ウマ娘短編集SS   作:やまなた

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山なし落ちなし。
日常風景になります。

登場ウマ娘(名前だけでも)。
・メジロマックイーン
・ライスシャワー
・ナイスネイチャ
・セイウンスカイ
・ツインターボ
・ウイニングチケット
・マヤノトップガン


スイーツに溺れるなかれ

「――ここにリンゴがあります」

 

ライスシャワーとメジロマックイーン。ウチのチームに所属している二人の前にダンボールから零れんばかりのリンゴを見せ付ける。

 

何故こんな量のリンゴが手元にあるのかというと……話せば長くなるのでざっくりと説明する。ナイスネイチャが商店街の人におすそ分けだと渡された。以上!

 

当の本人はというとこれを俺に渡すと『じゃ、後はよろしく』と言わんばかりにグラウンドに駆けて行ったのがつい5分前。ダンボールの中を確認し、俺が頭を抱えていたのが3分前。そしてマックイーンとライスがこの部屋に来たのが2分前。二人に大量のリンゴがあることを報告したのが今というわけである。

 

「これは良いリンゴです。艶があり皮も張っていますわね」

 

「ライス、よくわからないけれど…えっと、凄く美味しそうだね」

 

「確かに質はいい。ライスの言うとおり間違いなく味も良いだろう」

 

リンゴの質を感触で褒めるマックイーンと味の良さを見た目で決めるライスの感想をそのままに肯定する。いや、そりゃあそうだろう。あの商店街の面々がネイチャに質の悪い物を送るはずがない。むしろ店頭に並べている物と同質の物を送ったに違いない。

 

 

「だが、この量は多すぎるだろう…」

 

問題なのは量だ。

ダンボール3箱。一箱10kgほどはあるだろうから、約30kg分。

対してウチのチームの総人数。トレーナーである自分を含めて5人。全員で分けたとしても、一人頭6kgである。俺には絶対に無理だ。

 

「確かに、この量を食べるとなると…」

 

カロリーだとかダイエットとか聞こえてくるが、ここは何も言うまい。

 

「ライスもさすがにこの量を全部食べるのは…」

 

全部食べてくれとは言っていないし、これ全員分なんだけど、これも何も言うまい。

 

「そこで、だ。さすがにこの量をこのままで食べるのは難しいだろうから調理しようと思うんだけど……君たち料理の腕前は如何ほどで?」

 

「…………」

 

「えっと、その…ご、ごめんなさい!」

 

「うん、だと思った。そうだよね、普段は食堂やカフェがある以上手料理なんてすることないよね。ただでさえ練習で疲れてるんだし」

 

それにマックイーンはまだしも、健啖家であるライスは自分が満足する量を作るとなると時間もかかってしまうだろうし。大丈夫、わかってはいたさ。わかってはいたけれど、淡い期待を抱いただけだから。

 

「仕方ない。このリンゴ、とりあえず一箱はそのまま食べるように置いておいて、残りの二箱は料理に使おうか。何かリクエストはある?といっても、俺がリンゴで作れるものってジャムとかアップルパイくらいしかないけどさ」

 

あとはコンポートとか、シンプルに焼リンゴとか。

 

「アップルパイ…!」

 

「リンゴジャム…!」

 

……そういえばマックイーンはスイーツが大好きで、ライスは自分の名前を気にして普段はご飯を食べているけれど、朝食はいつもパンを食べるくらいパン好きだったな。そうか今挙げた二つは二人にとってこれ以上ないくらいのご褒美であったか。

 

「……作る?」

 

「是非!」

 

「お願いします!」

 

一緒に作る?って意味だったんだけど…。二人は既に耳と尻尾を真上に尖らせ、輝いた目をこちらに向けてくる。今更一緒に作ろうとは言えない空気だ。

 

「…………ネイチャ呼んできてもらっていい?」

 

「承りましたわ」

 

「そのまま自主トレ、してきていいですか?」

 

「うん、そうしようか。疲れた後のほうが甘い物も美味しく食べられるだろうからね」

 

そう返すと、二人は目を輝かせたままグラウンドの方に駆けていった。残ったのは大量のリンゴと俺だけ。よし、ネイチャが来るまで下準備といこうか。あやつめ、こうなったら道連れだ。この量のリンゴを置いていった罪、償ってもらうぞ。

 

 

 

「――あ、あははー。呼ばれたから来たけど、ネイチャさんに何か用かなトレーナー?」

 

「おう、何も言わないでいい。手伝え」

 

「……桶をそういう風に使う人、アタシはじめて見たよ」

 

ネイチャの視線を追うと俺の手元にある大きめな桶にたどり着く。そこにはネイチャが来るまでの間に剥き終えたリンゴが所狭しと置かれている。変色防止の為、砂糖水に漬け込んではいるものの量が量なのであまり意味をなしていない。

 

「ウチにオグリキャップかスペシャルウィークがいれば消費も楽なんだけどな…」

 

「ライスちゃんがいるからライスちゃんに期待だね」

 

「マックイーンは体重を気にして量は食べないだろうし、ネイチャも常識の範囲内。セイウンスカイも同じく。……消費、できるかねぇ」

 

「隣のチームにお裾分けする?ほら、ターボとかチケゾーとかマヤノがいる」

 

「ああ、あのうるさ…ごほん。姦しいチームな」

 

「姦しいも別にいい意味ではないと思うんだけど…」

 

「でもそれは名案だな。あそこのチームだったら笑顔で受け取ってくれるだろう。たまにはターボとウイニングチケットとの顔を見ておきたいし」

 

「ああ、トレーナーあの二人にやたらと懐かれてるもんね。違うチームなのに」

 

「ちょっと前、練習中の二人にドリンクと補給食を差し入れしてから会う度に絡まれる。その差し入れも普通の余り物だったんだけど、えらく喜んでくれてさ」

 

「あの二人、好意には素直な子達だから……」

 

ツインターボには学園で会う度に突撃されるし、ウイニングチケットには目が合うと目前まで走ってこられて元気よく挨拶される。この前なんてナリタタイシンと話している最中だったというのにそれを中断してまで挨拶に来たので遠くのほうからひどく冷たい目を向けられたものだ。

 

「でも大丈夫かね?さっきは笑顔で受け取ってくれるって言ったばかりだけど、向こうのトレーナーもあまりいい顔をしないんじゃないか?違うチームのトレーナーからの差し入れなんて」

 

「あそこのトレーナーがそんな細かいこと気にすると思う?ターボとかチケゾーと一緒に走り回る成人女性だよ?」

 

「…………それもそうだな」

 

忘れていた。この学園のトレーナーって大半はどこかネジがぶっ飛んでいる人ばかりだった。差し入れ一つくらいでどうこう言ってくる人なんてそうはいない。

 

「よし。じゃあこの切ったリンゴでアップルパイとリンゴジャム。残りでコンポートと焼リンゴにしよう」

 

「うわぁ…全部凄い高カロリー」

 

「普段頑張っている君たちへのご褒美だと思って食べてくれ。明日からトレーニングメニューを変えるからさ」

 

「んーまあ、アタシもリンゴは好きだし断るわけじゃないんだけどさ。そこまで言われると受け取るしかないよね」

 

「アップルパイは知り合いのシェフに生地を練ってもらって。ジャムは時間かかるけど難しくもない。コンポートもほとんど漬け込むだけだし、焼リンゴは皮を剥く必要もないからすぐできそうだ」

 

「そのシェフに止めとけってトレーナーさんとか言われてない?大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫。野菜植えたり皿作ったりなんてしないから」

 

こういう何気ないボケに乗ってきてくれるネイチャ好き。人によっては気づかずにスルーされることだし。

 

 

 

 

「――と、いうわけでお裾分けに来ました」

 

「何がというわけなのかさっぱりわかりませんが、甘いものに罪はないのでありがたくいただきましょう。ウチの子達も喜ぶでしょう」

 

「そういいながら許可もなくアップルパイを口に詰め込むあたりさすがだよ」

 

人と話しているときは普通控えるでしょうに。何の躊躇いもなく口に運んだよこの子。

 

「あー!トレーナーずるい!!ターボも!ターボも食べる!!」

 

「アタシも!!ネイチャのトレーナーさんの差し入れアタシも食べる!!!」

 

「マヤも!」

 

すると後ろにいたウマ娘たちも担当トレーナーに飛びつくように差し入れに手を伸ばしていく。…………うん、まあ、この子達はそうだよね。姦し……賑やかなこのチームらしいといえばらしいよ。被害が出る前に退散するとしよう。

 

 

――隣の部屋を出て数歩。自分のチームの部屋の前に立つ。ここからでも隣の喧騒が聞こえてくるが、それも気にはしまい。俺は扉に手をかけそれを捻る。

 

「んーやはりアップルパイは素晴らしいですわ」

 

「お兄様にジャムを瓶に詰めてもらって……えへへ、嬉しいな」

 

「こら、セイウンスカイ。口元にいっぱいついてるわよ」

 

「いやー悪いねー」

 

迎え入れたのは我がチームの面々のお食事シーン。

優雅にアップルパイを食すマックイーン。アップルパイの横には紅茶と何故か業務用アイスが置かれている。よく見ると全員の皿の上にアイスがあるので、トッピングとして使用したらしい。カロリー云々言ってたお前はどこにいったんだ。

 

ジャムの入った瓶を大事に抱えるライス。手元には手がつけられていないアップルパイがワンホールあるのを見る限り、ずっと瓶を抱えていたか既にワンホール以上を食べた後ということになろう。前者であることを望む。

 

セイウンスカイの口元をハンカチで拭いてあげているネイチャ。手元には8等分されたサイズのアップルパイと食べ終わったリンゴのコンポートのお皿がある。食べている途中にセイウンスカイの世話を焼き始めたとみて間違いないだろう。本当に世話好きな奴だ。

 

対する口を拭かれているセイウンスカイ。寝ぼけ眼のまま焼リンゴを食べ、口周りを汚していく。そしてそれをネイチャが拭いてというローテーション。母親に甘える末っ子みたいな構図だな。

 

「……まあ、ネイチャとセイウンスカイはいいけどさ。マックイーンとライス。食べる量は考えようね?晩御飯もあるからさ」

 

「――っ!?」

 

「はう…っ!」

 

新たにアップルパイを一切れいただこうとしていたマックイーンとワンホールの半分を食べ終えそうになっていたライスに声をかけておく。このまま放っておいたら際限なく食べてしまいそうだ。なによりライスはまだしもマックイーンは体型にでやすい体質だからどこかでセーブをかけないと。後々苦しむのは本人なわけだし。

 

「うぅ…アップルパイ……」

 

「でも…我慢……」

 

「………………マックイーンはあと一つまで。ライスも今食べているので最後ね」

 

「トレーナーさん……っ!」

 

「お兄様…っ!」

 

「トレーナーもあの二人には甘いよねー」

 

「それがトレーナーさんのいいところだよ。わたし達のことがかわいくて仕方ないんだよきっと」

 

うるせー。マックイーンとライスにあんな目で見られてみろ。世のトレーナーなら誰でも折れるわ。それに、二人のあの幸せそうな顔を見れるのであれば、多少甘くしても罰は当たらないだろう。

 

 

――まあ、明日からのトレーニングが考えていたものよりも厳しくなることが今決定したわけだけどね。




今後もこんな風に日常風景を書いていくと思います。
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