書かれた話をよく読んで最後までたどり着いてください。
昼下がりの骨董品店は、いつものように埃っぽい静けさに包まれていた。薄暗い店内に差し込む光が、長年の垢にまみれた品々の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせている。
今年初めての霜が降りた頃、流行りもの好きな民人の多い王都ではとある流行が起こった。
「これでお金を払ったことになるんです?」
「なんでも、このギルドの認識票に決済の履歴が残るんだとよ。後でまとめて作った口座に請求されるらしい」
「……あぁ、電子決、えーっと……手形みたいなものですか」
ウン某が、ものは試しと店の商品を購入しようとしている。認識票を商品に押し当てた。
『マギペイ!!!』
すると、認識票からは歳を経た男性が無理やり出したような裏声が飛び出した。
「うわっ、煩ッ! これ音量とかなんとかならないんですか?」
「はっはっは。皆その声に驚くもんだ。支払いが滞ると声色で知らせてくれる優れもんらしい」
魔法決済と呼ばれる仕組みらしい。
決済情報が魔法のなんやかんやとした力で記録され、のちに銀行屋が請求に来るようだ。
「これは……払えなかったらどうなるんです?」
「さぁなぁ……。鉱山奴隷か、末は潜水奴隷だろうな」
「こわっ。じゃ、いいですぅ」
「それよりもだ。おい、見てみろ、コイツがわかるか?」
ハゲ店主は急にウキウキした様子で何かの塊を取り出した。また、くだらないガラクタを掴まされたのだろうか。
「これは、身代わり粘土ですか?」
「お? 分かるか」
ウン某は品物を一見して、あっさりと答えた。
己はわずかに意識を集中する。店主が誇らしげに掲げているのは、掌に乗るほどの大きさの、灰色がかった粘土の塊らしい。
「こいつはなぁ、いかなる大怪我も肩代わりしてくれるという、とんでもなく高価な代物だ。この間の白い粉で錬金されたんだ」
「いや、物々交換を錬金術のように言うのはやめましょうよ。ふむ……しかし、そんなに効果は高く無かったはずですが」
「あー、オレの天才的な頭脳が思いついちまったんだよなぁ。こいつの使い方に、な。むふふふ、がははは!」
ハゲ店主の含み笑いが耳障りだ。
どうせ間抜けな使い方だろう、己は内心で呆れ返る。
ハゲのわりに脳の容量が小さいハゲ店主が思いつく呪物の使い方がまともであろうはずがない。
「危険な使い方じゃないですよね……? その『身代わり』には、確かある程度対価が必要でしたよ」
「くくく、その対価を対価で踏み倒すのさ。この方法は売れるぞ! 高く売れるぞお!」
「だ、脱法行為じゃないですよね?」
ハゲ店主は脱法行為を思いついたらしい。
「ちげぇよ! 少なくともまだこいつを規制する法律は今のところ、無ぇ!」
「後ろ暗さ満点じゃないですか!!」
「法律が無ぇんだからしょうがねぇじゃねぇか。まぁ、ものは試しだ」
「私はなんにも加担してませんからね」
「かーっ! 儲かっても、分けてやんねぇからな!」
店主は魔法決済端末の認識票マギペイなるものに粘土を近づけた。
『マギペぺぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺ』
粘土が虹色の光を放ち始めた。
「うわ、これ大丈夫ですか!? また爆発とかしませんか!?」
「大丈夫だ!!」
一体全体、何が大丈夫なのだろうか。ハゲ店主の謎の自信に、己とウン某の心の声が完全に被った気がした。
「うおー! いけぇぇ!!」
光が晴れると、粘土は認識票の写し身へと変わっていた。
「くくく、がーハッハッハ!! できちまったなぁ、使うと中身が身代わりで補填されてしまう仕組みがよぉ!!」
「なんてことを考えるんだ……。しかし、うまくいくんですか……? 流石に直ぐにバレそうな」
「大丈夫だ!!」
一体全体、何が大丈夫なのだろうか。ハゲ店主の謎の自信に、己とウン某の心の声が再び完全に被った気がした。
ハゲ店主は元の認識票を商品に近付けた。
『マギペイ!!!』
「ちくしょうめー!」
後日、ハゲ店主は店の前で叫んだ。
ハゲ店主の口座にあったなけなしの金は、身代わりの対価として吸われて消滅したらしい。
更には認識票の写し身になった粘土によって二重で請求されたそうだ。
「目の付け所は……おしい感じだったんですかね?」
今朝配られたばかりのかわら版から顔を上げたウン某はそう言った。
何がおしいのだ?
「昨日、魔法決済を悪用した犯罪が摘発されたそうです。なんでも、決済情報を何らかの呪物を使い受け流して他人に押し付けていたとか」
身代わりではなく、受け流しで上手くいくのか……。
犯罪にも知能が問われる時代になったのだろうか。
「いつの時代も知能犯は居るものですけどね」
しかし、ハゲ店主がバカでよかった。
「それはそうですね」