無限大の星   作:サマエル

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ようやく完成いたしました。

そういえば広井王子先生の出席されたイベントでサクラ大戦っぽい

「東京大戦(仮)」というプロジェクトが発表されたそうですね。

まだタイトルしか決まってないそうですが、どんな作品になるのか楽しみな今日この頃です。

今回は原作で最終回となったプレジデントGこと幻庵葬徹との決戦編。

そしてこのお話で一人、仲間が退場します。

「彼女」が誰か、知っている人は知っている……と思う。


第10話:決戦!命を懸けて

 

 

 

<無限大の星:第9話~決戦!命を懸けて~>

 

「(私、絶対に花組に入る! 真宮寺さくらさんみたいに、強いさくらになる!!)」

 

その言葉が、ただ純粋に嬉しかった。

涙に濡れ続けたその顔が笑顔に変わるなら、何だって出来る。

そう思っていた。

 

「(じゃあ、俺は花組の隊長になる! この手で、さくらちゃんを守る!)」

 

その瞬間から、志していた。

帝国華撃団花組の隊長……、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さくらっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その笑顔が遠のいた一瞬、手を伸ばしかけた時に世界が反転した。

荒い息を整え、頭に手を置く。

視界には人肌の濡れた手ぬぐい。

自分は隊長服のまま、医務室に寝かされていたのだ。

 

「そうか……、あの時……」

 

徐々に、記憶が脳内に蘇り始めた。

何故自分がここにいるのか。

あの時、何が起こったのか。

 

「(いかがだったかしら、キャプテン。……名演技だったでしょう?)」

 

アナスタシアが、敵側についた事。

 

「(この幻庵葬徹が、全てを消し去ってくれる!!)」

 

幻庵葬徹と名乗る降魔の手によって、絶界の封印が解かれようとしている事。

 

「(神山さん……)」

 

そして……、目の前でさくらを奪われた事。

 

「誠十郎!!」

 

突然の声に顔を上げると、そこには共にあの場にいたあざみの姿があった。

いつも切れ長の細目が、驚きに見開かれている。

どうやら少なくない時間、意識を失っていたようだ。

 

「あざみ……、丁度良かった。聞きたいことが……、うっ!?」

 

「誠十郎!?」

 

立ち上がろうとしたとき、わき腹に痛みを感じ蹲る。

そういえば倫敦との一件でのケガは完治していなかった。

 

「大丈夫? 無理しないで」

 

「いや、いいんだ。それよりさくらは……? アナスタシアも……!!」

 

わき腹を押さえつつ、あざみの静止を振り切って立ち上がる。

覚醒した脳内で、様々な不安が波のように押し寄せてくる。

さくらを始め隊員達の安否。

競技場周辺の被害状況。

それらを思うと、怪我どころではない。

 

「……」

 

返ってきたのは、沈黙だった。

あざみは神山の問いに、躊躇うような表情で俯き、応えなかった。

瞬間、神山の脳裏に薄ら寒い予感が走る。

 

「目が覚めたのね、神山君」

 

「支配人!!」

 

代わりに応えたのは、廊下の先から現れたすみれだった。

やはり彼女の表情も、僅かに冷静さを欠き憂いを隠し切れずにいる。

不安が、更に高まる。

 

「作戦司令室に来て頂戴。……最悪の事態になったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかっていると思うけど、上級降魔・幻庵葬徹の手によって、絶界の封印が解かれようとしています」

 

作戦司令室には、既に自分以外の全員が揃っていた。

少なくとも神山はそう聞いていた。

 

「みんな……」

 

だからこそ、眼前の光景が現実となって突き刺さっていた。

自分達隊員席の周囲には、現場に居合わせた伯林華撃団、上海華撃団、そして天川銀河の姿がある。

だがその隊員席が二つ、空室のまま残されていた。

 

「幸いギンガさんが咄嗟に張ったバリアと、その際に乱入してくれた上海華撃団のおかげで、その場にいた人間は避難できましたわ。……二人を除いて」

 

「さくらと……アナスタシア……」

 

上海華撃団が来たタイミングでいなかったという事は、アナスタシアは既に離脱していたのだろう。

恐らくは、意識のないさくらを捕えた状態で。

 

「……神山」

 

ふと、名を呼ばれて顔を上げる。

目の前には、自分達を助け出してくれた旧友が立っていた。

俯いて表情は読めない。

 

「シャオロン。ありがとう、助けてくれて……」

 

「歯、食いしばれ」

 

「え……?」

 

聞き直す間もなかった。

シャオロンは突然、硬く握った拳で神山を殴り倒したのだ。

 

「シャオロン!」

 

「神山ぁ……ふざけんなよ、このクソヤロウ!!」

 

ユイの静止を無視し、シャオロンは倒れた神山の胸倉を掴んで引き寄せる。

その顔は、最早怒りを通り越して殺意すらむき出しにした獣の顔だった。

 

「お前言ったよなぁ? さくらは自分で支えて見せるってよぉ、支えることが俺の愛だってよぉ!! 言ったよなぁ神山ぁ!?」

 

「シ、シャオロン……」

 

「このザマは一体なんだ!? 女一人戦場に放って何処ほっつき歩いてやがった!! 挙句の果てにおめおめと連れ去られましただぁ!? 寝言は寝て言いやがれ!!」

 

「止めるですシャオロン!!」

 

「神山は病み上がりよ! アンタ喧嘩しに来たの!?」

 

仔空とユイに止められたところで、シャオロンは舌打ちと共に神山を突き放す。

ここまで怒りを露にされたのは初めてだが、無理もない、と神山は思った。

シャオロンはさくらに、仲間以上の気持ちを持っていた。

それをあの公の場で表に出してまで気持ちをぶつけ、今に至る。

もし立場が逆だったら、もし自分だったら、冷静でいられたかと言われれば自信はない。

故に、神山はシャオロンを責める気持ちにはならなかった。

 

「神山さん、お怪我は……」

 

「大丈夫だ。カオルさん、状況は?」

 

殴られた箇所を心配してくれるクラリスを制し、カオルに尋ねる。

だが結論を聞く前から、その表情から結果は読めていた。

 

「……華撃団大戦競技場には高濃度の魔幻空間が展開。上空には虚数空間が出現しています」

 

「幻庵葬徹が帝鍵を使って、降魔皇封印の異次元を開こうとしてるっちゅうことやな」

 

「異次元空間……。あれが……」

 

以前他ならぬすみれに話を聞いた。

大神一郎率いる時の全華撃団とウルトラマン達の総力を結集し、降魔皇を封じ込めた異次元空間。

それを、あの幻庵葬徹と名乗る降魔が解き放とうとしているのだ。

 

「ええ、10年前に絶界の力で生み出した異空間『幻都』ですわ」

 

「しかし、霊力を持たない降魔が何故……?」

 

最初に神山が抱いた疑問は、そこだった。

降魔皇封印に必要なものは帝鍵『天宮國定』、そこまでは分かる。

だがその力を解放するためには、膨大なまでの霊力が必要だったはず。

降魔たちの妖力では代用が効かない代物であることは、開会式後の話で明らかになっている。

ならば幻庵葬徹は、何を以って帝鍵を扱うことが出来たのか。

 

「それは、こちらが説明しよう」

 

すみれの横にいた見慣れない人物が、一歩前に進み出た。

神山より低い身長ながら、軍人気質の感情の読めない表情で、特有の威圧感を感じる女性。

まるで伯林華撃団のようだと感じたとき、ある人物の名前が浮かび上がった。

 

「まさか、貴方は先代帝国華撃団の……」

 

「伯林華撃団総司令、レニ=ミルヒシュトラーセ。君と会うのは初めてだね、神山誠十郎隊長」

 

その名前を、神山は知っていた。

初代霊的組織の欧州花組から帝国華撃団花組へと移り渡り、降魔大戦を生き延びて伯林華撃団発足を成し遂げた女傑の一人。

この状況下において僅かも平常心を揺さぶられないというのは、流石にすみれや紅蘭に並ぶ戦歴ゆえか。

 

「我々伯林華撃団はドイツ本国と連携を取り、世界華撃団大戦の間に関係各国での連盟の動向を確認させていた。その結果、アメリカから対魔防衛兵器の残骸を秘密裏に輸送していたことが分かった」

 

「対魔防衛兵器?」

 

「ネオマキシマ砲。元は巴里華撃団整備班の建造した霊力砲台だ」

 

そういえば過去のアーカイブで閲覧した記憶がある。

アメリカにおける第六天魔王・織田信長と紐育華撃団星組との戦闘で使用された、超弩級対魔防衛兵器の名称だ。

その後のバルタン星人との戦いにおいて逆に生物兵器デスフェイサーに改造利用され、その後破棄されたと聞いていたが、残骸が残存していたとは驚きである。

 

「連盟……幻庵はその残骸に霊力を備蓄できる事を利用したんだ。秘密裏に競技場に安置し、我々華撃団同士の対戦で発生する霊力の余波を取り込ませ続けていた」

 

「そうか……、だから意地でも対戦を中止させなかったのか」

 

「つい先日その物流記録の証拠を掴み、今日連盟を糾弾する手はずだったんだが……間に合わなかったようだね」

 

ここにいたり、伯林華撃団が何故揃って霊力を出し惜しむ戦い方をしていたかが理解できた。

帝鍵を使うために幻庵は自分達の霊力を取り込もうとしていた。

逆を突けば霊力を出し惜しむ動き方をすれば幻都を出現させるだけの霊力練成に時間がかかり、必然的にその決起は後ろ倒しとなる。

そうして時間を稼いだところで動かぬ証拠を持って連盟の、プレジデントの化けの皮をはぐという作戦だったのだ。

 

「……私の責任だ」

 

ふと、包帯姿のまま隅に座っていた銀河が重い口を開いた。

そう言えば、あの戦いで彼は敵の手によって降鬼に変えられていた。

ウルトラマンでさえもしもべに取り込んでしまう敵の恐ろしさもそうだが、銀河ほどの人間が何故不覚を取ったのかは疑問だった。

それは、ひとつの理由があった。

 

「私のこの力は……、正しい光の力ではない」

 

「どういうことですの?」

 

「……今より遠い大正84年。それが全ての始まりだった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その年……、何の前触れも無くそれは起こった。

 

『帝都大厄災』。

 

それまで何の問題もなかった霊子各機関が一斉に暴走し、蒸気機関文明は一夜で終わりを告げた。

 

その後発表された未知のエネルギー『ミライ』に、日本は移り変わって行った。

 

だがそれを境に、帝都周辺で降魔に代わる怪物『降鬼』が現れるようになった。

 

私は時の大帝国華撃団BLACKの司令として、ミライの力で動く霊子スーツを纏った仲間と共に降鬼鎮圧に明け暮れていた。

 

そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝都の地下には、朽ち果てた人工の石像が安置されていた。かつてアメリカで凍結されたウルトラマン計画……。何らかの形でプラズマ=オーブを入手した人間達は、降鬼の脅威から逃れるためにウルトラマンを頼った」

 

銀河は肥大化した腕の先に輝くオーブに視線を落とす。

僅かな輝きを帯びて静かに明滅を繰り返すその様は、まるでこれ以上の暴走を押さえ込むために拘束具のようにさえ思えた。

 

「本来このオーブが選んだのは、私ではない。私に移植されたこの腕の持ち主だった者だ。時代を超えて光に認められたものとして、オーブが選定したのだろう」

 

「腕の、持ち主……?」

 

「天川星也……私の弟だ。厄災で命を落とし、その遺体がある実験に使われていた」

 

「それでは、その人造ウルトラマンというのが……」

 

重い表情のまま、銀河が頷いた。

肥大化の影響は、移植元の弟の遺体が既に降鬼化していたということ。

恐らく望月バランが行っていた人体実験のようなことが、弟の身にも起きていたのだろう。

多くの過程は謎に包まれているが、その降鬼実験の行く末が、人造ウルトラマン起動への帰結とされていたと見てよさそうだ。

そしてそれこそ、この時代で銀河が変身したウルトラマン、『ウルトラマンギンガ』ということになる。

本来ならば他人の異形と化した腕を、妖力を押さえ込みながらオーブの力を合わせて変身する歪な光の巨人。

それがウルトラマンギンガ誕生の背景だった。

 

「今まではオーブの力で制御してきたが、やはり誤魔化しはきかないということだな」

 

本来ならば別人の腕を移植し、降鬼の力とオーブの力を制御する。

常人ではまず不可能なことを何度も続けていれば、生命の危機に瀕するほどに負担がかかることは自明である。

降魔達は、そこを突いたのだ。

 

「……すまない。君達の、この時代の悲劇を食い止めるはずだった私が……、その足かせになってしまったとは……」

 

自身の不甲斐なさを、頭を下げて詫びる銀河。

それに応えたのは、意外な人物だった。

 

「頭を上げてください、銀河さん。私達は……この場の全員が、貴方に非があるとは思っていません」

 

「クラリス殿……」

 

それは、仲間に向けるものと同じ優しい微笑を湛えたクラリスだった。

 

「司令からお話は聞いています。貴方の時代では、私達全員が、この戦いまでに命を落とし、さくらさんの命と引き換えに再封印を成し遂げたと」

 

「みんな、知っていたのか……!?」

 

「あざみ達はついさっき、司令から聞いた。銀河が未来から、あざみ達を助けるために来てくれた事も」

 

「元々アンタが神山を助けてくれてここまで繋がった命だ。これで恨んじゃ罰当たりってもんだぜ」

 

「君達……」

 

口々に感謝を口にする隊員達に、驚きを隠しきれない様子の銀河。

そこへまた別の声が割って入った。

 

「そうだ。まだ……手段は残されている」

 

「鉄幹さん!!」

 

司令室に入ってきたのはさくらの父、天宮鉄幹だった。

あの大帝国病院の倒壊後は仮設の自宅で療養していたと聞くが、もう動いて大丈夫なのだろうか。

 

「鉄幹殿! それでは例の物は……!」

 

「ここにある。新たな帝鍵の器だ」

 

鉄幹の手に握られていたのは、刀身を収めた新しい一振りの刀だった。

まだ霊力を練りこまれていないため通常の刀と相違ないが、恐らくはこれをさくらが振るえば……。

 

「例え天宮國定を手に幻都を解放したとしても、天宮の血を引くさくらがこの刀を覚醒すれば、神器の力は引き継がれ絶界は閉じる。神器の継承はそのために行うのだ」

 

「だから幻庵はさくらを攫ったのか……!」

 

失念だった。

新たな帝鍵の出現を死力を尽くして阻止しようとして来た敵の様子を鑑みれば、刀身を狙えないならば天宮の血筋、即ちさくらの身柄を狙うことは容易に想像できていたはずだった。

今さらながら自身の詰めの甘さを、神山は呪う。

 

「最早幻都封印の手段は只一つ。敵の手からさくらを取り戻し、この帝鍵を以って絶界を再び閉じこめる事だ」

 

「……出来るわね、神山君?」

 

念を押すようにすみれが尋ねる。

だが、神山の心は決まっていた。

 

「出来ます。行かせてください! みんなで……、この手でさくらを取り戻す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分後。

整備班から無限各機の修繕作業が終わり次第、魔幻空間突入作戦の段取りが組まれ、各隊員は一時解散となった。

霊力の回復や一時の休息など各々が準備に入る中、ミライの姿は大帝国劇場の屋根裏部屋にあった。

普段は物置として封鎖され、人の出入りのない空間。

しかし、ミライは夜な夜な人知れずこの場所を訪れ、空を眺めるのが好きだった。

何故なら『彼』もまた、この場所から見える故郷を思いを馳せていたと、そう聞いていたからだ。

 

「ウルトラの星……、こんなに見えなかったっけ……」

 

だが今、晴れ模様だったはずの青空は、どす黒い紫色の瘴気に包まれていた。

一度復活を遂げれば全世界を破滅に導くという降魔皇の力。

この段階でさえその片鱗を見せていることに、驚きと戦慄を隠せない。

 

「……」

 

それを目の当りにして尚、義憤に駆られない自身の心に、ミライは当惑していた。

いや、理由は分かっていたはずだった。

この地球に来てから幾度となく対峙した諸悪の根源たる降魔。

だが人類に仇なす絶対悪だと思っていたその方程式が、根底から覆されつつあった。

 

降魔は元来、人間の手によって生み出された怨念だった。

 

あの時、幻庵は確かにそう言った。

だとすれば、もしそれが真実であるなら、自分の正義は本当に正義になりえるのだろうか。

それを自問する自身に気づいたとき、ミライは自分自身へのどうしようもない情けなさと悔しさで心をかき乱された。

恐ろしかった。

今この瞬間、あろうことか人類を見限ろうとしている自身が存在することが。

 

「ここにいたか」

 

「……銀河さん」

 

未来からの使者が姿を見せたのは、その時だった。

ここに来ることは告げていないが、自身の光の力を感じて来たのだろう。

 

「銀河さん……教えてください。先ほど司令が話していた内容は……!」

 

「……事実だ。私の生きた世界では、華撃団はおろか霊的組織そのものが犠牲になった」

 

すみれから聞かされた、銀河の世界での幻庵葬徹との戦いの顛末。

僅かでもと一縷の望みを懸けたミライの問いに返ってきた答えは、非情だった。

 

「では……その時はさくらさんが……」

 

「そうだ。師の村雨白秋と協力し、捨て身で降魔皇を再び幻都に封じ込めた。……それが、後の悲劇を生むことになった」

 

「それが……、帝都大厄災……」

 

先ほどの話では実に55年後の未来に起こるという、霊力に起因した未曾有の大災害。

その後に降鬼の事件が頻発したという。

 

「あの災害は、人為的に引き起こされたものだった。人々の世論を霊力から遠ざけ、霊的組織の影響力を弱めるための策略だった」

 

「策略……? 降魔もいないのに一体、誰がそんな事を……」

 

「吉良時実。時の帝国政府の首相だ」

 

そこから語られた銀河の未来は、想像を絶するものだった。

鎮圧の気配を見せない降鬼事件に、政府は大厄災の原因となった霊力が原因と市民を煽った。

その結果日本各地で『霊力狩り』と称される悪魔狩りが始まった。

政府に支給された霊力測定装置で基準値以上の霊力を持つ人間は降鬼事件への関連、または危険性ありと判断され、老若男女問わず片っ端から処刑されていったというのだ。

次第にその動きは激化し、住む場所を追われた霊力持ちは互いに徒党を組んでレジスタンスを名乗り、各地でゲリラ行為など反政府運動を加速。

その鎮圧は次第に無差別攻撃へと形を変え、霊力持ちの家族や親戚、さらには近隣に住むというだけで処刑対象となり、最早人間が人間を殺しあうようになった。

最早日本での居場所をなくした各地のレジスタンスの生き残り達が最後に結集したのが、本土から海を隔てた先にある青ヶ島だった。

そして……、

 

「その生き残りの殲滅を担っていたのが大帝国華撃団BLACK。私はその司令として、最前線に立っていた」

 

「……そんな……」

 

「そして私は青ヶ島で最後の生き残りの少女に出会い、そこで初めて知った。世界で起きた真実と、私の起こした業の深さを……」

 

帝国政府は、そこで銀河を用済みとして殺すつもりだった。

銀河はそこで大帝国華撃団を離反し、青ヶ島を脱出。

生き残りの少女と共に本土に潜伏して各地を回り、一人でも多くの霊力持ちの同志を探すという、途方もない逃避行を続けた。

だが全土が焦土と化した日本列島は既に解き放たれた降鬼や降魔が跋扈していた。

その中で見出した唯一の希望が、帝国政府官邸に秘密裏に建造されていたという、人造ウルトラマンだった。

 

「帝国政府は霊的組織に見切りをつけ、ウルトラマンの力を我が物にしようと画策していた。私は共に死地へ赴いた少女と共に、ウルトラマンの力を得ようとした」

 

だがウルトラマンの石像に触れた時、思いもよらないことが起こった。

石像にはウルトラマンの力を目覚めさせるために、何万何億という無数の命が捧げられていた。

石像から溢れ出たそれらは怨念となり、銀河達に襲い掛かった。

辛うじて少女を逃がし、銀河は僅かに残された光の力で巨人となった。

そして……、

 

「激しい戦いの末、私は勝った。怨念を打ち倒し、少女と共にもう一度日本を立て直そうと。だが……」

 

満身創痍の体を引きずって外へたどり着いた先に見えたのは、絶望だった。

少女は民衆によって全身を竹槍や刃物で滅多刺しにされ、見るも無残な屍となってさらされていた。

それを周囲で嘲笑う民衆を目の当りにした瞬間、銀河の中に残っていた僅かな理性は消えうせた。

 

「そんな……、人間が……人間が互いに殺しあうなんて……!!」

 

何て醜いのだ。

何て愚かなのだ。

人々の希望となるはずだった霊的組織が、ウルトラマンが、あろうことか人類にその力を振るうとは。

考えてはいけないと何度も脳内で静止をかけながらも、ミライの脳は自問をやめない。

果たしてこの地球人類は、本当に守るに値する存在なのかと。

 

「全てを終えた私が最後に願ったこと。それが悲劇を変えることだった。全ての始まりとなったこの時代の悲劇を食い止め、未来に希望の可能性を残すこと。思えば、それにオーブが力を貸してくれたのかもしれない」

 

だからこそ、ミライは横に立つ男の不屈とも言うべき精神に圧倒された。

彼は、まだ人類を信じ、自身の全てを懸けて希望を託そうとしている。

幾度も蔑まれ、幾度も傷つけられ、幾度も裏切られ、文字通りの生き地獄を味あわされて、それでも人類の為に戦おうとしている。

何故、信じられるのだろう。

何故、信じたいと思えるのだろう。

自分はこれまでの人類の負の側面を垣間見続けて、戦う理由さえ見出せなくなろうとしているのに。

 

「出来るでしょうか、僕達に」

 

気づけばその胸中を、ミライは吐露していた。

情けなかった。

彼らの志を継いでこの星に来たはずの自分が、こんなにも心が弱かったことが。

 

「悔しいんです。ゾフィー隊長も、ジャックさんも、みんなこの星と人間を愛し、信じて戦ったからこそ今があるのに……、僕はそれに疑問を持ち始めている……」

 

「……」

 

「もしもこの戦いでさくらさんを助けられなかったら……、アナスタシアさんと戦うことになったら……、降魔皇の復活を止められなかったら……、僕はきっと自分自身と人間と、両方を許せないかもしれない」

 

だが、

 

「……それでいいんだ、ミライ君」

 

「……、え……?」

 

返ってきたのは、意外に尽きる返事だった。

 

「ウルトラマンは、神ではない。罪なき命を守りきれないことも、思いが届かないこともある。あくまでそれは、強大な力を持った外宇宙の命に過ぎないんだ。心一つでそれは正義にも悪にも成り得る」

 

「銀河さん……」

 

「人もまた同じだ。心ある命ならば、必ずそこには光と影、両方がある。優しさがあれば冷たさが、強さがあれば弱さが、尊さがあれば醜さが……。だがそれは人も、我々も同じなんだ」

 

ミライは言葉を失った。

思い上がっていたつもりはない。

だがこの地球に訪れたときから、人智に余る脅威に立ち向かえるのは自分だと、心のどこかで自身を縛りつけ続けていた。

人類を脅威から守れる最後の砦が自分だと。

だから自分だけは何が遭っても人類の味方でなければならないのだと。

そこに疑念を持つことは、禁忌なのだと。

 

「彼らもまた人として悩み、人として戦い続けてきた。それは決して人間のうわべの美しさだけを見ていたわけではない。人間の心の影を目の当りにして尚、信じ愛すると決めた。だからこそ、その心の強さは揺るがないのだ」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その空間は、むせ返るほどの瘴気に包まれた魔城と化していた。

世界華撃団大戦競技場。

その最上階に位置する観覧席のあった場所は、下界を見下ろす天守閣の如く聳え立って眼下の惨劇を眺める舞台となっている。

半透明の水晶に隔たれたそこに、絶界の末裔は囚われていた。

 

「ククク……、天宮の血筋といえど、神器を奪えば赤子も同然だな」

 

「くっ……!!」

 

朦朧とした意識のまま、眼前の仇敵を睨む。

その後方に控える4人の降魔たち。

絶体絶命とはこのことだ。

 

「我らの野望を悉く阻んだ帝国華撃団……、それも今日で見納めということですね」

 

「あいつらには散々煮え湯を飲まされて来たんだ。盛大に迎えてやらねぇとな」

 

「奴らの屍を貢物に、我等が皇の復活を祝すとしよう」

 

「貴方にはその一部始終を特等席で見物させてあげるわ。光栄に思いなさい」

 

「無駄よ……! 降魔皇の復活なんて、みんなが……神山さんがさせない!!」

 

これまでの意向返しとばかりに口々に煽る降魔の幹部達。

せめて弱みは見せまいと言い返すが、それが虚勢であることは誰の目から見ても明らかだった。

 

「盲信もここまで来ると立派だな。……アイスドール」

 

「はい」

 

だが次の瞬間、精一杯の虚勢は跡形もなく吹き飛んだ。

何故ならその言葉と共に現れたのは、これまで苦楽を共にした戦友だったからである。

 

「ア、アナスタシアさん!? そんな……どうして……!?」

 

状況が分からず困惑するばかりのさくら。

対してアナスタシアは、別人のように凍てつくような冷たい視線を正面に向けたまま、さくらに見向きもしない。

 

「おやおや、感動の再会だってのに冷たいねぇ」

 

「所詮仮初の繋がりだ。その程度だった、という事だろう」

 

「夢を見ていたのは片方だけですか。何とも滑稽ですね」

 

その様子をせせら笑う降魔達。

その時だった。

 

「幻庵様。ネズミ共がやってきたようです」

 

「フッ、些か命知らずなネズミ共だな。相も変わらず正面突破か」

 

言い終わらぬうちに見知った輸送空船が、瘴気の壁を突き破って飛び込んできた。

瞬間、胸に熱いものがこみ上げる。

 

「面白い、ならば奴らの首を手に前夜祭と行こうではないか!」

 

言うや降魔達は獲物を見つけた野獣の如く目を光らせ、転移魔法でその場から消えうせる。

その場にはさくらと、仲間だった女性だけが残った。

 

「……アナスタシアさん。本当に……本当に降魔の味方になってしまったんですか?」

 

依然として背を向けたまま、返事はない。

その沈黙が、否定の言葉が来ないことが、もどかしく思えた。

 

「嘘ですよね……? 嘘だって言ってください……!!」

 

世界に轟くその名を初めて聞いたとき、雲の上の人だと思った。

そんな人が伯林からわざわざ来日し、その言葉と背中と生き方に多くを学んできた。

舞台でも戦闘でも卵同然だった自分達を、一から鍛え上げてくれた恩人。

なによりアナスタシアはさくらにとって追いつくべき、いつか超えるべき目標だった。

 

「アナスタシアさん……」

 

「……ごめんなさいね。これも任務なの」

 

最後までこちらに視線を向ける事無く、その場を歩き去るアナスタシア。

その背中が消えたとき、視界が滲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「帝国華撃団、参上!!」」

 

幻庵葬徹による幻都解放より実に2時間。

魔を討つ正義の使者たちの姿は、競技場入り口に位置する魔幻空間の先端にあった。

霊子核機関を使用する輸送空船『翔鯨丸』では、妖力の充満する空間内での飛行に支障が出る。

故に神山たちは競技場の南端から地上を伝いに魔城の頂を目指すことになった。

 

「競技場の面影が何処にも残ってねぇな。まるで悪魔の城だぜ」

 

「あの空の幻……、あそこに降魔皇が……!!」

 

かつて先代霊的組織が文字通り死力を尽くした末に封印を遂げた史上最悪の破壊神『降魔皇』。

未だその姿を見せないということは完全な復活を遂げたわけではないようだが、それでも身震いするほどに強烈な妖力に、人智を超えた恐るべき力を予感する。

 

『神山さん、特別観覧席に当たる最上階に、天宮さんの霊力反応があります』

 

「だとすると、そこにさくらが……!」

 

『あと……アナスタシアはんの反応も一緒や。多分、護衛か……それとも……』

 

こまちらしくない歯切れの悪い返事だった。

だが神山は、彼女の心情を慮る。

裏切りとしかとれないアナスタシアの行為に、自身もそうだが皆の理解が追いついていないのだ。

無理もない。

今まで自分達にとって舞台のイロハを教えてくれた師匠であり、豊富な経験で幾たびも視線を救ってくれた戦友である。

混乱するのは自明の理だ。

 

「神山さん……、本当にアナスタシアさんは、敵についてしまったのでしょうか……?」

 

「確かにあの時、さくらを撃ったのはアナスタシアだった……。だがきっと真意があるはずだ。さくらが今無事でいることが、何よりの証拠だ」

 

それでも花組隊長は、彼女があくまで理由の上で降魔側に与しているという考えを曲げなかった。

降魔たちが最も危惧していたことは、新たな帝鍵を覚醒されることと、それを用いて再び幻都を封印する手筈を整えられること。

だから刀身が奪えないと知るや絶界の力を受け継ぐさくらの身柄を奪い、間接的に帝鍵を無力化させようとして今に至る。

ならばこの時点で、敵の立場からするとさくらを生かしておく理由がない。

例え帝鍵が残っていようと、天宮の血筋を持つ人間が死に絶えていれば、その力を使うことは出来ないからだ。

それは神山に、一つの仮説を導かせていた。

 

「一刻も早くさくらを救出して、アナスタシアと合流する! 行くぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時に志を共にした仲間と、時に許されざる怨念と対峙し、幾たびも死闘を演じてきた広大な競技場一帯は、散乱した瓦礫や根のように張り巡らされた妖力の蔦に汚染され、荒地のように様変わりしていた。

そしてこちらの進撃を予期していたかのように、無尽蔵に湧き出る傀儡騎兵の大軍団。

まるで歩行者天国のような大群の群れに、5機の霊子戦闘機は真正面から突撃をかけた。

五神龍と鉄の星も改修が済み次第合流してくれる手筈になっているが、それまで腰を下ろして待っているつもりなど毛頭ない。

 

「討ち漏らした敵は無視しろ! 最短距離で城内へ突入するんだ!!」

 

敵との物量差は歴然。

これまでのように各個撃破していてはとてもではないが霊力が持たない。

故に神山は自身を先頭に突撃陣形を敷き、神速の異名に相応しい電撃作戦を実行した。

布陣に用いたのは、『五光星の陣』。

星の角に位置する5箇所にそれぞれが配置につき、先頭の速度に合わせて陣形を維持して突撃を仕掛ける作戦だ。

当然ながら進軍が止まればその瞬間に後方ががら空きになるため、勢いを維持したまま一歩も止まらず押し切らなければならない。

神山は最も重要で危険な位置である先頭に立ち、前線となる左右にはミライと初穂を配置。

後方には援護射撃要因としてあざみとクラリスが立ち、前方の敵に牽制をかける。

 

「闇を切り裂く、神速の刃!! 縦横無尽・嵐!!」

 

作戦の肝となる進軍スピードを維持するため、惜しみなく霊力を込めた二刀を振るい、暴風雨が如く敵を蹴散らす神山。

初穂とミライもそれに続いて浮き足立った前方の敵を纏めて吹き飛ばし、あざみとクラリスがそれに続く。

圧倒的な物量差も、相手にしなければ問題はない。

だが城内の入り口に迫ったとき、強烈な殺気が真上から襲い掛かった。

 

「止まれ!!」

 

瞬間、咄嗟に交差させた二刀に、朱色の大鎌が金属音を立ててぶつかった。

数秒の拮抗の後宙を舞いこちらに対峙したのは、見覚えのある死神だった。

 

「性懲りもなくやってきましたね、帝国華撃団!!」

 

「獏……、俺達の足止めをするつもりか!!」

 

「足止め? とんでもない。降魔皇様復活の供物として、あなた方の首を頂くだけですよ!!」

 

浮遊する傀儡騎兵『夢惨』に獲物を遊ばせ、凄絶に嗤う獏。

これも降魔皇の力が影響しているのか。

以前相対したときより、明らかに妖力が上がっている。

ただでさえ時間の少ないこの状況で戦えるのか。

 

「今宵は我等が悲願成熟の時。甘美な悪夢へいざなってあげましょう!!」

 

言うや再び鎌を振り上げる獏。

止む無く迎撃体制に入ろうとしたその時、一人の人物が前に進み出た。

クラリスである。

 

「神山さん、ここは私が引き受けます。さくらさんの下へ急いでください」

 

「ク、クラリス……!?」

 

突然の進言に、神山は一瞬躊躇う。

確かに敵がいつまでさくらに手を出さないか分からない関係上、一刻の猶予もない。

だが今の花組全員で戦って勝てるかどうかもわからない相手である。

増してや先ほどの伯林華撃団との対戦で疲弊したクラリス一人で相手をするなど無謀もいいところだ。

だが、クラリス本人の意志は固かった。

 

「私達花組はみんなで一つ。誰か一人でも欠けたら、ハッピーエンドには辿り着けません。増して王子様がお姫様のところに間に合わないお話なんて、辛すぎるじゃないですか」

 

「しかし、君一人では……!」

 

「勝ちます。貴方が信じてくれた重魔導の力で……スノーフレイクの名にかけて、必ず生きて追いつきます!!」

 

そこにかつて戦いを恐れた文学少女の面影は何処にもなかった。

守るべき仲間と、貫くべき正義。

そして必ず勝ち、生きて辿り着くという強い信念が、神山の心を決めた。

 

「分かった。クラリス、必ず……必ず生きて会おう!!」

 

「了解!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議なものだ、と思う。

少し前まで忌み嫌っていた家紋の名に、恐怖の象徴でしかなかったこの力に、これほど感謝する日が来ようとは。

 

「中々感動的なシーンでしたね。部隊のために自ら捨て駒になろうとは」

 

以前なら我先にでも逃避していただろう死神を前にして、尚も恐怖が芽生えることはない。

守るべき仲間と、揺るがない信念が心に芽生えたとき、人は強くなるのだと、あの人が教えてくれたから。

 

「私は帝国華撃団花組、クラリッサ=スノーフレイク。主の命により今度こそ、貴方を地獄に落とします……!!」

 

何処からともなく吹き荒れるつむじ風が、緑の無限を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突入した魔城内は、想像以上に神山達の進軍速度を鈍らせる構造になっていた。

何せ陽の光が一切遮断された薄暗い空間は元々人間用の通路でありこのような大型の霊子戦闘機が通行することなど想定していない。

加えて城内にも張り巡らされた無数の妖力の蔦が足がらめとなり、思うように進むことが出来ない。

 

「くそっ、こんなところで時間を取られる訳には……!!」

 

囚われたさくらと、死地同然の空間に孤立しているクラリス。

一刻も早く合流しなければという焦燥が、徐々に冷静な判断力を蝕んでいく。

その時だった。

 

「よぉよぉ、お早い到着じゃねぇか帝国華撃団ご一行様よぉ!!」

 

「貴様は、朧!!」

 

懸命に道を急ぐ彼らを嘲笑うように、巨大な影が2回へと続く踊り場に現れる。

巨大な両手を模したような下半身で浮遊する幻術使いが操る傀儡騎兵『荒吐』だ。

 

「そこをどけ! 今はお前の相手をしている暇はない!!」

 

「つれねぇ事言うなよ神山ぁ。今日は我等が皇の復活の宴席だぜ? 楽しもうじゃねぇか!!」

 

言うや周囲の空間がゆがみ始めた。

朧の十八番、幻術の類か。

 

「さあ、踊れ帝国華撃団!! 血と断末魔に塗れた死のダンスをよぉ!!」

 

言うや四方八方から無数の荒吐が現れ、一斉に襲い掛かってきた。

朧の得意とする幻術の類か。

互いに円陣を組んで迎撃にかかるが、敵の幻は攻撃を加えると誘爆し、逆にこちらにダメージが来る。

本体を叩こうにも妖力の根源が見つからない。

このままでは反撃の糸口が掴めずジリ貧だ。

 

「いいねぇその表情! 残してきた仲間と囚われのお姫様が気になるってのに足踏みしてる悔しさ! 最っ高じゃねぇか!!」

 

「くっ……!!」

 

さくらの安否やクラリスの状況を考えれば、ここで下手に時間を取られることは限りなくナンセンスだ。

どうする。

最早ここで霊力を解放して突破口を開くか。

だが僅かに二等を握る手に力を込めたとき、黄色の影が動いた。

 

「望月流忍法、奥義!! 無双手裏剣・影分身!!」

 

頭上に放たれた一枚の手裏剣がたちまち無数の刃となって周囲の幻を纏めて切り刻む。

その影響で幻術が破れたか、空間の歪みが消えうせた。

 

「ありがとうあざみ、助かった……!」

 

礼を言いかける神山を、あざみは無言で制する。

その視線は、眼前の仇敵に向けられていた。

その背中に先のクラリスが重なったとき、神山はその胸中を悟った。

 

「あざみ、まさか……」

 

「里の掟11条。時は金なり、決断を遅らせるな。……コイツはあざみがやる。先を急いで」

 

鉤爪の如くクナイを構え、忍び特有の鋭い殺気を漲らせるあざみ。

確かに朧の得意とする幻術の類に最も精通しているのは、月組と協力して隠密任務に従事した経験のある彼女だ。

クラリスに続き敵陣に孤立させるのは心苦しいが、他に有効な策がない。

 

「分かった。ここは任せる! あざみ……、死ぬなよ!!」

 

「忍!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「青臭ぇガキでも忍者の端くれってかぁ? 泣かせるじゃねぇか、あざみちゃんよぉ」

 

「黙れ」

 

思えば、何の因果だろうか。

戦火と共に里が絶えたあの日から、密かに誓いを立てていた。

 

「降魔・朧……、あざみはこの日を、この瞬間を待っていた」

 

花組という新たな家族を、居場所をこの手で守り抜くと。

 

「絶望した同志の心につけこみ、里を滅ぼし……あまつさえ帝都に仇なし、みんなを苦しめる……!!」

 

そして望月を滅亡へ追いやった怨敵を、

 

「貴様を……、引導を渡すその瞬間を!!」

 

必ず、この手で葬り去ると。

 

「面白ぇ、あの腑抜けきったクズ忍一族の弔い合戦ってかぁ!? 仲良くあの世に送ってやるよ!!」

 

「里の掟105条。望月に仇なす者には、死の餞別を。……帝国華撃団花組・望月あざみ、参る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上層階へ進むにつれ、一帯を包む瘴気の濃度はより一層強くなる。

まるで先に待ち受けるであろう魔の権化の凄まじさを、物語るかのように。

 

「……、止まれっ!!」

 

先頭をひた走っていた神山が、何かに気づき叫んだ。

瞬間、眼前に爆発と共に巨大な火柱が立ち上る。

その奥にあの人型の焔が見えた。

 

「よくあの死地を生き延びてこられたな。久しぶりの獲物に心が躍るぞ帝国華撃団」

 

「陰火……!!」

 

大帝国病院以来、遭遇することのなかった上級降魔の一角。

ここまで張り巡らされていた強固な防衛線から予想はしていたが、最早敵側も出し惜しみのない総力戦の様相を呈してきた。

やはりさくらとこちらにある帝鍵の刀身を会わせることを阻止しようということか。

 

「隊長」

 

それまで陣の左翼を守っていた赤と銀の無限が一歩前に進み出る。

神山は返事を仕掛けて、止める。

何故なら既に彼は、左手の霊力剣を最大出力で構えていたからだ。

 

「ミライ……、頼んだぞ……!!」

 

「さくらさんとアナスタシアさんの事……、お願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外だな、あの天宮の娘の身柄を優先するならば、お前が向かうと思っていたが」

 

「お前には分からないだろう。僕は……、花組の誰もが信じている! 隊長ならさくらさんもアナスタシアさんも助けだせると!!」

 

一切の迷いなく言い放つミライ。

返ってきたのは、嘲笑だった。

 

「無駄なことだ。最早我等が皇の真なる復活まで僅か。貴様らの存在など、その前祝でしかないのだぞ?」

 

「そんな事はない! さくらさんの下に帝鍵の刀身を届ければ、きっと……!!」

 

「だからこそ一人ずつ残って戦おうというのか? 舐められたものだ。不完全とはいえ、降魔皇様のお力を得た我らをこれまでと同列に語ろうなど、とんだ身の程知らずではないか」

 

言うや陰火は掌に炎を宿し、頭上に放る。

霧散した火の粉がその全身を包んだ瞬間、四肢を燃え盛る猛火に包んだ魔躁騎兵が現れた。

陰火の操る傀儡騎兵『凶炎』である。

 

「最早動き出した輪廻の輪は止められん。精々醜く足掻くが良い!!」

 

「僕は信じる……! 隊長を……アナスタシアさんを……みんなを……人間の可能性を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下層から聞こえる激しい剣戟と爆発音に焦燥を誤魔化しながら、辿り着いた特別観覧席手前の通路。

果たしてそこには、二つの戦闘機が鎮座していた。

 

「良く来たわね、帝国華撃団。あたし達の余興は楽しんでいただけてるかしら」

 

一つは漆黒の邪念を纏う傀儡騎兵『神滅』。

そしてその横に、見知った顔があった。

 

「アナスタシア……」

 

返事はない。

変わりに返ってきたのは、仲間であった頃からは考えられないほどに冷たい視線だった。

 

「この期に及んで仲間面とは滑稽ね? それとも認めたくないのかしら。未練がましいのね」

 

「うるせぇ! アタシら花組の絆を舐めんな!! 戻ってこないなら腕ずくで連れ戻してやる!!」

 

「アナスタシア……、そうまでして降魔につく理由があるのか?」

 

あくまで冷静に、問いただす神山。

この時点で脳裏に浮かぶ可能性は二つ。

だがいずれにしても、ここで無抵抗に彼女と争わない姿勢を見せるのはナンセンスだ。

恐らく……、

 

「理由なんて至極単純よ。彼女の純粋な一つの願いを叶えてあげるから。貴方達人間では出来ないことを、あたし達降魔ならね」

 

「彼女の願い……?」

 

「そう……、人間同士の争いで失った大切な家族を取り戻すという、可愛い願いでしょ?」

 

瞬間、思わず声を失う。

そういえば、アナスタシア自身の経歴こそ知ってはいたが、それ以前の生い立ちは聞いていない。

仲間とはいえプライバシーに関わることであり、何よりアナスタシア自身が話したがらなかったからだ。

 

「貴方達に出来るの? 仲間だ家族だと大層に訴える貴方達人間に。命を蘇らせることができるの?」

 

「くっ……、アナスタシア……そうなのか……?」

 

人の命を取り戻すことは人間には出来ない。

反論できぬ定義を突きつけられた神山は、あくまでアナスタシアに尋ねる。

 

「今まで君と共に過ごした期間は、長いものではなかったかもしれない。それでも、君は俺達花組に多くを齎してくれた! 君は、それも偽りだったというのか!?」

 

言いつつ二刀を構え、応じなければ戦闘も辞さないと暗に示す。

返事は、無言で向けられた銃口が示していた。

 

「止むをえん……。夜叉を倒し、アナスタシアを無力化する。初穂……、手を貸してくれ!」

 

「当ったり前よ!!」

 

力強い返事に頷き、白銀の無限が地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランスの首都、巴里。

蒸気自動車の交通の要となっている凱旋門の前で、黒騎士ランスロットは混乱の最中にあった。

無理もない。

身柄拘束という名目で保護されたエリカの古巣に着くや、生活拠点であるはずの教会から急遽この場所に出頭するよう命令が届いたのだ。

流石にツバサは呼ばれていないようだが、霊的組織の権限の一切を失った小娘一人に何をさせようというのか。

 

「ご苦労さんエリカ。その子が、例の黒騎士とやらだね?」

 

「グラン・マ!!」

 

エリカの案内で現地に到着したランスロットを迎えたのは、薄紅色のコートに身を包んだ壮年の女性だった。

その姿を認めるや、エリカはまるで家族にあったかのような満面の笑顔を向け、年甲斐もなくその胸に飛び込んだ。

 

「出迎えに来てくれたんですね! エリカ大感激です!!」

 

「おやおや……、これじゃどっちが子供かわかりゃしないよ」

 

まるで再会を喜ぶ母娘のような光景に、一瞬羨望の眼差しで見とれるランスロット。

だがすぐに意識を引き戻すと、慌てて騎士の礼を取った。

 

「倫敦より参りました、ランスロットと申します! ライラック伯爵夫人、お噂はかねがね……」

 

円卓の騎士結成当初から、西欧は巴里の戦士達の武勇は耳にしていた。

超古代民族パリシィの怨念を鎮め、更に超古代の邪神をも打ち滅ぼした帝国華撃団の総司令たる大神一郎以下6名からなる霊的組織、巴里華撃団。

そして眼前でエリカから暑苦しいハグを受けているこの女性こそ、巴里華撃団総司令グラン・マことライラック伯爵夫人なのだ。

 

「楽にしとくれ。堅苦しいのは苦手でね。それに、今は火急の用件があるんだ」

 

「火急の……?」

 

「帝都・東京で降魔皇の封印が解かれようとしている。現地へ急行して、帝国華撃団を助けてやっておくれ」

 

「降魔皇の……!?」

 

話に聞いたことがある。

10年前、当時の三都華撃団と光の巨人がその身を犠牲に封じ込めた諸悪の権化。

その封印が、破られようというのか。

 

「そのための足なら用意してるさ。ただし……、腰抜かすんじゃないよ?」

 

そう言ってこちらを煙に巻き、グラン・マは意地悪そうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔幻空間に取り込まれた華撃団大戦競技場。

その広大なエリアでクラリスは、獏率いる無数の傀儡騎兵の大群相手に孤軍奮闘を続けていた。

本来クラリスの無限は霊力弾による中距離・遠距離からの援護攻撃を目的に設計されており、最前線に立って打ち合うタイプのものではない。

そのため敵の接近を許すような戦力差の状況に孤立することは、ある種自殺行為と呼ばれても仕方のない状況である。

しかし先の伯林との対戦をヒントに、クラリスは大胆な作戦を講じていた。

 

「はああああっ!!」

 

ありったけの霊力を練りこんだ無数の霊力弾を周囲に展開し、暴風の如く敵陣目掛けて突進を仕掛ける。

小柄な傀儡騎兵はそれこそ暴風に煽られて紙くずのように吹き飛び、大型の降魔兵器たちは至近距離からの霊力弾の直撃に耐えられず次々と爆散していく。

標的となることで危険が生じるなら、いっそ自身が武器となって絶えず動き回ればよい。

結果それは功を奏し、既に会場を埋め尽くさんほどの傀儡騎兵の大群はそのほとんどが鉄くずへと変わり、獏の周囲を守る数体までその数を減らしていた。

 

「ハッタリだと思っていましたが、中々やるではありませんか。さすがは人間兵器と呼ばれるスノーフレイクの重魔導ですね」

 

「悠長に笑っていられるのもここまでです! 貴方こそ覚悟しなさい!」

 

「その割には、随分息が上がっているみたいですねぇ……?」

 

やはり誤魔化せないか。

あの十個大隊を裕に超える傀儡騎兵を相手にしてきたのだ。

これで霊力が枯渇しないほうが不思議である。

 

「ここは妖力に支配された我等が降魔のテリトリー。そこに高々一人の人間を放り出すことが何を意味するか、子供でも分かるでしょうに」

 

「何が言いたいのですか?」

 

「捨て駒だと言ってるんですよ。所詮死地を脱することさえ出来れば、彼らは貴女の安否などどうでも良い。そうでなければこの戦力差で置き去りになどしないでしょう?」

 

勝ち誇った様子で獏が嗤う。

確かに普通に考えればそうだろう。

さくらの救出と幻都再封印の為に部下を切り捨てた。

傍から見ればそうとしか見えないかもしれない。

だが、クラリスにはそれを否定する絶対不変の根拠があった。

 

「いいえ。私は捨て駒になんてなりません。貴女を倒し、生きてみんなと帝都へ帰ります。そう約束しましたから」

 

「この期に及んで認めないとは見苦しいですね。既に満身創痍の貴女如き、その気になれば一瞬で屠れるというのに」

 

「ですが獏さん。あなたの言う捨て駒という言葉……、貴方こそそうなんじゃないですか?」

 

「……何?」

 

クラリスからの反論に、初めて獏の顔から余裕の笑みが消えた。

構わず、クラリスは追い討ちをかける。

 

「私達がこうして乗り込んでくることを想定して、しかもその奥に何人も幹部が控えているのなら、貴方は最初から私達を全滅させられるとは期待されていない。つまりやられる前提なのはあなたの方じゃないですか?」

 

過去相対したときから、クラリスは目の前の降魔に対し精神的な不安定さを感じていた。

普段は丁寧な口調で尊大に振舞うが、それは自身が優勢、安全圏にいる事を保障されているから。

一度その優勢が崩れれば、たちまち別人のように凶暴化し、なりふり構わず排除に動く。

そんな未成熟の子供のような不安定な精神ならば、揺さぶりを懸ければ激高し隙が生まれると、クラリスは読んでいた。

 

「……良いでしょう」

 

果たして、その狙いは的中していた。

 

「ならば私自らの手でその希望、首毎切り落としてくれる!!」

 

予想通り夢惨は部下を置いてけぼりに、こちら目掛けて突進してきた。

 

「グラース・ド・ディアブル……!!」

 

瓦礫を死角にして忍ばせるように構えた魔導書に霊力を練りこむ。

この一撃で仕留める。

 

「死ねえええぇぇぇっ!!」

 

「アルビトル・ダンフェール!!」

 

地獄へ導く仲裁人。

殺意に満ちた鎌が振るわれる直前、眼前に迫った死神目掛け、渾身の霊力弾を直撃させた。

 

「……え?」

 

はずだった。

 

「残念でしたねぇ。最大のチャンスだったというのに」

 

煙幕の先に見えたのは、傀儡騎兵の残骸を手に凄絶に笑う獏。

そして無傷同然の夢惨の姿だった。

しまった。

頭に血が上って突撃してきたと思っていたのに。

直前でこんな機転を利かせてくるとは。

 

「この私を翻弄しようとは、人間風情が舐めてくれるじゃありませんか!」

 

「くっ……!!」

 

反射的に距離を取ろうと飛び退るも、その前に眼前に鎌が突きつけられる。

既に周囲も傀儡騎兵に取り囲まれたこの状況。

今度はこちらが追い詰められてしまった。

 

「地獄に落ちるのは、貴様の方だ!!」

 

逃れようのない殺意が、無限諸共その首を撥ねる。

はずだった。

 

「ぐあっ!? な、何だ!?」

 

突如放たれた弾丸が、鎌の起動を僅かに反らす。

直後、大きな影が横から死神にぶつかってきた。

 

「よっ、無事かクラリス!」

 

「ポ、ポール君!?」

 

自身を守るように立ちはだかる赤のアイゼンイェーガーに、クラリスは思わず目を見開いた。

更にポールの左右に、2機の色違いの狩人が降り立つ。

 

「Lob, seine Herrlichkeit(讃えよ、その栄光)」

 

「Lob, dieser Sieg(讃えよ、その勝利)」

 

「Wir, heilige Wunder(我ら、神聖なる奇跡)!!」

 

「「伯林華撃団、参上!!」」

 

ドイツは伯林より立ち上がった、連盟所属最強の華撃団。

3機の狩人が、死神を前に対峙していた。

 

「おやおや、誰かと思えば人形のなりそこない達ではありませんか。もう華撃団連盟ごっこは終わりですよ」

 

相対する獏は汚いものを見るように侮蔑の言葉を吐きかける。

対してエリスはその侮蔑を鼻で笑い返した。

 

「フン、我々人間を甘く見るなよ?最初から連盟が、プレジデントがきな臭い動きを見せていたことなど分かりきっていた」

 

「そもそもこの華撃団大戦だって、Gの独断で急遽開催を決めたもの。競技場の座標とアーカイブを参照すれば、降魔大戦の跡地。疑わない方がおかしい」

 

「大方俺らをダシに降魔皇復活でも狙ってんのかと思ってたら、とことん予想通りだったぜ!!」

 

「戯言を……、目論見が読めていたからなんだというのです! アイスドールの潜入も読めなかった貴方方ごときに……!!」

 

「ああ、その事か」

 

買い言葉とばかりに当てこする獏に、エリスは予想外にあっけらかんとした様子で答えた。

いや、この様子は明らかに元から知っていたという顔だ。

待てよ。

ということはもしかして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかとは思うが貴様ら、アイツが本気でスパイに従事していたと思っていたのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が起きたのか、一瞬信じられなかった。

眼前の夜叉との何度目かの打ち合いの折、夜叉が援護を命じたとき、背後に控えた青の銃口が火を噴いた。

凍てつく一撃が、獲物の全身に薄氷が張るほどのダメージを与えたその瞬間、最も驚愕した人物がうめき声を上げた。

 

「……な……何故……!?」

 

無理もない。

誤射するような距離ではないし、増してやそんな兆候など見られない。

この状況で自分が狙われるなど、夢にも思っていなかったはず。

 

「何故裏切った……、アイスドール!!」

 

自由の利かない体で必死に殺意をむき出し、吼える。

返ってきた言葉は、何処までも冷ややかだった。

 

「裏切った? 不思議なことを言うのね。……最初から貴方達に与した覚えなどないということよ」

 

「ア……、アナスタシア……!!」

 

「ごめんなさいねキャプテン。私の真の任務は二重スパイ。各地の華撃団の情報をリークするふりをして、降魔側の情報を探っていたの」

 

「じゃあ、さくらは……」

 

「ええ、一番近くで守るためよ。こうして貴方達が突入を仕掛けることはわかっていたもの。それまでは、私が時間を稼いでおかなくちゃ、ね」

 

そう笑ってみせる彼女は、今まで苦楽を共にした仲間の顔をしていた。

降魔の手先として送り込まれていたアナスタシアは、恐らく帝国華撃団に来る以前にその素性を明かし、逆に各国の華撃団のアシストに動いていたのだ。

ひと時でも裏切り者の汚名を着たのは、敵すらも欺いてさくらを守るため。

ともすれば月組以上に危険な任務に長年従事し、味方すらも欺くその手腕に、神山は内心舌を巻いた。

 

「やっぱり……、俺達の為に動いてくれていたんだな、アナスタシア!」

 

「流石トップスタァだよなぁ! 演技上手すぎなんだよ、騙されちまったじゃねぇか!!」

 

信じていたとはいえ、ようやく見せたその優しい微笑みに、神山も初穂も喜びを隠せない。

対する夜叉は、明らかに殺意を漲らせた双眸で、裏切り者を睨んだ。

 

「人間風情が……! 家族の下へ行かせてやろうとしていたのに……!!」

 

「そうだったわね。でもそれ、もういいわ」

 

言いつつアナスタシアは、神山を庇うように間に立ち、改めて神滅に向き直る。

 

「私にはもう幾つもの居場所がある。家族と呼べるほどの仲間がいる。それを捨ててまで叶えて貰おうなんて思わないもの。それに……、最初から約束を守るつもりなんてなかったんでしょ?」

 

見透かしたようなアナスタシアの言葉に、神山は納得する。

確かに亡くした家族の命を生き返らせるというのは、人智を超えた降魔の力なら可能かもしれない。

しかしそれをしたところで降魔側にはメリットはないし、そこでアナスタシアに掌を返されるとも限らない。

そして相手を裏切り陥れることを何とも思わない連中だ。

大方用済みになったら始末する算段でいたのだろう。

 

「キャプテン、これより通常任務に戻らせていただくわ。奴は私が始末するから、さくらの下へ急いで頂戴」

 

「アナスタシア……、ありがとう!!」

 

帰参してくれた喜びを噛み締め、観覧席へ疾駆する神山。

と、アナスタシアは隣に並び立つ無限に気づいた。

 

「あら、貴女は行かなくて良いの?」

 

「せっかくのムードを邪魔するほど、初穂ちゃんは無粋じゃねぇよ。それにアイツには、神社壊された恨みとさくらを散々いじめられた恨みがあるからな」

 

燃え盛る大槌を手にしめしめと指を鳴らす初穂。

そのどちらが悪者か分からない様子に、アナスタシアは思わず噴出した。

 

「丁度良いわ。私も色々鬱憤が溜まってたから、発散させてもらおうかしら」

 

「そういうこった。覚悟しろよニセ真宮寺!!」

 

いつになく闘争本能を前面に押し出す2色の霊子戦闘機。

対する神滅も力任せに薄氷の拘束を破壊すると、殺気をむき出しに吼えた。

 

「このあたしをここまで愚弄するとは……、楽には殺さないわ虫けら共!!」

 

全身から邪気を滾らせ迫り来る夜叉。

それに合わせ2機の霊子戦闘機も、同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつで塵になっちまいな!!」

 

荒吐から放たれた分身が、巨大な握り拳となって迫る。

なるほど、妖力で練り上げた爆弾と言う事か。

 

「甘い!」

 

だがこの程度の攻撃への対処法などいくらでも知っている。

あざみはすかさずクナイを放ち、印を結んだ。

 

「風遁・旋風結界の術!!」

 

果たして起爆した炎が舞い上がる寸前、クナイに結ばれた霊力札から解放された爆風が球状に火炎を包み込み、たちまち鎮火させてしまった。

 

「土遁・土流壁の術!!」

 

お返しとばかりに、黄色の無限が霊力を帯びた両手を勢い良く地面に叩き付けた。

衝撃でひび割れた地面が一気に砕け、土石流となって襲い掛かる。

 

「ハハハハハ、何処狙ってんだバーカ!!」

 

「くっ……!!」

 

だがそれは朧の幻だった。

恐らく幻術の類で自身の実態をどこかに隠しているのだろう。

居場所を探ろうにも分身に妖力を分け与えている状態では判別がつかない。

その間にも朧は続けざまに仕掛ける。

 

「だったらコイツはかわせるか!?」

 

途端に周囲を無数の荒吐の幻影が取り囲む。

以前ミカサ記念公園で初穂たちを襲った戦法か。

ならば、

 

「無双手裏剣・影分身!!」

 

頭上に放った手裏剣を、一気に分身させて幻影を纏めて切り刻む。

だがこれこそが朧の狙った瞬間だった。

 

「引っかかったなクソガキ! 隙ありだ!!」

 

「……、しまった!?」

 

突如真下の地面から突き上げる衝撃が襲い掛かった。

手裏剣の届かない地中に身を潜めていたのか。

これでは足元は死角になってしまう。

 

「くうっ!!」

 

回避の間もなく強烈な一撃が襲い掛かった。

反射的に手甲を盾代わりに防いだが、黄色の無限はボールのように吹き飛ばされた。

あざみの身のこなしを最大限発揮するために軽量設計にしていたのだが、それがこんな形で仇になろうとは。

 

「ヒヒヒ……、中々良い音がしたなぁ。こりゃ結構致命傷なんじゃねぇか?」

 

「く、くそっ……!!」

 

完全にしてやられた。

急所への直撃こそ避けたが、衝撃で攻撃の起点である手甲は破壊され、最早印を結ぶのも難しい。

反射的に右手でクナイを放つも、荒吐はあっさりと霞がかったように消えうせてしまった。

 

「ハハハ、無駄無駄ぁ! さっきの威勢はどうした、あざみちゃんよぉ!!」

 

こちらの焦燥を見抜き煽り立てる朧。

反撃を仕掛けようにも印を殺されたこの状態では……、

 

「おーおー可哀想に。だったら優しい朧さまが、一思いに殺してやるよぉ!!」

 

大声と共に強烈な殺気が迫る。

その時だった。

 

「右です!!」

 

「え?」

 

「早く!!」

 

言われるままに右にクナイを一閃させる。

瞬間、驚くべきことが起こった。

何もなかったすぐ右隣に、荒吐が迫っていた。

間一髪クナイで弾いたことで勢いが殺され、大きく跳んで距離を取る。

 

「バ、バカな……! 何故俺の位置が分かった……!!」

 

あざみ同様に朧も状況が分からず困惑する。

それに応えたのは、真上からの声だった。

 

「それは僕、開発した『かくれんぼくん』のおかげ、です!!」

 

「お、お前らは……!!」

 

言い終わらぬうちに3つの影が間に立つように舞い降りる。

色違いの龍を模した霊子戦闘機。

義憤に燃える正義の龍を、望月あざみは知っていた。

 

「千辛万苦,一百万泪!!(千の苦難と万の涙を超えて!!)」

 

 

 

「约定吧,带我去彩虹的另一边!!(約束しよう、虹の彼方へ連れて行くと!!)」

 

 

 

「以我们的五神为荣,为邪恶报仇!!(我ら五神龍の誇りにかけ、悪を討つ!!)」

 

 

 

「「「上海華撃団、参上!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去3度相対し、その都度変異降魔獣を差し向けてきた上級降魔・陰火。

全身が炎と化した不気味な男が操る傀儡騎兵『凶炎』は、こちらの常識を真っ向から覆す能力で襲ってきた。

 

「はあああっ!!」

 

霊力を纏った斬撃を繰り出す。

しかし四肢を炎に包んだ機械はまるで操り人形のように全身のパーツを切り離してそれを回避すると、何事もなかったかのように元に戻る。

まるで燃える軟体を相手にしているかのようだ。

これではいくら攻撃を加えてもキリがない。

 

「無駄なことだ。斬撃とは形を持つものを切断する力。形すらなき私に傷を負わせることなど不可能」

 

「くっ、それなら……!!」

 

一縷の望みを賭け、ミライは霊力剣の出力を一気に上げる。

斬撃が通じないなら極限まで圧縮した霊力を広範囲に放つしかない。

これを逃せば、勝機は……、

 

「希望の未来に、描くは無限の可能性! ホープ・ザ・インフィニティーッ!!」

 

∞の文字を描いた光の斬撃が、前方に一斉放射される。

斬撃が効かないなら広範囲を纏めて攻撃するほかない。

起死回生を懸けた一撃の先に見えたのは……、

 

「無駄だと言ったはずだ」

 

何事もなかったかのように地獄の炎が燃え盛る、最悪の光景だった。

 

「この城内は我ら降魔の養分となる高濃度の妖力が無尽蔵に充満している。幻都に繋がる空間ある限り、私は不死身なのだ」

 

全身に焔を漲らせ、勝ち誇る陰火。

だがその時、思いもよらない救援が駆けつけた。

 

「うわっ!?」

 

風を切るような音と共に、巨大なカプセルのような何かが壁を砕き、間を遮るように突っ込んできた。

 

「何者だ!?」

 

突然の乱入に、陰火も余裕を殺して警戒を強める。

返ってきたのは、予想外の人物の言葉だった。

 

「何者か……、そうね。無数の業を背負った没落騎士って所かしら?」

 

「あ、あなたは……!!」

 

カプセルの中から現れた姿に、今度はミライが驚く番だった。

先日の事件で解散が言い渡され、一足先に帰国していたはずの漆黒の鎧が、そこにいた。

 

「我が名は黒騎士ランスロット!! 恩ある帝都に報いるため、馳せ参じた!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは悪夢だ。

そう思うことが自身の唯一の自己防衛の手段であり、目の前の地獄から逃れる唯一無二の手段だった。

 

「おらあああっ!!」

 

かつての記憶など、おぼろげにしか覚えていない。

誰も彼も自分を化け物と罵り、ゴミのように捨て去った。

 

「2時方向、次に9時方向」

 

只人並みに扱って欲しい。

周りと同じように受け入れて欲しい。

願い続けていたのは、それだけだった。

 

「遅いな、それに隙だらけだ」

 

悲鳴と激痛に塗れた記憶。

いつしか人だったはずのその体は、継ぎ接ぎだらけの異形へと変貌していた。

嬉々として自分をいじり続けていた奴らは肉塊に変わり、見知らぬ男が目の前に立ってこう言った。

 

『今日からお前は生まれ変わる。名を名乗れ。お前が最も誇れる名を』

 

歓喜した。

自身を蔑み、ないがしろにした奴らを、思う存分甚振りつくして殺していくんだ。

醒めることのない永遠の悪夢の中に閉じ込めて、とことん苦しめて殺してやるんだ。

その瞬間から、自身の新たな名は決まった。

夢を食べ、自由に夢を操る獣の名を、自身に与えた。

 

「機体損傷率78%。被弾危険率3%未満。攻撃対象からも外せるわ」

 

「ぐっ……、うう……!!」

 

だからこそ、眼前に相対する敵は理解の範疇を超えていた。

こちらの攻撃の一切が通じない。

精神的な揺さぶりもまるで動じる気配すらない。

オマケに傀儡騎兵を利用して不意打ちを仕掛けても、まるで背中に目があるかのように反撃してくる。

まるで、悪夢を見ているかのように。

 

「ふざけるな……、この私が……、降魔となったこの私が……、高が人形如きに……!!」

 

得体の知れない相手への不安。

全身を駆け巡る悪寒。

激しい動悸。

それがこれまで無数の人間に与え続けてきた恐怖だと気づくのに、時間はかからなかった。

 

「認めん……、認めんぞ伯林華撃団……!! 上級降魔たる私が貴様ら如きに恐怖するなど……認められるかあああぁぁぁっ!!」

 

最早理性などかなぐり捨てていた。

ただ目の前の恐怖を振り払うために。

自身が恐怖しているなどと気取られないように。

殺す。

一人残らず殺す。

怖い奴らは一人残らず殺してやる。

 

「貴様ら一人残らず……!!」

 

「ポール」

 

「Verstanden」

 

「死ねえええぇぇぇ……!!」

 

進み出た赤の狩人に狙いを定め、目一杯に鎌を振り上げる。

そして渾身の力で振り下ろし、

 

「Das ist das Ende」

 

瞬間、一発の銃声と共に死神の首が吹き飛ぶ。

最後まで降魔であろうとしがみつき続けた名もなき獣の悪夢が、終わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理解が追いつかない。

ここまでペースが掴めないのは初めてだ。

 

「……へへっ、どういうこったこいつぁ……!!」

 

目の前の忍者の小娘と戦闘を開始して間もなく、豪快に戦艦を叩き付けて乗り込んできた邪魔者がいた。

元連盟所属の霊的組織、上海華撃団だ。

知る限りでは隊長のヤン=シャオロン以下脳筋揃いの単細胞だったはず。

ならばと幻術で姿をくらませて不意打ちを懸けようとしたところにそれは起こった。

 

「見たか! これが『かくれんぼくん』の力、です!!」

 

チビが突然珍妙なガラクタを取り出したかと思うと、それまでこちらを見つけられず右往左往していた奴らが一斉にこちらに気づいて集中砲火をかけてきた。

持ちうる幻術の粋を駆使して搦め手を仕掛けても、全く以って動じない。

こうなっては最早こちらがピエロだった。

 

「そこっ!!」

 

忍者の放った数本のクナイが荒吐の四肢を壁に縫い付ける。

これでもう幻術を使うどころか身動きさえ取れない。

 

「……へっ……」

 

ふと、笑みが漏れる。

不思議なものだ。

いつもの自分なら悔しさと恐怖のあまり喚き散らしていたかもしれない。

最後まで自分の負けを認めず、虚勢を張り続けていたかもしれない。

しかし何故だろう。

ここまで手も足も出ないと分かると、妙に清清しい気分になってしまうというのは。

 

いや、違う。

 

本当はあの時から、疑問を抱き続けていたのかもしれない。

自分はいつから暴虐を楽しんでいたのだろう。

いつから人間を貶め、辱める事を楽しいと考えるようになったのだろう。

四六時中ずっと虫唾が走って仕方なかったのに。

むしろあの人の皮を捨てた悪魔を甚振り殺したときの方がずっと心が晴れたというのに。

だからこそ、思う。

 

「……結局、俺はなりきれなかったんだな。降魔にも……、人間にも……」

 

迫り来る拳を前に、一人呟く。

そうだ、今の俺は上級降魔・朧だ。

人間を見下し人間を苦しめることに無情の快楽を覚える卑劣漢だ。

だから、これが相応しい。

 

「……あばよ……」

 

その灼熱の龍が全身を焼き尽くす寸前に呟いた最後の言葉。

それが誰に向けられたものなのか、知る者は、いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その焔は、自身の象徴だった。

全ては自身を陥れたあの男への復讐の為に。

引いては陰謀に巻き込まれ非業の死を遂げた家族の為に。

自身にとって彼らもまた、復讐の炎に薪をくべる愚物に過ぎないのだ。

 

「ぐふっ……、これは……まさか……!!」

 

故に今、自身のおかれた現状を理解することが出来なかった。

一時は優勢と思われた無限との戦闘。

しかし壁をぶち破るように飛び込んできた弾丸から現れた謎の女が現れたことで、状況は一変した。

いや、その名前は聞き覚えがある。

黒騎士ランスロット。

同胞の拭え無き罪を背負い、数多の同属を切り伏せてきた女。

解散と身柄拘束という名目で帝都から追い払ったはずのこの女が、まさかこのタイミングで現れるとは思っていなかった。

そしてもう一つ、不運だったことがある。

 

「何だ、その力は……、瘴気が……妖力が薄れていく……!!」

 

一つだけ思い当たる節があった。

倫敦にはたった一つ、古の戦いで用いられた超古代遺物があった。

あの倫敦の腐敗騎士共が無数の現地民を用いた実験に使われた『聖杯』。

戦闘の後、獏は破棄したと言っていたが、まさか……、

 

「何故だ……、何故貴様が聖杯を持っている……!?」

 

「……コイツのこと?」

 

言うや右の剣を地面に突き立て、黒騎士が胸部の装甲を外してみせる。

そこには黄金に光り輝く杯が、神々しい光を放っていた。

数多の地と怨念に塗れていた事が、嘘であるかのように。

 

「シスター・エリカとその娘の力よ。超古代民族パリシィの祈りの力が呼応して、お前達の妖力に相反する力を齎したの!!」

 

自分達降魔の妖力と、人間共の霊力は常に相反する存在。

そして聖杯はそのどちらでもなく、双方どちらかの力を蓄積できる力を持っていた。

かつて巴里華撃団の一員として戦場に立っていたエリカと娘のツバサがパリシィの遺伝子に起因する霊力を送り込んだことで、降魔に対して特効薬とも言うべき力を得たのだ。

そしてそれは、この皇の妖力に支配されたはずの空間でも例外ではなかった。

 

「くっ……、まさかこんな形で……!!」

 

妖力を集中して火炎を放つ。

だがその力は明らかに弱まり、黒騎士の霊力を纏った斬撃であっさり消滅した。

勝てない。

まさか、こんな事が……、

 

「一気にやるよ、ミライ!!」

 

「はい!!」

 

これを好機と見た2体の霊子戦闘機がそれぞれの獲物に霊力を集中する。

先程のそれとは比較にならない輝きを放つ霊力を前に、反射的にこちらも妖力を練りこんだ。

 

「聖なる泉に零れし清らかなる雫よ。今この刃に集い、敵を滅せよ!!」

 

「希望の未来に、描くは無限の可能性!!」

 

地を蹴り跳躍した漆黒が双剣を頭上に掲げ、隣の霊剣には黄金の刃が輝きを与える。

勝てない。

死力を尽くして練りこんだありったけの妖力が、遠く及ばない。

 

「パニッシャー・アロンダイトオオオォォォッ!!」

 

「ホープ・ザ・インフィニティイイイィィィッ!!」

 

「ぐ……ぐおおおぉぉぉっ!!」

 

目が眩まんばかりの閃光と共に放たれた霊力の一撃。

それでもせめてもの抵抗として、真正面から迎え撃つ。

数秒の拮抗、そして……、

 

「例え……、例え我が身が消えようと……、怨みは……滅びぬうううぅぅぅ……!!」

 

最後の叫び諸共、燃え盛る全ては閃光の中に包まれ、消えうせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしい。

戦い始めて間もなく、違和感に気づいた。

自身に与えられた傀儡騎兵『神滅』は、かつて降魔を率いた事のある悪魔皇サタンの化身、山崎信ノ介が操ったとされる魔躁騎兵をアンシャール鋼で再強化させたもの。

当時最新鋭だった神武と呼ばれる霊子甲冑相手に善戦できるスペックを持つこの機体は、他の3体とは比較にならない強化を施されていた。

とりわけあの桜武という霊子戦闘機に土をつけられてから、あの御方直々に幻装『武御雷』を装甲に施されたのだ。

これにより奴らの攻撃など蚊が刺したようなものでしかない。

はずだった。

 

「おりゃああああっ!!」

 

あの大槌の一撃が、とてつもなく重い。

装甲こそ破られないまでも、妖力を練りこんで高めた防御力が一撃ごとに皮を剥ぐかのようにみるみる剥ぎ取られていく。

 

「余所見をしてる暇はないんじゃないの?」

 

そうして距離を取ろうと離れれば、裏切り者の弾丸が容赦なく襲い来る。

どこかで神滅の改修を見ていたのか。

そうでなければここまで的確に装甲のつなぎ目を狙えるはずがない。

降魔皇復活の暁には、用済みとして醜く殺してやるはずだったのに、その人形に自分がまるで玩具のように弄ばれている。

東雲神社ではあの桜武が来るまで敵なしだったはずの自分が、高々二人の人間に劣勢に立たされている。

何故だ。

いつの間に力の差が逆転した。

 

「フフ……、何故追い詰められてるのか不思議そうね」

 

何度目かの大槌の攻撃を耐え凌いだとき、ふと裏切り者が呟いた。

 

「教えてあげましょうか。初穂はあの神社の戦いの時、貴女が敗走した跡で御魂神様に認められ、その神力を授かった。妖力を媒介とするあなたの幻装は無意味という訳」

 

「神力……?バカな、報告にはそんな事一言も……」

 

「知るわけ無いでしょうね。わざと言わなかったんだもの」

 

謀られた。

今回の作戦において各上級降魔が分散して迎撃に出たのは、各華撃団の戦力は各々の傀儡騎兵に及ばないという報告を基にしていたからだ。

死んだ家族を生き返らせる。

人智を超えた降魔だからこそ騙れる甘言を盾に、決して逆らうことのない手駒だと思っていた人間風情が、こんな形で反旗を翻して来ようとは。

 

「ありえない……。このあたしが……、花組最強の、真宮寺さくらの遺伝子を持つあたしが……!!」

 

「それこそがあなたの敗因よ、夜叉。私達人間は一人ひとりが弱くとも、互いに支えあい、助け合いながら強くなれる。貴方達のように他者を見下し、利用するしか考えない者には出来ない事よ」

 

「知ってるか夜叉。アタシらのこの繋がりをな、『絆』って呼ぶんだぜ」

 

瞬間、全身の血液がマグマのように煮えたぎる。

人間風情が、あのお方の寵愛を一身に受ける自身に、上級降魔の頂点たる自身に、哀れみを向けている。

ありえない。

自分は最強の降魔だ。

こんな人間如きに、増してや人形如きに劣っているはずがない。

 

「黙りなさい……、この、虫けら共があああぁぁぁっ!!」

 

残された妖力のすべてを練りこみ、魔刀に注ぎ込む。

その溢れ出る邪念は刀身を漆黒に染め上げ、瘴気が蠢く。

 

「受けてみよ……真宮寺最強の剣技!!」

 

「初穂」

 

「あいよ!!」

 

正眼に剣を構える神滅を前に互いに目配せする。

瞬間、赤の無限が駆け出した。

気づいた夜叉も、無限に狙いを定める。

 

「運命を閉ざす、蒼き流星……!!」

 

しかしもしここでその奥で照準を定める青の狩人に気づいていれば、勝負はまだ分からなかったかもしれない。

 

「破邪剣征……、百花繚乱!!」

 

「アポリト・ミデン!!」

 

漆黒の桜吹雪に、凍てつく弾丸が真正面から直撃する。

瞬間、万物を飲み込む瘴気の波動は諸共氷柱に飲み込まれてしまった。

 

「そ……、そんな……、あたしの奥義……破邪剣征が……!!」

 

眼前で起きた事実が信じられず、呆然とする夜叉。

だが直後、背後からの声に凍りついた。

 

「おいたの過ぎる悪い子にゃあ、キツイおしおきが必要だな!!」

 

「し、しまっ……!!」

 

慌てて防御体制をとるが、相手はゼロ距離。

逃げられない。

 

「悪い奴には神罰覿面! 東雲神社の、御神楽ハンマアアアァァァーーーッ!!」

 

灼熱を通り越してビッグバンと思わせるような超高温の一撃が、容赦なく神滅の装甲に力任せに叩きつけられた。

帝都はおろか日本列島に走る地脈から授かった神力の一撃。

付け焼刃の幻装など、最早何の役にも立たなかった。

 

「いや……、あたしは……、あたしは……、降魔皇様あああぁぁぁ……!!」

 

その断末魔は、志半ばで塵行く無念か。

幾たびも帝都を脅かした妖花夜叉の、散華の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神山は一人、最上階へと続く階段を上っていた。

時折現れた傀儡騎兵を切り伏せながら、ひたすらに駆け上がっていく。

その先にさくらがいる。共に平和を取り戻すと約した少女がいる。

 

「さくらっ!!」

 

上りきった先の扉を叩き切り、叫ぶ。

果たしてその先に、水晶のような拘束具に捕えられたさくらがいた。

無限の太刀では大きすぎて加減が効かない。

神山は一瞬思案しながらも、帝鍵の刀身を手に無限を降りて駆け寄った。

 

「さくら! しっかりしろ、さくら!!」

 

安否を確かめるために肩に手を置いて呼びかける。

すると程なく、閉じられた瞼が僅かに開いた。

 

「……神……山……さん……?」

 

「大丈夫ださくら。今助けてやるぞ」

 

僅かながらも意識を取り戻したさくらに安堵し、拘束を外そうとする神山。

しかし金属製と思われるそれは溶接しているかのようにさくらの手足を飲み込んでおり、とてもではないが人力では外れる気配がない。

みんなが囮代わりに時間を稼いでくれているとはいえ、このままではいつ敵がここへ戻ってくるか分からない。

少しずつ焦燥に囚われる神山に通信が入ったのは、その時だった。

 

『誠ボン、聞こえるか?』

 

「鉄幹さん!」

 

それは意外にも、さくらの父、天宮鉄幹だった。

 

『誠ボン、さくらは……』

 

「安心してください鉄幹さん。さくらは発見しました。目立った外傷もなく、意識もあります!」

 

『……そうか……』

 

「……鉄幹さん?」

 

娘の安否を気にしていたのだろう。

元気付けるように報告する神山の予想に反し、返ってきた返事は歯切れの悪いものだった。

 

『誠ボン……、帝鍵の刀身は……?』

 

「はい! こちらも手元にあります! あとはさくらの力で絶界を……」

 

『そうだ。……さくら』

 

「……はい……」

 

ここで、神山が感じたのは、僅かな違和感だった。

当初の予定通り、帝鍵の刀身を持ってさくらと合流し、絶界の力で幻都を再封印し、降魔皇復活を阻止する。

仲間達の決死の援護もあり、事実こうしてさくらの下に辿り着くことはできた。

しかし何故だ。

何故さくらの表情は、僅かも晴れない。

安心した様子はなく、明らかに重い顔で俯いている。

 

『神山君、天宮さんの容態は大丈夫なの?』

 

通信が切り替わり、聞こえてきたのは総司令の声だった。

 

「司令、さくらは意識はありますが、敵の拘束で手足の自由を奪われています! 今拘束を外そうとしておりますが……」

 

『構わん、誠ボン。その状態でも、帝鍵の覚醒は可能だ』

 

「ほ、本当ですか!?」

 

再び割り込んできた鉄幹の言葉に、神山も驚く。

霊力は通常持つものの手を媒介に神器に注がれるもの。

手足を閉ざされたままそれを可能にするのも、天宮の血筋の特徴なのだろうか。

いや、だとしても何故さくらは思いつめた顔をしているのだ。

まさか帝鍵の覚醒には、大きな負担がかかるのか。

 

『良く聞け、誠ボン。帝鍵の力を完全に覚醒させるには、天宮の血を引く者にあることをしなければならない』

 

「……それは?」

 

只ならぬ緊張と共に尋ねる。

そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その刀身で、天宮の心臓を貫くことだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……、……え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、作戦司令室の空気は時を止めたかのように凍りついた。

 

「……何……だと……?」

 

「……心……臓……?」

 

状況確認に追われていた司馬もカオルも、言葉を失う。

 

「……は……、はは……。冗談キツイて……、心臓やら……、刺したら……お陀仏やんけ……」

 

隣にいるこまちは、上ずった声でうわ言の様に戸惑う。

 

「……どういう事ですの……?」

 

ここで初めて、すみれが口を開いた。

必死に平静を装うも、その体は何かに震えている。

 

「天宮の絶界の力は、代々その女系に受け継がれる。誠ボンの刀身でさくらの心臓を貫き、霊力を纏わせたとき、その刀が新たな神器となる」

 

「まさか……、では天宮國定は……!!」

 

ケガの痛みも忘れたように、銀河が立ち上がり問いただす。

その目は他のものと同様驚嘆に見開かれ、全身をワナワナと震わせている。

 

「そうだ。天宮國定は妻、ひなたの心臓を貫き覚醒した神器だ。神器を受け継ぐには、さくらを……」

 

「……自分が何を言っているか分かっておりますの?」

 

「こんな事は……私の未来でも知りえなかった事だぞ……!!」

 

瞬間、すみれはハッとした様子で口元を手で隠す。

 

「まさか……、あの時大尉が詫びていたのは……」

 

10年前の降魔大戦勃発後。

大日本帝国軍部と賢人機関が、帝国華撃団総司令に一つの手紙を出した。

その中で紹介されたのが、天宮。

代々神器と共に帝都の守護に一助を続けてきた一族だ。

彼らの持つ神器『帝鍵』と絶界の力を用いた降魔皇封印の案が提示された。

だが、時の総司令『大神一郎』は、その提案を断固として拒否した。

詳細は不明だが、その怒り様から察するに今なら理由が分かる。

だがその押し問答が何度か繰り返されたある時、予想だにしない出来事が起こった。

天宮の一族が暮らすという寺島町が、降魔の大群による奇襲を受けたのだ。

度重なる緊急出動の折の事態に、向かう事が出来たのは真宮寺さくら只一人。

奮戦も虚しく一人の女性が、その戦火の中に命を落とした。

その女性こそ天宮鉄幹の妻にしてさくらの母、『天宮ひなた』である。

 

「大神司令は我々家族の心情を鑑み、他者に犠牲を強いる作戦は行わないと固辞してくれていた。だが、それが何らかの形で降魔に漏れ、裏を突かれた」

 

不思議に思っていた。

あれほど帝鍵を用いた作戦を拒否していた大神が、寺島街での事件後にそれを承諾して最終作戦に踏み切った事が。

そしてその前後で、ひなたの墓前に深く頭を下げて涙ながらに詫びる大神の姿を、すみれは覚えていた。

何年もの付き合いの中で、あの如何なる逆境においても仲間を鼓舞し、全員絶対生還を貫徹させ続けた大神が人目も憚らず涙するというのは、後にも先にもあの時だけだ。

だが今ならその理由が手に取るように分かる。

大神は帝鍵を用いた作戦にひなたの命を犠牲にする必要があると聞かされ、拒否していたのだ。

それが後に寺島町が襲撃される遠因となり、ひなたは恐らく今際の際に帝鍵覚醒を託した。

例え故人の本望であろうと、他者への犠牲を断固として許せなかったのが大神一郎という人間だ。

結果として守るべき帝都民を死なせてしまった自責だけではなく、人の命の上に立つ作戦を実行せざるを得なかったその心情は、察するに余りある。

天宮國定は、そうした悲劇の末に生み出された神器だったのだ。

 

「何故10年も隠していた……!! 知っていれば……、こんな事はさせなかったぞ!!」

 

銀河が怒りを露に鉄幹に掴みかかった。

あの様子では、この帝鍵の事実を知らなかったのだろう。

 

「だからこそだ。言えばお前は絶対に止めていただろう。最終手段としておくために、伝えるわけには行かなかった」

 

「最終手段だと……? 自分の娘を捧げることがか? それが全員生還を守りあう帝国華撃団への……娘の幸せを願った奥方への侮辱だと分からんのか!?」

 

「黙れ余所者が!!」

 

ここに来て鉄幹も銀河の胸倉を掴み返し、烈火の如き怒りで叫んだ。

 

「これは我ら天宮の宿命だ!! 既にさくらとて承知の上!! 然るべき時にもし幻都の封印が暴かれたとき、その身を以って天宮の務めを全うせよとな!! 余所者が知った風な口を利くな!!」

 

「貴様に人の心はないのか!? 死線を潜り再会した父にそんな言葉を、死の宣告も同然の言葉をぶつけられた娘の心も分からんのか!? 私は……私はこんな事をさせるために歴史を変えてきたのではない!!」

 

「ならば方法があるのか!? 帝鍵の覚醒なしにあの幻都を封印し、降魔皇の復活を阻止する方法が! 降魔皇が復活すれば、妻は犬死ではないか!!」

 

10年間、共に帝都の平和の道を模索し続けていたはずの盟友同士のすれ違った正義のぶつかり合い。

やがて何かを諦めたように、銀河は乱暴に鉄幹から手を離した。

 

「方法か……。あるとも、一つだけな」

 

「……何?」

 

眉をひそめる鉄幹。

しかし銀河はそれには応えず、司令室を後にする。

 

「騒がせてすまない。必ず、全員を助け出してみせる」

 

「……信じておりますわ」

 

すれ違いざまにすみれに一言、そう告げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中から聞こえる通信先の雑言は、何一つ耳には入ってこなかった。

何と言っていた。

通信先の男は、何と言っていた。

帝鍵の覚醒の為に天宮の女系の心臓を。

それはつまり、さくらの……、

 

「……神山さん」

 

ふと、さくらが口を開いた。

 

「父を、責めないで下さい……。父の言うとおり、これは……天宮の宿命……、私にしか出来ないことなんです……」

 

「……、さくら……」

 

呆然としたままさくらを見る。

何かを受け入れたように、穏やかに微笑む顔が、そこにあった。

 

「……あの日……、母が旅立った日……、真宮寺さんは私に話してくれました。『お母様は最後の力で、神器を託された』と……」

 

その話は、幼い頃に聞いたことがある。

降魔の襲撃に遭い、あわやという所で駆けつけた真宮寺さくらの手によって救われたさくら。

その一件が今日に至る、帝国華撃団への並々ならぬ羨望であることは、良く知っている。

今思えば、それはひなたが僅かな命を懸けて神器を生み出したのではなく、瀕死の自身を犠牲に神器を生み出す決断をしたのだろう。

そうしなければ、娘の命を差し出さなくてはならなくなるから。

 

「やってください……、神山さん……。私は……宿命を受け入れます……」

 

「本気なのか……、さくら……、君は、死ぬつもりなのか……!?」

 

突然の衝撃で、頭がどうにかなりそうだった。

自分はさくらを助けるためにここへ来た。

仲間達の決死の助けで、辿り着いた。

その先に待っていた答えが、さくらへの介錯だった。

彼女の無事を願い続けた、他ならぬ自身の手で。

 

「母の……、先代花組の願い……、今度は、私が……それを繋ぐ番です……」

 

頭では分かっていた。

天宮國定が敵の手に落ち、幻都が姿を現し始めた今、降魔皇の復活を止める手立ては新たな帝鍵の覚醒しかないということを。

そしてそのために天宮の女系の命を捧げなければならないということを。

 

「……」

 

静かに立ち上がると、神山は震える手で帝鍵の器を鞘から抜き放つ。

職人の技術のすべてを捧げて生み出されたその刀身は、まるで芸術品のように曇りなく、かすかな神力を纏い輝きを放つ。

この刃を、目の前の少女の心の臓に突き立てなければならない。

さもなくば……、

 

「神山さん……、最期に……聞いてくれますか……?」

 

言葉が出ない。

無言のまま頷く。

 

「あの日……、帝都中央駅で貴方と再会できると知ったとき……、運命だと思いました……。あの頃の約束を覚えていてくれたこと……、私を支えて行きたいと言ってくれた事……」

 

忘れたことはない。

忘れられるはずがない。

何故なら今の自分があるのは、他ならぬさくらがいたからだ。

 

「とても嬉しかった……。心の底から体が温かくなって……、恐怖や不安がなくなって……、この人のためなら、何も怖くないって……、そう思えた……」

 

「さくら……、俺は……!!」

 

刀を突きの姿勢に構え、見据える。

 

「神山さん……、私は……さくらは……」

 

見上げた先の少女は、笑っていた。

両の瞳に溢れんばかりの涙を溜めて、震える顔で、笑っていた。

 

「好きでした……。貴方が……、誰よりも……貴方が好きでした……。だから……」

 

「……俺は……、俺はっ……!!」

 

「散らせて下さい……。この命……、この想い……、貴方の手で……」

 

そして……、

 

「う……、う……、うおおおおおぉぉぉぉぉぉ……!!」

 

目の前の全てを振り払うように、その刀身を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……、……、……え…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一瞬、何が起きたのかさくらは理解できなかった。

覚悟していたはずだった。

自信の命を以って、降魔の企みは阻止される。

そのはずだった。

 

「……神……山……さん……?」

 

痛みはない。

心臓も動き、五感も働いている。

目の前にはぶつかるように自分に飛び込んできた神山が、

 

「……、さくら……」

 

自分を拘束具ごと抱きしめていた。

帝鍵を、幻都を封じる手段を、窓から虚空へ投げ捨てて。

 

『誠ボン! 一体何を……!!』

 

開け放たれたままの無限から、父と思しき声が聞こえる。

信じられなかった。

誰よりも理知的で、隊員の命が危険に晒されない限り決して取り乱すことのない神山が。

 

「さくら……、俺は認めない……。こんな形で君を失うなんて……、俺は絶対に認めない!!」

 

「で、でも……このままじゃ幻都が……、降魔皇が……」

 

「見くびるな!! そうして取り戻した帝都で……君を失った帝都でみんなが……俺が笑って生きていられると思うのか!?」

 

こんなに自身の感情をむき出しにするなんて。

 

「俺は約束したはずだ! 花組の一員となって帝都を守る君を、隊長として守って見せると!! 一番側で支えて見せると!!」

 

こんなに自分を、求めてくれるなんて。

 

「ひなたさんが命を懸けたのは、帝都のためだけじゃない!! 誰よりもさくら、君を守るためだったはずだ!! 愛する娘に幸せな未来を歩んで欲しいと、そう願っていたんじゃないのか!? こんな形で君が殉じることを望んでないんじゃないのか!?」

 

「か、神山さん……!!」

 

「例えもし違うとしても、俺は絶対に認めない!! 俺は絶対に許さない!! 君を失って得られる勝利も平和も、これっぽっちも欲しくはない!!」

 

神山は、泣いていた。

大粒の涙を流し、激情に身を震わせていた。

瞬間、自身の心の奥底に閉じ込めていた何かが、雪崩の様に押し寄せてくる。

 

「神山さん……、私も……、ない……!」

 

もう止められない。

目の前でその言葉を言われたら。

目の前でその思いをぶつけられたら。

もう、誤魔化すことなどできない。

 

「私も……、私も……まだ死にたくない……!! もっとみんなと一緒に……、あなたと……一緒にいたい……!!」

 

「ああ、そうださくら! それでいい!! それでいいんだ!!」

 

涙を拭うこともせずに笑いかける神山。

10年間すれ違いながらもようやく確かめられた気持ちに、さくらはようやく心から微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だ!?」

 

突然の振動に、二人の意識は現実に引き戻された。

まるで地震のような激しい揺れに、神山は身動きの取れないさくらを庇うように周囲を警戒する。

 

「か、神山さん! 観覧席が、上がっています!!」

 

「何だって!?」

 

先に気づいたさくらの言葉に窓の外を見た神山は、驚愕した。

自分達の居る観覧席の最上階のみが魔城から切り離され、ゆっくりと上昇しているのだ。

しまった。

これでは下層で戦っている仲間達と分断されてしまう。

 

「フハハハハ、中々感動的な見世物であったぞ神山誠十郎!!」

 

「その声は、貴様か幻庵!!」

 

すかさず無限に乗り込み、さくらを背に庇うように周囲を警戒する神山。

すると上昇を止めた部屋の外壁が崩れ落ち、瘴気に満たされた魔幻空間が広がる外界が現れた。

そして……、

 

「よもやこの力を振るうことになるとは思わなかったぞ。我が傀儡騎兵『煉獄』のな!!」

 

相対するのは、これまで相手にしてきた者達と一線を画する巨大な傀儡騎兵であった。

まるで観音像を思わせる煌びやかな色合いでありながら、滲み出る邪念がどす黒いオーラとなってその巨躯を包み込む。

これこそ上級降魔・幻庵葬徹の操る最強の傀儡騎兵『煉獄』である。

 

「時は来た。人類の栄華は終わりを告げ、我ら降魔の世が始まる!! 霊的組織の殲滅を以ってな!!」

 

「そんな事は俺達が許さん! 幻庵葬徹、先代花組に代わって貴様を倒し、俺達が正義を示す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、天川銀河の姿は崩壊した競技場の一角にあった。

自身のオーブに感じる僅かな霊力の反応を確かめながら、一縷の望みを託して探し続ける。

そして、

 

「……あった」

 

気取られぬよう妖力の障壁に包まれた空間の中に、捜し求めていたものはあった。

改めて上空を見る。

地上と切り離されたあの場所に、未来を託す命がある。

崩壊の近い右腕に、最後の力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上から孤立した神山とさくらを強襲した、幻庵葬徹の操る『煉獄』との死闘。

並み居る上級降魔たちを束ねるだけあり、その妖力の大きさは夜叉たちの比較にならない。

阿修羅の如き6本の腕から放たれる妖力の波動が怒涛の如く襲い掛かり、反撃の隙すら伺うことが出来ない。

それだけではない。

依然拘束具に囚われ自由の利かないさくらを守るために、神山は自身を盾に防戦一方を強いられているのだ。

 

「フハハハハ、どうした神山誠十郎。威勢よく吼えていたわりに何も仕掛けてこないではないか」

 

「くっ……!!」

 

絶え間ない妖力の津波を交差させた二刀で凌ぎ続ける神山。

さくらの拘束具を外せられればチャンスはあるかもしれないが、無限の太刀では大振りすぎて生身のさくらに重傷を負わせかねない。

無限を捨てて生身で脱出を試みるとしても、既に地上から100メートルは離されている。

飛び降りればそれこそ一巻の終わりだ。

 

「面白い。ではこれは食い止められるかな?」

 

不敵な笑みと共に、煉獄の手にとてつもない妖力が圧縮されていく。

悪い冗談だ。

まさか今までの攻撃が手加減されていたとでも言うのか。

 

「地の底に眠りし怨念たちよ、今こそ世界を蹂躙せよ!! 破獄乱舞!!」

 

圧縮された超濃度の妖力の波が、容赦なく白銀の無限を飲み込んでいく。

幾度目かの波の直撃に耐えたとき、無限の足が火花を散らして蹲った。

 

「神山さん!?」

 

背後のさくらが身を案じ叫ぶ。

体制を整えようとしても、動作が効かない。

今の攻撃で内部の霊子水晶に損傷が出たのか。

ただでさえさくらを半分人質に取られ、尚且つ仲間達と分断され脱出も援軍も叶わないこの状況。

万事休すとは、正にこのことだ。

 

「ククク……、効くだろう? 幻都に溢れる邪念を糧にした一撃だ。人間一人の霊力を押さえ込むなど造作もないこと。さあ二人仲良くトドメを刺してやろう!!」

 

完全勝利を確信し、掌を突きつける煉獄。

せめてさくらだけでも守ろうと、神山は必死に無限を立たせて庇い立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、幻庵は失念していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今この時、地上の降魔は全滅し、世界で最も異端の存在が機を窺っていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはどうかな?」

 

突然の声に、神山とさくら、そして幻庵は頭上を見る。

そこには、肥大化した腕に一つの霊子戦闘機を抱え宙に漂う異端の男がこちらを見下ろしていた。

 

「銀河さん!!」

 

「天川銀河……!? バカな、貴様の霊力は降鬼化させて吸い尽くしたはず!!」

 

「私の力は少々歪でね。霊力より融通が利いているのだ。さくら殿!!」

 

言うや、銀河が左手に抱えた一振りの刀を拘束具に放つ。

刀は深々と突き刺さると水晶全体に亀裂を走らせ、粉砕してしまった。

そしてその力の正体を、天宮の末裔は知っていた。

敵の手に落ちていたはずの、亡き母の忘れ形見。

 

「これは……、天宮國定!!」

 

「バカな!! 桜武と共に封印していたはずのものを……、まさか銀河! 貴様が……!!」

 

「探知にかからないよう妖力で誤魔化していたのだろうが、少々お粗末だったな。 今こそ好機! 正義を示せ、帝国華撃団!!」

 

続けざまに投げ落とされた霊子戦闘機にすかさず飛び乗るさくら。

起動した桜武が瞳を光らせ、太刀を手に並び立つ。

同時に銀河のかざした手の波動から、無限を包む妖力が引き剥がされた。

 

「これ以上、私の大切な帝都を、大切な人を傷つけさせない! 神山さん、私も共に参ります!!」

 

「勿論だ! 幻庵葬徹を倒し、帝都の平和を取り戻す!! 行くぞ、さくら!!」

 

「はい!!」

 

思いもよらない番狂わせだった。

一度は死をも覚悟した状況で、帝鍵と桜武が戻ってきたのだ。

幻庵を、幻都を打ち倒す千載一遇のチャンスである。

 

「小賢しい真似を!! 霊子戦闘機2機で敵うと思うか!? 返り討ちにしてくれるわ!!」

 

再度練りこまれた妖力の波動が、四方八方から襲い来る。

だがそれを前に、神山は笑っていた。

 

「闇を切り裂く、神速の刃……、縦横無尽・嵐!!」

 

練りこんだ霊力を二刀に纏わせ、さながら荒れ狂う暴風の如く波動に切りかかる。

威力こそ驚異的な妖力の波とはいえ、その軌道はあまりに直線的。

恐らく幻庵自身が前線に立って戦闘に臨んだ経験がないのだろう。

直線的過ぎる攻撃ほど避けやすく、対処しやすいものはない。

そして、

 

「蒼き空を駆ける、千の衝撃!!」

 

「……、しまった……!!」

 

背後に構える桜武を前に、余裕をなくした幻庵が僅かに後ずさる。

先の攻撃を一手に引き受けたのは神山の作戦だった。

戦い慣れしていないものほど戦場全体を見通すことが出来ず、狭い視野で戦いがちである。

最前線に立つ自分に気をとられれば、うしろのさくらから意識が逸れる事は見越していた。

 

「天剣・千本桜ーーーっ!!」

 

正眼に構えた突きの一撃が、凄まじい霊力の奔流となって放たれる。

咄嗟に妖力の障壁を精製して耐えようとするが、不意を突いた一撃に練成が間に合わない。

 

「ぐ、ぐおおおぉぉぉ……!!」

 

数秒の膠着の後、絶界の力を秘めた霊力の一撃が煉獄諸共飲み込み、大爆発を起こした。

やがて爆炎の先に見えたのは、全身に傷を負い瀕死の姿を曝け出した上級降魔の姿だった。

 

「あ……、ありえない……私の策は完璧だったはず……!!」

 

「幻庵葬徹! 最早帝鍵はこちらに戻り、貴様の身を守るものは何もない!! さくら!!」

 

「はい!!」

 

神山の指示で、さくらが手にした神器を空へ突き立てようと構える。

だがその時、信じられないことが起こった。

 

「まだだ……、まだ最後の手段が残っている……!!」

 

「何だと!?」

 

「あ、あれは……!?」

 

幻庵がその手を空に突きつけた瞬間、突如として幻都から複数の黒い管のようなものが放たれた。

管はそのまま真下の幻庵に突き刺さり、妖力を送り込んでいるのか明滅を始める。

 

「お……、おぉ……!! 素晴らしい……、これが……これが降魔皇様……、いや、降魔皇の力だ……!!」

 

瞬く間にとてつもない妖力を取り込んで全身を瘴気に包み込む幻庵。

その体を毒々しい紫色の霧に包み込んだかと思うと、たちまちその霧は何十倍にも巨大化。

中から見えたその光景に、誰もが絶句した。

 

「幻庵が、巨大化した……!?」

 

「まさか、幻都から降魔皇の妖力を吸収したというのか!?」

 

これには銀河も驚愕せざるを得なかった。

降魔皇の復活が困難と見るや、自身がその妖力を取り込んで新たに降魔皇となる。

それが幻庵葬徹の最期の作戦だったのだ。

 

「ウオオオオォォォォッ!!」

 

獣のような雄叫びを上げ、幻庵が拳を握り振りかぶる。

まずい。

逃げ場を失ったこの空間では、あの巨腕から逃れるすべがない。

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギンガーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨腕が全てを砕くその一瞬、天の川を思わせる光の奔流が、観覧席の空間を包み込んだ。

やがて粉砕された空間から光がゆっくりと真下へ降り立ち、徐々に人型を形成する。

 

「さくらっ!!」

 

「隊長!!」

 

その手から下ろされた神山たちに、異変を察して降りてきた初穂たちが一斉に駆け寄る。

瞬間、光の中から一人の巨人が悠然と立ち上がった。

遥か未来からこの時代の悲劇を食い止める使命を帯びて推参した光の巨人、ウルトラマンギンガである。

 

「フハハハハハ、そうだ、この力だ!! 私が何十年捜し求めていた、すべての生物を超越する力だ!!」

 

溢れ出る妖力に酔いしれるかのように愉悦の顔で天を見上げる幻庵。

ギンガは神山たちを庇うように、幻庵と対峙した。

 

「やはりそうか。あの時、帝国政府官邸で相対した時と何も変わらないその邪悪な波動……!!」

 

「何のことかな? 大方貴様の生きた時代のことだろうが、私には確信が持てたよ。この研究は間違っていなかったとね」

 

おかしい。

幻庵葬徹は、降魔皇の復活を目論む忠実な部下だったはず。

なのに何故ここに来て、その忠誠を投げ捨てるかのような振る舞いを繰り返すのだ。

まるで降魔の皇すら、自身の駒であるかのように。

 

『……みんな、落ち着いて聞いて頂戴。たった今月組から、調査報告が届いたわ』

 

困惑する神山達の下にすみれからの通信が届いたのは、その時だった。

 

「司令、一体どういうことです? あの幻庵葬徹は、只の降魔ではないということですか?」

 

『そうよ。奴こそ……、この10年に及ぶ帝都と世界の降魔事件の全てを引き起こした元凶……!! わざわざ自身の死を偽装してまで社会の目から逃れて、まさか降魔に身も心も売り渡していたなんて……!!』

 

「死を偽装って、まさか……!!」

 

その言葉に、神山の脳裏に一人の人物の名前が思い浮かぶ。

まさか、だとしたら……。

 

「全ての始まりは邪念に満ちた人間集団『モナダ』と接触したことだ。奴らが降魔を出現させる吹き溜まりとやらに、一枚かませてもらった」

 

曰く、魔障隠滅部隊・奏組が交戦し、後の降魔皇出現の発端となった、聖アポロニア学院での降魔事件。

 

「軍部というのも存外脆いものさ。とある麻酔科医に聞こえの言い話を持ちかけたらあっさりとね」

 

曰く、麻酔科医の意図的に起こした医療ミスを発端とする、大帝国病院の神隠し事件。

 

「異国というのもまた興味深いものでね。承認欲求に駆られた歪んだ若者達は扱いやすかったよ」

 

曰く、倫敦華撃団の前身たちをたき付けて引き起こされた、ヴァージン諸島の惨劇。

 

「流石に月組と奏組は厄介だった。最も、利用するのも簡単だったがね」

 

曰く、護衛を依頼した任務で月組の隊員一人が殉職し、奏組の隊長が今もこん睡状態のまま。そして月組の一人が降魔に寝返り暗躍する遠因を生み出した。

 

何故この男がその全てを知っている。

それも連盟を率いていただけでなくそれ以前から帝都の要人をコネクションを持っていた。

帝都で、世界で、自らの死を偽装してまで暗躍し続けた狂気の人間を、神山誠十郎は知っていた。

 

「そうか……、全てはお前の……、降魔さえ利用した企みだったのか!! 真田康弘!!」

 

その名前に、その場の誰もが戦慄する。

10年前に降魔皇復活を手引きし、様々な降魔事件の裏に暗躍していたのは、降魔ですらない。

狂気に駆られ人道を踏み外した、一人の研究者だったのだ。

 

『移植した全ての生物を恐るべき怪物へ変貌させるマガ細胞……。その力で世界を支配するつもりだったのね!?』

 

「支配とは語弊があるな。私の追い求めるのは人類の進化だ。いや、救済といったほうが良いかもしれないな」

 

「ふざけるな! 降魔を利用して人々を苦しめる事の何が救済だ!」

 

「そこだよ神山誠十郎。手引きしたのは私だが、降魔はそれ以前の、江戸時代より以前から人類の前に現れ物の怪の一種として牙をむいてきた。その発端を君達は知っているか?」

 

すかさず噛み付く神山に幻庵……、真田は煙に巻くように問う。

応えたのは、マルガレーテだった。

 

「発端は、北条氏綱主体による人体実験。しかしその余波で怨念が満ち溢れ、災害に見舞われた北条は、実験地の大陸大和諸共封印を施した」

 

「正解だマルガレーテ嬢。そう、降魔は何の前触れもなしに現れたわけではない。かつての人類が意図的に生み出し、意図的に捨てた哀れな命たちの怨みなのだよ」

 

さて、と真田が指を立てる。

 

「その時に行われていた研究こそ、かの大久保長安や織田信長が研究していた反魂の術だった。それを踏まえて問おう。かつての恨みを晴らさんとする降魔の所業は悪か? その降魔を駆逐する君達は善なのか?」

 

「どういう意味だ?」

 

「かつて人間の手によって苦しめられ死んでいった者達が恨みを晴らそうとするのは自然の摂理だ。対して君達は、この脅威に対抗しようとあらゆる犠牲を払ってきた。希少な金属を仕入れるために各国の経済を逼迫させ、様々な怨念に対してはその場その場の対処療法しか取れない。そんな事をこれからも未来永劫続けるつもりなのか?」

 

それは、霊的組織の根本への問いだった。

対降魔部隊が発足してから25年。

確かに降魔事件の規模が拡大した原因こそ真田にあるが、それ以前からモナダに代表される一部の者達の暗躍は続いていた。

その都度解決しても、間もなく次の敵は現れ平和は束の間に終わる。

悔しいがそれは確かに事実だ。

 

「だからこそ私は、降魔の細胞片、マガ細胞に希望を見出した。降魔が絶えず出現するなら、降魔など脅威ではないように人類が進化すれば良い。降魔如きそこらの民衆が片手で追い払えるような進化を遂げれば、君達霊的組織が存在する必要もないだろう」

 

「だから連盟を設立して世界華撃団構想を私物化しようとしたのね。自分の手中に収めて、不要になればすぐに排除できるように」

 

アナスタシアの言葉に、真田は不敵に笑う。

わざわざ自身の死を偽装してプレジデントGとして霊的組織の中枢に入り込んだのは、霊的組織の社会的地位の没落と、マガ細胞を持つ自身への人々の求心にあったのだ。

そのために自作自演で世界各国の信用を得て邪魔な賢人機関を排除し、邪魔者を無くした状態で徐々に世界中の華撃団を掌握する。

それがこの男の真の目的だったのだ。

 

「どうだね、ウルトラマンギンガ。君にとっても有益な話ではないのか? 君の世界ではマガ細胞がないが故に、世界は破滅の道をたどったのだろう?」

 

「私の世界が滅んだのは、人々の心が散らばってしまったためだ。貴様の野心に満ちた進化など、認めん!!」

 

「そうだ! マガ細胞の力がなくとも、俺達は必要とされる限り、正義の名のもとに戦い続ける!!」

 

「未来ってもんは与えられるもんじゃねぇ、自分で掴み取るもんだ! 増してやテメェみたいな人ですらなくなったヤロウに施しなんざ受けたくもねぇ!!」

 

「お前の生み出した犠牲は、必要なものではない! お前の身勝手で、命の重さを決めるな!!」

 

「貴様は人類の敵であり、降魔の敵でもあった。只それだけのことだ!!」

 

銀河に続き、神山もシャオロンもランスロットもエリスも、真っ向から撥ね付ける。

降魔の邪念に満ち溢れた細胞が何を齎すか、何度も見てきた。

自我を失い、心を失い、欲望と本能のままに暴れるだけの怪物に変わることの何が進化だというのか。

そしてそのためにゴミのように利用され捨てられていった無数の命。

その重みを感じない目の前の狂人に歩み寄る余地は、ない。

 

「そうか。だったら仕方ない。降魔の力さえも我が物としたこの力、思う存分見せてやろう!!」

 

言うや真田の巨腕が天に掲げられ、視認できるほどの妖力が圧縮されていく。

その規模、これまでの戦闘の比ではない。

対するギンガも、右腕のオーブに力を集約させる。

 

「滅びの祝福を……、魔ヶ烈波!!」

 

「ギンガ・ドームバリア!!」

 

自身を中心に巨大なドーム状のバリアを形成し、邪念に満ちた一撃を押さえ込む。

その勢いが弱まるや、すかさずギンガは反撃に出た。

 

「ギンガ・クロスシュート!!」

 

L字に組まれた右腕から、ギンガ最強の破壊光線が放たれた。

だが……、

 

「な、何だと!?」

 

信じられないことが起こっていた。

直撃したはずのギンガの破壊光線を受けて尚、真田の体には傷一つついていない。

 

『あの黒管から、真田の体内に夥しい妖力が流れ込み続けています!! 恐らくその力で受けたダメージをその場で治癒しているようです!!』

 

カオルの報告に戦慄が走る。

自分達の攻撃ならまだしも、ウルトラマンの必殺技まで通用しないというのは次元が違う。

さらに追い討ちとばかりに真田は先程より更に大きな妖力光線を放ってきた。

 

「させん! ギンガ・ドームバリア!!」

 

再びバリアを形成し攻撃を防ぐギンガ。

だがその直後、異変が起こった。

 

「……、こ、これは……!!」

 

信じられないことが起こった。

何と先程は攻撃を防ぎきったはずのバリアに亀裂が入り始めたのだ。

そして、

 

「ヌウウウッ!!」

 

バリアが破られ、咄嗟に両腕を交差させて光線を耐えるギンガ。

しかしそのダメージは凄まじく、たちまち膝を突き、カラータイマーが点滅を開始した。

あの無敵に等しい力を持っていたはずのギンガが追い詰められる姿に、神山たちも身震いする。

何とかギンガを助けようにも、対格差がありすぎて接近することすら困難であり、先程の上級降魔との戦闘でのダメージもありまともな戦力にならない。

何か突破口はないのか。

そう考えをめぐらせたとき、一人の人物がその場の全員に通信を繋いだ。

 

「皆さん、一つだけ方法があります」

 

「ミライ?」

 

それは、帝国華撃団の一員、御剣ミライだった。

彼の無限も少なからぬ損傷があるはずだが、何か妙案があるのか。

 

「真田は幻都の妖力を吸収することであの強さを持っているんですよね? だったらそれを断ち切ることが出来れば……」

 

「しかし、ギンガですら窮地の状況で、そんな隙が生まれるのか……?」

 

方法なら誰しも思いつくものが一つだけある。

先程実行しようとしたようにさくらが神器を用いて絶界の力で幻都の再封印を施すというものだ。

幻都との接続を遮断してしまえば、真田に無尽蔵な妖力を送り込むことは不可能。

だが相手もそれは承知のはず。

無策に挑めば間違いなく阻止されるだろうし、今の自分達では一度攻撃を喰らえばひとたまりもない。

だが、それでもミライの自信は揺るがなかった。

彼には、彼にしか知りえないある秘策があったからだ。

 

「司令」

 

ふと、ミライが通信先のすみれに問いかける。

何かの許可を得ようとするような、そんな素振りだ。

 

『ミライさん……、よろしいのね?』

 

何かを悟り、確かめるようなすみれの問いに、重々しく頷くミライ。

まるで重大な何かを決めたかのようだ。

 

「隊長、皆さん。今まで隠していたことがあります」

 

「隠していたこと……?」

 

「ある人との約束です。彼のように星を愛し、人々を愛し、あの人に代わってこの星を守る事……。それが、僕の使命だから」

 

「お、おいミライ……!!」

 

そう言って、ミライは驚くべき行動に出た。

自ら無限のハッチを開き、ギンガの元へ進み出たのだ。

まさか生身で立ち向かおう等と言う事はあるまい。

突然のことに驚く面々の中、初穂だけはハッと目を見開く。

彼女だけは聞いていた。

かつてミライがその身を救われ、憧れたという戦士の名前を。

 

「ミライ……、まさか、お前……!!」

 

「僕が突破口を開きます。初穂さん、見ていてください!!」

 

ミライが左腕を顔の横にかざした瞬間、真紅の宝珠を包んだ見覚えのあるブレスレットが現れた。

ゆっくりと宝珠を隠すように右手を沿え、右下に切り落とす。

宝珠が光に包まれ、やがてその身を包み込んだ。

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メビウウウウゥゥゥーーースッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景に、誰もが驚愕を隠せなかった。

突き上げられた左腕から出現した光の柱がミライの体を包み込み、やがてその中から一人の巨人が現れる。

ウルトラマンメビウス。

遥かM78星雲から現れた、宇宙の平和を守る光の巨人。

その正体は帝都中央駅の奇妙な邂逅から今まで共に戦ってきた御剣ミライ。

彼こそが自分達の窮地を幾度となく救ってきた、ウルトラマンメビウスその人だったのである。

 

「現れたかウルトラマンメビウス。大方私の隙を突こうというのだろうが、貴様一人増えたところで状況は変わらん!!」

 

「……メ、メビウス……!!」

 

「セアッ!!」

 

満身創痍のギンガを庇うように相対するメビウス。

帝都の、世界の未来が巨人の双肩に託された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スァッ!!」

 

メビウスが最初に仕掛けたのは、メビュームスラッシュによる牽制だった。

当然着弾したところで効果はない。

そこですかさず次の手に移る。

 

「ハァァァァ……!!」

 

「無駄だ! 内部から攻めるつもりだろうが……」

 

阻止しようと波動を放つ真田。

メビウスは構わず左腕のブレスレットにエネルギーを集約し、

 

「スァッ!!」

 

それを眼前で破裂させて閃光を放った。

ウルトラ閃光。

ライトニングカウンターの応用で、威力を捨てて光に転用する、一種の目くらましだ。

普通に攻撃しても通用せず反撃を受ける。

そう考えたメビウスは、相手の五感に対する攻撃で隙を生み出したのである。

 

「グオオッ!? 目、目がぁっ……!!」

 

案の定防御体制を取っていなかった真田はモロに閃光を喰らい視界を失う。

初撃に光弾を使用して相手を油断させたところで本命の搦め手に持っていく、作戦通りである。

 

「スァッ! ハァァァァ……!!」

 

一瞬の隙を突き、頭上にエネルギーを集約する。

メビウスの必殺光線、メビュームシュートだ。

 

「セアアアアアッ!!」

 

10万度の威力を誇る熱光線が、敵の背中に生えた黒管を直撃する。

果たして数秒の後、黒管は煙を上げて焼ききれた。

 

「さくら、今だ!!」

 

「はい!!」

 

神山の指示に、さくらが抜き放った神器を構える。

メビウスの作り出した好機、絶対に逃してはならない。

天に突き上げられた刃から溢れる霊力が、遥か天井の裂け目を包み込み始めた。

絶界の力を霊力の余波で代用して切り開いた亀裂に霊力が纏わり、その邪念を押さえ込んでいく。

 

「天宮の命の宿る絶界の力、今ここに!! お母さん、さくらに……さくらに力を!!」

 

神器を媒介に何倍にも増幅された絶界の力が、邪念を包み込み幻都を元の異空間へと押し込む。

そして……、

 

「はあああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

気合の一声と共に、幻都が文字通り幻と消えうせた。

同時に源泉を立たれた妖力が霧散し、魔幻空間が消えうせる。

瘴気に満ちた魔城は、崩壊した世界華撃団競技場へと姿を変えた。

 

「魔幻空間が消えた……、やったぞ!!」

 

神山の言葉に、一斉に沸き立つ仲間達。

その一方、妖力の供給を絶たれた怪物は憤怒の叫びを上げた。

 

「バカな……、こんな小手先の策で……!! 私の進化が……私の野望が……!!」

 

「無駄だ真田!! 最早幻都は切り離され、配下の降魔たちも全滅した! 貴様にまだ人としての矜持があるのなら、法の下に裁きを受けろ!!」

 

「馬鹿にするな! 元よりこの力を得た時点で、人の矜持など捨てて……うぐっ!!」

 

その時、真田の体に異変が起こった。

体中を蛇のような何かが這い回り、瞬く間にその体をどす黒く侵食し始めたのだ。

 

「……その姿、まさか貴様、マガ細胞を……!!」

 

「ぐうっ……、ククク……素直に忠告を聞いていれば楽に死ねたものを……、どうせ死ぬ命、貴様ら人類も道連れだあああぁぁぁ……!!」

 

それが、人としての知的生命体真田康弘の最期の言葉となった。

巨大化したその体を異形の細胞が瞬く間に変化させ、四肢は巨大な岩盤のように硬質化し、背中には無数の棘を生やし、腹部にも巨大な口を生やした異形の怪物が、神山たちを見下ろしていた。

真田が残した最期の悪意、変異降魔皇獣『マガビースト』である。

 

「これが未来を阻む最後の障害……。この手で打ち倒す!」

 

「ギンガさん、僕も手伝います!!」

 

二人の巨人は互いに頷きあい、最期の怪獣に対峙する。

神山もまた、刀を突きつけ叫んだ。

 

「帝国華撃団・花組、そして世界華撃団出撃!! ウルトラマンを援護し、真の平和を取り戻す!!」

 

「「了解!!」」

 

「「理解!!」」

 

「「Verstanden!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変異降魔皇獣、マガビースト。

自然界の生態系の常識を一切無視したその力は、最初こそ神山たちを翻弄したものの、程なく意味を成さなくなり始めた。

正面から二人の巨人が猛攻をかけて注意をひきつけていることもそうだが、理性をなくし本能でしか動かないために単純な攻撃しか出来ず、対策しやすかったのだ。

 

「こっちだノロマ!!」

 

「鬼さんこちら!!」

 

シャオロンとユイが足元を攻撃して注意をひきつけ、

 

「全弾発射、です!!」

 

「忍!!」

 

「援護するわ」

 

「私も続きます!」

 

あざみたちが連続して反対側から攻撃して注意をそらし、

 

「セアアアアッ!!」

 

「ハアアアアッ!!」

 

正面から二人の巨人の拳が怪獣の顔面を捉えた。

右往左往していた怪獣は豪快に宙を舞い、地面にたたきつけられる。

如何に並外れた生命力があっても、人智を超えた力を持っていたとしても、代償として人の理性を失えば只の獣でしかない。

真田の研究は、ある意味彼自身が逆説を証明するという、皮肉な結果となっていた。

 

「ミライ!!」

 

「スァッ!!」

 

初穂の声に、メビウスが並び立つ。

そして初穂の無限を介し、巨人の全身に灼熱の奔流が流れ込んだ。

 

「ハァァァァァ……!!」

 

灼熱はその前身を赤に染め上げ、胸部に炎を描き出す。

ミライと初穂の生んだ絆が一つとなった、バーニングブレイブだ。

 

「真田……、いや真田であった獣よ……、お前の滅亡で世界は……、未来は変わる……!!」

 

ギンガもまた残されたエネルギーの全てを集約し、全身に纏わせる。

ギンガエスペシャリー。

体内のエネルギー全てを解き放って邪悪を滅するギンガ最大の必殺技だ。

 

「スァッ!! ハァァァァァ……!!」

 

メビウスも胸部のシンボルから具現化したエネルギーを球状に圧縮する。

バーニングブレイブ最大の必殺技、メビュームバーストだ。

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァッ!!」

 

「セアアアアアアアァァァァァァァッ!!」

 

七色の輝きに包まれた怪獣目掛け、超温度の火玉が直撃し、特大の爆発を起こした。

数秒の後に煙が晴れた先には、怪獣は影も形もなく消えうせていた。

 

「セアッ!」

 

「ハッ!」

 

互いに頷きあい、空へと飛び立つ二人の巨人。

10年に及ぶ狂気に取り付かれた一人の男の暴走が終わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、一人の日本人が引き起こした通称『真田事件』は、二人の巨人と世界華撃団によって解決された。

人々は降魔をも従え世界すらも手玉に取った恐るべき男の所業に震撼すると共に、その口車に踊らされあらぬ疑いを霊的組織にかけたことを口々に謝罪。

帝国華撃団は帝都の、そして世界の人々と再び平和を歩んでいくためのシンボルとして、特別公演を実施した。

帝都復興に当たっていた上海、倫敦、伯林華撃団の面々も参加を表明し、結果4ヶ国の華撃団が一堂に会するという、歴史上類を見ないビッグイベントとなった。

 

「銀河さん」

 

その千秋楽の夜、ミライは打ち上げパーティを抜け出し、夜の上野公園に足を伸ばしていた。

あの戦い以降行方をくらませていた人物に、呼び出しを受けていたからだ。

 

「一体何処行ってたんですか? みんな心配してたんですよ?」

 

「すまないな、ミライ君。最後に済ませることがあってね」

 

そう薄く笑うと、銀河は右腕のオーブをかざす。

瞬間、不思議なことが起こった。

 

「……ブレスが……!!」

 

オーブの淡い明滅に合わせ、自身のブレスレットの宝珠が明滅を開始していた。

まるで、互いの光を求め合うかのように。

 

「本来私は、この時代に来ることのなかった異端の存在だ。その私を、オーブは認め、この世界に留まらせてくれた。不思議なものだ」

 

「銀河さん……、不思議なんかじゃないですよ。貴方だって、人々の平和のために戦った、立派なウルトラマンじゃないですか」

 

あの決戦の前に聞いた、銀河の世界で起きた悲劇の全て。

この勝利が未来を変える一助となればという銀河の願いが果たされた今、オーブはその役目を終えようとしていた。

 

「さあミライ君、君の光を……」

 

「はい……」

 

銀河の眼差しに何かを察し、自身の宝珠をかざす。

互いの明滅がどちらともなく激しくなり、やがて大きな閃光が周囲を包んだ。

 

「……」

 

一瞬の後、閃光が消えうせたとき。

そこにはミライだけが、一人佇んでいた。

左腕の宝珠には、それを包むようにオーブが一体となり、より強い輝きを放つ。

ゾフィーに始まるウルトラの至宝、プラズマ=オーブが継承された瞬間だった。

 

「銀河さん……」

 

もう一度だけ、その名を呟く。

冷たくなり始めた秋の夜風は、只木々を揺らすことしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、数奇な運命だったのかもしれない。

 

「(理由なんて知らねぇよ。ただオーブはあんたを継承者と認めた。ただそれだけだ)」

 

その言葉だけで、かの真紅の巨人は自身のオーブを託した。

封印を免れた残る霊的組織の人間と共に来る10年後の戦いに備え動き続けた結果、今日を迎えることが出来た。

蹂躙の末に全てが失われた夜は、多くの笑顔と希望に満ち溢れた夜となった。

思えば、彼女もずっとそれを待ちわび続けていた。

 

「(司令!! ご指示を下さい!!)」

 

どんな絶望下の中でも、自分を信じてともに歩み続けてくれた少女。

どんなに忌み嫌われても、どんなに裏切られても、人を信じることをやめなかった少女。

記憶の中の屈託のないあの笑顔は、一瞬たりとも色褪せない。

それは、この10年というときが流れた後でも変わらなかった。

 

「また……会えるだろうか……その時は……」

 

ふと、あの笑顔を思い返し、笑みがこぼれる。

どこまでも純粋で。

どこまでも無邪気で。

どこまでも美しかった。

あの、笑顔に会えたら……

 

「そうだな……」

 

「(司令! 褒めてください、です!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………、褒めて、ほしいな……」

 

<続く>

 

 

 




<次回予告>

真田事件も解決し、平和が戻りましたね。

あてらは平時でも大忙しや! 

何たって今年のクリスマスは特大イベントが待ってるねんで!!

次回、無限大の星。

<別れの日>

新章桜にロマンの嵐。

何故だ……何故今になって……!!
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