とある日の昼下がりのこと、売り子のウン某がうつらうつらとしていると、急な雨が降り始めた。
雨季前であり例年の事なのだが、雷鳴が轟き大きな雨粒が王都の隅のうらぶれた骨董屋の屋根を叩く音が聞こえた。
己にとって雨とは、体が湿気てごわごわになる唾棄すべき現象なのだが、この矮小な身ではできることは少なかった。
「あちゃ~。降ってきたなぁ」
ウン某は、雷鳴で目覚めたようだった。彼が働きはじめて、半年が経っていた。既にサボりも板に付いており、店主の留守を見ては居眠りしていた。掃除する場所や物も少ない、小さな店だから仕方がないのだろう。
寝るくらいなら、己に魔力を譲ってくれないだろうか? え? いやだって? そうか……嫌か……。こいつも、己の持ち手ではないらしい。
ウン某とそんなやり取りをしていると、店の軒先に長く白い髪が覗いた。おい、客だぞ。
「あ~、いらっしゃ、ィ!?」
「……あの」
覗いた女は、ひどく顔立ちが整った女だった。でかい乳房が白く高そうな服を押し上げており、ウン某の視線がそこに注がれていた。
大方急な雨に降られ、軒先で雨宿りしたいのだろう。
「……ッ。あ~、ゆ、ゆっくり見ていってくれ」
「はぁ……? ありがとうございます」
ウン某は、言葉に詰まりながらもなんとか言い切った。なんとも童貞臭い。
「どどど。童貞ちゃうわ」
「?」
白い女が店の中に入ってきた。その時、己の体に電流が走った。一歩一歩、白い女が近づいて来る度に魔力がチャージされていた。こ、これは……!
「おい、どうしたんだ? そんなにバチバチ言って……」
「あの、なにか……?」
「あ、いや。なんでもないよ? なんでも、あはは……」
ウン某は、誤魔化すように言った。これ、ウン某よ。彼女に己を取ってもらうように言うのだ。己の持ち手だ!!
「そんなことできるかっ! 気絶したら、俺が襲ったみたいになるだろ! あと人をウ○コって言うの止めろ!」
ウン某は、静かに怒鳴ると言う器用な真似をやってのけた。己はウン某の体面とか既にどうでもよいのだが……。こいつは、恐ろしいくらいに俗物だった。
己も長らく魔導書をやっているせいか、人間がやっていることがまどろっこしく感じることがある。気に入ったんだったら、もう交尾でよくないか?
「交っ……はぁ。もういいよ」
ウン某は己の話を打ち切った。頭を振って眉間に手を当てるのが、彼の降参ポーズだった。
「あの、……これを見たいのですが……」
「あ~、はいはい」
そんなことをしていると、白い女が指差してウン某へ話しかけてきた。
女が指差していたのは、黒い布に覆われたショーケースだった。黒い布の裏地は、赤い色をした高い布だった。はて、あれは先代が遺した、呪われた品ではなかったか?
ウン某が布をとると、出てきたのはケースに仰々しく飾られた、輝く三角形の布地だった。
「え? うわ……」
「やはり……!」
ウン某は見たことがなかったのか、ドン引きしていた。対照的に、白い女はショーケースに寄り付いて、かじりつくように中を観ようとしていた。
「おい! 魔導書! これはなんだ?」
ウン某は、体面を気にせずに叫んだ。しようがないので、答えようとしたら女が答えた。
「これは、魔法聖女の仮面です! こんなところにあったなんて……」
「いや、それ、パン……。なんて??」
「魔法聖女の仮面です!」
己は過去に思いを馳せた。
これは、ハゲ店主が生まれる前、まだ先代が骨董屋を切り盛りしていた頃の話だ。ある時、隣国で猛威を振るった怪力乱神から剥ぎ取った着衣が、骨董屋の店に並んだ。手に入れた経緯は不明だったが、ホクホク顔の先代の顔が思い出された。
その頃、先代には付き合いたての奥方がいた。先代が留守の時、彼を喜ばせようと思ったのだろう、奥方が彼が大事に閉まっていたソレを履いてしまった。
先代が戻ったとき、ソコに居たのは一匹の
『あたし、きれい?』
奥方はパン1で宣った。奥方は、悲鳴をあげて去ろうとする先代を捕まえるとその場で犯した。世に言う、オーガ事変である。
そうして生まれたのが、ハゲ店主だった。
あれはそう言う、曰く付きの逸品なのであった。まぁ、己としてはさっさと交尾できて良かったな。くらいの感想なのだが。……今回もそうなりそうだな。
ガラスが割れる音が響き、古い魔法の警報音が鳴った。
「あんた! 何やってんだぁ! ……うわ! 力強っよ!?」
「後生ですから! 後生ですから!」
なにやら、白い女とウン某が白い布地を取り合って、揉み合いになっていた。
白い女は見た目以上に力が強いのか、もやしっ子のウン某を弾き飛ばした。ウン某は、戸棚にぶつかった。
「ぐわっ!」
「これで……。いざ!」
白い女は、戦利品のように白い布地を掲げた。
「ひぇ~。ひどい雨だったぜ!」
その時、丁度ハゲ店主が帰ってきた。店主は、中の様子を見て叫んだ。
「え? ちょっと、まておい!?」
「変身!」
白い女は、あろうことかソレを頭に被った。
「フオォォォォォォ!」
「へ、変態だーーー!」
「ぐあーーー!」
ウン某の叫び声と共に、辺りに魔力の嵐が吹き荒れた。嵐によって、店主は再び店の外に旅だって行った。なるほど、下に着けると筋力が増強され、上に着けると魔力が増えるのか……。実に興味深い。
「言ってる場合か! ヤバイぞこれ!!」
「フオォォォォォォ! 素晴らしいですわ! この力! 創造の力よ!」
白い女の回りに白い燐光が吹き荒れ、世界が白濁していった。己としては、魔力がどんどんチャージされていっているので、そのまま続けてほしかった。
「くそっ! 一か八かだ!」
ウン某は、己をひっつかむと、白い女に投げた。
「なにを……、きゃっ」
布を被った女は、意外なことに強肩のウン某に投げられた己にぶつかり、己と共に店の外に転がった。
「ぐっ……ぎゃぁぁあ!」
己の魔力が際限無く溜まっていき、女が叫んだ。しかし、己は雨に濡れるのが嫌だった為、チャージされた全ての魔力を使って、雨雲を消し飛ばすことにした。
滅びよ……。
「えぇぇぇぇ!」
あれだけ分厚かった雲は、綺麗さっぱりとなくなった。ついでに己の魔力もなくなった。白い女の魔力もなくなり、白目を剥いた女から、白い布地が外れた。
その後、女は騒ぎを聞き付けた、仰々しい格好をした衛兵に運ばれて何処かへ消え去った。
「何だったんだ一体……」
後日、あの女は世間的に時好される、宗教団の聖女と言うことが分かった。
「あれが聖女とか……終わってんな異世界……」
己もそう思う。
……ふぅ(オナニティブルー)