いつからソコにいたのか。
いつから己がモノとして存在しているのか、長年考えているが……いや、思い出そうとしているがなかなか思い出せない。
なにか思い出せないものかと、周りのものを思うままに焼きつくして三百年。
ようやく思い出せたのは、多分オソらくキット、こんな形になる前は人間であったということだけだった。
思い出す切っ掛けとなったのは、一人の男だった。男は、自身のことを盗掘者と名乗った。墓泥棒だとも。
今は何も言わなくなって、壁に寄りかかったまま動かなくなっている。
己は、かれこれ長い間話し込んだ"彼"をなんとなく燃やす気にはなれなかった。人間であった時の記憶から、アレが死というものだと思い出した。
彼によると、ここは炎魔殿と呼ばれているらしい。己の魔力が迸り、常に焔が社のそこら中で燃え盛っているのだと。己はこの部屋の物以外燃やした記憶はないが、きっと己が置かれている台座に己の力を使って何かする絡繰があるのだろう。
己は、彼の命の火が燃え尽きないように、彼の命の火を操った。だがついには、彼の薪が尽きてしまったのだ。最後に彼はありがとうと言っていた。己は、自分勝手に話し相手が居なくなるのが嫌だっただけであったので、なんとも居心地が悪かった。
墓荒しの男は、己に触れようとして片腕を亡くしていた。別に己が燃やしたのでは無く、やはり台座の働きによるものらしい。特定の道具を持たねば解除されないのだと、彼は言っていた。
片腕を亡くしたことで、彼は帰れなくなった。だが、彼は喚くことも無く、淡々と受け入れていた。商売柄、覚悟だけはしていたらしい。
今の際に、彼は妹が居たと言った。どちらも孤児で、大きな街の施設で育ったのだと。外では争いが絶えないそうだ。
世の中は、己の様な呪物が溢れている、そう彼は言った。その中でも己は別格の力を有している様で、彼はいくつかの呪物を己に見せてくれた。彼の持ち物には、人を馬鹿にしたような、なんとも微妙な性能を持った物がたくさんあった。
〈どんな紙でも切れるナイフ〉
なぜ、紙限定なのか。それでは、ただのペーパーナイフであろうに。なに? 紙以外切れない?
〈尽きない酒瓶〉
はて、酒とはどんな味であったか……。逆さにすると空になるらしい。ダメではないか!
〈どんな扉の鍵穴も破壊できる鍵〉
なぜ開けない!?
〈歌う帽子〉
ひどく音痴だ。
〈転換の弁当箱〉
中に入れたものを無機物であっても食べ物に転換してくれるらしい。色形はそのままだが……。
こんなモノ共と己は同じ分類らしい。なんとも世知辛い世の中だ。
彼が死んでから、己は外に意識を向けるようになった。世の中が気になったのだ。しかし、己の力で知覚できるのは、この神殿の中だけであるらしい。
彼が死んだ後、何人かの宝探し達がやってきた。だが、己のいる所まで辿りつけないものが多かった。たとえ辿り着いても、己の静止を聞かずに灰になる者しかいなかった。
彼は、なかなか優秀な宝探しだったらしい。
そうして、しばらく経ったある日のこと。
一人の少女が己の所までやってきた。
少女は己に目もくれず、何かを探すように部屋の中を見回し、彼に目を留めた。目を見開いた後、彼に走り寄ると嗚咽を漏らした。
「兄さん、ごめんなさい。ごめんなさい……」
どうにも少女は、彼の妹であったらしい。落ち着いた少女に話を聞くと、初めは己の声に驚いていたがポツリポツリと話してくれた。
当時、幼かった少女は世界を飛び回る彼にどうしても付いて行きたくて、何度も連れて行くようにせがんだそうだ。だが聞き入れてもらえず、その時に彼に約束してもらったことがあった。次の獲物は、少女にあげようという約束だった。
少女は彼から、炎魔殿のお伽話と、炎魔殿の鍵である紋章の形をしたペンデュラムを見せてもらっていた。少女は、その鍵を持っていれば彼に連れて行ってもらえると思い、彼の鍵を盗んでしまった。
彼の死んでしまった理由と、己が彼を燃やさなかった理由を悟ってしまった。彼は己の持ち手だったのだ。なんとも因果なものである。
己は、少女に外に己を連れて行くように願った。
◆
「で、そいつに速攻で売られたわけだな」
「話に割り込むでない!」
王国の貧民街近くにあるうらぶれた骨董品店の店主が割り込んできた。
話を聞いていた己の所有者候補であった幼女は、己が思わず出した声に驚いて走り去ってしまった。