無限大の星   作:サマエル

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大変お待たせしました。

いよいよさくらが、初穂が、そしてミライが試練を乗り越える後編です。

原作ではさくらの比重が大きくて初穂のエピソードが少なくなっていたので、その分かなりのボリュームアップになっています。




第6話:約束~後編~

 

 

帝都はおろか日本全体を通しても、その家屋の存在を知るものは極めて少ないと言わざるを得なかった。

下町は浅草より更に北東に位置する寺島町。

既に町制施工が行われて久しいこの町の奥に、一軒の家屋が存在する。

川を隔てた橋の先に、大きな一本桜を囲うように並ぶ長屋式の建物。

その一角にある作業場では、今日も聞きなれた鉄を打つ音が小気味良いリズムを刻んでいた。

明治に発せられた「廃刀令」を免れて大正の代に存続する数少ない刀匠『天宮』の住まいである。

その一族は代々受け継がれし類稀な霊力と女性にのみ発現するとされる「絶界」の力を以って、帝都の守護に尽くして来たという。

現在の当主は12代目。

名は『天宮鉄幹』。

そして今年家を出たばかりの、花の様に可憐な一人娘がいた。

 

「……」

 

無心のままひたすらに打ち続けた刀身を焼き戻す。

受け継がれてきた伝統の技は、ため息さえ誘うほどに美しい光沢を生み出した。

だが、その表情は少しも晴れることはない。

何故なら……、

 

「お父さん……」

 

ふと、後ろから呼ぶ声に我に帰る。

振り向くと、久しい顔がおずおずとこちらを見ていた。

 

「ご飯の支度、出来たよ……」

 

「……ああ、今行く」

 

何処か陰りを帯びたその顔に、気取られたかのような錯覚を覚える。

そんな事はありえないと、分かっている筈なのに。

 

「……ひなた……」

 

今は亡き妻を想い、打ちかけた刀身を一瞥する。

誇るべきその輝きが、憎くすら思えた。

 

 

 

 

<第6話:~約束・後編~>

 

 

 

 

 

突然だった。

娘が何の連絡もなく、突然身一つで家の門の前に現れたのは。

理由は知らない。

だがその頬に涙の跡を認め、何も聞かずに中に入れた。

それから二日。

未だ娘の口からは詳細を聞けぬまま、預けたはずの霊的組織から通達が届けられた。

 

『帝国華撃団花組隊員、天宮さくら。此度の件に際し資質不適格と認め、隊員資格を無期限に剥奪する』

 

穏やかではない内容だった。

だが形見すらも失って帰ってきたその表情に納得していた。

 

「……」

 

「……」

 

無言のままの食卓。

一人なら何ら気にすることの無い沈黙が、気まずく思える。

以前は暇さえあれば、帝国華撃団への入隊に瞳を輝かせていたというのに。

 

「……ごちそうさま」

 

それでも食べ残さない事に少しだけ安堵し、自身も味噌汁をかき込む。

食器の片付けと配膳は分担するのが、今の天宮家のルールだった。

 

「さくら」

 

部屋を出ようとする娘を、ふと呼び止める。

本当なら、ここで優しい言葉で慰めたり、厳しい言葉で気合を入れるのが父親というものなのだろう。

だが、事情も知らない今の自分にそんな事は出来ない。

だからこそ、一言だけ告げた。

 

「……後悔だけはするな。お前の人生は、お前のものだからな」

 

「……はい……」

 

どこかに迷いを残した返事と共に、食卓から消えるさくら。

その背中に、かつて告げられた言葉を思い出す。

 

『貴方の娘は、いつか大きな運命と戦うことになる。一人では抗いようの無い運命に』

 

どうか外れてくれれば。

どうかその運命が娘に関わらなければ。

矛盾している、と思う。

何故なら今、その運命の歯車を回しているのは、他ならぬ自身なのだから。

 

「……定め……か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウルトラマン死す!?』

 

不穏な見出しに始まった朝刊の号外に、すみれは頭痛の止まないこめかみを押さえつつ息を吐いた。

だが今日に限っては、この場所にいつもの秘書はいない。

先のミカサ記念公園での戦闘における事後処理のため、月組と共に出向しているためだ。

その代わりというわけではないが、目の前には全ての始まりとなった男が立っていた。

 

「ミライさんを助けてくれたこと、感謝いたしますわ」

 

「礼には及ばない。寧ろ彼には感謝している。奴らの狙いは、私だったはずだ」

 

昨夜の戦闘で海中に巨人が没して数分後。

まるで予知していたかのように、彼は重傷を負った隊員を連れて海から上がってきた。

三式光武は大破し使用不能となってしまったが、一人の犠牲者も出さずに帰ってこられただけでも十分だ。

その意味では、あの突破口を開くきっかけを作った伯林の少年にも感謝しなければならないだろう。

 

「どこまで、なぞっているのかしら?」

 

目の前に立つ男以外には、およそ謎かけにしかならない言葉。

男は、僅かに目を伏せ、答えた。

 

「多くは外れている。だが……」

 

「結末を変えるには、至っていないということね……」

 

全ての始まりは10年前。

降魔皇封印作戦が痛み分けに終わった直後の事であった。

目の前の男が右腕のオーブを携え、こう言い放ったのである。

 

「力を貸してほしい。10年後、封印の解放をもくろむ存在がある」

 

始めこそ半信半疑だったが、その後のプレジデントG及びWLOFの台頭と賢人機関の解体。

そして世界規模の降魔の出現を言い当てた彼の言葉に、すみれは信頼できると確信を持った。

この封印の解放を阻止できるか否かで、遠い未来の運命が決まるのだと。

 

「では、やはり初穂さんの不調も……」

 

「ああ。原因に差異はあれど、精神的な負担が重なり、霊力の一時的な減退が起こっている。そして……」

 

その先を口にする前に、すみれ自身がそれを制した。

その意図を察し、銀河もその先を飲み込んだ。

 

「だが状況は確実に変わりつつある。本来ならば、既に瓦解していた所だ」

 

「クラリスさん、あざみさん……そして今回が初穂さん」

 

「彼女自身のケアが必要だ。要因がそれだけでないところが厄介だが……」

 

その言葉にすみれも重々しく頷く。

彼の話す未来では存在しなかった人物。

だが少なくとも彼女の存在は、初穂の運命を左右する一つのピースとなるだろう。

 

「でも、それでも無理強いは出来ませんわ。彼女もまた、心が壊れる寸前でしたもの」

 

「そうだな。こればかりは、信じるほかにないだろう」

 

「ええ……。信じましょう。再び桜が咲き誇るその瞬間を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の自分自身の行動を、ミライは理解できていなかった。

咄嗟に体が動いた。考えるより先に体が動いていた。

 

「……ここは……」

 

気づくと、自室の見慣れた天井が視界に入った。

ここは帝劇の自分の部屋か。

という事は、

 

「……ミライ、起きた?」

 

「……あざみさん」

 

聞き覚えのある声に気づき、体を起こす。

が、直後に右腕に痛みが走り、顔をしかめた。

 

「まだ動いちゃダメ。昨日まで治療してたから」

 

「昨日まで……。あれから、何日経ってたんですか?」

 

「4日。ミライは腕も折れて全身に火傷があったから、ずっと医療ポッドで治療してた」

 

あざみの説明に、ミライの脳裏に徐々にだが当時の記憶が蘇り始める。

そうだ。

右腕を負傷してメビュームシュートが撃てなくなり、止む無く海中に突き落として怪獣を爆発させて倒したのだ。

そのときに、初穂を庇って……、

 

「……初穂さん……、そうだ初穂さん! 初穂さんは無事なんですか!?」

 

脳裏をよぎるのは、2度も死の危機に瀕していた戦友。

まくし立てるミライに気圧された様子を見せながらも、あざみは務めて冷静に返した。

 

「大丈夫。初穂は無事。……でも……」

 

「でも……? 何かあったんですか?」

 

歯切れの悪い返事に首をかしげるミライ。

あざみは一瞬躊躇う様子を見せたが、覚悟を決めた様子でこう告げた。

 

「支配人を呼んでくる。……いろんな事があった。本当に、いろんな事が……」

 

何処か悲しげなあざみの表情に、ミライは一抹の不安を覚える。

そして現れたすみれの口から齎された言葉に、ミライは衝撃に震えた。

 

東雲初穂が、帝劇を去ったと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行ってきます」

 

そう言って数日振りに外に出る娘の背中を、鉄幹は珍しく見えなくなってもしばらく見送り続けていた。

この日、鉄幹は娘にある事を言付けていた。

先の戦いで失われてしまった帝鍵『天宮國定』。

それに代わる新たな帝鍵を鍛え上げるべく、器となる刀身を知り合いの神社で清めてもらうというものだ。

話を聞いた当初こそ顔をしかめていたさくらであったが、本人に会うわけでないならと承諾した。

どうやらここに戻るときにひと悶着あったようだ。

 

「さて……」

 

数分をおき、声を漏らす。

その一瞬、本人も無意識のうちに表情がほころんでいた。

それは、安堵だった。

 

「出てきたらどうだ?」

 

別人のように鋭い、抜き身刀の如き声が飛んだ。

数秒の間をおき、その背後に人影が降り立つ。

 

「気づいてたんですね」

 

長い黒髪を結い上げ、一振りの刀を構える女。

瞬間、理解する。

かつて盟友が告げていた『運命』。

その始まりが、訪れたのだと。

 

『貴方の娘は、いつか大きな運命と戦うことになる。一人では抗いようの無い運命に』

 

『どうか、生き延びて欲しい。運命を変えるには、貴方が不可欠だ』

 

「……許せ、銀河。これでも、父親だ……」

 

己が身を案じ警告を残してくれた友へ、僅かに目を伏せ詫びる。

そして信じる。

娘なら、きっと乗り越えて見せると。

 

「十二代目天宮家当主、天宮鉄幹。我らが主の命の下にその命、貰い受ける」

 

「やってみせろ。……出来るものならな」

 

蒼天の空に、乾いた音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

 

「初穂さんが、出て行った……?」

 

無言のまま、すみれは頷いた。

何故だ。

自分の意識がない間に、何があったのだ。

 

「あの戦闘の時、初穂さんの三式光武が動かなくなっていた事はご存知かしら?」

 

「三式光武が……?」

 

「霊力はその者の生きる力である生命力に直結しているわ。そしてその精神に強い負担がかかり続けると、その力を弱めてしまうことがある。初穂さんは、無限を動かす霊力も残っていなかったの」

 

「そう……だったんですか……」

 

突きつけられた現実に、ミライはまだ理解が追いついていなかった。

あの戦いで初穂を守ることは出来た。

だが初穂自身が霊力が枯渇してしまい、無限による戦闘に参加できなくなってしまったために、花組を離脱してしまったのだと。

 

「一時的なものではあるけれど、本人はケジメだとおっしゃっていたわ。貴方の負傷が自分の責任だと、引け目を感じていらっしゃるのね」

 

「そんな……僕はそんな事……」

 

胸が締め付けられる思いだった。

自分があの時勝機を捨ててまで初穂を守ることを選んだのは、そんな責任を負わせるためではない。

しかし現に彼女は今、ミライの手の届かない遠いところへ行ってしまった。

まるで、自分から遠ざかるかのように。

 

「みんなも口を揃えてそう仰ったわ。初穂さん一人の責任ではないと。でも彼女は今回の件でご自身を許せなかったのだそうよ。そして貴方に合わせる顔がないとも」

 

「そう……ですか……」

 

失意を隠しきれないミライ。

その様子に、すみれは何かに気づいた様子で問いかけた。

 

「ミライさん。貴方……誰かを愛した事はある?」

 

「え……?」

 

突然の問いかけに、ミライは答えられなかった。

あるかないかと問われると、ない。

ウルトラマンとしての技術を磨く事と、この星を憧れの巨人に代わって守るという志以外に、心を傾けたことはなかった。

そう答えると、すみれは納得したように頷いた。

 

「そうね。この星を守れる存在になるという志を立てて一心不乱に邁進するその姿勢は、敬服いたしますわ」

 

けれど、とすみれは続ける。

 

「貴方が憧れた御剣秀介さん……。あの方はこの星で、ある女性を深く愛しておりました。その方のためならば、自身の命さえ危険に晒せるほどに」

 

「深く、愛する……」

 

「それが必ずしも正しい事なのかまでは分かりかねますわ。事実、秀介さんはそのためにご自身のウルトラマンとしての未来を捨てて、地球人として生涯を歩む決断をされました」

 

それは聞いたことがある。

本来ならば一対であるはずのブレスレットからオーブを切り離し、愛した人が生きるこの星のために寿命を削って戦い抜いたと。

 

「ミライさん。銀河さんがプラズマ=オーブを持つ今、貴方がこの星にいる意味を見失いかけていた事は理解しています。でも、それは決して間違いではないの」

 

「すみれさん……」

 

「貴方があの時初穂さんを身を挺して守ったのは、任務だから?」

 

「……いいえ」

 

「では、秀介さんならそうすると思ったから?」

 

「いいえ……。あの時は、咄嗟に体が動いていました。何かを考える余裕なんて、ありませんでした……」

 

その答えに、すみれは何かに感づいたように、柔らかく微笑んだ。

 

「その気持ちを、素直な言葉で伝えて御覧なさい。貴方が、これからも初穂さんと繋がっていきたいと思うなら」

 

「……はい」

 

瞬間、ミライは決意する。

 

「すみれさん……。初穂さんの、お住まいはどちらですか……?」

 

遠ざかってしまったのなら、こちらから会いに行こうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都は浅草を北に上った先に、一つの大きな鳥居がある。

その先の階段を上り終えたところで見える大きな神社を、知らないものは下町にはいない。

 

東雲神社。

 

実に200年前の江戸の代からこの帝都と共にあり続けてきた、由緒正しき神社である。

下町の人の中には、明治神宮より馴染み深いという人も少なくない。

そして何を隠そうこの神社には、看板娘と持て囃された巫女がいる。

神主『東雲銀次』の一人娘、『東雲初穂』である。

 

「初穂、入るぞ」

 

だが今、帝国華撃団として戦っているはずの彼女がこの実家に戻っている事をほとんどの者は知らない。

理由は霊力の一時的な減少とされているが、本人の塞ぎこみようからしてそれだけではないだろう。

 

「まだ、感覚は戻らないか?」

 

「うん……」

 

娘の持つ「霊力」が本人の精神的な負担で増減するというのは耳にしている。

恐らく人間関係で苦しい出来事が重なったのだろう。

先ほど顔馴染みの少女が訪ねてきたが、あえて娘がいる事は伏せておいた。

いずれにせよ、娘が本調子に戻るまでには時間が必要だ。

 

「あまり気負いするな。お前は帝国華撃団である以前に、ここの娘なんだから」

 

「うん……親父」

 

「ん?」

 

「ありがとう……」

 

「ああ……ゆっくり休め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半年振りに戻ってきた実家は、何も変わってはいなかった。

今までの激動が、まるで夢だったのではないかと思うくらいの、身も心も解けていくような感覚。

すり減らし続けた心に、僅かな潤いを与えてくれるような、そんな感覚だった。

 

「みんな……どうしてるかな……」

 

霊力が戻るまでは戻れないとした自分に、仲間達は優しかった。

一人だけで背負うなと言ってくれた。

いつでも戻ってきて構わないと言ってくれた。

でもだからこそ、それに甘えてはいけない。

戻る事が叶うなら、身も心も生まれ変わった東雲初穂として戻るべきだ。

そして……、

 

「さくらにも……謝らなきゃな……」

 

あの時は自分の虫の居所が悪いからと勝手な理由をつけて、無責任に傷つけてしまった。

もし会う機会があるなら、しっかり頭を下げて謝ろう。

友人、には戻れないかもしれない。

でもそれでも精一杯自分の誠意を持って謝ろう。

そして……、

 

「ミライ……」

 

結局会わせる顔がないと言い訳をつけて、自分から離れてしまった。

常に絶え間なく無邪気に笑顔を振りまいて、弟のような存在だったミライ。

本当は何の取り得もない自分を姉のように慕ってくれたミライ。

そして、多くを胸に秘めたまま、こちらの心の傷に寄り添ってくれたミライ。

思い返せば返すほど、あの笑顔が、あの声が、色あせるどころかますます強くなる。

まるで……、

 

「初穂さん……」

 

今でもこうして、ハッキリ思い出せるくらいに。

 

「初穂さん」

 

何故、こんなに耳に残って……、

 

 

 

「はーつーほーさーん!!」

 

 

 

「……へ?」

 

空耳にしてはやけに大きな声にふと視線を上げる。

瞬間、時間が止まった。

見間違いか。

人違いか。

いや、そんなはずはない。

こんな無邪気な子供のように笑うやつが家の庭にいるはずが……

 

「……へ?」

 

「……来ちゃいました!」

 

 

 

 

 

 

「……、はあああぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

全てを理解した瞬間、出てきたのは神社全体を揺るがす大声だった。

 

「良かった。なんか元気そうで安心しました!」

 

「安心しましたじゃねぇよ! というか来ちゃいましたって何だよ来ちゃいましたって!!」

 

「はい! すみれさんに住所を聞いてきました!! ほら、あざみさんに聞いてみかづきのお饅頭も買ってきたんですよ!!」

 

「そういうことじゃねぇよ! お前花組の任務はどうした!?」

 

「大丈夫です! スマァトロンもちゃんと持って来てます!!」

 

「だから……、はぁ……」

 

もういい。

この調子では追い返そうとしても帰らないだろう。

心の準備は全く出来ていなかったが、初穂はとうとう白旗を上げた。

 

因みにこの騒ぎを聞きつけた神主がミライを賊と勘違いしてもう一騒動起こしたのは、また別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体何がいけなかったのだろう。

普段の活気を失った大帝国劇場の中庭で、神山は一人これまでを回顧していた。

あの時、自分達とは違い実際に夜叉と相対し剣を交えた時、さくらに何があったのだろう。

いや、何かがあったに違いない。

そうでなければ、アレほどまでに真宮寺さくらが帝都に裏切られた事を恨み敵方についたと信じ込む事などありえない。

そしてそのために、帝都を守る志を失ってしまう事も。

 

「(最善だったはずがない……。何か……何かが間違っていたんだ……)」

 

あんな言い合いをするつもりも、突き放すつもりもなかった。

ただ、隊長としてさくらに自制して欲しかった。

それだけだったはずなのに。

 

「(私、絶対に花組に入る! 真宮寺さくらさんみたいに、強いさくらになる!!)」

 

「(じゃあ、俺は花組の隊長になる! この手で、さくらちゃんを守る!)」

 

まだ世界を知らない子供だった頃に交わした、忘れえぬ約束。

互いに刻んだ言葉の楔を胸に、自分はここまでひたすらに走り続けてきた。

だが……、

 

「……俺は、間違っていたのか……?」

 

搾り出すように呟く。

どうすれば良かったのだろう。

彼女の不安を、苦しみを、どうすれば解放する事ができたのだろう。

答えのない迷宮に入り込んだ思考は、ひたすらに迷走を繰り返す。

 

だが、その終わりはあまりに唐突に、信じられない形で訪れた。

 

「か、神山さん!!」

 

「クラリス……!?」

 

ノックも無しに自室の扉を開け放ち、クラリスが飛び込んできた。

余程急いでいたのか、勢い余って膝から倒れこんだところを助け起こす。

 

「どうしたんだ慌てて。何かあったのか?」

 

「た、大変なんです!! さくらさんの……さくらさんのご実家が……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、あまりにも突然の出来事だったという。

何の前触れもなく寺島町の外れにある天宮の家屋が、炎に包まれた。

消防団の手で火の手を押さえて踏み込むも、生存者は確認できず。

折りしもそれは、天宮國定に代わる帝鍵の刀身を清めに儀式に捧げたその日のうちの出来事だった。

 

そしてただ一人外出して難を逃れたという娘は、凄惨な現場を見たあまりショックを起こし病院に搬送されたが……、

 

 

 

 

 

病院から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、外は雨が降っていた。

だが雨滴が体を濡らしても、風が温もりを奪っても、何の感情も沸かなかった。

自分が今何をしているのかも。

自分が今何処を歩いているのかも。

全てが、どうでもよかった。

 

「……」

 

気づけば、ビル街の隅の路地裏に腰を下ろしていた。

濡れた着物越しに止まない雨が体温を奪う。

だがそれ以上に心が、冷たくなっていくのを自覚した。

 

「……お父さん……」

 

家を出るときに、妙な違和感は感じていた。

もしあの時、少しでも家を出るのが遅ければ。

このことを伝えていたら。

運命は、変わっていたのだろうか。

 

「何にも……なくなっちゃった……力も……夢も……何もかも……」

 

どうしてこうなってしまったのだろう。

憧れの人に身に起きた現実を受け入れられなかったからか。

心を捨て、父の下へ逃げたからか。

澱んだ雨を見つめても、答えは返ってこなかった。

 

「私……どうしたらいいんだろ……何処に行けば……いいんだろ……」

 

いっそ目の前の海に身を投げてしまおうか。

だが立ち上がろうとしたとき、急に体を脱力感が襲い、視界が揺れる。

気づけば息が上がり、世界がゆがみ始めていた。

だが、それすらも心地よいとすら思う自分がいた。

もういい。

もう、どうでもいい。

このまま意味もなく生きるくらいなら……。

ただ、出来るなら……

 

「ちゃんと……謝りたかったな……。初穂……誠……兄……さ……」

 

歪んだ世界に思い描いた笑顔が、滲んだ。

だから、きっと幻だろう。

 

「……!!」

 

誰かが遠くで、叫ぶような声が聞こえたのも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、偏に偶然としか言いようがなかった。

帝国華撃団の霊子戦闘機の修繕の応援に司令が向かい、子守をしていたときのこと。

遊び半分で息子が作った『ひとさがしくん』が、銀座の一角に記録済みの霊力信号をキャッチした。

この大雨の中、一人で何をしているのか。

不審に思い出前の帰りついでに寄った先に見た光景に、シャオロンは血の気が引いた。

 

「さくら!? おい、さくら!!」

 

番傘を放り出し、自身が濡れる事も構わずに地べたに倒れこんだ華奢な体を抱き起こす。

あまりの弱弱しさに、思わず手が震えた。

今目の前に倒れている少女は、本当にあの時自分を庇おうとしたほどに強い少女であったのかと。

 

「くそっ……、ここからじゃ大帝国劇場は遠すぎる……!!」

 

時刻は既に20時を回った。

もう蒸気鉄道は動いていない。

背負っていくにもこの雨だ。

これ以上体温を奪われればさくらの命に関わるかもしれない。

そうなると……、

 

「さくら、ちょっとだけ辛抱しろよ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……了解や。ああ、店のモンは好きに使うてええさかい、なるべく消化にええもん……、アホか! 炒飯やら受け付けるかいな! ニラと鳥で粥が一番や。ほな」

 

修繕作業が大詰めに入ったところでの部下からの連絡に、軽口を交えつつも紅蘭は安堵の息を吐いた。

何せ睡眠も食事も休憩もろくに取らないままの修繕作業だ。

若手が多いとはいえ、良く誰も音を上げなかったと思う。

 

「ありがとうございます、師匠。無限各機、間もなくメンテナンス完了です」

 

疲労の色を隠しながら、爽やかな笑顔を見せる教え子に、紅蘭も自然と笑顔がこぼれた。

最初は素手でスパナを持つほどの素人だったというのに、よくここまで成長したものである。

 

「それにしても、何故あのタイミングで帝劇に? 特に連絡も無かったみたいですが」

 

「ああ、すみれはんに一つ頼まれ事しとってな。……アレを動かすかもしれへんみたいや」

 

そう、あの朧襲撃の際に作戦司令室に居合わせたのは、決して偶然ではない。

本来ならばあの時、一つの封印と解く予定であったのだ。

この大帝国劇場地下格納庫に10年間封印されていた、あるものを。

 

「……アレって、まさか……!!」

 

「そうや。ウチらの時代から封印されてきた『試製桜武』や」

 

試製桜武。

それは当時の霊子甲冑の中において規格外のスペックとポテンシャルを有した、破格の威力を秘めた霊子戦闘機の原型だった。

しかしシルスウス鋼を何重にも重ねた重量級のサイズと、それに伴い複雑化した霊力接続シナプスの関係上、起動に至る事ができずに運用が見送られ続けた機体である。

そう、あの真宮寺さくらでさえ起動させることが出来なかった唯一の霊子戦闘機。

それが試製桜武である。

 

「物理防御に優れたアンシャール鋼の存在。東雲の霊力によって磨き上げられた霊子水晶。そして、『絶界』の力を秘めた特異の霊力を持つ存在。賭ける価値は十分にあるはずや」

 

「なるほど、さながら時代が桜武に追いついたという事ですね」

 

「ちゅう事で……、もうしばらく付き合うてもらうで整備班長!」

 

「もちろんです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に感じたのは、身を包むぬくもりだった。

そのまままどろんでしまうくらいの、羽衣が包むかのような優しい感覚。

うっすらと瞼を開くと、薄明かりが部屋を照らしていた。

 

「さくら、起きた?」

 

聞きなれた声と共に、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。

足音と共に現れたのは、上海の友だった。

 

「ユイ、さん……」

 

「覚えてるさくら? 大雨の中で、路地裏で倒れてたんだよ?」

 

優しく肩を抱いて起こしてくれるユイ。

上手く体に力が入らない今は、暖かくありがたかった。

 

「着物は今洗ってるよ。食べれる?」

 

「はい……、ありがとうございます……」

 

差し出されたのは、刻んだニラと鶏肉を生姜と一緒に煮込んだ中華粥だった。

蓮華で一口すくって噛み締めると、生姜の風味が全身を暖めるように包み込む。

思わず涙が出るほど、美味しかった。

 

「……美味しいです。とても……」

 

「良かった。ゆっくりでいいよ」

 

少しずつ空腹を満たしながら、さくらはユイからここに来るまでの話を聞いた。

仔空が作った「ひとさがしくん」で偶然自分の霊力反応を見つけたシャオロンが自分を発見し、雨の中ここまで運んでくれたのだという。

 

「よぉさくら、目が覚めたんだな」

 

部屋の扉を開けて件の恩人が顔を見せたのは、ちょうど粥を食べ終えたときだった。

風呂に入っていたのか、辮髪に出来るほど長い後ろ髪を下ろしたその姿は、一瞬女性かと見紛う程艶を纏い、さくらも一瞬見とれてしまった。

 

「別人みたいでしょ? 今だけよ」

 

「うるせぇやい」

 

家族のように軽口をたたき合いながら、食べ終えた食器を持ってユイが部屋を後にする。

我に返ったさくらは、やや上ずった声で礼を述べた。

 

「あ、ありがとうございます……助けてくれて」

 

「别客气。……何があったんだ?」

 

すぐ隣に胡坐をかき、笑顔のまま真剣な眼差しで問うシャオロン。

さくらは迷いつつも、順番に、途切れながら、これまでのすべてを話した。

会場を襲ったあの夜叉と名乗る降魔の全てが、憧れだった『真宮寺さくら』と瓜二つだった事。

降魔皇との決戦の際に帝都に裏切られ封印されたのではないかという疑念が、帝都を守る決意を鈍らせ、仲間と仲違いを起こしてしまった事。

そして今日、帰る家と最後の家族を喪ってしまった事。

 

「……そっか。……辛ぇよな。辛ぇ事が、ありすぎたんだな……」

 

「私には、分からない……。もしあの人が本当に真宮寺さんなら……どうしたらいいのか……」

 

言いつつ、さくらの胸中には不安が消えない。

またあの時のように取り合ってくれなかったら。

意志が弱いなどと断じられたら。

 

「……一つだけ、言えることがあるぜ」

 

だから、返ってきた言葉が胸に残った。

 

「その夜叉って奴は、一度も自分を『真宮寺さくら』と明言してない。さくらが問いただしたときもだ。もし裏切られたと恨んで復讐しようってんなら、会場を襲ったときに声高に宣言していたはずだぜ?」

 

確かに、言われてみればその通りだった。

自分の立てた仮説が正しかったとしたら、夜叉が会場を襲った段階で自分が真宮寺さくらだと叫んで封印の巻き添えにされた恨み辛みを吐き出さない理由がない。

それだけで帝都の英雄たる帝国華撃団をないがしろにした日本政府と帝都民の間に疑心が生まれ、人間側の結束を崩す事もできたはず。

だが夜叉はそれをしなかった。

一体何故……、

 

「母ちゃんも……、総司令も夜叉って奴について聞いたら笑ってたぜ。どうせ敵さんの作ったロボットか何かやってな」

 

「総司令って、上海華撃団の?」

 

「ああ。俺達と母ちゃんは、血は繋がってない。孤児だったオレとユイを、母ちゃんが拾ってくれた」

 

そういえば耳に挟んだことがある。

上海華撃団を率いる総司令『李紅蘭』は、すみれの盟友であったと。

その縁で、帝国華撃団復活までの間、シャオロンたちに帝都防衛を兼任してもらえたと。

 

「母ちゃんは、あのオオガミって人の嫁さんなんだ。作戦のとき丁度産気づいてて、出られなかったんだって」

 

「大神さん……。先代帝国華撃団の……」

 

以前すみれからも聞いたことがある。

降魔皇との決戦を前に、出産間近だった紅蘭は止む無く戦線を離れて中国に戻っていたと。

 

「悔しかったらしい。一番側で旦那を守りたかったって。だから今は、旦那の帰ってくる場所を守り続けるんだってさ」

 

「強いのね。紅蘭さん……」

 

「ちなみにその真宮寺だっけ?その人のことも笑ってたぜ。そんなんさくらはんが言うわけない、寧ろ周りが止めんかったら帝都のために特攻しかねんお人やってな」

 

その肝の据わり様には、感服するしかなかった。

紅蘭という女性は、まったくといって良いほど疑念を抱いていない。

すみれと同様に、それ以上に、確信を持って夜叉と真宮寺さくらは別人だと言い切っている。

それどころか夫と離れ離れになりながら10年も異国の地で実子と孤児を育てて華撃団を作り上げたというのだから、言葉が出ない。

強い。とてつもなく心が、鋼よりも強い。

 

「何で……そんなに強いの……違うって言い切れるの……?」

 

さくらには、理解できなかった。

そして欲していた。

彼女達がそこまで夜叉と真宮寺さくらの関係を否定できる根拠を。

そこまで強く言いきれる理由を。

だがそれは、本当に、本当に単純な答えだった。

 

「信じてるから、じゃねぇの? 母ちゃんは俺達と違って、実際に何年も真宮寺って人と過ごしてきてる。だから信じられるんだろうな」

 

信じる。

真宮寺さくらがそんな事をする人間ではないと。

只信じる。

それが仲間だから。

 

「信じる……」

 

たったそれだけだった。

自分が悩み苦しみ、他人に当り散らして、殻に閉じこもっていたことは、たった一言で砕けてしまった。

 

「私には……、出来なかった……」

 

「今から信じればいいだろ? 遅すぎたりなんかないさ」

 

「でも、怖い……。もしあれが本当に真宮寺さんだったら……」

 

信じる事は、出来るかもしれない。

だがもしそれが裏切られたら。

本当に夜叉が降魔に魂を売ってしまった真宮寺さくらその人だったら。

あって欲しくないと思いながらも、その不安は消えない。

かつて実際に、失意のあまり降魔に魂を売ってしまった人間を見たことがあるから。

 

「そのときは、力ずくでやめさせればいいのさ。真宮寺さんが悪さしてるって言うならこの手で止めるって」

 

まただ。

自分が悩み続ける難題に、シャオロンは即座に言葉をくれる。

その言葉に、縋って良いと寄り添ってくれる彼の言葉に、さくらは少しだけ寄りかかった。

少なくとも今だけは、こうして誰かに支えて欲しかった。

 

「……できるのかな……わたしに……」

 

「そいつは、俺達他人じゃない。さくら、おまえ自身が決めることだ」

 

「わたしが……?」

 

「そう。止められるかな、じゃない。絶対止めてみせるって、自分で自分に言い聞かせる。自分で自分を信じるんだ」

 

「自分で……自分を……」

 

今までの天宮さくらなら、十分に立ち直る事ができただろう。

憧れの人を目指して剣を磨き、芝居を磨き、女を磨いてきた。

だがその根元が崩壊している今、すべてを失った自分に、さくらは自信を持てずにいた。

ともすれば見捨てられてしまうような煮え切らなさだと自分でも思う。

 

「それでも怖いなら、とっておきの呪文を教えてやる」

 

だが、シャオロンは尚もさくらを支えてくれた。

優しい言葉で、力強く、包み込むように。

 

「……俺を信じろ。俺はお前が立ち上がれると信じてる。だからお前は俺を信じろ。お前を信じている、俺を信じろ」

 

「シャオロン……」

 

「俺はお前の言葉を忘れてない。今度は私達がこの手で帝都を守るって。俺はそれを今も信じてる。そんな俺を、お前は信じて欲しい」

 

優しく両肩に手を置き、こちらをまっすぐ見つめて語りかけるシャオロン。

こんなに吸い込まれるような感覚になるのは、彼が湯上りだからだろうか。

 

「……戻れるのかな? また、花組に……」

 

次に去来した不安は、花組に戻れるのかという事だった。

すみれに真っ向から噛み付き、初穂と怒鳴りあい、神山を最後まで拒絶して、現在は隊員資格を剥奪された身だ。

そんな自分を、戻りたいといって受け入れてくれるのか。

 

「大丈夫。殴り合いするくらい怒るって事はな。お前を心配してるって事だ」

 

「……ちょっと、怖いな……。私、みんなに酷いこといっぱい言っちゃった……」

 

「謝るんだ。頭を下げて、引っぱたかれても、ぶん殴られても、受け入れて謝るんだ。それで許してくれなきゃ、帝国華撃団もそれまでだな」

 

また、ふっと肩が軽くなったような感覚を覚えた。

許してもらえなかったら戻らなくて良い。

許してくれないのならばそれまでだ。

厳しい言葉のはずなのに、それは自分を尚も守ろうとしてくれるように感じる。

だが……、

 

「で、でも……そしたら私……どうしたら……」

 

それが最後の不安だった。

今の自分には、もう帰る家も頼れる家族もない。

何も知らない女が身一つで生きていくなら、それこそ身を売るようなことをしなければとても……、

 

「……そのときは……」

 

そのときだった。

 

「ひゃ……!?」

 

思わず驚きの声を上げる。

無理もない。

シャオロンが肩に置いた手を引き、自分を抱き寄せたのだから。

 

「シャ、シャオロン!? きゅ、急にどうし……」

 

「……来いよ」

 

「え……?」

 

突然の事に慌てるさくら。

だが直後に返ってきた言葉に、その動揺すらもかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「許してもらえなかったときは、……俺と一緒に上海に来いよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

一瞬、聞き違いかと思った。

顔を見たいのに、抱きしめられて見えない。

まさか、本気で言っているのか。

まるで、恋人に結婚を申し込むような、そんな事を。

 

「オレ、これでも炒飯の腕だけはそれなりにあってさ……。本場でもそこそこ客取れるから、その、何だ……お前一人くらいなら、ちゃんと養えると思う」

 

そのあまりの心地よさに、胸が高鳴る。

本気だ。

もし帝都に戻る場所がなかったら、一緒に暮らそう。

今自分を抱きしめている青年は、本気でそう言ってくれているのだ。

 

「だから、ホントにあいつらが許してくれなくて、何処にも行くあてがなくなっちまったら……」

 

「あ……」

 

わずかに抱く力が弱まり、顔を上げられる。

そこには先ほどまでの凛々しさとは打って変わって、頬を紅潮させて瞳を潤ませるシャオロンが、こちらを見つめていた。

 

「俺の所に来い。そのときは、俺が……一生守ってやる……」

 

「シャオロン……」

 

どちらからともなく顔が近づく。

そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいねミライ君、手伝ってもらっちゃって……」

 

「構いませんよ! 寧ろ今日一日お世話になってるんですから、何でも言ってください!」

 

力強いミライの返事に、初穂の母「火乃香」はうっとりとその背中を見送る。

 

「やっぱり若い男の子がいるといいわねぇ。いつもは旦那しかいないから」

 

程なく居間の方から「うるせえやい」とがなり声が飛び、ミライは火乃香と顔を見合わせて笑う。

初穂の家族に花組の仲間だと誤解を解いて談笑していた所、降って来た激しい雨。

客人をこのまま帰すのは忍びないという銀次の提案で、ミライは今日一日東雲家にお邪魔させてもらうことになったのである。

しかし客人としてもてなされるだけというのは忍びないという事で、ミライは半ば強引に東雲家の家事を率先して手伝い始めた。

境内の掃除はもちろん祭事に使用する神具の整理や夕飯の支度に風呂の用意まで持ち前の行動力でこなしていく彼の姿に、火乃香が一瞬本気で雇おうかと考えたのはこぼれ話である。

 

「ミライー、風呂空いたぜー」

 

「あ、はい……!」

 

台所でせわしなく動き回るミライに、タオルで髪を拭きながら初穂が声をかけた。

ミライも威勢よく返事して振り向く。

が、次の瞬間何かに気づいたのか顔を赤くして目を反らした。

 

「何だよ、初穂ちゃんの美貌に当てられたか~?」

 

「は、ハハ……」

 

意地悪そうな笑みを浮かべる初穂に、誤魔化すように乾いた声で笑い返すミライ。

その様子に、火乃香も思わず吹き出す。

それもそのはず。

何故なら……、

 

「初穂。タオルは巻いて出なさいな。鏡で見えてるわよ?」

 

「は?」

 

そう、初穂はバスタオルで前を隠していたが後ろは隠していなかった。

そして初穂の後ろには大きな姿鏡がある。

つまり……、

 

「……だあああぁぁぁ~!! エッチ! スケベ! 見るんじゃねぇ、このっ!!」

 

「み、見てません! 見てませんよ初穂さん! 僕はお尻しか見てません!!」

 

「しっかり見てんじゃねぇかぁっ!!」

 

「ぬぅわにぃ~~! ウチの娘の裸見るたぁどういう了見だぁ!?」

 

「親父まで出てくんじゃねぇ!! 槍をしまえ!!」

 

「ふふふ……」

 

たちまち大騒ぎになる台所。

だがその表情は誰もが笑顔であり、ぬくもりに溢れていた。

故に、火乃香は思う。

娘はこの青空のように澄んだ笑顔の少年に、心を許しているのだろうと。

 

「随分賑やかな夕飯だねぇ」

 

「あらお義母様。今日はお早いですね」

 

厨房の裏手から顔をのぞかせたのは、東雲神社の宮司でもある初穂の祖母『東雲キク』であった。

御歳77の喜寿を迎えたばかりの老婆心に溢れた女性である。

 

「おや、今日はお客さんがいるんだね?」

 

「はい、初穂の友人の御剣ミライくんです。ミライ君、こちらウチの宮司をされているキクさんよ」

 

「初めまして、御剣ミライといいます!」

 

火乃香に紹介され、額の汗を拭いながら元気良く挨拶するミライ。

対してキクは、何かに気づいたように目を細めた。

 

「お義母様?」

 

普段見せない表情のキクに首をかしげる火乃香。

しかしそれは一瞬で、キクは元のにこやかな表情に戻ると居間へと戻るのであった。

 

「……まさか、また光に会えるとはね」

 

誰にも聞こえぬ声で、そう呟きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か悪かったな。騒がしかったし、家の事まで手伝わせて……」

 

大騒動からの夕食が終わり、初穂とミライは境内の廊下に腰を下ろしていた。

寝支度は済み、後は各々のタイミングで床に着くだけだ。

正直落ち着く間もなく大した話も出来ていなかった。

 

「気にしないで下さい。ボクから言い出した事ですし、お役に立てたなら何よりです」

 

「お前っていつもそうだよな。欲がないというか、欲を知らないというか……」

 

不思議な奴だ、と初穂は思う。

歳は一つしか違わないはずなのに、彼には本当に無欲という言葉しか見当たらない。

常に誰かのために働き続け、常に誰かの幸せを喜び続ける、博愛主義の塊のような人物。

 

「なぁ、ミライ……」

 

そのとき、ふと去来した疑問を、初穂は投げかけた。

 

「今日アタシの所まで来たのは……、アタシのためか?」

 

聞くまでもなくそうだろうと思う。

きっと帝劇を去った自分を心配して、元気付けようとしたのだと思う。

誰かが幸せになる事に、誰よりも喜ぶ奴だから。

 

「……半分だけ、違います」

 

「……え……?」

 

だが、今日は違った。

いつもの無邪気な笑顔が、こちらをまっすぐに向いていた。

 

「僕自身が、思ったんです。初穂さんに会いたいと……例え我侭でも、会いたいと……思ったんです……」

 

「アタシに……?」

 

トクン、と一瞬胸が高鳴る。

何故だろう。

ただ目の前の少年に意識されているというだけで、心の奥が熱くなる。

そんな資格などないと、分かっている筈なのに。

 

「目が覚めた時、既に貴方が帝劇を去ったと聞かされたとき、居ても立ってもいられませんでした。初穂さんがいない、そう思うだけでぽっかり穴が開いたような気持ちになったんです」

 

「……そっか、ごめんな。あんな目に遭わせちまって……どんな顔して会えば良いかも分からなくて……」

 

あの時のことは何も言い訳出来ない。

自分の不覚のせいでミライは一時生死の境を彷徨った。

その罪悪感から、自分は逃げてしまったのだ。

 

「いつもどおりで良いじゃないですか。いつもの明るく賑やかでみんなが大好きな初穂さん。それで良いんじゃないですか?」

 

違う、それだけじゃない。

ミライは知らないんだ。

自分が、本当はどんなに浅はかで弱くて情けない女なのか。

 

「違う……違うんだよ……。アタシは……本当のアタシは……明るくもない……強くもない……」

 

「初穂さん……」

 

「お前とあざみの仲に嫉妬して……迷うさくらに苛立って……虚勢を張って罠に嵌って……お前を危険に晒した……、最低な女だ……」

 

もういっそ、この場で罵声を浴びせられて絶縁された方が楽だとさえ思えた。

今までは気風の良い姉御肌の仮面を被り、年中お祭り気分で花組を盛り上げてきた。

そうして常に誰がを賑わせるのが自分の役目だと思っていた。

でも、もうその仮面は剥がれ落ちた。

ここにいるのは醜い嫉妬と虚勢に塗れ、仲間も信頼も失った何もない小娘だ。

 

「分かるだろ……? みんなの足を引っ張って迷惑しかかけない奴に……一緒にいる資格なんてないんだよ……」

 

気休めなんて言って欲しくない。

みんなも気を遣ってくれたけど、本当は自分に呆れて失望しているはず。

今さら自分の戻る場所なんて……、

 

「……そんな事、誰が決めたんですか?」

 

「え……?」

 

その時、伏せられた視線が戻った。

ミライは、怒っていた。

静かに、厳しい視線を向けていた。

 

「嫉妬しちゃいけないって、誰が決めたんですか? ケンカしちゃいけないって、誰が決めたんですか? 一緒にいる資格がないなんて、誰が決めたんですか?」

 

「それは……でも……」

 

「初穂さん。 僕が怒っているのは、貴方を庇って怪我をしたからじゃありません。 貴方がみんなに迷惑をかけたからでもありません」

 

普段の微笑を捨て、真面目な顔で真っ直ぐにこちらを見るミライ。

いつもと違う迫力さえ感じる顔に、初穂も思わず息を呑む。

 

 

 

 

 

「貴方が今、自分で自分を傷つけているからです」

 

 

 

 

 

「え……?」

 

「初穂さん。僕は貴方に自分を責めて欲しくて助けたんじゃありません。貴方に無事でいて欲しかったから……、生きていて欲しかったから助けたんです」

 

ミライは、真剣だった。

いつものように優しい笑顔で包み込まず、自分に対し真っ直ぐに意見をぶつけてくる。

自分に、真剣に向き合っていた。

 

「で、でもアタシは……力も取り得もない……何もない……みんなを支えて元気付けるくらいしか、ないのに……」

 

「中庭の霊子水晶を管理しているのは誰ですか。 問題が起きたときにみんなを鼓舞してくれるのは誰ですか。 僕は知っています。 今までの花組の活動の中で、貴方がどれだけ貢献してきたのかを」

 

「こんなに……迷惑ばっかりかけたのに……?」

 

「いいんです。 僕だって山ほど迷惑をかけてきました。 失敗や恥ずかしいこともしてきました。 それを互いに支えあうのが、『仲間』なんじゃないですか?」

 

「仲間……?」

 

「初穂さんはみんなを支えて元気付ける存在でした。 僕もみんなも沢山の元気や勇気を貰いました」

 

でも、とミライは付け加える。

 

「貰うばかりじゃない。 貴方を支える人が、一人くらいいても良いんじゃないですか?」

 

「ミライ……」

 

そのとき、初めてミライが笑った。

 

「そして出来るなら……、ボクが貴方を支えたいです」

 

「……!!」

 

まるで殴られたような衝撃が、心臓を襲った。

破裂してしまうのではないかというくらい、胸の鼓動が激しくなる。

自分で自分を責めるなと叱ってくれた。

自分を支える人がいても良いのだと言ってくれた。

そして……、

 

「(……ああ……そうか……)」

 

ようやく気づいた。

いや、今まで気づいていて無意識に否定していたのかもしれない。

 

「(アタシはミライが……、ミライの事が……)」

 

この胸の高鳴りも、不謹慎なまでに喜ぶこの気持ちも。

今すぐに彼の胸に飛び込みたいとさえ思える、抑えようのない衝動も。

 

「……初穂さん?」

 

他ならぬミライの言葉で、初穂は気づく。

自分でも意識しないうちに、左手がミライを求めて彼の右手を握っていた。

 

「……いいのか? アタシで」

 

「……はい」

 

「アタシ、手が早いぞ? すぐ怒るぞ? 他の女と喋ってるだけで嫉妬したりする……、めんどくさい女だぞ?」

 

「構いません。全部、ぶつけてください……」

 

その言葉だけで、もう十分だった。

そのまま彼の肩に頭を預け、まどろむように目を閉じる。

 

「約束だぞ……、何処にも行くなよ……」

 

「はい……」

 

「嘘だったら……、泣くからな……」

 

「……、はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜明け、東雲神社の本殿は、いつになく厳かな空気につつまれていた。

ミライを含めた一同が横一列に並び見守る中、中央に置かれた刀の刀身の前に宮司であるキクが向き合う。

江戸の代より続く「天宮」と「東雲」。

天宮が鍛えし絶界の刃に、東雲の神力の加護が加わることで、異界を切り裂き魔を封じ込める力を宿すとされる。

今回、敵の手に落ちてしまった帝鍵「天宮國定」に代わる新たな帝鍵を生み出すべく、天宮鉄幹の遺した刀身に神力の加護を加える儀式を執り行うことになっていた。

 

「この地におわしまする御魂神よ……」

 

昨夜の穏やかな口調とは別人のような厳かな声が、本殿の空気を震わせる。

微動だにしない周囲に驚きつつ、ミライもそれに倣う。

 

「かの呪われし地より生まれし怨念を滅するべく、この刃を守り給え……」

 

昨晩から神酒に浸され清められたとされる刀身に、何処からともなく淡い光が集まり始める。

こうして加護を授けた帝鍵の刀身を天宮家に返すとき、一緒にさくらにも謝る。

そう初穂からは聞いている。

 

「人の手に余りし絶界の力、世の益とする事を約し……、今一度……」

 

刀身を包む光が徐々に、だが確実に大きなものへと変わり始める。

そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

「無駄よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如響いた女の声に、ミライたちは弾かれたように立ち上がり入り口を見た。

そこには、見覚えのある女が獲物を手に仮面の下で冷笑を浮かべていた。

 

「最早絶界の力は途絶えた。後は貴方達を始末すれば、新たな脅威の芽は全て滅ぶ……」

 

「貴様、何者!?」

 

前触れも無しに現れた侵入者に、銀次が槍を手に吼える。

新たな脅威の芽。

まさか、狙いは帝鍵の刀身か!?

 

「無駄な抵抗はお止めなさい。そうすれば、楽に殺してあげるわ」

 

瞬間、世界が歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝の降魔警報に、作戦司令室は緊張につつまれていた。

今や様々な要因で隊員の半数が欠けた状態。

特に接近戦の出来る人員が神山一人しかいないというのは痛い。

 

「被害状況は?」

 

まずは状況を確かめないことには作戦の立てようがない。

務めて冷静に尋ねる神山であったが、返ってきた言葉はその張りぼての平静を跡形もなく吹き飛ばした。

 

「妖力反応は浅草・東雲神社。初穂さんのご実家です……!」

 

「初穂の!? くそっ、よりによって……!!」

 

霊力減少に伴い一事帰省していたこのタイミングで何ということだ。

いくら東雲神社の人々が武芸に秀でているとはいえ、一般人で傀儡騎兵の一個大隊に敵う筈がない。

こうなれば、偶然とはいえミライが現場にいることだけが救いだ。

 

「新たな帝鍵の出現を、気取られてしまったようね」

 

「新たな、帝鍵……?」

 

「そうよ。この世に絶界の力を有する神器は二つ以上存在できない。先の会場で天宮國定が敵の手に落ちた事を受けて、天宮さんのお父上、『天宮鉄幹』さんは新しい帝鍵を生み出すことで、天宮國定の力を打ち消そうとお考えになっていたの」

 

「それでは、さくらの実家が襲われたのも……!!」

 

これで一連の敵の狙いが読めた。

帝鍵はこの世に二つ存在できない。

よって扱うことは出来ないにしろ再び封印の力を使えないように奪った脅威が再び現れることを恐れた降魔たちは、それを阻止するためにさくらの実家を襲った。

しかし入れ違いで鉄幹の鍛えた刀身はさくらの手によって東雲神社に届けられていた。

これに東雲一族による地脈の加護が与えられれば、その刀身は神力を得る。

それを阻止しようと企んだのだろう。

 

「司馬君、無限の修理状況は?」

 

ここに来て最大の懸念だった、霊子戦闘機の状態を問いただす。

昨日から休憩も食事も、下手をすれば睡眠も取っていないかもしれない。

そんな一抹の不安を肯定するように、返事を返したのはすみれの盟友だった。

 

「すまんなぁ、令士も含めて全員二徹で爆睡中や」

 

「相変わらず無茶をなさるのね……。お肌が荒れますわよ?」

 

「ウチからすればたかが二徹やで、すみれはん。無限は各機準備完了。あと、例の『アレ』も仕上がったで」

 

なにやら含みを持たせた紅蘭の言葉に、すみれも力強く頷く。

『アレ』というのも気になるが、今は初穂たちの救助が最優先事項だ。

 

「帝国華撃団花組、出撃せよ! 目標、東雲神社本殿!! 初穂たちを救助し、敵の帝鍵奪還を阻止せよ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降魔たちによる東雲神社の襲撃。

その一報を聞きつけた上海華撃団総司令部は、慌しい空気につつまれていた。

 

「仔空! 王龍の整備は!?」

 

「はい! 3機とも、行けるです!!」

 

「急ぐぞ! あっちはもう出撃したそうだ!」

 

「シャオロン!!」

 

只ならぬ雰囲気にさくらも慌てて地下格納庫へ駆け込む。

既に修理を終えていた3機の王龍は、出撃準備を整えていた。

 

「悪ぃなさくら。本当は大帝国劇場まで送りたかったが、そうも言ってられねぇみたいだ」

 

「ううん、いいの。……お願い、初穂を守ってあげて……」

 

初穂が霊力を失い、養生の為に帰省していたと知ったのは、昨晩のことだった。

戦う力を失った親友の前に現れた降魔の知らせに、一抹の不安が過ぎる。

もうこれ以上、大切な人がいなくなるのは耐えられない。

そのために立ち上がると、心に決めたのだから。

 

「ああ、任せとけ。……お前も遅れてくるんだろ?」

 

「……うん!」

 

「それで十分だ。上海華撃団五神龍、出撃する!!」

 

「「理解(ヤゥチェ)!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都・浅草。

古くから下町として帝都民に親しまれてきたその一角に構える東雲神社は今、無数の傀儡騎兵が大名行列の如く溢れかえっていた。

常人なら恐怖の余り発狂してもおかしくない光景。

だがその絶望的状況にあって尚、東雲家の人々は各々武器を手に刀身の安置された本殿へ立てこもり、決死の防衛戦を展開していた。

 

「心を強く持て! ミライ殿が既に帝国華撃団本部に連絡を取っておる! 彼らが来るまで何としても帝鍵を死守するのじゃ!!」

 

普段とは別人のような凛々しさと覇気を纏い、最前線に立ったキクが薙刀を手に鼓舞し、そのまま眼前の傀儡を突き倒す。

その脇には弓に矢を番えた火乃香と大槌を手にした初穂がいた。

 

「初穂、私の後ろに下がりなさい! 今の貴方では……!」

 

「何言ってんだ! 霊力が無くたって腕ずくで叩きのめしてやる!!」

 

更に二人を守るように両脇には槍を構えた銀次と腕輪から光の剣を召喚したミライが警戒する。

 

「すまんなミライ君。こんな事に巻き込んでしまって……!」

 

「謝らないで下さい。帝国華撃団として、帝都の人たちを守ることは当然です!!」

 

互いに励ましあいながら、庇いあいながら、一匹、また一匹と悪魔の欠片を討ち取っていく東雲家。

だが既に敷地全体を魔幻空間に包まれた今、四方八方から無尽蔵に傀儡騎兵の増援が湧き出てくる。

倒しても倒してもキリがない。これではジリ貧だ。

 

「生身でここまで戦えるとは、中々見上げた精神力だわ」

 

それでも尚も抵抗を続ける東雲家に、さしもの夜叉も素直に感嘆の言葉を呟く。

だが次の瞬間には、その口端を醜く吊り上げた。

 

「でも……、これならどうかしら?」

 

夜叉は抜き放った刀を天高く突き付けた。

刹那、一閃の雷鳴と共に稲妻が迸り、眼下に禍々しい瘴気を纏った一体の魔装騎兵が現れる。

夜叉の駆る神をも滅ぼす剣、魔装騎兵『神滅』である。

 

「あれが、夜叉の傀儡騎兵……?」

 

「何て妖力の高さだ……!!」

 

周辺に転がるザコとは比較にならない濃度の妖力に、さしものキクたちも後ずさる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、絆は断ち切られてはいなかった。

 

「そこまでだ!!」

 

剣戟の止まぬ混沌の空間を、4つの閃光が切り裂く。

それは、待ちわびていた援軍の到着だった。

 

「「帝国華撃団、参上!!」」

 

「隊長さん!! みんな!!」

 

こちらを守るように並び立つ無限に、思わず叫ぶ初穂。

中央の白い無限が、二刀を抜き放ち応えた。

 

「初穂、ここは俺たちに任せろ! ミライ、君の無限も輸送している! 援護してくれ!!」

 

「はい!!」

 

言うが早いか、ミライもコックピットを開け放たれた自身の無限に乗り込み、起動させる。

生身ならばともかく、霊子戦闘機ならば勝機はある。

 

「夜叉……、これ以上帝都で暴れることは、俺たちが許さない!!」

 

「この前のネズミに警告したはずだけど……、無駄のようね」

 

相対するのは二度目。

華撃団大戦会場では各々が消耗していたこともあり不覚を取ったが、今回はそうは行かない。

 

「いいわ。あの御方の意向に背く者は排除します」

 

「俺が夜叉を引き受ける! ミライ、クラリスたちと連携して傀儡騎兵を掃討するんだ!!」

 

「了解!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘区域到着から戦闘開始までの僅かな間に、帝国海軍少尉の頭脳はこの状況に最も適した布陣を脳内に構築していた。

それが自身の突撃で指揮官を引き離し、その間に残りの人員で防衛体制を整えるというものである。

恐らく夜叉の力は他の上級降魔たちと比較しても明らかに抜きん出たものがある。

一対多数ならまだ勝機はあるが、こうした乱戦時に不意を突かれれば初戦の二の舞だ。

その為に、まずは接近戦に適した自身が夜叉と一対一の状況に持ち込み、敵の司令系統を寸断する。

傀儡騎兵は個々の能力こそ低いが、優れた指揮の下に統率された動きをとり始めると、途端に数の暴力で油断ならない存在に変貌する。

まずは可能な限り敵の増殖を防ぎ、敵の勢いを殺していくしかないのだ。

 

「ボクが最前線で傀儡騎兵を食い止めます! 皆さん、援護してください!!」

 

先ほどの命令でその意図を察したミライは、素早く司令塔となって指示を飛ばす。

神山自身が夜叉を引き離す囮の役割を果たしている今、いち早く敵の情勢の変化を掴み知らせる立場の人間がそれを代行しなければならない。

だとすれば、適任はミライ以外にない。

 

「分かったわ」

 

「忍!」

 

「お任せ下さい!」

 

頼もしい返事を背に、ミライは無限の霊力剣を精製する。

眼前には我先にと群がってくる傀儡騎兵の軍勢。

まずはこの勢いを弱めること。

即ち、広範囲を一気に攻撃して怯ませる。

 

「希望の未来に、描くは無限の可能性! ホープ・ザ・インフィニティーッ!!」

 

∞の文字を描いた閃光の斬撃が、数十体の傀儡騎兵を纏めて寸断する。

仲間だったものの残骸に足を取られ、進撃速度にブレーキがかかる行列。

そこへ後ろに控えていた仲間達が一気呵成をかけた。

 

「グラース・ド・ディアブル……、アルビトル・ダンフェール!!」

 

「望月流忍法、奥義!! 無双手裏剣・影分身!!」

 

「運命を閉ざす、青き流星……!アポリト・ミデン!!」

 

練成された霊力弾が、幾重にも連なる刃が、絶対零度の氷撃が、浮き足立った悪魔達を容赦なく屠っていく。

たちまち歩行者天国だった敵の軍勢は瓦礫の山へとその姿を変え、後から湧き出た傀儡騎兵も残骸に足を取られて行軍を鈍らせる。

これなら出現のたびに各個撃破していけばさしたる脅威にはならないだろう。

後はある程度敵の勢いが弱まれば神山の援護に人員を割いて……、

 

 

 

 

 

「ぐあああああっ!!」

 

 

 

 

「た、隊長!?」

 

そう思った矢先、白い影が眼前を過ぎったかと思うと、玉垣を突き破って二刀の無限が火花を散らしながら叩きつけられた。

 

「神山さん!?」

 

「誠十郎!! しっかり!!」

 

思わず叫ぶ仲間達。

その奥から、激しい殺気と共に漆黒の魔装騎兵が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞっ!!」

 

ありったけの霊力を練りこんだ二刀を振りかぶり、神山は夜叉目掛けて殺到した。

不調だったとはいえ、完全整備の施された無限を擁したさくらがただの一太刀も浴びせられなかった相手。

恐らく妖力の高さのみならず、純粋な剣の腕も相当な手錬に違いない。

そう判断した神山は、出し惜しみせずに初手から攻勢に出た。

全力を込めて叩きつけた二刀を顔色一つ変える事無く受け流されても、更に二撃、三撃と切りかかる。

 

「フフフ……、荒いわね。そんな剣であたしが捉えられるものですか」

 

「ハァ……ハァ……、聞いてはいたが……これは予想以上だ……!!」

 

正直なところ、勝ち目が無い。

こちらが執拗に動き回り背後や死角を取ろうとしているのに、相手はまるで全身に目があるかのように的確且つ最低限の動きでこちらの全力の一撃を容易く押し返してくる。

 

「どうしました? もう終わりですか?」

 

こちらは既に息が上がっているというのに、相手はまるで微動だにしていない。

無限の調整も完璧だったはずなのに、この圧倒的なまでの差は一体なんだ。

 

「では……、こちらから行きますよ?」

 

「くっ……!?」

 

それは、まるで抗いようの無い暴風のような一撃だった。

 

「ぐあああああっ!!」

 

足元の石垣毎舞い上げられた機体の全身が、無数のかまいたちによって切り刻まれる。

白の無限はそのまま玉垣を突き破り、奥の拝殿を吹き飛ばす。

 

「た、隊長!?」

 

「神山さん!?」

 

「誠十郎!! しっかり!!」

 

持ち場についていた仲間達の声が聞こえる。

傀儡騎兵の足止めは成功したようだ。

だが、この状況は……、

 

「フフフ、やはり烏合の衆ですね帝国華撃団。この程度の雑魚が隊長とは、霊的組織の名が泣きますよ?」

 

「よくも、神山さんを……!!」

 

「それだけじゃない……、さくらを騙して誑かした……。あざみは、お前を許さない!」

 

平然と仲間を傷つける仮面の女に怒りをあらわにするあざみとクラリス。

一方のミライとアナスタシアは、冷静に相手との力量差を推し量っているようだった。

 

「一度だけチャンスをあげます。その本殿に隠した帝鍵の刀身をこちらへ渡しなさい。そうすれば、今だけは見逃してあげましょう」

 

今の様子に怖気づいたと見たのか、刀身の引渡しを迫る夜叉。

ミライたちは一蹴した。

 

「断る! この帝鍵はお前達降魔の野望を挫くための希望になるもの。渡すわけには行かない!」

 

「それに大人しく渡したところで、私達を生きて帰すつもりなんて無いんでしょう?」

 

「里の掟87条。等価でない取引に従うな」

 

「そう、残念ね。ならば……」

 

「……マズイ! みんな防御体制を……!!」

 

再び刀を構える夜叉に、神山が叫ぶ。

だがそれに仲間が反応するより早く、かまいたちが襲い掛かった。

 

「望みどおりにしてあげましょう!!」

 

「!!」

 

一瞬にして眼前に迫る竜巻に、反射的に光剣を構えるミライ。

だが次の瞬間、ミライも神山も、夜叉でさえも予想だにしないことが起きた。

 

「な、何……!?」

 

何と、真横から緑色の影が飛び込み、突き出した拳の一撃で竜巻を打ち消して見せたのである。

一体何者か。

最初に気づいたのは、クラリスだった。

 

「よぉ、遅くなったな、戦友」

 

「貴方は……シャオロンさん!!」

 

颯爽とミライの窮地を救った緑色の影。

それは半年前まで自分達に代わり帝都を降魔達から守り続けてくれた大恩人、上海華撃団隊長。

ヤン・シャオロンであった。

 

「千辛万苦,一百万泪!!(千の苦難と万の涙を超えて!!)」

 

「约定吧,带我去彩虹的另一边!!(約束しよう、虹の彼方へ連れて行くと!!)」

 

「以我们的五神为荣,为邪恶报仇!!(我ら五神龍の誇りにかけ、悪を討つ!!)」

 

「「「上海華撃団、参上!!」」」

 

一歩遅れてユイと仔空の王龍も横並びになり、こちらを守るように夜叉と相対する。

恐らく帝劇にて無限の整備を手伝ってくれた紅蘭が手配してくれたのだろう。

亜細亜最強の龍が味方につくなど、これ以上に頼もしいものは無い。

 

「あら、誰かと思えばいつぞやのトカゲじゃありませんか。早贄にでもなりに来ましたか?」

 

「テメェが夜叉か。会いたかったぜ」

 

何か私念があるのか、低い声でシャオロンが凄絶に笑う。

獲物を見つけた肉食獣のような、獰猛な笑みだ。

 

「シャオロン、敵の解析、出来た! 装甲に妖力を流して、硬い、してます!!」

 

「だったら話は早ぇ! 真正面からぶち破るぞ!!」

 

「……」

 

「仔空、いつもの事よ」

 

二、三、言葉を交わして作戦を構築したのか、仔空が二人の後ろに立つ。

瞬間、二対の龍が地を蹴り漆黒の侍に踊りかかった。

 

「おらあああっ!!」

 

「はああああっ!!」

 

真上からの拳撃と横からの蹴撃。

傀儡騎兵どころかまともに喰らえば大型魔装騎兵ですら沈められる程の威力を秘めた一撃。

それを、目の前の女は事も無げに防いで見せた。

だが、それは二人が敢えて仕掛けた囮だった。

 

「仔空、今よ!!」

 

「是的!!」

 

ユイの言葉に頷き、後ろに控えていた蒼の王龍が背中のコンテナを展開し、両腕にガントレットのような器具を装着する。

いや、よく見ると砲身がある。

まさか、狙撃用武器か。

 

「传承科学智慧,现身……、狼牙咆哮!!(受け継がれし科学の叡智、今ここに……、狼牙咆哮!!)」

 

二門の大砲から、狼の咆哮を思わせる駆動音と共に霊力を圧縮したレーザーが放たれた。

両腕を二対の龍に固められていた神滅はその中心に直撃を受け、大きく後ろへ吹き飛ばされる。

まさか、ここまで計算して連携を取っていたというのか。

だが……、

 

「な、何!?」

 

今度はシャオロンたちが驚く番だった。

恐らくは作戦通りのはずだった。

シャオロンとユイが左右から攻撃を仕掛けて先に相手に防御させ、身動きを封じ込めたところに本命の仔空の一撃を叩き込む。

事実それまで弾くか受け流す事で無傷に等しかった夜叉に、明らかに決定打を与えていたはず。

だからこそ信じられない。

あれほど圧縮された霊力の一撃を受けたにも関わらず、煙を上げるだけで平然と立つ神滅の姿が。

 

「無駄なことです。あたしの神滅はあの御方の妖力によって守られている状態。貴方達如きのちっぽけな霊力では傷一つつけることなど出来ない」

 

「くそっ、だったらもう一度……」

 

再度攻撃を仕掛けようと構えるシャオロン。

だがそれすら一顧だにせず、抜き身の刀に妖力を集中する。

 

「シャオロン、来るぞ!!」

 

「くっ!!」

 

反射的に叫ぶ神山の言葉に、止む無く防御体制をとる王龍たち。

それすら無駄だといわんばかりにほくそ笑み、夜叉は殺意の波動を解き放った。

 

「破邪剣征……、桜花天昇ーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもなら迷うはずの無い、何てことのない道のりが、途方も無く遠いものに感じられた。

人ごみを掻き分け、蒸気自動車の間を縫うように横切り、息を切らしながら裏口の玄関に体を投げ出す。

 

「はぁ……はぁ……!!」

 

そのまま扉を放り出し、階段横のエレベーターの暗唱番号を焦りに震える手を押さえながら打ち込んでいく。

やがて緑色の承認のランプがついて下降を始めたところで、僅かな安堵を深呼吸と共に吐き出した。

 

「……戻ってきてくれましたわね」

 

扉の先から聞こえた最初の声は、罵倒でも軽蔑でもなく、母親のように暖かく優しい歓迎の声だった。

まるで、初めてこの建物の門をくぐったときのような。

 

「すみれさん……」

 

その姿を認めたとき、反射的に頭を深く下げていた。

 

「すみませんでした……。すみれさんの気持ちも考えず、花組としての自覚を捨てるような事……」

 

今なら分かる。

自分のあの態度が、あの言葉が、どれだけすみれを、引いては真宮寺さくらを侮辱したものであったか。

神山から事実上隊員失格の烙印を押されて突き放されたことも、甘い処分だとさえ思えた。

 

「分かればよろしい。後は行動と結果で示しなさい。……ここに来たという事は、覚悟は決まったのね?」

 

「……はい。もう私は迷いません! 例えあの人が本人だとしても、この手で倒して正義を示します!!」

 

あの夜、シャオロンが教えてくれた。

こんな自分が立ち上がれると、帝都を守る剣になれると、本気で信じてくれる人がいる。

その人の気持ちを信じる。

その人が思い描く『天宮さくら』ならやれると、信じる。

その思いが胸にあれば、自分は戦える。

例え相手が、自身の憧れ、目標に定めた人であろうと。

 

「……澄んだ目をしてはるな。吸い込まれそうや」

 

ふと、すみれの横に立つ眼鏡をかけた女性がこちらを懐かしみように見やる。

そうか、この人が……、

 

「その一途さ……、健気さ……、外のパチモンよりよっぽどさくらはんに似てはるわ」

 

「紅蘭さん……」

 

「天宮はん、ウチから一つ提案があるんや……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、あの時の記憶とほとんど同じ光景であった。

唯一違いがあるとするならば、その場の誰もが咄嗟に回避に成功し、直撃を免れていたこと。

だがその衝撃は大きく、どの霊子戦闘機も少なからぬダメージに膝をついてしまった。

 

「ミライ……、みんな……、畜生……!!」

 

本殿に立て篭もって刀身を守っていた初穂は、その光景に悔しさをあらわに歯を噛んだ。

何も出来ない。

文字通り、何も出来ない。

誰かを助け起こすことも、代わりにあの仮面の女に殴りかかることも。

今の自分は、何も出来ない小娘に過ぎないのだ。

 

「たがだか数十年しか生きていない人間風情が、何百年という怨念を背負い続けた我らに敵うと思いますか? 学ばないネズミ共ね」

 

いつもなら我先に大槌片手に飛び込んでいた。

あんなことをほざく奴らに片っ端から殴りこんでいたのに。

今の自分は、それすらも出来ないのか。

 

「全員まとめて、塵にしてあげましょう!!」

 

再び妖力を纏った刀が振り上げられる。

今度同じ技を喰らったら、みんなは……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望のかまいたちが襲う寸前、凛とした声が響き渡る。

聞き覚えのある声だった。

儚く、美しく、優しく、そして……、

 

「蒼天に咲き誇る桜の如く……、咲かせて見せます、希望の桜!! 帝国華撃団花組、天宮さくら!! ここに参上!!」

 

「さくら……」

 

誰よりも強い、友の声だった。

 

「あら、随分無骨な衣替えね。もうアタシの前に現れることは無いと思っていたけれど」

 

「私はもう迷いません。例えあなたが真宮寺さくらその人だったとしても……、帝都に牙をむくのなら戦います!!」

 

あの時とは別人のような、芯の通った強い声。

その瞳に、一切の迷いは無かった。

 

「降魔夜叉……。父の遺した希望は渡さない。私が相手よ!!」

 

「フッ、霊子戦闘機を強化した程度で図に乗らないことね。いいわ、貴方から殺してあげましょう!!」

 

漆黒と桜花。

二色の機体が同時に地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること10年前。

降魔大戦と呼ばれる死闘が始まって間もなく、神埼重工は時の帝国華撃団に一つの提案書を持ち込んだ。

霊子甲冑に代わる新たな力、その名も『霊子戦闘機』。

軽量に特化したシルスウス鋼を敢えて何重にも重ねて強度を跳ね上げ、内蔵する霊力接続部を3倍に増やして従来とは比較にならないレベルの出力を獲得したその機体に、一度は起死回生の期待がかけられた。

しかしその試作機において、重大な問題が露呈してしまった。

これまでの4倍近い重量の機体を動かすためのブースターに送り込む霊力の負担が凄まじく、試乗した真宮寺さくらは起動から10秒までしかそれを維持できなかった。

加えて搭乗者への負担の大きさを加味し、時の総司令『大神一郎』は、この霊子戦闘機の実戦運用を見送り、当面の間凍結するよう命じた。

それが大帝国劇場地下に1機のみ安置されていた、世界初の霊子戦闘機。

 

『試製桜武』である。

 

「何だあの機体は……、無限じゃないのか……?」

 

もし当時の設計のままだったら、自分でも到底起動させることなど夢のまた夢だっただろう。

しかし今回、帝国華撃団整備班長と上海華撃団総司令、そして整備班たちの文字通り血の滲む努力の末、大幅な改良が施されていた。

 

「速い……、そして力強い……。まるで、今のさくらみたい……」

 

物理防御力を高める為に何重にも補強されたシルスウス鋼をアンシャール鋼に取り替えて軽量化に成功。

更にブースターに接続するシナプスを一本化することで搭乗者の接続部を減らして負担を軽減。

そして他ならぬ無限に搭載されていた霊子水晶を移設したことで、搭乗者に則した霊力伝達を実現。

この全てが歯車の如くかみ合ったことで、名実共に天宮さくらのみが操ることの出来る最強の霊子戦闘機が誕生したのである。

 

「あれほど熱く激しいのに……、桜の舞いを見ているかのようね……」

 

意図してか意図せずか、通信を入れたままのアナスタシアの呟きに、誰もが頷く。

まるで桜が舞い踊るかのように優雅に、華麗に、桜武はその太刀を振るっていた。

 

「はああああっ!!」

 

力強い気合と共に、横薙ぎに太刀が一閃した。

自身の太刀を盾代わりに防ごうとした神滅は、その勢いに押されて外へと押しやられる。

何ということだ。

今まで自分達が手も足も出なかった相手を、明らかに追い詰めている。

そしてその事実に、誰よりも驚いているのがさくら自身だった。

 

「(凄い……、敵の動きも……、霊力の流れも……、見えるように分かる……!!)」

 

目で追う事はおろか、反応すら出来なかった相手の剣速が、手に取るように分かる。

抗いようの無いほどに重い一撃が、強引にでも押し返せる。

まるで生まれ変わったかのようだ。

 

「クッ……、ネズミにしては中々やるようね……!!」

 

数十回の切りあいの末、遂に夜叉の口から負け惜しみの言葉が漏れた。

仮面で目元を隠していても、明らかにその表情には焦燥の色が伺える。

戦況は今、確実にさくらに傾きつつあった。

 

「でも所詮はネズミの浅知恵。あの御方の加護を受けた我が太刀の敵ではないわ!!」

 

神滅が刀を青眼に構え、膨大な妖力を刀に注ぎ込む。

それを見たさくらも自身の太刀に霊力を集中させた。

まさか、奥義で打ち合うつもりか。

 

「破邪剣征……」

 

「蒼き空を駆ける……、千の衝撃!!」

 

その一瞬、視認できるほどの膨大な霊力と妖力が一帯を染め上げた。

そして、

 

「百花繚乱!!」

 

「天剣・千本桜ーーーっ!!」

 

すべてを飲み込む漆黒の竜巻に、桜吹雪を纏った斬撃が真正面からぶつかった。

拮抗すること数秒。

趨勢を破ったのは、桜吹雪だった。

 

「ぐっ……!! バカな……、こんな事が……!!」

 

その一撃を以ってしても、神滅の装甲は破れていない。

だがその身に纏っていた妖力は、明らかに弱まっていた。

夜叉自身がその場に膝を着いているのが、何よりの証拠である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ何だぁ? 少し見ねぇ内に小汚くなっちまったじゃねぇか」

 

「朧……!!」

 

立ち上がれない神滅の横に、いつものふてぶてしい態度で現れた朧が嘗め回すように周囲を一瞥する。

そして、始めてみるであろうさくらの桜武に目をつけた。

 

「何をしにきたの朧……、戻りなさい……!!」

 

どうやら夜叉にとっても想定外だったのか、撤退を命じる。

だが素直に従っていたこれまでとは打って変わって、朧は気だるげに言い返した。

 

「うるせぇなぁ! あの御方からの許可は頂いてるよ。撤退しろ夜叉、これはあの御方からの命令だ」

 

「……!!」

 

一瞬驚いた表情を見せるも、夜叉は僅かに躊躇いつつ異空間に姿を消す。

俄かには信じがたいが、あの朧が仲間を助けに来たとでも言うのだろうか。

 

「朧……、夜叉に代わって刀身を狙うというなら、私が相手になります!!」

 

油断無く太刀を突きつけるさくら。

しかし朧はそれを鼻で笑い返した。

 

「生憎だが今日は気が乗らなくてな。代わりにコイツらと遊んでもらえ」

 

「なっ、これは……!!」

 

瞬間、巨大な魔方陣から現れた二つの影に、誰もが戦慄した。

華撃団大戦会場で圧倒的な実力でウルトラマンをねじ伏せた戦闘機怪獣『メタルダイナス』。

もう一つは、あろうことか戦闘機怪獣と同じ巨躯を持つ降鬼だった。

冗談ではない。

神器を失い、後釜が未完成の今、降鬼を人間に戻す手段など……。

 

「俺は夜叉みたいに面倒なことはしねぇ。まとめて踏み潰されちまいな!!」

 

そう吐き捨てて自身も異空間に消える朧。

同時に二大怪獣が進撃を開始する。

そのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メビウーーーーーースッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本殿に迫り来る二大怪獣を遮るように現れた閃光。

そこから立ちはだかったのは、あの夜海中に没したはずの光の巨人だった。

 

「……メ、メビウス……!?」

 

「セアッ!!」

 

一時は生死も危ぶまれた巨人の無事に安堵する初穂に、応えるような声が返ってきた。

だがそれも一瞬で、メビウスはすぐに二大怪獣に向き直ると、正面から飛びかかった。

 

「セアアッ!!」

 

全体重を乗せたドロップキック。

それを頭部に受けたメタルダイナスはバランスを崩して後ろに倒れる。

メビウスはそのまま、隣にいる降鬼に掴みかかった。

 

「タァッ!! ハァァァ……!!」

 

「グゥゥ……!!」

 

一瞬反応が遅れながらも、降鬼もメビウスを押し返そうと踏ん張り始める。

だが、突如真後ろから背中に衝撃が走る。

いつの間にか起き上がっていたメタルダイナスが至近距離からレーザーを発射したのだ。

 

「ゥアアッ!!」

 

「メビウス!!」

 

大きく前に吹き飛ばされるメビウスに、思わず初穂が叫ぶ。

頭の泥を振り払い、尚も立ち上がるメビウス。

しかしそれを嘲笑うかのようにカラータイマーが点滅を始めた。

このままでは……、

 

「ウアアアアッ!!」

 

接近すら許さぬマシンガンとレーザー攻撃の嵐がメビウスを襲った。

激しい攻撃に再び倒れこむメビウス。

もう、限界だった。

 

「初穂!?」

 

誰かが叫んだ気がした。

もう、居ても立ってもいられなかった。

 

「初穂! 何してるんだ!?」

 

「セアッ!?」

 

仲間達のみならず、メビウスも驚きの声を上げたのが分かった。

無理も無い。

何故なら今、初穂は生身の体で、メビウスを庇うように両手を広げて立ちはだかったのだから。

 

「もう……、もう我慢できねぇ……!! 霊力が無いから何だ……!? 戦えないから何だ!? 大事な仲間が痛めつけられてるのに、アタシだけ指くわえて見てられるか!!」

 

「無茶だ初穂!! 今のその体で何が出来るって言うんだ!!」

 

「出来ねぇよ!! 今のアタシには何も出来ねぇ事は分かってる!! でも……、それでも……アタシは……!!」

 

怖い。

このままレーザーで焼かれても、あの巨体に踏み潰されても、今の自分はあっけなく死んでしまう。

そんな事は分かってる。

でも、それでも、もう心が張り裂けそうなまでに悲鳴を上げていた。

みんなの下から逃げた自分を、ミライが励ましてくれた。

傀儡騎兵に襲われた自分と家族を、花組のみんなが助けてくれた。

夜叉に追い詰められたみんなを、上海華撃団が助けてくれた。

あんなに酷い言葉で傷つけた自分を、さくらは助けてくれた。

そして今、勝ち目が無いとわかっているだろうに、メビウスは自分を助けに来てくれた。

もう限界だった。

もう自分の為に誰かが傷つくのは耐えられなかった。

これ以上はやらせない。

もう傷つけさせてたまるか。

例えこの身がどうなっても。

 

「……悔しいよ……」

 

搾り出すように、初穂は呟く。

その目には、大粒の涙で溢れていた。

悔しかった。

せめて、せめて自分に霊力があれば。

こんなにむざむざやらせはしないものを。

 

「なぁ御魂神様……アタシも巫女なら……東雲の端くれなら……」

 

滲む視界の先で、機械獣がレーザー光線を放とうとエネルギーを充填し始める。

仲間が息を呑む悲痛な声が聞こえた。

 

「頼むよ……今だけで良い……、みんなを……みんなを守る力を……!!」

 

視界が白に染められる。

死の熱が、迫った。

 

「アタシに力を、くれえええぇぇぇ……!!」

 

魂の絶叫。

それすらも掻き消す灼熱の光線がすべてを飲み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

一瞬何が起こったのか誰も、初穂自身も分からなかった。

東雲神社の本殿から、帝都中に青白い線が無数に飛び交い、地上絵のように折り重なっていく。

 

「地脈じゃ」

 

キクが、驚きに目を見開き、告げた。

 

「御魂神様の神力が、地脈を通じて帝都を覆っておる。初穂の想いに、御魂神様が、お応えくださったのじゃ……!!」

 

「御魂神様が、アタシに……!?」

 

俄かには信じられないが、初穂は実感していた。

自身の体の細胞に至るまで、抜け落ちていた何かが溢れているのを。

それが何であるか、帝国華撃団隊員東雲初穂は知っていた。

 

「隊長さん!!」

 

「分かった! これから初穂の無限を射出する!! 初穂、ウルトラマンメビウスを援護し、敵怪獣を撃破せよ!!」

 

「了解!!」

 

直後、大帝国劇場へ直結する轟雷号の汽笛と共に、見慣れた赤の無限が地上へ放たれた。

巫女装束のまま中へ乗り込み、霊力を集中させる。

その瞳に、光がともった。

 

「行くぜメビウス! 今度は、今度はアタシがお前を守る番だ!!」

 

「セアッ!!」

 

力強い返事と共に、メビウスが立ち上がる。

大槌を振り回し、赤の無限が地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは最早、人知を超えた超常現象と呼ぶほかに無かった。

古来より人々に崇められてきた御魂神。

それが初穂の思いに応え、神力を授けたという。

だがそれを指し示すかのように初穂の力は信じられない体格差の機械獣相手に優勢を保つほどのパワーを見せた。

 

「おりゃあああっ!!」

 

横に振り回した大槌から霊力を具現化した炎が玉となって放たれ、機械獣の顔面を直撃する。

たじろぐ機械獣に、今度はメビウスが殴りかかった。

 

「セアアアッ!!」

 

神力のオーラに包まれたメビウスもまた、今までとは桁違いのパワーを発揮していた。

以前なら鉄壁の余り逆にダメージを受けていたメビウスの拳が、件の巨体を数メートル吹き飛ばして見せたのである。

 

「初穂! その大槌を降鬼に振るえ!」

 

降鬼の様子に何かに気づいたのか、キクが叫んだ。

そういえば御魂神の神力が地脈から解放されてから、暴れることもなく棒立ちになっている。

 

「恐らくあの降鬼は正気を取り戻しかけておる! 今のお前ならその神力で元に戻せるはずじゃ!!」

 

「分かった、ばあちゃん! メビウス!!」

 

「セアッ!!」

 

初穂の言葉に頷き、メビウスが仰向けに倒れている機械獣が邪魔をしないよう馬乗りになって押さえ込む。

それを確かめると、初穂は大槌にありったけの霊力を練りこみ、跳躍する。

神力によって強化された初穂の無限は、そのまま降鬼の頭上を捉えた。

 

「何処の誰だか知らねぇけど……、ちょっとばかし我慢しろよおおおぉぉぉっ!!」

 

そのまま前方に乱回転し、落下と遠心力を加えた豪快な一撃が降鬼の脳天に見舞われた。

地面が割れてしまうのではないかというほどの衝撃と共に、降鬼の巨体が地面に沈む。

するとキクの読み通り、程なく神力に包まれた降鬼の肉体が崩壊し、中に人影が見えた。

瞬間、さくらが驚きの声を上げる。

何故なら、

 

「お、お父さん!?」

 

「鉄幹さんだって!?」

 

それは降魔の襲撃を受けて死んだとばかり思っていたさくらの父、鉄幹だった。

降鬼から解放された状態で意識を失っているが、心臓の鼓動はハッキリしている。

 

「良かった……お父さん……本当に良かった……」

 

「ああ……初穂のおかげだ……」

 

思わず桜武から飛び出して歓喜に涙するさくら。

だがまだ安心は出来ない。

 

「ゥアッ!!」

 

メビウスを跳ね除けて立ち上がったメタルダイナスが、本殿を踏み潰さんと迫る。

すかさず立ちはだかったメビウスは、一縷の望みを駆けてメビュームシュートを放った。

 

「セアアッ!!」

 

神力をまとった光線が激しいスパークを発する。

だが、これほどの爆発を以ってして尚も機械獣は倒れない。

既にカラータイマーの点滅は速度を上げている。

このままでは……、

 

「巨人よ、聞こえるか!?」

 

声を上げたのは、やはりキクであった。

 

「今のお前は神力の余波を受けているに過ぎぬ。真に神力を纏うには共に戦う仲間と心を重ねよ! 初穂を介して、神力を己の中に取り込むのじゃ!!」

 

「アタシを介して……、メビウス!!」

 

「スァッ!!」

 

初穂の言葉に頷き、メビウスは彼女の前に立つ。

初穂は大槌を正面に構えると、目を閉じて意識を集中させた。

 

「御魂神よ……、共に立つ仲間に、メビウスに、力を与えたまえ……!!」

 

瞬間、不思議なことが起こった。

初穂の全身を包む神力が徐々にメビウスへと移って行ったかと思うと、その奔流が炎に具現化され、メビウスの全身を鎧のように包み込んでいくではないか。

やがてその炎の鎧は胸元に炎を思わせるシンボルを描く。

メビウスの不屈の闘志と初穂の神力が一体となった新たな姿、『バーニングブレイブ』覚醒の瞬間だった。

 

「行け巨人よ! 神力の炎で、かの敵を焼き払うのじゃ!!」

 

「セアッ!! ハァァァァ……!!」

 

キクの言葉に頷き、メビウスは全身に迸る灼熱の奔流を胸のシンボルに集中させる。

するとシンボルに沿って炎が具現化され、圧縮された炎が球体を作り出す。

メビュームシュートに代わる新たなメビウスの必殺技、『メビュームバースト』だ。

 

「行けぇーっ! メビウスーーーっ!!」

 

「セアアアァァァッ!!」

 

放たれた灼熱の火球が、機械獣を包み込むとたちまち肥大化する。

やがてそれは機械獣の全身を焼き尽くし大爆発と共にその身を粉砕した。

瞬間、周囲の魔幻空間と地脈の光が解け、下町の青空が戻る。

さくらにとって、初穂にとって、そしてミライにとって、長い夜が明けた瞬間だった。

 

「セアッ!!」

 

平穏が戻ったことを確かめるように頷き、空へ飛び立つメビウス。

その背中に、初穂は呟いた。

 

「ありがとう、メビウス……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さくら……」

 

戦いを終え、無限から降り立った面々が神社の被害状況を確かめる中、初穂がふとさくらに声をかけた。

 

「この前は、ごめんな。癇癪に任せて、酷い事言っちまって……」

 

「ううん。私こそごめんね。それに初穂、お父さんを元に戻してくれたじゃない」

 

「それを言うならさくらだって、アタシらを夜叉から助けてくれたじゃねぇか」

 

堂々巡りになりかけ、互いに微笑みあう。

昔からそうだ。

下らない事でケンカをしては、すぐに仲直りできる、そんな関係。

今回は事が事だけに流石にダメかとも思ったが、結局同じだった。

 

「それがお前の、お前にしかない力だよ初穂」

 

そんな初穂に、キクが語りかける。

表情は穏やかなままだが、その言葉には並々ならぬ力がこもっていた。

 

「御魂神様が神力をお授けになったのは巫女だからでも、巨人がいたからでもない。初穂、お前だったからだ」

 

「ばあちゃん……」

 

「何年も下町の大人と子供と、そして華撃団の皆さんと、そしてあの巨人とも心を通わせられる。そんなお前だから、御魂神様はお前をお認めになったんだよ」

 

「ああ……ありがとう……」

 

胸に熱いものを感じながら、初穂は力強く頷く。

するとそこに、ミライがいつもの笑顔で囃し立てた。

 

「それじゃあ今回はMVPということで初穂さんに決めてもらいましょうよ!! シャオロンさんたちも一緒に!」

 

「お、いいのか?」

 

「構わない。あざみも一緒が良い」

 

「へっ、しゃーねーな。ついて来いよ!?」

 

一瞬鼻をすすり、いつもの笑顔で初穂が音頭を取った。

まるでお祭りの一幕のように。

 

「どんなに時代が変わろうと、人を繋ぐのは義理人情! 笑って騒いで時には泣いて、心と心は繋がっていく!! 勝利のポーズ!!」

 

「「決めっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、あの降鬼を放った?」

 

そこは何も無い空間だった。

ひたすらに闇だけが包む世界。

そこに一人、ポツンと佇む影があった。

上級降魔、朧である。

 

「奴は支配が十分ではない木偶の坊だったはず。人質としてでも使えば帝鍵だけでも破壊できたものを」

 

「るせーな、いちいち。しょうがねぇだろ、ああでもしなきゃ貴重な駒が一匹消えてたんだぜ?」

 

「解せんな。何故今になって庇おうとする」

 

「別に庇った訳じゃねーし。いつも口うるさいアイツのボロ雑巾になってる様拝みたかっただけっつーか」

 

暗闇からの声にのらりくらりとした様子ではぐらかす朧。

やがて声は呆れたのか諦めたのか、何も返さなくなった。

そして誰もいない闇の中で、朧は一人呟くのだった。

 

「……俺だって知らねーよ。なんであんな女助けちまったのかなんて……」

 

<続く>




<次回予告>

遂に始まった華撃団大戦。

初戦の相手は俺たち上海華撃団だ。

何? 手合わせと思って肩の力を抜けだぁ?

悪いが、そういうわけには行かねぇんだよ。

次回、無限大の星。

<龍嵐相打つ>

新章桜にロマンの嵐。

神山、これは男と男の勝負だ!!
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