無限大の星   作:サマエル

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遂に世界華撃団大戦開幕……ですが色々と設定が変わっております。

このあたりからストーリーは新サクラ大戦本編から離れ始めて、オリジナル展開も多くなってまいります。

今回はその序幕として、世界華撃団の顔みせ回。

そしてこの後のストーリーに関わる沢山の仕掛けが用意されております。




第4話:約束~前編~

その日、世界はかつてない程に熱狂していた。

 

『世界各国の皆様! 私達はこの歴史的な瞬間に感謝しなければなりません!!』

 

最新式蒸気演算機による長距離通信機能によって、文字通り全世界の蒸気テレビへ生中継されるその映像では、若い男性レポーターが自身の興奮醒め止まぬ様子で鼻息荒く語っていた。

 

『全ての始まりであるこの大日本帝国は帝都・東京に、その力を競い合わんと、世界の名だたる華撃団が集結!! 世界の英雄達が、文字通り一堂に会するのであります!!』

 

次々と映し出される世界各国の要人達を乗せた空中戦艦。

その甲板には、幾つもの霊子戦闘機たちがその姿を刻み付けんと並び立つ。

 

『我らが英雄たちを束ねしWOLFが主催するこの歴史的イベントの名は、『世界華撃団大戦』!! その記念すべき第1回が、この帝都で行われるという!!』

 

だがその一部始終を、ホスト国とも言うべき立ち居地にある帝国華撃団総司令は、冷ややかな面持ちで見つめていた。

まるで今回の催しを、心の底から歓迎したくないと言わんばかりに。

 

「……この有様をどうご覧になりますか、大尉……」

 

本来ならば今もこの場所に腰を下ろし、真に世界平和のためにその手腕を振るったであろう英傑を思い、呟く。

だがその視線が、画面に映ったある男を見た瞬間、刃のように鋭く変貌した。

 

「……これがあなたのやり方なのね、プレジデント……!!」

 

 

 

 

 

 

<第4話:約束~前編~>

 

 

 

 

 

 

 

それは望月バランの謀反の終結より3週間が過ぎた頃。

大帝国劇場に突然の来訪者が現れたという秘書の知らせが始まりだった。

 

「失礼する」

 

ノックも無しに突然開け放たれた扉から、長身の男がズカズカと無遠慮に絨毯を踏み荒らして入ってきた。

サイドバックに撫で付けられた銀髪と、その長身を包む銀色のスーツ。

サングラスでも隠しきれていないほどに鋭い眼光と威圧感。

その左右を固める黒ずくめの護衛らしき男が2名。

それから一歩遅れて、慌てた様子の秘書が居合わせただろうモギリと息を切らせて駆け込んできた。

 

「お客様! 事前のアポイントも無しに困ります……!」

 

「黙っていたまえ。私がその気になればこの場で君の首を飛ばすこともできるんだぞ」

 

「この、いい加減に……!!」

 

「いいわ、神山君」

 

不遜極まりない態度に怒りかける神山を先んじて制する。

既に神山を制圧する体制に入っていた護衛のことだ。

もし掴みかかろうものなら二人がかりで逆に怪我をさせられていただろう。

 

「遠路はるばるご足労でしたわ、事務総長殿。わざわざお越しいただくなんて、お手紙では話せない内容なのかしら?」

 

「白々しい態度はあの時と変わらんな、ミズS。このWOLF事務総長たる私を、随分とコケにしてくれたではないか」

 

「あら、訪問に際し連絡も取らないようなお方が、この私に礼儀をご高説下さるというの?」

 

常人なら震え上がるであろうその男に、微塵も臆する事無く最大限の皮肉を冷笑と共に突き刺す。

一瞬眉をピクリと吊り上げながらも、その不敵な笑みが見下ろしてきた。

 

「それはお互い様であろう。帝国華撃団再結成に始まる今日までの報告の怠慢、知らないとは言わせん」

 

「今度は記憶障害かしら? 私は一切の援助を受けない代わりに、あなた方の連盟に加入する事はないと申し上げてきたはずですわ」

 

それは、この帝都に刻まれた10年間の沈黙を破るべく動き始めてすぐのことであった。

かつて引退した旧花組隊員が、帝国華撃団復活のために人員確保と霊子甲冑の改良に着手したと聞きつけた組織が、資金援助と技術提供を申し出てきた。

解体された賢人機関に代わり世界各国の華撃団を取りまとめる国際組織、『世界華撃団連盟(World Luxuriant Opera Federation)』。

その代表として交渉のテーブルに着いたのが目の前の男、コードネーム『プレジデントG』である。

素性、年齢、国籍のすべてが極秘扱いとされ、誰もその正体を知ることの出来ない人物。

当然世界は、初めこそ名の知らぬ男の台頭に即座に反発した。

無理も無い。

経歴も実績も持たない、何処の馬の骨とも分からない人間に世界の中枢を任せられるわけが無い。それが賢人機関の決定だった。

だがその世論は、1年も経たないうちにひっくり返ることとなった。

 

『降魔大戦の後に、降魔は帝都のみならず世界に出現する』

 

根拠も証拠も示さぬこの男の放った世迷言が、まるで予言の如く場所と時期を言い当てていたのだ。

それまで降魔の脅威を帝都のみと高を括っていた世界各国は途端に浮き足立ち始める。

何せ都市防衛構想はまだ発展途上。それも先の大戦ですべてを喪った状態だ。

通常兵器では手も足も出ない降魔の脅威から自国を守るためには、華撃団構想に用いられた霊子甲冑を早急に用意する必要がある。

すると今度は、降魔の脅威に対抗しうる新たな霊子戦闘機の草案と、素材となる金属を融資すると言い出した。

世界中の様々な金属を独自の製法で混ぜ合わせた超特殊合金『アンシャール鋼』。

霊力伝達と加工性に優れ、更に通常兵器に対しても高い防御性能を発揮するその希少金属は、それまで霊子甲冑の主要素材であったシルスウス合金の完全上位互換とも言える代物だった。

既に世界各国に降魔の出現が報告され始めた状況での、霊子戦闘機開発に急を要する中で知らされたこの希少金属に、世界は一も二もなく飛びついた。

賢人機関より撤退する。

その条件をあっさりと承諾して。

 

「確かに、連盟に名を連ねることに貴女の同意は得られなかった。が、この現状はどうかね?」

 

「どう、とは?」

 

「我が連盟に所属する伯林華撃団からの人員異動。我が連盟に所属する上海華撃団からの霊子戦闘機開発案援助。我が連盟に所属する倫敦華撃団と同様のアンシャール鋼の使用……。これらは全て門外不出の重要機密。何故連盟に属さない貴女方が乱用しているのだ」

 

「あら、機密とは存じ上げませんでしたわ。何せ連盟には加入しておりませんでしたもの」

 

「では今すぐ加盟していただこう。さもなければ霊子戦闘機全機を押収し、アナスタシア隊員には帰還願おうか。これらは全て……」

 

「都市防衛構想はいずれ世界各国に共有されるべき事案。ましてやその急先鋒たるWOLFがそれを独占するなど、金のために正義を捨てるようなものでは?」

 

「ならば連盟に加入しないことは、世界正義の理念に反するとは思わないのかね?」

 

「ええ、そう思いましたわ。……その理念を掲げた組織を潰した方でなければ」

 

最早聞くに値せずといわんばかりに、その先の言葉を潰すように斬り捨てる。

元よりすみれは、眼前に立つ男に一切の信頼を抱いていなかった。

世界平和を掲げる理念を持ち、それを実現できる技術と知識を持ちながら、何処か理念にそぐわない動きを見せる。

最初に自身を信用しなかったとはいえ、各国に加盟の条件としてそれまで世界の都市防衛構想を様々な面で支援していた賢人機関を排除したこと。

世界を魔の脅威から防衛するために必要な情報を独占し、世界共有を遅らせていること。

その度々見え隠れする不穏な動きが、すみれの脳裏にある一人の野心に支配された人間だった男を想起させていた。

 

「……あくまでもWOLFに加入するつもりは無い、と言う事か」

 

「無いも何も、最初からそう申し上げておりますわ。そろそろご理解いただけたかしら?」

 

「ええ。神埼重工と帝国華撃団を束ねる女傑も、結局はミスターM……『大神中佐』と同じということか」

 

瞬間、眼鏡に手をかけ嗤う男の眼前に扇が突きつけられた。

後ろの護衛が即座に身構える。

だが男は動じない。

何故なら、それこそ男が意図して発言したからだ。

 

「これは失敬。『名誉中佐』とお呼びしたほうが良かったかな?」

 

「お黙りなさい……! 今の私に、あの方に、その言葉は何よりの侮辱だわ……!!」

 

突きつけた扇の先が、憤怒に震えていた。

護衛の男たちも、その後ろの秘書と隊長も気圧されるように目を見開き息を呑む。

無理も無い。

今まで自分がこれほど感情をあらわにしたことは、一度もないのだから。

 

「いやはや、尊敬に値するよミズS。かの大戦から10年、未だに彼らが生還するなどという『妄想』に取り付かれているとはね」

 

「それが彼らの……三都華撃団の何者にも揺るがぬ信念ですわ。貴方如きに嗤われる筋合いはありません!」

 

「確かに。こんな『華撃団ごっこ』など嗤うにも値しない」

 

気づけば主導権は相手に握られていた。

いや、挑発をかけられたときから少なからず危惧してはいた。

だがそうした理論よりも、純粋に仲間を侮辱された事への激情が体を支配した。

 

「それとも……、こんな妄想に縋る体たらくで都市防衛を完遂できるなどと世迷言を吐くおつもりかな?」

 

「無論ですわ。あの方達が戻るまで、この帝都の平和は帝国華撃団が守り抜いて見せます!」

 

「……面白い」

 

眼鏡の奥の眼光が鋭く光った。

まるで、その言葉を待っていたかのように。

 

「ではその資質とやら、我々WOLFが見定めてやろう」

 

瞬間、世界は音を立てて動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日の出と共に吹き抜けるビル風が、砂埃を舞い上げて空へと舞い上げる。

やがて東の島国の空へ旅するであろう砂粒を見上げ、貧民街の朝が始まった。

南部に流れる自然の恵みを糧に71万に上る命を繋いできたこの地の名は「閘北」。

去る民国は17年にめでたく閘北区へと改称された上海東部の町である。

 

「嘿,别挤(おい、押すな)!」

 

「也给我三个人(こっちにも三人分くれ)」

 

昨晩の飢えに耐えた多くの人々が、我先にとひび割れかけた器を手に押し寄せる。

その先に見えるのは一軒の小さな飯店。

ネオンも無ければ装飾も無い。

辛うじて煤と埃に塗れ傾いた看板の濃淡で

 

『神龍件』

 

と読める。

その小さな窓の真ん前に、人々の目指すものはあった。

触るどころか近づくことすら憚られるほどに豪快で、神秘さえ感じさせる炎と、その上で舞い踊る楕円の中華なべ。

ほのかに香るにんにくと焼き豚の香りが食欲を刺激する、秘伝のまかない飯。

それが、今日も人々の命を繋いでいた。

 

「……売り切れか」

 

袋の隅まで空になった食材を確かめ、窓を閉める。

この地を発って東の島国へ暴れた数ヶ月。

帰ってきたその目に映る閘北の町並みは、記憶のそれとは何ら変化の無いものであった。

嬉しくは思う。

さしてこの街は、この国は降魔の出現頻度はそう多くは無い。

故に街も人も穏やかに日々を過ごしている。

街の平和を守るものとして、これ以上の幸福は無いであろう。

だからこそ、こうして今も明日の食にさえ困る人々が絶えない事も、また揺らぐことの無い事実であり、目を背けることの出来ない現実であった。

 

民以食为天(民は食を以て天と為す)。

 

かつて己の命を拾ってくれた恩師から教えられた、自身の根幹を成す言葉。

その一端を担える現状に充足感を感じつつも、それが萎えかけた民草の根に振り掛ける僅かな水滴に過ぎない現実に、もどかしく思うしかない。

 

「我会没事儿的、洋小狼(精が出るね、シャオロン君)」

 

聞きなれた声に、空へ舞いかけた意識が舞い戻る。

自分達上海華撃団の根幹を成した人物であり、最後まで首を縦に振らなかった総司令とWOLFとの間を取り持った実業家。

航空会社『上海空路総公司』を取りまとめる若き社長。

 

敏泰然(ミン・タイラン)である。

 

「有点晚了。卖光了(少し遅かったな。売り切れだ)」

 

「首先。(何よりだ)……司令殿は?」

 

その言葉を合図に、無言のまま親指で店の奥を指す。

ここから先のすべては、悟られてはならない。

何より国の航空事業を一手に担う大物がこんな貧民街に姿を現すこと自体が既に一般的に見れば事件である。

人目を気にしつつ、泰然は店の奥へ消えた。

 

「小狼、今の……」

 

「是急事??(火急の用件ですか?)」

 

「コラ仔空(シア)、人に聞かれたらダメ言ったよ」

 

「あ、对不起(ごめんなさい)です。大事、話ですか?」

 

程なくして店の奥から顔を出したユイが、続いて出てきた少年を小声で小突く。

華撃団の会話は他言無用の機密事項である。

故に上海では司令の慣れ親しんだ日本語で会話し、極力聞き取られぬようにするルールを設けていた。

そしてまだ習い始めて間もない外来語をたどたどしく喋るこの少年こそ、他ならぬ司令の愛息子にして上海華撃団3番目の隊員。

 

『李仔空』(リー・シア)である。

 

母に似て機械に強い興味を示し、放っておいても一人でガラクタをいじっては何かを作ってしまう生粋の機械好き。

今では総司令兼メカニックチーフの母と共に霊子戦闘機『王龍』の整備・改修まで手掛ける程の腕を持つ天才エンジニアである。

そして、

 

「みんな、揃うてるか?」

 

先ほど泰然が消えた店の奥から、一人の女性が顔をのぞかせた。

関西訛りの日本語と、肩から三つ編みに流した紫の癖のある髪。

ヒビが残る年季の入った眼鏡とそばかすが特徴の、妙齢の女性。

ここが日本であれば、見たものは驚きに声を上げることであろう。

彼女こそ仔空の、そしてシャオロンとユイにとっても母親同然の存在。

現上海華撃団総司令兼メカニックチーフにして、他ならぬ初代帝国華撃団花組隊員。

そして同組織総司令であった人物の妻である女性。

『李紅蘭』その人であった。

 

「今度はみんなで、帝都に向かわなアカン。……中々おもろい事になって来たで」

 

 

 

「あの帝都に、こんな形で戻らなアカンとはな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去の王にして未来の王、アーサー。

 

その地において、かの名前を知らぬ者はいないといっても過言ではないだろう。

かつてコーンウォールと呼ばれた時代に南東から押し寄せる民族と戦った時代のブリテンの王。

そして彼を筆頭に己が剣と生き様を捧げた円卓の騎士。

遠い月日を経て、その名は今やこの地を狙う魔と対峙する若き剣たちに手向けられる名誉となっていた。

 

「フッ! ハァッ!!」

 

その中に一人、一際異彩を放つ者がいた。

漆黒の鎧に身を包み、紅一点にして二刀を振るう様は暴風雨が如し。

いつしかついた異名は、「黒騎士」。

 

「セイッ!! ヤアァッ!!」

 

その者が他者と語らう姿を見たものはない。

笑顔にその美貌を揺らす姿を、見たものはない。

誰もが口を揃える。

 

「デェヤアアアッ!!」

 

剣を振るう姿しか、見たことがないと。

 

「勝負あり!」

 

虚空を舞った一振りの剣が眼前の地面に突き立って数秒を挟み、わずかに上ずった審判員の宣言が沈黙を破る。

同時にその場には多くの失意のため息が漏れ出した。

理由は至極単純。

またしてもため息の数の羨望と決意が、成すすべなく斬り捨てられたからである。

 

「……弱い。弱すぎる」

 

周囲に転がる無数の敗者たちを見下ろし、『黒騎士』は露骨に嫌悪感をあらわに吐き捨てた。

 

「こんなお遊戯にもならない剣を我らが円卓に捧げるだと? 下らない妄想をしている暇があるなら現実の剣を少しは鍛えたらどう?」

 

「な、何と無礼な……!!」

 

「我々は端くれでも由緒ある……、っ!!」

 

歯に衣着せぬ物言いに感化できず反論しかけた男の喉に、全員を屠ってきた剣が突きつけられる。

これ以上無駄に喋れば殺す。

剣は、そう告げていた。

 

「家名が何? 名誉が何? そんなちっぽけなものが戦場で何になる!? 現実に目を背け、虚勢を張ることしか出来ないヤツから死んでいくんだ!!」

 

嫌悪はやがて激昂に変わり、鋭い視線がその場のすべてに突き刺さる。

誰もが反論できない。

しようものなら今度こそ切り捨てられる。

そう思わせるほどに。

 

「……失せなさい。ここに貴方達の剣を振るえる場所は無いわ」

 

その言葉を皮切りに、一人、また一人と力ない足取りでその場を後にしていく。

残ったのは、最後に剣を弾いた赤髪の少年只一人となった。

 

「聞こえなかったの?」

 

背を向けたまま言葉の剣を容赦なく突き刺す。

ただひたすら、何かに耐えるように唇を噛み締めていた少年は、肩を震わせながら走り去り、見えなくなった。

 

「……恐れながら、ランスロット殿」

 

僅かな沈黙を破ったのは、審判員だった。

 

「今や主を囲む円卓の席は貴女のみ……。何故これほどまでに新たな剣を拒まれるのです?」

 

ランスロットと呼ばれた少女は、沈黙を以って返した。

 

現代に蘇りし円卓の騎士、その名は『倫敦華撃団』。

 

英国は倫敦に誕生した偉大なる騎士達を、人々はそう呼んだ。

志を共にしたフランスは巴里から移設した霊子甲冑を独自の技術で進化させた騎士の鎧『ブリドヴェン』を身に纏い、かつての名だたる英雄達の名を冠した剣を振るいて魔を切り伏せるその勇姿に、人々は喝采を上げる。

その誕生を、その活躍を、そしてその死さえも。

 

「……いらない」

 

搾り出すように、少女は声を漏らした。

 

「私が求めるのは強い剣……。いくら志が強かろうと、弱い剣はただ無に還るだけ……」

 

「しかし……」

 

尚も言葉を続ける審判員を振り払うように、少女はその場を去る。

そこへ、入れ違いに近い形で一人の青年が歩み寄ってきた。

 

「こ、これはマイ・ロード……! わざわざ選定の場へお越しくださるとは……」

 

「かしこまらないでくれ、メヌウ。僕は肩書きには興味が無いんだ」

 

白と金の装飾が目立つマントを身に着けた、高貴さの滲み出る出で立ちの青年。

メヌウと呼ばれる審判員が敬服する彼こそ、この円卓の中心に座する王の名を賜りし青年。

 

英雄王「アーサー」である。

 

「彼女は、相変わらずみたいだね……」

 

今しがた歩き去った少女の背中を視線で追い、呟く。

 

「は……、やはり先日のガウェイン殿の殉教が……」

 

アーサーとメヌウは、同時に石畳の一角に視線を移した。

堅牢な大理石を削りだした荘厳な印象を抱かせるそれは、石碑であった。

その前には、名前が彫られた何本もの剣が突き立てられている。

その中の一つに、たった今審判員が口にした「ガウェイン」の名があった。

霊力の才にこそ恵まれないながら、その屈強な体と強靭な精神を武器に、数多の戦場を彼女と駆けた最期の蛮勇。

最期の瞬間までその勇壮なる魂を燃やし続けた騎士の名を、この街の誰もが胸に刻み悼んだことは言うまでもない。

 

「ガラハッド……、エニード……、トリスタン……。皆このブリテンのために戦い抜いた英霊だ。悼みこそすれ、何を悲しむのか……」

 

「仕方ありません。ランスロット殿にとって、皆家族も同然でしたから……」

 

そう呟き目を閉じるメヌウに続くように、アーサーもまた黙祷を捧げる。

ここに足を運んだのは、残された同胞の様子が気になったこともあるがそれだけではない。

既に天上へ向かった気高き魂たちに、伝えることがあるからだ。

 

「偉大なる英霊達よ。今この瞬間のブリテンが存在するのは、偏に君達の献身に他ならない。礼を言うと共に伝えることがある……」

 

 

 

 

 

「我らが騎士の誇りが、海を渡ることとなった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その空間は、すべてが計算の上に存在していた。

防衛、監視、執務……、すべてにおいて最効率かつ最短時間で最大限の結果が出るよう構築されていた。

その建物を見た人間の脳裏には必ず一つの数列が過ぎるといわれる。

 

1038。

 

今やこの国においてこの数列の意味を理解できるか否かで、よそ者か否かが判断できると言っても過言ではない。

何故ならこの数列は、この地上における最も進化と発展を遂げた霊長類が、東の国より飛来した悪夢の撃退に成功した栄誉の数に他ならないのだから。

 

「こちらです」

 

案内された応接間は、兵役経験のある自身をして笑みを浮かべる位置にあった。

周囲を堅牢な壁に囲い、外からの爆撃はもちろんのこと、中の僅かな音も漏れ出さない設計。

その奥に、この厳かな建造物に似合わない風貌の少年少女が自身を待つように座していた。

 

「「Heil、Hitler!!」」

 

その姿を見るや、内部の人間達は一斉に立ち上がり、統制の取れた動きで敬礼を取る。

指導の行き届いたその光景に訪問者、『アドルフ=ヒトラー』は満足げに頷き、着席を促した。

 

「親愛なる伯林華撃団の諸君。君達のような若い英雄と才女の活躍と忠誠に、深く感謝する」

 

第一声に思わず顔をほころばせた少年の頭を真横の少女が小突く。

確かに不適切なマナーだが、ヒトラーにとってそれは愛嬌の範囲内である。

 

「構わない、楽にしたまえ。笑顔は人類にとって何よりの健康の薬だ。私も心がけている」

 

「もったいなきお言葉です、総統閣下」

 

白い軍服に身を包んだ最年長の女性が応える。

彼女の名は『レニ=ミルヒシュトラーセ』。

華撃団の前身たる欧州星組を経て帝国華撃団花組を歴任し、今や祖国にて屈強なる伯林華撃団を実力と求心力で一から築き上げた総司令である。

何処か幼げで中世的な容姿からは想像もつかない半生を知る人間は限られている。

ヒトラー自身も、その一人だった。

 

「設立からもう9年になるのか。軍備に支障はないかね?」

 

「はい、チャールズ氏からの援助もあり、都市防衛に関して問題はありません、総統閣下」

 

「チャールズか……。確か君達の舞台も手掛けていると聞いたね」

 

気づかれないように務めるが、やはり少しばかり笑顔がかげる。

伯林華撃団の任務は緊急時の都市防衛だけに留まらない。

平時の際には市内に併設されている国立歌劇場で劇団顔負けの舞台公演を行い、人々に感動と笑顔を届けるのだ。

これは、現総司令が帝都にて経験した思想に基づくとされており、それ故にこの国に生きる多くのドイツ民族は彼女達の舞台俳優としての顔も幅広く認識されている。

そんな彼女達の立つ舞台の物語を一部手掛けているのが、アメリカに居を移している演出家『サー・チャールズ・スペンサー』だった。

主に政治批判や社会風刺を題材とした映画を製作することで有名な彼が、ともすれば少年少女兵を連想させる華撃団に脚本を提供する事実には驚いた記憶がある。

今や彼女達の演じる舞台はチャールズの物語と楽団を指揮するカラヤンの手腕も相まって世界屈指とさえ称される完成度を誇っていた。

それは、一つの流星が離れた跡もまだ、輝きを僅かも失わない。

 

「これも我が同胞の尽力によるものです、総統閣下」

 

「アルタイル女史か。確かにこのドイツとアメリカを又にかける彼女の手腕は賞賛に値する。我が陣営にいることは幸運だ」

 

勘のいい人間ならば不自然ささえ感じる多くの著名人の援助。

その影の立役者たる才女に惜しみない賞賛の言葉を送りつつ、ヒトラーは本題に入った。

 

「そのアルタイル女史からも聞いていると思うが、先ほど正式に連盟より要請が入った」

 

 

 

 

「日本は帝都にて、世界華撃団の競技会が開かれることが決定した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界華撃団大戦。

帝都全域に配られた緊急号外の一面を飾るその言葉に、誰もが衝撃と共に目を見開いた。

今や国境を超えて世界を降魔の脅威から守る上海、倫敦、伯林の三都華撃団。

それらを取りまとめる世界華撃団連盟=WOLFが、事務総長の主催の下開催するという前代未聞の一大イベントである。

 

『あの未曾有の戦いから旧三都華撃団が抹消されて10年。遂に復活を遂げた帝国華撃団は、連盟が認めるに相応しい存在か否か、洗礼を受けることになります!!』

 

内容はこうだ。

霊的組織として再構築に成功していながら、世界的な都市防衛構想を掲げるWOLFと対立する帝国華撃団。

その実力がどれほど通用するものであるのか、傘下の組織を通して世界に知らしめようというのである。

 

『まず先頭を切って見えてまいりました、中国は上海から、広大なユーラシア大陸全土と飛びまわる三色の龍! 上海華撃団です!!』

 

『帝国華撃団再興までは、この帝都の防衛も兼任してくれた大恩を覚えている方も多いことでしょう。帝国華撃団にとっては大先輩。複雑な心境かもしれません!』

 

「複雑か……、確かにな」

 

帝劇地下の作戦司令室に設置された巨大モニターに映る戦友の姿に、初穂が呟く。

この前代未聞の催しが知らされた日の朝、帝国華撃団隊員は他ならぬ主催者側より本部待機を命じられていた。

他国の各華撃団が無事入国を完了するまでの間、国内に降魔出現の方が入った場合、いち早く対処するためである。

何せ演出のためにWOLFの擁する巨大戦艦を用いての入国だ。

言い方を変えれば、ホスト国はホストに徹しろということだろう。

 

『続いては英国は倫敦から、かの巴里華撃団の技術と信念を受け継ぐ円卓の騎士! 倫敦華撃団です!』

 

『死して尚、剣と魂を捧げる愛国心と誇り高き騎士道。幾人もの殉教者達の思いは、今も共にあると、アーサー団長は断言します!』

 

『今や団長と1席を残し空席となってしまった円卓でありますが、その背中を最強の黒騎士、ランスロットが守ります!』

 

「空席って……、戦死者……?」

 

恐る恐る尋ねるさくら。

応えたのは、アナスタシアだった。

 

「私達とは、根本的な思想が違うのよ。彼らが掲げるのは名誉と礼節、主君への忠誠。勝利を得るための犠牲さえ、彼らは名誉の死として受け入れているの」

 

「名誉の死……。理解はするが、俺たちとは相容れない部分になるかもしれないな……」

 

穏やかに言葉を選びつつも、神山は明確に彼らの騎士道とは相反することを明言した。

自分達帝国華撃団は、先代総司令の大神一郎の掲げる至上命題、『全員絶対帰還』をポリシーとしている。

それは、例え敵を前にして敗走することになったとしても、帝都民はもちろん自分達に絶対に犠牲を出さないという決意を意味する。

仲間の屍を超えてでも勝利を取る、とする騎士道とは、いずれどこかで衝突するかもしれない。

だがここは絶対に曲げてはならない中枢線である。

 

『そして最後に見えてまいりました。独国は伯林から、華撃団の前身「欧州星組」の流れを汲む世界華撃団連盟最初の霊的組織、伯林華撃団です!』

 

『内政が混乱する中での結成は紆余曲折あったと伺っておりますが、現在はナチスを中心とするドイツ軍部の支援を得て、世界屈指の実力を誇る華撃団となっております!!』

 

『その緻密なまでに計算されつくした作戦と、それを確実に完遂する戦闘力……。彼らの目に帝国華撃団はどのように写っているのでしょうか……!!』

 

「……久しぶりに見ても、すごい迫力ですね」

 

「そうね。今の貴女を見たら、驚くかもしれないわ」

 

「そ、そうでしょうか……!?」

 

クラリスはほとんど顔を合わせていなかったとはいえ、二人にとっては古巣というべき伯林華撃団。

確かに以前とは違い、今の自分なら華撃団の一隊員として胸を張って向き合えるかもしれない。

その自信を表情から読み取ったのか、アナスタシアも満足げに笑う。

 

『それでは今大会の趣旨について、主催者であるWOLF事務総長、プレジデントGにお話を伺いましょう』

 

「あの人が、プレジデントG……」

 

「鋭い目をしてる。あれは、敵を見る目……」

 

はじめて見る連盟のトップに立つ男に、誰もが息を呑む。

画面越しであるにも拘らず、眼前で見下ろされいるかのような威圧感。

まるで神の領域に土足で踏み込むような、禁忌さえ犯すような感覚。

自分達はとてつもない高みの相手に挑もうとしている。

そう思わせるほどに。

 

『世界各国よ。今回の催しに興味を示してくれたことに感謝する。我々は確かめなければならない。今この瞬間、帝都に蔓延る帝国華撃団と名乗る集団が、真に都市防衛を果たすに相応しい存在であるのかを』

 

形ばかりの社交辞令もそこそこに、主催者は怪しく眼鏡を光らせた。

 

『WOLF発足時から、我々は帝都日本に連盟の加入を呼びかけ続けてきた。全ての始まりとなった帝国陸軍・対降魔部隊と、初代帝国華撃団の構想は、世界華撃団構想にとって大きなプラスになるからだ』

 

『その意志を汲み取ってくれた伯林と上海、そして巴里の意志を受け継いだ倫敦、3つの華撃団の結成に至った』

 

しかし、とプレジデントは続ける。

 

『今日に至るまで、肝心要の帝国華撃団は首を縦には振らなかった。そればかりかこちらへ正式な許可も無く上海霊子戦闘機の技術と倫敦霊子戦闘機の特殊合金素材、さらには伯林からアナスタシア隊員の引き抜き……』

 

『一都市、一国を超えた世界華撃団構想のために足並みを揃えなければならないという状況下での、実に身勝手、実に無秩序。このような暴挙が許されて良いのか? いや、断じてならない!』

 

『だからこそ私は見定めなければならない。彼らが本当にこの帝都を防衛するに相応しい資質を備えているのか否かを。結果次第ではこの世界華撃団大戦が、彼らの命日となるであろう』

 

「……好き勝手言ってくれるぜ」

 

初穂の言葉が、その場の全員の心情を代弁していた。

連盟に加入しなかったすみれの意向は大いに理解できるし、先日のこの帝劇で当人が働いた無礼千万は誰もが知るところである。

 

「文句を言うだけならまだしも、こうして世界の華撃団を巻き込むなんて……!」

 

「大会期間中は各華撃団はこの帝都に滞在することになる……。その間に各国に降魔が出現したときのリスクは考えているのかしら?」

 

「さぁな。そのときは大方『帝国華撃団がさっさと加入しとけば云々』って擦り付けてくるんじゃないか?」

 

「そもそも各国の華撃団は、この決定を了承してるんでしょうか?」

 

「傘下である以上、拒否権はないと思う」

 

口々にプレジデントGへの、WOLFへの不信感を募らせる花組。

作戦司令室の扉が開いたのは、一旦場を落ち着けようと神山が立ち上がりかけたときだった。

 

「お待たせしてごめんなさいね。……世界華撃団の入国はたった今完了しましたわ」

 

カオルを伴って、すみれが足早に司令席に腰を下ろす。

やはり帝国華撃団代表として、歓迎の場にいる必要があったのだろう。

 

「支配人。今回のことは……」

 

「私も寝耳に水でしたわ。まさか連盟のトップがこんな馬鹿げた催しを強行するなんて……」

 

すみれの反応も、自分達と全く同じであった。

何の前触れもない突然のイベント。

件の華撃団同士の戦いの場は、あろうことかこれからWOLF主導で用意するというから失笑も出てこない。

身勝手且つ無秩序とは、どの口が言ったものか。

 

「今からでも正式に抗議してみませんか? こちらはそのような催しに参加するつもりは……」

 

「ダメよクラリスさん。相手は既にこの世界華撃団大戦を、私達の資質を問う場として成立させてしまっている。もし拒めば、私達はその場から逃げた臆病者として、世界の信用を失うわ」

 

「そうなったら、帝国華撃団を取り潰すといわれても、誰も反論してくれなくなる……」

 

「クソッ! せこい事考えやがって……!!」

 

あざみの補足した現状に、初穂は苛立ちを拳にぶつける。

プレジデントGの暴挙に抵抗を示すことは簡単だ。

そんな勝手なイベントに参加するつもりは無いと表明すればいい。

だがこうして開催の意義が語られてしまった現状、それは自分達に霊的組織としての資質が無いことを暗に肯定する事を意味する。

そうなれば、ただでさえ後ろ盾が無い帝国華撃団は国際的にも孤立してしまうだろう。

下手をすればこちらに影で支援してくれた上海や伯林にも迷惑がかかるかもしれない。

そうしたリスクを踏まえると、拙速な行動は取れなかった。

 

「……じゃあ、他の華撃団も一緒に抗議したらどうでしょう?」

 

僅かに沈黙が過ぎる作戦司令室で、ふとミライが口を開いた。

 

「僕たちだけが拒否したら不戦敗になるんですよね? それなら、他の華撃団と一斉に出場しませんって言えば、誰も出場しないから優勝とかもなくなりますよ!」

 

「どうかしら? わざわざ自国を空けてまで来日しているのよ? 抗議するなら出国前にしていると思うわ」

 

多少楽観的観測のあるミライの意見を、アナスタシアが一蹴する。

しかし確かに今回の催しに懐疑的なら、出国前に一悶着あるのが普通である。

そう考えると、抗議に関して協力を取り付けることは難しそうだ。

 

「やっぱり、戦うしかないんでしょうか。同じ華撃団なのに……」

 

場所は違えど、都市と人々の暮らしを守る志を共有するはずの同志との戦いに、心を痛めるさくら。

それを慮ってか、神山が口を開いた。

 

「確かに気は進まないが、何も果し合いというわけじゃないんだ。競技会……、手合わせみたいに考えたらいいんじゃないかな?」

 

「手合わせ……。そう、ですね……。何も殺し合いをするわけじゃないですよね……」

 

「ウジウジ考えても仕方ねぇしな。覚悟決めるとするか」

 

「そうね。今の私達が世界で何処まで通用するのか。それを知るいい機会かもしれないわ」

 

「敵ではなく同志、ライバルとして……。そう考えれば、気持ちも前を向けます」

 

「里の掟17条。味方同士で相争うべからず。……共に高めあう研鑽と考える」

 

「歯が立たないと決まったわけじゃありませんし、全力でぶつかり合いましょう!!」

 

さくらの前向きな言葉を皮切りに、吹っ切れたように立ち上がる隊員達。

恐らく出場しないという選択肢は無い。

ならば少しでもこの催しを自分達にとっても意味のあるものにするべきであろう。

考え方を変えれば、自分達より華撃団として経験もあり、世界有数の霊子戦闘機と正面から手合わせできる機会は貴重と言える。

それならば自分達の新しい経験のための手合わせとしてこのイベントに臨めば、少しは有意義なものにできるのではないかと考えたのだ。

 

「すみれ様、よろしいのですか? プレジデントは結果次第では帝国華撃団の解散も言い渡すと……」

 

唯一残る懸念をカオルが口にする。

先ほどの発言の中で、プレジデントGは今回の競技会の結果次第では帝国華撃団を霊的組織の資質なしとして解散に追い込むと宣言していた。

もし今回の大戦結果が不甲斐ないものとなれば、もとより自分達を目の上のたんこぶとして扱っていた彼のこと、すぐにでも動き出すだろう。

だが、すみれはそれすらも一蹴した。

 

「放っておけばよろしいですわ。そもそも連盟に加入すらしていない私達を、どうして彼が解散を言い渡す権限があるのかしら」

 

「しかし、国内軍部に圧力でもかけられたら……」

 

「そのときは、『彼女達』も黙っておりませんわ。元より相互利益のために加入した連盟に、それ以上の価値を抱いてはおりませんもの」

 

なにやら意味深な返答で秘書を煙に巻きつつ、すみれも立ち上がった。

 

「来週には会場の建設を終えて、開会式に移るそうよ。明日はみんな手分けして各華撃団の挨拶へ向かっていただけるかしら」

 

「すみれ様は各華撃団の要人と会う形を取られていますので、時間のあるときにお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都近郊にある銀座繁華街。

平日から多くの人の往来で賑わうこの街の一角に、真新しい中華料理屋が看板を構えたのは、つい昨日のことである。

 

『神龍件』

 

厳つい竜が掲げる看板を潜ると、まるで中国大陸に飛んだかのような煌びやかな装飾が彼らを迎え入れた。

 

「は~い、いらっしゃ~い! ……あ、神山、さくら! 久しぶり~!!」

 

数秒もしないうちに、見知った顔が駆けて来た。

上海華撃団隊員、ホワン=ユイである。

 

「ユイさん、お久しぶりです。あの帝都東京駅の共闘以来ですね」

 

「あの時はゴメンね。バタバタしてちゃんと挨拶も出来なくて……、元気そうで安心したよ」

 

「ユイさんもお元気そうで何よりです。それにしても臨時基地が料理屋というのは、上手いカモフラージュですね……」

 

「母さんの発案よ。上海は貧富の差大きくてね、舞台より食べ物の需要が高いからこういう形にしてるの」

 

言いつつ端の席に案内される二人。

ここで神山は連れの一人が見えないことに気づいた。

 

「あれ、あざみは?」

 

「ここ」

 

言われて振り返ると、何処か不機嫌そうなあざみが幼い少年に連れられて立っていた。

少年の手には何やらメーターのような機械が握られている。

 

「地下は秘密、入っちゃダメ。その子、『かくれんぼくん』で見つけた、です」

 

何やら得意げに鼻を鳴らす少年。

その様子にある程度経緯を察した神山は、苦笑いを残しつつ助け舟を出した。

 

「紹介します。帝国華撃団の一人、望月あざみです。あざみ、彼女達が上海華撃団だ」

 

「ホワン=ユイよ、よろしくね」

 

「何と、帝国華撃団! それならかくれんぼくん、いらなかったです。僕、李仔空といいます」

 

「帝国華撃団、望月あざみ。よろしく頼む」

 

霊的組織の関係者と分かり、仔空と名乗った少年の警戒も緩む。

すると厨房から見知った顔が見えた。

 

「おう、誰かと思ったら神山たちじゃねーか。さしずめ顔合わせか?」

 

「ハハ、まあそんなところかな。シャオロンも元気そうで安心したよ」

 

「ヘッ、お前らに心配される上海華撃団じゃねーよ。そっちこそ、俺たちなしでちゃんとやれてるのか?」

 

「もちろんです! 任務も舞台も、しっかりこなしてます!」

 

神山より先に即答するさくら。

その様子に、シャオロンはまるで子を見守る親のように穏やかに笑った。

 

「なら十分だ。……せっかくだ、何か食っていきな」

 

「えっ? でも昼の営業終わりなんじゃ……」

 

「お前らは特別だ。最高のまかないご馳走してやるよ」

 

後にあざみは皆に言う。

 

「里の掟43条。食べ過ぎるな。動けぬものに明日は無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大帝国劇場を南東に進んだ先に、海に面した広い自然公園がある。

かつて帝国華撃団の切り札とされた空中戦艦ミカサ。

これが一度だけ敵の手に渡り、止む無く破壊した場所に新しく建設された記念公園である。

その芝生に真新しい野営テントが4つ並べられたのは、つい昨日のことであった。

 

「Ausgerichtet!!」

 

凛とした声が響き渡り、3秒立たぬうちに3人の見知った顔が横並びになる。

記憶のそれと違わぬ様子に、訪問者は柔らかく微笑んだ。

 

「相変わらずね、エリス。言ってくれれば支配人に相談できたのに」

 

「そういうわけにはいかん。我々は旅行に来たのではないのだからな」

 

エリスと呼ばれた左端の女性は、訪問者に視線こそ穏やかにしながらも毅然と応える。

訪問者もそれ以上の追求はしない。

作戦中の衣食住は全て自分達で管理する。

これが伯林華撃団の大原則となっているからである。

そしてエリスこそ、若干18歳にして伯林華撃団を纏め上げる若き隊長であった。

 

「アナスタシアこそ、腕は鈍っていないだろうな? クラリッサも元気そうで何よりだ」

 

「もちろん、コマンダントに恥はかかせないわ。クラリスも、舞台で脚本を担当できるまでになったのよ?」

 

「ほう、それは興味深いな。時間が取れたら是非観たいものだ」

 

「お久しぶりです、エリスさん。マルガレーテさんも」

 

「Nach。前に会った時とは別人ね。目が強くなった気がする」

 

クラリスに声をかけられて、初めて右端に立つ小柄な少女が口を開いた。

若干15歳にして独軍戦術書を全て読破し、軍師学校を飛び級で卒業した「早すぎる逸材」、マルガレーテ。

エリスを武の天才とするならば、その緻密に緻密を重ねた作戦を立案する彼女は正しく知の天才と言えた。

そしてもう一人、二人の間に挟まれた少年に、アナスタシアは笑いかけた。

 

「おめでとうポール。正式に『鉄の星』に認められたのね」

 

「もちろんさ! 言ったろ? 次にアナに会うまでに一人前になって見せるって」

 

マルガレーテより頭一つ背の低いポールと呼ばれた少年が、無邪気な笑顔で拳を突き出して笑う。

それもそのはず。

ポールはつい先月、厳しい霊力審査と戦術訓練を経て正式に伯林華撃団実働部隊『鉄の星』への入隊が認められた4番目の星である。

空席となった3番目の流星が旅立つとき、彼は約束を交わしていた。

次に再会するときまでに、立派に輝く星になって見せると。

が……、

 

「いてっ」

 

「調子に乗らない。前回の作戦までの貴方の被弾率は43%。前に出すぎ」

 

明らかに不機嫌な様子でマルガレーテが手持ちのパソコンで小突く。

と、今度はエリスが目にも止まらぬ速さでポールを守るように抱え込んだ。

 

「頭を小突くなといっているだろうマルガレーテ! おおポール、どこが痛いんだ? お姉ちゃんに言ってみろ!」

 

「うええ!? い、いいよ平気だよ!」

 

「遠慮するな! 痛いところはお姉ちゃんがナデナデしてやるぞ!」

 

「エリス、引っ付きすぎ。離れて」

 

「何を言うマルガレーテ。お前こそ私がいない間にポールとくっついてるだろう。知ってるぞ!」

 

「わ、私は密着時間平均4時間だから……。エリスより短いから……」

 

「長い短いの問題ではない! どうせ今のもあとでナデナデするための口実だろう!」

 

「違うもん!」

 

「違わん!!」

 

「……」

 

「……変わらないわね、本当に」

 

かくして、戻って来た司令官の地獄のペナルティが下されるまで、骨抜きにされた二人の論争は続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都中央駅に併設された入り口をくぐると、まるで王族の宮殿を思わせる内装の建物が訪問者を出迎えた。

大帝国ホテル。

国内外の著名人がこぞって利用する高級ホテルである。

 

「うわぁ~、豪華ですね……」

 

「ああ……、アタシらには縁が無いところだもんな……」

 

そのフロントに何とも不釣合いな男女が姿を現したのは、今しがたのことだった。

手分けして今回のはた迷惑な催しに巻き込まれた各国の華撃団への謝罪という名のあいさつ回り。

男女が担当することになったのが、英国は倫敦の誇り高き騎士団の拠点だった。

聞けば期間中、この豪華なホテルを借り切っているという。

そういった意味でも、住む世界の違う妙な違和感が拭えない。

 

「ようこそ、帝国華撃団殿。お会いできて光栄です」

 

煌びやかな装飾と厳かな佇まいに圧倒される二人を、2階ののテラスから若い男の声が出迎えた。

短く揃えた金髪と、優しげな顔立ちが特徴的な青年。

だがその身を包む戦闘服が、彼が英国騎士であることを間接的に証明していた。

 

「僕はアーサー。円卓の騎士の団長を務めている」

 

「初めまして、帝国華撃団の御剣ミライと申します」

 

「同じく、アタシは東雲初穂だ。お互い、面倒な催しに巻き込まれたもんだな」

 

そう肩をすくめる初穂に、意外にもアーサーは肩を震わせて噴出した。

 

「フフフ……。君は正直なんだね」

 

「何だ? おかしかったか?」

 

「とんでもない。素直な人は、好きだよ」

 

「は、はぁ!?」

 

唐突な言葉に赤面したじろぐ初穂。

一方のアーサーは、まるで意に介さない様子で初穂の耳元に手をやる。

 

「お、おい!? 何の真似だ!?」

 

「何って、耳元に虫がいたから取っただけだけど?」

 

「う……」

 

みるみる真っ赤になる初穂の様子に、なにやら面白げに微笑むアーサー。

一方、状況が分からないミライは二人を交互に見やって初穂に尋ねた。

 

「どうしたんです、初穂さん? 顔が真っ赤ですよ」

 

「う、うるせぇやい! もう後は任せたぞミライ! アタシ先に戻ってるからな!!」

 

ますます顔を紅潮させ、初穂は早口でまくし立てると大股でズンズンとホテルを後にしてしまった。

その背中を見送って尚、アーサーは意地悪そうに笑う。

 

「フフ、ちょっとからかいすぎたかな? ……ところでミライ君」

 

「はい?」

 

「我が円卓の団員、ランスロットにはもう会ったかな?」

 

会ったかと言われてもここに来るまでに同じ服装の人物には遭遇しなかった。

そう答えると、アーサーは何処か安心した様子でため息をついた。

 

「それは良かった。実を言うと、見かけてもあまり声をかけないであげて欲しいんだ」

 

「え? どうしてです?」

 

「ちょっと前に団員の一人が殉教してしまってね……。彼を最後にしようと、鍛錬に集中しているんだ。彼女自身、まだ心の傷もいえてはいないから、ね……」

 

笑顔にわずかばかりの陰りを残し、アーサーは視線をそらす。

確かに傷心の状態で見ず知らずの者が声をかけては精神的に悪影響だろう。

それにここは異国の帝都東京。只でさえ勝手が分からない他国へこのような催しで呼び出されてストレスにもなっているはずだ。

そう考えると、アーサーの考えは合理的ではあった。

 

「分かりました。できるだけそっとしておきますね」

 

「ありがとう。君達とは仲良くできそうだ。こんな形ではあるけれど、悔いの無い試合をしよう」

 

「はい! ありがとうございます!!」

 

素直な感謝を述べ、その場を後にするミライ。

故に、彼は気づかなかった。

背後で呟かれた、一言に。

 

「……困るんだよ、アイツと君達が仲良くなったらね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく……、何なんだよアタシらしくもねぇ……!!」

 

ホテルの入り口を過ぎて、初穂は駅のベンチに腰を下ろしてうなだれていた。

あの一瞬。

初対面であるにも拘らず触れられてしまった一瞬。

目の前の光景が宝石に包まれてしまったかのように、興奮する自身を自覚した。

いつもなら、反射的に鉄拳をお見舞いしているだろう状況で、ときめいていたのだ。

 

「どうなってんだよ……。これじゃまるで……!」

 

戸惑った。

恥ずかしかった。

そして、それを知られるのが怖かった。

何故……、

 

「……え?」

 

ふと、自身の手を前から小さな両手が包んだ。

顔を上げると、そこには小柄な一人の少女が心配そうな顔でこちらの手を包んでいた。

短い黒髪とくりくりとした愛らしい茶色い瞳。

まだ10歳くらいだろうか。

 

「お姉ちゃん、おててケガしてる……、痛いの……?」

 

「あ……、そんなんじゃねぇよ。ありがとうな、お嬢ちゃん」

 

普段から帝劇の大道具を扱う手前、生傷の耐えない指先には常にさらしを巻いている。

確かに傍から見れば、指の怪我で沈んでいるように見えなくも無い。

 

「ツバサ、どうしたの?」

 

「あ、お母さん!」

 

女性の声に、ツバサと呼ばれた少女が振り返る。

声をかけたのは、黒い修道服に身を包んだ若い女性だった。

フードを被っているため表情をうかがうことは出来ないが、頬の辺りに跳ねた茶髪が見え隠れしている。

 

「お姉ちゃん、おててを怪我してるの。まだ上手く治せなくて……」

 

「いや、だからこれは……」

 

誤解が解けていない少女に言いかけるも、それより先に母親が膝を突き、初穂の指に手をかざす。

瞬間、暖かい何かが包み込むような感覚を覚えた。

 

「(何だ、これ……。暖かい……)」

 

それは、奇妙な懐かしさを感じさせるぬくもりだった。

まるで幼い頃に家族に抱かれたような……。

 

「……はい、終わりました」

 

ふと、母親が徐に立ち上がる。

その声に、僅かにまどろみかけた初穂の意識が引き戻された。

 

「お大事になさってくださいね。神のご加護があらんことを……」

 

胸に下げたロザリオに祈りを捧げ、母親は少女を連れて駅を去っていく。

どこか神々しささえ讃えたその様子に、初穂はしばし呆然としていたが、程なくして指先の違和感に気づいた。

 

「……嘘だろ……」

 

驚いた。

さらしの下の傷だらけだった指先は、生まれ変わったかのように傷跡が消え去っていたのだ。

そう、まるで奇跡でも起きたかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『都市防衛構想の下、日夜世界を脅威から守り続けてくれている華撃団の諸君。今ここに、世界華撃団大戦の開催を宣言する!!』

 

全世界への衝撃的な発表から1週間。

宣言通り帝都東京の一角に巨大な競技場が聳え立っていた。

中央のフィールドには最新鋭の蒸気機関による技術を余す事無く採用し、今でこそ平坦な芝生となっているが、変幻自在の舞台を作り出すことができる。

それを囲む観客席には、4ヶ国の華撃団の勇姿に声援を送るべく詰め掛けた観客で360度埋め尽くされていた。

 

『ここ帝都に誕生した新生帝国華撃団が真に霊的組織を名乗るに相応しい資質を備えているか。ここにいる全ての者が、世界が証人となろう。持てる力の全てを懸けて、己の存在を証明してもらいたい』

 

世界華撃団大戦。

歴史上類を見ない国境を越えたイベントが開催される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「異議あり! この場所に華撃団は存在せず。……主を喪った看板が残るのみ」

 

『な、何者だ!?』

 

突如響き渡る謎の声に、モニターの声が慌て始める。

直後、ノイズが走ったかと思うと通信が途切れたのかモニターが砂嵐に変わり、同時に周囲の空間に異変が起こり始めた。

 

「これは、魔幻空間!?」

 

その場に緊張が走った。

魔の存在を呼び込むための異空間。

だとすれば今の声の正体は……、

 

「思い知るがいい、地底に眠りし幾万の業……尽きること無き怨念の炎……」

 

「平和という幻は消えた。残るは、混沌という名の地獄のみ……」

 

「逃れたければ案内しましょう……。永久に目覚めぬ悪夢の牢獄へ……」

 

陰火、朧、獏……。

見間違いではない。

これまで帝都に牙を向き、苦しめてきた降魔たちだ。

そして……、

 

「時は来た。我らが皇の復活の鍵を……、貴様らの命と共に貰い受ける!!」

 

3者のいずれのものでもない女の声が響いた瞬間、四方八方の空間という空間から溢れんばかりの傀儡騎兵が湧き出した。

瞬間、会場は阿鼻叫喚の地獄絵図に変わった。

 

「こ、降魔だぁーーーっ!!」

 

「キャーーーーッ!!」

 

「逃げろーーーっ!!」

 

たちまちパニックになり、我先にと非常口へ走る観客達。

神山たちも急いで避難誘導を開始するが、半狂乱になった一般人に冷静な判断ができるはずも無い。

そこへ、嘲笑うかのように悪魔達は襲い掛かってきた。

だが……、

 

「な、何だ!?」

 

突如飛来したいくつもの巨大な影が刃を振り上げた傀儡騎兵の1体を吹き飛ばし、会場にその足を叩きつけた。

帝国華撃団の擁する霊子戦闘機『無限』である。

 

『神山君!! 霊子戦闘機の射出に成功したわ! 直ちに降魔を迎撃して!!』

 

『現在月組が各国の霊的組織との緊急連絡中! 準備が出来次第、他の霊子戦闘機も送り込みます!!』

 

『多勢に無勢でもやるしかあらへん! 何とか持ちこたえるんや!!』

 

スマァトロン越しの緊急通信。

神山たちの表情が、変わった。

 

「よし! 帝国華撃団花組、出撃!! 降魔及び傀儡騎兵から、一般市民を救護せよ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界華撃団大戦の開会式という人が密集する時間と場所を狙い済ましたかのような上級降魔の総攻撃。

救護対象の多さから、神山は止む無く散開し、出口付近の傀儡騎兵の掃討と脱出経路の確保を最優先に迎撃を開始した。

会場の広さが仇となり、中にいる一般人の数は少なく見積もっても4000人以上。

ならば可能な限り戦闘区域から離脱させ、内部の救護対象を減らしていくほか無い。

 

「くっ、アナスタシア!!」

 

「了解!」

 

指示を受けた鉄の狩人が会場の中央を陣取り、四方八方に蠢く傀儡騎兵を狙撃していく。

一般人と敵の絶えず入り乱れたこの状況で性格に敵のみを打ち抜くのは至難の業であるが、そこはアナスタシアの十八番。

発射された弾丸全てが正確無比に傀儡騎兵のみを破壊に追い込み、救護対象への誤射は一発も発生していない。

同時に神山は散会させていた部隊を自身を含め二人一組に纏め、会場に設置された3箇所の避難経路の確保に動いた。

 

「一般人を一人でも多くここから逃がす!! 各自、避難経路を制圧! 死守せよ!!」

 

「「了解!!」」

 

出口を塞ぐ降魔騎兵を勢い任せになぎ倒し、背中合わせになって出口への経路を確保する。

後は一般人が逃げ切るまで敵を押さえ込めればいい。

 

「会場の皆さん! 我々が避難口を死守しています! 慌てずに落ち着いて避難してください!!」

 

神山の呼びかけに右往左往していた観客達も、列を組んで出口に殺到する。

だが……、

 

「ヒャーハハハ! 逃がすわけねぇだろ、人間共!!」

 

「あれは……!!」

 

最初に気づいたさくらが戦慄に叫びかけた。

無理も無い。

ようやく無事に逃がせたはずの一般人の行く先に、3体もの大型傀儡騎兵が待ち構えていたのだから。

 

「言ったはずです。この悪夢の牢獄から逃れる術はないと……」

 

「この場に足を踏み入れた瞬間から、運命は決まっていた。大人しく皇の贄となるがいい」

 

「逃がさねぇぜ、一匹も。さあ、皆殺しの時間だぁ!!」

 

最前列にいた親子目掛け、朧の傀儡騎兵が無数の妖力弾を放つ。

だが……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうは行かないぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如響いた声と共に突風が吹き、妖力弾が一瞬のうちに弾き飛ばされる。

その正体は、観客達を守るように立ちふさがった3対の龍であった。

 

「「「上海華撃団、参上!!」」」

 

「「同じく、倫敦華撃団、参上!!」」

 

「「「同じく、伯林華撃団、参上!!」」」

 

英国の騎士と独国の星も、それぞれの避難口にて傀儡騎兵の前に立ちはだかる。

どうやら一般人の犠牲を出す事無く、華撃団の到着を見ることが出来たようだ。

 

「いつかの恩を返すときが来たな。暴れてやるぜ、王龍!!」

 

「約束された勝利のため、騎士の戦いをお見せしよう!」

 

「安心しろ、帝国華撃団。我々が来たからには瞬きの間に終わらせる」

 

「助太刀、感謝します! 花組各員に告ぐ! これより三都華撃団と連携し、傀儡騎兵の攻撃より一般市民の退避を完了させよ!!」

 

「「了解!!」」

 

先ほどまでの劣勢から、戦況は一変した。

何せ海外では百戦錬磨を誇る名うての華撃団である。

傀儡騎兵の一個大隊程度で相手になるはずも無い。

時間にして実に5分。

その間に一般市民の退避は完了し、ほとんどの傀儡騎兵も鉄くずに変わっていた。

残るは出口付近に陣取っていた上級降魔たちである。

 

「降魔共! どんな策を弄しようと、俺たち華撃団がいる限り好き勝手はさせん!!」

 

数多の傀儡騎兵を切り伏せた二刀を突きつけ、神山が吼える。

そのときだった。

 

「そこまでです」

 

先ほども聞こえた女の声。

次の瞬間、眼前の陰火を守るかのように、黒ずくめの衣装を纏った謎の女が立ちはだかった。

 

「貴様、何者だ!?」

 

言い知れぬ威圧感に警戒する華撃団。

だが、女はそれすら鼻で笑うと後ろの仲間に視線を移した。

その視線は、仮面に隠されうかがい知ることは出来ない。

 

「陰火、獏、朧、ご苦労でした。ここから先はあたしが引き受けましょう」

 

「チェッ、面白くなってきたのによぉ」

 

「まあいいでしょう。それも『あの御方』のご意向ならば」

 

「全ては我等の手中……。また会おう……」

 

「……、待てっ!!」

 

それまで死闘を演じていた3人の降魔は、意外なほどにあっさり引き下がると異空間へ消えていく。

残るは、謎の仮面の女只一人となった。

 

「初めまして、世界華撃団の皆様。……と言っても、これが今生の別れとなりますが……」

 

「貴様、降魔か? 一体何者だ!?」

 

「あたしの名は夜叉。偉大なる『あの御方』の命の下、幻都の封印を解く任を任されし者」

 

言うや夜叉と名乗った女は腰に据えた刀を抜き放ち、天に掲げる。

刹那、一閃の稲妻が迸ったかと思うと、その身を漆黒の波動に覆われた霊子甲冑が包み込む。

 

「今日この瞬間を以って貴方達の未来は終わる。さあ、お眠りなさい」

 

「……っ、来るぞっ!!」

 

総勢15機の霊子戦闘機が一斉に身構える。

漆黒の霊子甲冑は腰の一刀を抜き放つと、真横から頭上に振りかぶった。

そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「破邪剣征……、桜花放神!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一瞬、何が起きたのか誰も理解することが出来なかった。

一撃。

放たれたのはたったの一撃である。

だがその一撃で、文字通り華撃団連合は壊滅していた。

会場諸共吹き飛ばすその破壊力は霊子戦闘機を紙くずのように吹き飛ばしたのだ。

 

「うっ……」

 

中でも旧式の三式光武で戦っていたさくらのダメージは大きかった。

ほぼ真正面から受けた衝撃でコックピットの装甲は木っ端微塵に吹き飛び、操縦席ががら空きになっている。

 

「運がいいのね。まだ息があるなんて」

 

「っ……!!」

 

声を失う。

身動き一つ取れないさくらの真上に、勝ち誇るように笑う夜叉が見下ろしていた。

最早抗う術はない。

去来した死の恐怖に、体が震え上がる。

 

「ひ……!」

 

徐にこちらへ伸ばす手に恐怖し瞼を閉じる。

だが、それはこちらの首を絞めるものでもなければ、心臓を突き刺すものでもなかった。

 

「……帝鍵『天宮國定』。確かに頂いたわ」

 

「そ、それは……、母さんの……!!」

 

夜叉の伸ばした手は、さくらの母が残した神器を掴んでいた。

帝鍵とはどういうことだ。

 

「な……ぜ……?」

 

死の恐怖から解放された安堵か、それとも恐怖が臨界点を超えたか。

仮面の女の真意が分からぬまま、さくらの意識は闇に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故? それを知る必要は無いわ。ここで貴方の天命は終わるのだから」

 

蔑むように笑い、夜叉は刀の切っ先をさくらの喉下へ向ける。

そのときだった。

 

「!?」

 

横からの殺気に咄嗟に身をよじると、先ほどまで自身のいた場所を黄金色の光剣が一閃した。

剣の主はそのまま空中を回転して地に降り立つ。

 

「驚いたわ。まだ動けるものがいたのね」

 

「さくらさんから離れろ! これ以上みんなを傷つけることは許さない!!」

 

左手首の腕輪から伸ばした光剣を突きつけ、男が叫ぶ。

面白い。

ならばその希望を、完膚なきまでに叩き潰してやることとしよう。

 

「やってごらんなさい。この絶望から、逃れられるものならね。来なさい、戦闘機怪獣『メタルダイナス』!!」

 

三度、刀を天に掲げる。

その頭上に巨大な陣が描かれ、中から全身を鋼鉄に武装した肉食恐竜を思わせる巨大ロボットが出現した。

来たる全世界進攻に向けて生み出された降魔を核として90%以上を機械化させた量産型機械獣である。

既に霊子戦闘機すら満足に動かないこいつらなどアリのようなものだ。

だが、寧ろここで一人立ち上がってきたという事は……

 

「みんなは、僕が守る!! どんな悪にもくじける事無く、不可能を可能にする……。それが、それがウルトラマンだ!!」

 

言うや男は左の腕輪に右手をかざし、光を集中させる。

そうか。

この男が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メビウーーーーーースッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突き上げた左腕の光が全身を包み、機械獣とタメを張る光の巨人が姿を現した。

新生帝国華撃団と共に悪を討つ新たなる光、ウルトラマンメビウスである。

 

「セアッ!!」

 

機械獣とにらみ合うこと数秒。

先に仕掛けたのは、機械獣だった。

 

「スァッ!」

 

突き出された両腕の銃口から放たれる無数の弾丸。

側転でこれを回避したメビウスは更に地を蹴って跳躍し、機械獣の背後を取る。

 

「ハッ!!」

 

そのまま振り向き様に反撃とばかりにメビュームスラッシュを放った。

だが……、

 

「セアッ!?」

 

何と、光刃は甲高い音と共にあっさりと弾き飛ばされてしまった。

これまでの敵は多少なりともダメージを受けていたはずであるのに。

 

「セアアッ!!」

 

だが怖気づいている場合ではない。

光刃でダメなら肉弾戦でラッシュをかける。

そう判断したメビウスは一気に距離をつめて渾身のパンチを放つ。

だが……、

 

「ゥアッ!?」

 

何と、速度と重量を乗せたパンチの一撃も、まるで効果が無い。

それどころかこちらは反動で拳にダメージが来ている始末。

歯が立たないとはこのことだ。

 

「ゥアァッ!!」

 

お返しとばかりに機械獣のタックルが襲ってきた。

ほぼゼロ距離であったにも拘らず、巨人の体は軽々と宙を浮き、大地に沈む。

同時にカラータイマーが危険を知らせる点滅を開始した。

 

「スァッ! ハァァァァ……!!」

 

片膝をついたまま、残るエネルギーを全て集中して∞の文字を描き出す。

接近戦もけん制も効かないなら、残るは必殺のメビュームシュート。

可能性があるのは、もうこれしかない。

 

「セアアアァァァッ!!」

 

一縷の望みを賭け、十字に組んだ腕から渾身の光線を放つ。

機械獣は防御する素振りすらなく胸部装甲でそれを直撃させた。

だが……、

 

「ウ……ウゥ……!!」

 

倒れない。

残されたほぼすべてのエネルギーを打ち込んだにも拘らず、機械獣にはまるでダメージが無い。

カラータイマーの点滅速度が急上昇する。

もう立ち上がることさえ厳しい。

だが、メビウスは諦めない。

 

「(諦めない……! 諦めてたまるか……!!)」

 

10年前、あのウルトラサインに約束した。

偉大な彼らに代わり、今度は自分がこの帝都を、地球を守り抜いて見せると。

ここで倒れるわけには行かない。

倒れるわけには、行かないのだ。

 

「……、ハァァァァ……!!」

 

最早無いに等しいエネルギーが、微弱な∞を描き出した。

今度は機械獣も身構えていた。

開かれた口に供えられた発射口にエネルギーが充填されていく。

そして……、

 

「セアアッ!!」

 

再び放たれたメビュームシュート。

だがそれは相手の放ったレーザー光線に易々と押し返されていく。

そして……、

 

「……、ウアアアァァァ……!!」

 

無慈悲な一撃が十字を弾き、胸部のカラータイマーを直撃した。

またも巨人の体は宙を舞い、仰向けに大地に叩き伏せられる。

もう、立ち上がる力は残されていない。

 

「無様ね」

 

吐き捨てるように、夜叉が嘲笑した。

だが今の状態では睨み返すことしか叶わない。

 

「でも安心なさい。ちゃんとこいつらにも追わせてあげる。貴方の跡で跡形もなくね」

 

主の死刑宣告を受けた機械獣が、引導を渡すべくレーザー砲を放つ。

これまでなのか。

約束に報いることは、出来ないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その一撃が引導を渡すことは出来なかった。

 

 

 

 

 

何故なら……、

 

 

 

 

 

 

「……、何者っ!?」

 

初めて夜叉の顔から余裕が消えた。

無理も無い。

レーザーが直撃した砂煙の奥に見えたのは、

 

「巨人……!?」

 

メビウスではない、もう一人の光の巨人だったからである。

全身のいたるところに見える発光体。

胸部のカラータイマーを包む真紅のオーブ。

そして明らかに肥大化している右腕。

これまでのデータには存在しない、異質とも言うべき巨人がそこにいた。

 

「……予想より早い邂逅となった」

 

厳かな低い声で、巨人が呟く。

瞬間、周囲の空気が瞬く間に張り詰めた。

 

「貴様、何者だ?」

 

油断なく問いただす夜叉。

ややあって、巨人は沈黙を破った。

 

「……我が名はギンガ。歪められし運命に抗うもの……」

 

ウルトラマンギンガ。

彼こそ、幾つもの因果に導かれたもう一人の巨人。

その沈黙のヴェールが解かれた瞬間だった。

 

<続く>




<次回予告>

夜叉……、あの降魔に私達は手も足も出なかった。

それにあの声、あの姿、あの太刀筋……。

あれは……、あれは見間違いなんかじゃない……!

次回、無限大の星。

<約束:中編>

新章桜にロマンの嵐。

あの日の出来事を、話す時が来たようね……。
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