終わりの魔導書   作:peg

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まだ残ってた。
宿便。


う〇こマン

 王国の貧民街近くにある、うらぶれた骨董品店の片隅で溜息がこぼれ、空中に火の粉が舞った。

 己がここに来て、はや40年ほどになろうか。未だに己の担い手は現れず、小さかった店主も禿げ上がってうざ絡みしてくるようになった。

 

 さて、最近の変化の一つとして、ぎっくり腰になった店主が売り子を探していたところ20代前半の若者が捕まった。なんでも、アカデミーと呼ばれる魔法学園を卒業した秀才だそうだ。

 アカデミーと言えば、己のような道具がたくさん生まれ出でる場所でもあり、大変興味深かった。

 まぁ、売り子と言ってもこの店に客はほとんど来ない。

 一体どうやって生計を立てているかと言えば、金の卵を産む風見鶏が店には居た。それを売って、生計を立てているのだった。年に何度も生まないのだが……。

 一番重宝されているせいか、ここにある骨董品の中で一番磨かれており、己を差し置いてヒエラルキー的に頂点に立つ存在だった。無機物な瞳が己を見下しているように感じる。お、おのれ……。

 雇われた男が、ハゲ店主に言われ必死で磨いていた。なんともこの男、目が死んでおり若者とは思えない雰囲気を醸し出している。

 そもそも、アカデミー出身ということであれば子女の教師や軍、その他諸々で引く手がありそうなものだが……。

 

 店主が近くの救護院へ行き、売り子と己の二人きりになった。己は売り子に話しかけた。

 

「うおっ! しゃ、しゃべった」

 

 話しかけた己を見て売り子は、大層驚いていた。なんでも意志を持つ道具は存在しているが、明瞭に言葉を話す存在は少ないということだった。気分が良くなった己は、売り子に持ち上げて風見鶏より高い位置に置いてもらうことにした。

 売り子が己を手にした瞬間、己の体の中を力が這い回った。久々に浴びる魔力の胎動であった。実に気分が良い。

 ところが、2、3歩も歩かぬうちに売り子が崩れ落ちた。

 店主が帰ってくるまで、売り子はそのままとなった。

 

「店主。これ呪われてますよ」

 

 店主が帰って来て、介抱された売り子が言った。

 ちょっと待ってほしい。己は弁明した。しかし、まったく聞き入れてもらえなかった。

 

「あー、こいつな。下手に魔力があると全部吸われちまうんだ。だからこうやってしか持てないんだわ」

 

 竈近くからトングを持ってきた店主は、己を掴んで元の場所に重ねた。このハゲは、小さな時から己の扱いが雑だ。

 

「まぁ、アツアツの鉄板焼き置いても焦げ一つつかないから。これ高い鍋敷きだから」

「売れるんですか?」

「売れねぇな。はっはっは」

 

 己の用途と全く見当違いのことを言った。鉄板焼きとやらを置かれても特に熱いとも思えないので、構いやしないのだが。

 

 何日か経って、売り子と仲良くなり、売り子の身の上話を聞くことになった。

 なんでも、この売り子、元は異世界の住民だったそうだ。

 どういうわけか、知らぬ間にこの世界の幼い少年として生きていたという。

 しかし、前世界の感覚が抜けておらず、アカデミーには下水処理という技術をなんとか完成させて生活の質を前世界並みにしたいという崇高な目標があったそうだ。

 そういえば、最近路地に落ちている汚物を見なくなったが、彼の功績なのだろうか。

 

「はじめは良かったんです。はじめは……」

 

 彼が開発した水洗トイレという技術は、瞬く間に王国中に広まった。みんな汚物には辟易していたのであろう。使った水も汚れると超純水と呼ばれる水に変換される技術もあって、在学中の彼は大変注目されていたそうだ。

 調子に乗った当時の売り子は、次は食糧事情改善のために農地改革を行うと息巻いていたそうだ。

 

「わたしは、馬鹿だったんです」

 

 己の知識の中で農地に必要なものは、土の栄養や水であることが分かった。しかし、それ以上に何を使えばいいのか分からなかった。

 

「わたしは、作ってしまったんです。栄養価の高いう〇こを」

 

 彼が言うには、それは携行性が高く土の栄養価が高い、さらには水分を良く蓄えて、育成を阻害する雑菌の繁殖を抑制する効果があるらしい。

 聞くところによると非常に有用なものに思えた。見栄えは完全に人から出る汚物であったそうだが。

 

「しまいにはそれを、戦争に利用されてしまい。わたしは……わたしは……」

 

 彼の作った汚物は、非常に可燃性が高かった。

 粉末にして引火すると、けたたましい音を立ててよく燃えたそうだ。

 もはや英雄の所業と言っていいくらいの活躍だが、彼の渾名に問題があった。

 

「わたしは、巷でう〇こマンと呼ばれるようになってしまった……」

 

 気の毒なことを聞いてしまった。渾名のせいで様々なところで、噂になるそうだ。一人公園で黄昏ていたところに店主が現れたらしい。

 

「こんなはずじゃなかった……」

 

 うなだれる売り子に己は共感した。

 

 

 

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