒトの洪水にはやられてしまうのだ。

 

そんなヒトの中でも変わり者はいる。

変わり者どもはそれを隠して生きている。

 

先ほどのヒトのような輩だ。あれが一番タチが悪い。

同族殺し。殺す快感を覚えてしまったもの。殺すことに心を奪われてしまったもの。

そいつらのおかげでへましていないのに追われる。困ったもんだ。

 

一瞬でも分かる。

あれはあの赤い血に、残された臓器に魅入られている眼だ。

 

これだからヒトは面倒くさい。

 

そんな奴らに目をつけられた。それがここ最近の悩みだった。

つけられている。私のこれは見世物ではない。

だから面倒ごとの起きやすい表にわざわざ出てきたというのに。

 

「表でも見世物になってしまうか」

 

ビルとビルの隙間、駆け上がりながらそうつぶやく。

限界だった。

昔なら自由にできたものはできなくなってしまっていて、自他ともに認めるこの美しい技は見世物に成り下がっていた。

 

どれだけ自分が眠っていたのかは知らないが変わってしまった。

変わり果ててしまった。

 

「私はあ奴とは違うというのに…!」

 

嫌な奴の顔を思い出してしまった。

脳裏によぎる奴の残虐な行為が吐き気を催す。先ほど食べたものが出そうだ。

 

振り払うように帰路についた。

 

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