終わりの魔導書   作:peg

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ポーション

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日の昼下がりのこと。

 一人の女がウン某を訪ねて来た。

 

 

 

 

 女は組合員の受付のような格好をしており、王都の人間では珍しい金髪をしている。

 ただし、成人しているか怪しいくらいには背丈が短かった。

 

「こ、こんにちは……。おーい。誰かいませんかー。いない……誰もいないなんて不用心ね!」

 

 最初はおっかなびっくり店の中を覗き込んでいたが、誰もいないと分かると女は不躾にも堂々と店の中に入り込んできた。

 

「ふーん。ガラクタばかりね。あの人が働いているところがどんなところかと思ったけど、大したことないわね」

 

 ガラクタで悪かったな。

 

「ひえっ!? しゃべった!?」

 

 店の商品を物色する女に己はそう声を掛けた。すると、女は飛び上がって驚いた。

 この店に放置されてから、この(くだり)を何度も行っているが、人間の反応はてんでバラバラで面白味があった。

 

「話をする呪物!? は、初めて見た……」

 

 女は大きな丸メガネを取り出すと、慌てて掛けて己に近づいた。

 さて、女は己との会話を始めたわけだが、客観的に言って物とお喋りするのは人間で言うところの独り言に当たるのではなかろうか。

 

「う、煩いわね。店の人間帰ってくるまでの時間つぶしよ時間つぶし」

 

 暇つぶしをするのは良いが、潰れるのはメガネ人間のメンツなのではないだろうか。

 文字通り、店員のいない店の物色にしか見えない絵面である。

 

「誰がメガネ人間よ!?」

 

 では何と呼べばよいのか?

 

「……呪物に名前を教えていいのかしら。まぁいいわ、私は――」

「いらっしゃい。あれ? 君は……確か」

「ひえっ!?」

 

 己がこのひえーと鳴くメガネ人間の呼び方に昏惑していると、奥で荷物整理をしていたウン某が出てきた。

 

「せ、先輩! あの」

「うん、ちょっと待って、今思い出すから。ちょっとそこまで出てきてるから。喉元くらいまで。アカデミーのアレだよね。判っているから安心して」

 

 それを世間一般では覚えていないと言うのではないだろうか。人間は免疫の強い個体ほど新陳代謝が良く、傷が治るのが速いと聞く。つまり、頭が良い個体は頭が良くなるに従って脳の新陳代謝も良くなるのだろう。

 

「それは褒められているのか……?」

「先輩は昔からそうでしたよね」

「脳の新陳代謝がいい話を続けないでくれ……!?」

 

 しかし、此奴、雌が来るといつもは吃って上手く話せなくなるのだが、推定成人していない雌に対してだけ普通に話すようになる。

 現在の王都で言う、冠趣味と言うやつか。王宮に閉じ込められている彼奴も誉れ高かろう。知れば小さな胸を精一杯に張るに違いない。

 

「誰がちっちゃいですって!?」

「なんだか誤解されそうなことを言わないでくれ!? ってあれ? そのメガネあれかぁ、私が作ったやつか。なつかしいなぁ。ちょっと貸して貰えるか?」

「えっ! あぁ……」

 

 抵抗する間もなくウン某にメガネ奪われたメガネ人間は、顔を赤くして力を失ったように両膝をついた。己が人間から魔力を奪い尽くした時の様子と酷似している。

 つまり、このメガネ人間はメガネが本体ということであろうか。人間体はメガネ掛けなのかもしれぬ。

 

「うわ〜懐かしいなぁ。初期型のスペクタクルズだ。……作ってすぐに販売権を錬金術ギルドに掠め取られたんだよね、これ。はぁ……なんか嫌なこと思い出した」

 

 哀れウン某。

 しかして、これは何をする呪物なのだ。

 

「ん? うーん、初期型は呪物のコードを読めるように……ってえーと、要は呪物の核が丸裸になるんだけど……」

 

 そう言ったウン某は、己とスペクタクルズを見比べて徐ろに装着した。

 有り体に言って、糞ダサい。

 

「きっとすごいも――」

 

 一瞬の抗力の後、己の防衛機能が働くのを感じた。

 

「う、ああ……あああああ〜〜っ! 目がぁぁ〜! 目がぁぁぁぁあっ!!」

 

 己を見つめたウン某は、目を押さえてヨタヨタとガラクタの中に突っ込んで行った。

 

「!? そんな、先輩!? 目から血の涙が……! この肉体回復のポーションを飲んでください!!」

 

 一連の騒音で自我を取り戻した元メガネ人間は、血の涙を流すウン某へ持っていたポーションと言う名の薬を差し出した。

 

「肉体回復のポーション……!? うわぁ、い、嫌だ!」

「え?」

 

 両目を固く瞑ったウン某はうわ言の様に否定の言葉を繰り返した。

 

「ポーションは嫌だ……ポーションは嫌だ……ポーションは嫌だ」

 

 そうか。

 ポーションは嫌か。

 ならばダメ店主のとっておきだ。

 ハイポーション!!!

 

「もっと嫌だぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店の軒先で椅子に腰掛けるウン某に夕日が降り注いだ。

 

「この世界の肉体回復のポーションは、とある怪物の糞から出来ているんです」

 

 頭に包帯を巻いた姿となったウン某は、遠い目をして語り始めた。

 なんでも、その怪物とやらは殆ど不死の力を持った多頭の竜らしい。

 

「ハイポーションはその再生能力を模倣しようとして見つかった腸内細菌が元になっています。えぇ、まぁつまり、材料が人糞です」

 

 ふむ。やはりウン某が作ったのか。

 

「ええ、分かりますか?」

「そりゃわかるだろう。しかし、こりゃあ、いいことを聞いたぜ! ちょっと薬屋に行ってくる!!」

 

 話を聞きつけた骨董屋の店主によって、効いてるのか効いてないのかよく分からないやたらと高価な粉末状のサプリメントなるものが開発された。

 ちなみに材料を聞くと目を逸らされた。

 

 その後、王都では健康な体を維持するための腸活が流行った。

 




あぁ~!魔法のポーションを作る音ォ〜!!(ブッチッパ)
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