Bloodborne × ワールドトリガー 血濡れの万能手 作:たっつんG2
時は少し遡る。
警戒区域から程近く、三門市を東西に二分する大きな河川の上に、寂れた建築物が建っていた。
ボーダー玉狛支部である。
一つの社員寮のような形態をとっているここ玉狛支部で、夕食を終えた迅と小南はテレビの前でゆっくりしていた。
小南が携帯をいじっている時、迅はぶっきらぼうに切り出した。
「そういえば、どうだ小南。柊は。珍しく目を掛けてるみたいだけど」
そう言う迅に、小南は唇を尖らせながら返す。
「別に? そんな目を掛けてるつもりもないんだけど」
「そうか?」
迅はゆっくり立ち上がると、皿を洗いに台所へと歩く。
「まだ気にしてるんだろ、柊と初めて戦った時のこと」
小南は押し黙って、携帯からテレビへと目を向けたまま、口をつぐんでしまった。
柊柚彦は、大天才である。
剣の振り方もままならない、戦いのノウハウや、定石、そんなものなどは露も知らぬ素人だった。
ただ、祖父の勧めで始めた柔道で、負けたことは数えるほどしかなかった。
近所の小さな、寂れた柔道場で、門下生は数えて両の手の指で足りるほど。
師範も、特にこれといった経歴のない、大学時代に柔道をやっていただけの、四十ほどのおじさんだった。
柊自身、未だに気付いていない。
柊柚彦は、目の扱いが異様に上手い。
相手をよく見ているのだ。一挙手一投足を、つぶさに観察して、足を運ぶ。
だから、襟を捕らえられることもない。
しかしその道場は一年と少しでやめてしまった。
飽きた。小学生時分の理由としては、ごく一般的なものだろう。
さて、話を戻すと、柊と小南の出会いである。
なんてことはない、柊がまだ訓練生の時、ブースに来ていた小南を見て、ボーダーには小学生もいるのかだとか、そんなことを口走り、それが小南の逆鱗に触れたからである。
小南桐絵、格下の挑発に耐えられるほど大人ではなかった。
少し伸してやって、格の違いをわからせてやろう――その程度の意気込みで、仮想戦闘ブースへと引っ張っていった。
ハンデとして、孤月一本。
小南桐絵は、神速の縮地と兜割りで、少し泣かせてやるつもりだった。
柊は、その初撃を見切った。
紙一重の半身。
トリオン体の動きに慣れていないはずの訓練生が、死地へと赴き数々の敵を斬り伏せた手練れの一太刀を避けたのだ。
もちろん、それからの試合は小南のワンサイドゲームだったが。
あの時の、柊の冷えた目がどうしても小南の心にわだかまりを残していた。
「弱い奴は嫌い、なんじゃなかったか?」
迅は小南をからかうように言う。
「別に。少しだけ見どころがあるってだけよ。少しだけね」
ぶっきらぼうにそう言うと、迅は皿を洗い終わり、手を拭いた。
「でも最近は――調子悪いよなあ、あいつ。なんかあったのかな」
「シールドの使い方がヘタクソなのよ」
それは、柊と何度も対峙した小南だからこそ分かることだった。あるいは、太刀川も気づいているかもしれない。
「攻撃を無理に
迅はそれを聞いてなんとなく納得したようだった。
続いて、思い出したかのように話を切り出す。
「そうだ小南、今日あいつに会った時、面白い未来が見えたんだけどな――」
迅はその話を、「きっと小南も、その未来の柊には苦戦するかもよ」と言って締めた。
次回、太刀川との再戦。