カサマツからメジロ家専属マッサージ師に就職しまして。   作:wisterina

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マックイーン人形とオグリ人形

 メジロ家に仕えている人にだってつかの間の休みはある。

 そもそもマッサージ師は激しい運動をするウマ娘にとって重要な役割があるのだが、逆にトレーニングなど激しい運動をする以外ではやることがないのだ。この点を比べれば四六時中お嬢様に送迎などで付きっきりの爺やさんには頭が下がる。

 

 とまあ、せっかくの休みの日今日のスケジュールとしてまずおしゃれなカフェテラスでウィンナーコーヒーを飲みながら芦毛のウマ娘たちがすれ違うのを眺め。ウマ娘コスプレショップで気になる芦毛のウィッグと付け尻尾がないかウィンドウショッピングと芦毛万歳の休日計画を綿密に立てていたのだが。

 

「今日発売されますオグリキャップさんのぬいぐるみを一つお願いできますでしょうか。いえ、好きとかではなく、ウマ娘のぬいぐるみというのがどんなものか純粋に興味があるだけですので」

 

 とお嬢様が意地を張ってお願いしにきた次第だ。可愛らしいことだ。そう、芦毛のウマ娘は可愛いのだから当然である。なんの問題もない。

 

 というわけで一部予定を変更して、先ずショッピングセンターの一角にあるウマ娘グッズショップへと赴いたわけである。ここの専門店、URAの直営店でトゥインクルシリーズに出走しているウマ娘たちのぬいぐるみだけでなく、プリントクッキーやピンバッチなどキャラクターグッズを販売している。

 GⅠなどのレースが休日に行われることが多いのもあり、土日は人で賑わっているのだが平日ということもあり人出がまばらだ。人混みが苦手な俺にとって平日が休みなのは大きな利点だ。

 

 さて、オグリンのぬいぐるみを早速ゲットとぬいぐるみコーナーに赴くとなんと本物がそこにいた。

 

「オグリン。奇遇だなこんなところで」

「お兄。タマを見かけなかったか。いっしょに携帯を見に行こうとしたんだが、タマが迷子になってしまったんだ。都会のショッピングセンターは広すぎて迷いやすい。急いで探さないと」

 

 なんて優しいんだオグリンは。と普通の人はオグリンの言葉を真に受けるだろう。それは違う、実際はオグリンの方が迷子なのだ。

 昔、県の中心の町へ一緒に買い物に行くために駅を降りたらすぐ迷ってしまうほどの方向音痴なのだ。しかも自分が迷っていることに自覚していないのだから、たちが悪い。

 しかしこのまま放置すると余計に迷子になってしまう。ならば。

 

「いやオグリン。ここでタマを待っていよう」

「しかし、早くタマを見つけないと。こんな広いところだと出口すら見つからずお腹を空かしてしまうんじゃないか」

「オグリンじゃあるまいし。携帯コーナーならこの階にもあるからしばらくここで俺と待っていれば見つけられるよ」

「そうか。お兄が言うのなら従おう」

 

 オグリンいい子だ。その芦毛をなでなでして優しい声で「違うよ君が迷子なんだよ」と教えてあげたい。まあ、俺とこのまま付き添っていれば、そのうちタマが見つけてくれるだろう。

 

「それで、お兄。その手に持っている私のぬいぐるみは」

「ああ、俺が個人的に買うためにな」

 

 さすがにオグリン相手でもお嬢様の個人的なことを暴露しては、お嬢様の沽券にかかわる。俺が見代わりになるほかない。

 

「えっ!?」

 

 急に驚いた表情をして、オグリンの頭頂部にあるアホ毛を萎びさせた。

 

「本当に買うのか。そうか、君がそうするならしかたない。うん。そうだなぬいぐるみは私のよりもツヤツヤしているし、可愛い。私にはかなわない」

 

 あのーオグリン。もしかしてぬいぐるみに嫉妬しているのか。いやいや、まさか。本物オグリンの可愛さとその芦毛に負けるはずがない。と俺が公衆の面前で熱弁すれば余計にこじれてしまう。さてどうすれば。

 オグリンが自分のぬいぐるみを持ってじっと悲しそうな眼を向けながらへこんでいると、向こうから「お~いオグリ~」と関西弁訛りの小さな芦毛の少女が手を振ってやってきた。

 

「タマ。よかった急にいなくなったから探したんだぞ」

「うわぁんお姉ちゃん寂しかった。ってなんでやねん! つかうちが一つ年上やし、迷子になってたのオグリの方やろがい!」

「そうなのか? まさか私の方がいつの間にか迷子になってしまっていたとは、都会のショッピングセンターとは恐ろしいところだ」

「徹頭徹尾自分が迷子や! つか入り口から入ってすぐ迷子になるってどないなっとんねん」

 

 ルドルフ会長のように四字熟語を用いて盛大につっこむタマ。しかしこうして初めて近くで見るタマモクロスさんだが可愛いな。さすが芦毛だ。

 

「ん? それ今日発売のオグリのぬいぐるみか。よくできとるな。しっかもええ値段で売っとるし。さすが人気者や。このオグリならいつでも居ってもええし、飯もぎょうさん食わんから困らんな」

「……っ! やっぱりそうなのか? ぬいぐるみのほうがいいのか」

 

 タマの一言で余計に焦りの顔を浮かべるオグリ。困っているオグリも可愛い。ってよくない! 

 トボトボとオグリがぬいぐるみを携えて向こうを向いた瞬間、タマモクロスさんが立ちふさがった。

 

「ほんで、そこのお兄ちゃん。あんたがオグリを見張ってくれたんか」

「はい、私はメジロ家にお仕えいたしております。按摩師でございます。たまたまの休暇にオグリキャップ様が迷子になられておりましたのをここで見守っておりまして」

「あーあかんあかん。ウチにそんな外面営業スマイル向けてもごまかされへんで。そんなもん地元では慣れとるからな。オグリの彼氏さん」

 

 ……勘付いていたのか。

 

「昨日オグリにメジロ家にはマッサージ師がおってええなって話をした途端、箸が止まったんや。あの飯とレースしか頭にないオグリがやで、どう見ても恋する乙女になっとったわ。ホレホレ、今のうちに洗いざらい吐いて楽になったらどうや?」

 

 にまぁっとタマモクロスさんの白い歯がいじわるそうな笑みで獲物を狙いすましていた。

 

***

 

 オグリのぬいぐるみを買った後、タマモクロスさんの圧(と芦毛)に屈して俺とオグリの関係を洗いざらい話してしまった。

 

「は~、幼い頃からオグリの兄貴としてか。そんで自分としてはオグリのことは異性として好きなんかいな。それとも兄貴としての好きなんか?」

「もちろん異性として好きだ。オグリンから求められたら俺は答えたい。ずっとそばにいたいぐらいに。だけど、今のオグリはスターウマ娘でこうして自分のぬいぐるみができるほどみんなの憧れの的だ。そのスターに俺が隣に居たら見守ってくれるファンは幻滅するだろう。それにオグリには、小さい頃走れなかった分なんの負担もなく好きなだけ走って欲しいから」

「……泣かせる話やんか。ただオグリの兄貴気取って恋心弄ぶ奴やったら、ウチのイナズマキックでぶっ飛ばしているところやったで」

 

 おっとそれは危ないところ。いや芦毛のウマ娘なら逆にご褒美か。

 

「けどま。オグリの恋人の素性知れたのはよかったわ。このことはウチは絶対口チャックにしとくわ。誰にもばらさへんよ」

「それはありがたい。タマモクロスさんはいいウマ娘だ。なでなでしていい?」

「うんうん。うちはこれでもお姉ちゃんやかなら。ってやめーや! なんや自分クリークとおんなじ甘えさせたがりなんか?!」

「違う。俺は芦毛のウマ娘をむふふもふもふしたくなる衝動に駆られるだけで至って健全だ」

「そうかぁ、それなら安心……できるわけないやろがい! っとうちトイレ行くからちょっと待っといてや」

 

 逃げるようにトイレに駆け込んだタマモクロスさん。う~む、怯えて波打つ尻尾もまたたまらん。

 するとクイクイとオグリが俺の服のすそを引っ張った。

 

「お兄、人形じゃないとダメなのか。たしかに本物の私はずっとお兄の傍にいられないし、足だってケガをしてもすぐ治せる。髪だってゴワゴワだ」

 

 まだ誤解したまま思い込んでいるオグリン。さすがにこのままではいかん「オグリン。実はこのぬいぐるみはお嬢様が」釈明しようとした時、トイレの入り口の物陰に連れ込まれた。

 

「だけど、私にも自慢できることがある。尻尾と耳これはぬいぐるみよりもいいと思う。いっぱいもふもふしてもいいんだぞ」

 

 目の前に差し出されたオグリンの、白く染まった髪とすらりと伸びる二つのウマ耳。

 やばい。こんなの目の前に出されたら、俺の理性が吹き飛んでしまう。髪から漂う発汗したしょっぱい汗の匂いにオグリンの触ったらふにっと柔らかい芦毛の耳が目の前にあるんだぞ。こんなの、我慢できるわけが。

 

「お兄。私は……」

「自分らウチがおらんうちにこっそりいちゃつくなやバカップル!」

 

 いつの間にか戻ってきたタマモクロスさんのツッコミのおかげで、俺の理性が吹き飛ばされずに済んだ。

 ありがとうございます。タマモクロスさん。

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