カーリーから放たれた言葉に、コーティーは意識が明後日の方向へと飛んで行くような感覚を覚えていた。
彼女が言った言葉、キラーロボット。確かにそうだ、過去の事とは言えど確かにキラーロボットと呼ばれる殺戮者だった。だが何故だ、どうしてカーリーが自分にその言葉をぶつけて来るのかがわからない。
いや、理屈ではわかる。理解は追い付かないがきっと、そういう事なのだ。
「記憶が、戻ったのか?」
「記憶が戻るキノコがあったらしいの、それを口に捻じ込まれたわ」
「それは何だ……卑猥だな」
ニヤニヤと笑っていたカーリーが噴き出す。どう返していいかわからずに思い付いた感想を言ったコーティーは、咄嗟に出た自分の言葉の意味を理解して急激に恥ずかしくなった。
いや、しかし言い訳をさせてもらいたい。ロボットとはいえ女性の口にキノコなのだ、そういったモノを想像しない方が不健全なのではないだろうか。もやもやとした思考に頭を抱えるコーティーをやはりにやけて眺めながら、カーリーは冗談は止めだとばかりに言う。
ちなみに近くに立つクトゥルーも含み笑いで二人を見ているが、話に混ざるつもりは無いようだ。
「クォートに会った?」
「……いや、どうにもすれ違いになったらしい。迷宮でもミミガーの村でも会わなかった」
「あっ、やっぱり迷宮にいたんだ。探したんだけど見付からなかったのよ」
「もしかしなくてもコアのところか。崖の下にいたからな、見付からなくて当然だ」
「あそこかー、何も考えずに飛び越えちゃった」
答え合わせをするかのように、今までの互いの行動を断片的に伝えて行く。結局のところ、カーリーの動きはほとんど予想通りだった。決め付けになってしまったが、コアとの戦闘も否定しないのであればその通りなのだろう。そして間違い無くそこにはクォートもいた。
ならば、問題はその後。どうしてクォートと別れたのか。
「コアを攻撃した後、水路から脱出しようとしたんだけど……そこで流されて離れちゃったの。クォートにも男らしく捕まえておいてもらいたかったわね」
「あれに男らしさが似合うと思うか?」
「……それでここに流れ着いて、ちょっと身動きが取れなくなっちゃって」
わざとらしく話題を逸らし、カーリーは言葉を続ける。全ての記憶は戻っているようだが、彼女の態度は変わっていないらしい。キラーロボット云々が冗談だとはわかっている。しかし、改めてそれを確かめてみると妙な安堵に支配されて力が抜けた。
自分は思っていた以上に家族に対して依存してしまっているのだ。何だかんだと言ってジェンカの家に戻ってみたりカーリーの動向を予測してみたりと、無駄な時間を浪費してしまっていた事実に今更にして気付く。
ならば、この先に取るべき行動など決まっている。
「クォートは?」
「一人で先に行っちゃった、後は自分がどうにかするって」
「先走ったか。あいつの場合、本当にどうにかしてしまいそうなのが怖いな」
互いに苦笑し会話は続く。
「そういえば、俺はキラーロボットだったな」
「忘れてたの?」
「いや、ハッキリ覚えてる。今更軽蔑するか?」
「面白い冗談言うねー、本当に今更すぎて逆に面白いわ。十年間は無駄じゃなかったわよ」
「俺としては、ある意味無駄だったがな」
自分がキラーロボットである事など、コーティーにとっては当たり前であって確認する必要すらない。正直なところ、それについてどうこうと思う事も無ければ、何かに対して贖罪のような行動を起こすつもりも一切無かった。
過去は過去、今は今と都合の良い考え方もしていないが、コーティーはだからと言って何なのかと割り切るさっぱりとした性格をしている。もっと端的に言ってしまえば、他人が自分をどう見ようがどうでもいいのだ。流石に目の前にいるカーリーに対しては例外だが。
だからこそ、あえて冒頭に言われた言葉を確認してみた。彼女が自分を既にミミガー殺しだと見ていないのは百も承知だったが、今は敵だった頃の記憶が戻っているのだ。もしかしたら、戦った時の記憶が戻って当初のように嫌われてしまっているかもしれない。
そんな不安は結局のところ杞憂に終わった。煽るようなセリフを吐くカーリーも、何となく彼の不安を理解しているのだろう。冗談を重ねるのも安心を誘うためなのかもしれないと、コーティーは思った。
「左腕、治ったんだ」
「薬を飲まされたら、何故かな。お前のその脚は?」
「浸水したからエラーが起きちゃって、まだちょっと動かせそうにないかな」
「……行けるか?」
「勿論」
言いながら、カーリーは布に包んで保管してあった赤いマシンガンを抜き放った。既に十年間は苦楽を共にしている相棒だ。以前、本人は武器自体に執着があるわけではない等とあっけらかんと言っていたが、やはり最も使いやすい武器である事に間違いは無い筈だ。
その姿を見てコーティーは背負った袋から一本のロープを取り出した。彼がロッククライミング用に持っていたそれは、ロボット二体分の重さ程度ならば軽く耐えられる程にしっかりとした造りをしている。
「俺が背負う、好き勝手に撃ってくれ」
「うん!」
背中合わせの状態になってロープを身体に巻き付け、左腕でカーリーを軽く持ち上げてみせた。せっかく復活した左腕なのだから、こういう時に役に立ってもらわなければ。
ちらりと目線を横に向けると、クトゥルーがつまらなそうに明後日の方向を向いていた。
昔から変わらず不気味な奴だが、カーリーを助けたのは彼なのだろう。複数いるとされるクトゥルーの生態は謎に包まれている、しかしこうして彼女を助けたのは人並みの良心を持っているからなのかもしれない。
意味深な言動から垣間見える狂気や不気味さは行動に出していなく、ドクターに協力してもいない以上、邪険に扱う必要も無い。正直に言って好きになれそうにもない人種ではあるが。
「邪魔したな、礼を言う」
素直にそう言うと、クトゥルーは口元を歪めた。目は見えないが、笑っているようだ。
「キラーロボットと武装探索ロボットの組み合わせか、ククク……」
「おかしいか?」
「そう怒るなよ、面白いと思っただけだ。殺し合って当然の仲だった筈だしな」
楽しげに笑う彼から目を逸らして、コーティーは歩き出した。これ以上あれと話していても利があるとは思えない、それどころか話したとしても苛立つだけだ。
背に声がかけられる。
「坂本百鈴とかいう科学者が島の最上部に行ける機械を作ったらしい。その女がまだ残ってるなら、協力してもらえるかもな」
「……前々から思っていたが、その情報源はどこにあるんだ?」
「さあな、企業秘密ってやつだ」
やはり気に入らない。溜め息を吐いてもう一度歩き出したコーティーの耳には、カーリーが明るく礼を言う声だけが入って来ていた。
☆
坂本百鈴は、言うなれば対ドクターを目的としたレジスタンスだ。彼女はドクターと共にこの浮遊島へとやって来た科学者だったのだが、やはり他と同じように彼の行動に賛同出来ずに脱走。そのまま大農園へと潜伏する形に相成った。
自分でも意味があるのかがわからないような影での活動を続けて暫くが経ち、ようやく一体のロボットを大農園の上空にある入り口からドクターのいるであろう王座へと送り込む事に成功。これで自分の役目は終わったと彼女は思った、思っていた。
「あんたが坂本百鈴か?」
自分達が脱出するための手段、王冠の居城前に止められているであろうヘリを回収するために移動しようとすると、目の前に立ち塞がったロボットに声をかけられた。送り出した相手、名前も知らない彼と全く同じ顔だ。ロープで繋がれた女性型を左腕で担いでいる。
敵対するつもりは無いらしい、そうであったなら既に襲撃されている筈だ。頷いて肯定を示すと、男の方が言う。
「そのロケットを使わせてもらいたい。ドクターのところに行くための足が必要だ」
「それは、あれに味方するためかしら?」
探るようにそう聞いてみると、男型は肩を竦めてみせた。
「冗談を言うな、奴を殺すためだ。……俺達の身元は保証してやる、ブースターの爺さんかカズマにでも確認してみろ。あんた、関係者だろ?」
「ダメよコーティー、交渉するのにそんな威圧的じゃ」
「交渉より先に、ただ頼んでるつもりだったんだけどな」
「それ、もっとダメよ……」
担がれている金髪の女型が諌めるように言うが、男型は何が悪いのかまるでわかっていないらしい。こちらに選択肢を与えないような上からの物言いに感じられたが、どうやらただそういった性格なだけのようだ。確かに頼んでいるだけというのに間違いは無い。
それに、疑うつもりも更々無かった。男型が背中に装着しているのは、救世主と呼んだ彼が使っている物と同じ飛行装置だ。先に出されたブースターという名からしてみても、あの老人が自分から受け渡したのだと思われる。
どうだろうか、あの二体が出している微笑ましい雰囲気は。まるで長年連れ添った妻が夫をたしなめているようではないか。ドクターに組みするような悪党に出せる雰囲気ではない。きっと、百鈴は彼らが悪党だと名乗っても信じないだろう。
「貴方達、救世主君の知り合い?」
「救世主……」
「クォートの事じゃない?」
「あれが救世主か、ただの武器マニアの間違いだろ」
どうやら、彼は仲間内でかなり扱いが悪いらしい。思わず笑ってしまった百鈴に対し、女型が話しかけて来た。
「名乗ってなかったわね。私はカーリーブレイス、こっちはコーティー。これにあんた達が言う救世主、クォートを含んだ地上の最強ロボット軍団とは私達のことよ!」
「やめろ恥ずかしい」
「えーっ、こういう時に自分をアピールしておくのは常識じゃない?」
「ガキ臭い名乗りが常識なわけがあるか、とにかく俺を巻き込むな。……すまん忘れてくれ、アンタの言う救世主は俺達の身内だ。それの援護に行きたいんだが、いいか?」
どちらかといえば、まともな性格をしていないのはカーリーと名乗った女型の方だったらしい。申し訳なさそうに再度尋ねて来るコーティーに対し、百鈴はもう一度頷いた。
拒む要素などどこにも無い。助けになるのならば何よりだ、まだロケットは生きている。
「いいわ、好きに使ってちょうだい。だけど、ロケットに残ったバッテリーは一回分だけ。一度失敗して落ちでもしたらもう次は無いわ、絶対に振り落とされないでね」
「だそうだ、どうする?」
「ぜ、絶対に離さないでね!! 絶対よ!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二体を宥め、コーティーをロケットの上に立たせる。足場は安定しているが、上昇の勢いは相当な物だ。彼はともかく乗せられているだけのカーリーの方が危ないかもしれない。
しかし、そこはコーティーにどうにかしてもらわなければならない。ロープで繋がっているのならば、それを補強するぐらいしか今の持ち物での対策法は思い付かないのだから。結局のところ、ロケットは急ごしらえだ。搭乗者を気遣う機能はどうしても作れなかった。
今のコーティーは不安定なその場にただ二足で立っているだけ。クォートは難なく上に登れたようだが、バランスを保つのは至難の技だ。カーリーが不安に思うのも無理は無いだろう。
恐らく、救世主とされた彼の仲間であるこの二体なら大丈夫だとは思う。
「救世主君が行って、もう結構な時間が経ってるわ。行くなら今すぐに出発しないと追い付けないかも。準備はい~い?」
「持って行く物は武器があれば十分だ、覚悟もとっくの昔に決めた。それに、どう考えてみても負ける要素は無いな」
「私達三人は鉄の紲よ。冗談じゃなく最強なんだから!」
「何時から俺も含まれたんだ?」
「今この瞬間からよ!」
迷惑そうな顔をしたコーティーは、次の瞬間にはニヤリとあくどく笑ってみせた。何かを諦めつつも満足そうな表情だ、もしかしたら喜んでいるのだろうか。それにしてはどうしても悪人にしか見えないような笑い方をしているが。
何となくおかしくなって、百鈴はロケットのスイッチを押した。悪戯をしてみたくなったのは老婆心からだろうか。
「おわぁ!?」
「ちょっとぉぉぉォォ!!」
絶叫を残して飛び立つロケットは、また次の希望を乗せているのかもしれない。自分などでは出来ないような大きな事をやってくれそうなロボット達はきっと、この島を根本から変えてくれるのだろう。
そう思うと、自然と百鈴は笑っていた。
「い、行った?」
「何してるの」
「いや、やっぱりロボットって怖くてな……」
こそこそと物陰から這い出て来た白衣を着たミミガー、伊藤は震えながらやはり情けない事を言う。これで地上から来た人間の一人なのだ。今は魔法によって姿を変えられてしまっているが、確かに優秀な科学者だから扱いに困る。
それにしても、この怖がり癖はなんとかならないのだろうか。ドクターからも真っ先に逃げ出し、戻って来たかと思えばこれだ。
「さ、さあ坂本さん、どうにかして上に行くぞ。ヘリを確保するんだ」
「あら、今までに比べたら威勢が良いわね」
「自分の身に関わる事だからな!」
何故かふんぞり返って見せる伊藤を、百鈴はただ冷やかに見ていた。この後、二人は分解したロケットを外壁で再構築し、ヘリの場所まで飛ぶ事になる。
☆
「陰気な場所ねー、門前払いってやつかな」
「だったらまだマシだったんだがな。少しだけ道を開けておいて、不法侵入者を始末するトラップが仕掛けられてるように俺には見える」
「うげっ……」
悪趣味な場所、恐らくは最後になるであろう洞窟に突入したコーティーの最初の感想はそんなところだった。
狭い通路の中にところ狭しと張り巡らされている血のように赤黒い色をしたトゲの山、更に足場になりそうな場所にはこれまた不気味な赤いクリッターやコウモリが配置されている。およそ生きて帰れはしなさそうな、それどころかブースターが無ければ通れすらしない道だ。
恐らくはドクターかミザリー辺りが意図的に作ったのだろう、空を飛べる自分達は通れるように最低限の道だけは残して。だとしたら迂闊だった。まさか、ロボットが飛行手段を得るなどとは夢にも思うまい。
確かに苦労はしそうだが、通れるのならば儲けものだ。だが正直に言ってノーダメージで通れるような気もしない。どうにかなりそうではあるだけマシかと、コーティーは覚悟を決めた。
「どうするの?」
「ダメージ覚悟で突っ込むしかないな。敵は任せるぞ、ブースターの操作に集中したい」
「了解、針に刺さらないように気を付けてね!」
言うと同時に、コーティーは地を蹴って空中へと躍り出た。上にはトゲ、下にもトゲ、あまりにも危険な道をブースターを吹かしながら二人は突っ切って行く。少しでも操作を間違えればその時点で串刺しだ。まともに落ちてしまえば、命は無い。
僅かに地面に存在しているまともな足場へ向かって直進すると、そこには数匹のクリッターがここは通さじと待ち構えている。軽い連射音が響いた、そう認識した瞬間には既にクリッター達はその身体に無数の風穴を開けていた。
空中での反動を受けないように威力を抑えているとはいえ、やはり大量の弾を連続で発射出来るマシンガンは強力だ。相手が岩のように強固な防御力を持っているのならばまた話は別だが、見るからに柔らかいクリッター程度では防ぎきれるわけもない。
恐らく、あれらはミザリーが以前に呼び出したコウモリと同じような存在で、島に元から存在している正規の生き物ではないのだろう。現に死体が赤い煙になって消えている、ならば遠慮する事も無く蹴散らせるというわけだ。
無駄に生態系を壊すなとジェンカにどやされる心配は一切無い。
「今掠った、針が掠った!!」
「少しぐらい我慢しろ、俺はさっきから足が削り取られる勢いだ」
「もう少し安全運転は出来ないかなぁ?」
「無理を言うな、こいつはお前が思ってる以上に暴れ馬だ」
実際のところ、このブースターは使い勝手は良いが使いやすくはなかった。直線的な軌道しか描けず、しかも飛行可能な限界距離もそう長くはなく、運良くこの洞窟ではトゲにギリギリ落下しない程度だ。少しでも焦れば、操作を誤って自分から死地に飛び込む結果になりかねない。
冷静に言葉を返しているように見えるコーティーだが、内心では極度の緊張感に押し潰されそうになっている。暫くすると、集中を切らさないためにカーリーの言葉には反応しないようになってしまった。
決して無視しているのではない、ただどうしても返事が出来ないだけだ。恐らく、少しでも意識を他に向けてしまえばそのまま針のアクセサリーになってしまう。そんな嫌な確信があった。
「ふぅ……」
暫く進むと、二人は広い空間に辿り着いた。ここにはトゲもモンスターも何も無い。まるで休憩をさせるためのオアシスのようにコーティーには感じられる。
深く息を吐いた彼を労いながら、カーリーは周囲を見渡してみる。本当にただの広い空間だ、今までの地獄の如き悪事が嘘のように平坦。意図的に作られたのかは定かではないが、逆に違和感が生まれた。
そして彼女が目にしたのは、その中央に飾られた威圧感を放つオブジェクトだった。
「ねえ、コーティー。あれ見て」
「うん?」
そこにあったのは石像だ。まるで、本当に生き物が石化したかのような精巧な造りをしている。それを見た瞬間、コーティーは目を見開いた。見覚えがある、見覚えがありすぎて思考が停止してしまう程に。
かつて幾度となく友と共に戦った相手。そして何年もかけてようやく撃退にまでこぎつけた、恐るべき敵だ。
「赤鬼……」
「赤鬼って、あのミミガーの村の?」
「ああ、間違い無い」
かつて、ミミガーの村の近くには強力なモンスターが居座っていた。村の英雄アーサーと、それに協力したコーティーとの度重なる戦闘によってようやく撃退された敵、それが赤鬼だ。
名の通りに赤い、コーティーの倍はありそうな巨大な体躯。丸太のように太い腕と脚。更に身に纏うのは、格闘家のそれのような、緑色の胴着にも見える服。今は石らしく灰色だが間違い無い、全てが記憶と一致している。してしまっている。
「石像、よね?」
「恐らくはな、だがもし本物だったとしたなら……」
「クォートがやったのかな」
「そうだろうな」
何にせよ、動かないのならば下手に触らず放置するのが良い。とにかく無視して先に進むとしよう。そう二人の意見が合致したところで、声が聴こえた。
これも聞き覚えのある掛け声だ。
「ヘーイ! ここを通すわけにはいかないよ!!」
天井を破壊しながら落下して来た不可思議生物、ドクターの手下の片割れであるバルログだ。やはりコーティー達がここを通って来るのは予想されていたらしい、待ち伏せていたのだろう。
「あっ、迷宮ではありがとね!」
「いえいえー……じゃない! 今日も君達を壊しに来ました、くどいようだけど命令だからね。覚悟してもらうよ」
何時になく私は本気ですという態度を真顔で示すバルログに対し、カーリーは普段通りの陽気さを見せていた。コーティーは彼と戦った事が無いので警戒心を露にしているが、戦闘経験のある彼女にとってバルログは別に気を引き締める程の相手でもない。
言ってしまえば、彼はそんなに強くもないのだ。確かにパワーは凄いがただそれだけ、ミザリーやドクターと比べれば雲泥の差が開いている。
なので、さっさと倒して先に進もうとマシンガンを向けた、そんな瞬間だった。
ピシリと、何か石が割れるような音が聴こえた。
☆
コーティーとカーリーは気にも留めていなかったが、赤鬼の石像の真下にはコインのような物が落ちていた。
暗がりの中であまりにも小さくて見えなかったそれには、何か黒い絵が描かれている。土人形のメダル、そう名付けられているそれは、鬼を倒した勇者に与えられるとされた一種の勲章のような物だ。用途は無いが、持っている事によって一定の満足感を得られる。
クォートがこの場で赤鬼を倒した時、彼は確かにこれを入手していた。しかし同時に、彼はこのメダルを見た瞬間にこう呟いていた。
「何だ、武器じゃないんだ。いらないや」
言うと同時に、彼はメダルをその場に捨てそそくさと行ってしまう。かくして、メダルは赤鬼の元に残された。
赤鬼は不死身なのだ、そしてその根源を封じなければ何度倒したとしても復活してしまう。コーティーやアーサーが幾度となく復活する赤鬼と戦ったのもここに原因がある。
彼らはメダルの存在に気が付かなかった。故に、また蘇る。地獄のような洞窟の中で、我こそが地獄の門番だと叫びながら。
岩が弾け、赤鬼は産声を上げた。
クォート、メダルを持って行かない痛恨のミス。赤鬼は原作でもメダルを放置していると何度でも復活します。当然ながら、何かしらの縛りプレイでもしない限り、取らないメリットはまったくありません。
次回、調子に乗って字数が増えない限り最終回。