「だぁーーー! また逃げられた!」
夏の暑さも弱くなってきた頃、ハゲ店主が王都の高い青空に向かって叫んだ。これは決して暑さで頭をやられたのではなく、とある道具のせいだった。しかし、今日で6回目か……。なかなかの戦績だな。
逃げたしたのは、冠の神器だった。神器とは王国に4つしかない、人型の化身が宿る道具のことだ。
なぜ、そんなものがここにあるかというと、冠が選んだ乙女が、こぞって何でも買い取る骨董屋に持ち込むためだ。6回目ということもあり、もはや買取価格も二束三文になっている。それでも、お金を払ってでも
「次からもっと金とってやる! ここは保育所じゃねーんだぞ!」
「まぁまぁ……。我々もグレーなことやってるんですから……」
王選という、この国特有の行事があるのだが、神器が選んだものが次の王や后になるというものだ。
ところが、今回は后になる娘達がかなり嫌がっており、走り寄ってくる冠から必死で逃げていた。捕まれば骨董屋に駆け込んだ。
「それもコレも、こいつが魔力を吸っちまうのが、教団から広まっちまったせいだな……」
半年くらい前、変態聖女がこの店を訪れていたのだが、そいつがどうにも己のことを吹聴して回っているようだった。
曰く、
「あそこには、どんな呪いや加護も忽ちに解除してしまう道具がある」
と、言うことだ。
持ち手が見つかる可能性が上がるので、人が覗きに来るのは、大歓迎なのだが、劣悪な魔力ばかり吸っているせいで、身体が煤けてきた気がする。
「これ! そちらに行くなと言うておろうに!! これ! 聞かぬか!」
「はぁ……はぁ……」
また、騒がしい音と共に冠がやって来た。憑り付かれている乙女は、顔が絶望していた。また、己の出番か……。
「はぁーい。いらっしゃーい。触るなら有り金全部おいていってね!」
「……これで!!!」
「まいど!」
既にハゲ店主は、完全に吹っ切れていた。ハゲ店主の全力不敬行動に、冠が切れた。
「おのれぇぇ! このハゲがぁあぁ!」
「誰がハゲだ! 鋳潰すぞコラ!!」
損しまくったハゲ店主には、もはや最初にはあったはずの敬意の欠片すら無くなっていた。
己を触った乙女が崩れ落ち、ウン某が死んだ顔で隣の八百屋に引きずって運んでいた。八百屋の奥方が、困り顔で受け入れていた。しかしまた、詰まらぬものを吸ってしまった……。
「あー! またやった! またやったな! 貴様ぁぁあ! 不敬だぞ!」
乙女の頭から外れた冠は、地面に落ちるとむなしく鳴いた。
己としては、もっとましな魔力を連れてこいと言いたい。
「なにをいう! 王位に相応しい娘達だっただろうに! それを、何度も何度も……ぐぬぬぬぬ……」
この冠、恐ろしく足が遅かった。捕まえられる乙女も足が遅く、器量も微妙なのが多い。また、幼すぎる娘も混じっていた。一昔前であれば良かった。昔は冠が側に来れば、皆かしずいて沙汰を待ったものだったが、コレも時代か……。
「昔はよかったのぅ……」
ダメだ……。冠が現実逃避を始めた。もう、この国も終わりかもしれんなぁ……。いや、良い50年くらいだった。
「いや! まだじゃ! 紡いできたものを、ここで止めるわけにはいかぬ!」
そう言って、冠は幼女になった。そうなのだ。こいつは、人化すると幼女化する。そして、足が恐ろしく遅い。
「はぁ……。ちょっと待ってろ……」
ハゲ店主はそういうと、店の中に入っていった。
実を言うとハゲ店主は、始めは幼女を保護していたのだった。というのも、王選の時期を腹時計で数えていた冠は、出発時期をかなり読み違えており、王選前に身勝手に脱走していた。ちなみに、このタイミングで選ばれた乙女は王位簒奪が疑われた。それは臣民からすれば、恐怖以外の何者でもなかった。
骨董品という道具を扱う専門家として、内々に保護を頼まれていたのだった。だが、ちょっとずるして小銭を稼ごうとしたハゲ店主が、冠を態と逃がした。それに味をしめた冠が、何度も脱走を試みたのが発端であった。自業自得である。
しかし己が思うに、ハゲ店主もそろそろ我慢の限界なのだろう。
「ぬ? また、亀のように縛るのではないのか?」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ!!」
冠の声が聞こえたのか、店の中から怒鳴り声が聞こえた。
「ったく、俺にも人並みに愛国心ってものがある。ほら、コレを履いて走れ」
「ぬ?」
店主が取り出したのは、草履だった。革製の履き物が主流であるが、草で出来た草履は珍しかった。
コレはもしや、あれか。履くと速くなる類いのものではあるまいな?
「おー、大体あってるぜ。でも、こいつには秘密があってな……」
「感謝するぞ、ハゲ!」
「誰がハゲだ! あ、説明する前に行っちまった……、まぁ良いか」
どうなるのだ。
「あぁ、速く走れることは走れるんだが……」
「どうなるんです?」
「止まると、爆発する」
「は?」
その日、王都の一角が焼失した。
◆
先日の火事は、捕獲作戦のひとつだったらしい。冠は、自分のせいで王都の一角が燃えたことが分かると、途端にしおらしくなった。
「妾の王都がぁ……」
等としきりに呟いており、その姿は哀愁が漂っていたという。
幸いなことに、死傷者は出なかった。皆、高速で走り寄る幼女相手に叫びながら、全力疾走したらしい。
本来であれば、走り出した彼女に王城じゃないと解除できない旨を伝えて、城の湖で爆破する予定だったらしいが、なんとも過激なことだ。
後にコレが故事となり、コレに倣って厄払いで幼女に追われる習わしが出来たようだが、それはまた、別の機会に語ることにする。
とりあえず、一万字行ったのでまた今度書きます。