ベルは昨日のエイナからの注意を蔑ろにしてしまった結果散々な目に合ったので、今日は3、4階層で魔石を稼ごうと決めていた。そんな考え事をするベルに声をかける少女がいた。
「あの・・・」
「ん?」
「これ、落としましたよ」
少女の手に持っていたのは魔石だった。ベルは昨日、魔石を全て換金した筈なのに落としていたことを疑問に思っていた。しかし、相手の好意を無駄に出来ず受け取った。
「ありがとうございます。僕はベル・クラネル。貴女は?」
「シル・フローヴァです。あの、よかったらこれをどうぞ」
シルは包みを取り出してベルに差し出す。良い匂いがするから食べ物だとわかった。
「えぇ!?そんな、悪いですよ!それにこれって、貴女の朝ご飯じゃあ・・・」
「このまま見過ごしてしまうと、私の良心が痛んでしまいそうなんです。だからベルさん、どうか受け取ってくれませんか?」
「ず、ずるいっ・・・けど、そこまでしてくれるなら、何かお返しをさせてください」
「良いんですか?それじゃあ、私の働いている酒場に来てくれませんか?豊穣の女主人って言うんです」
「わかりました。それじゃあ夜に伺います」
こうしてベルは夜にシルが働いている豊穣の女主人に行くことになった。
ベルが一日分の稼ぎと酒場で食べる分を稼いだベルはダンジョン攻略を切り上げ、ホームに戻って更新した後は、豊穣の女主人に来ていた。ベルが扉を開くと、あの時のウェイトレスのシルがいた。
「ベルさん!来てくれたんですね!」
「はい、約束しましたから」
「おや、アンタがシルが言っていた客かい?ははっ、冒険者のくせに可愛い顔してるねぇ!」
(ほっとけよ)
「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか! じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」
「えぇ!?」
驚いたベルはシルに目を向けると、シルはさっと目を逸らした。
「ちょっと!いつから僕が大食漢になったんですか!?」
「・・・テヘヘ」
「テヘヘじゃないです!?」
そう言いながらメニューを手に取りパスタを注文するベル。
「楽しんでいますか?」
「圧倒されています・・・」
そんな会話をしていると、茶髪の
「そうだ、アイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」
「あの話?」
「5階層にいたミノタウロスに挑んだ命知らずの雑魚のことだよ!」
『5階層でミノタウロスに挑んだ』自分の事だとわかったベルは固まってしまい、そのまま狼人の話を聞いていた。時には緑髪のエルフが注意していたが、狼人は黙らず話続けてベルが震えていると
「ベルはこれから強くなるよ」
金髪の少女、アイズ・ヴァレンシュタインが言った。アイズの言葉に固まったり口に含んでいた酒を吹き出して驚愕するロキ・ファミリアの団員と主神。
「あ、アイズたん?その子と知り合いなん?」
「違う、担当のアドバイザーから聞いた」
「そうなんか・・・どんな子なん?」
「白い髪で目が赤い・・・兎みたいな子だった・・・あの子みたいに・・・あ」
「あ・・・」
偶々目が合ってしまったベルとアイズ、これを機にして手紙を渡しておこうと先にシルに会計を済ませてロキ・ファミリアに近づき自己紹介をする。
「はじめまして、ロキ・ファミリアのみなさん、僕はベル・クラネル。ロキ様、貴方に手紙があります」
「ん?うちに?誰から?」
「オーディンおじいちゃんとゼウスおじいちゃんです」
「「「「!?」」」」
小さな声で伝えるとロキ・ファミリアの主神と幹部が目を見開き驚愕した。ベルはロキに祖父達の手紙を差し出した後はアイズの方に向いて感謝の意を述べた。
「あの時助けてくれてありがとうございます。ヴァレンシュタインさん」
「ううん、気にしなくて良いよ」
「ちょっと待ってくれへんか!?オーディン!?オーディンって言うたんか!?しかもおじいちゃん!?」
「すまない、ベル・クラネル。少し話を聞きたいんだが」
「それは出来ないです」
「どうしてかな?」
「さっきそこの狼人のお兄さんが言っていた命知らずの雑魚とは僕のことです。今の僕の気持ちは穏やかではなくて・・・また今度でお願いします」
「ッ・・・それは済まなかった。彼には充分に言いつけておくよ。機会があれば僕たちのホームに来てくれないか?」
「わかりました。それではまた・・・」
肩を震わせながら豊穣の女主じんから出るベル。それを見届けるロキ・ファミリア。自分達の失態で起こった事件を酒の肴にした結果、とんでもない事になったのではと思ってしまうロキ・ファミリアの団員達。この後にベルは6階層まで防具なしと護身用のナイフだけで潜って帰る頃には日の出になっていた。ヘスティアに再会したベルはこう言った。
「神様、僕、強くなりたいです」