無限大の星   作:サマエル

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※注意

今回の話は暴力的な表現が少し過激になっております。

苦手な方の閲覧はオススメしません。



無限大の星、今回は望月あざみ編です。

原作は華撃団大戦と絡めての物語でしたが、今回は忍者として帝都に生きる彼女の少し違う一面をご覧頂くことになるかもしれません。


第3話:忍ぶれど

 

 

 

その空間の全てを、夜の静寂が支配していた。

時折吹く抜けるビル風が街路樹を揺らし、僅かな木の葉のさざめきが、観客のいない夜のステージに木霊する。

 

ふと、一際大きい風が吹き抜けた。

 

大の大人を裕に超える身の丈からは想像もつかないほどの軽やかさと身のこなしで、屋根から屋根へと飛び伝っていく。

そして、そのすぐ後ろを駆けるもう一つの風が薙ぎ、木の葉を散らした。

明らかに眼前の風より小柄なそれは、抜き身刀の如き鋭い眼光で、その速度を上げていく。

 

「……!!」

 

眼前の影が突如動きを止めたかと思うと、その豪腕を力任せに横に凪ぐ。

だが、それは虚しく宙を切った。

何故ならこの時、真後ろにいた小柄な風は、影の遥か頭上を跳躍していたからである。

 

「今……!!」

 

風は懐に忍ばせていた鈍色の刃を眼下の影目掛けて放つ。

更に目にも止まらぬ速さで両手の指を絡め、複雑な形を次々に結んでいく。

刹那、その全身を一瞬淡い光が包んだ。

次の瞬間、驚くべきことが起こった。

 

「手裏剣影分身の術!!」

 

一つだけ放たれたはずの刃が、まるでピントがずれるかのように次々とその姿を増やし、瞬く間に四方八方を無数の刃が取り囲む。

僅か一瞬の時間にして、影は逃れる隙間はおろか、命運さえも刃の結界に閉ざされていた。

 

「……忍!!」

 

その声を合図に、無数の刃が一斉に踊り、影を切り刻む。

オマケとばかりに風が最後の一本を放つと、それが何かに引火し、たちまち大爆発を引き起こす。

果たして紫煙の中には、風が放った1枚の手裏剣と1本のクナイ。

そして……、

 

「……里の掟4条。嵐の中を止まるべからず。止まれば即ち、死あるのみ」

 

何かを戒めるように呟き、風は再び風となって夜の闇へ駆ける。

その行き先を、知る者は無い……。

 

「……7人目、か……」

 

ただ、一人を除いては……。

 

 

 

 

 

<第3話:忍ぶれど>

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー! 半券をお持ちになって順番にお進み下さーい!!」

 

解放された扉から押し寄せる人の波を、拡声器まで持ち出しながら案内するモギリ。

10年のときを経て復活を遂げた新生帝国歌劇団の第一作『迷宮のリリア』は、当初の予想を大幅に超える大ヒットとなった。

連日舞台は満員御礼。売店も入荷待ちのグッズに早くも予約が入る状態でてんてこ舞い。

そして今日は実に1ヶ月続いた舞台の千秋楽。忙しくならないはずが無い。

 

「神山さん、こまちもお疲れ様です」

 

「ああカオルさん。お疲れ様です」

 

入場整理を終えて開演のベルがなった頃、事務室で計算処理に追われていたカオルがホールに顔を見せた。

心なしか、いつもより表情がほころんでいるように見える。

 

「その様子だと、売り上げは好調みたいですね」

 

「フフ、分かります? 完全ではありませんが、霊子戦闘機や舞台設備の整備改修も含めて大きく道が開けたと言えます」

 

「おかげでこっちは足が車になっとるさかい、そこまで行ってくれな困るわ~」

 

そう大げさに肩をすくめて見せるこまちに、二人は小さく吹き出す。

軍部の援助が受けられるようになったとはいえ、希少な金属を潤沢に使用する霊子戦闘機の整備維持の費用は決して少なくない。

故に失敗は出来なかった帝国歌劇団の初公演であったが、そんな心配を笑い飛ばすかのような盛況ぶりに、いつしか不安は微塵も感じなくなっていた。

もちろん過去の帝国歌劇団の功績と、それを知り復活を待ち望んでくれた人々の期待や、現スタァのアナスタシアのネームバリューも大きい要因である。

だが同時に、司馬の考案した舞台演出装置の数々と、クラリスの才を全て注ぎ込んだ脚本、そして他ならぬさくらたち花組団員の懸命な努力が一体となったからこその結果である。

この成功は、帝国華撃団としてのチームの団結の強さを、各々に実感させる大きな成功と呼べるだろう。

その意味でも、今回の公演で得たものの大きさを、神山は実感していた。

 

「これで『彼女』が戻ってくれば……」

 

「せやな」

 

「……『彼女』……?」

 

ふと、カオルの呟いた言葉が引っかかり、尋ねる。

二人は一瞬何かを確かめるように顔を見合わせ、答えた。

 

「神山さんにはまだお伝えしていませんでしたが……、花組にはもう一人、在籍している隊員がいるんです」

 

「望月あざみ、13歳。加入当初はまだ三式光武も用意できてへんかってん、支配人の判断で正式入隊を見送っとったんや」

 

初めて聞く名前だ。

それに13歳というのは、隊員の中でも最年少ということになる。

確かに過去のアーカイブでは、当時10歳のアイリスことイリス=シャドーブリアンが在籍していた例もあるため、珍しい話ではないのだろう。

 

「さくらたちは、その『望月あざみ』を知っているんですか?」

 

「いえ、彼女は帝国華撃団再結成開始時の最初期に帝劇を訪れたのみで、隊員達は顔も見ていません」

 

「まあ、その時からおった初穂はんだけは、会うとるかもしれへんな」

 

「では、彼女は今何処に……?」

 

「その出自から、隠密諜報部隊の『月組』に出向しておりました。あざみさんの育った『望月一族』は、現代に続く忍の家系なんです」

 

「帝国華撃団発足当初から月組を支えてきた、縁の下の力持ち。あざみはんはその末裔なんや」

 

聞いたことがある。

霊子甲冑を駆り魔を討つ花組を表とするならば、帝都の影に身を潜めその奥に蠢く悪を暴く裏の諜報部隊『月組』。

風組同様に帝国華撃団の活動を、時に花組以上に危険な環境で遂行する、言わば影の大いなる功労者達である。

かの降魔大戦では、市民の避難誘導や陽動などで多くが殉職したともあったが、密かに再編されていたのだろう。

その一族に身を置くとはいえ、若干13歳でその任をこなすというまだ見ぬ少女に、神山は嘆息した。

そのときだった。

 

「ん? 令士からか」

 

ふと、神山のスマァトロンに盟友からの着信が入った。

見せたいものがあるからひと段落したら格納庫まで来て欲しい、というものだった。

恐らく無限の改装整備に進展があったのだろう。

 

「それでは、作業に戻りましょうか」

 

「おっしゃ、こっからまた一稼ぎや!」

 

「はい、お疲れ様です」

 

それをきっかけに各々仕事の顔に戻り、持ち場へ戻っていく。

故にこの時、誰もが気づかなかった。

 

「……」

 

人気の無いはずの2階客席入り口から、真下を射抜く視線の存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、支配人室の椅子に座る妙齢の女性の表情は、いつになく険しかった。

秘書がみれば平静で言われなくなるのは確実な、眉間に皺を寄せ何かを考える様子。

その答えは、視線の先に並んだ新聞の文字にあった。

 

「失礼します」

 

玄関に集客の様子を見に行っていた秘書が戻ってきたのは、ため息と共に朝刊を机に戻したときだった。

 

「何か気になる記事でも?」

 

「ええ、少し……。それよりお客様の入りのほうは?」

 

「主観的には、この上なく好調ですね。話題性や脚本の評価も上々。関連グッズの売り上げも、当初の250%を見込んでいます」

 

「そう……」

 

秘書から齎された十二分に満足いく状況。

だが先の記事の内容が、その喜びを僅かに曇らせる。

 

「……いかがされました?」

 

流石にカオルも感じ取ったのか、改めて尋ねてくる。

一瞬逡巡しながらも、件の記事を開いてカオルに見せる。

 

「『止まぬ不審死。これで7人目』……?」

 

それは、今月に入って帝都で頻発する、怪事件であった。

被害者はいずれも数日から数ヶ月間で行方が分からなくなっていた人間ばかり。

老婆から紳士、4歳の子供だったこともある。

そしてその死亡推定時刻も、遺体発見時から確実に1日以上のズレが生じていた。

そんな何の接点も見られない被害者達の唯一の共通点。

それが、遺体は決まって早朝の時間帯に発見されると言うことだった。

つまり犯人は、別の時間、別の場所で殺害した遺体を深夜に遺棄しているということになる。

しかしそれ以上の手がかりは何一つつかめぬまま、捜査は早くも迷宮入りの様相を呈していた。

そしてその中にある行方不明者のリストの中にある一つの名が、すみれの目に止まったのだ。

 

「……『本郷ひろみ』さん……、まさか……!」

 

その名を目にした瞬間、カオルもすみれが顔を曇らせていた理由を悟ったように目を見開いた。

本郷ひろみ。

帝劇の面々も贔屓にさせてもらっている銀座の和菓子屋「みかづき」の看板娘。

だがそれはあくまで表の姿。

彼女の持つもう一つの名前を、この場にいる者たちは知っていた。

一般市民として帝都という森に身を隠し、いち早く影に蠢く悪を察知し知らせ伝える隠密部隊、『帝国華撃団・月組』。

確かに花組とは違い戦闘能力こそ持たないが、数多の厳しい訓練を経て入隊した彼女達の実力は確かだ。

無論生身で敵の身辺を調査する危険性故に過去に殉職者が出たことこそあるが、少なくとも人間や下級降魔程度で遅れを取るような者達ではない。

だからこそ、すみれは訝しく思う。

敵は如何にして、隠密のプロたる月組をこうも容易く手中に落としたのかと。

 

「……他の隊員の安否は?」

 

不安を隠しきれない様子でカオルが尋ねる。

有事の際、またはそれに準ずる不審な動きを発見次第、月組は何らかの形ですみれに情報を届けるはず。

特に隊員が敵の手にかかったとなれば、表には出さずとも花組と情報を共有し厳戒態勢に入ることも視野に入れなければならない。

しかし自分達もそれを今朝の朝刊で知った現状。

果たして他の隊員が無事でいるのかどうか。

が、すみれの口から出た答えはカオルの予想の斜め上を言っていた。

 

「それは、本人に伺いましょう」

 

「本人……ですか?」

 

「ええ。……もう出て来てもよろしくてよ」

 

「……! い、いつの間に後ろに……!?」

 

瞬間、カオルの背後の影が揺れたかと思うと、一つの影がすみれの前に膝をつく。

それは、小柄な少女の外見をしていた。

もしかすれば、さくらやミライより年下かもしれない。

だがその少女が只者でないことは、今の今までカオルの背後に気配を殺して張り付き、一瞬で眼前に現れた身のこなしからも明らかである。

少女の名は『西城いつき』。

若干15歳にして前月組隊長より全権を委ねられた、隠密部隊の若き隊長である。

 

「司令……。此度の失態は、我々月組の力不足に他なりません」

 

「それは違うわ。ひろみさんだってまだ生きているかもしれない。とにかく、今は情報が必要よ」

 

15歳とは思えない毅然とした態度を諌めつつ、すみれは月組隊長の掴んだ数少ない情報に耳を傾ける。

遺体はいずれも衰弱した様子があり、生前に霊力を搾取された形跡が見られる事。

敵の拉致の手際はあまりに完成されており、4歳の男児は母親と手を繋いで歩いていたにも拘らず一瞬のうちに音も無く連れ去られていたとの事。

そして……、

 

「これは私の推測ですが……、深夜に彼女が単独で動いているようです」

 

「どういうこと?」

 

「無限完成の報を受けて、その日に異動を言い渡したのですが……。それ以降、夜中に一人で動いているようなのです」

 

ピクリとすみれの眉がつり上がる。

何故なら今の報告は、自身の中で危惧する事象の反証に他ならないためだ。

 

「つまり、アリバイを立証することはできないと言うことね」

 

「はい、そのためひろみさんに彼女の監視も命じていたのですが……」

 

どうか間違いであってくれれば。

そう思わずにはいられないすみれであったが、現実はそれをあざ笑うかのように一つずつ証拠となって逃げ場を潰していく。

いつきは、目を伏せたままあるものを差し出した。

焼け焦げた紙片だ。

良く見ると淵の部分に僅かな紋様の跡が見える。

 

「彼女が消息を絶った場所に残されていたものです。……術式を施した『霊力札』かと」

 

その言葉を聴いた瞬間、逃げ場は完全にふさがれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故こんなことになってしまったんだ。

何度目かも分からない自問自答を、神山誠十郎はひたすらに繰り返していた。

事の起こりは公演終了後。格納庫に降りてきたときだった。

司馬に言われていた新しい無限の確認、そして最後の隊員である『望月あざみ』の機体を確認するためだ。

だが、扉を開けても返事が無い。

何事かと扉を開けると、神山は一瞬声を失った。

待望の機体を完成させて満面の笑みを浮かべていたであろう親友が、白目をむいてひっくり返っているではないか。

何事かと駆け寄ろうとした、そのときだった。

 

「動くな」

 

幼い、しかし鋭いさっきを孕んだ声と共に、首に細い腕が回され、眼前に鈍色の刃が突きつけられる。

まさか、敵襲か。

2度の出撃で場所を把握されてしまったか。

平時とはいえ油断して背後を取られるとは、何たる不覚。

 

「見たことのない顔……、ここで何をしていた」

 

「くっ……、令士をどうした……!?」

 

この状況で神山が真っ先に懸念したのは、司馬の安否だった。

出血の様子こそ見られないが、頭部や急所に傷を受けていたら致命傷の可能性も大いにありうる。

もしそうなら自分も口封じのために消されかねない。

が、帰ってきた返事は予想外のものだった。

 

「知らない。何か細工していたと思ったら突然細工が爆発して倒れた」

 

「そ、そうか……」

 

良く見たら司馬の周辺には焼け焦げた機会の残骸が散らばっている。

とりあえず気絶していただけのようで安堵する神山だが、依然として危機は去っていない。

腰の刀に触れようにも、既に両腕は何かにからめ取られて動かせない。

だがその僅かな間にも、神山の脳内では的確に状況の分析を開始していた。

まず自分を拘束する人物。

首にのしかかられている現状からして、両腕を拘束しているのは恐らく相手の足。

つまりおんぶのような格好でこちらを抑えていることになる。

ということは、相手は非常に小柄で身軽。声からして女の子だろう。

そして眼前に突きつけられた刃物の形状から察するに……、

 

「君は……望月あざみくんだね?」

 

「……、……何故知っている?」

 

神山は一つの賭けに出た。

彼女は恐らく面識の無い自分や司馬を、帝劇の地下に潜り込んで悪さをする敵の一味と誤認している。

ならば帝国華撃団として、仲間内でしか知りえない事柄を突きつけて、自分が敵でないことを証明しようというのだ。

が……、

 

「……里の掟62条。秘密を知るもの、生かしておけぬ」

 

「なっ!?」

 

返ってきたのはあまりにも無慈悲な死刑宣告だった。

冗談ではない。

敵と勘違いされた挙句口風時などで見方に殺されてはたまったものではない。

 

「ま、待て! 俺は花組たいちょ……!!」

 

「問答無用! 覚悟召されよ!!」

 

眼前のクナイが容赦なく顔を貫く

その時だった。

 

「!?」

 

「何奴!?」

 

明後日の方向から飛んできた銃声が、乾いた音と共にクナイを弾き飛ばした。

同時に神山を拘束していた少女は背中を蹴るように跳躍して油断無く次のクナイを構える。

この状況で冷静に敵の武器を打ち落とす腕前。

それに該当する人物を、神山は一人しか知らない。

 

「ありがとうアナスタシア、助かったよ」

 

「礼には及ばないわ。災難だったわねキャプテン」

 

少女に銃を突きつけたまま、褐色肌の女性が優しく笑う。

神山は立ち上がると、改めて少女『望月あざみ』に語りかけた。

 

「今度こそ自己紹介させてもらうよ、あざみくん。俺は神山誠十郎。帝国華撃団花組の隊長だ」

 

「同じく、帝国華撃団花組隊員アナスタシア・パルマよ。そろそろ物騒なものはおろしましょうか」

 

「隊長……、花組の……」

 

少女はにわかには信じがたい様子であったが、アナスタシアが銃をおろしたことを確かめると、自身も忍ばせていたクナイをおろして膝を突いた。

 

「一昨日付けで月組より帰参致す、望月流忍者『望月あざみ』。知らなかったとはいえ刃を向けたご無礼、容赦いただきたい」

 

「ああ、分かってくれたならいいよ。互いに顔も知らなかったわけだし」

 

聞かされていた通りの幼い容姿と、そこからとても連想できないほどの殺気と身のこなし。

幼くとも望月流を名乗る忍者としての経歴と、月組に所属しその手腕を振るっていた実績は伊達ではないのだと、神山は察する。

 

「里の掟20条。味方は顔を見て決めよ。……早速だが今の花組の状況について詳細を求める」

 

「あ、ああ分かった。でもさっきにみたいにクナイは向けないでくれよ……?」

 

「心配は無用。里の掟17条。仲間とは相争うべからず」

 

先ほどまでの敵意が嘘のように消え、トコトコと地上への階段を駆け上がるあざみ。

歳相応の少女らしい可愛げな様子にアナスタシアと顔を見合わせて笑い合うと、神山も格納庫を後にするのだった。

 

「……そういえば、何か忘れてるような……」

 

数分後、格納庫の床で大の字になって居眠りをしていたとして技師長一名が減給処分を喰らうのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、千秋楽を大盛況のまま終えた大帝国劇場は、突然のあざみの帰参に大いに驚きつつも歓迎した。

何せ事前に連絡が言っていないのだ。寝耳に水とはこのことである。

初舞台の千秋楽を無事に終えた打ち上げパーティーはそのまま望月あざみお帰りパーティーに様変わりし、この時ばかりは経費に厳しいカオルも紐を緩めて奮発してくれた。

霊子戦闘機も初穂とクラリス、そしてあざみの機体の実装が終わり、順風満帆とはこのことである。

 

「……」

 

夜の闇に包まれた大帝国劇場の屋根に、あざみは一人佇んでいた。

眼下の窓には、サロンで談笑する初穂たちの姿が見える。

その中心には、先ほどひと悶着があった隊長がいた。

 

「神山……誠十郎……」

 

花組という集団の中で、誰もの信頼を集める人物。

それは、自身の最も尊敬する一族の長を連想させた。

故に、自覚する。

彼の側にいる少女達を羨む自分を。

故に、自戒する。

最早その空間に自らが立ち入ることは叶わないと。

何故なら……、

 

「あれ、あざみさん?」

 

突然の声に振り返る。

そこには、昼間挨拶した青年が、太陽のような屈託の無い笑顔をこちらに向けていた。

 

「あなたは……、ミライ……」

 

「そう、ミライです。覚えてくれたんですね」

 

「里の掟47条。知った顔は忘れるべからず……」

 

知らぬ間に花組に加わっていた隊員の一人、御剣ミライ。

彼もまた、神山とは違う意味であざみの印象に残る人物だった。

一言で言えば、子供っぽい。

自分でも知っているような常識にも驚いて見せたり、有名人を知らなかったり。

 

「初穂さんたちとは、お話しなくて良かったんですか?」

 

「あざみは、いい。忍者は不要に表に顔を出すものじゃない。里の掟1条。忍とは『忍び耐える』者也」

 

「掟かぁ……、忍者って大変なんですね」

 

「それも修行。ミライは、ここに何しに来た?」

 

「僕ですか? ……星を見に来ました」

 

そう応えて、ミライは空を見上げる。

空は雲も無く晴れ渡り、無数の星が光り輝く。

ミライは、その中の一つを指差した。

 

「あざみさん、あの星が見えますか?」

 

「……あれ?」

 

ミライの指差す先に見える、一際強く輝く星。

その輝きは力強さと同時に、こちらを優しく包み込むような温もりを感じさせる。

 

「あれはM78星雲、ウルトラの星。ウルトラマンたちの故郷です」

 

「あれが……、ウルトラマンの……」

 

聞いたことがある。

この星の様々な場所で、降魔のみならず数多の脅威から街を、人を守ってきた伝説の巨人達。

そして今また、帝都に新たな巨人『ウルトラマンメビウス』が誕生し、花組と共に帝都の平和のために戦っているという。

 

「あざみさん、僕達も同じです」

 

「同じ?」

 

「ウルトラの星が常に地球を見守っているように、僕達も貴方を見守っています。……たとえ、あなたが僕達に言えない何かを抱えていたとしても」

 

「そ、それは……!」

 

そうだ。

ミライは普段こそ天真爛漫な子供のような性格だが、ふとしたときに別人のようにこちらの心境を鋭く見抜いてくる。

今もそう。

屋根の上からサロンの様子を羨む自分の姿だけで、ミライは自分に極秘の任務があることを見抜いていた。

そして……、

 

「無理に言わなくていいんです。ただ……、苦しくなったとき、自分だけではどうにもならなくなったときは、迷わず呼んでください。僕達は、何があってもあざみさんの味方です」

 

「……ミライ……」

 

見抜いた上であえて聞かない。

それが御剣ミライという人間の優しさだった。

自分から暴くことは決してない。

こちらから打ち明けるまで、ただ胸の中にしまい続ける。

こちらを信じて、全てを委ねてくれる。

だから、安心できる。

彼は味方だと。頼れる存在であると。

 

「ミライ……」

 

だからだろうか。

 

「……お願いが、ある……」

 

あざみは、普段なら絶対にしない頼みを、彼に託した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千秋楽の興奮から一夜明け、地下に存在する作戦司令室には花組隊員一同が顔を揃えていた。

今朝になり、帝都全体で頻発する怪事件について情報共有が言い渡されたためだ。

姿を見せぬ不穏な影の存在に、各々の表情も険しいものに変わる。

 

「あざみさんは?」

 

召集を異渡した張本人が、姿を見せない人物の名を上げる。

言いにくそうに答えたのは、さくらだった。

 

「はい……、召集があってすぐ部屋を訪ねたんですけど……」

 

「いなかったのね?」

 

「はい……」

 

その答えに、すみれの表情に険しさが増す。

するとその様子に取り繕うように、初穂が口を開いた。

 

「だ、大丈夫だって。今までも月組の任務が重なっていつの間にかいなくなってたこともあったし……」

 

「そうね。でも、今はいなくなっていることが問題なのよ」

 

だがその方便も、場の空気を余計に重くするだけだった。

そんな中、神山は意を決して指令に問いただした。

 

「神崎司令。その怪事件とは一体? あざみとなにか関係が?」

 

「順を追って説明するわ。カオルさん、モニターに映して」

 

すみれの指示でカオルが手元のパネルを操作する。

すると帝都全体を写していた電光マップが、ある一つの新聞記事に切り替わった。

 

「先月から、帝都全体で謎の失踪事件が相次いでいます。被害者は子供から高齢者まで接点がなく、交友関係も存在しません」

 

「つまり、無差別に拉致されているということ?」

 

「それだけやない。行方不明になってから数日後に、被害者はいずれも死因不明の遺体となって発見されとる。司法解剖の結果、どれも発見されたその日に殺されたみたいやな」

 

モニターが新聞記事から10人弱の人間の顔写真に切り替わる。

年齢、性別、出生地、交友関係、すべてが整合性の無い犠牲者達の顔写真。

その中の一つに、初穂が声を上げた。

 

「おい……、あれ、ひろみさんじゃ……!?」

 

その声に、さくらやクラリスも悲鳴のような声を出しかけ、必死にこらえる。

明らかに顔見知りを見たときの反応だ。

 

「初穂、知ってるのか?」

 

「ああ……、銀座の和菓子屋さんで、よく楽屋用の菓子を買いに行ってたんだ……」

 

「この間からずっと閉まってて不思議に思ってたんですけど……、こんなことになっていたなんて……」

 

「これまで発見された行方不明者は7名。唯一遺体が見つかっていないのは、本郷ひろみさんだけです。しかし……」

 

「最悪の事態は、覚悟しておいたほうがよさそうね……」

 

冷静に、だが容赦の無いアナスタシアの言葉に、一瞬希望を見出しかけたさくらたちの表情が歪む。

確かにそうだ。

拉致した挙句に何らかの形で殺害し、ゴミ同然に捨てていくような非道な犯人のこと。

ここでひろみだけを生かしておく必要も理由も無い。

だがここで神山にはある疑問が湧き上がった。

これまでの話の流れが、あざみの所在に結びつかない。

着任当初から月組に出向し隠密調査に従事してきたあざみ。

そんな彼女が帝劇を空けていくことが指して珍しくないことは、初穂の証言からも明らかだ。

では何故、すみれはここであざみの所在を気にしているのか。

その理由は、次の画像が物語っていた。

 

「そしてこちらが、遺体発見現場に残されていた遺留品です」

 

「これは……、忍具!?」

 

神山は一瞬目を疑った。

それはどう見ても忍者が用いるクナイと手裏剣。

何故そんなものが犯行現場に残されていたというのだ。

 

「月組隊長の証言によれば、あざみさんは花組への異動を言い渡された後も深夜に独自で動いていたというわ」

 

「そんな……、あざみの仕業だって言うのか!?」

 

たまりかねたように立ち上がり、初穂が叫んだ。

その顔は怒りと戸惑いと悲しみが混ざり、震えている。

 

「アタシはアイツを知ってる! あざみは人殺しのために手裏剣を投げるようなやつじゃない! こんなこと……こんなことあざみがやるわけ無いだろ!!」

 

「初穂さん、落ち着いて下さい。まだあざみさんが犯人とは誰も……」

 

隣に座るミライが宥めかけたときだった。

隊長責に座る男が、こう言い切ったのである。

 

「そうだな。少なくともあざみは、拉致された被害者の殺害には関与していないだろう」

 

「え? でも、現場には手裏剣やクナイが……」

 

そう言いかけるさくらに、神山は人差し指を立て、順番に解説を始めた。

 

「確かに一見すると、用済みとなった被害者を現場でクナイや手裏剣で殺害したように見える。だが考えてみて欲しい。もし殺害が目的なら、わざわざ拉致する必要があるだろうか」

 

「そうね。物騒な話だけど、殺害だけならその場で行うことも出来るわ」

 

アナスタシアの補足で、さくらたちも確かにと頷いた。

殺害が目的なら、拉致せずともその場で始末すれば済む話である。

わざわざ人目を盗んで連れ去り、人目の無い時間帯に連れてきて殺害する、というのはあまりに非効率だ。

しかしだとすると、犯人の目的はなんだろうか。

 

「そして拉致する必要があったとして、殺害時にこうした証拠を残すことが不可解だ。実際、拉致が起きたときは何の証拠も無かったんだろう?」

 

「それじゃあ、なぜわざわざ殺害時に証拠を……?」

 

核心を突くクラリスの問いに、神山は重々しく頷いた。

 

「そうだ。わざわざ身元がバレるような手裏剣を現場に残していったのか。これは仮説だが、犯人はこの一連の犯行を誇示しようとしていると思う」

 

「この失踪事件を、誰かに見せ付ける、ですか……?」

 

「その相手が俺達なのか、他の誰かなのかは分からない。だが犯人は、敢えて現場に忍具を残すことで、この一連の犯罪に忍の存在を匂わせている。そうすることで何らかの利を得ようとしているんだ。もしくは……」

 

「あざみさんの犯行に見せかけて立場を危ぶませるため、ですね?」

 

「俺の見解は以上です。司令は、どう思われます?」

 

ミライの結論を肯定し、改めてすみれに視線を移す。

険しい顔をしていた総司令も、納得した様子で安堵の笑みを浮かべた。

 

「私もそう思いますわ。まるで煙のように被害者が消えた拉致の状況と比べ、遺体発見時の状況はあまりにお粗末が過ぎます」

 

「じゃあ、あざみは……」

 

「関わっている可能性は否定できないが、恐らく本意ではないだろう。もし意図的に関わっているなら、花組異動を命じられた時点で完全に行方をくらませるはずだ」

 

少なくともあざみが能動的にこの事件に関与している可能性は、限りなく低くなった。

だがそうなると、ますますあざみの行方と安否を確かめる必要が出てきた。

本意でないとなると即ち、別の誰かに弱みを握られるなどして従わされている場合も考えられるためである。

 

「隊長、その事なのですが……」

 

「どうした、ミライ?」

 

早速あざみの足取りを追うために各々動くべきかというところで、意外な人物が声を上げた。

ミライである。

 

「昨晩、あざみさんから手紙を預かっているんです。自分を探そうとしたときに、渡すようにと……」

 

「あざみが……? こ、これは……!?」

 

受け取った手紙には、こう記されていた。

 

『神山隊長、以下隊員の皆。

 

この手紙を読んでいるという事は、あざみの行方を捜そうとしている事と存ずる。

 

だが、すまない。あざみの事を皆が知ったと気取られると、すべてが終わってしまう。

 

どうか探さないで欲しい。あざみは必ず戻ってくる。

 

望月の名に誓い、どうか信じて欲しい』

 

手紙の内容は、事態を察知されないための念押しだった。

やはり何か弱みを握られているのだろう。

自分達がそれを知ったと悟られれば、あざみにとって不都合なことが起こる。

だからこそ自分達を頼れない。単独で動かざるを得ないのだ。

 

「探さないでくれったって……、じゃあどうすれば……」

 

「平常を装う、ということかしら。あくまでこちらは相手の動きに気づいていない。そう見せかければ、彼女の懸念を少しは軽くできるんじゃないかしら」

 

確かにアナスタシアの言うとおりだった。

あざみがわざわざ書置きまで残して懸念しているのは、自分達があざみの動向の異変に気づいたことによる状況の悪化。

あざみの身に異変が起きていると自分たちが気づいたことで、彼女の状況が悪化することに繋がるのなら、それは避けなければならない。

ならば今自分達の取れる最善のアクションは、何事も無いように装うことだ。

手分けしてあざみの行方を捜したところで、隠密活動は向こう側が長けている。見つかる可能性はまず無い。

ならばそうして無意味なリスクを犯すより、彼女を信じて少しでも懸念材料を減らすよう動くべきだろう。

 

「だがいつまでも動かないわけには行かない。タイミングを決めよう」

 

しかし同時に、これだけの被害が水面下で起きている状況を静観できるわけではないことも事実だった。

月組をして不覚を取ったという事は、相手は降魔か人外の存在である可能性が拭いきれない。

そうなれば生身一つのあざみだけでは危険だ。

故に神山はある段階まではあざみの指示通りに平静を装いつつも、それを境にあざみを捜索、救助に向けて動くことを決めた。

 

「刻限は今日の深夜12時。それまでにあざみの安全が確認できなかった場合、花組全員で捜索を開始する。それまでは可能な限り平静を装うように」

 

「「了解!!」」

 

恐らく花組にとって、今までで最も長いであろう一日が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に太陽は沈み、帝都の町を夜の闇が包み始めていた。

人通りが徐々にまばらになり、人気の無くなった銀座の路地裏。

その中を、ひた走るひとつの小さな影があった。

帝国華撃団月組隊長『西城いつき』である。

日中身動きの取れない花組に代わり、あざみの安否調査を買って出たいつきは、日の出から今に至るまで彼女の行方を人知れず追い続けていたのである。

 

「(品川、浅草、日本橋……いずれも眼は残っていた。とすれば……)」

 

月組は周辺調査に際し、各地区の境に目立たないように目印を残している。

通常ならば人の出入りの無い場所のそれが踏まれるなどして消えていた場合、普通ではない『何か』がそこを通過したことを意味するもの。

同様に異変を発見した場合、そこに通じる眼を意図的に消すことで仲間に急を知らせることも出来る。

月組はこれを『眼』と名づけ、帝都周辺の調査の切欠としていた。

銀座周辺から周囲に繋がる眼はいずれも健在。

とすれば敵またはあざみはその場所を通過していない。この銀座の区域内にいるということだ。

 

「……!」

 

何かを目にしたいつきが足を止めた。

眼が消えている。

踏み荒らされたのではない。刃物か何かで地面ごと抉った跡だ。

この消し方はあざみ。それも急を要する。

 

「こっちか……!!」

 

廃墟の立ち並ぶ一角。

そこから感じる只ならぬ悪寒に何かを感じ、いつきは駆ける。

願わくば、無事でいて欲しい。

あざみも、ひろみも無事であると信じたい。

そして……、

 

「あざみっ!!」

 

駆け抜けた先に見えた人影に、いつきは思わず叫んだ。

探して件の少女は、そこにいた。

だが反応が無い。

まさか……、

 

「あざみ……、これは……!!」

 

みればあざみは、浅くは無い傷を負っていた。

隠密にはやや不向きな黄色の目立つ服。

その右わき腹に包帯が巻かれ、血が赤黒く滲んでいた。

地面に転々と残された血の跡。

まさか、手傷を負ってここまで逃れてきたのか。

 

「……い……、いつ……き……?」

 

弱弱しい声が聞こえた。

眼を閉じたまま、こちらの名を呼ぶ。

その姿は、明らかに……

 

「あざみ、しっかりして! 何があったの!?」

 

振動を与えないように注意しつつ抱きかかえて呼びかける。

息遣いが荒い。僅かに苦悶に顔をゆがめている。

何かにやられたのか。

裂傷にしては広い。出血量からすると深くは無いのかもしれないが、時間が経っているとなると失血が……、

 

「い……つき……、逃げ……て……」

 

「逃げてって、一体どうし……、!?」

 

そこまで口に仕掛けたとき、いつきは見てしまった。

 

「な……!?」

 

最初に感じた異変は、急に弱くなった月明かりだった。

今日は満月。ましてや周囲に遮る建物など無い。

何事かと思い顔を上げると、それはいた。

 

「何だ、コイツ……!?」

 

それは、明らかに通常の生物とは逸脱した体をしていた。

限界まで肥大化し、家一軒はあろうかという巨躯。

炭のように黒く変質した固い皮膚。

こちらを見下ろす赤い一つ目と、耳元まで大きく裂けた顎。

そしてその全身を包み込む、視認できるほどの濃度で溢れ出る妖力。

降魔とは似て非なる正体不明の怪物が、こちらを見下ろしていた。

 

「……、くっ!!」

 

腕を振り上げる怪物に、咄嗟にあざみを抱えて飛び退る。

目標を失った豪腕はその場の地面に深々と突き刺さり、四方八方に亀裂を生み出した。

何という威力だ。

あんなものをまともに喰らえば、とても……

 

「何なのアレは……!? 降魔……、それとも……」

 

ひび割れた地面から腕を引っこ抜く怪物を凝視したまま、いつきはゆっくりと後ずさる。

幸い動きは素早くはなさそうだ。

あの隙だらけの動きからして、知能もさして高くは無いだろう。

ならば気取られぬように少しずつ距離を離していけば……、

 

「ゴオオオオッ!!」

 

「!?」

 

再びあざみを抱えて逃げようとした矢先だった。

何と先ほど距離をとったはずの怪物が咆哮を上げると、信じられない速さで眼前に迫っていた。

バカな。

先ほどの動きは、こちらに動きが鈍いと誤認させるためにわざと外したというのか!?

 

「ごふっ!?……が……」

 

豪腕に押しつぶされるように叩きつけられた背中が嫌な音を立てた。

衝撃で呻きに血が混じる。

まさか、ひろみもコイツにやられたのか。

 

「ぐっ……うう……」

 

せめてあざみだけはと傷ついた体を鞭打って覆いかぶさる。

再起を果たしたはずの月組であったが、思ったより早い終焉であった。

元々二人で再出発したばかりの隠密部隊。

だが時がたてば、また新たな月が夜の帝都を照らすであろう。

 

「ゴオオオオオッ!!」

 

こちらを踏み潰さんと、怪物がその足を振り上げる。

そのときだった。

 

「……え?」

 

一瞬、いつきは何が起きたのか分からなかった。

自分は今、この巨大な怪物によって踏み潰されたはず。

だが、その無慈悲な死の一撃は、今だ襲ってこない。

何事かと顔を上げたとき、信じられない光景が広がっていた。

 

「間に合ったか」

 

「そのようだな」

 

黒と白。

剣と拳。

男と女。

一つの共通点も見出せない男女が、こちらを守るように怪物の前に立ちはだかっていた。

 

「ゴオオオオッ!!」

 

標的を男女に変え、怪物が再び巨腕を振るい襲い掛かる。

動いたのは、男だった。

 

「ぬぅん!!」

 

真正面から迎え撃つように右の拳を突き出す。

瞬間、右腕から青白い光が溢れたかと思うと、その豪腕は巨腕へと肥大化と遂げた。

 

「ずああっ!!」

 

右腕の光が輝きを増し、閃光を放つ。

それにたじろぐように怪物の体が泳いだ時、今度は女が動いた。

 

「月下に彩られし雪原の華よ……、風と共に闇を斬れ! 天剣・雪月風花!!」

 

その腰に据えられた細身の刀が、淡い光を纏って袈裟懸けに怪物を切り伏せた。

一撃。

あの怪物を、彼らは只の一撃で仕留めて見せたのだ。

一体何者なのだ。

 

「我々は君達の敵ではない。その証拠に、総司令は我々の顔を知っている」

 

こちらの心理を呼んだかのように先に女が背を向けたまま答えてしまった。

続けて男が倒れ伏した怪物に歩み寄る。

 

「総司令に伝えなければならん。『神器』が必要だと」

 

聞きなれぬ言葉に眉をひそめる。

だが次の瞬間、信じられない光景が飛び込んできた。

 

「……、ひろみさん!?」

 

それは、怪物を包む妖力が消えうせたときだった。

まるで卵の殻が割れるように、怪物だったものの皮膚がひび割れて崩れ、中から行方の分からなくなっていた月組隊員が現れたのだ。

今だ意識は無いが、確かに胸が呼吸で動いている。

安堵のあまり、思わず足の力が抜け、へたり込んだ。

 

「手負いの身で済まないが、総司令の元まで同行してくれるか?君の証言も必要だ」

 

「……ええ、もちろん」

 

本当は下手に動きたくないところだが、この状況では一分一秒が惜しい。

あざみとひろみを抱えて歩き出す二人の背中を、月組隊長は一瞬肩をすくめ追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重傷を負ったあざみが保護されたという一方に、夜の大帝国劇場は騒然となった。

何せ今だ連絡の無い彼女に痺れを切らしていよいよ捜索に乗り出そうかという矢先の事態である。

あざみは直ちに医療ポッドによる治療が開始され、花組隊員達は再度作戦司令室に集まった。

 

「師匠!? どうしてこちらに!?」

 

作戦司令室に入るや否や、最初に驚きの声を上げたのはさくらだった。

師匠と呼ばれた銀髪の女性も、さくらを見て柔らかい笑みを浮かべる。

 

「成り行きでね。久しいなさくら、鉄幹殿に聞いてはいたが、元気そうで何よりだ」

 

「さくら、知り合いか?」

 

「はい、私に剣を教えてくれた『村雨 白秋』さんです。父の古い友人で、その縁で……」

 

「私は『天川 銀河』。白秋殿と知った顔ゆえ、立ち入らせていただいた」

 

「その剣技で此度のあざみさんの窮地を救ってくださったこと、この場を借りてお礼申し上げますわ」

 

白秋とその横に立つ銀河と名乗った男に、すみれは深々と頭を下げて礼を述べる。

白秋は遠慮がちにそれを制すると、この場の全員を見渡し話し始めた。

 

「先ほど花組隊員の一人、望月あざみ殿と、月組隊員本郷ひろみ殿を保護した。大まかに言えば、何者かに変異させられ自我を失っていたひろみ殿から、あざみ殿を救助したというべきか」

 

「ひろみさんが変異って、どういうことですか!?」

 

「ひろみ殿は何者かの手によって体内の霊力を根こそぎ奪われ、代わりに妖力を注入されていた。その結果理性を失い、眼に映るものすべてを破壊する怪物となっていたんだ」

 

にわかには信じがたい話だった。

人間の体内には代償の違いこそあれど霊力が存在し、その枯渇は生命力の枯渇を意味する。

そこに降魔の原動力たる妖力を注ぎ込むことで怪物化させるというのは、聞いた事が無い。

 

「遂に、現実が追いついてしまったのですね」

 

「ああ。『降鬼』は降魔と並び、人類を阻む存在……。既にそのカラクリを悪用するものが存在していたのだろう」

 

「降鬼……、変異された怪物をご存知なんですか?」

 

まるで昔からその存在を知っていたかのように語る銀河に、神山が問いかける。

銀河は、重々しい表情のまま頷いた。

 

「ああ。恐らく降魔の中で悪知恵の働くものが、拉致した人間に興味本位で妖力を注入したのだろう。私も以前相対したことがあるが、元が人間であるだけに只単純に倒すというわけにも行かないのが厄介なところだ」

 

「じゃあ、今まで発見された遺体は……」

 

「あざみ殿が人知れず戦い、止む無く倒したのかもしれん。そもそも一度霊力を抜き取られた時点で、その人間が息を吹き返す確立はあまりにも低い。ひろみ殿は奇跡的にも霊力が残されていたから、辛うじて生きていたのだ」

 

ここに来て、事態は風雲急を告げていた。

帝都民の失踪に始まる連続怪死事件。

それは降魔かそれに準ずる何者かが人々を拉致し、霊力を奪い妖力を注ぎ込むことで未知なる怪物『降鬼』を生み出していたというものだった。

そしてそれを、何らかの弱みを握られた望月あざみが一人孤独に戦い続けていたというのだろう。

だとすれば異動が言い渡されて尚深夜に単独で動いていたことも、こうして自分の捜索を拒否したことも、傷を負っていたことも説明がつく。

 

「クソッ! こうしちゃいられねぇ! 隊長さん! 今からでもあざみに降鬼だか国旗だかけしかけたクソ野郎ぶちのめしてやろうぜ!!」

 

「オレも賛成だが……、敵の本拠地が分からない。帝都内のどこかに潜伏しているとは思うが、破壊活動も行っていない相手には、先手が取れないんだ」

 

真実を知りいきり立つ初穂に同意しつつも、神山は力なく首を振る。

自分達は防衛組織だ。敵が攻撃の動きを見せない以上、これに対応することは出来ない。

帝都民を幾人も殺生した挙句、仲間に深い傷を負わせた敵を許すことなど到底出来ないが、こちらから手出しのしようが無いというジレンマに、誰もがやりきれない。

その気持ちを代弁したのは、他ならぬすみれであった。

 

「分かりました。あざみさんが意識を取り戻し次第、今度こそ詳細を伺いましょう。そして今度は、花組全員を持って悪を沈めます。この帝都でこれ以上の蛮行、許してはなりませんわ」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃えていた。

 

その日、何もかもが燃えていた。

 

「ハァ……、ハァ……、ハァ……!!」

 

悲鳴と爆音が木霊し、燃える炭や死体を避けて、舐めるように肌を焼く炎に巻かれながら逃げ惑う。

 

「(この芽を毎日欠かさず飛ぶ。さすれば敵の刀など容易く跳びかわせるじゃろう)」

 

ウコンは腰から下が無かった。

 

「(おうあざみ! でけぇイノシシが獲れたぞ! 今日は豪勢に鍋だぁ!)」

 

センゾウはお腹の中身が溢れていた。

 

「(大きくなったら一緒に月組に入ろう! 立派なくのいちになって帝都の平和を守るんだ!)」

 

すずは手足をもがれて杭に突き立てられていた。

 

みんな、みんな死んでいた。

 

昨日まで、あんなに笑いあっていた里のみんなが、殺されていた。

 

「頭領……、頭領!!」

 

もつれそうな足を必死に走らせて、一縷の望みを賭けて獣道をひた走る。

 

そして、

 

「頭りょ……」

 

里の最奥にある屋敷の襖を開け放つ。

 

「……う……」

 

そこに、探し続けていた頭領はいた。

 

「……あ……ざ……、……み……」

 

半身を赤い池に沈めた、変わり果てた姿で。

 

「う……うわあああぁぁぁ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハッ!!」

 

世界がひっくり返ったとき、目の前に見えたのは緑色に染められた湾曲した天井だった。

少しだけとろみのある液体の中に漂っていたことに気づく。よく窒息しなかったものだ。

 

「そうだ、あの時……」

 

僅かに覚醒した脳が、先の不覚の記憶を映し出す。

あの妙に動きの素早い怪物に手傷を負い、いつきに助けられた。

ならば恐らくここは帝劇内部。

自分の実情も、知られてしまっているだろう。

 

「あれは……」

 

ふと、視線が隅に並べられた霊子戦闘機を向いた。

やっと配備された、自分の戦闘機。自分の機体。

自分も、戦える。

 

「……」

 

まだ、望みはある。

握り拳に、力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、大帝国劇場も久しぶりだな」

 

食堂の椅子に腰を下ろし、白秋は懐かしむように周囲を見渡す。

すみれと旧知であるという事からも、恐らく帝国華撃団再始動以前にここを訪れていたのだろう。

 

「かつての降魔大戦から時を止めていたこの場所が、君達の手で時を刻み始めた……。双方を知る身としては、感慨深いものを感じるね」

 

「し、師匠ったら、おばあちゃんみたいなこと言わないで下さいよ……」

 

自分と比べ大分気安く白秋と話すさくらの様子に、神山も二人の近さを感じる。

幼少期から花組入隊を志したさくらに一から剣を教えたという白秋。

こうして気を許している間ですら微塵の隙を感じさせない佇まいに、神山も剣を振るうものとして畏敬の念を抱かずにいられない。

 

「さて、君が神山誠十郎君だね?さくらから話は聞いているよ」

 

「改めまして、帝国華撃団花組隊長、神山誠十郎です。白秋さん、こちらこそお会いできて光栄です」

 

先ほどは有事ゆえに満足な自己紹介が出来なかったため、この場で改めて挨拶をする。

その様子に、白秋は何かに納得したように頷いた。

 

「良い顔をしているね。なるほど、さくらが気に入る訳だ」

 

「ちょっ……、やめてくださいよ師匠!!」

 

「え? え? どうしたのさくら?」

 

何やら意味深な言葉と共に目を細める白秋に、顔を真っ赤にして慌てだすさくら。

一人状況の分からない神山は、真顔のまま焦る。

すると、その様子が面白かったのか白秋はそっぽを向いて噴出した。

 

「フフフ、いや失敬。久しぶりに可愛い弟子をからかいたくなってね」

 

「もう、知りません!!」

 

羞恥に耐えられなくなったのか、バタバタと走って行ってしまうさくら。

その後姿を微笑みながら見送ると、白秋は改めて神山に向き直った。

 

「さくらは昔から芯の強い努力家だ。剣を持ったことが無いにも拘らず、私の剣の基本を身につけるまで数年しかかからなかった」

 

「はい。今も花組の根幹を支える、頼もしい存在です」

 

「だが、それは同時にさくらの短所でもある。一途であるが故に留まる事が出来ない。いや、留まることで停滞する自分を恐れているのだろう」

 

「それは、確かに……」

 

これまでのさくらを思い返し、神山も同意する。

花組に入ると決意し、一心に剣を学び、今は舞台で歌い踊ることを学び、ひたすらに研鑽の歩みを止めない。

常に何か前に進んでいなくては気がすまない。それが天宮さくらという人間だった。

今でこそ、それは花組の原動力の一つとしてプラスに機能している。

何事にも前向きで積極的な彼女の姿勢は、周囲の人間の意識も同調させてくれる。

隊長として、これほど頼もしい存在は無い。

だがその一方で、彼女のアイデンティティがその一点に集中しているという事実は、危惧しなければならないと言えた。

さくらといえば常に稽古か鍛錬のイメージばかり。

逆にそれを無くしてしまうと、さくらの特徴も何もなくなってしまうのだ。

それは、共に夢を誓い合い、共に叶えた幼馴染にも同じ事が言えた。

 

「私もさくらを幼い頃から見てきたが、前向きすぎるきらいは拭えない。修行と称して冬の川に何度飛び込んだことか……」

 

「そ、そんな事を……」

 

昔から彼女の行き過ぎた努力は顕在だったらしく、さしもの神山を苦笑いを浮かべるほか無い。

だがそれこそ、白秋が神山に一つの期待を抱いていた理由だった。

 

「だから隊長である君がさくらをどんな風に見ているか、把握しているか知っておきたかった。都合よく使い潰すような冷血漢でなくて安心したよ」

 

「俺にとっても、さくらは大切な仲間であり、幼馴染です。隊長として、しっかり彼女を支えて見せます」

 

「良い言葉だ。頼んだぞ、神山君」

 

力強い返事に、微笑と共に頷き返す白秋。

だがこの時、神山は気づいていなかった。

彼女の紅の引かれた唇が、僅かに動いていたことを。

 

「……ただ、今のさくらには50点かもしれないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀河さん!!」

 

作戦司令室から解散し、各々が一時的に休息を取るため自室へと戻る中、ミライは一人あの場にいた男の背中を追っていた。

その背中を見かけたのは大帝国劇場来賓玄関口。

扉を開こうと手をかけたその背中に、ミライは思わず叫んでいた。

 

「……何か?」

 

黒ずくめのコートが振り返る。

高い身長も相まって、こちらを見下ろす威圧感に圧倒されるミライだが、怖気づく事無く尋ねた。

 

「貴方は……、貴方も、なんですか……?」

 

僅かに言葉に迷いながら、ミライはそう問いかけた。

最初に感じたのは、他の人間には感じなかった違和感だった。

自分と同じ、『光』を持つものにしか感じない波動と感覚。

それが、眼前の青年から確かに感じた。今まで感じたことの無い、強さと悲しさを含んだ、光の波動。

そしてそれは、向こうも同じはず。

ならば彼もまた、自分の光に気づいたはずだ。

もしそうなら、彼は……

 

「……そうか。あの感覚は、君だったのか」

 

「……やっぱり!」

 

返ってきた答えは、肯定だった。

途端にミライの表情はほころぶ。

間違いない。

彼もまた、自分と同じ光だ。

この星の平和を守る、戦士の一人なのだ。

そう確信したミライは、弾けんばかりの笑顔で笑いかけた。

 

「僕は御剣ミライ! 貴方と同じ、この星の平和を守る使命を託されたものです!」

 

「……ミライ……か……」

 

「はい! ……どうかされました?」

 

「いや、すまない。こちらの私情だ……」

 

「あっ、待ってください!」

 

一瞬自身の名に顔を歪めかけたことを不思議に思いながらも、背を向ける銀河を呼び止めるミライ。

 

「銀河さん! 貴方はご存知なんですか!? 10年前、降魔皇と戦った彼らのことを!!」

 

あの日、自分をこの星へと導く切欠となったウルトラサイン。

そのときの戦いの顛末を、自分は僅かしか知らない。

だからこそ今、この場にいる生き証人に聞きたかった。

あの日、あの時、この星で何があったのかを。

 

「……少なくともあの瞬間、この星の進む道は確かに変わった」

 

「え……?」

 

「本来ならば君も、私も、この星に来ることは無かった。だが今……たしかに希望は芽吹いている。それだけは紛う事なき事実だ」

 

「銀河さん……、貴方は、一体……」

 

まるで自身がこの星の、この世界の人間ではないかのような口ぶりに、戸惑いを隠せないミライ。

と、銀河はこちらを振り向き、問いかけた。

 

「ミライ君。桜の花がなぜ美しいか、知っているか?」

 

「桜の花、ですか……?」

 

「それは、儚くも強く咲くからだ。花びらひとつはそよ風に散ってしまうほどか弱い。だがそれでも、一つ一つの花びらは一瞬でも美しく咲こうとあり続ける。だから美しいのだ」

 

まるで思い出の何かを慈しむ様に、銀河は拳を握り、胸に当てて眼を閉じる。

それは、かつて記憶の中に大切な何かを置いてきてしまったような寂しさを、ミライに感じさせた。

 

「どうか忘れないで欲しい。君とともにある仲間達もまた、そんな花びらのような儚さを併せ持つと言うことを。その花びらたちを守ることができるのは今、君だけなのだ」

 

「銀河さん、それは貴方だって同じはずです……。そうだ、貴方も一緒に、花組で戦いませんか?」

 

そんな彼を慮り、ミライは共闘を申し出た。

この星を愛し、この星の命を慈しみ、この星の未来と共にあるのならば、自分達の目的は同じはず。

だが、銀河は陰りのある笑顔を残し、首を振った。

 

「すまない。私は必要以上に君達に干渉できない立場なんだ。それが、咎というものだ……」

 

「咎……? それは……」

 

「いずれ、分かる時が来る。いずれ……」

 

「……、銀河さん!!」

 

その言葉を残し、銀河は今度こそ夜の闇に消えていった。

開け放たれた扉が閉まる音を最後に、その場を静寂が支配する。

 

「咎……。一体何が……」

 

銀河の残したいくつもの不可解な言葉に、ミライは一人頭を悩ませる。

 

 

 

 

 

 

そのときだった。

 

 

 

 

 

 

「降魔警報!?」

 

「ミライッ!!」

 

警報と同時に、2階にいた初穂が血相を変えて飛んできた。

 

「初穂さん! 何かあったんですか!?」

 

「大変だ!! あざみが……、あざみが無限で出撃しやがった!!」

 

「な、何ですって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時をどれほど待っていたか。

 

思い返せば今でもはらわたが煮えくり返る。

 

『務めを全うした』

 

たった一言。

 

あの時、投げかけられた言葉はたった一言だった。

 

この身を懸けて生涯守ると誓った最愛の人の死は、わずか一言で片付けられた。

 

その瞬間、自分の中の心の核を成していた物が、粉々に砕けていく音が聞こえた。

 

務めとは何だ。誇りとは何だ。

 

それを全うし死んだ彼女に、一体何をしたというのだ。

 

こんなことのために、今まですべてを捧げてきたのか。

 

こんなことのために、彼女は死んだのか。

 

失意は疑心に変わり、疑心は絶望に変わり、やがて絶望は狂気へと変わる。

 

そんな自分に、振り向いてくれる者がいた。

 

『帝都が憎いか』

 

その男はそう問うた。

 

是と答えた。

 

妻を奪い、挙句捨てた街など、守るに値せず。

 

『気に入った。一緒に帝都を潰そう。力なら貸してやるさ、いくらでもな』

 

その瞬間、忍の、人の矜持は全て捨てた。

 

簡単だった。

 

少なくとも手錬であったはずの老兵が、時代を継ぐはずの若葉が、

 

みんながみんな成すすべなく豆腐のように引きちぎられ、虫のように潰されていく。

 

こんな滑稽な見世物があろうか。

 

こんな愉快な見世物があろうか。

 

狂ったように嗤った時、また声が誘った。

 

『知ってるか?人間は霊力を抜かれると死んじまうんだ。けどよ、代わりに俺たちの妖力を入れたらどうなるんだろうな』

 

新しい楽しみが始まった。

 

平和ボケした町の人間など、気取られずに連れ攫うなど造作も無かった。

 

とにかく様々な人間で試した。

 

年老いた人間は耐えられるか。

 

子を孕んだ女はどうなるか。

 

歳幼いガキにはどうか。

 

『やめてくれ!! 足の不自由なお袋が……、僕が介護しないと……』

 

『お願いです……! お腹の子は……、あの人との子供だけは助けて……!!』

 

『ママー!! パパー!! 痛いよーー!! 痛いよーーー!!』

 

どの断末魔も忘れられない。

 

お前達が殺した妻の苦しみに、無念に比べればなんて小さなものだ。

 

こんな奴らに妻は殺されたのだ。

 

泣け、喚け、許しを請え。

 

そうしたら眼を抉り、耳を裂き、喉を破ってもっともっと苦しめてやる。

 

楽しかったな、あれは。

 

そして、最高のチャンスが巡ってきた。

 

帝国華撃団花組。

 

かの大戦の折に消滅したはずの霊的組織が復活した。

 

ちょうどいい。

 

今や崇拝するあの御方に認めていただくために、これほど素晴らしい首は無い。

 

どうやって殺してやろうか。

 

身動きを封じて一人ずつ生きたまま解体しようか。

 

全員纏めて閉じ込め、誰か一人だけ助けると嘯いて殺し合わせるのもいいな。

 

結束など名ばかり。自分だけ助かろうと醜態を晒すに違いない。

 

そう思っていた。

 

だが……、

 

「……貴様だけか」

 

「いかにも」

 

落胆の色を露骨に見せると、ヤツは一丁前にクナイを抜いて見せた。

 

こんな滑稽な話があるか。

 

技量も経験も天地の差があるこの俺に、忍の術で勝負するつもりか。

 

全くばかげた話だ。

 

それならその首を持って憎き帝国華撃団に、帝都に凱旋するとしよう。

 

「里の掟49条。裏切り者には、死、あるのみ」

 

「片腹痛いわ。虫けらは消えろ!」

 

即座に配下の機械兵たちを差し向ける。

 

さあどうだ、これでお前は袋のネズミ。

 

醜く命乞いをしろ。

 

そうすればこの世で最もむごい死に方をさせてやる。

 

「花組は……、最後の家族。あざみが、絶対守って見せる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けたたましい警報が鳴り響く中、作戦司令室には焦燥を表情に浮かべた花組が顔を揃えていた。

理由は言わずもがな、この場に残された空席の人物である。

 

「話に聞いていると思うけど、つい先ほど意識を取り戻したあざみさんが、無限で単独出撃しました」

 

「通信機能も遮断され、こちらからの連絡は出来ない状況です」

 

「追いかけようにも他の霊子戦闘機はご丁寧に機関部にクナイが刺してあって使用できひん。今司馬はんに緊急整備してもろとるけど、出撃まで時間がかかるやろうな」

 

「あざみ……、何でこんな無茶を……!!」

 

誰にも気取られずにことを起こしたという事は、恐らく意識を戻してすぐに出撃したということ。

只でさえ傷がいえていない状態で、一人で出撃するなど自殺行為だ。

一体何があざみをここまで突き動かすというのか。

真意を測りきれず答えのない問答が続く。

だが、その答えは意外なところから齎された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一族の……、裏切りです……!」

 

 

 

 

 

 

 

「ひろみさん!?」

 

その言葉と共に作戦司令室に姿を見せたのは、いつきに肩を借りながらおぼつかない足取りで歩くひろみだった。

恐らく彼女もまだ意識を取り戻して間もないのだろう。

いつきに支えられているとはいえ、いまにも倒れそうだ。

 

「すみません、司令。あざみの話を聞いて、何としても伝えなければならないと……」

 

「そうね。今やあざみさんの真実を知るのは貴方だけですわ。ひろみさん、あざみさんに何があったの?」

 

神山に椅子を譲ってもらい、腰を下ろしたひろみは、時折深呼吸をはさみながら話し始めた。

 

「いつきちゃんの命令で密かにあざみちゃんの動向を探ってすぐでした……。人気の無い路地裏で、何者かに襲われたんです」

 

「隠密のプロの月組でも気づけない相手か……」

 

「次に意識を戻したとき、私は知らない洞穴の中で拘束されていました。周囲には同じように牢に繋がれた人たちが何人もいて……その中心で……」

 

「実験が行われていたのね。霊力を搾り取り、妖力を流し込んで降鬼を生み出す実験が……」

 

「奴らは二人でした。私の正体も感づいていたみたいですが、どうせ殺すなら変わりないと、気にも留めず……」

 

それは、語るにおぞましい降魔実験と花組殲滅計画の全貌だった。

帝都で無作為に拉致した人間を降鬼に作り変えて通り魔的に市民を襲い、花組を誘い出す。

しかし降鬼の中身は人間。倒した後に死体が発見されれば、たちまち帝国華撃団は帝都民を殺害した国賊として信用を失う。

そうして人々の疑心を煽ったところで本格的に降鬼を大量生産して帝都中枢を攻撃。

功を焦ってこちらの本拠地を攻めてきた花組をいくつもの罠で一網打尽にしようというものだ。

 

「奴らは最後にあざみちゃんを嗤っていました。『頭領の名を出すだけで折れるような軟弱など望月には不要。ヤツの首を以って、望月流は真に降魔に忠誠を誓う』と……」

 

瞬間、花組の誰もが怒りに拳を振るわせた。

大切な仲間のあざみを、まだあどけなさの残るあざみを、愚弄し利用した挙句に殺すつもりだったとは。

 

「……その男の名は?」

 

「望月バラン……。かつて月組に所属していた男です」

 

静かに怒りを押さえ込みながら問うすみれは、返ってきた答えに納得した。

覚えている。

去る任務で妻を失い、失意の中月組を離れた男。

それがまさか、あろう事か里を裏切り、降魔に寝返っていたとは。

 

「司令、ご存知なんですか?」

 

一瞬、躊躇する。

この事実をあざみのいないここで言うべきか。

だが最早隠し通せるものではない。

すみれは心の中であざみに詫びると、重い口を開いた。

 

「望月バラン……。代々月組に助力してきた望月流の中でも、手錬として通っておりましたわ。ですがある任務で、妻のハツネさんを亡くされてから除隊。里に帰参していたはずでした」

 

任務で命を落とすことは、特に隠密諜報が任の月組では珍しいことではない。

だが、バランはその心の傷によって狂人と化した。

 

「そして月日が経ちあざみさんを花組にスカウトした翌日。望月の里は何者かに襲われ、全滅したの。生存が確認できたのは谷の下流で意識を失っていた、あざみさんだけでしたわ」

 

「まさか、それがバラン……」

 

「ずっと不審に思っていましたわ。望月流の頭領たる『望月八丹斎』殿は様々な忍術に卓越したいける伝説も同然のお方。そんな方が纏める忍びの隠れ里が一晩で全滅するなど、人外の力でもない限りありえないこと」

 

今、あざみを巡るすべての真実が明らかになった。

かつての任務で妻を失ったバランは里を裏切り、恐らくは降魔と手引きして里を強襲。

あざみを除くすべてのもの達を殺害し、里を滅ぼした。

その後降魔の配下として実験用の人間を拉致し、降鬼としてけしかけた。

更に事態に気づいたあざみには、『頭領が生きている。会いたければ誰にも言うな』などと脅迫したのだろう。

だとすれば自分達に気づいていないふりをするよう書置きを残していたあざみの行動も納得できる。

そして今、他の無限を破壊して自分だけ単独出撃したのも……、

 

「あざみちゃんは、自分で決着をつけるつもりなんです! 最後の家族である花組だけでも守り抜くために、自分を犠牲にしてでも戦うつもりなんです!!」

 

それは、最早死をも覚悟した捨て身の特攻だった。

恐らく聡明なあざみの事、バランの言葉が嘘であることは感づいていたのかもしれない。

だが、家族であった頭領の命を天秤に賭けることなど出来なかったのだろう。それが人間だ。

 

「帝都に恐怖を撒き散らし、帝都民の命を虫けらのように弄び、挙句儚い命を愚弄し嘲笑するその所業……。断じて許すわけには参りませんわ!」

 

その場の誰もが抱いていた怒りのすべてが、その言葉に集約されていた。

筆舌尽くしがたい鬼畜の所業。

裁きのときは、来た。

 

「神崎司令! 霊子甲冑及び霊子戦闘機各機、応急処置完了しました!!」

 

「敵の本拠地は鳩ノ巣渓谷山頂、望月の隠れ里跡地です!」

 

「神山君、出撃命令を!!」

 

「はっ! 帝国華撃団花組、出撃せよ!! 目標、鳩ノ巣渓谷山頂! 望月あざみを救助し、降魔及び逆賊望月バランを討伐する!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都都心より西北西に進むこと2時間。

自然に囲まれた渓谷の先に、江戸の街を守り続けてきた忍の一族がいた。

名は『望月流』。かつて第六天魔王を成敗したとされる伝説の忍『飛び加藤』に師事した一派が興したとされる隠れ里である。

その不可思議な力で土や水を自在に操る技は諸大名の懐刀として長きに渡り重用され、この大正では都心防衛の隠密部隊の中枢として、その手腕を振るっていた。

 

「ここが、望月の里……」

 

その入り口に降り立ち、神山が呟く。

木々に覆われ、一見何もないように見えるが、その奥には明らかに人が生活していた痕跡が僅かばかり残されていた。

つい数ヶ月前まで、あざみはここで暮らしていた。

そう思うと、彼女の幸せを壊したかの敵に強い怒りを覚える。

 

「さくら、司令の言っていた刀は?」

 

「はい、ここにあります」

 

出撃直前、さくらには他ならぬすみれから別の命令が言い渡された。

それは、彼女が上京の際に持参した母の形見である刀「天宮國定」を持ってくることだった。

曰く、戦場で降鬼が出現した際に、それを人間に戻せる可能性があると。

確かに白秋と銀河がひろみを人間に戻したように、霊力を持つ家系の中でも特異な暦を持つ天宮家の霊力なら、あながち不可能ではないのかもしれない。

 

「神山さん、その先の渓谷に強い霊力反応の衝突を感知しました」

 

「きっとあざみや! 仰山敵に囲まれとるで!」

 

「神山君、直ちに向かって頂戴!!」

 

「了解!! 渓谷へ進撃する! 各機陣形を維持し前進せよ!!」

 

「「了解!!」」

 

まばらに見える傀儡騎兵の残党目掛け、花組は一斉突撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何匹倒したのか、もう自分でも分からなくなっていた。

四方八方から際限なく湧き出る敵を片っ端から殴り、蹴飛ばし、切り裂く。

軽やかな動きでほとんどの敵は一撃の下に沈められていくが、自身もまた無傷というわけには行かなかった。

何せ遠目から見れば波のような歩行者天国の群れだ。

一匹を潰す間に別の一匹が襲い掛かり、真新しい黄色の装甲は既に無数の傷に覆われている。

 

「邪魔!!」

 

また一匹、クナイを複数挟んだ鉤爪で引き裂いた。

これではキリがない。

そう判断すると、手裏剣を頭上に放ち、目にも止まらぬ速さで印を結ぶ。

 

「望月流忍法・奥義!! 無双手裏剣・影分身!!」

 

頭上の手裏剣がたちまち無数の手裏剣に大分身し、四方八方を暴風雨の如く暴れまわる。

周囲に群がっていた降魔の僕たちは、あっというまに鉄くずに姿を変えてしまった。

 

「バラン! お前がどんな罠にはめようと、どんな卑劣な策に出ようと、花組には指一本触れさせない!!」

 

わき腹の痛みをひた隠し、クナイを突きつける。

だがそれが空元気であることは、誰の眼から見ても明らかだった。

全身の装甲は無数の傀儡騎兵との戦闘で傷つき、戦闘の衝撃でわき腹からはまた血が滲み出している。

はっきり言って、こうして立っているだけでもかなり辛い状態だ。

それでも、あざみは諦めない。

両親は顔も知らない。

育ててくれた頭領と家族は、この場所で炎の中に消えた。

だからせめて、最後の居場所だけは、花組だけは守ってみせる。

例え、この命に代えても。

 

「ガキが一丁前に偉そうに……! ならばコイツらを試してやる!!」

 

言うや魔法陣が形成され、中から無限の5倍はあろうかという巨大な降魔が出現した。

全身に様々な機械のパーツを取り付けた降魔騎兵。

その名、『狂骨』という。

 

「どんな敵が相手でも、あざみは負けない!! 覚悟!!」

 

正面の1体に狙いを集中し、跳躍と共に手裏剣を放つ。

だが、

 

「なっ……!?」

 

正面の降魔は、手裏剣をまるで虫を払うかのように叩き落として見せた。

それだけではない。

お返しとばかりに両肩から妖力を圧縮したレーザーを発射し、あざみを狙い撃ちしたのである。

 

「うああっ!?」

 

予想だにしないカウンターを喰らい、制御を失った無限は容赦なく地面にたたきつけられボールのようにバウンドする。

痛みに耐えて起き上がろうとしたときには、既に周囲を巨体に囲まれていた。

 

「くっ……!!」

 

先ほどあざみを打ち落とした降魔が、ニヤリと口端と共に足を振り上げる。

出血と霊力枯渇によりまともに動くことの出来ないあざみには、最早敵を睨むことしかできない。

 

「(……頭領……、みんな……!!)」

 

あろう事か敵に一矢報いることすら出来ない己の非力を悔やみ、死を覚悟して眼を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の闇を切り裂く若い声と共に、疾風の如く躍り出た二刀が稲妻の如き一閃を以って巨大降魔を切り伏せた。

ハッとして眼を見開く。

そこには、いた。

最後に守ると決めた、仲間が。

 

「「帝国華撃団、参上!!」」

 

「……みんな……、どうして……!!」

 

嬉しさと戸惑いが混ざり、上手く声が出せない。

それをかき消すように、仲間達から飛んできたのは暖かい言葉だった。

 

「こっちのセリフだ! 水臭い事しやがって!! アタシらは仲間だろうが!!」

 

「今までずっと、私達を守ってくれたのね。本当にありがとう……!!」

 

「守られるだけが仲間ではありません。今度は私達が貴方を守ります!!」

 

「あざみ、どうか怖がらないで。私達は消えない。命の輝きを守る、その力があるから……」

 

「これ以上、貴方の居場所は奪わせない! そのために来たんです!!」

 

「互いに信じ守りあい、悪を蹴散らし正義を示す! それが俺たち、帝国華撃団花組だ!!」

 

「みんな……!!」

 

いつか枯れたはずの涙が、視界を滲ませる。

それは、安堵だった。

ここにてもいいのだ。

頼ってもいいのだ。

泣いても、いいのだ。

自分でいられるはずが無いと諦めていた場所は、今、確かに自分を迎え入れてくれたのだ。

 

「クックック……、待ちかねていたぞ帝国華撃団!!」

 

「お前がバラン……、この事件の黒幕だな!!」

 

「許さない……! あざみの居場所を奪って、こんな目に……」

 

「テメェだけはぶん殴るじゃ気が済まねぇ! 覚悟は出来てんだろうな!!」

 

ようやく現れた獲物に凄絶に嗤うバラン。

対峙する神山たちを舐めるように一瞥すると、獲物を捉えた猛禽のように目を細めた。

 

「威勢だけは褒めてやろう。だが貴様らも所詮は帝都陥落のためのオードブル。さあ醜く踊るがいい!!」

 

「あざみを中心に円陣を組め! 降魔及び傀儡騎兵を各個撃破する!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辛うじて合流したあざみは、既に全身に傷を受けて戦える状態ではない。

そう判断した神山は、現状の戦力からあざみを除外し保護対象として陣形を再構築。

その結果、あざみを中心にすえて各機で取り囲む円陣を展開した。

四方八方から敵が押し寄せるこの状況。

一箇所に固まったら背後を突かれかねない。

浮き足立ち、統率を失った部隊ほど危ういものはない。

そのため全方位に目を向けるこの円陣で、奇襲を受けるリスクを解消したのである。

この作戦が功を奏し、花組はほぼ無傷に近い状態で巨大降魔軍団を全滅させることに成功した。

 

「どうだバラン! いくら降魔を呼んだ所で、俺たち花組は倒れんぞ!!」

 

右の刀を突きつけ、神山が吼える。

これまで召喚した無数の降魔は全滅し、状況は圧倒的に花組側に傾いた。

だが、この状況で尚もバランは笑っていた。

彼には、切り札があったからだ。

 

「そうだ、それでいい……。貴様らは簡単には殺さん。来い、我が最高傑作!!」

 

岩肌に術式を施したクナイが突き立てられた。

そこから四方に亀裂が走ったと思った瞬間、中から巨大な降鬼が姿を現す。

 

「グゥゥゥゥ……」

 

獲物を見定めるように、鬼はその一つ目をギロリと右から左へ流す。

只見られているだけだというのに、金縛りに遭ったかのような強烈な威圧感。

その場の誰もが、息を呑む。

 

「来るぞっ!!」

 

神山の声に弾かれたように、各々が武器を構える。

だが……、

 

「なっ……!?」

 

それは、まるで幻のように。

鬼は残像を残すほどの速さで、先頭に立つ神山機の眼前に迫っていた。

咄嗟に二刀を交差させ防御を試みるが、遅いとばかりに巨腕がその腹部を打ち据えた。

 

「神山さん!!」

 

「隊長!?」

 

返事は無い。できるはずもない。

白の無限はこの時、猛烈な回転と共に奥の岩肌に叩き付けられていたのだから。

 

「何だコイツ……!? 見えなかっ……!?」

 

「初穂さん!!」

 

身構えようとした赤い無限を、そうはさせんとばかりに踏み潰す。

そして、

 

「グオオオオオッ!!」

 

溢れんばかりの闘争本能が、雄叫びとなって夜の渓谷を振るわせる。

悪夢が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じだった。

 

「やめて……」

 

何もかもが、あの時と同じだった。

 

「もう……やめて……!!」

 

最早動くことのままならぬ、牢獄と化した機体の中で、あざみは絶望していた。

先ほどまでの降魔たちとは比較にならない強さの怪物に、一人、また一人と仲間が成す術なくなぎ倒され、沈黙していく。

それは、脳裏に今も焼きついてはなれない悪夢と何もかもが同じだった。

 

「あざみの居場所……、あざみの家族……、これ以上……奪わないで……」

 

折角見つけた最後の場所。

自分を認めてくれる最後の仲間。

また、消えてしまう。

 

「素晴らしい……、素晴らしいぞ! この力があれば帝国陸海軍も、世界華撃団も敵ではない!! フハハハハハ……!!」

 

耳障りな狂喜の叫びと共に、降鬼の一喝が大地を、風を、空を震わせる。

目の前にまで見えた希望の光が、離れていく。

 

「……お願い……誰か……、助けて……。みんなを……、守って……!!」

 

闇に閉ざされた冷たい渓谷の中で一人、聞こえることの無い懇願が嗚咽と共に漏れ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、光はまだ、あざみを見捨ててはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メビウーーーーーースッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、やはり突然に起こった。

絶望の咆哮をかき消す声と共に出現した光の柱の中から、赤と銀の巨人が現れたのだ。

この帝都の平和を守るべく宇宙より遣わされし光の巨人。

ウルトラマンメビウスである。

 

「グオオオオッ!!」

 

「セアァッ!!」

 

襲い掛かる降鬼に、巨人もまた猛然と挑みかかる。

巨体同士の激しいぶつかり合いに土煙が舞い、激しい地鳴りが大地を揺るがした。

 

「……、ゥアッ!?」

 

だが、やはり鬼の残像さえ残すスピードには敵わない。

一瞬の速さで背後を取られたメビウスの巨体が宙を舞い、大地に沈む。

 

「クッ……、スァッ!!」

 

メビウスも負けじと、起き上がり様に左腕の先から光の刃を放つ。

メビュームスラッシュ。

殺傷力こそ低いが予備動作なしで素早く撃てる、汎用性の高いメビウスの牽制技だ。

だが……、

 

「えっ……!!」

 

その光刃は、信じられない形で跳ね返された。

何と降鬼はその木の幹のように太い指を素早く動かして地面にたたきつけ、まるで畳返しのように地表を跳ね上げて光刃を打ち消してしまったのである。

まるで、忍者が印を結び術を使って見せたかのように。

その光景に、あざみは見覚えがあった。

 

「畳返しの術……、頭領の、十八番……!!」

 

瞬間、ある予感が脳裏を過ぎる。

忍者の如き素早い身のこなし。

覚えるだけでも至難の印を流れるような速さで結び、術を完成させる技術。

それは、ある一人の生きる伝説を想起させる。

まさか……、

 

「グオオオオオッ!!」

 

降鬼が攻勢に転じ、豪腕を振り上げ巨人に殴りかかる。

だが、それはメビウスがわざと見せた隙だった。

隠すように下げた左腕に一瞬、淡い光が宿る。

 

「セアアアッ!!」

 

至近距離、というよりほぼゼロ距離からのライトニングカウンター・ゼロが怪物のどてっ腹に突き刺さった。

追い討ちとばかりにめり込んだ左拳から溢れ出た光が怪物を体内から痛めつけ、勢い良く吹き飛ばす。

 

「スァッ! ハァァァァ……!!」

 

「……、待って!!」

 

これを好機と見たメビウスが、メビュームシュートを放つべく両掌にエネルギーを集中する。

あざみは咄嗟に叫んだ。

突然のことにメビウスも驚き、集中を解除する。

 

「あざみには分かる……。あれは……、あれは……!!」

 

見れば降鬼は、先ほどまでの暴れぶりが嘘のように、その場に立ち尽くしていた。

まるで、人が正気を取り戻したかのように。

 

「……、……ア……」

 

そして、その大きく裂けたはずの口元が、

 

「……アザ……、ミ……」

 

「頭領!!」

 

確かに微笑み、名を呼んだ。

瞬間、メビウスは、あざみは確信する。

今この場で相対していた降鬼は、あざみの最後の家族。

望月流忍者頭領、「望月八丹斎」その人であると。

 

「バカな!! ありえない……!! アレだけの拷問と実験で、人としての人格は全て奪いつくしたはず……!!」

 

歓喜の涙に震えるあざみと対を成すように、バランは火山の噴火が如く怒りに震え上がった。

降鬼の改造素体としてこの上ない質を持ち、いざとなれば人柱として奴らの脅す材料にもなると踏んで、敢えて殺さずに生かし続けた死に損ないが、今になって正気を取り戻すとは。

冗談ではない。与えられた傀儡騎兵が全滅し、切り札の降鬼まで無力化されたこの状況。

こんな失態があの御方に知られれば、そのときは自分の最期だ。

冗談ではない。まだ野望は始まったばかりだ。

これからヤツらの首を手土産に、帝都でふんぞり返った豚共に天誅を食らわせてやるのだ。

ようやく掴んだ千歳一隅のチャンスを、こんな所でふいにされてたまるものか。

 

「貴様の感情など不要! 我が怒りの受け皿となって、虫けら共を蹂躙していれば良いのだ!!」

 

バランは懐から札のようなものを取り出すと、怪しげな力で宙へと浮かべる。

瞬間、肉眼でも視認できるほどの凝縮された妖力が札からあふれ出し、八丹斎を包み始めた。

 

「グ……、グオオオオオ……!!」

 

「頭領!?」

 

あざみの呼びかけも虚しく、再び妖力の檻に囚われた降鬼は、破壊の叫びを上げる。

だがその時、一つの影が疾風の如く飛び込んだ。

夜の闇に照り輝くは、銀の髪。

その手に握るは、名も無き一振りの刀。

 

「グゥッ!?」

 

「な、何!?」

 

天地を断ち切るかのごとき一閃に降鬼が跪く。

だが勇躍した一陣の風は、まるで意に介さず巨人の横へとその足を下ろした。

 

「立て、帝国華撃団。立て、さくら。今こそその一振りで、この悪夢を切り払うのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『神器を振るえ。その力で、身を包む邪気を切り祓うのだ!』

 

「……し、師匠……!!」

 

靄のかかった意識を、耳に響いた凛とした声が、脳裏に木霊した巌とした声が覚醒させる。

眼前に見えるは、巨人と少女の背中。

瞬間、理解した。

自分に託された命を成す、時が来たのだと。

 

「……母さん。どうか……、さくらに力を……!!」

 

今は亡き最愛の母を想い、静かに目を閉じ意識を集中させる。

そして、その刀身を抜き放つと同時に三式光武のコックピットが吹き飛び、少女は月下の空を舞った。

 

「天宮の名の下に……、邪なる力を切り払う!! 天剣・桜花乱舞!!」

 

天空より放たれし一閃の斬撃。

膨大な霊力を具現化したその刃は全身を包む黒の鎧を一撃の下に切り払う。

 

「グオオオォォォ……!!」

 

断末魔の咆哮と共に、降鬼が力なく膝をつく。

やがてその体に罅が入ったと思うと、外皮が卵の殻のように砕け、中から小柄な老人の姿が見えた。

瞬間、あざみが叫ぶ。

 

「頭領!!」

 

 

 

 

 

 

 

「………あざみ……、世話をかけたな……」

 

 

 

 

 

 

「頭領……、頭領!!」

 

思い出と同じ微笑が見えたとき、あざみの中で何かが決壊した。

無限を飛び出し、よろけながら走り、その胸に飛び込む。

 

「ごめんなさい頭領……! あざみは……、あざみは……!!」

 

「怖かったであろう……、苦しかったであろう……、よくぞ耐え忍び続けた……」

 

一度は叶わぬ夢と諦めていた邂逅。

あの時枯れ果てたと思っていたはずの涙が溢れ、気づけばあざみは、子供のように声を上げて泣いていた。

その思い出が、そのぬくもりが、一人の気高き忍者を少女へ戻したのだ。

 

「ふざけるなあああぁぁぁっ!!」

 

それに一人、憤怒に叫ぶものがいた。バランである。

 

「こんな事があってたまるか!! 既に正気も命も尽き果てた死に損ないが!! 大人しく駒にされていればいいものを!!」

 

その場で地団太を踏み、行き場の無い怒りを狂ったように叫び続けるバラン。

だが直後、背後から放たれた別の声に、それは氷水を浴びせられたように固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう、少し留守にした間にこのザマは何なんだぁ、バラン君?」

 

 

 

 

 

 

「な、何だアイツは!?」

 

活動限界に陥った無限から出てきた神山たちも、その並々ならぬ妖気に警戒を強める。

一方のバランは、先ほどまでの形相が嘘のように震え上がり、情けなく腰を抜かしていた。

そのさまはまるで蛇に睨まれた蛙である。

 

「ヒィィ!! お、朧様……!!」

 

「何だよその怯えようは。まるで人を化け物みてぇによぉ」

 

「お、お許し下さい! あの巨人さえ……、あの巨人さえなければ……、うぐっ!!」

 

八丹斎救出のきっかけとなったメビウスを指差し、みっともなく言い逃れに終始するバラン。

だが朧と呼ばれた降魔は聞く耳持たぬとばかりにその首を捕まえて締め上げる。

その口端が、ニヤリと笑った。

 

「まぁいいや。ちょっと面白い実験を思いついてな。付き合ってくれたら許してやるよ」

 

「は……ハイ! 何なりと、何なりとお命じ下さい!!」

 

目の前に転がった助命のチャンスに、一も二も無く飛びつくバラン。

故に、彼は気づけなかった。

 

「なぁに簡単なことだ」

 

それは目の前の怪物が見せびらかした、餌に過ぎないということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間に死ぬまで妖力を流し込んだらどうなるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッ……、グギャアアアァァァ……!!」

 

聞くに堪えぬおぞましい叫び声が、空間を振るわせた。

明らかにこれまでの降鬼とは比較にならない濃度の妖力が、凄まじい勢いでバランの肉体を醜く膨張させていく。

やがて肥大化する筋肉に耐えられなくなった皮膚が破裂するように引き裂け、形を保てなくなった骨がバキボキとへし折れ、巨大な赤黒い肉塊へと変わる。

そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グギエエエェェェ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、正に『異形』という言葉が最も相応しく形容できる怪物だった。

ボコボコとあわ立つように膨張した皮膚には赤黒い血管のようなものが見え隠れし、辛うじて顔と分かる箇所には口しか認識できる器官が残されていない。

そして全身から際限なく毒ガスの如く腐臭を纏った妖力を噴出する。

 

「異形進化怪獣、名づけて『バランガス』ってな。このまま猛毒の妖力に呑まれて死んじまいな、帝国華撃団!!」

 

言うや朧と呼ばれた降魔は夜の闇に消えうせる。

その場には全身に妖力を充満させた怪物だけが残されていた。

 

『巨大生命体の体内から、高濃度の毒素を検出しました。急いで撤退してください』

 

『ソイツは毒ガスを溜め込んだ風船みたいなもんや! 下手に触ったら爆発してまうで!』

 

風組からの連絡に、思わず後ずさる花組。

ただでさえ無限が戦闘不能となった現状、自分達に戦う手段は無い。

しかしこれほど危険な妖力を孕んだ存在がそのまま町へたどり着けば、未曾有の大惨事は避けられない。

そのとき、立ち上がったのは今しがた『人』を取り戻した伝説だった。

 

「里の掟3条。受けた恩義には報いるべし。帝国華撃団の諸君。ここは我々に任せてもらおう」

 

「八丹斎さん?」

 

意外な人物からの申し出に戸惑いを隠せない花組。

だが当の八丹斎と、そしてその真意を悟ったあざみは、自信に満ちた笑みで怪物を見る。

 

「江戸の代より、この日ノ本の影に忍び続けた我らが秘伝。行くぞ、あざみ!!」

 

「忍!!」

 

同時に体内に眠る霊力を集中し、凄まじい速さで印を結ぶこと僅か3秒。

二人の忍は霊力を纏った両手を地面に叩きつけた。

 

「「土遁・蛇流結界の術!!」」

 

瞬間、神山たちは己が目を疑った。

ボコボコと地面が盛り上がったかと思うと、地表を割っていくつもの土の蛇が現れ、怪物を覆い尽くしてしまったではないか。

なるほど、これならば攻撃を仕掛けても瘴気が溢れる事は無い。

 

「今じゃ巨人よ!その力で、あの穢れた魂を焼き払うのじゃ!!」

 

「スァッ! ハァァァァ……!!」

 

八丹斎の言葉に頷き、両手にエネルギーを集中するメビウス。

その膨大なエネルギーが、∞の文字を形作った。

 

「セアアッ!!」

 

十字に組まれた腕から放たれた超高温のメビュームシュートが、僅かに残された怪物の外皮を突き破り、内部から一気に焼き尽くす。

それに合わせて土蛇たちが幾重にも絡まりあい、爆発ごと怪物を地中深くに飲み込んでしまった。

 

「セアッ!」

 

役目を終えたメビウスが、僅かに明るくなりつつある空へと飛び立つ。

再び広がる静寂が、戦いの終結を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜明けじゃ」

 

小さくなっていく巨人の影と重なるように地平線から顔を出す陽光。

それは、まるであの惨劇から始まる悪夢の終わりと、平穏の始まりを告げるようにさえ見えた。

 

「頭領……」

 

「終わったのじゃ。望月の血が絶えた、あの忌まわしき夜が……」

 

朝焼けに照らされた里の面影を、あざみは改めて見渡す。

およそ人が生きていたとは思えないほどの残骸。

けれども確かに、ここで生きた人々の歴史があった。

教える技があり、温かい笑顔があり、受け継がれる意志があった。

 

「過去は変えられぬ。だが、未来は変えられる。故に、我らは影に生き続ける。時が経ち、世が移ろうとも、影の中で、忍び耐え続けるのじゃ」

 

「はい」

 

「忍びとは即ち、忍び耐えるものなり。影に生き、影に散った幾つもの意志を、生き残った者達が伝え継いで行くのじゃ」

 

「はい」

 

「それは決して平坦な道ではない。じゃがそれこそが忍の……いや、人の生きる道なのじゃ」

 

「あざみも……、そうありたい……。みんなのために……」

 

かつてこの場所で生きた幾つもの意志へ、ささやかな黙祷を捧げる。

叶わなかったその思いを、時代の命へ継いで行くために。

歴史に決して語られることの無い、影に生きるものたちの生き様の一端を、神山たちは見ることになった。

 

「帝国華撃団の諸君。此度は我が望月の、あざみのために尽力いただき感謝存ずる。望月を代表して、礼を言わせて欲しい」

 

「八丹斎さん。あざみの仲間として、当然の事をしたまでですよ」

 

花組を代表し、神山が答える。

飾らないその言葉に、八丹斎は満足げに頷いた。

 

「あざみは強く賢いが、甘えることが苦手じゃ。どうか一つ、よろしく頼みますぞ」

 

「と、頭領……恥ずかしい……」

 

頬を赤らめつつ口元を隠して目をそらすあざみ。

その可愛らしい様子に微笑み合うと、八丹斎は名残惜しそうに一歩後ずさった。

 

「ではあざみよ。これからは花組がお主の場所。しばしの別れじゃ」

 

「うん。頭領も、体に気をつけて」

 

「里の掟8条。絆と縁は、千里離れようとも消えぬが故。……忘れるなあざみ。例え姿が見えずとも、わしはいつでも見守っておる」

 

その言葉を最後に、八丹斎の体は煙と共に消えうせた。

何とも忍者らしい消え方であると、苦笑せざるを得ない。

 

「……良かったのか? あざみ……」

 

僅かに躊躇しつつも、初穂が尋ねる。

一度は死に別れ、ようやく会えた家族。

その早すぎるだろう別れに、寂寥感を感じぬものはいないだろう。

だが、そんな不安を払拭するかのように、あざみは笑っていた。

 

「大丈夫。あざみは、寂しくない。だって……、みんながいてくれるから」

 

その笑顔はどこまでも無邪気で、何処までも透き通っていた。

 

「よし、それじゃあ最後にいつものヤツ、やるか! あざみ!」

 

「忍!! 時代の影に潜む悪を討ち、時代を影から見守る者! 数多の時を隔てても、数多の別離を忍ぶれど、その意志は時代と共に続いていく!! 勝利のポーズ!!」

 

「「決めっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2週間。

 

何も知らない帝都は、平穏な日常を謳歌していた。

 

「いらっしゃいませ~。今なら新作饅頭無料試食できま~す」

 

謎が不安を掻き立てる失踪変死事件はパッタリと音沙汰が無くなり、いつしか人々の記憶から忘れ去られた。

 

そこで起きた事の顛末を知るものは、あまりに少ない。

 

「おっ! お兄さんブロマイド集めてるね~! 私も負けてられない!!」

 

だからこそ、彼女達は今日も影に身を潜め、影に忍び続ける。

 

それこそが、己が正義と信じて。

 

何故なら今も……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そこにあったのね。天宮の忘れ形見……」

 

闇は、すぐ側で蠢いているのだから。

 

<続く>




<次回予告>

上海、倫敦、伯林……。

世界の華撃団を牛耳る我らの目を盗み、霊的組織を名乗るとは……、

面白い。お前達が真に華撃団を名乗るに相応しいか、

このプレジデントGが見極めてやろう!

次回、無限大の星。

<約束:前編>

新章桜にロマンの嵐。

どうして……、どうして貴女が……!?
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