ウマ娘短編集SS   作:やまなた

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ナリタタイシン視点。

アプリとの整合性はまったくないオリジナルです。





ナリタタイシンの苦悩

アタシは群れることが嫌いだ。

できることなら一人で行動したいと思っているし、誰かと一緒にトレーニングすることすら億劫になる。

 

苦手なもの。うるさい奴。

苦手な場所。人混み。

 

…………だというのに、神様はアタシに嫌がらせをする。

 

「タイシーン!!おはよー!!今日もいい天気だね!!」

 

ウイニングチケット。アタシと同じチームに所属するウマ娘の一人。うるさくて暑苦しくてうっとうしい奴。

 

「タイシンおはよう!今日もツンツンしててかわいいな!!」

 

チームのトレーナー。うるさくてうざくてうっとうしい奴。

 

「おはようチケット」

 

「おはよー!!」

 

「おはようタイシン!!」

 

…………アタシは、こいつのこのめげない所が嫌いだ。普通、無視されたら少しばかり落ち込んだりして次から控えようとするだろう。なのにこいつはめげることなくいつも笑顔で絡んでくる。

 

「……おはよ、トレーナー」

 

「おう!おはよう!」

 

だからいつもアタシはそれに折れてしまう。そんな自分が嫌いだし。そんなアタシを見て心底嬉しそうに笑うトレーナーのことがもっと嫌いだった。

 

「あれ?タイシン調子悪い?」

 

「そんなことないけど?」

 

「うーん、ほんとに?何かいつもより元気なさそうに見えるんだけど……」

 

「……うっさい。大丈夫って言ってるでしょ。うっとうしいから勘繰るなばか」

 

「うわぁぁぁぁぁん!!ばかって言われたー!!」

 

「あーもう、うっさい!」

 

チケットは素直な性格で、思ったことをすぐ口にする。アタシとは間逆の性格で感情表現も豊かだ。そんなチケットを見ていると凄く嫌な気持ちになる。アタシもチケットみたいな性格だったらこんなに捻くれなかったのかな、とか。周りに対しても素直な感情をぶつけられたのかな、とか。そう考えてしまう。そしてそんな風に考えてしまう自分がまた、嫌になる。

 

「はいはい。チケットこれで涙をお拭き。タイシンも君が嫌いであんなことを言ったわけじゃないんだよ」

 

そしていつも通り、間にトレーナーが入ってくれる。口下手で攻撃的に話してしまうアタシと相手の間に。それを見ると、もっと嫌な気持ちになってしまう。

 

「ぼんどー!?ダイジンアダジのごどぎらいになっでない!?」

 

「ほんとほんと。タイシンは優しい子だから。誰かを嫌いになることなんてないよ。それはチケットもわかっていることだろ?さっきはつい強く言っちゃっただけだよ」

 

「わがっだー!!じんじるー!!」

 

「ほらほら、涙を拭いて。鼻もチーン!って」

 

こんなことは何回もあった。チケットが相手の時は簡単に言い伏せることができて問題になったことはない。でもチケット以外の時。引いては彼がアタシのトレーナーになる前の時はそうもいかなかった。

 

 

 

『――トレーナー!タイシンさんが無視するーー!!』

 

『――タイシンさんのばかぁ!!』

 

『――もう知らない!!』

 

『――大っ嫌い!!』

 

このチームに来る前のアタシはそれはそれはお世辞にも真面目なウマ娘ではなかった。いつも問題を起こしていたし、チーム内でのいざこざは絶えなかった。当時のトレーナーはそんなアタシを諦めた。和を乱す者をチームには置いてはおけないと。

 

そしてそんな協調性のないウマ娘がいるという噂が学園内に蔓延るまでそう時間はかからなかった。すぐにアタシは学園内の厄介者となった。

 

『――君をスカウトしたいんだけど、どうだろうか?』

 

そんな時にアタシに声をかけてきたのが今のトレーナーだった。学園のトレーナーも一部を除くウマ娘もアタシに声をかけてこなくなったというのに、彼は至極真面目な顔でそんなことを。

 

『話しかけないで』

 

でも、捻くれていたアタシはそんな声かけにも反発した。今考えると何をそんなに意地を張っていたのかと思う。どのチームにも所属していないウマ娘をスカウトするなんてこの学園内では当たり前のことではあったし、トレーナーがいないとトウィンクル・シリーズに出場できないことも周知の事実だ。なのにアタシはそんなこともわからずに、ただ周りの全てに反発していた。

 

『わかった。ならOKが出るまで毎日来るね』

 

でも、それでもトレーナーはめげることはなかった。

有言実行でアイツは毎日アタシの前に現れてスカウトを続けた。アタシはそれを断り続けたし、彼も諦めることはなかった。

 

そんな押し問答のような毎日が続いたある日。転機が訪れた。

 

『――怪我したって聞いたんだけど大丈夫!?』

 

アタシが練習中に怪我をした。不注意での怪我で別に重症でもない。数日安静にすれば完治するであろう小さな怪我。だというのに――アイツは必死な顔でアタシの部屋に訪れた。

 

『……いや、ありえないし。何勝手に人の部屋に来てるの』

 

『寮長から了承は得た!それで!怪我の具合は!?』

 

『寮長…。あとうっさい。ちょっと黙って』

 

『あ、すまない。それで、怪我したって』

 

『軽い捻挫。コーナー曲がりきる時に』

 

『大丈夫か!?痛みは!?』

 

『だからうっさい!痛みはないし数日後には復帰できるよ』

 

『…………よかった』

 

そして症状を聞いたアイツは、診断を受けた時のアタシより心底安心した表情を浮かべていた。そこでアタシは初めて、アイツに質問を投げかけた。……今思うと、これが転機だったんだろうな。

 

『……何でアンタは、アタシに構うの?』

 

『寂しそうに走っていたから』

 

『は?』

 

『初めて君を見た時、グラウンドで一人で走っていた。チームに所属しているのに、一人で』

 

『何?アンタはそんなアタシがかわいそうだからって声をかけてきたわけ?』

 

『違う違う。そう思われても仕方ないとは思うけれど、その時思ったのは本当に違うんだよ』

 

アイツは無愛想に怒りを顕わにするアタシを見て、小さく手を横に振りながら弁明を開始する。

 

『寂しそうに走っているのを見てさ、もったいないなって思ったんだよ』

 

『もったいない?』

 

『そう。スピードはあるし末脚も立派なものを持っている。なのにいつも一人で走っている。誰かライバルだったり一緒に競い合う仲間がいればその才能をもっと開花させることができるのに、それが凄くもったいないなって』

 

中央に来て初めてだったかもしれない。元いたチームのトレーナーからは抽象的にしか褒められたことがなかった。でもアイツはしっかりとアタシの長所を褒めてくれた。それがなんだか嬉しくて。でもそんな事を考えている自分を知られたくなくて、ついついいつも通りの対応をしてしまう。

 

『ふ、ふん。そんな甘いこと言っても騙されないし』

 

『……ふふ』

 

『な、何?』

 

『いや、やっぱり君がほしいなって』

 

『はあ?』

 

『ナリタタイシン。ウチのチームに入ってくれないかな?俺は、君と一緒に頂のステージを見てみたい』

 

真剣な眼差しでそう告げられた。今までみたいに軽くかわすことを許さないような、そんな目。そしてそのまま右手をアタシに向ける。手を握れと。一緒に歩んでいこうと。そんな意志のこもった行動だった。

 

――瞬間。無意識だった。何も考えられず呆けていたアタシは――その手を掴んでいた。そしてその日から、アタシを取り囲む世界が一変した。

 

 

 

 

「……だってのに」

 

チケットをあやすトレーナーに目を向ける。

 

「よーしよしよし。大丈夫だぞーチケットは少しばかだけど全然ばかじゃないからなー」

 

ばかって思ってるんじゃん。

チケットに向ける目はあの時アタシに向けてくれた目と同じ類のものだった。何だろう、少しイラっとする。

 

「うぅぅ…うん。アタシばかじゃない」

 

「よーし偉いぞ。さ、それじゃあトレーニング開始だ」

 

「うん!!」

 

チケットをあやし終えたトレーナーはチケットにトレーニングメニューを説明し終えると、少し疲れた表情でアタシの方に歩いてくる。

 

「……いやぁ、あれで機嫌が直るってすげえな」

 

「単純なのよチケットは」

 

苦笑いしながらそう告げられたので、アタシも少し苦笑いのまま返事をする。そう、切り替えの早さ。あれがチケットのいい所だ。

 

「それで?」

 

「……何?」

 

「体調不良はどうなのかなって」

 

「……別に。アタシ体調不良じゃないから」

 

「俺とチケットにその嘘が通じると思っているなら心外だな」

 

「ったく…何でこういうことには目敏いかな」

 

「大事なウマ娘だからな。体調が良くない時に無理をしそうなら当然止めるさ」

 

「本人が大丈夫だって言ってるのに?」

 

「本人が大丈夫って言ってるからこそ、それを判断するのがトレーナーの役目です」

 

「……うっとうしい」

 

「じゃあ今日はタイシンは練習終了。部屋に帰ってゆっくりしてなさい」

 

「ばーかばーか」

 

「後でお見舞い行くから隠れてトレーニングするなよー」

 

「……はぁ。本当にこういう所は頑固なんだから」

 

でも、体調不良に気づいてもらえたことは嬉しく思う。ちゃんと見てくれているんだなって。ついつい憎まれ口を叩いちゃうけれど、これも本心。自分を見ていてくれることがこんなにも嬉しいものだとはトレーナーに会うまで知らなかった……いや、知ろうとしなかった。心配されることがこんなにも心地良いものだったなんて。

 

――絶対に本人には言ってやらないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

「――ところでトレーナー」

 

「ん?トレーニングしたいとかじゃなければ何でも聞くよ?」

 

「もう部屋に帰ってきてるんだからそんなこと言わないから。アタシをスカウトした時のこと覚えてる?」

 

「忘れもしない。一語一句間違えずに言えるさ」

 

「それはちょっとキモい。それならアタシをスカウトする前、アタシのことを見て笑ってたけど、あれ何で?」

 

「ん?ああ、あれ?」

 

「いきなり笑い出して気持ち悪かったから気になって」

 

「辛辣。いや、まあ、なんというか」

 

「何」

 

「甘いこと言っても騙されないしって言っていた時のタイシンの耳がさ」

 

「アタシの耳?」

 

「凄く尖ってて。喜びを表現してるみたいで凄くかわいかったんだよね。ウマ娘って人間より感情表現が豊かだから、すぐに感情がわかっちゃって。そしたら笑ってしまった」

 

「――う、うっさいうっさい!黙れ!帰れ!二度と部屋に来んな!!」

 

 

 

 

 

 

――ナリタタイシンの苦悩は続いていく。トレーナーが側にいてくれる限り、ずっと。




ナリタタイシンはTOP5に入る推しウマ娘です。かわいい。
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