終わりの魔導書   作:peg

5 / 13
楽しかったけど弾切れです。


走れ(ティアラ)

「だぁーーー! また逃げられた!」

 

 夏の暑さも弱くなってきた頃、ハゲ店主が王都の高い青空に向かって叫んだ。これは決して暑さで頭をやられたのではなく、とある道具のせいだった。しかし、今日で6回目か……。なかなかの戦績だな。

 逃げたしたのは、冠の神器だった。神器とは王国に4つしかない、人型の化身が宿る道具のことだ。

 なぜ、そんなものがここにあるかというと、冠が選んだ乙女が、こぞって何でも買い取る骨董屋に持ち込むためだ。6回目ということもあり、もはや買取価格も二束三文になっている。それでも、お金を払ってでも()()()()というのだから、世も末であった。

 

「次からもっと金とってやる! ここは保育所じゃねーんだぞ!」

「まぁまぁ……。我々もグレーなことやってるんですから……」

 

 王選という、この国特有の行事があるのだが、神器が選んだものが次の王や后になるというものだ。

 ところが、今回は后になる娘達がかなり嫌がっており、走り寄ってくる冠から必死で逃げていた。捕まれば骨董屋に駆け込んだ。

 

「それもコレも、こいつが魔力を吸っちまうのが、教団から広まっちまったせいだな……」

 

 半年くらい前、変態聖女がこの店を訪れていたのだが、そいつがどうにも己のことを吹聴して回っているようだった。

 曰く、

 

「あそこには、どんな呪いや加護も忽ちに解除してしまう道具がある」

 

 と、言うことだ。

 持ち手が見つかる可能性が上がるので、人が覗きに来るのは、大歓迎なのだが、劣悪な魔力ばかり吸っているせいで、身体が煤けてきた気がする。

 

「これ! そちらに行くなと言うておろうに!! これ! 聞かぬか!」

「はぁ……はぁ……」

 

 また、騒がしい音と共に冠がやって来た。憑り付かれている乙女は、顔が絶望していた。また、己の出番か……。

 

「はぁーい。いらっしゃーい。触るなら有り金全部おいていってね!」

「……これで!!!」

「まいど!」

 

 既にハゲ店主は、完全に吹っ切れていた。ハゲ店主の全力不敬行動に、冠が切れた。

 

「おのれぇぇ! このハゲがぁあぁ!」

「誰がハゲだ! 鋳潰すぞコラ!!」

 

 損しまくったハゲ店主には、もはや最初にはあったはずの敬意の欠片すら無くなっていた。

 己を触った乙女が崩れ落ち、ウン某が死んだ顔で隣の八百屋に引きずって運んでいた。八百屋の奥方が、困り顔で受け入れていた。しかしまた、詰まらぬものを吸ってしまった……。

 

「あー! またやった! またやったな! 貴様ぁぁあ! 不敬だぞ!」

 

 乙女の頭から外れた冠は、地面に落ちるとむなしく鳴いた。

 己としては、もっとましな魔力を連れてこいと言いたい。

 

「なにをいう! 王位に相応しい娘達だっただろうに! それを、何度も何度も……ぐぬぬぬぬ……」

 

 この冠、恐ろしく足が遅かった。捕まえられる乙女も足が遅く、器量も微妙なのが多い。また、幼すぎる娘も混じっていた。一昔前であれば良かった。昔は冠が側に来れば、皆かしずいて沙汰を待ったものだったが、コレも時代か……。

 

「昔はよかったのぅ……」

 

 ダメだ……。冠が現実逃避を始めた。もう、この国も終わりかもしれんなぁ……。いや、良い50年くらいだった。

 

「いや! まだじゃ! 紡いできたものを、ここで止めるわけにはいかぬ!」

 

 そう言って、冠は幼女になった。そうなのだ。こいつは、人化すると幼女化する。そして、足が恐ろしく遅い。

 

「はぁ……。ちょっと待ってろ……」

 

 ハゲ店主はそういうと、店の中に入っていった。

 実を言うとハゲ店主は、始めは幼女を保護していたのだった。というのも、王選の時期を腹時計で数えていた冠は、出発時期をかなり読み違えており、王選前に身勝手に脱走していた。ちなみに、このタイミングで選ばれた乙女は王位簒奪が疑われた。それは臣民からすれば、恐怖以外の何者でもなかった。

 骨董品という道具を扱う専門家として、内々に保護を頼まれていたのだった。だが、ちょっとずるして小銭を稼ごうとしたハゲ店主が、冠を態と逃がした。それに味をしめた冠が、何度も脱走を試みたのが発端であった。自業自得である。

 しかし己が思うに、ハゲ店主もそろそろ我慢の限界なのだろう。

 

「ぬ? また、亀のように縛るのではないのか?」

「人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ!!」

 

 冠の声が聞こえたのか、店の中から怒鳴り声が聞こえた。

 

「ったく、俺にも人並みに愛国心ってものがある。ほら、コレを履いて走れ」

「ぬ?」

 

 店主が取り出したのは、草履だった。革製の履き物が主流であるが、草で出来た草履は珍しかった。

 コレはもしや、あれか。履くと速くなる類いのものではあるまいな?

 

「おー、大体あってるぜ。でも、こいつには秘密があってな……」

「感謝するぞ、ハゲ!」

「誰がハゲだ! あ、説明する前に行っちまった……、まぁ良いか」

 

 どうなるのだ。

 

「あぁ、速く走れることは走れるんだが……」

「どうなるんです?」

「止まると、爆発する」

「は?」

 

 その日、王都の一角が焼失した。

 

 

 先日の火事は、捕獲作戦のひとつだったらしい。冠は、自分のせいで王都の一角が燃えたことが分かると、途端にしおらしくなった。

 

「妾の王都がぁ……」

 

 等としきりに呟いており、その姿は哀愁が漂っていたという。

 幸いなことに、死傷者は出なかった。皆、高速で走り寄る幼女相手に叫びながら、全力疾走したらしい。

 本来であれば、走り出した彼女に王城じゃないと解除できない旨を伝えて、城の湖で爆破する予定だったらしいが、なんとも過激なことだ。

 

 後にコレが故事となり、コレに倣って厄払いで幼女に追われる習わしが出来たようだが、それはまた、別の機会に語ることにする。

 

 




とりあえず、一万字行ったのでまた今度書きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。