【完結】洞窟物語~女神の雷~   作:FA-UMA

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第一話

 ガリガリガリと、頭の中でコンピュータが酷な労働をする時のような重苦しい音が響き渡る。

 駆動エネルギー基準値に到達。通信機能停止、復旧の見込みは立たず。左腕駆動部に深刻なエラー有り、機能しないものと判断し起動シークエンス続行。エラー率二十三パーセント、基本的行動に問題は無し。起動シークエンスオールクリア。個体名コーティー、起動。

 そんな、機械的な声だ。

 

「ここは?」

 

 白む世界にカメラが対応し、徐々に視界がクリアになっていく。同時に優れた演算能力が現在の状況を理解させようと働きかけたのか、失われかけていた記憶が急速に呼び覚まされていくのをコーティーは実感していた。

 そして特に大きな感情も無く思い出す。自分は、あの二体に敗北したのだと。

 悔しさは無い。そのような無駄な感情はコーティーに与えられてはいない。

 改めて自らの状態を確認してみると、どうやら柱らしき物に強固なロープで縛り付けられているようだった。場所はどこかの倉庫だろうか。コンテナのような物が幾つか積まれている程度の殺風景な空間だ。

 

「起きたわね」

 

 背後から声がした。聞き覚えのある女のものだ。コーティーの前へと回り込んで来た顔には、やはり見覚えがあった。

 

「あれ、まだ寝てるのかな。私のことわかる?」

「カーリーブレイス。俺達に敵対する武装探索ロボット」

「正解、でもちょっと違うわね。私はあんた達に敵対してるんじゃなくて、結果的にそうなっちゃってるだけなの」

 

 どの口が言うんだと思ったが、言葉には出さなかった。戦闘中でもそうだったが、このカーリーブレイスという女型はコーティーに対して何故かフランクに接してきている。

 元来がそういった性格として作られているのだろう。あまり自分から喋らずに閉鎖的なクォートとは真逆だ。どちらかと言えば、他人から好かれるのはカーリーの方だろうか。

 

「今、失礼なこと考えられた」

「何故わかる」

「兄弟機だから、なんとなく」

 

 視界の端の方では、鉄製の扉を背にして座り込むクォートの姿があった。手に持って舐めまわすように観察している自分が持っているはずのネメシスだ。しかし、二丁あったはずのそれは一丁しか見受けられない。

 やはり、もう片方は左腕と共に失われてしまったようだ。敗北に対してよりも、相棒と呼べる銃が消失した事の方が余程辛かった。

 

「どうして俺を生かした。壊してしまった方が有意義だと思うが」

「あんた、今の状況わかってる?」

「いや、通信機能がエラーを起こしているらしい。地上からの指令や他機との情報共有も全て失われている」

「じゃあ、一から説明しないとねー」

 

 カーリーはクォートに軽く目配せをすると、笑みを浮かべたまま言った。

 

「まず、地上から来たミアキドとかいうやつが悪魔の王冠を手に入れたわ。それで私達以外のほとんどのロボットは機能を停止、戦争はやっと終結した」

 

 ミアキド、という名前はよく知っている。地上から島に派遣された人間の一人で、探索ロボットを管轄する軍人。つまりコーティーの上司の一人だ。

 その男が悪魔の王冠を手に入れたのならば、自分達の目標は達成された事になるだろう。これは喜ばしい、探索ロボットとしての責務を果たせたのだから。

 悪魔の王冠に関して詳しく知っているわけではないが、とりあえず手にした者に莫大な力を与える王冠だとは聞いている。地上の国々はその存在を知って競うように、早い者勝ちとして王冠を求めていた。

 勝負の結果はミアキドの勝利で、後は色々と協定が結ばれていくのだろう。その内容についてはコーティーに関係しないところだ

 とりあえず、探索ロボットが機能停止しているのは役目を終えたからだ。自分が停止していないのは通信機能が破壊されているからで、恐らく命令自体は送信されていると思われる。

 

「ならば、俺達の勝利だな」

「それがそうでもないのよ」

「何?」

 

 一転、カーリーは悲痛な面持ちで続ける。

 

「赤い花を食べたミミガーが理性を無くして暴走しちゃうっていうのは、勿論知ってるわよね?」

「あぁ、奴らは完全に息の根が止まるまで暴れ続ける。俺も手こずらせられた」

 

 敵とはいえ、無感情なコーティーですら暴走したミミガーに関しては同情を禁じ得なかった。

 赤い花を摂取したミミガーはほとんどの思考能力を無くし、敵も味方も関係無しに目に入ったもの全てを襲い暴れる。その強さも半端ではなく、キラーロボットのチームも複数が壊滅させられたらしい。

 実際に何度か戦ったコーティーもそれなりに苦戦した覚えがある。それでも、ネメシスを連続で撃ち込んでやればどうにかなったのだが。

 暴走したミミガーは目の前のものを排除したとしても決して止まらず、徘徊と破壊を続ける。それ故に、一度赤い花を食べてしまった者は死んでしまったも同然であり、元の生きていた姿には決して戻れない。

 島を守るための行動とはいえ、あまりにも残酷な結末だった。

 

「ミアキドは王冠を手に入れた後、地上に対して宣戦布告したわ。赤い花のミミガー達を使って」

「何、どういう事だ?」

「ミアキドは裏切ったの。地上の国々を、そしてあんた達を」

 

 頭を殴られたような気がした。

 ならば、自分は何のために殺戮を続けていたというのだ。殺す事自体には何の疑問も持たないが、今まで作られて稼働してきた意味を失う手助けをしてしまっていたのは許容出来る話ではない。

 あくまでも、コーティーは命令に従うだけの与えられた目的を果たすために作られたロボットだ。彼の目的は単純かつ明快。島のコアと悪魔の王冠を入手して、地上に利益をもたらす事。決して、ミアキド如きに王冠を捧げるためではない。

 生まれて初めて、存在しないはずの怒りが湧いた。

 

「どこだ、ミアキドはどこにいる」

 

 語気を強めて尋ねるコーティーに面を喰らうが、カーリーは直ぐに首を振った。

 

「私達もあいつを探してるの。ミザリーとかいう魔女を追ってここまで来たんだけど、この先には赤い花を栽培する大きな農園があるみたい。その時に偶然崖の下であんたを発見して、まだ生きてるみたいだったからここまで運んで来たわ」

「赤い花。燃やすぞ、存在している分だけ全てだ」

「兄さん、怒ってる」

「怒っていない、そして誰が兄さんだ」

 

 明らかに怒っているのだが、冷静さを欠いたコーティーにはそれが理解出来ない。そもそも、人並み以上の思考回路を備えて作られているのだから、少し考えてみれば感情が生まれてそれを自分のものに出来て当然だ。

 思考回路があれば、存在しないものを作り出すのはロボットでも可能。自分でわかればいいと考えたカーリーとクォートは、それ以上ツッコむような野暮ったらしい事はしなかった。

 

「じゃあ、私達に協力してくれる?」

「ミアキドと地上に脅威となるものを破壊するまでだ。それが終わったら、また敵に戻る」

「僕はそうならない気がするけど」

「どういう意味だ?」

「何でもない」

 

 呟きの答えを出さずに、クォートはまた脇に置いてあったマシンガンの手入れに戻ってしまった。ネメシスはそのまま胸に抱えている。

 こいつは何時も何かしらの武器に触っている。多数の武器を使い分けられるように設計されたのが災いしたのか、重度の武器マニアとなったようだ。戦闘中にネメシスに関して聞いたのも、それの性格に後押しされたからなのだろう。

 兄弟機でも違いが多すぎると、コーティーは改めて思った。

 

「とにかく、これからよろしくねー」

 

 にこやかに笑いながら、カーリーがロープを解いていく。そんなに簡単に信じていいのかとも思うが、この二人だから仕方がないのだろう。

 とにかく、動けるようになったようのならやるべき事は一つだ。

 

「返せ」

「ああん」

 

 マシンガンを磨くクォートに近付いてコーティーはネメシスを奪い返す。悲しそうな声を無視して状態を確認すると、特に問題は無いようだった。

 

「もう一丁は?」

「わからない、兄さんが転がってたところには無かった。左腕も」

「そうか……」

 

 どこかに吹き飛んでしまったのだろう。火力が下がるのは痛いが、左腕が無い以上、あっても無くてもそう変わらないのかもしれない。

 しかし、それよりも胸に穴が空いたような辛さがあるのはどうにかならないものか。

 

「あの扉が大農園に繋がってるわ。あなたはラスボスじゃなくて、中ボスだったってわけね」

「何の話だ」

「無視した方が良いよ」

「いや、もしかして裏ボスっていう可能性も?」

 

 わざとふざけているのだろう。カーリーは知識外の言葉を使って自分の世界に浸っている。だが、コーティーにはその気遣いがありがたかった。

 よくわからない奴ではあるが。

 

 「多分、わざとじゃないよ」

 

 この兄弟機は、それ以上によくわからない。

 

 

     ☆

 

 

「またお前達か。今度は仲間まで増やして、ご苦労な事だな」

 

 大農園に突入する三人の前に、直ぐ様に立ち塞がった者がいた。青色の髪の凶悪そうな笑みを浮かべる、物語にでも出て来そうな、魔女のそれとわかる杖に乗って空に浮かぶ女性。

 話に出て来た、ミザリーという女なのだろう。

 

「ミザリー、ミアキドはどこ!?」

「ふん。残念ながらここがゴールで、ミアキド様はこの先だ。今は赤い花の研究中でな……お前達に構ってる暇は無い」

 

 突っぱねるようにミザリーがそう言った瞬間、彼女の周囲に彼女の周囲に黒い球体が五つ出現した。大きさはミザリーと同程度で、見るからに禍々しい雰囲気を纏っている。

 恐らく、当たれば恐ろしい効果をもたらすのだろうとコーティーは推理した。そう思考する内に、ミザリーは行動を開始する。

 

「くたばれ!」

 

 叫ぶと同時に杖を振ると、黒い球体が弾けて更に分散する。そして無数の細やかな泡になったかと思えば、それらは即座に散弾銃のようにロボット三人の元へ降り注いだ。

 柔らかそうな見た目に反して相当な硬さを持っているらしい。農業用の土になっている地面が次々に捲り上がり、視界が肥料たっぷりの茶色に覆われていく。

 着弾の直前、本能が命じるままにコーティーは走り出していた。

 

「対処法は!?」

「そんなの無いわよ、なんとか避けて!」

「無茶苦茶な!!」

 

 悪くなる視界をこらしてみても、近くにいるであろうカーリーとクォートすら見えなくなってしまっている。二体の気配が遠ざかっていくのは、独力でどうにかしろというメッセージなのだろう。

 正にこれは暴風雨だ。当たったら即死する理不尽な嵐に等しい。眼前でようやく見えた泡を、コーティーは小さくステップを踏んでどうにか回避していく。

 尚も攻撃が続いているのは、ミザリーが同じ攻撃を繰り返しているからだ。ならば、まずはそれを中断させなければ話にならない。

 大まかな目星を付けて右手に持ったネメシスを斜め上に掲げ、一思いに引き金を引く。バチリと静電気が走るかのような音と、それ以上のエネルギーが爆発する音と共に弾が発射された。

 高所から落下した割には調子が良いようだ。クォートが必要以上に手入れしていたからだろうか。

 

「ちぃっ!」

 

 手ごたえは何となく感じられない。しかし、悪態のような声が聞こえたのは銃撃をしたのと同じ方向だったので、もしかしたら掠めぐらいはしたのかもしれない。

 実際に、激流の如き泡の流れは緩やかになっているようだ。一発、二発、三発と細かく方向を調節しつつ、コーティーはネメシスを連射した。

 同時に、多数の弾丸が一斉にばら撒かれる音も聞こえている。カーリーとクォートが声の方向に対して撃っているのだろう。流石に判断が早い。

 

「カーリー、クォート。こいつは俺に任せて行け!」

「了解、あなたも気を付けて!」

 

 晴れる土煙の果てに、二体が駆け進んで行く姿が垣間見えた。一人の敵を三体全員で相手取る必要は全く無い。カーリーもそれがわかっているからこそ、迷わずに進む決断を下したのだろう。ネメシスを撃ち続けるコーティーには目もくれず走って行く。

 逆に、クォートは心配そうにチラチラと振り返りながらカーリーに引っ張られて行く。自分よりもネメシスの方を心配しているのではないのか。何となしに、コーティーはそう思った。

 カーリーからの呼ばれ方が微妙に変わっている事には気付かず、空を飛んでエネルギー弾を回避するミザリーに対して宣言する。

 

「貴様の相手は俺だ、魔女」

「カタワのキラーロボット風情が!!」

「そのキラーロボット風情に、貴様は負ける」

 

 熱くなりやすい性格らしいミザリーは、少し挑発をしてやるだけで簡単にコーティーに集中してくれたようだ。他にもミアキドの仲間にはバルログという石鹸やテレビに見えるような生き物もいるらしいが、ミザリーよりは弱いと噂されている。

 ならば、二体はきっとミアキドに辿り着いてくれるだろう。その為に出来る事はただ一つ。目の前の性格の悪そうな魔女のプライドをへし折ってやる事だ。

 ミザリーの呼び出した黒球が一つに集まり、形を変えてコーティーに迫る。ジグザグにうねる、雷のように。

 

「堕ちろ」

「砕けろ」

 

 雷と雷が、ぶつかり合う。

 

 

     ☆

 

 

 戦況は圧倒的にミザリーが有利だった。

 黒球、雷、コウモリと様々な攻撃を仕掛けて来るミザリーではあるが、実は火力自体にそこまでの差があるわけではない。ネメシスは強力だ。どのような攻撃をしようとも、全てが光弾の連射によって相殺出来てしまう。

 それでも戦況がコーティーに傾かないのは、ただ単純に手数が違いすぎるのと、ミザリーが自由自在に空を飛び回り、果てには瞬間移動すらしでかすからに他ならない。

 

「ほら、どうしたカタワ!! 足が止まってきてるんじゃないか!?」

「ぬかせ、貴様の動きを見切って最小限の動きに留めているだけだ」

 

 強がってはみたものの、実際に足の動きは悪い。マシンガンで撃ち抜かれた傷に、高所から地面に叩き付けたのが加わって、身体のあちこちが悲鳴を上げている。

 カーリーとクォートがある程度の応急処置をしてはくれたようだが、当然ながら万全には程遠い状態だ。相手は万全であろうとも苦戦するであろう強敵だろう。だというのに、左腕が無くネメシスも一丁の状態では、時間は稼げても打ち倒すのは困難だった。

 しかし、とコーティーは思考する。ミザリーに弱点は無いのかと問われれば、答えはノーだ。ミザリーにも弱点はある。 

 例えば、攻撃に転じる際に動きが必ず止まっている。恐らくは魔法と思われる術の数々は静止している状態でないと使えないらしく、結果としてネメシスを撃ち込むには十分な隙になっていた。

 更には一発一発に火力が無い。黒球を変化させた雷などは、三発でようやくネメシスの一発に相当している。連続で撃ち込んでやれば、ミザリーはただ避けるしかないのだ。

 ただ、容易く避けられすぎているのが問題なのだが。

 

「ちょろちょろと鬱陶しいハエだ」

「コウモリと言ってもらいたいな」

 

 今現在も、光弾は虚しく明後日の方向へと飛んで行っている。戦闘は既に十分以上続いているが、ミザリーに疲れのようなものは見受けられない。魔力と呼ぶべき力は無尽蔵に蓄えられているのだろう。恐らくは悪魔の王冠を通して。

 あまりにも絶望的な状況だ。どうにかコーティーがまだ戦えているのは、彼の中に生き残っていた生体センサーがミザリーにも機能してくれているからに他ならない。これならば、背後からの奇襲にも即座に反応する事が出来る。

 それでも、瞬間移動を使ったミザリーがどこに出現するかを予測するのは不可能だ。移動する一瞬、ミザリーの反応はセンサーから消えてしまっていた。

 防戦一方。今のところ、脱却する方法は全くと言っていい程に思いついていない。

 

「いい加減にしつこいな、農園の被害を考えるとやりたくなかったが……」

 

 ミザリーが、天へと杖を掲げた。機械の身でありながらも、今の彼女には莫大なエネルギーが集まっているのがわかる。

 何かが起こる前に阻止を。そう思いネメシスを撃とうとするも、一瞬の行動の遅れは致命的なタイムラグを生んでしまった。

 上空から降り注ぐ日の光が隠され、影が差した。雲によってではない。そんな物よりも、更に強固で無機質で巨大な物体によって。

 見上げると、それがどうしようもなく目に入って来た。目測十メートル四方、正方形の岩石ブロックが。

 

「潰れろ!」

「おおおおぉぉぉぉっ!?」

 

 落下の認識と共に走り出す。落ち始めるまでには少々の間があった。これならば、回避自体はそう難しくはない。回避自体は、だが。

 着弾の轟音と共に舞う土煙にまたも視界が奪われる。そこに、ミザリーの声が響いた。

 

「隙だらけだ」

「っ……」

 

 避けた先に飛来するのは、ミザリーが生み出した多数のコウモリだ。このコウモリ自体に大した殺傷能力は感じられず、武装ロボットの装甲を突破するには力不足らしい。

 しかし、耐久力はそれなりにあった。周囲に纏わり付かれれば身動きは取り辛くなり、それによって移動速度は一気に落ちてしまう。

 気が付けば、コーティーは二十を超えるコウモリに包囲されていた。

 

「終わりだカタワ!」

 

 そして、またも影が差す。今度は先程よりも大きな、二十メートル四方はあるかという岩石ブロックが既に落下を始めている。

 前後左右、逃げ場はどこにも無かった。

 

「あっ……」

 

 叫びすらも出来ず、コーティーの口から漏れ出たのは間抜けな息だけだった。

 大地が揺れて自身が沈む感触、それだけが残った。

 

 

     ☆

 

 

 呆気ないものだと、ミザリーは急速に感情が冷めていくのを感じていた。

 故障によって停止命令の影響を受けていなかったキラーロボットは他にもいたが、全てがあっさりと敗北して迷宮へと送られていた。ここまで抵抗し戦えたのは、今の紫色が初めてだ。

 だからこそ楽しめるだろうと思っていたが、所詮は左腕を無くした手負いの相手。終わってみれば苦戦らしい苦戦もせずに潰してしまった。あの銃は脅威だったが、それ以外は運動性の高いキラーロボットだという以外に評価は無い。

 本当に、熱くなるような相手でもなかった。

 

「ちっ、無駄な時間を使った」

 

 とにかく、時間を稼がれてしまったのは事実だ。バルログがミミガー狩りに出ている今、この大農園にいるのは自分と悪魔の王冠の持ち主であるミアキドのみ。

 たった二体のロボットにどうにかされる主君ではないとは思うが、それでも呪いに従わざるをえない現状、一刻も早く彼の元へ駆け付ける以外に選択肢は無い。

 目の前に鎮座する岩石ブロックは、確かにキラーロボットを叩き潰している。コウモリに囲まれた状況では抵抗のしようも無かっただろう。一緒に畑も荒れてしまったが、後でゆっくりと片付ければいいだけの話だ。

 ブロックに背を向け、杖に座って飛ぶ。若干の苛立ちと焦りを持ちながら。

 

 それが致命的な隙になった。

 

「がっ、はぁ……!?」

 

 背中から胸を貫く衝撃が走り、弓なりに身体が曲がる。衝撃に耐えきれずに吹き飛ばされ、全身に痺れが蔓延していく。気が付けばミザリーは杖から落下し地面に叩き付けられていた。

 頭から足先までがピクリとも動かない。電流によって、身体機能のほとんどが奪われてしまったようだ。こんな事が可能なのは、あの銃だけに決まっている。

 

「カッ、ワァァァ……」

「女神に賛美を。敵が死んだかを確認せずに背を向けるのは、三流のやる事だ」

 

 仰向けに倒れるミザリーを見下ろすコーティーは、土や砂にまみれて汚れきっていた。迷彩服も相まって、軍の兵士らしい姿に見える。

 彼がやった事は単純だ、前後左右に逃げ場が無いなら下に逃げればいい。ブロックが落下し潰されてしまう前に足下の地面をネメシスの連射によって掘り、穴を作って難を逃れたというだけの事。

 よくよく注意していれば、気が付けただろう。これはミザリーの油断と慢心が生んだミスだ。コーティーが格下であると決め付け、勝機を与えてしまった。

 いや、確かにコーティーは格下だった。それでも今こうして立っているのが彼である以上、そんな格付けは一切の意味を成さない。

 

「人をカタワ呼ばわりか、口の悪い魔女だ。何か最後に言い残しておく事はあるか?」

「っ……」

「ああ、まともに喋れないか。悪いな。俺の女神は独占欲が強く、他の女と話していたから嫉妬してしまったらしい」

 

 先程までとは別人のようにコーティーは饒舌だ。勝利の余韻に浸っているのだろう、ロボットのくせに変な部分で人間らしい。

 しかし、次の瞬間にはまた無表情の感情も持たない機械に戻っていた。

 

「……じゃあな」

 

 向けられたネメシスに恐怖を覚え、ミザリーが諦めと共に目を閉じた時だった。

 

「ヘーイ!」

 

 空から、得体のしれない生物が現れ割って入った。

 

「ちょっと待ってくれないかな、ミザリーを殺させるわけにはいかないヨン」

「バル、ログ……」

 

 四角い体に短い手足が付いただけの奇怪なフォルム。バルログと呼ばれたみょうちくりんな生物は、悠々とコーティーの前に立ち塞がる。

 これに歯噛みしたのはコーティーだ。ミザリー単体でさえここまで苦戦したというのに、更に噂のバルログまで加わるとなれば勝てる見込みは無い。

 早く仲間の元に駆け付けたいのはミザリーだけでなく、彼も同じに決まっている。これ以上無駄な時間を取られては間に合うものも間に合わなくなってしまう。

 さっさとこの四角形を片付けなければ。そう思いコーティーがネメシスを構えなおしたところで、バルログが更に待ったをかけた。

 

「ノンノン、戦う気は無いよ。このまま進んでもいいから、ボクらを見逃して欲しいんだ」

「何?」

「王冠がどれだけ凄くても、完璧に死んじゃったらどうにもならないからさ」

 

 話しながら、バルログはミザリーを抱え上げる。その姿に戦意は無く、本当にただミザリーの助命を乞いに来ただけらしい。

 そしてコーティーの返事を聞くよりも早く、そのフォルムに似つかわしくない跳躍力で空へと飛びあがって行った。

 

「じゃあね」

「降ろせ、バルログ!!」

「ダメダメ。ボクが貰った命令はミミガーを捕まえるだけだから、逃げても命令違反にはならないんだよ」

「くっ……カタワ、お前は必ず私が殺してやる!!」

 

 見る見るうちに遠くなっていくコーティーの姿を、ミザリーはただただ苦々しく見つめていた。




 ミザリーの攻撃方法は原作通りのものばかりです、ブロックとか潰されたらHP全損しますよね。
 ネメシスがチート武器化しているのは、まぁあまりお気になさらず。

 ストックはこれでほぼ尽きましたが何か?
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