ウマ娘短編   作:おぶなむ

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 PUをすり抜けてナリタブライアンが出たので初投稿です。


トレーナー「結婚?」前編

 突然だが、トレーナーの未婚率は高い。

 これは特に男性トレーナーに顕著な傾向で、一説にはトレーナーではない男性と比較した場合、その率は3倍から4倍に達するとの統計もある。

 理由は様々に述べられるところではあるが、主要な要因の一つはトレーナーという職業の特殊性――あるいは閉鎖性といっても良い――だろう。

 まず、出会いの場が少ない。これが第一のハードル。

 次に、職業上、一日の殆どは業務時間であり、休日も少ない。つまり、仮にパートナーとの共同生活を送るとして、一緒にいられる時間が少ない。

これが第二のハードル。

 端的に、職務に理解を示した上でそれを受け入れてくれる相手と出会う確率、が非常に小さいのだ。

 では、いわゆる職場結婚ならばどうだろうか。

 これについては、暗黙の了解と言うか、自粛とも言うべき雰囲気がある。

 トレーナーとは、自他のチームの成績の優劣を競うという職業である以上、他のトレーナーとの必要以上に親密な関係はあらぬ疑義を招きかねない、というのがその理由だ。もっとも、明文化されているわけではないので、トレーナー同士で結婚する例というのは、少数だが存在する。

 さて、男性トレーナーに限った理由として、もう一つ主要な要因を挙げるとすれば、「ウマ娘」の存在そのものだろう。

 彼女らは個性的であると同時に、極めて魅力的でもある。

 そんな彼女らと、トレーナーとして日常的に接していると何が起こるのか?

 これをバカ正直に話す者はいないが、要はハードルがダダ上がりする。目が肥えてしまう、と言い換えても良い。

 基準がウマ娘になるというのは、つまり基準が二次元の美少女キャラのようなもので、大抵の一般女性はその基準に満たないのである。そして、たちが悪いことに、ウマ娘は実在する。

 「うちのウマ娘の方が可愛いし性格が良いからなぁ」みたいになってしまうわけだ。何という贅沢な奴らだ。

 じゃあウマ娘と結婚する男性トレーナーが多いのか? という点については、一般的に、女子生徒と結婚する男性教師が多いのか? という問いと共通するものがあるだろう。基本的に、現実は厳しいのである。

 

「――はいはい。じゃあな」

 疲労と僅かな安堵を浮かべながら、トレーナーは通話を終える。

 実家からの久々の電話に、つい長々と付き合ってしまったところだった。

 最初こそお互いの近況や思い出話と弾んだが、話の流れが結婚云々になったところでその余韻もぶち壊しとなる。

 彼としては、この職業を選んだ時点で、そういった話は諦めてほしいと思ってはいるが、親から見ればそうではないのだろう。

 既に何人かのウマ娘を育てた身であるから、親の気持ちもわからなくはないが、かと言って『はよ孫の顔見せろ』と言われても困る。

「結婚ねぇ」

 同僚や先輩にも、多くはないが既婚者はいる。

 そこから漏れ伝わる話や、嘘か真かの噂話を聞くに、結婚生活とトレーナー業というのはすこぶる相性が悪い、というのが彼の感想だった。

 そもそもトレーナーというのは、自分の生活よりもウマ娘を優先することが殆どであって、そこに家庭が入り込んだとしても優先順位の一位は変わらないのだ。

 とすると、よほど職業に理解のあるパートナーでない限り、不満が出てくる。『私と仕事どっちが大事なの!』問題である。

 ここまで典型的な諍いは余り無いにせよ、奥さんや子供が病気で倒れても、あるいは大事な家族のイベントよりもレースを優先した結果離婚した、といった話は実際にあるようだ。 

 もちろん、トレーナー業と家庭を両立している例というのもあるわけだが、どうしても例外的な見え方になってしまう。

「生活する分には不便が無いってのもデカいよな」

 トレーナー業というのはそこそこに高待遇だ。

 ウマ娘を預かるという責任の重さの裏返しではあるが、加えてレースの結果次第ではバカにならないボーナスも出る。

 GI級のレースを複数勝つようなウマ娘のトレーナーは、そのボーナス分だけで年収がウン千万という話もあるくらいだ。

 彼にしても、優秀なウマ娘を輩出した結果、この年齢にしてリタイア可能なくらいの貯金はあったりする。

 その上で、学園では食堂も格安で利用可能だし、トレーナー用のシャワールームに休憩室と、何ならそこに住むことも可能だ。

 事実として、チーム運営が軌道に乗ったトレーナーは『着替えるためだけに家に帰る』ような生活を送る者も珍しくない。

 その意味で、彼が抱くトレーナー業と結婚生活の相性の悪さ、という印象はあながち間違いではなかった。

「といって、まぁ、人並みに憧れが無いわけでも無い……と」

 あるいは、自分には縁が薄いと分かっているからこそ、かもしれない。

 人間は自分が持っていないものに強く憧れるものさ、とは某青狸も言っていた真理であって、要は隣の芝は青いわけだ。

 トレーナーは背もたれに体重を預けると、手持ち無沙汰を紛らわすようにテレビの電源を入れた。

『――あのウマ娘に熱愛発覚!? お相手はトレーナー! 結婚は学園卒業後――』

「……うーん、時間帯が良くないか」

 タイミングが良いのか悪いのか、ワイドショーではウマ娘の恋愛沙汰を取り扱っていた。

 何となく居心地が悪い気がして消そうとリモコンを向けると、それを上から押さえる手があった。

「おー、あいつマジでやりやがったかぁ?」

「なんだゴルシ、知り合いか?」

「おうよ。宇宙の覇権を賭けて瀬戸内海で磯釣りした仲さ」

「そういや、この間のレースで一緒に走った奴だったか」

 ゴルシ語を解する辺り、彼も苦労を重ねていると見える。

「このレースに勝ったらトレーナーに告白すりゅ!! なんつってたからよぉ、じゃあ負けたら押し倒せよって言っといたんだよな」

「嘘だろ」

「マックイーンの体重を賭けてもいいぜ」

「マジかよ……」

 もしかしてマジで押し倒したのか、という疑念と、トレーナーに恋するウマ娘が実在したのか、という驚きがトレーナーを混乱させた。

「トレーナー好き好き~♡な奴は結構多いぜ? アタシが知る限りでも5人はいるな。テレビのアイツ除いて」

「妙に現実味のある数字なのが何とも言えねぇ……。あー、完全に興味本位で聞くが、例えば誰だ?」

「ハッピーミーク」

「ああ……」

 同期のトレーナーである桐生院葵が担当するウマ娘。

 確かに、トレーナー同士で話していると、時々物陰から妙に圧の強い視線を感じることがあったことを彼は思い出す。

 しかし、ハッピーミークも葵も女性同士であったはずだが。

「史上初、最年少のウマ娘総理大臣になって同性婚を合法化するつもりらしい」

「……そうか」

 この世代でも屈指の実力を持つ彼女なら、レース結果と人気を背景に政界進出というのは難しくないだろう。

 そういうことにして、彼はそれ以上考えるのをやめた。

「しかし、意外と身近な名前が出たな」

「残りはもっと身近だぜ?」

「ははは。さて、そろそろトレーニングコースに行くか」

 妙な胸騒ぎを覚えて、トレーナーは立ち上がる。

 扉を開けようとしたところで、ちょうどやって来たエアグルーヴと鉢合わせた。

 彼女はやや意表を突かれたらしく、珍しく驚いたような表情を浮かべている。

「なんだ、貴様か。何を扉の前でボヤッと突っ立っている。危ないだろう」

「エアグルーヴ」

「うん? ゴールドシップか。私に用か?」

「九日十日っと。いんや、ゴルシ様に用は無いけどな。トレーナー、エアグルーヴだ」

「何だ貴様、私に何かあるのか?」

「いやいやははは。おいゴルシ、冗談がキツいぞ。ははは、あー、じゃあ俺はコースに行ってるからな」

「おい、ちょっと待て……ああもう」

 そそくさと立ち去るトレーナーを、エアグルーヴは苦虫を噛み潰したような表情で追いかける。

 その様子を楽しげに眺めながら、ゴールドシップは先程まで彼が座っていた椅子に腰掛けると、悠然と足を組んだ。

「そんで、アタシ……と。さぁて、残りは2人だぜ?」

 




 長くなったので前後編に分けました。
 エアグルーヴを起用した理由は、直近に育成したウマ娘でかつ温泉イベントを引いたからです。
 かわいい(かわいい)。

 ゴルシは便利すぎてついつい頼ってしまう。
 ウマ娘二次創作者にゴルシ禁止令出したら悶える人が多そう。僕は書けなくなりますね。
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